日本急性血液浄化学会雑誌
Online ISSN : 2434-219X
Print ISSN : 2185-1085
14 巻, 2 号
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総説
  • 矢野 卓郎, 大矢 昌樹, 荒木 信一
    2024 年14 巻2 号 p. 61-66
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    急性腎障害(acute kidney injury:AKI)の予後は不良であり高い死亡率と関連しているが,とくに腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)を必要とするAKI-Dの院内死亡率は約50%と極めて不良であることが知られている。また,生存例においても長期的な生命予後・腎予後が不良であることが報告され,腎機能が回復せず退院時に透析療法を必要とする症例はAKI-D患者の約10%程度,そのまま維持透析へと移行する症例は5%程度であるといわれている。当院における過去10年のAKI-D患者374例について解析を行ったところ過去の報告と同様4.8%の症例が維持透析へと移行していた。また,生存例のなかでも透析を離脱できた症例に比し,維持透析へと移行した症例では生命予後が不良であった。

  • 赤塚 正幸, 巽 博臣, 千原 伸也, 升田 好樹
    2024 年14 巻2 号 p. 67-72
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    敗血症では,感染症に対する制御不能な宿主反応に起因して臓器障害が生じる。この病態形成にはさまざまなメディエーターが関与しており,敗血症性急性腎障害ではサイトカインやDAMPsなどの大分子量物質の除去も目的とした持続的血液濾過(continuous hemofiltration:CHF)が施行される。敗血症に対する血液浄化療法の施行条件は,これまでさまざまな報告があるが統一した見解は得られていない。本稿では,①浄化量,②生体適合性,③ヘモフィルターのlife-timeそれぞれの観点から,当院で施行している血液浄化療法を提示し,考察する。臓器障害や臓器不全に至る可能性のある全身状態を“整える”という観点から,生体適合性やヘモフィルターのlife-timeを考慮した,身体に“やさしい”血液浄化の確立を目指していくことが重要である。

  • 本格的なライフラインが不要な急性血液浄化
    伊藤 明人, 阿部 貴弥, 井藤 練刀, 野崎 泰資, 川村 竜也, 関口 季詠, 松浦 朋彦, 小原 航
    2024 年14 巻2 号 p. 73-76
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    首都直下地震の発生した際はcrush症候群からのAKIの発症が多発し,とくに災害発生直後から数日の間は高カリウム血症に対する血液透析,血液濾過などの急性血液浄化療法の需要が高まると考えられる。しかし災害時にはライフラインに依存するこれらの治療は施行できないことも考えられるため,環境が整った高次医療機関や他医療圏に搬送するまで本格的なライフラインが不要な腹膜透析やnon machinery dialysisなどの治療法を選択できるように平時から準備を進めておく必要性があると考えられる。

  • 丸山 高史, 阿部 雅紀
    2024 年14 巻2 号 p. 77-83
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    腎臓病疾患の終末期医療を考えた場合,腎代替療法の開始が必要となる前後の病期が合致する。この病期に治療を行わない場合,近い将来生死にかかわる状態になり得るからである。近年,このような病期に結果として治療を行わないconservative kidney management(CKM)が末期腎不全の治療選択肢として北米や西欧諸国を中心に普及,確立しつつある。本稿ではCKMを中心にその歴史,定義,各国での比較,わが国においてのCKMについて文献的考察を交えて紹介した。現在わが国の場合,治療の差し控えや中止という行為に対して法的に免責されておらず,まずは多職種医療チームで意思決定を行うことが重要であり,さらにわが国でCKMが受け入れられるためには,終末期医療関連の法律やガイドラインを始めとする環境の構築,議論が必要である。

