土木学会論文集B1(水工学)
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水工学論文集第67巻
  • 藤本 寛生, 吉見 和紘, 手計 太一
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_901-I_906
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     途上国を中心とした衛星プロダクトの活用は,水害への対策だけではなく公共の福利への重要な役割を果たすと期待されている.本研究では,衛星プロダクトから定量的な降水強度を推定することを最終的な目的とし,ひまわり標準データにおける複数の赤外バンドの輝度温度からX-band MPレーダ反射因子を推定する手法を新たに提案し,各バンド帯で比較した.提案する手法は次のとおりである.(1)大量の格子点データを用い,雲域判定 (2)確率的マッチング法による再分布 (3)最適化した数理モデルを用いてレーダ反射因子を推定,である.さらに推定したレーダ反射因子からZ-R関係式を用いて降水強度を算出した.その結果,赤外バンドの3.9μmの波長域を使用して推定したレーダ反射因子から算出した降水強度は,全国合成レーダーGPVの降水強度と比較して二乗平均平方根誤差(RMSE)は5.44mm/hであり,平均絶対誤差(MAE)は2.82mm/hであった.以上から,ひまわり標準データにおける3.9μmの波長域を利用した降水量の推定可能性が他の波長域から推定する場合と比べて相対的に高いことがわかった.

  • 平野 和希, 原田 守啓
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_907-I_912
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究は,流域内の各河川区間に作用する洪水攪乱を評価可能な手法の構築を目的とする.代表粒径に対する無次元掃流力を指標とした洪水攪乱の評価指標を提案し,これを流域スケールで運用するため,降雨-流出-氾濫モデル(RRIモデル)を拡張した.長良川流域における2020年出水期の洪水攪乱の評価に本手法を適用し,比流量を指標とした既往研究の評価手法との比較を行った.代表粒径に対する無次元掃流力の閾値を超過する時間の指標は,2020年出水期における2時期の洪水イベントにより各河川区間に作用した洪水攪乱の規模と継続時間の度合いを,流域内の分布として表現することが可能であることを示した.また,水系を構成する河道に与える川幅,河床材料代表粒径の設定方法や,手法の検証について今後検討すべき課題が抽出された.

  • 川越 清樹, 佐藤 綺香, 幡谷 有翼, 藪崎 志穂
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_913-I_918
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     花崗岩類地帯である阿武隈高地の令和元年東日本台風時におけるマスムーブメントの事例と誘発する環境条件を比較検証した.比較検証では,特に,状態不明となる地質風化度を誘導できる可能性を持つ化学組成に着目した.マスムーブメント事例は衛星画像(Sentinel-2B)判読よりデータ化された.誘発に寄与する環境条件のデータには数値地理情報に基づく空間情報と流出水の化学分析結果を用いた.結果として,累積降水量と斜面傾斜度の関係から崩壊率の大小を示すことができることを明らかにした.ただし,化学分析による元素流出量より,風化に伴い花崗岩から溶出される長石由来のCa,黒雲母由来のMgも関与する結果を得た.また,地質,地形位置の差異により元素流出量が異なる傾向を把握した.

  • Selline MUTISO, Tatsuya HIRAMI, Keisuke NAKAYAMA, Katsuaki KOMAI, Keni ...
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_919-I_924
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     Suspended Sediment (SS) in rivers negatively affects water quality, leading to increase in the costs of water treatment, loss of reservoir storage capacity and a decrease in fishery and crop productivity. In order to reduce the amount of SS in the river, it is essential to understand the mechanisms involved in sediment transport and the source of the SS in the river catchment area. Oromushi river basin in Hokkaido, which is predominantly characterized by high amounts of SS, was used as the case study. The basin was divided into 13 land groups with 18 sampling stations. The geochemical composition (Na2O, SiO2, Al2O3, CaO, Fe2O, MgO, P2O5, K2O and TiO2) of the soil samples collected from each land group and the deposited sediment at the downstream end was determined by XRF analysis. The detected geochemical components from each land group were analyzed using Structural Equation Modelling (SEM). The results suggested that most of the SS in the river originated from the agricultural field. It is mainly because the vegetation cover is cleared to create land for sowing crops, consequently exposing the soil surface to the effects of raindrop splash. Moreover, our data suggested that SEM analysis gives more reliable data than other methods.

  • 福丸 大智, 赤松 良久, 滝山 路人, 渡部 哲史, 宮平 秀明, 宮園 誠二
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_925-I_930
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     今日,気候変動に伴う河川水温の上昇が水質や河川生態系に影響を及ぼすことが懸念され,将来気候予測シミュレーションの将来気温から河川水温を流域スケールで評価する必要がある.本研究では,気温のみから流域スケールの水温予測が可能なモデルを開発し,d4PDFの4℃上昇実験の将来気温を用いて河川水温予測を実施した.現在気候下における精度検証の結果,構築した水温予測モデルは流域全域で高い再現性が示された.そして,河川水温の将来予測より,夏季における河川水温の将来変化量は他の季節と比較して小さかったが,流域全体として見ると最高で6.0℃の昇温が確認された.また,冬季と夏季の日平均水温の将来変化から魚類の生息環境の変化や外来沈水植物の異常繁茂をもたらす可能性が示唆された.

