総合病院精神医学
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31 巻, 4 号
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特集:総合病院における向精神薬の安全使用について考える
総説
  • 長嶺 敬彦
    原稿種別: 総説
    2019 年31 巻4 号 p. 386-394
    発行日: 2019/10/15
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    総合病院で抗精神病薬が処方される患者は2通りある。1つは,重篤な身体疾患で総合病院に入院した患者がせん妄などの精神症状を惹起し,その治療のために抗精神病薬が処方される場合である。抗精神病薬のせん妄への治療効果は限定的であるので,薬物動態を考慮して必要最小限とすべきである。もう1つは,精神疾患患者が身体疾患の治療のために総合病院に入院する場合である。抗精神病薬が入院の原因となった併存疾患を悪化させる可能性に注意する必要がある。抗精神病薬の受容体プロファイルを理解し,併存疾患の治療への影響を最小限とすることが重要である。

総説
  • 渡邊 衡一郎
    原稿種別: 総説
    2019 年31 巻4 号 p. 395-403
    発行日: 2019/10/15
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    総合病院の精神科外来では身体疾患を抱える患者が多く,またあらゆる重症度の患者が訪れる。抗うつ薬の効果(反応率)における強弱の差は小さいとされ,むしろ副作用における違いが大きい。 本稿では,胃腸症状,不眠・焦燥や眠気のほか,特に出血や性機能障害,体重増加,肝障害などあまり知られていないが重篤なものや,QOLに影響し得るものについて概説した。薬物相互作用については,一部抗うつ薬で問題となるものがあり,ワルファリン,テオフィリン,トラマドール,スタチン系薬物,ステロイドなど身体疾患治療薬としてよく使用されているものの,血中濃度を上昇させ得ることに留意しなければならない。抗うつ薬が適した例であるか,また効かなかった場合,変薬や増強・併用のメリット・デメリットなどについて考え選択していく。薬物療法の効果を過信せず,認知行動療法も扱えるようにしていきたい。抗うつ薬投与に際しては,リスクも含めて複数の選択肢について当事者に説明し,当事者とともに選択するということが望ましいと考える。

総説
  • 鈴木 映二
    原稿種別: 総説
    2019 年31 巻4 号 p. 404-413
    発行日: 2019/10/15
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    総合病院においては,様々な身体疾患による二次性の躁状態および身体合併症をもつ双極性障害の患者を治療する機会が多い。その場合,臨床医は気分安定薬の有害作用と薬物相互作用に通常以上に注意する必要がある。二次性の躁状態は,高齢患者でしばしば観察され,通常,頭部外傷後12カ月以内に発生する。リチウムは,心不全と腎障害の患者に慎重に投与する必要があり,利尿薬および抗炎症薬との併用には綿密な監視が必要となる。カルバマゼピンは抗コリン作用を有し,薬物代謝酵素を誘導する。バルプロ酸は様々な薬物代謝酵素を阻害し,妊娠中の使用は安全とはいえない。 ラモトリギンは,ウリジン二リン酸グルクロノシルトランスフェラーゼの誘導剤および阻害剤との相互作用に気をつけながら慎重に投与する必要がある。

総説
  • 渡辺 善照, 菊池 大輔, 三浦 良祐
    原稿種別: 総説
    2019 年31 巻4 号 p. 414-421
    発行日: 2019/10/15
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    フォーミュラリーは,「医療機関における患者に対して最も有効で経済的な医薬品の使用における指針」と説明されている。東北医科薬科大学病院では,医薬品適正使用の推進のために平成30(2018)年4月より各種薬剤群の院内フォーミュラリーの実施を開始した。対象とする1つとして睡眠薬を取り上げた。有効性および経済性のほか,服用する患者に対する安全性確保,特に転倒防止の観点に重きを置いて各種睡眠薬を評価し,推奨薬を選定した。睡眠薬使用経験の有無により,「使用なし(または不明)」の場合はオレキシン受容体拮抗薬スボレキサント(ベルソムラ)錠,「使用あり」の場合は非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(超短時間型)エスゾピクロン(ルネスタ)錠を,各々第1推奨薬とした。

