総合病院精神医学
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31 巻, 1 号
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特集:電気けいれん療法の実践―有効性と安全性の追求―
総説
  • 上田 諭
    原稿種別: 総説
    2019 年 31 巻 1 号 p. 2-8
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    国内の電気けいれん療法では,右片側性電極配置は未だ少ない。右片側性は,通電電極を頭頂部と右側頭部に接着し,劣位半球を焦点として二次性全般化発作を誘発する。現行の大部分を占める両側性電極配置は,右片側性に比べて効果が早いが,副作用としての認知機能障害の点で劣る。右片側性の発作閾値は両側性より低く,効果につながる発作のために,発作閾値の2.5~6倍の刺激用量が必要である。この治療閾値を知るために,用量滴定法による刺激設定が推奨される。用量滴定法は,初回刺激において,発作が出現するまで5-10-20-30%(高齢では10%から開始)と刺激する。発作が出た用量が発作閾値で,2回目にはその2.5 ~6倍(通常は2.5倍)で刺激する。一方,Somatics社の取扱説明書は,年齢の%での初回刺激を行い,不十分なら100%にすることを薦めており,議論の余地がある。いずれにせよ,発作の有効性評価は重要で,脳波上の高振幅発作波,発作後抑制などが指標である。

症例
  • 川島 啓嗣
    原稿種別: 症例
    2019 年 31 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    電気けいれん療法(ECT)において治療効果を得るためには,けいれん閾値を超える適切な電気刺激量を設定し,十分に全般化した発作を誘発することが必要である。しかし,治療機器の最大出力を用いても十分な発作が得られない症例はまれではない。そのため,発作誘発困難例への対応は臨床的に重要な課題となっている。近年研究が蓄積されつつある右片側性超短パルス波(RULUBP)ECTは,認知機能障害が少ないことが最大の特徴であるが,従来の手法と比べてけいれん閾値が低いことも明らかになっている。したがって,発作誘発困難例において,RUL-UBP ECTへの切り替えが有用である可能性がある。本稿では,両側性短パルス波ECTを最大出力で行っても有効な発作を誘発できなかった緊張型統合失調症の1例を報告する。本症例では,RUL-UBP ECTへの切り替えによって有効な発作を誘発できるようになり,寛解を得ることができた。この手法は,発作誘発困難例における新たな選択肢となりうると考えられる。

総説
  • 嶽北 佳輝
    原稿種別: 総説
    2019 年 31 巻 1 号 p. 14-21
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    電気けいれん療法(ECT)の有効性に大きく関連する因子として,“全般発作”の有無が想定されている。“全般発作”自体には患者個体の因子のほか,精神科治療薬なども大きな影響を与える。一方そのほかにも,無けいれん性手技に欠かせない麻酔手技や麻酔薬も“全般発作”に関与することが知られている。本稿では過換気などの麻酔手技と,本邦のECTで頻用されているpropofol やthiopentalの使用,remifentanilやdexmedetomidineの静脈麻酔薬への併用,ketamine麻酔など,麻酔薬がけいれん発作に与える影響について概説する。

総説
  • 岩本 崇志, 和田 健
    原稿種別: 総説
    2019 年 31 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    電気けいれん療法(以下,ECT)は高い有効性と速効性を有し,絶対的な医学的禁忌はないために,比較的安全な治療法であるという認識をもつ精神科医が多い。しかしながら実際には,高血圧,不整脈,心静止などの循環器系の障害やせん妄,健忘などの認知機能障害,遷延性無呼吸などの呼吸器系の障害を含む多くの有害事象が起こり得る。また,麻酔管理上も,短時間の麻酔中に大きく循環動態が変動することを考えると決してリスクが小さい治療法とはいえない。今回,肺炎や電解質異常,下肢静脈血栓などの合併症をもったレビー小体型認知症の1例を呈示し,安全なECT施行のための術前評価や注意するべき有害事象とその対策,また患者家族に対するインフォームド・コンセントについて解説する。

総説
  • ─再発する患者を診た時に考えること─
    栗本 直樹, 栗山 健一
    原稿種別: 総説
    2019 年 31 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    電気けいれん療法(ECT)は薬剤治療抵抗性うつ病に対して高い有効性を示すが,6カ月以内に4割近くが再発すると報告されている。ECT後の維持薬に関する主要なRCTでは抗うつ薬とLithiumの併用が再発予防に有効としているが,メタ解析では薬物療法単独よりも維持ECTの併用がより有効とされている。

    一方で,うつ病がECT後に再発する要因は詳細に検討されていない。有効性の低いECTや,併用薬物により症状評価が不十分で寛解に至っていない場合,そして誤診がその理由にあげられる。われわれは上記条件を考慮し,ECTで十分な寛解を得た後に抗うつ薬単剤で寛解維持を試みた大うつ病性障害患者群の治療を再検討した結果,躁病相が出現し双極性障害に診断変更する症例の多くは再発出現時期が早く,再発頻度も高いことを見出した (相対リスク:2.91,95%信頼区間:1.59−5.33)。 Lithiumや維持ECTは双極性障害にも有効であるため,寛解維持にこれらを併用することは有効である。しかし,正確な診断の下,最小限の治療で寛解を維持できるのであれば,初回の再発危険性が多少高まったとしても,患者の身体的・経済的負担を軽減しQOL・ADLの向上に寄与する可能性が考えられる。