  • 宇佐美 将平, 白川 直樹, 溝口 裕太
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_931-I_936
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     河川水温の研究は日平均以上の時間スケールに着目されることが多く,日変化に関する知見は少ない.平面二次元河川水温計算モデルを構築し,夏季における水温日変化の流下に伴う発達メカニズムを検討した.上流端の水温がほぼ一定で,支川合流や湧水等による流量変化が5%未満にとどまる本検討の対象区間においては,水温は日射と移流に支配され,流下に伴い日射の影響が顕著になることで日変化が発達することが明らかになった.日最高水温は上流端から日射が卓越する時間(本研究では約11時間)流下する地点までは下流ほど高く,生起時刻は下流ほど遅れ,その流下に伴う遅れは流下時間の半分程度であることが示された.区間内に深い淵が存在する場合は,その淵より下流の水温は高くならないと考えられた.

  • 安達 智哉, 懸樋 洸大, 中谷 祐介
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_937-I_942
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     大阪府恩智川を対象に,既存の定点カメラで撮影した水面画像から河川浮遊ごみを連続検出する深層学習モデルを構築したところ,検出個数に対するF値は0.79と比較的高い検出精度が得られ,その有用性が確認された.構築モデルを用いて浮遊ごみの流出特性を解析した結果,増水初期にはファーストフラッシュ現象が確認され,一つの出水イベントにおける総個数のうち約90%が増水期に流出していた.降水量と先行晴天日数を考慮した浮遊ごみ個数の推定式を構築し,年間輸送量を算出した結果,恩智川では年間輸送量に対する出水日と平水日の寄与は同オーダーであった.平水時にオイルフェンスを設置するとともに,河川敷の清掃活動を出水前に実施することや,出水時の浮遊ごみ回収技術を開発することが,浮遊ごみの流出削減対策として有効であると考えられた.

  • 入江 政安, 岩出 大輔, 吉野 泰司, 中路 貴夫, 橋本 将明, 中道 誠, 松本 知晃
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_943-I_948
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     河川内のゴミの挙動を理解するためには,ゴミの生産-流出-漂着-再流出の輸送過程を把握することが重要であるが,これまでは流出量あるいは漂流量,回収量の観点での調査解析が多い.本研究では,近年水質の改善は進むものの,ゴミの堆積・散乱が課題として残る大和川において,河川敷におけるゴミの漂着実態を把握するため,既存河川巡視データを整理するともに,高水敷ゴミの現地調査を実施した.巡視データは河口から5.0kより下流に漂着ゴミが多く,土砂の堆積特性と似ていることを示している.現地調査では1m四方,7地点,計31サンプルの人工系ゴミを回収し,重量・個数,被覆率を計測し,それらの関係を整理した.大和川河川敷に漂着しているゴミの被覆率1%あたりの重量は約30g/m²,短辺5cm以上のゴミ1個あたりの重量は約12gと推定された.

  • 泉 典洋, 川村 里実
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_949-I_954
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     洪水時,流量が最大となる時ではなく流量が減少する過程で側岸侵食が発生する現象が観察されている.本研究では,側岸侵食の原因が砂州の発達によるものと考え,流量がゆっくりと変化する状況下における砂州の弱非定常安定解析を行った.流量の変化する速度が河床変動の生じる速度に比べて十分に小さいと仮定し,河床変化を表す𝑡と流量変化を表す𝑇の二つの時間を導入する.それら二つの時間スケールの比を微小パラメータとする多重尺度展開を用いた弱非定常安定解析を行い,流量が増加する場合と減少する場合の擾乱の発達速度を求めた.解析の結果,擾乱に対する河床の不安定性が最大になるのは流量がピークよりも小さい時であり,しかも流量が増加する場合よりも減少する場合の方が河床の不安定性は増大することが明らかとなった.

  • 石原 道秀, 安田 浩保
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_955-I_960
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     交互砂州の発生条件や平衡波高および平衡波長の推定に対して安定性解析は大きく貢献してきている.安定性解析の妥当性は多くの先行研究において議論されてきたが,解析の根本的な要素の一つである砂州の移動速度に基づいた議論は十分になされていない.その理由の一つとして,交互砂州の発生・発達過程における砂州の移動速度の定量化の手法の未確立が続いてきたことが挙げられる.著者らは先行研究において,交互砂州の発生・発達過程における砂州の移動速度の定量化を試みており,その妥当性を模型実験から確認している.本研究では,上記の砂州の移動速度と安定性解析から推定した移動速度を比較することで,安定性解析の妥当性について検討した.その結果,安定性解析から推定される波数ごとの移動速度は,砂州の移動速度の空間分布と良好に対応し,砂州の移動速度の観点からも安定性解析が妥当であることが示唆された.

  • 関 翔平, 安田 浩保
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_961-I_966
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     これまで多くの砂州に関する研究が行われてきたが,砂州の発生の起源が何であるか,また,それがどのような機構のもと発達していくかは未解明である.本研究では,まず,ごく初期に平坦床から発生する斜め交錯模様を含む砂州の形成過程を高い空間分解能で高頻度に計測した.次に,これに基づき一連の過程における河床波の移動速度を定量化した.その結果,初期に発生した高波数の河床波は空間分布を有し,しかもその横断方向成分は徐々に河床波の変形に対して無視できない規模となることが分かった.このような移動速度の特性により,高波数の河床波は,徐々に低波数の河床波へ統合され,一般に砂州と認識されている河床波を形成することが分かった.以上の結果は,本研究で実施した実験条件において,斜め交錯模様が砂州の起源であることを示唆する.

