総合病院精神医学
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24 巻, 1 号
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特集:レジリエンス─総合病院精神医学における新しい視点─
総説
  • 西 大輔, 渡邊 衡一郎, 松岡 豊
    2012 年 24 巻 1 号 p. 2-9
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2015/08/26
    ジャーナル フリー
    レジリエンスは非常に注目されている概念であるが,その理解や臨床への活用は必ずしも容易ではない。本稿では,レジリエンスの理解を深めるため,レジリエンスが注目されてきている理由について考察し,①時間軸も含んだ概念であること,②修正・介入の可能性を含んだ概念であること, ③レジリエンスを「自然治癒力の現代医学版」とみなすことで治療論や回復論が発展する可能性が高まること,の3点をあげた。また総合病院精神科における臨床への活用について,慢性うつ病とディスチミア親和型うつ病への対応および治療方針の決定の際に重視されてきている「Shared decision making」について取り上げ,それらをレジリエンスの視点からとらえなおすことを試みた。レジリエンスという概念の下に実証的研究の成果と臨床から得られた知見を有機的につなげることで,レジリエンスは総合病院精神医学の発展にも大きく寄与し得ると考えられる。
総説
  • ─がん患者への認知行動療法を例に─
    藤澤 大介, 能野 淳子
    2012 年 24 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2015/08/26
    ジャーナル フリー
    認知行動療法は,認知の柔軟性を高め,積極的な行動変化を促す治療であり,レジリエンス向上に大きく関連する領域をターゲットにしているといえよう。認知行動療法を実施する際には,個々の症例に合わせて治療を計画することが重要であり,重症・複雑な症例ほど,こういった“症例の概念化”が重要である。本稿では,レジリエンス向上を意識した認知行動療法の概念化と治療計画の立て方を解説する。重篤な身体疾患への罹患は多くの人が体験する逆境の一つであり,レジリエンスに関する普遍的なテーマを提供してくれると考えられ,がん患者に認知行動療法を適用した事例を解説した。
総説
  • 高田 篤
    2012 年 24 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2015/08/26
    ジャーナル フリー
    「レジリエンス」の本質は,刺激,ストレッサーに対して,生体が病的表現型を防ぐために対処する反応,変化であり,その形式はダイナミックかつ能動的なものと考えられる。その生物学的基盤を探るため,さまざまな研究が行われている。
    1.遺伝子- 環境相互作用
     従来の遺伝子関連研究に加え,遺伝子多型とストレス・虐待歴などの環境因を複合的に解析する,遺伝子-環境相互作用の研究が行われている。その結果,セロトニントランスポーター遺伝子,FKBP5,PAC1受容体遺伝子などが特に注目されている。
    2.アクティブプロセスとしてのレジリエンス
     ほとんどの遺伝子多型は2種類のアレルしか有さず,DNA配列レベルでは,脆弱性とレジリエンスの生物学的基盤を区別することはできない。一方,分子,細胞生物学的研究の結果は,神経新生,イオンチャネルの発現上昇など,能動的プロセスがレジリエンスの基盤として存在することを示唆している。
総説
  • 松岡 豊, 西 大輔
    2012 年 24 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2015/08/26
    ジャーナル フリー
    レジリエンスを「かなりの逆境にもかかわらず,はね返す,またはうまく対処する能力」と定義した。魚油には,エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸というω3系脂肪酸が豊富に含まれる。ω3系脂肪酸は脳内リン脂質成分の30%を占め,膜の維持,神経活動,神経可塑性などに大きな影響をもつ。先行研究より,うつ病の病因にω3系脂肪酸不足が関与している可能性が提唱されている。総合病院精神科では,さまざまな身体疾患患者,妊娠中の女性,外傷患者などに生じるストレス関連精神疾患への対応が求められることが多い。こうした患者に対しては,安全性,易実施性,易受容性の観点から,食生活への介入もレジリエンス向上の選択肢として考慮に入れることができる。うつ病とω3系脂肪酸に関する疫学研究・臨床研究,さらには健常者における介入研究,総合病院における臨床試験の経験などを紹介し,ω3系脂肪酸に秘められた可能性について提案した。
一般投稿
原著
  • 橋本 忠浩, 鵜飼 聡, 高橋 隼, 奥村 匡敏, 辻 富基美, 中 敏夫, 篠崎 和弘
    2012 年 24 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2015/08/26
    ジャーナル フリー
