頭頸部癌
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32 巻, 4 号
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第27回 日本頭頸部手術手技研究会
ラウンドテーブルディスカッション
―頭頸部外科医を育てるには―
第30回 日本頭頸部癌学会
シンポジウム
口腔癌の新しい治療戦略
  • 三次 正春, 竹信 俊彦
    2006 年 32 巻 4 号 p. 404-409
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    近年の形成再建外科の進歩により,特に下顎骨では骨,筋肉,皮膚を含めた血管柄付き複合組織移植によりかなりの大きな欠損に対してでも再建可能となった。しかし欠損部が大きくなるに従い,donor siteにおける侵襲が大きくなり新たな機能障害を後遺することにもなる。骨延長法は1950年代にロシアの整形外科医G.A. Ilizarovによりその概念が確立された1)。下肢の長管骨に皮質骨骨切りを加え,改良した創外固定器により骨切り部分にゆっくりと牽引力をかけることで,骨片間に新生仮骨が形成され,牽引をやめて固定すると仮骨が骨へと成熟するものである。Ilizarovはまた,外傷や腫瘍切除およびその他の後天的に生じた中間欠損部位を新生骨に置き換える方法を開発した2)。欠損部位に隣接する健常長管骨の断端に骨切りを加え移動骨片を作成し,この骨片を緩徐に移動させもう一方の健常断端に到達させる。移動骨片が通過した部分に新生骨が形成され,中間欠損に骨が再生するものである。この方法を骨トランスポートと呼んでいる。移動骨片を1個作製し全欠損長を移動させるものをbifocal distraction osteogenesis,欠損部を挟む両端に移動骨片を作製して互いに向かいあって移動させるものをtrifocal distraction osteogenesisという3)。われわれは本法と少量の骨移植を併用して下顎区域欠損の再建を行った。治療期間は長いものの,少ない侵襲で機能的にも形態的にも良好な結果が得られ,本法が下顎再建の有効な治療手段と成り得ることが示唆された。
基礎
  • 徳丸 裕, 羽生 昇, 藤井 良一, 角田 晃一, 藤井 正人
    2006 年 32 巻 4 号 p. 410-416
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    DNAのメチル化に代表されるエピジェネティックな変異が癌の発生において注目されている。我々はCyclin A1遺伝子のメチル化について頭頸部癌をはじめ各種癌を対象に検討した。頭頸部癌,肺癌,食道癌,大腸癌,前立腺癌,膀胱癌,乳癌,肝癌の細胞株および臨床サンプルを用い,Bisulfiteシークエンス法およびQuantitative methylation-specific PCR(QMSP)を用いてメチル化の検出を試みた。細胞株におけるメチル化の有無とmRNAの発現は相関していた。また原発巣の検討においても高い頻度でメチル化が認められた。しかしながら末梢血液ではメチル化はほとんど検出できなかった。以上の結果より頭頸部癌をはじめとして多くの癌においてCyclin A1のDNAメチル化が重要な働きをしている可能性が示唆されたが,molecular markerとしての有用性についてはさらなる検討が必要と考えられた。
  • 石川 和宏, 石井 秀始, 西野 宏, 古川 雄祐, 市村 恵一
    2006 年 32 巻 4 号 p. 417-422
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    細胞内でDNAの複製阻害やDNA損傷が生じると,チェックポイントが活性化されて細胞周期抑制と損傷修復,あるいはアポトーシスへと導かれる。Rad9はDNA損傷のチェックポイントに関与する蛋白質で,DNA損傷の認識,DNA修復,アポトーシス等にも役割を演じる。今回我々はp53によるP21の転写調節におけるRad9の直接関与を検討した。非癌細胞ではRad9とp53の結合は紫外線照射により増加した。Rad9のC末端でのリン酸化は両者の結合に影響しないがRad9と結合したp53のリン酸化はDNA損傷に応じて変化した。また上顎洞扁平上皮癌細胞株ではRad9の強発現とp21の発現抑制を認めた。以上よりRad9はp53と結合してDNA損傷に応じた細胞周期調節を行う一方,癌細胞では遺伝子増幅によりRad9が過剰発現し,TP53遺伝子に変異がない場合もp21の発現異常とチェックポイント応答の異常を来すことが示唆された。
上顎
  • ―extended lateral rhinotomy + hemicoronal flap法によるアプローチ―
    永田 基樹, 辻 裕之, 南野 雅之, 井上 俊哉, 湯川 尚哉, 藤澤 琢郎, 八木 正夫, 小椋 学, 宮本 真, 近野 哲史, 岩井 ...
