日本医真菌学会雑誌
Online ISSN : 1882-0476
Print ISSN : 0916-4804
ISSN-L : 0916-4804
45 巻, 4 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 上 昌広, 今滝 修, 谷口 修一, 金丸 峯雄, 林 達之
    2004 年 45 巻 4 号 p. 189-202
    発行日: 2004/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    造血幹細胞移植は,進行期造血器腫瘍に対する根治療法として有効性が確立している.前処置強度を弱めた移植法が開発され,ミニ移植と称されている.ミニ移植では前処置による副作用は軽度であり,高齢者や臓器障害を有する患者にも応用可能である.2000年代に入り,悪性リンパ腫や一部の固形腫瘍にも有効であることが明らかになった.更に,非血縁ドナーや臍帯血を用いたミニ移植の研究も進んでいる.真菌感染はミニ移植における主要合併症である.いったん発症した真菌感染は予後不良のため,移植後の真菌感染対策は予防に重点が置かれてきた.近年,移植を取り囲む状況の変化により,感染対策が変化しつつある.院内の環境対策が真菌感染予防に重要なことは言うまでもない.しかし,ミニ移植後の真菌感染発症の中央値は移植後100日で,多くの場合,外来治療中に発症する.このため,ミニ移植における真菌感染対策では,病院に附属した器機の有用性は低く,抗真菌剤の予防投与が注目されている.近年,複数の新規抗真菌剤が開発され,臨床応用が進んでいる.真菌感染症領域で,このように多くの薬剤が同時に開発されたことはなく,この数年以内に真菌感染対策は大きく変化することが予想される.
  • 田中 秀治, 後藤 英昭, 榊 聖樹, 吉成 清志, 吉沢 美枝, 島崎 修次
    2004 年 45 巻 4 号 p. 203-208
    発行日: 2004/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    救急・集中治療領域の深在性真菌症の発生は集中治療中の患者の20%に発生するといわれ,ブドウ球菌,緑膿菌,大腸菌感染症などとともに,第4の院内感染起炎細菌とされている.当施設では深在性真菌症に対し早期診断・早期治療を心がけてきたが,深在性真菌症に対して明確な診断基準はなく,独自の診断基準を用いらざるを得なかった.近年,深在性真菌治療に深在性真菌症疑診という診断基準が加わり,その症例に対してEarly Presumptive Therapy (EPT)という早期治療の概念が表される様になった.EPTとは抗菌薬不応性の原因不明の発熱が存在し,かつリスクファクターを有する患者に対し深在性真菌症疑診の段階で抗真菌薬を投与する治療法を言う.今回はこのEarly Presumptive Therapyの効果を検討したので報告する.
    対象と方法:杏林大学高度救命救急センターに平成10年1月から12年12月末日までに入室した重症患者のうち,77例が深在性真菌感染症疑診症例と診断されEarly Presumptive Therapyを施行した.深在性真菌症の疑診の診断には,まず患者が治療中に抗生物質不応の発熱(38℃以上の発熱が3日以上)を呈し,各部真菌培養で2ヵ所以上,2回続けて検出され,かつ血清診断(血中1-3-β-Dグルカン10pg/ml以上,またはPCR)が陽性であるものと定義した.Early presumptive therapy (FLCZ200-400mg/day×14日)は診断後直ちに開始し,2週間継続した.治療効果を全身所見,局所検出菌の推移,血液学的検査などに分類しretrospectiveに検討した.
    結果:治療後に62%の患者で全身炎症所見の改善,局所検出真菌の消失,血清診断検査の改善を認めた.無効は13%で,悪化は10%にみた.真菌の検出はEPT後21%に減少した.血液培養検査,またはCVPカテーテル先からの真菌検出は14%であった.体温はEPT前38.7℃±0.6℃であったが,EPT後には36.7℃±0.6℃となった.SIRS 3項目以上の合併が96.1%から29.9%へ減少した.血中1-3-β-Dグルカンは診断時には平均35±13pg/mlであったが,治療終了時には正常値範囲内に低下した.真菌感染を直接死因とした患者は一例もなかった.
