日本医真菌学会雑誌
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36 巻, 2 号
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  • 微生物感染に対する連続的バリアー
    野本 亀久雄
    1995 年 36 巻 2 号 p. 121-125
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    外来性の異物であれ,自己由来の異物的成分や不用成分であれ,非自己抗原の有無にかかわらず,適切に処理しつづける立場からの恒常性維持機構を生体防御(機構)として構築することを提唱してきた.リンパ球の抗原認識を軸とする典型的な免疫系は,生体防御のなかでもっとも進化した要素として位置づけされる.ヒトやモデル動物としてのマウス,ラットの生体防御機構は,系統発生的進化の各段階で獲得した多くの要素や機能の積み重ねとして把握される.高等哺乳動物の生体防御を把握するためには,異物侵入後に構築される生体防御の連続的バリアー(横軸)と骨髄の多能性幹細胞を出発点とする細胞性防御因子の供給段階(縦軸)との両座標軸が利用される.従来の一般的な考え方では,抗原認識と関係のない典型的な初期防御系とクローン増殖後に機能を発揮する典型的な免疫系との2本柱で生体は守られているとされてきた.しかし,生体内で生存し,増殖するタイプの異物(微生物群)や異物的自己成分(癌細胞)を主な対象として研究を遂行していると,典型的な初期防御系と典型的な免疫系の2本柱では,異物侵入後の時間コースからも,機能面からも,大きなギャップが生じることが浮かび上がってきた.このギャップを埋める新しい防御系として未発達型T細胞応答(primitive T cell response, PTレスポンス)を提唱した,PTレスポンスがTCR-γδ型T細胞と,機能的に未発達なTCR-αβ型T細胞とに担われることを確定し,連続的バリアーをより完成度の高いものとして再構築した.
  • 坪井 良治, 冉 玉平, 小川 秀興, Kusmarinah Bramono
    1995 年 36 巻 2 号 p. 127-130
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    真菌の感染が宿主で成立するには,その初期段階で上皮組織などへの接着が重要である.本実験ではCandida albicans serotype Aを用いて,培養表皮細胞(ケラチノサイト)への接着の形態学的特徴とケラチノサイトの増殖に及ぼす影響を検討した.ヒト包皮由来のケラチノサイトは低カルシウム濃度の無血清培地で単層培養した.C.albicansは細胞壁上の特異抗原6を欠損する変異株とその親株を使用した.C.albicansのケラチノサイトに対する接着過程は走査電子顕微鏡を用いて観察した.その結果,菌添加後,培養0.5,1,4,8時間のいずれでも変異株のケラチノサイトへの接着数が親株に比較して明らかに低下しており,抗原6の重要性が確認された.また,培養4時間以降では菌とケラチノサイトの間にfibril様の構造が認められ,この構造が,菌が細胞上に固着する上で重要な役割を果たしていることが示唆された.引き続きC.albicansをケラチノサイトと培養したところ,ケラチノサイトの大半は死に至った.しかしC.albicansの培養濾液をそれぞれ10%,50%含有する培養液でケラチノサイトを培養すると,細胞の増殖は促進した.以上の結果から,接着とその後に起こる現象には,菌側と生体側の諸因子が相互に作用していることが示唆された.
  • 工藤 和浩, 田上 八朗
    1995 年 36 巻 2 号 p. 131-134
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    白癬・皮膚カンジダ症をはじめとする表在性皮膚真菌症は,病原真菌が角層に限局しているという点で感染症としては特異な存在である.角層は本来皮膚のバリアーであり微生物の侵入を防ぐ働きがあるが,逆に角層に寄生した真菌に対しては,一般の微生物感染症の場合のように免疫担当細胞や液性因子が直接働きかけて,貪食や殺菌によって処理することは出来ないと考えられる.私たちはモルモット背部の実験白癬の観察から,白癬病変部の炎症が白癬菌に対する防御機構に関与していると考えている.すなわち角層に白癬菌が寄生することにより皮膚に炎症が起こり,表皮の増殖と角層のターンオーバーが亢進して,落屑にともなう菌の排除が促進されるということである.白癬病変部に炎症が起こる機序としては菌抗原に対する接触過敏反応,好中珠の表皮内遊走などが関係している.角層を染める蛍光色素“ダンシルクロライド”を用いて,白癬病変部の角層のターンオーバーの検討を試みたところ,白癬病変部では角層のターンオーバーが亢進していることが示唆された.