    2006 年 32 巻 4 号 p. 423-428
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    上顎癌に対する新しい皮切法としてextended lateral rhinotomy + hemicoronal flap法を考案した。従来より頻用されるWeber-Fergusson皮切法と比較し,1)顔面皮膚瘻孔や下眼瞼外反をきたす頻度の低下が期待できる。2)側頭下窩への展開が有利で,翼状突起基部の離断を明視下に安全に行うことができる。3)同一術野内で眼窩下壁再建に側頭部をドナーとする組織弁や頭蓋骨外板を利用できる。本法は,従来の経顔面アプローチとhemifacial dismasking flapの側方からのアプローチの利点を組み合わせた方法であり,手技的にも簡便で,整容的および術野展開に対して優れたアプローチ法の1つであると考える。
口腔
  • 仲盛 健治, 宮崎 晃亘, 出張 裕也, 木戸 幸恵, 冨原 圭, 小林 淳一, 今井 崇, 曽我部 陽平, 山本 崇, 廣瀬 加奈子, 平 ...
    2006 年 32 巻 4 号 p. 429-433
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    舌癌の頸部郭清術の適応ならびに術式選択に関し,朝蔭ら(頭頸部がんのリンパ節転移に対する標準的治療法の確立に関する研究班)の推奨する治療案に基づき当科の264症例をretrospectiveに分析した。その結果,推奨治療案と同様の治療は182/264例に行われた。一次郭清時または原発腫瘍の再発なく観察期間内に組織学的頸部リンパ節転移を認めた症例は,T1, early T2, N0群で17/138例(12%),late T2,T3 N0群で2/5例(40%),any T,N1群8/10例(80%),any T,N2群25/29例(86%)であった。
    T1-3のN0症例で推奨治療案に準じていない症例を併せて分析した結果,特にlate T2N0で内向性発育症例のリンパ節転移率が高かった。以上より,予防郭清を適用するlate T2の判断基準に腫瘍の発育様式を加味することの有用性が示唆された。
  • 横尾 公子, 渡辺 正人, 里見 貴史, 松田 憲一, 續 雅子, 松尾 朗, 金子 忠良, 千葉 博茂
    2006 年 32 巻 4 号 p. 434-438
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    Thymidine phosphorylase(TP)はフッ化ピリミジン系抗癌剤の代謝に関わる酵素であるが,効果予測因子としての検討は少ない。そこで今回,口腔扁平上皮癌31例を対象としてneoadjuvant chemotherapy前の生検組織中のTPの発現を画像解析を用いて定量的に評価した。さらに,他の腫瘍関連因子の影響を考慮に入れて多変量解析を行い,薬剤有効性に対するTPの影響を検討した。奏効群(14例)と非奏効群(17例)に分け,判別分析を使い変数増加法で分析を行った。分析の結果,この2群を有意に判別することができた。判別の予測に有効変数はthymidylate synthase(TS),TP,poliferating cell nuclear antigen(PCNA)およびnuclear polymorphismであった。判別に寄与している因子はTS,TPおよびPCNAであった。また,正判別的中率は奏効群が0.86,非奏効群が0.76と良好な値を示した。以上より,TPはTSの次に抗癌剤効果予測に影響を及ぼす重要な因子と考えられた。
  • 長谷川 博, 鹿野 真人, 佐藤 栄需, 金子 哲治, 門馬 勉, 武石 越郎
    2006 年 32 巻 4 号 p. 439-444
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    高齢者の頭頸部癌治療では副作用が少なく,高い安全性と根治性が要求される。われわれは高齢者口腔癌に対し,ドセタキセル(TXT),シスプラチン(CDDP),ペプロマイシン(PEP),5-FUによるTCPF動注化学療法を行い,その安全性と有効性について検討した。2002年3月から2005年5月までTCPF動注化学療法を行った75歳以上の扁平上皮癌症例10例を対象とした。年齢は75~84歳,平均80歳。部位は舌口腔底8例,頬粘膜1例,上顎歯肉1例。全症例に浅側頭動脈か後頭動脈経由で動注用カテーテルを留置し,TCPF動注化学療法を行い,7例に生検切除を,2例に根治的切除を行った。原発部位に対する効果はCR率80%(8/10),PR率20%(2/10),pathological CR率67%(6/9)であった。副作用は,脳血管障害はなく,動注側の粘膜炎と脱毛が主であり,血液毒性など全身的な副作用はほとんど認めなかった。本療法の有効性と安全性は高く,ハイリスクの高齢者にも根治的治療として適応し得ると考えられた。
  • 大鶴 洋, 郡司 明美, 萬 篤憲, 藤井 正人, 田邉 陽子, 土器屋 卓志
    2006 年 32 巻 4 号 p. 445-448
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    過去15年間にStage I,II舌扁平上皮癌に対して組織内照射を施行し,原発巣が制御された106例を対象として検討を行った。後発頸部リンパ節転移は38例(35.8%)に生じ,転移発現までの期間は2ヶ月から7年8ヶ月に分布していた。38例中,頸部郭清術が行われたのは34例でそのうち23例が救済しえた。疾患特異的5年累積生存率は,T病期分類ではT1:73%,T2:62%と差が無く,原発巣の腫瘍浸潤様式(山本―小浜分類)別では,2型:100%,3型:96%,4C型:62%,4D型:0%であり,2型,3型と比較して4C,4D型では差が認められた。Stage I,II舌扁平上皮癌ではT病期に関係なく後発転移発症例は,転移陰性群:100%に対して転移陽性例:65.6%と予後不良の傾向であった。経過観察を行っていくにあたっては腫瘍浸潤様式も考慮のうえ,頸部後発リンパ節転移のより早期の発見が望まれると考えられる。
  • 木村 幸紀, 柳澤 昭夫, 山本 智理子, 川端 一嘉, 三谷 浩樹, 吉本 世一, 米川 博之, 別府 武, 福島 啓文, 佐々木 徹, ...