  • 長谷部 夏希, 後藤 岳久, 福岡 捷二, 桝井 正将
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_967-I_972
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,浮遊砂を伴う洪水時の流砂現象を出来るだけ忠実に表現するため,掃流砂と浮遊砂それぞれの連続式と運動方程式を計算することで非平衡流砂運動を考慮し,掃流砂と浮遊砂を一体的に扱う準三次元洪水流・河床変動解析法を開発し,昭和56年8月石狩川洪水に適用して既往の平衡流砂モデルと比較検討した.その結果,蛇行部では洪水ピーク水位をはさむ多くの時間帯で,洪水流が内岸側を走る複断面的蛇行流れとなり,それに伴い単断面の湾曲二次流とは逆回りの発達した二次流と流砂運動の非平衡輸送現象が生じ,水面付近の浮遊砂濃度が大きくなることを示した.しかし,大河川においては洪水減水期に単断面的蛇行流れが長時間継続するため外岸側で河床の洗掘が生じ,最終河床形状は既往の平衡流砂モデルでも工学的に十分説明できることを示した.

  • 鷲津 明季, 帆足 拓海, 関根 正人
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_973-I_978
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     流砂は河床を起源とする土砂の移動であり,移動現象については従来よりさまざまな研究が行われてきた.本論文では,ハイスピードカメラによる粒子追跡と,PIVによる流速計測の技術を駆使して,粒子の水平・鉛直方向の移動速度と濃度の水深方向分布について検討を行った.その結果,水平移動速度は従来理論と同様の速度分布が得られた一方で,鉛直移動速度は粒子の沈降速度とは一致せず,沈降と浮上が同程度となることがわかった.また,掃流砂・浮遊砂とその中間的な移動形態まで現れる条件下で,移動粒子の濃度が河床濃度とスムーズに連続した分布となることが明らかになった.さらに,砂漣上の流砂現象にも注目し,水流の組織的な渦構造の影響が粒子の軌跡にどのように現れるのかを明らかにすることができた.

  • 井上 隆, 柏田 仁, 二瓶 泰雄
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_979-I_984
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     近年の甚大化する大規模洪水氾濫から河川インフラ施設,特に河川橋梁・橋脚の被害を未然に防ぐために,流砂過程を正確に把握し,予測することが重要である.橋脚周辺は非定常性・非平衡性が顕著な流れ場であり,その影響が直接的に局所洗掘の流砂過程にもたらすため,平衡流砂量式の適用に限界があると考えられる.そこで本研究では,高濃度場対応型固液混相乱流モデル(GAL-LES)を河床付近の流砂過程に適用し,本モデルの有効性・妥当性を検証することを目的として,One-way解析を行った.その結果をDEMと比較したところ,GALモデルは低計算負荷でありつつ,高濃度流動層の流砂過程を説明可能な分散相粒子モデルであることが示唆された.

  • 会田 健太郎, 大原 美保, 南雲 直子, Patricia Ann JARANILLA-SANCHEZ , 久保田 啓二朗, 新屋 孝文
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_985-I_990
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究は2020年11月にフィリピン共和国ルソン島を通過した台風Ulyssesによる洪水災害を事例にし,衛星画像で把握できた浸水域に基づいて推定した潜在被災者数が,どの程度実際の避難者数と整合するかを分析することで衛星データ活用のメリットと課題について検討した.この事例では,台風通過翌日の午前中にはSentinel-2によって対象流域の大部分をカバーする光学衛星画像が取得され,対象流域の8割以上の自治体で浸水状況を把握できた.そして,その浸水域に人口分布データを重ねることで求めた潜在被災者数と実際の避難者数との比較では,大きな乖離があることが示されたものの,自治体ベースでの実際の避難者発生有無とは非常に良く整合しており,避難者発生を判断する目安として活用できる可能性が示唆された.

  • 田中 安理沙, 五十嵐 孝浩, 竹林 洋史, 浜田 裕貴
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_991-I_996
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨で発生した土砂災害を対象に土砂災害雨量指数を算定,土砂災害発生地点の発生時刻前の土砂災害雨量指数が基準値(閾値)未満であることを確認した.これは閾値を超過しない程度の降雨が長期にわたり続いた影響であると想定し,土壌雨量指数第2タンクまでを含めた第2土砂災害雨量指数による危険度判定について検証した.閾値を変化させて,閾値超過のタイミングやそれぞれの判定範囲内に含まれる発生箇所数の変化や空振り範囲から,土砂災害発生前に土砂災害危険度判定による通知が可能で,空振りの増大を抑制できる最適な第2土砂災害雨量指数閾値を検討した.

  • 中本 英利, 竹林 洋史, 藤田 正治
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_997-I_1002
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     2018年7月に広島市安芸区矢野東の梅河団地で発生した複数の土石流を対象に,土石流の数値シミュレーションを実施し,土石流の流動特性を検討するとともに,設定されている土砂災害警戒区域(イエローゾーン)や土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の評価を行った.宅地域における家屋に作用する最大応力の大きい領域は,破壊した家屋の分布と良く一致していた.土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)以外でも,家屋が破壊するおそれのある箇所が存在すること示した.また,複数の斜面崩壊の発生タイミングや斜面崩壊数の違いにより,宅地域に流入した土石流の氾濫域や流動深の空間分布を検討した.避難計画等を検討する上では,宅地に流入する土石流の規模やタイミングを考慮すること,複数の渓流からの土砂流出量を考慮することの重要性を示した.

