総合病院精神医学
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29 巻, 1 号
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特集:急性期身体合併症医療における精神科と身体科救急との連携
原著
  • ―向精神薬過量服用患者を中心に―
    上條 吉人
    原稿種別: 原著
    2017 年 29 巻 1 号 p. 2-7
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル フリー

    身体救急医療現場では,向精神薬過量服用患者が救急搬送困難となっている。この背景としては,ほとんどの患者は精神疾患を有するにも関わらず,精神科医の診療を受けることが困難であること,ベンゾジアゼピン受容体作動薬などのGABAA受容体・複合体に作用する薬物を服用し,奇異反応・逆説的反応が生じて興奮し,攻撃的・暴力的となる患者に対する陰性感情,向精神薬過量服用のリスクが高い患者に危険な薬物を処方し,夜間・休日に連絡がとれない精神科医に対する陰性感情などがあげられる。とりわけクリニックの患者は多剤大量処方や向精神薬過量服用が多いが,その原因として,クリニックでは診療や処方に透明性がないことがあると思われる。向精神薬過量服用患者の搬送困難を解消するには,精神科医による診療体制を充実する取り組みが必要である。

経験
  • 日野 耕介, 高橋 雄一, 平安 良雄
    原稿種別: 経験
    2017 年 29 巻 1 号 p. 8-14
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル フリー

    精神疾患を有する症例に急性期の身体合併症が発生した場合,精神科と救急科が連携して診療を行えれば理想的である。しかし,実際には精神科医が身体合併症に対応する機会や,救急医が精神症状に対応する機会は多く,両診療科が互いの領域を学ぶ必要性は高い。そのため,当院では両診療科が連携して身体合併症症例に対応するだけではなく,人事交流を行い,共同で研修コースを開催している。救命センターで研修中の精神科医は,同センターに搬送される症例の精神疾患に対応しつつ,救急診療も経験する。一方,救急医は「救急医療における精神症状評価と初期診療(Psychiatric Evaluation in Emergency Care:PEEC)」コースを受講したうえで,当院の救命センターで精神疾患合併症例への初期対応を精神科医とともに実践する。これらの取り組みを継続するなかで,救命センターに搬送された自殺企図者の転帰にも変化がみられるようになった。当院の役割として,今後も地域の精神科医療と救急医療の連携に寄与できる人材を養成することが重要であると考えられる。

経験
  • ─精神科医の役割に関して─
    新井 久稔, 井上 勝夫, 浅利 靖, 宮岡 等
    原稿種別: 経験
    2017 年 29 巻 1 号 p. 15-23
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル フリー

    北里大学病院救命救急・災害医療センター(以下当センター)に勤務する精神科医の立場として,救命救急センターに搬送され精神疾患が疑われた患者に対する対応に関して検討した。筆者は,救命救急センターに搬送となった急性薬物中毒や縊首,墜落外傷,刺切創など自殺企図の症例や,重篤な身体疾患の治療にて入院となり精神症状を合併した症例などに精神科医としての立場から対応している。当センターでは,①救命救急センターにおける精神科医の関与は自殺企図症例の割合が高いこと,②自殺企図症例の精神科診断は,F3(気分障害)の割合が高く,退院後精神科医療機関へつなぐケースの割合も高いこと,③自殺企図の手段により,入院期間に影響(過量服薬は短期間,転落外傷は入院が長期化)する傾向が見受けられた。さらに,救命救急センターに勤務して感じた点は,①従来の報告どおり,救命救急センターに搬送される患者のなかでも自殺企図患者が1割以上を占めて高いこと,②精神科医としての役割において自殺企図患者の対応が中心であること,③救命センターのベッドは早い回転が必要であり,早めの治療・ケースワークの必要とされること,④精神科医療機関との効率的な連携に関してはさらに検討が必要と考えられた。

経験
  • ─ハブアンドスポークモデル─
    北元 健, 中森 靖, 和田 大樹, 山田 妃沙子, 北浦 祐一, 早川 航一, 齊藤 福樹, 加藤 正樹, 木下 利彦
    原稿種別: 経験
    2017 年 29 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル フリー

    関西医科大学総合医療センター救命救急センターでは,2013年11月より同一医療圏内にある4カ所の精神科病院を,当センターの救急医が毎週回診する取り組みを行っている。われわれは,この取り組みが救命救急センターと精神科病院の連携にどのような影響を与えているのかを調査した。回診システムを導入する以前の2010年4月から2013年10月までの3年半を前期間,導入後の 2013年11月から2015年10月までの2年間を後期間と区分した。この期間で,全受け入れ患者における精神科関連患者の割合と内訳,自殺未遂患者の治療後の転帰,精神疾患既往のある身体合併症患者の搬送依頼元を後方視的に比較検討した。後期間では,精神科既往のある身体合併症患者の受け入れ数および自殺未遂患者の精神科病院への転院数が有意に増加していた。このことから回診システムを導入することで,救命救急センターと精神科病院の連携が深まったと考えた。