    2006 年 32 巻 4 号 p. 449-454
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    stage I・II舌扁平上皮癌の頸部リンパ節後発転移例の様相と予後因子との関連を評価するため,1987~2002年に舌部分切除単独治療した243例のうち頸部リンパ節後発転移の50例を再検討した。26例が経過良好で,予後不良の24例は,口腔底深部再発2例,患側頸部再発10例,遅発性健側転移3例,9例に遠隔転移をみた。各予後因子に関連した3年無病生存率は以下の如くであった。転移リンパ節数1個:18例(78%),2個:3例(38%),3個以上:5例(28%),転移レベル数1部位:18例(78%),2部位:8例(42%),3部位以上:0例(0%)。転移レベル最遠位は,レベルI:13例(81%),レベルII・III:13例(43%),レベルIV~VIは0例(0%)。被膜破壊は,弱~中程度陽性:12例(75%),強陽性:12例(38%)。転移巣の大きさ自体は,予後に重要ではなかった。しかし,転移巣が非角化型の場合には予後不良と関連深く思われた。
    よって,stage I・II舌癌患者の頸部郭清標本の検索時に上述した危険因子の存在が確認された場合には,術後治療を考慮すべきである。
  • 黒川 英雄, 山下 善弘, 松本 忍, 高橋 哲, 迫田 隅男
    2006 年 32 巻 4 号 p. 455-458
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    1995年から2000年までに外科的根治手術のみを行ったStage I,II舌扁平上皮癌50例を対象として,切除標本における周辺上皮の上皮性異形成の意義について検討した。その結果,周辺上皮の上皮性異形成は26例(52%)にみられた。また,上皮性異形成は腫瘍の発育様式,腫瘍の大きさ,深さ,術後の局所再発と関連していた。さらに,術後の局所再発には腫瘍の大きさ,深さ,上皮性異形成の有無が関連していた。ロジスティック多変量解析では,上皮性異形成,とくに4点以上の症例が再発の予測因子であった。
喉頭
  • 寺田 友紀, 佐伯 暢生, 藤 久仁親, 宇和 伸浩, 佐川 公介, 冨士原 将之, 阪上 雅史
    2006 年 32 巻 4 号 p. 459-463
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    早期喉頭癌の放射線治療非制御例に対し,救済治療,喉頭保存率,生存率などを検討した。対象は1988年から2002年に根治的放射線治療を行なった早期声門癌186例(T1:135例,T2:51例)のうち,照射非制御例33例とした。すべて男性で,年齢は52歳から81歳,平均66歳であった。放射線非制御率は,T1が12.6%,T2が31.4%であった。rT2症例にはほとんど全例に喉頭全摘が行われており,喉頭部分切除はなかった。5年喉頭保存率は全体で21.6%であり,rT1は66.7%,rT2は16.7%であった。死因特異的5年生存率はrT1が75%,rT2が100%,rT3以上が33.3%であった。照射非制御例の喉頭保存率は低く,これを向上させるにはrT2症例に対し,どれだけ喉頭部分切除術ができるかにかかっていると思われた。そのためにはより厳重な定期診察を行ない,再発癌の早期発見が必要と思われた。