  • 平川 隆一, 仲本 小次郎, 根岸 智和, 星野 裕也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1003-I_1008
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     近年,短時間豪雨の増加により各地で内水氾濫が発生している.内水氾濫時に,水中歩行を伴う避難が行われることがある.水中歩行を伴う避難の危険度は,現在多くの自治体で使用されている外力指標が浸水深のみのハザードマップでは,十分に表現できない.本研究は新たな避難困難度の指標化を行い,避難困難度マップとして表現することを目的とした.実験では,対象年代を20代と70代とし,実河川や室内水路での歩行実験を行った.さらに対象地区に対し,降水シミュレーションを行った.得られた結果に基づき,避難場所までの歩行速度の減少率を含めた避難困難度の指標化および可視化を行った.その結果,本研究で作成した避難困難度マップは,避難場所までのルートの選択や複数ある避難場所の中から最適な避難場所の選択などに利用できることがわかった.

  • 小川 康平, 井上 卓也, 平松 裕基
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1009-I_1014
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,避難時間や浸水域の広がる方向と道路の標高を考慮に入れ,浸水域を回避するような関数形を用いることで,浸水域に巻き込まれることのない新たなリアルタイムの避難経路検索システムの構築を目的とする.重み関数を考慮した本研究の提案モデルと重み関数を考慮していない従来モデルの比較を行い,避難者数の分析を行った.その結果,浸水域の広がる速度と距離に応じた重み関数fdを用いた場合,提案モデルは従来モデルと比べて約16.5(%)の改善率が得られた.一方,避難所の標高と道路の標高に応じた重み関数fhについては,関数fhのみを用いた場合には効果は見られなかったものの,関数fdとの組み合わせにより大きな効果が得られることが明らかとなった.

  • 花本 悠輔, 木原 拓海, 丸井 健, 藤森 祥文, 三谷 卓摩, 森脇 亮
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1015-I_1020
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     日本各地で集中豪雨や台風による被害が増加する中,自主的な避難行動を促すために住民が災害のリスクを適切に認識することが必要である.本研究では,VRを用いて水害の疑似体験が可能なコンテンツを作成するとともに,住民参加のワークショップを通して住民の災害リスク認識,防災意識の変容を検討した.その結果,住民は高潮の浸水認識についてハザードマップの想定と合致する方向に認識するようになった.さらに,避難に関する物や情報の準備,家財を守るといった行動をするタイミングが早くなったり,浸水被害を避けるように避難経路・場所を変更したりするなど防災意識が向上する可能性も示唆された.

  • 佐藤 翔輔, 田畑 佳祐, 今村 文彦, 向井 正大, 鮎川 一史, 有友 春樹
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1021-I_1026
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究は,地域防災リーダーを対象に,マイ・タイムライン講習会の受講後に質問紙調査を実施し,マイ・タイムライン講習会がマイ・タイムラインリーダーの育成へとどれだけ貢献できているのか,その効果を分析した.その結果,以下のことが明らかになった.1)行動意図である「私は地域住民の中に,マイ・タイムラインの検討をサポートする人材(マイ・タイムラインリーダー)になりたい」において,肯定的な回答をした人は50%(56人)であった.2)本研究のモデルでは,行動意図に対して,行動に対する態度のパス係数は0.46で有意であった.一方,主観的規範のパス係数は0.50で正の影響を与えており,行動のコントロール感のパス係数は‐0.02で負の影響を与えていたが,有意ではなかった.つまり本研究のモデルは仮説通りではなく,行動に対する態度のみが行動意図に影響することが明らかになった.

  • 田畑 佳祐, 佐藤 翔輔, 今村 文彦, 向井 正大, 鮎川 一史, 有友 春樹
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1027-I_1032
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究は,非専門家講師によるマイ・タイムライン講習会の受講後に質問紙調査を実施し,大雨・洪水災害に関する知識・認識,避難行動意図の変化を専門家講師ものと比較し,評価した.その結果,以下のことが明らかになった 1)参考資料を順守して,マイ・タイムライン講習会を実施することで,専門家でなくとも,行動のタイミングの理解,避難行動意図の面で,概ね同等の効果が期待できる.2)一方で,非専門家による講習会では,洪水リスクの理解,洪水時に得られる情報の理解,リスク認知が専門家による講習会よりも効果量が小さかった.

  • 古里 栄一, 鮎川 和泰, 渋谷 翔平, 清家 泰
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1033-I_1038
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     気泡噴流を活用した気泡循環対策は多くの貯水池で水質保全のために導入されている.水温成層条件で気泡噴流によって水面で生じる高密度水の軸対称水平噴流の拡がり半径は本対策の設計において重要な諸元となる.本研究では小規模貯水池において気泡循環の現地実験を行い多くの拡がり半径データを得た上で様々な先行研究データと合わせた解析を行い,気泡噴流の長さスケール(lBP)の約4倍が気泡吐出水深(H)と拡がり半径長さ(R)の和と一致することを明らかにした.この結果を用いると,先行研究では個別に扱われていた周囲水の成層強度が気泡浮力に対して一定以上大きい場合に生じる最大噴流高さ(hP)も推測できる汎用性がある.得られた知見の貯水池水質保全における工学的適用を検討した.

