総合病院精神医学
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23 巻, 4 号
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特集:一般身体医療における認知行動療法
総説
  • 木村 穣
    2011 年 23 巻 4 号 p. 348-354
    発行日: 2011/10/15
    公開日: 2015/06/24
    ジャーナル フリー
    認知行動療法は,さまざまな精神・身体疾患において有用であり,同様に糖尿病や肥満などの生活習慣病においても有用である。多くの肥満患者は“私は食べてない”“水を飲んでも肥える”などの認知の歪みを伴っている。これは自己ダイエットとリバウンドの繰り返しによる自己効力感の低下から生じていることが多い。したがって,肥満や糖尿病の治療で重要なことは患者の認知の歪みを修正し,運動や食事療法による減量や血糖の改善に対する自己効力感を向上させることである。これらの認知の歪みを生じやすい性格特性として,全か無思考や過度の一般化などを認めることが多く,治療にあたり患者の性格特性を把握しておくことは有用である。実際の肥満,糖尿病の治療では,血糖や体重のセルフモニタリングと,自己の行動(食事,運動など)とその後の血糖,体重の変化(関連)に気付かせることが重要である。同時に患者の自己効力感を向上させ,食事,運動などの行動変容を促し,維持させるサポートが必要である。これら患者の認知の歪みを修正し,自己効力感を維持,向上させるうえで認知行動療法は非常に有用である。以上のことより肥満,糖尿病の治療にかかわる医師,看護師,栄養士,運動トレーナーなどすべての職種のスタッフが認知行動療法の基本を理解し,臨床的に応用していく必要がある。
総説
  • 永田 利彦
    2011 年 23 巻 4 号 p. 355-363
    発行日: 2011/10/15
    公開日: 2015/06/24
    ジャーナル フリー
    神経性過食症の概念が提唱されて四半世紀ほどしかならないのにかかわらず,摂食障害の精神病理は大きく変化し,複雑になる一方である。Fairburnが1981年に認知行動療法の有効性を報告して以来,各種のガイドラインは神経性過食症への最もエビデンスを有する治療としている。摂食障害の精神病理の複雑化に合わせて,Fairburnらは神経性過食症といった亜型分類にとらわれず,感情不耐性など弁証法的行動療法の要素も取り入れた強化認知行動療法を提唱している。しかし,大学病院を受診する摂食障害は数多くの併存症を有し,全般性の社交不安障害に対する認知行動療法や,自傷や自殺未遂といった衝動行為を次々に行う多衝動性に対し,弁証法的行動療法なども考慮する必要がある。
経験
  • ─情緒的支援から高強度認知行動療法まで─
    中野 有美
    2011 年 23 巻 4 号 p. 364-369
    発行日: 2011/10/15
    公開日: 2015/06/24
    ジャーナル フリー
    妊娠中および妊娠前後,もしくは近々妊娠の可能性がある女性の抑うつ/不安に薬物療法は使用しにくい。したがって,彼女らは認知行動療法を含む精神療法の有用性が高い集団と考えられる。 原因不明の反復流産の患者に対し,産婦人科領域では,簡便な情緒的サポートが患者の抑うつ/不安の軽減のみならず,出産率を向上させるであろう点を指摘している。一方で,それだけでは抑うつ/不安の改善に至らない反復流産の患者には,高強度認知行動療法など時間をかけたマンツーマンの精神的援助が必要となる。本稿では,流産,反復流産の患者の精神疾患罹病率について概観した後,認知行動療法を含む精神的支援について,これまでの調査研究と名古屋市立大学病院での試みをもとに論じた。
総説
  • 藤澤 大介
    2011 年 23 巻 4 号 p. 370-377
    発行日: 2011/10/15
    公開日: 2015/06/24
    ジャーナル フリー
    がん患者に対する認知行動療法は,身体症状に対する介入と,精神症状に対する介入とに大別される。後者はさらに,狭義の認知行動療法(ベックの古典的認知行動理論に基づくより厳密な意味での認知行動療法)と,広義の認知行動療法(ストレス訓練,リラクセーション法などといったさまざまな認知・行動的技法を含む認知行動療法的アプローチ)に分けられる。本稿では,身体症状・精神症状のそれぞれに対する認知行動療法の効果についてレビューし,さらに狭義の認知行動療法の具体的なアプローチについて解説した。
