総合病院精神医学
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22 巻, 4 号
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特集:臓器移植において精神科医に求められるもの
総説
  • 西村 勝治, 小林 清香, 岡部 祥, 田邉 一成, 石郷岡 純
    2010 年22 巻4 号 p. 323-330
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2014/08/07
    ジャーナル フリー
    生体臓器移植のために臓器を提供しようとする者は,①十分な意思決定能力を有し,②他からの強制ではなく自ら提供を希望し,③医学的にも心理社会的にも適格であり,④ドナーのリスクとベネフィットばかりでなく,レシピエントのリスクとベネフィット,可能な代替治療について十分な情報を得ていなければならない。わが国の生体臓器移植の倫理指針(日本移植学会)では,ドナー候補者の提供意思が他からの強制ではなく,自発的な意思に基づくものであることを精神科医などの第三者が確認することが求められている。しかしながら,自発的意思をどのような手順と方法で評価するのか,いまだ明確な指針がない。ここでは,われわれの施設において多職種によるコンセンサスによって構築した生体腎移植ドナー候補者の意思決定の支援・確認システムを紹介する。心理社会的な評価は単にドナーの適否を判定するためだけのものではなく,提供後もドナー候補者のウェルビーイングを維持・向上させるために支援・介入すべき点を明確にすることにある。
資料
  • ―肝移植患者の心理社会的長期経過調査より―
    野間 俊一, 林 晶子, 上原 美奈子, 村井 俊哉
    2010 年22 巻4 号 p. 331-337
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2014/08/07
    ジャーナル フリー
    生体臓器移植のドナー候補者に対する精神科診察は,「臓器提供の意思確認」と「心理状態の評価」の2つの役割があると考えられる。意思確認には,精神状態を評価することによる「意思決定能力の判定」,移植医療についての「理解度の評価」,臓器提供についての「強制の有無の確認」の三段階が存在する。一方,筆者らは成人間の生体肝移植レシピエント40人およびドナー30人の心理社会的長期経過の調査を施行したところ,ドナーの心理社会的経過はレシピエントの心身の状態に左右され,ドナーがレシピエントの配偶者である場合に心理社会的により安定しているというデータが得られた。ドナーの術前の精神状態は術後の心理社会的状態に大きな影響を与えていなかった。ドナー候補者に対する精神科診察では,レシピエントとの関係に留意してドナー選定過程を詳細に聴取する必要があると思われる。
原著
  • 菅原 寧彦, 國土 典宏
    2010 年22 巻4 号 p. 338-342
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2014/08/07
    ジャーナル フリー
    本邦においては,ドナーの条件(年齢や続柄など)に法的な規制はなく,各施設の倫理委員会に委ねられているのが現状である。施設によって多少異なるが,配偶者もしくは,2 〜4親等の親族で,年齢は20歳以上とするところが多い。西欧では,ドナーの自発性がより重視されていて,親族関係に関する規制は通常なく,たとえば患者の友人でも,その自発性が確認されればドナーとなっている。しかし,自発性を客観的に評価することは容易ではなく,たとえば利益供与の有無を調査するのは実際困難であると思われる。肝臓移植ドナーは,まさしく命を懸けた善意のボランティアであり,何の血縁関係もないものが,ドナーになり得るのかは個人的には懐疑的である。したがって,日本移植学会が示したような,婚姻関係を含む姻族といった何らかの明確な枠組みはやはり必要であろうと考えている。上記の条件を満たしたドナー候補者が評価対象となる。その第一段階にあたるドナーの意思決定にかかわるのは,教室では,肝臓(移植)内科医,コーディネーターである。医学的な適格性の判断のための検査,手術を安全に進めるための検査を経て,最終段階で精神科医により意思の自発性を判断される。
資料
  • ―レシピエント移植コーディネーターの立場から―
    岡部 祥, 岸 聡子, 赤星 京子, 小林 清香, 西村 勝治
    2010 年22 巻4 号 p. 343-350
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2014/08/07
    ジャーナル フリー
    日本の2009年の腎移植1,494名中,生体腎移植が1,312名でおよそ9割を占める。健康な人が自分のためではない手術を受けなければならず,提供のための決断は容易ではない。今回,ドナー候補者と家族にとって最善の選択が行われるよう,移植準備初期の段階での意思決定支援のポイントをレシピエント移植コーディネーターの立場から整理した。その結果,移植準備初期段階ではドナー候補者は準備状態が不十分な場合が多く,レシピエント移植コーディネーターによるアセスメントと指導的な介入は不可欠と考えられた。