原著
  • ─愛知県のモデル事業から─
    山之内 芳雄, 大野 美子
    原稿種別: 原著
    2017 年 29 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル フリー

    一般医療における精神疾患を合併する救急患者は,患者調査から無視できない人数がいると思われる。しかし,受け入れ困難や遅延の理由になることが明らかになり,総務省消防庁,厚生労働省双方が対策を講じている。厚生労働省の検討会では,対応可能な総合病院が対応する並列モデルと,医療機関連携による縦列モデルが示された。
    愛知県では,平成25年から縦列モデルに拠った医療連携モデルを進めている。救急病院と近隣の精神科病院が固有ペアを作り,固有パスを用いて,早期に精神疾患を合併する救急患者が精神科医療にアクセスできるようにするものであり,2年余りで111例の実績を得た。連携に対しては,①双方のニーズとモチベーション,②双方の医療内容の理解と共有,③関係者やツールを何らかの方法でシンプルにすることが必要と考える。また常勤医師をもつ総合病院精神科は,両医療機関をつなぐメディエーターとしての役割が期待されている。

一般投稿
原著
  • 古井 由美子, 酒井 玲子, 佐藤 友里, 土屋 美恵子, 長谷川 裕記, 兼本 浩祐
    原稿種別: 原著
    2017 年 29 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル フリー

    生体腎移植におけるレシピエント・ドナーの不安を比較した研究は少ない。そこで新版STAI(STAI-JYZ)を用いて,両者の不安の表出について検討した。対象は2012年7月~2014年6月に生体腎移植を行った50組のうち,検査が実施できた46組92名である。STAI-JYZの値を従属変数とし,群間(レシピエント・ドナー),時間(術前・術後),不安尺度間(状態不安・特性不安)の3変数を独立変数とした三元配置分散分析を行った。その結果,群間と時間に主効果がみられ,ドナーはレシピエントよりも有意に不安が低く,術後が術前よりも有意に不安が低かった。また群間と不安尺度間に1次の交互作用がみられ,下位検定の結果,レシピエントは特性不安よりも状態不安が高く,ドナーは特性不安よりも状態不安が低かった。よって,ドナーは術前という不安が高まる状況にも関わらず,不安の表出が抑制的であることが示唆された。

経験
  • ─島根県内複数病院へ県庁からの取り組み─
    松井 麗樹, 細田 眞司
    原稿種別: 経験
    2017 年 29 巻 1 号 p. 44-51
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル フリー

    全国的に高齢者や認知症患者の入院が増えており,精神科医の無配置(常勤・非常勤とも不在)病院では,せん妄や認知症BPSDへの対応が大きな負担となっている。厚生労働省の医療施設調査では,精神科を標榜している一般病院はわずか22%で,救急告示病院も半数以上が無配置である。すべての病院に精神科医配置が望まれるものの,現状の精神科医の人的資源では,常勤で配置するのは難しい。そのため,非常勤など限られた活動時間で,配置の効果を出すことが必要になる。今回,島根県庁から,県内の精神科医無配置の救急告示病院を複数訪問し,精神科リエゾン活動を行った。月1回半日の訪問支援を試行し,事例検討形式など教育的な取り組みを工夫した結果,せん妄への薬物療法が速やかに適正化されるなどの効果が得られた。少ない訪問で有効な支援の方法が確立されれば,多くの病院へ精神科医療の提供が可能になる。今後の全国的な配置の広がりを期待したい。

  • 北元 健, 加藤 正樹, 山田 妃沙子, 池田 俊一郎, 和田 大樹, 早川 航一, 齊藤 福樹, 中森 靖, 木下 利彦
    原稿種別: 経験
    2017 年 29 巻 1 号 p. 52-59
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル フリー

    目的:自殺企図の衝動性と患者の精神的・社会的背景の関連を明らかにし,救急現場の精神科介入の一助とするため,本研究を行った。対象と方法:救命救急センターに搬送された自殺未遂患者37例を対象にした。一時的な希死念慮の高まりから衝動的な自殺企図を起こした群と,それ以外の非衝動的な群に区分し,患者背景を後方視的に比較検討した。結果:単変量解析では非衝動的な自殺企図群のほうで,致死的な自殺企図手段を用いた患者,企図後も希死念慮が存在する患者が有意に多く,衝動的な群のほうでは企図に至った原因が対人問題であった患者が有意に多かった。このうち多変量解析では,致死的な自殺手段および企図後の希死念慮の存在で有意差を認めた。考察と結語:自殺企図患者の特徴を把握したうえで,自殺の再企図予防の介入を行う必要があると考えた。

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