原著
  • 伊藤 仁弥, 千原 伸也, 工藤 元嗣, 巽 博臣, 升田 好樹
    2024 年14 巻2 号 p. 84-87
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    【目的】2種類の吸着膜を用いて拡散や濾過などの物理的原理を用いず小分子量物質の移動特性をin vitroで比較検討した。【方法】クレアチニン(Cr)を添加した試験液を用いて,ヘモフィルタとして膜面積1.3m2のPMMA膜と1.0m2および1.5m2のAN69ST膜を用いた閉鎖回路をそれぞれ確立してin vitroで実験を行った。実験条件は試験液流量150mL/min,透析液および濾過流量は設定しなかった。ヘモフィルタ前後で30秒毎にサンプリングを行い,Crの濃度を測定して膜素材の違いによるCr濃度の変化を比較した。【結果】3種の膜ともにフィルタ前のCr濃度は低下し,PMMA膜では7.6%,AN69ST膜では29.9〜43.4%低下した。【結語】AN69ST膜では,物理的原理を用いていないにもかかわらずCr濃度が低下したことから,電荷を有さない小分子量物質に吸着特性を示すことが示唆された。

  • 松本 真, 小橋 秀一, 和田 遼太, 佐藤 光, 久保 希, 白石 朋也, 畑林 絵梨香
    2024 年14 巻2 号 p. 88-92
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    当院では敗血症の有無にかかわらず透析を必要とするAKIの全症例に対してCAHを導入膜としている。また,われわれは1種類のCAHを使い続けたとき,AN69STで有意に高い生存率が得られたことをすでに報告している。今回,凝固トラブル発生時に膜素材の変更を可能とした場合,生存率にどのような変化があるか後ろ向きに検討を行った。AN69STを導入膜に使用すると,PMMAに比べて敗血症の有無にかかわらず高い生存率を示した。また,多変量解析ではAN69STを使用すると死亡リスクが0.682倍,敗血症があると死亡リスクが1.641倍だった。これらの結果から,死亡率の高いCRRT導入後の数日間にAN69STを使用することができれば,最終的に非吸着膜に変更したとしても変わらず高い生存率が得られることが分かった。

症例報告
  • 中島 靖浩, 永樂 学, 榊原 真子, 山荷 大貴, 香月 姿乃, 前田 敦雄, 大宮 信哉, 佐々木 純, 林 宗貴, 土肥 謙二
    2024 年14 巻2 号 p. 93-96
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    カルバマゼピン(CBZ)の誤薬によると考えられる中毒に対し血液濾過透析(hemodiafiltration:HDF)が有効であった症例を経験したので報告する。症例は70歳女性。意識障害で救急搬送され,痙攣と徐脈,ショックを呈し人工呼吸管理となった。入院翌日にCBZ中毒と診断され持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)を3日間行いその後HDFを実施した。HDF開始に伴いCBZの血中濃度は中毒域より低下,意識障害の改善も認めた。Day 14に抜管,day 25に退院となった。CBZ中毒に対してDHPが有効であるとされてきた。しかし,近年では血液透析(hemodialysis:HD)も同様に有効であると報告され本症例においても有効であった。CHDFはHDFと比較して透析効率が劣るため,原則はHDFを選択すべきと考える。ただし,本症例のような循環不安定例では,HDFを行うことは困難である。CHDFを導入し循環動態の安定後にHDFへ切り替えていくことも一つの手段と考えられる。

  • 大岩 雅彦, 西村 健吾
    2024 年14 巻2 号 p. 97-100
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    腎機能低下時の腎排泄性薬剤であるミルリノンの使用は,代謝・排泄遅延による半減期の延長・血中濃度の上昇から副作用の危険性があり注意が必要である。また,ミルリノンは血漿蛋白結合率が高く血液浄化療法でも除去されにくく,血液浄化療法中のミルリノンの適切な投与方法はわかっていない。今回,腹膜炎による敗血症誘発性心筋症症例に対し血液浄化療法中に慎重にミルリノンを少量持続投与し,循環動態改善後早期に終了したことで副作用なく救命できた一例を経験した。血液浄化療法中にミルリノンを使用する場合は,致死的不整脈や低血圧などの副作用の危険性を念頭に置き,モニタリング下で慎重に少量持続投与し,短時間の使用に留める必要がある。