  • Reden Armand MALLARE, Tetsuya SHINTANI, Katsuhide YOKOYAMA
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1039-I_1044
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     This study evaluated a mass-conserving model (WindNinja) and deep learning model to produce a non-uniform wind field over a meandering reservoir using wind data from AMeDAS and the in-situ wind data at certain locations over the surface. Results showed that WindNinja can estimate wind magnitude and direction for the stations near the input AMeDAS station. On the other hand, stations that are far from the input data location yielded less accurate results. Moreover, the wind estimate using various cases of deep learning models showed better results than the WindNinja simulation. The prediction of wind magnitude using deep learning model is less affected by the type of input and output parameters. On the contrary, the prediction accuracy for wind direction significantly changes for each case. Finally, deep learning models that utilize the results from the WindNinja simulation were also considered and yielded the most accurate wind prediction. The overall results of this study proved that an acceptably accurate non-uniform wind field can be generated using a mass-conserving wind model and deep learning model despite the limitation in the amount of available data.

  • Hieu Ngoc LE, Tetsuya SHINTANI
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1045-I_1050
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     Surface wind is generally considered one of the major forces in shallow lakes as well as large water bodies, as it induces energy that forms horizontal currents over the water surface. Wind is typically inhomogeneous in space, which instantaneously induces distinctive surface movements compared to that of homogeneous wind. In this study, the Weather Research and Forecasting coupled with the Large Eddy Simulation (WRF-LES) model was employed in an attempt to simulate realistic wind over the shallow Lake Kasumigaura of Japan. Based on the modeled data, an integrated wind non-uniformity analysis, which directly derives the coefficient of variance (Cv) for wind speed and direction in various spatial scales using 2D mean filter technique, was developed. With this analysis, the time variation of the mean Cv_spd and Cv_dir were obtained to classify wind speed and wind direction non-uniformity levels. Finally, each representative snapshot of wind cases (spatially homogeneous and spatially inhomogeneous) was chosen based on the corresponding value of wind speed to simulate and develop an understanding of the effects of non-uniformity on mass transport in the lake using a numerical tracking analysis of floating particle. Although different levels of inhomogeneous wind field illustrated their effects on surface particle transport, the effects on this lake environment were relatively minor.

  • 矢島 啓, 吉岡 有美
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1051-I_1056
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     風況が湖沼の塩分環境に与える影響を評価するため,連結系汽水湖である宍道湖・中海の近年10年間を対象に,現況再現と風速を50%に減じた時の水質予測計算を行った.その結果,風速の減少は表層の混合層厚の減少につながり,両湖沼の下層の塩分に大きな上昇が生じた.宍道湖の下層で約1.8psuの上昇,中海の下層で30psu以上の高塩分の継続がみられた.さらに,各湖沼間あるいは外海との水交換量に関する重回帰分析を行った結果,水交換量に関して,強風に伴う吹送流の影響は時間的に限定的であり,吹寄せ効果による水位変化に起因する重力流が重要であることが示唆された.また,風速の変化による各湖沼の塩分収支への影響は小さく,風速の低下による鉛直混合の抑制が両湖沼の水質の悪化をもたらす可能性が高いことが明らとなった.

  • 小林 明大, 梅田 信
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1057-I_1062
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     十三湖は青森県北西部に位置する汽水湖で,主要な水産資源であるヤマトシジミ(Corbicula japonica)の一大産地である.ヤマトシジミは発生初期にプランクトン幼生として水中を漂い,その後着底する.従って,浮遊幼生の分散過程により稚貝の発生量が時空間的に変化すると考えられる.また浮遊幼生は塩分選択性を伴う鉛直移動を行うことで,水平分散距離を変化させることが知られている.そこで本研究では,塩分選択行動を考慮したヤマトシジミ浮遊幼生の分散計算モデルを開発した.また作成したモデルを十三湖に適用し,湖内における個体群間の接続性を分析した.その結果,塩分選択行動によって浮遊幼生の着底率が上昇すること,十三湖においては湖東部が着底幼生の供給源であり,湖内全域に幼生を供給していることが判明した.

  • 岸本 真志, 吉川 泰弘, 芳賀 聖一, 甲斐 達也
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1063-I_1068
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     冬期に北海道十勝川河口の大津海岸に打ち上げられる「ジュエリーアイス」が新しい観光資源として注目されている.一方で,ジュエリーアイスが見られる時期は,十分には解明されていない.本研究の目的は,ジュエリーアイス出現時期推定手法の開発である.定点カメラで撮影された画像を用いて画像解析を行い,ジュエリーアイスの堆積面積を算出した.出現現象を形成・破壊・輸送・堆積・融解の5つに区分して検討を行った.画像解析によるジュエリーアイスの堆積面積と計算値による堆積量の比較を行い,計算結果の妥当性を確認した.