一般投稿
原著
  • 畑 琴音, 小野 はるか, 小川 祐子, 竹下 若那, 国里 愛彦, 鈴木 伸一
    原稿種別: 原著
    2019 年31 巻4 号 p. 422-429
    発行日: 2019/10/15
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    活動抑制とは,病気への罹患をきっかけに日常生活内の様々な活動を抑制することである。本研究では,がん患者用活動抑制尺度(SIP-C)を開発し,信頼性・妥当性について検討することを目的とした。対象となったがん患者118名に対して,SIP-C暫定版,SIP,抑うつ,QOL尺度への回答を求めた。項目選定の結果,26項目が最終項目となった。SIPの内的整合性を検討した結果,KR-20のα係数による内的整合性は0.88と,十分な値であった。また,妥当性検討のために関連要因との相関分析を行った結果,妥当性が示された。今後,SIP-Cががん患者の活動抑制を評価するツールとして有用な尺度となることが期待される。

  • ─東海地方を対象とした郵送式質問紙調査の結果より─
    桐山 啓一郎, 松下 年子
    原稿種別: 原著
    2019 年31 巻4 号 p. 430-439
    発行日: 2019/10/15
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は東海地方4 県の一般病棟で身体拘束されている患者の実態を把握し,倫理的観点を踏まえた身体拘束予防・早期解除方法を明らかにするうえでの基礎資料とすることを目的とした。

    方法:対象施設は東海地方(静岡,岐阜,愛知,三重の各県)の一般病棟を有する447病院とし, 2018年3月1日12時時点で身体拘束実施中の入院患者を対象とした。患者の状態を担当する看護師に記載してもらう郵送式質問紙調査を実施した。

    結果:42施設から回答を得た(回収率9.3%)。身体拘束されていた患者数は552人であった。身体拘束されていた患者のうち33.0%が,認知症,せん妄,精神疾患のいずれも診断されていなかった。患者の55.1%は入院日から調査日まで身体拘束を継続されていた。96.4%の患者の身体拘束開始を看護師が判断していた。

    考察:一般病棟における身体拘束の予防や早期解除には,勤務する看護師への精神医学分野の知識提供を行う必要性が考えられた。

症例
  • ─その恩恵を最大限にするために今できること─
    豐田 勝孝, 金沢 徹文, 久保 洋一郎, 中野 友義, 山内 繁, 木下 真也, 川野 涼, 米田 博
    原稿種別: 症例
    2019 年31 巻4 号 p. 440-447
    発行日: 2019/10/15
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    clozapineは難治性統合失調症に適応を有する唯一の薬剤で,本邦での上市後10年が過ぎている。しかしながら,CPMS(クロザリル患者モニタリングサービス)登録や18週間の入院が必須であるなど導入にハードルが高い状況があり,その臨床上のポテンシャルを十分に生かせてはいない。当科にてclozapineを導入した17症例の経験では,約30%の中断例が認められ,反応不良例も認められた。今後は認知機能障害の進行した状態からの導入ではなく,発症早期から導入しやすいネットワーク構築が必要となる。また,導入後の中断例を少なくするために,好中球減少などの重篤な有害事象の発生に対しいち早く介入し得る医療現場の工夫も求められている。さらに,地域差や施設間の差を最小限にする工夫も求められている。本邦の臨床への導入までに多くの時間を要したこの薬剤の恩恵を最大限にするため,現場の経験や叡智を結集していかないといけない。

  • 山田 裕士, 藤原 雅樹, 酒本 真次, 冨永 悟, 稲垣 正俊, 松崎 孝, 森松 博史, 山田 了士
    原稿種別: 症例
    2019 年31 巻4 号 p. 448-454
    発行日: 2019/10/15
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    電気けいれん療法(ECT)は,統合失調症患者においても緊張病状態や薬物治療抵抗例に対して考慮される重要な治療法である。ECTにおいて本邦で頻用される麻酔薬のpropofolは,強い抗けいれん作用を有するため,高い発作閾値が問題になるケースでは麻酔に工夫を要する。発作閾値上昇効果がないとされるketamineへの切り替え,または併用によるpropofolの減量は有効な方法の1つで,うつ病患者では抗うつ効果の増強も期待したketamineによるECTの報告が多い。一方でketamineは,その作用機序から統合失調症の精神症状を悪化させる懸念もある。今回,高い発作閾値が問題化したが,ketamineの併用によりpropofolを減量したECTで有効な発作が得られ,精神病症状の悪化を認めることなく有効かつ安全に治療し得た統合失調症の2例を経験したため報告する。

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