  • 金村 剛宗, 守屋 まりこ, 庄子 諒一, 松永 恭輔, 大竹 成明, 沼田 儒志, 佐野 秀史, 弦切 純也
    2024 年14 巻2 号 p. 101-105
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    70歳,女性。間質性肺炎を指摘されるも,呼吸器症状に乏しく,経過観察とされていた。入院5日前より,呼吸苦が出現,増悪してきたため,前医受診し,間質性肺炎急性増悪と診断され,当院搬送となる。Ⅱ型呼吸不全を呈しており,びまん性肺胞障害が考えられ,人工呼吸器管理のもと,ステロイドパルス療法とPMX-DHPの併用を行った。PMX-DHPは8時間施行した。PMX-DHP施行前のP/F ratio 142であったが,PMX-DHP施行後のP/F ratio 199と酸素化改善がみられた。その後も酸素化は改善し,第6病日には高流量経鼻酸素療法となり,第8病日に呼吸器内科転科となった。

第33回日本急性血液浄化学会学術集会 Best Presentation Award(BPA)受賞論文
技術・工夫
  • 坂井 薫, 秦浩 一郎, 塚本 達雄, 山田 博之, 松原 雄, 岡島 英明, 波多野 悦朗, 柳田 素子
    2024 年14 巻2 号 p. 106-111
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    肝性脳症を伴う急性肝不全において,唯一エビデンスが確立した治療法は肝移植のみであり,欧米における治療の第一選択は肝移植である。日本では慢性的な脳死ドナー不足のため,生体肝移植を念頭に,まずは内科的治療を行うことがほとんどである。この内科的治療の中心となるのが人工肝補助療法(artificial liver support:ALS)と呼ばれ,肝性脳症からの覚醒を効率的に行い,肝機能維持目的に血液浄化療法が施行される。ALSとして従来より血漿交換療法(plasma exchange:PE)や持続的血液透析濾過(continuous hemodiafiltration:CHDF)が施行されて来た。近年,透過性の高いヘモフィルターを用いて血液濾過量増加を目的とした血液浄化法により,より高い脳症覚醒率が得られる可能性も報告されている。当院では脳死および生体肝移植への橋渡し療法として種々のALSを施行してきており,本稿では大量濾過を含む血液浄化法の施行条件,効果および有害事象について概説する。

技術・工夫
  • 山中 光昭, 國吉 麗那, 辻 一宗, 三木 隆弘
    2024 年14 巻2 号 p. 112-116
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    急性血液浄化療法は重症患者管理の一環として不可欠な治療であるが,施行中のエラーは重大な医療事故を招く可能性がある。とくにICUという高度かつ複雑な診療が行われる環境下では,血液浄化療法を正確に実践するための取組みと,多職種で連携・補完する安全管理が必要となる。当院は血液浄化療法を施行する際に「急性血液浄化療法の7R」の確認を原則に,手順書やチェックリストを用いた準備・操作を行っている。そしてこれらをマニュアル化することで,個々の習熟度に依存しない安全で正確な業務を遂行できる。当院はICUに臨床工学技士(clinical engineer:CE)が専従し,集中治療における知識・技術(テクニカルスキル)の研鑽と円滑なコミュニケーション(ノンテクニカルスキル)を図ることで多職種による効果的なチーム医療を形成している。さらに他職種への教育を継続的に行いチームで向上することで,より質の高い安全な血液浄化療法を提供できると考える。

  • 呉 勇, ソ エン, 宮坂 武寛
    2024 年14 巻2 号 p. 117-120
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    持続的腎機能代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)を行う際には送脱血の状況や血液凝固の状況,回路の状況をモニタリングする必要があるが,現在は回路内圧の測定だけである。われわれはこれらの状況の変化を,新たにジャイロセンサを用いることで計測できないかと考えた。ダブルチェックとなればより安全に治療を行えるようになると考えられる。水系濾過実験において,ジャイロセンサでピローの振動を角速度として捉えるとその変化が血液ポンプの回転と一致することがわかった。さらに,返血側にローラクランプを装着し回路内圧を上昇させたところ,角速度のピーク面積が低下した。これはローラクランプにより回路抵抗が増加したため実流量が低下し,角速度のピーク面積が低下したと考えられる。以上のことから,ジャイロセンサを使用することで回路内圧の変化を計測できる可能性がある。