  • Lett Wai NWE, Gubash AZHIKODAN, Katsuhide YOKOYAMA
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1069-I_1074
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     The effect of tidal variability on the changes in phytoplankton abundance and their size distribution in the tide-dominated Chikugo River estuary was investigated in 2021. The estuary changed from a stratified condition during neap tide to well-mixed during spring tide and salinity intruded until upstream. The estuarine water was clear in the neap tide, which changed to turbid water gradually, and the estuarine turbidity maximum (ETM) zone was developed at 8-14 km in the spring tide with a maximum turbidity of ⁓900 FTU and salinity of 0.2-17. There are 159 phytoplankton species divided into 39 groups belonging to seven categories. Among them, diatoms were found as a major category and their abundance showed a similar trend to total phytoplankton abundance with 79-86% (high tide) and 76-98% (low tide). The abundance of diatoms were found the highest at the intermediate tide in both low and high tide periods. From a spatial perspective, diatoms densities decreased in the middle estuary because of the effect of ETM development. The colonial groups with branching and straight forms were dominated. The cell size of Skeletonema costatum and Nitzschia acicularis increased from neap to intermediate tides and maximum sizes were observed at the spring tide. This study concludes that intermediate tide between neap and spring tides plays an important role in diatom growth. The changes in cell size and shape are essential to retaining the phytoplankton diversity and abundance besides water mixing and ETM formation in the Chikugo River estuary.

  • 戸崎 大介, 原田 守啓
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1075-I_1080
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究は,河川毎に異なる土砂濃度と流況を考慮可能なウォッシュロード堆積予測モデルの検証を主目的とし,木曽川水系揖斐川・長良川の掘削地を対象に,地表面の状態がウォッシュロードの堆積に与える影響を現地実験及び現地調査により把握し,ウォッシュロード堆積モデルによる再現計算を行った.揖斐川における4出水期に亘る定点調査,地被状態が異なる4種のパネルを設置した現地実験,揖斐川・長良川の3工区に設定した計67地点における現地調査を行い,各調査期間中の土砂堆積量とウォッシュロードが占める割合を把握した.これら全ての調査結果に対し,モデルによる再現計算と検証を行った結果,樹林化が進んだ条件において本モデルは良好な再現計算結果を示した.一方,草本のみが地表を覆う条件における検証には課題が残った.

  • 永谷 直昌, 泉山 寛明, 山越 隆雄, 竹林 洋史
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1081-I_1086
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     土砂・洪水氾濫による被害を防止・軽減するために効果的・効率的にハード対策を講ずることは重要である.平成30年7月西日本豪雨における大屋大川など,近年では粒径2mm以下の細粒土砂が保全対象地に大量に流出・堆積する事例が多くみられる.このような細粒土砂が土砂・洪水氾濫の被害をどの程度助長しているか検討の余地がある一方で,砂防施設による被害防止・軽減の効果は明らかでない.砂防堰堤による細粒土砂の捕捉効果を定量的に整理しておくことは,総合土砂管理の観点からも重要である.本研究では,平成28年8月洪水で大量の細粒土砂を捕捉したペケレベツ川2号砂防堰堤下流側における一次元河床変動計算を実施し,砂防堰堤の捕捉効果を検証した.その結果,砂防堰堤により被害軽減効果が一定程度みられることが明らかとなった.

  • 前田 滋哉, 黒田 久雄
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1087-I_1092
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     環境配慮工が設計時に意図した生物保全機能を発揮し続けるには,施工後の状況に応じた維持管理が不可欠である.本研究では,農業用排水路に存在する魚巣での過剰な堆積土砂を浚渫する「泥上げ」に注目し,泥上げ効率の評価手法を開発した.平面2次元流れ・路床変動モデルを実在の魚巣と魚溜のある農業用排水路区間に適用し,対象区間で堆砂傾向が再現されることを示した.次に,左岸の特定魚巣の泥上げパターンを複数仮定し,泥上げ効果減少率を算出することで,浚渫土量に対する泥上げ効果の持続性を評価した.本手法により効果が持続しやすい泥上げ箇所の選択や浚渫土量の決定など,魚巣の適応型管理に有用な情報を提供することができる.

  • 原田 大輔, 江頭 進治
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1093-I_1098
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     豪雨時に上流域で多量の土砂が生産されれば,これが下流に流出し,洪水氾濫被害を助長することがある.本研究では,阿蘇カルデラを上流域にもつ熊本県の白川において,流域土砂流出モデルと平面二次元洪水流解析を用いて,想定最大規模降雨が発生した際の多量の浮遊砂を含む洪水の計算を行い,多量の浮遊砂の河道への堆積が洪水氾濫に及ぼす影響について検討している.土砂流出計算の結果,白川上流域と黒川の勾配の違いによって,白川下流域では流量ピークを迎える前に多量の浮遊砂が流入する.平面二次元解析の結果によれば,これらの土砂が河道の摩擦速度が比較的小さい場所に堆積することで,氾濫を助長する.堤内地でも流下方向に摩擦速度が急減する場所で土砂の堆積が生じ,それに支配されるような氾濫流が形成される.

  • Md. Majadur RAHMAN, Daisuke HARADA, Shinji EGASHIRA
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1099-I_1104
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     This study investigates the basin scale sediment transport processes in the Sangu river in Bangladesh by using a rainfall-sediment runoff (RSR) model. One year numerical simulations are conducted with two different sediment transport formulas and the results were compared with observed sediment size distribution and suspended sediment discharge. As a result of computation, a clear longitudinal sediment sorting is shown in one case, while that is not shown in the other case, and the difference between two cases is explained by the difference in the erosion rate of suspended sediment formula. The sediment sorting significantly affects the results of the basin scale sediment transport analysis. Thus, we conclude that in a river dominated by suspended sediment such as the Sangu River, it is very important whether the erosion rate of suspended sediment and associated transport processes can evaluate the sorting process.

