従来わが国のトンネル工事においては, 支保工は外力を一時的にささえる仮設構造物とし, コンクリート覆工こそが主要な外力を永久的にささえる本構造物であるとし, 現在でも一般にはこのような考え方が通用している。ところが近年になって鋼支保工が普及発達しコンクリート覆工の中に埋め込まれるのがトンネル工事の常態となってきた。このようなトンネル工事の実態から見れば, 鋼支保工こそが, 主要な外力を一時的にも永久的にもささえていく重要な本構造物となっており, コンクリート覆工は, 大きい地山の外圧などを直接ささえるものではなく, 主として内張りや保護補強の役割りをうけもっ補助的な構造物に転化したと見るのが論旨である。この論文の前半では, 上述の趣旨を, トンネル工事の歴史的発展から導きだし, 現在のトンネル施工の実態を詳細に考察してこのように考えなければならないことを理論的に主張した。
つぎに論文の後半では, 鋼支保工とコンクリート覆工とが掘削と相互に関連してどのような働きをしているかを, 実際のトンネル施工現場 (栗子国道中野第1トンネル工事) において, 工事中はもちろんのこと完成後も長期にわたって, 総合的な観察と考察, 変位測量, ひずみ測定などの現場実験実測調査によっ追跡し解析して, このような新しい考え方が, この一つの実際例では基本的に正しいことを証明した。
最後に現在一般に行なわれているトンネルの設計施工の欠陥と不利を指摘し, 上述の新しい考え方に立っことが合理的であり災害事故も少なくし安全有利であることを証明した。ここに述べた実測はある一実例についてであるから, 今後いろいろな場合の実測調査を数多く集積して研究を深めていくならば, トンネル工事の実態と原則にますます正確に近づいていけるであろう。
抄録全体を表示