  • 貝瀬 明, 伊藤 雅章, 藤田 繁
    1995 年 36 巻 2 号 p. 135-139
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    実験白癬の作成とその解析は,白癬の病態の解明に重要である.Tagamiらは,モルモット実験有毛部白癬において菌体成分に対する接触過敏性の存在を証明し,さらに表皮増殖の亢進が菌の排除を促進することを示した.Fujitaらは,再現性の良いモルモット実験足白癬モデルを確立し,その炎症性組織反応は遅延型過敏反応を介して起こることを示唆した.体部白癬モデルとしては,ヘアレスモルモットを用いるとよりヒトの生毛部白癬に近い病像が得られるが,今後さらに改良の余地がある.我々は,実験足白癬は自然治癒しないという事実から,モルモット有毛部白癬の自然治癒には毛組織の有無が関係すると考え,菌の感染によって生ずる毛組織の変化を,免疫組織化学的手法を用いて,形態学的に解析した.菌接種16日後に多数の毛包が同期するように一斉に退縮した.毛球部のDNA合成期細胞は,接種14日後から16日後に向かって有意に減少した.菌の毛組織内感染が毛周期に影響して,退行期へと誘導したものと考えられた.毛組織の細胞動態の変化も,実験有毛部白癬の自然治癒機序の重要因子といえる.
  • 古賀 哲也
    1995 年 36 巻 2 号 p. 141-143
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    急性の白癬の臨床像は白癬菌成分に対する生体の免疫学的反応おそらく遅延型過敏反応(DTH)の表現であると考えられる.われわれは,急性の白癬病巣を有する患者の末梢血単核球を白癬菌抗原(トリコフィチン)の存在下で培養したところ,その培養上清中にはIFN-γ,IL-2,GM-CSFの活性がみられ,一方,白癬の既往がない健常人の末梢血単核球培養上清中にはほとんど活性がみられなかった.このことより患者末梢血中にはDTHに関与するこれらサイトカインを産生するようなトリコフィチン特異的T細胞が存在することが判明した.一方,慢性の白癬を有する患者については,IFN-γ産生が低下していることが判明した.この結果,これらのサイトカインは白癬病巣の発現に関与し,最終的には白癬菌の排除に作用することが考えられた.
  • 加藤 卓朗, 丸山 隆児, 西岡 清
    1995 年 36 巻 2 号 p. 145-148
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    病変を認めず,直接鏡検が陰性の舌の真菌培養を行い,Candida albicansの分離率を年齢や基礎疾患により比較した.対象はステロイド剤を内服している患者27例,糖尿病,悪性腫瘍,膠原病の基礎疾患患者51例および健常人132人の合計210例である.培地としてクロラムフェニコール添加サブロー・ブドウ糖寒天平板培地を用いた.方法は舌を滅菌綿棒で擦過し培地に塗抹し培養した.210例中Candida属を76例(36.2%)から分離した.菌種別ではC.albicansが67例と多く,血清型はA型が62例,B型が5例であった.その他の菌種はC.tropicalisが5例,C. pseudotropicalis, C. parapsilosis, C. krusei, C. guilliermondiiが1例であった.C.albicansの分離率は年齢や基礎疾患により大きな差を認めた.60歳以下の健常人の分離率は10.9%であるのに対し,61歳以上の健常人(54.5%),ステロイド剤内服患者(60歳以下で85.7%)および糖尿病(30.8%),悪性腫瘍(46.7%),膠原病(50.0%)の患者からの分離率が有意に高値であった.一般的に易感染性宿主と考えられている患者や高齢者の分離率が高いことは,易感染性宿主に皮膚・粘膜カンジダ症が好発することと関連しており,舌などの粘膜で増殖した菌が発症のfocusになっている可能性が高いと考えられた.また他の臨床検査で異常を認めなくても,直接鏡検が陰性であっても舌からC.albicansを分離することは軽度の易感染性を示す鋭敏な指標になると結論した.
  • 戸村 敦子, 高橋 伸也
    1995 年 36 巻 2 号 p. 149-156
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    イミダゾール化合物は広い抗真菌スペクトルと高い抗真菌活性により,白癬において主流の薬剤となっている.しかしながら,基礎的研究におけるin vitro抗菌活性(MIC値)と臨床的効果の間には必ずしも相関はみられず,とくに,角化型足白癬および手白癬は難治である.以上より,ヒト皮膚角質がイミダゾール化合物の抗菌活性や臨床効果にどのような影響を与えるのかを調べるため,今回1)ヒト皮膚角質添加のin vitro抗真菌活性に及ぼす影響について(実験そのI),2)ヒト皮膚角質の抗真菌剤の吸着・解離について(実験そのII),3)ヒト皮膚角質層における抗真菌剤の透過性,滞留性について(実験そのIII),実験的検討を行なった.
    実験そのIでは,クロトリマゾールのMIC値は,ヒト皮膚角質を加えた4%サブロー培地を用いるとコントロールに比べて64倍から256倍の高値を示し,ヒト皮膚角質がイミダゾール化合物の抗真菌活性を低下させることが示唆された.また,抗真菌剤を塗布したヒト皮膚角質を用いた実験そのII,IIIではビフォナゾールがクロトリマゾールよりも長くヒト皮膚角質に滞留することが示唆された.
    これらの実験はヒト皮膚角質における外用抗真菌剤の薬物動態を明らかにするもので,とくに実験IIIは放射性物質を使わずに外用抗真菌剤の透過性,滞留性を把握できる簡便かつ有用な方法と考えられた.