  • 重枝 未玲, 伊藤 翔吾, 濱田 信吾, 戸田 祐嗣, 椿 涼太, 内田 龍彦
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1105-I_1110
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究は,「安定河道の条件」から,現況から安定河道へと至る将来的な河道の応答把握が可能か実験的に検討したものである.本研究から,(1)河道が動的平衡状態へ向かう場合,時間の経過とともに安定河道形状に漸近すること,(2)自然河道に近い状態では平均的なK値の横断面形状となること,(3)護岸等による川幅,堰や床止めや護床による河床高の拘束がある場合には安定河道範囲の境界付近のK値に対応する横断面形状となること,(4)拡幅する傾向にある横断面形状は,K値が安定河道の範囲より大きい場合,河床が低下する傾向にある横断面形状は,安定河道範囲よりも小さい場合であること,(5)河道の横断面形状は,流量の履歴の影響を受け,河道形成流量を適切に設定すればその形状を予測できること,などが確詑された.

  • 吉田 圭介, 足立 真綾, 矢島 啓, 山下 泰司, 安達 森, 藤井 陽
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1111-I_1116
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     旭川感潮域の兵団地区においてアユの産卵場面積の拡大を目的に,自然産卵場周辺の砂州の一部を掘削し,平常の流量条件で新たに人工産卵場を造成した.本研究はこれに関連して現地観測と数値計算を行い,造成の成否に関わる水理環境の適性を検討した.また,造成に伴う既存の自然産卵場環境への影響の有無を調べた.その結果,産卵適地は常時,塩分上昇のない区域であり,河床粒度と産卵時間帯の水深,流速が既往研究での適性値内であるとの既往研究の知見が再検証された.また,造成箇所の産卵数密度は流況よりも粒径の適性に依存する可能性が示唆された.さらに,高解像度の平面2次元計算の結果から,本造成は既存の自然産卵場の水理環境をあまり変化させておらず,造成当初の目的である産卵場面積の増大に寄与したことが明らかになった.

  • 大中 臨, 赤松 良久, 小山 彰彦, 乾 隆帝, 齋藤 稔, 間普 真吾
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1117-I_1122
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究では,簡便な干潟の粒度推定手法の開発とその有用性の検証を目的に,山口県の佐波川河口に設置した51地点で干潟の粒度分布調査および表層の撮影を行い,表層写真から,機械学習による画像解析によって粒度の推定を行った.その結果,含泥率20%未満と20%以上の干潟表層を画像から約73%の精度で識別できた.また,含泥率が15%未満,15%以上25%未満,25%以上35%未満,35%以上の4つの区分で機械学習による識別を行った結果,各区分における正解画像の割合はそれぞれ72%,48%,45%,75%であった.これらの結果より,本研究で用いた機械学習による画像解析では,設定する含泥率の区分の範囲を大きく設定すれば精度を改善できることが示唆された.

  • Nay Oo HLAING, Gubash AZHIKODAN, Katsuhide YOKOYAMA
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1123-I_1128
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     The effects of tidal and river forcing on the estuarine turbidity maximum (ETM) in monsoon-affected Asian estuaries are rarely reported. Hence, the present study aims to investigate the seasonal and tidal variations in ETM in the monsoon-affected macrotidal Tanintharyi River estuary (TRE), Myanmar. The vertical profile of salinity and turbidity are measured for three years (2017-2019) from the river mouth to the 40 km upstream during both tidal (neap-spring) and seasonal time scales. The salinity intrusion reaches maximum distance (33-37 km) during dry periods and minimum (0.6-16 km) during monsoon periods. The mixing condition changed from stratified to partially mixed conditions during monsoon periods, whereas it varied from partially mixed to well-mixed conditions during dry periods in a neap-spring tidal cycle. The ETM was found in the lower salinity region during the monsoon season and in the higher salinity region during the dry season. Further, it developed under partially mixed conditions during the monsoon season and under well-mixed conditions during the other seasons. The location of ETM moved upstream with a decrease in the tidal range, whereas it moved downstream with a rapid increase in river flow. The magnitude of ETM increased with an increase in tidal range for all the seasons, whereas an increase in river flow magnifies the ETM only during the monsoon season. Hence, the tidal forcing is the most dominant factor, followed by the river flow that affects the ETM dynamics in the TRE.

  • 坂井 友亮, 田多 一史, 河内 友一, 日比野 忠史
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1129-I_1134
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     Ca2+,SiO2,OH-等を溶出する石炭灰造粒物(GCA)を河岸干潟に散布し,造成したGCA層内での有機泥の礫径化,難分解性化について検証を行った.GCA層構築後の27ヶ月間に行った堆積泥調査ではpHの上昇にともなった礫分,砂分量の増加と細粒分の減少が確認された.堆積有機泥の砂・礫径化はGCAからの溶出イオンによる微細粒子の結合や有機物の錯体化反応によることが示唆された.砂・礫径化は有機泥の難分解性化と対応しており,礫分が有機泥の難分解性化の指標として利用できる可能性が示された.GCA層の効果(砂・礫径化)はGCA層下層に拡散しており,GCA層下層においても堆積泥の砂径化,難分解性化することが確認された.