  • ―声門癌と声門上癌の治療は同じでよいか―
    吉崎 智一, 室野 重之, 脇坂 尚宏, 近藤 悟, 古川 仭
    2006 年 32 巻 4 号 p. 464-467
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    Robbinsらの動注化学療法は,150mg/m2のシスプラチンをseldinger法で投与する方法で,進行頭頸部癌に対して著しい局所制御率を示し注目されている。しかし,喉頭癌は一般に他の頭頸部癌と比較しても腫瘍体積は小さい。したがって,Robbinsらの原法よりも少量のシスプラチンで制御可能であると考えられる。stage II―IV喉頭癌35例のうち,治療上2年間以上経過観察できた20例を対象とした。シスプラチン100mg/bodyを3週に一回,放射線治療期間中に投与した。シスプラチン投与時にモル比200倍相当のチオ硫酸ナトリウムを静脈投与した。対象の20例(声門癌10例,声門上癌10例)において喉頭温存率は声門癌80%,声門上癌70%,無病生存率は声門癌80%,声門上癌50%であった。毒性については,Grade 3以上は我々の方法で28.5%に過ぎないのに対して,RADPLAT(RTOG9615)では83%,RTOG9111では77%であった。声門上癌に対しても超選択的動注化学療法は有効であるが,それ以上に化学放射線感受性が声門上癌よりも低く,リンパ節転移の頻度も低い声門癌は,局所治療として強力な超選択的動注化学療法のよい適応と考える。
上・中・下咽頭
  • ―Transoral Lateral Oropharngectomyについて―
    竹田 昌彦, 中山 明仁, 宮本 俊輔, 岡本 牧人
    2006 年 32 巻 4 号 p. 468-473
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    中咽頭は構音,嚥下,呼吸などの重要な機能を有している。したがって中咽頭癌の治療に際しては,局所の解剖と機能を理解し,病変の局所進展や頸部リンパ節転移などの特徴を含めQOL(quality of life)に配慮した適切な治療法を選択する必要がある。経口腔法による側壁型中咽頭癌の手術治療であるTransoral lateral oropharyngectomy(以下,TLO)の適応や手術手技について報告する。術前診断では視診と触診を用いて病変の範囲を十分に把握し,CTやMRIなどの画像診断を用いて深部浸潤と内頸動脈などの重要臓器との関係を診ることが重要である。手術においては良好な視野を保ち,内側翼突筋や副咽頭間隙の脂肪織などの解剖学的ランドマークを確実に同定することが重要である。TLOは現在までに5症例に施行した。まだ観察期間は短いが,術後の副障害は少なく全例無病生存中である。今後も症例を重ねて検討していく方針である。
  • ―Gehanno法による長期成績の検討―
    井上 俊哉, 辻 裕之, 南 豊彦, 永田 基樹, 湯川 尚哉, 南野 雅之, 小椋 学, 八木 正夫, 藤澤 琢郎, 宮本 真, 近野 哲 ...