    結語:救急集中治療領域での重症患者のearly presumptive therapyの有効性をretrospectiveに検討した.真菌感染が院内感染の原因菌として年々増加の傾向にあり,重症患者とくに集中治療領域での真菌感染には治療者を含め早期診断・早期治療の認識を新たにすべきと考えた.救急集中治療領域の重症患者やハイリスク患者におけるearly presumptive therapyの有効性が示唆された.
  • 吉田 稔
    2004 年 45 巻 4 号 p. 209-215
    発行日: 2004/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    深在性真菌症は白血病などの好中球減少患者や造血幹細胞移植患者に合併する重篤な感染症である.特にカンジダ症(敗血症,慢性播種性カンジダ症,肺炎など)と侵襲性肺アスペルギルス症が多く,近年は後者の増加傾向が指摘されている.我が国の深在性真菌症の診療・治療ガイドラインでは本症を3つのカテゴリーに分類した.確定診断例(proven fungal infection)は感染部位の組織学的検査や培養で真菌が証明されるか,真菌血症の場合である.臨床診断例(clinically documented fungal infection)は例えば侵襲性肺アスペルギルス症で,胸部CTのhalo signなどの典型的な画像所見と,血清または遺伝子診断が陽性の場合である.血清診断ではアスペルギルスガラクトマンナン抗原やβグルカンなどが利用される.真菌症疑い例(possible fungal infection)は画像診断か血清または遺伝子診断のいずれかが陽性の場合となる.造血幹細胞移植などのハイリスク患者では経口抗真菌剤による予防が,疑い例ではフルコナゾールまたはアムホテリシンBによる経験的治療(empiric therapy)が推奨される.臨床診断例や確定診断例では標的治療(targeted therapy)が行われ,カンジダ症ではフルコナゾールの400mg/日あるいはアムホテリシンBの0.5~0.7mg/kg/日が,アスペルギルス症ではアムホテリシンBの1.0~1.5mg/kg/日が必要である.近年我が国で開発されたミカファンギンはカンジダとアスペルギルスいずれにも抗菌力があり,経験的治療や標的治療に有用と考えられる.
  • 竹末 芳生
    2004 年 45 巻 4 号 p. 217-221
    発行日: 2004/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    外科領域では疑診のまま治療が行われることが多いが,その適切な開始基準がないことが第一の問題点である.その場合,日本では血清学的診断を,欧米では全身のカンジダ属によるcolonizationの程度を元に治療が開始されるが,両者を併用したストラテジーを講じることにより精度の高いpre-emptive therapyが可能になると考える.
    第2の問題点として,non-albicans Candidaの増加が挙げられる.この真菌は,外科領域で常用されるfluconazoleに感受性が低いことが報告されている.新規抗真菌薬はこれらにも良好な感受性を示し,今後の適応について検討が必要である.
  • 木内 哲也
    2004 年 45 巻 4 号 p. 223-225
    発行日: 2004/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    臓器移植領域における深在性真菌症は,ほとんどがCandidaAspergillusによるものであり,小腸・肝・膵・肺移植での頻度が高い.限られた情報ではあるが移植臓器別に危険因子が挙げられているが,これに基づいた抗真菌薬の予防投与や先制攻撃的使用についてはその効果について充分な証明のなされていないものも多い.術前状態や手術因子,免疫抑制因子も含めた移植領域の特性に基づいた症例の階層化を行い臨床的裏付けに基づいたテーラー・メードの指針に到達するためには,多くの試案と検証とを繰り返していく必要がある.
  • 安部 茂
    2004 年 45 巻 4 号 p. 227-231
    発行日: 2004/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    老人における口腔カンジダ症,および吸入ステロイドの使用に伴う咽頭・食道カンジダ症は,患者が非常に多い疾患であり,しかも一部の患者では難治性となる.これら粘膜カンジダ症は,主として常在菌であるCandida albicansが,宿主の低下した防御能をくぐり抜け,感染が成立する感染症である.鵞口瘡がこれら口腔咽頭カンジダ症の一般的な状態であり,舌,咽頭などに偽膜性の白苔を生じる.私達は新たにマウス口腔カンジダ症および咽頭カンジダ症のモデルを作成した.これら動物モデルは,口腔カンジダ症では,クロルプロマジンをマウスに投予することで,C.albicansの口腔内への菌の定着が容易におこるのみでなく,舌白苔などの症状を示し,その数値化が可能となるものである.すでにこの口腔カンジダ症モデルで,ウシラクトフェリン,クローブ,植物精油の経口投与により防御効果が得られており,その免疫学的機序も一部明らかにされてきている.さらに,アゾール系抗真菌剤に耐性を示すCandida albicansによる本感染症に対しても植物精油が有効なこと,また,ヒト唾液が感染防御に働くことも明らかにされつつある.