一般投稿
原著
  • ─インターネット調査より─
    松田 彩子, 小林 未果, 松下 年子, 野口 海, 松島 英介
    2011 年 23 巻 4 号 p. 378-386
    発行日: 2011/10/15
    公開日: 2015/06/24
    ジャーナル フリー
    目的:職場復帰したがん患者の職場での心のケアやサポートの実態を調査し,ニーズを明らかにすることを目的とした。方法:職場復帰して5年未満で60歳未満のがん患者827名を対象に,インターネット調査を実施した。調査内容は,主に職場復帰後の現状,職場に欲しい心のケアやサポートについて尋ねた。結果:職場からケアやサポートがあった人は22.5%,必要だったがなかった人は3.6%,なかったが必要もなかった人は66.6%であった。また,がんに罹る前と比較して,現在,仕事能力が十分回復したと答えた人は62.3%いたが,まだ十分回復していない人も35.1%いた。一方で,職場に欲しい心のケアやサポートには,経済的な支援,勤務時間や業務内容における負荷の軽減,健康相談にのってくれるような体制,専門家による精神面の支援があげられた。考察:職場だけでなく医療機関においても,心のケアやサポートをする必要性が考えられた。
  • 立松 聖一, 岩満 優美, 山本 賢司, 吉田 一成, 宮岡 等
    2011 年 23 巻 4 号 p. 387-396
    発行日: 2011/10/15
    公開日: 2015/06/24
    ジャーナル フリー
    腎臓移植患者の手術前の精神状態と心理反応について,State-Trait Anxiety Scaleを用いて特性不安との関係から検討した。腎移植前の患者40名を20名ずつの高特性不安群と低特性不安群に分け,両群に質問紙による不安と抑うつの調査と,面接による「人工透析への苦痛の程度」と「手術後の生活のイメージ」について,それぞれの評価得点と評価理由を調査した。質問紙調査では高特性不安群は低特性不安群よりも不安と抑うつが有意に高かったが,面接調査では両群の発言内容に違いは認められず,腎臓移植前の患者は特性不安の程度に関わらず,両群で85%以上が人工透析に対する否定的感情を,70%以上が手術後の生活に対する肯定的イメージを抱いていた。以上より,腎移植前の患者に接する医療者は,患者が人工透析や移植後生活を含め,さまざまな不安や抑うつを抱いていることに注意し,より詳細な面接を行う必要があることが示唆された。
症例
  • 谷口 豪, 當山 陽介, 藤田 宗久, 光定 博生, 諏訪 浩
    2011 年 23 巻 4 号 p. 397-402
    発行日: 2011/10/15
    公開日: 2015/06/24
    ジャーナル フリー
    アミロイドーシスは,線維状の異常蛋白であるアミロイドが全身諸臓器の細胞外に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患群である。われわれは,多彩な身体症状を「身体表現性障害」として精神科クリニックにて加療されていた37歳男性に対して入院精査を行い,原発性ALアミロイドーシスとの確定診断に至った。本症例は原発性ALアミロイドーシスが特異的な症状所見に乏しく早期診断が困難であるという特徴と医療者の行き過ぎた「了解」が重なり,身体疾患を見逃した結果「身体表現性障害」と診断されていたと考えた。身体科から紹介されて受診する身体表現性障害疑いの患者のなかには,今回のように確定診断の難しい身体疾患が紛れている可能性がある。身体疾患を見落とし,すべての症状を身体表現性障害による表出と誤解しないために,本疾患のように身体科専門医をしても診断が容易でない場合があることを念頭に置くことが,リエゾン精神医学の実践に不可欠である。本症例は一方でヒステリー的な性格特性と行動様式も有しており,これにアミロイドーシスの身体諸症状が取り込まれる形をとっていた。当院における診断はアミロイドーシスと身体表現性障害の併存とした。われわれは,本人の性格や葛藤状況を適切に「了解」し,それに基づく治療的配慮を施しながら慎重に診断作業を継続したことにより,身体疾患の確定診断を得た。精神科診療における「了解可能性」の判断の確かさが問われていることに気づかされた症例であった。
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