    自殺企図者の実態を把握し,救急医療,精神科医療を含む医療サイドから自殺対策の提言を行うことを目的に,和歌山県立医科大学附属病院救命救急センターを受診した全自殺企図者を調査した。9カ月の調査期間中に76名が受診し,そのうちの71%で過量服薬が認められた。5回以上の自殺企図歴のある患者は18名で,そのうちの83%で過量服薬が認められた。5名の自殺既遂者のうち4名は過量服薬による自殺企図歴があり,企図時期を特定できた3名は全員が過去1年以内に過量服薬をしていた。過量服薬による自殺企図は繰り返されやすく,それ自体の致命率は低いが,縦断的には既遂に至る可能性が高いと考えられた。自殺対策の方略として,過量服薬による企図歴がある患者に対する処方日数の制限・受診間隔の短縮と,救急隊,搬送先の医療機関,かかりつけの医療機関で情報を共有できるシステムの構築を提案した。
症例
  • 筒井 幸, 神林 崇, 田中 恵子, 朴 秀賢, 伊東 若子, 徳永 純, 森 朱音, 菱川 泰夫, 清水 徹男, 西野 精治
    2012 年 24 巻 1 号 p. 40-50
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2015/08/26
    ジャーナル フリー
    近年,統合失調症の初発を想定させる精神症状やジスキネジア,けいれん発作,自律神経症状や中枢性の呼吸抑制,意識障害などの多彩な症状を呈する抗NMDA(N-メチルD-アスパラギン酸)受容体抗体に関連した脳炎(以下,抗NMDA受容体脳炎と略する)の存在が広く認められるようになってきている。若年女性に多く,卵巣奇形腫を伴う頻度が比較的高いとされている。われわれは合計10例の抗NMDA受容体抗体陽性例を経験し,これを3群に分類した。3例は比較的典型的な抗NMDA受容体脳炎の経過をたどり,免疫治療が奏効した。他の7例のうち3例は,オレキシン欠損型のナルコレプシーに難治性の精神症状を合併しており,抗精神病薬を使用されていた。また,残り4例に関しては,身体症状はほとんど目立たず,ほぼ精神症状のみを呈しており,病像が非定型であったり薬剤抵抗性と判断されm-ECTが施行され,これが奏効した。
  • ─深部静脈血栓,肺塞栓の予防,早期発見治療とrefeeding症候群から安全なmECTの導入に至るまで─
    栗本 直樹, 藤井 勇佑, 山田 尚登
    2012 年 24 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2015/08/26
    ジャーナル フリー
    <背景>修正型,非修正型を問わず,電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)後にpulmonary embolism(PE)を発症した報告が散見される。mECT(modified-ECT)施行中,deep venous thrombosis(DVT)に対して一時留置型の下大静脈フィルターを用い,抗凝固療法を併用することでPE の増悪を予防した症例を報告し,DVT,PEのリスクについて考察する。 <症例>当科では過去2年間,入院時にDVT,PEが発見された7症例を経験した。うち4例は飢餓状態で身体合併症もあり,早期のmECT導入による寛解が望まれた。一時留置型の下大静脈フィルターを留置したうえで抗凝固療法を行い,PEの増悪を予防しmECTを施行した。<結果>治療的緊急性がありmECTを早期に導入する必要がある場合,DVT,PEに対して一時留置型の下大静脈フィルターが有用であった。
資料
  • 日本総合病院精神医学会医療問題委員会
    2012 年 24 巻 1 号 p. 59-70
    発行日: 2012/01/15
    公開日: 2015/08/26
    ジャーナル フリー
    2010年総合病院精神医学会基礎調査は,総合病院精神科840施設に実態調査を依頼した。 最終的に467施設から回答があり,回答率は55.6%であった。最終的に427施設の結果を集計した。 総合病院精神科の現状は以下のようにまとめることができる。 ①総合病院精神科は,救急医療,緩和医療,臨床研修など,がんや救急関連など身体科とも連動した重要な医療および医師の教育などの機能を提供している。②上記の機能は入院病床を有する施設,特に精神科病床で入院可能な施設において中心的に行われていた。③精神科病棟の入院基本料は13対1が新設されたが,前年度15対1の施設の3割近い施設が移行したものと推測された。④精神科病床数は前年度に比べて変わらない施設が多数であったが,減少している施設のほうが増加した施設よりも多かった。⑤精神科医数は変化がなかった施設がおよそ半数を占めたが,増加した施設のほうが減少した施設よりも多かった。⑥コメディカルなどのスタッフ数は,入院可能な施設においては入院病床をもたない施設に比べて多いが,全体としてはそれぞれ1〜2名ずつと決して多くはない。⑦精神科入院病床を有する施設を中心に,m-ECTなど重要な機能を有している。⑧入院基本料に関しては,精神科救急入院基本料をはじめとする高い診療報酬が期待できる算定項目については,算定できている施設はまだきわめて少ない。 総合病院精神科は機能の多様化と経済的基盤の弱さが指摘されてきたが,13対1の入院基本料や精神科救急入院料など特定入院料や診療加算などが算定できた施設では,経営状態の改善があったことが推測される。しかし,特定入院料も診療加算も算定できている施設は非常に少ない場合が多く,多数の総合病院精神科の経営改善に寄与しているかどうかについては慎重な検討が必要であると考えられる。
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