    2006 年 32 巻 4 号 p. 474-480
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    中咽頭癌において上側壁が切除された場合,術後にしばしば鼻呼吸,嚥下,構音障害をきたす。著者らはこのような欠損における再建にGehanno法を用い,術直後より良好な術後機能を得ている。今回Gehanno法の長期的成績について評価をおこない,同法の有用性につき検討をおこなった。1997年より現在までに33例に対しGehanno法を施行し,今回8例に対して,術後機能評価を行うことができた。それらの症例については概ね順調に術後機能の維持ができていると思われるが,前腕皮弁使用例の一部において,術後徐々に機能が悪化してくる症例があった。元来前腕皮弁は柔軟性に優れており,中咽頭のような複雑な形態の再建に適しているとされていたが,Gehanno法による再建材料としては,周囲組織の瘢痕による形態的変化を受けやすい可能性が示唆され,皮弁の第一選択としては腹直筋皮弁が推奨されると思われた。
  • 松塚 崇, 横山 秀二, 松井 隆道, 鈴木 康士, 野本 幸男, 小川 洋, 鹿野 真人, 大森 孝一
    2006 年 32 巻 4 号 p. 481-485
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    下咽頭癌の手術の際に切除範囲を決定することを目的としたヨード散布の有用性を調べた。1997年より2006年までの10年間に当科に入院した下咽頭癌は82例あり,このうち初回治療で咽喉食摘を受けた患者43例を今回の解析対象とした。術中粘膜切除断端を決定する際,迅速組織診断に加え2001年よりヨードを散布し不染帯を切除範囲に含めることとしてきた。
    術後断端再発は,迅速組織診断へ提出しなかった11例中に1例あり,提出した32例中には存在しなかった。迅速組織診断へ提出した32例のうちヨードを散布したのは23例で,術中肉眼的には腫瘍浸潤を認めなくても迅速病理で断端腫瘍を認め追加切除した例は,ルゴール散布しなかった9例中4例,散布した23例中2例で両群間に有意差を認めた(p=0.03)。スキップした不染帯の組織は癌浸潤1例,上皮内癌1例,異型性1例,肉芽1例であった。
    下咽頭切除時のヨード散布は病変の存在が明示され安全域を的確に設定することができる。
  • 杉山 成史, 木股 敬裕, 関堂 充, 桜庭 実, 朝戸 裕貴, 桜井 裕之, 中川 雅裕, 兵藤 伊久夫, 栗田 智之, 吉田 聖, 熊本 ...