  • 佐藤 田鶴子
    2004 年 45 巻 4 号 p. 233-237
    発行日: 2004/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    歯科診療上で,近年増加している病態で慢性に舌痛を訴える症例がある.一方,訴えは同様であるが,日本心身医学会で舌痛症といわれる心身症領域の病態がある.これは,心身症領域の専門の医療者が扱わなければならない心理社会的な因子が密接に関与するものであり,歯科では簡易精神療法や自律訓練法などが行われたが,いずれも難治であり,患者ばかりでなく治療者をも悩ませていた.本症の診断過程での除外診断中に口腔の表在性カンジダ症を治療することにより,ほとんどの痛みを解消できることがわかった.また,症例中にはわずかではあるが,再発する例もあり,これらの投与前,再発時の真菌について抗真菌薬のMIC,アピCオクサノグラムを用いての生化学的性状検査,およびPFGEでの遺伝子学的解析を行い,初診時および再発時の検出真菌は同一であることがわかった.
    それらの結果から,舌痛症の除外診断には真菌感染症の診査および治療が重要な鍵を握っていることがわかった.
  • 田口 勝二, 川畑 智子, 若山 恵, 大原関 利章, 横内 幸, 高橋 啓, 直江 史郎, 大越 俊夫, 岩渕 聡, 渋谷 和俊, 西村 ...
    2004 年 45 巻 4 号 p. 239-245
    発行日: 2004/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    本邦において,真菌に対するアレルギー反応が原因と考えられるアレルギー性真菌性副鼻腔炎(AFS)の報告例は極めて少ない.我々は,Bipolaris spiciferaが分離同定されたAFSの1例を経験した.症例は70歳男性,両側鼻閉および膿性鼻汁に引き続き複視を来たした.CTにて右前頭洞,両側篩骨洞から蝶形骨洞にかけて軟部組織陰影を認め,篩骨洞,蝶形骨洞開放術が行われた.副鼻腔内容物の病理学的検索では,いわゆるアレルギー性ムチンの中に不規則な間隔で形成された隔壁,さまざまな膨化を示す真菌要素が観察され,微生物学的検索にてBipolaris spiciferaが分離された.本邦でBipolaris spiciferaが原因となったAFSの報告例はこれまでにない.AFSの診断にはアレルギー性ムチンの中に真菌要素を証明することが極めて重要であるが,副鼻腔内容物の圧挫細胞診が菌体の証明,菌種の推定に特に有用であった.
  • 森下 宣明, 二宮 淳也, 清 佳浩, 滝内 石夫
    2004 年 45 巻 4 号 p. 247-252
    発行日: 2004/10/30
    公開日: 2009/12/18
    ジャーナル フリー
    健常人の踵部の角質片に,数種の皮膚糸状菌を塗布し,角質内への菌の侵入速度や侵入後の洗浄による菌の除去について検討した.
    足白癬を想定した実験系では,角質表面に菌を塗布した後,以下の2系列の実験系をたてた.(1) 屋内で靴下を履いている環境として,湿度90%を8時間,湿度100%を16時間,(2) 屋内で裸足でいる環境として,湿度80%を8時間,湿度100%を16時間培養し,経日的に取り出し,石鹸水を浸した綿棒による洗浄前後について,それぞれPAS染色,走査電顕で観察した.(1)では1日後に洗浄しても菌を除去することはできなかったが,(2)では2日後でも菌が除去されていた.靴を脱いでいるときには足の湿度を低く保つこと,連日足底・趾間の洗浄をおこなうことにより,角質内に菌が侵入し始めても容易に除去できると思われた.
    また,体部白癬を想定した実験系では,角質切断面に菌を塗布し,湿度80%で培養後,経日的に取り出し,PAS染色後観察した.Trichophyton tonsuransは,0.5日で角質への侵入が始まり,他の菌種の皮膚糸状菌よりも角質内への侵入速度が速く,最近の感染拡大の要因の1つであると思われた.
feedback
Top