一般投稿
原著
  • 池本 桂子, 冨永 格, 織田 辰郎
    原稿種別: 原著
    2019 年 31 巻 1 号 p. 38-47
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    中脳辺縁ドーパミン(DA)系は統合失調症の病態に関わる。統合失調症7名(24〜78歳,PMI:4〜13時間,ロボトミー既往3例を含む),対照者5例(24〜64歳,PMI:4〜5時間)の剖検脳の腹側被蓋野(VTA)DAニューロンの形態をチロシン水酸化酵素(TH)免疫組織化学によって検討した。厚さ50μmのクリオスタット凍結切片をTH抗体と浮遊法を用いて免疫染色し,画像解析装置AxioVisionで3次元立体構築した。78歳女性解体型症例では,VTAのTH陽性ニューロンはサイズと形が不整で(長径6〜24μm),一部の陽性線維が波状で直線的TH 線維束が交差していた。51歳女性の分類不能型では,細胞体の不整,太い神経突起,太さ不整の蛇行線維がみられた。ロボトミー症例では,細胞体のサイズと形の不整(長径6〜23μm)に加え,Waller変性とみられるコイル状や毛羽立ったような細いTH陽性線維が目立った。統合失調症VTAのTH陽性ニューロンの形態は個体差が大きく,細胞体や神経線維の太さの不整,神経線維束,直線的または屈曲が多く蛇行した神経線維の存在を特徴としていた。

  • 岡田 和久
    原稿種別: 原著
    2019 年 31 巻 1 号 p. 48-56
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    本研究では,気分障害による休職経験者の休職および復職プロセスについて質的に検討した。復職達成者と復職未達成者を含む調査協力者10名を対象に半構造化インタビュー調査を実施し,KJ法によるカテゴリー化および両者のカテゴリーの出現数の差の検討を行った。その結果,93個の小カテゴリー,35個の中カテゴリー,7個の大カテゴリーが生成された。また,復職達成者では職場のサポートに関するカテゴリーが有意に多かったのに対して,復職未達成者ではストレスの多さや職場のサポート不足などに関するカテゴリーが有意に多かった。それゆえ,復職支援では本人への治療と職場内サポートの整備の両側面へのアプローチが必須と考えられた。

症例
  • ─一般精神科医によるてんかん精神病診療のピットフォール─
    安来 大輔, 山口 順嗣, 尾崎 茂
    原稿種別: 症例
    2019 年 31 巻 1 号 p. 57-65
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    てんかんの最終発作から十数年後に,繰り返す突発的な自殺行動によって精神症状が顕在化した発作間欠期精神病の1例を提示する。本例では複数回入院を繰り返しながら最終診断と有効な治療に辿り着くまでに長年を要した。てんかん精神病は,病因・治療が異なる複数の病態の総称であり,一般の精神科臨床でもしばしば遭遇する器質性精神障害の1つである。しかし,てんかん診療から遠ざかった精神科医が多くなった昨今,その概念・分類の知識は十分に共有されていない。本例の診療経緯には,てんかん精神病の評価と治療に関して一般精神科医が学び得る多くの点が存在すると思われ,よってその経過を報告するとともに,てんかん精神病の診療におけるピットフォールをまとめた。

  • 高松 直岐, 谷口 豪, 和田 明, 近藤 伸介, 笠井 清登
    原稿種別: 症例
    2019 年 31 巻 1 号 p. 66-73
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    右側頭葉てんかん,発作間欠期精神病に対して主にカルバマゼピン(CBZ),バルプロ酸,ブロムペリドールで加療中の57歳女性が定期外来で受診した。受診7カ月前にCBZの増量が行われた。11カ月の間隔が空いた定期血液検査において腎機能障害が判明し,精査の結果,尿細管間質性腎炎と診断した。CBZを中止後,尿細管障害マーカーは改善したが,腎機能障害が長期に持続した。近年,従来の抗てんかん薬を長期にわたり内服している患者における合併症が注目されているが,てんかん診療に関わる可能性が高い総合病院精神科医にとって,そのような有害事象を適切に管理することは重要である。本症例では,CBZが原因と考えられる急性間質性腎炎を経験した。薬剤性間質性腎炎は,症状が非特異的であるため発見が遅れることも多い。したがって経過が安定していたとしても,薬剤の用量変更後は特に血液検査を行い,臓器障害の関与を確認することが重要である。

  • 沖野 和麿, 富岡 大, 黒沢 顕三, 野崎 伸次, 菊池 優, 鈴木 洋久, 岩波 明, 稲本 淳子
    原稿種別: 症例
    2019 年 31 巻 1 号 p. 74-81
    発行日: 2019/01/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    ステロイド投与により精神変調を来すことがあるが,これはステロイド精神病と呼ばれる。本稿では,ステロイド精神病に対して修正型電気けいれん療法(m-ECT)を施行し,改善した1例を経験したので報告する。

    症例は23歳男性で,精神科通院歴はない。もともとは活発な性格だった。しかしネフローゼ症候群を発症し,ステロイドパルス療法施行後に抑うつ症状が出現した。ステロイド中止後も抑うつ症状が遷延化し,抗うつ薬や抗精神病薬を内服加療したが改善しなかった。そのため,m-ECTを施行したところ著効した。

    本症例は,ステロイド中止後も抑うつ症状が遷延化したステロイド精神病に対して,m-ECTが著効した貴重な症例であった。抑うつ症状が遷延化したステロイド精神病の治療にm-ECTが有効である可能性が示され,治療戦略として選択する価値があると考えられた。

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