    2006 年 32 巻 4 号 p. 486-493
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    現在,癌切除後の再建において確立された術式はなく,施設間の再建方法の多様性が逆に治療成績の大きな差を生み出している。そこで,各施設間における再建方法に関する多施設共同研究を行い,過去10年間の治療成績を調査した。切除範囲を統一するため,下咽頭原発で咽頭喉頭頸部食道摘出後の再建症例のみを対象とした。症例数は計764例。移植材料は空腸が最も多く764例中715例(93.7%)であった。照射歴,化学療法歴,総手術時間,総出血量,膿瘍形成率,瘻孔形成率,経口摂取開始までの期間,術後入院日数において各施設の現状に違いが見られた。総手術時間と総出血量に正の相関関係を,症例数と平均総手術時間に負の相関関係を認めた。PGE1の使用と血栓形成には有意な相関を認めなかった。照射の既往により創傷治癒の遅延を認めた。多変量解析にてペンローズドレーンの使用と長時間の手術が有意に膿瘍・瘻孔形成率を増大させた。今回の結果をふまえ,今後標準的再建手技の確立を目指してゆく。
唾液腺
  • 千々和 秀記, 高根 陽子, 坂本 菊男, 梅野 博仁, 中島 格, 山内 俊彦, 清川 兼輔
    2006 年 32 巻 4 号 p. 494-498
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    耳下腺癌の手術で顔面神経合併切除を余儀なくされることがしばしばある。特に顔面神経本幹を切除した場合には神経再建が困難な症例も多い。今回耳下腺癌の手術に際し,顔面神経本幹合併切除後に頸神経叢を用いて一次再建を行った症例について検討した。
    2001年~2005年に顔面神経本幹とその分枝の合併切除が必要であった耳下腺癌5症例に対し,頸神経叢を用いて神経一次再建術を行った。5例中4例は術前に顔面神経麻痺を認めなかった。術後経過中の顔面神経麻痺スコア(柳原法)は中央値が32点と良好であった。
    当院では頸神経叢を好んで使用しているが,その理由は同じ術野で大きく広がった樹枝状の神経が得られるので,各分枝の欠損をつながった1本の神経で修復できること,さらに採取が簡便であることである。移植神経の第一選択として頸神経叢が有用であると考えられた。
  • 坂本 菊男, 津田 祥夫, 高根 陽子, 千々和 秀記, 梅野 博仁, 中島 格
    2006 年 32 巻 4 号 p. 499-505
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    1986年から2004年までの19年間に当科で治療を行った唾液腺悪性腫瘍123例(耳下腺癌80例,顎下腺癌39例,舌下腺癌4例)を臨床的に検討した。病理組織型は16種類と多彩であり,粘表皮癌が26例(21%)と最も多かった。病期別ではStage IVが83例(67%)と大部分を占めた。治療は全例,手術を行った。局所再発を32例(26%)に認めた。頸部郭清後の頸部再発を12例(13%)に認め,頸部郭清を施行しなかった33例のうち頸部転移を2例(6%)に認めた。遠隔転移は25例(20%)に認めた。頸部転移リンパ節の被膜外浸潤の有無と遠隔転移に有意差を認めた(p<0.05)。予後は死因特異的累積5年生存率61%,10年生存率50%であった。5年,10年生存率は部位別で耳下腺65%,62%,顎下腺53%,36%,舌下腺67%,0%であった。病期別ではStage I:90%,68%,Stage II:69%,52%,Stage III:100%,Stage IV:50%,45%であった。主な病理組織型別の5年,10年生存率は粘表皮癌:61%,61%,腺様嚢胞癌:62%,34%,腺癌:52%,44%,多形腺腫内癌:83%,83%,腺房細胞癌:100%であった。死因は原発巣死18例,リンパ節死6例,遠隔転移死22例,手術死1例,合併症死1例,他因死6例であった。
  • 高根 陽子, 千々和 秀記, 坂本 菊男, 宮嶋 義巳, 山内 俊彦, 清川 兼輔
    2006 年 32 巻 4 号 p. 506-509