  • 清水 弘太, 栗山 直英, 森山 和広, 川合 確, 竹内 大智, 中村 智之, 原 嘉孝, 幸村 英文, 西田 修
    2024 年14 巻2 号 p. 121-125
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    【はじめに】Vチャンバーの流入方式の違いやメッシュの有無などの構造の違いは,滞留発生に影響を与える可能性がある。今回,流入方式の違いやメッシュの有無が滞留発生に影響するか評価した。【方法】滞留評価を目的に4種類のVチャンバー(水平流入と垂直流入,メッシュありとなし)を作成し実験を行った。模擬血液用原液1mLをVチャンバーに注入し,色素消失時間を10回ずつ測定(平均値±SDを比較)し,色素の動きを目視評価した。【結果】色素消失時間は水平流入・メッシュあり群:33秒,水平流入・メッシュなし群:27秒,垂直流入・メッシュあり群:120秒,垂直流入・メッシュなし群:120秒であった。水平流入では流体の目視評価において,流体は旋回流として均一に流れているのに対し,垂直流入では,流体は底部のみで拍動性に不均一に流れ,液面上層部において滞留発生を認めた。【まとめ】Vチャンバーへの流入方式の違いが滞留発生に影響していた。

  • 西村 優一, 本田 陽平, 宇田川 彩花, 田代 嗣晴, 金子 尚樹, 大和田 玄, 木村 康宏, 七尾 大観, 藤本 潤一, 西澤 英雄
    2024 年14 巻2 号 p. 126-130
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    CRRTにおいて返血側エアートラップチャンバ(venous chamber:VC)は,血液滞留時間が長く,かつ空気接触があり凝固が多い部位である。当院ではその対策としてVC液面を高く管理し血液と補充液間での液層分離を行っているが,数時間に一度のVC液面調整を必要とし安定性は低い。今回,6種類のVCを用いて液層分離条件をin vitroで評価し,安定した液層分離が可能なVC構造を検討した。また,VC構造の違いによる滞留評価を行った。その結果,液層分離の形成条件は血液流入口が補充液流入口より下部に留置,かつ液面を補充液流入口より上部で管理することであった。両条件を満たしたVCのなかで,補充液流入口が最もVC下部に留置されているプリズマフレックス セプザイリスセットは,フィルター濡れの可能性が低く,気泡流入による液層分離解消までの容積が大きいため,現行VCのなかで最も安全性と安定性に優れたVCであると考える。

  • 窪田 彬, 花澤 勇一朗, 風呂 正輝, 渋谷 陽平, 鈴木 俊郎, 柴原 宏
    2024 年14 巻2 号 p. 131-135
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/06/01
    ジャーナル フリー

    集中治療室での急性血液浄化療法を必要とする症例は入院期間が長期化することが多い。今回,集中治療室で急性血液浄化療法を施行した症例のうち,死亡例を除き入院期間が28日以内であった38例について,背景や治療経過について検討した。平均年齢64.4±16.4歳,平均入院期間16.6±7.0日,集中治療室の平均在室期間8.3±5.4日だった。24症例が退院時に血液浄化療法を離脱していた。20症例は血液浄化センターでの治療に移行していた。当院は移動困難な状態を除き可及的早期に血液浄化センターでの血液浄化療法を施行しており,集中治療室での急性血液浄化療法が不要となり集中治療室退室を早めることが可能である。集中治療室から血液浄化センターへの早期移行がpost-intensive care syndrome(PICS)の予防やADL低下前の退院へ繋がる可能性がある。

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