総説
  • 桂川 修一, 相川 厚, 西村 勝治, 川嵜 弘詔
    2010 年22 巻4 号 p. 351-357
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2014/08/07
    ジャーナル フリー
    臓器移植医療では米国に比較して日本は生体ドナーの割合が多いという特徴がある。わが国で生体移植を行う際は日本移植学会によって定められたガイドラインがあり,生体ドナーの評価には精神科医の参加が求められている。そこでは精神科医の役割が明確化されているが,生体ドナーを評価する際に明確な精神医学的判断指針はないのが現状である。移植する臓器によって評価システムも大きく異なっており,移植手術の適否を判断する際にプレッシャーを感じる場合すらある。日本移植学会によるガイドライン作成の経緯を示して,現在の移植医療現場での精神医学的問題を,特に症例数の多い腎移植と肝移植に絞って検討した。
一般投稿
原著
  • ―コンジョイント分析を用いた探索的研究―
    谷口 敏淳, 田治米 佳世
    2010 年22 巻4 号 p. 358-365
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2014/08/07
    ジャーナル フリー
    医療従事者におけるメンタルケアの必要性は明らかであり,院内精神科による職員への相談支援体制の整備が望まれる。本研究では,院内精神科によるメンタルケアシステムの構築を目的に,院内精神科への相談意図に及ぼす要因を検討した。その結果,①若い職員において相談に抵抗があること,②院内精神科受診歴がある職員は相談しやすいこと,が示唆された。また具体的な体制について,『申込窓口』『申込方法』『相談時間帯』『(記録)保存方法』について相対的な評価を求めた。その結果,“窓口を臨床心理士とし,電話による申し込みを推奨し,時間外を含む柔軟な時間による相談を可能とし,記録は電子カルテではなく,紙ファイルで保存する”としたシステムが最も相談しやすいことが示された。加えて,相談体制においては『申込窓口』『申込方法』がより重視されていることも示唆され,今後,本研究結果を参考に具体的なメンタルケアシステムの構築を進める。
  • 竹内 崇
    2010 年22 巻4 号 p. 366-372
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2014/08/07
    ジャーナル フリー
    せん妄は総合病院においてしばしば認められており,身体疾患の併発や死亡率の増加をもたらしている。今回われわれは,当院での食道癌の手術前に精神科が介入することでせん妄の発症や経過についてどのような変化がもたらされるかを検討し,せん妄の予測と予防に関する最近の知見を呈示するとともに報告した。われわれの手術前の介入により,術後のせん妄発症率や発症したせん妄に対する薬物療法を必要とした症例数は,ともに減少傾向はみられたものの有意差は得られなかった。 その理由として,今回の研究ではせん妄の危険性の情報提供にとどまり,非薬物療法的アプローチに関する具体的な指導が十分でなかったことにより,医療スタッフ間で患者への対応の相違があったことが予測された。今後は教育的介入をより強化し,医療スタッフの患者への対応の標準化を行っていくことがせん妄発症や重症化の予防に寄与する可能性があると考えられた。
資料
  • ―インターネット調査の結果より―
    松下 年子, 野口 海, 小林 未果, 松田 彩子, 松島 英介
    2010 年22 巻4 号 p. 373-382
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2014/08/07
    ジャーナル フリー
    治療中ないし終了後のがん患者の家族500名を対象に,家族の心の負担と心のケア・サポートについてインターネットを媒体としたアンケート調査を行った。その結果,患者の94.4%が病名告知を受けており,それをよかったととらえる家族は85.6%を占めた。家族が最も心の負担を感じたのは病名告知のときであり,その際に医療者からの心のケア・サポートを受けた者は15.1%に過ぎなかった。一方,心の負担時に自ら相談したという家族は41.1%であり,その相手は患者以外の家族が最も多かった。次に,もし自分ががんになった場合,家族ががんになるストレスと比較して「自分のほうがストレスは大きい」と「家族のほうが大きい」と「どちらともいえない」はほぼ同じ割合であった。 また家族の心のケア・サポートの希望として多いのは,主治医ないし医師による診断時からの励まし,正しい情報提供,具体的なアドバイス,患者への接し方の支援,話を聴くことなどであった。
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