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    10歳以下の小児耳下腺癌の2症例を経験した。本邦の統計に基づいて,報告では1958年から1996年に耳下腺癌1649例中,10歳以下は9例で,本例は非常に稀な症例であった。組織型は2例ともlow gradeのmucoepidermoid carcinomaであった。手術は耳下腺全摘術,顔面神経移植術を行った。現在,顔面表情の回復は良好であり,再発なく生存している。
頸部
  • 杉谷 巌, 川端 一嘉
    2006 年 32 巻 4 号 p. 510-514
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    腺外浸潤は甲状腺乳頭癌の重要な予後因子の一つであるが,鋭的剥離可能な他臓器浸潤(癒着)は予後に影響しない。甲状腺癌取扱い規約ではこれをEx1として,真の浸潤Ex2と区別してきたが,施設・術者により適用の異同も見られる。今回,反回神経については術前麻痺を認めた症例,気管・食道については粘膜面までの全層浸潤を認めた症例を新たにEx3と定義し,麻痺のなかった反回神経合併切除例,気管表層切除や食道筋層切除により根治の得られた症例をEx2として,予後因子としての有意性について検討した。1993~2004年の初取扱い乳頭癌症例562例(微小癌は除く)中,Ex0が272例,Ex1が149例,Ex2が81例,Ex3が60例で,各群の10年無再発生存率(DFS)は94%,81%,56%,41%,10年疾患特異的生存率(DSS)は99%,94%,91%,65%であった。DFSについてはEx1とEx2の間で有意差を認めたが,DSSについてはEx2とEx3の間で有意差を認めた。Ex3は明解なうえ,乳頭癌の生命予後不良因子として重要であり,現行のEx分類に付加する価値があると考えられた。
  • 横島 一彦, 中溝 宗永, 小津 千佳, 稲井 俊太, 島田 健一, 酒主 敦子, 斉藤 明彦, 粉川 隆行, 八木 聰明
    2006 年 32 巻 4 号 p. 515-518
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    喉頭・下咽頭手術における副甲状腺温存術式の成功率を向上させることを目的に,自験例を検討した。対象は原発巣手術と両側頸部郭清術を行い,健側甲状腺・副甲状腺を温存した喉頭および下咽頭扁平上皮癌初回治療例59例とした。副甲状腺機能は術後3ヶ月に評価し,カルシウム補正を全く必要としない症例を成功例とした。
    疾患別,原発巣手術術式別の成功率に差異はなかった。T3以下とT4の間,健側頸部転移の有無で成功率に有意差はなかった。術中所見で上甲状腺静脈の温存が不充分と思われた症例では44.4%,温存甲状腺にうっ血を認めた症例では20.0%と成功率が低かった。これらの結果から,温存甲状腺にうっ血を生じない,確実な上甲状腺静脈の温存が副甲状腺機能温存に重要であると考えた。
その他
  • 吉本 仁, 横山 純吉, 矢澤 真樹, 覚道 健治
    2006 年 32 巻 4 号 p. 519-522
    発行日: 2006/12/25
    公開日: 2008/05/30
    ジャーナル フリー
    唾液腺原発の悪性リンパ腫は稀で,その発生頻度は全悪性リンパ腫の4.7%と低い。さらに顎下腺に発生するものは9~16%程度である。また,唾液腺に発生する悪性リンパ腫はMALTリンパ腫が半数以上を占め濾胞性リンパ腫は10~30%程度を占めるのみである。今回,我々は顎下腺に発生した非常に稀な濾胞性リンパ腫を経験したので報告する。患者は58歳,女性で左顎下部の腫瘤を主訴に来院した。穿刺吸引細胞診の結果はClass Iであったが,悪性腫瘍を疑い,全身麻酔下にて顎下腺腫瘍切除術を施行した。術中迅速診断では悪性リンパ腫疑いと診断され,最終診断はGrade 1の濾胞性リンパ腫と診断された。病期分類はStage IVAでリツキシマブ,シクロホスファミド,アドリアマイシン,ビンクリスチン,プレドニゾロンによる化学療法が施行された。計8コースを終了し,治療効果は良好で現在経過観察中である。
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