  • 望月 隆, 上原 正巳
    1995 年 36 巻 2 号 p. 157-160
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    従来よりミトコンドリア(mt)DNAの制限酵素断片長の多型性(RFLP)は白癬菌の分子分類学にしばしば応用されてきたが,mtDNAの精製にかなりの労力が必要であった.今回その簡便法として,minipreparation法により得られた白癬菌の全細胞(全)DNAをRFLP解析に応用しうるか検討した.Trichophyton (T.) rubrumならびにT. mentagrophytes complexに含まれるArthroderma (A.) benhamiae, A. vanbreuseghemiiよりminipreparation法によって全DNAを抽出し,制限酵素Hae III, Msp Iによって消化したのち,その電気泳動パターンをmtDNAのそれと比較した.その結果,全DNAにおいて明瞭に認められたバンドはいずれもmtDNAに由来することが判明し,両者の泳動パターンは合致した.従って本法により得られた全DNAはmtDNAと同様,白癬菌の分子分類学上有用な情報を提供すると考えられた.
  • 丸山 隆児, 加藤 卓朗, 山本 泉, 西岡 清
    1995 年 36 巻 2 号 p. 161-165
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    足白癬患者足底における白癬菌の存在を直接確認する培養法としてFoot-press法を試み,その有用性を検討した.対象は未治療の足白癬患者27名で小水疱型22例,趾間型3例,角化型2例であった.年齢は18~79歳(平均47.7歳),性別は男性17例,女性10例であった.Foot-press法は,Nunc社製滅菌シャーレ(243×243×18mm)に作成したアクチジオン・クロラムフェニコール添加サブローブドウ糖寒天培地に患者足底を数秒間直接圧抵した後,25℃で培養を行う方法である.その結果,27例中15例(56%)から白癬菌の分離に成功し,分離された菌はTrichophyton rubrumが9例(60%),Trichophyton mentagrophytesが6例(40%)で,同時に施行した斜面培地による分離菌のTR/TM比とほぼ同じ割合を示した.病型別では小水疱型22例中12例(55%),趾間型3例中1例(33%),角化型2例中2例(100%)で白癬菌の分離に成功した.白癬のなかでも慢性期の症状と考えられる爪病変の有無により比較すると,爪病変のあるもので8例中6例(75%),ないもので19例中9例(47%)から白癬菌が分離された.また白癬病巣が広汎に存在するものほど分離成功率の高い傾向が認められた.以上より本法は足白癬患者から直接白癬菌を分離することができ,足底における白癬菌の分布状況の検討に有用な方法と考えた.
  • 細川 篤, 野中 薫雄
    1995 年 36 巻 2 号 p. 167-173
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    経中心静脈高カロリー輸液法(intravenous hyperalimentation,以下IVHと略す)施行中にカンジダ性眼内炎が発症した2症例を報告した.
    症例1;39歳,男性.亜急性硬膜外血腫の手術後IVH施行中に両眼の飛蚊症,霧視や視力低下が出現し,さらに心窩部に小豆大の腫瘤を伴うカンジダ性皮下膿瘍を併発した.症例2;59歳,男性.胃癌手術後IVH施行中に両眼の視力低下が生じた.2症例とも手術後合併症のため約1ヵ月間のIVH管理下にあり長期のIVHの使用と抗生物質の投与が主たる誘因と考えられた.切除された硝子体や眼内潅流液及び症例1の心窩部の皮下膿瘍からカンジダが純培養された.両症例とも硝子体切除術と抗真菌剤の硝子体内への注入と全身投与で治癒したが切除術を行う時期や適応に若干検討の余地があると考えられた.
  • 松江 啓子, 熊切 正信, 大河原 章, 芝木 秀臣
    1995 年 36 巻 2 号 p. 175-178
    発行日: 1995/05/25
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    ステロイド剤外用後に生じた,深在性皮膚カンジダ症の1例を報告した.症例は68歳,男性,農業,ビニールハウス栽培経営.1992年9月頃,左眉毛部に,にきび様の皮疹が出現した.他医にて副腎皮質ホルモン外用剤による治療を受けていたが,皮疹は悪化し拡大した.臨床的に顔面,手背に表面に痂皮,鱗屑を付着し,一部糜爛を呈する紅色局面が存在する.組織学的に表皮直下にリンパ球,組織球,形質細胞,巨細胞の稠密な浸潤があり,部分的には膿瘍が形成され,類上皮細胞性肉芽腫が混在する.Grocott染色では,真皮乳頭層から乳頭下層にかけて胞子が散在し,一部には出芽を示す胞子,仮性菌糸も認められた.生検組織からの培養では,黄白色湿性クリーム状コロニーが形成され,血清学的にCandida albicans serotype Aと同定した.臨床像,病理組織学的所見,菌学的検査からCandida albicansによる深在性皮膚カンジダ症と診断した.治療はイトラコナゾール1日200mgの内服を開始したところ,1週間で局面は縮小,扁平化し改善傾向が確認された.治療開始1週後から,ミノサイクリン1日100mg内服を併用し,約2ヶ月間で皮疹は軽度の色素沈着,部分的には萎縮性瘢痕を残し治癒した.
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