  • Baixin CHI, Shinichiro YANO, Akito MATSUYAMA, Lin HAO
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1135-I_1140
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     Mercury pollution has attracted more attention in marine environment since the outbreak of Minamata Disease in Japan more than 6 decades ago. Although the highly total mercury has been dredged by the government, many experiments for mercury measurement were carried out and indicated that trace mercury was still in Minamata Bay, and some were even transported along with the sediments from the bay to the nearby the Yatsushiro Sea. Hence, it is necessary to develop a numerical model for simulating the mercury migration. In this study, a numerical model was established in Delft3D based on in-situ measurement, where the transport simulation of bottom sediment coupled with the internal diffusion technique was applicated. It was used to simulate the transport of trace mercury from Minamata Bay to the Yatsushiro Sea which was assumed to primarily depend on sediment migration. From the modeling result, it could be concluded that mercury spread from Minamata Bay to the seas around Minamata Bay and gradually spread to the entire Yatsushiro Sea. The mercury transport was mainly divided into two patterns, that is, southwest migration and northeast one. Meanwhile, the trace mercury trended to deposit along the seacoast, which was mainly considered due to the terrain effect.

  • 阿部 優大, 山崎 文也, 鵜﨑 賢一, 池畑 義人
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1141-I_1146
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     干潟における土砂動態の解明は,干潟の保全や将来予測において非常に重要である.さらに,その解明には河川流域も供給土砂の質や量に密接に関わるため,広域な土砂動態を解明していくことが重要である.本研究では,中津干潟を研究対象とした.中津干潟は砂泥質干潟であるが,近年,侵食や泥質化が懸念されている.また,過去の著者らによる現地観測から,2017年の春から秋にかけての顕著な泥質化が認められた.本研究では,2017年7月に発生した九州北部水害を対象として,河川からの土砂供給量と河川と沿岸域の広域土砂動態の数値計算から,中津干潟の泥質化機構を解明することを目的とした.その結果,潮汐や河川流量に対応した浮遊泥の空間分布や沈降速度を得ることができ,干潟の泥質輸送の定性的な再現を行うことができた.

  • 山崎 文也, 阿部 優大, 池畑 義人, 鵜﨑 賢一
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1147-I_1152
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     干潟は内湾の水質・生物環境の保全に大きな役割を担っていると指摘がなされ,既存干潟の保全や人工干潟の造成が行われるようになったが, その土砂動態は不明な点が多く,干潟の土砂動態や侵食堆積機構の解明が求められる.大分県中津干潟では近年アサリの漁獲量の減少が問題視されている.本研究ではアサリの漁獲量の減少の一因である干潟の泥質化に着目し,現地観測,沿岸域での広域土砂動態により,中津干潟の定性再現が行われたが,汀線際での泥質化について再現できていない問題点がある.本論文では干潟の汀線近傍の堆泥域形成について,平坦地形と一定勾配を対象とした,干潟上の泥の動態に関する数値計算を行った.計算結果により潮位変動と干潟地形は泥の凝集と沈降に与える影響があることを示唆した.

  • 安達 森, 梶川 勇樹, 吉田 圭介, 西山 哲
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1153-I_1158
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     STIV法を用いた流量観測では表面流速から流量を算定する際,更正係数は標準値0.85が用いられる.しかしながら,測線周辺の河道の縦横断形状や植生分布によっては鉛直流速分布が対数則に従わず,標準値が適用できない可能性がある.そこで本研究では,岡山県の旭川の流量観測場所である中原橋周辺を対象に,平面2次元及び3次元流モデルを用いて,実洪水の再現計算を行うと共に仮想的に河道形状及び植生分布が変化した際の更正係数に及ぼす影響について検討した.その結果,中原橋上流の砂州が発達し,また植生が密生すると,砂州下流では更正係数が大きく低下することが分かった.一方,砂州が発達しても砂州上の植生を適切に伐採管理することで,更正係数の標準値による運用ができる可能性を示した.

  • 黛 由季, 茂木 大知, 大原 由暉, 安田 浩保
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1159-I_1164
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     沖積河川における流路変動の主な要因は交互砂州の幾何学形状に由来する偏流と目される.しかし,既往研究の多くは底面の幾何学形状に注目しており,土砂の駆動源である流水の水理との対応関係は知見が不足している.本研究では,交互砂州が流れの偏流を誘発する条件を対象とした,模型実験と実河川数値解析を実施した.その結果,交互砂州上において,底面形状の発達と流れの偏流は対応することを示した.また,底面波高を水深で除した波高水深比が1.5を超えると流路変動の発現可能性が急増し,これを指標として流路変動の発現を推定できることが示唆された.

  • 中矢 哲郎, 藤山 宗, 武馬 夏希
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1165-I_1170
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     用水路の上流部が開水路形式,下流部がパイプライン型式の複合水路系において, 両者の接点に設置するバッファーポンドの機能を有効に利用するには,これまで以上に用水の貯留状況の管理や,需要者の水利用に応じた送水管理の高度化が必要となっている.そこで本研究では,分水制御ゲートを有するバッファーポンドにおいて,水使用量の予測を導入した分水操作を行い流入量を調整することで,需要が少ない時間の余水の発生や容量不足を防ぐ運用手法を提示した.水使用量の予測には,限られたデータ数でも有用な予測が可能な自己回帰モデルに,過去データから抽出した水利用に関する操作ルールを考慮する手法を構築した.数値モデルにおいて提示した操作手法を評価した結果,使用水量に応じた送水によりバッファーポンドの余水の削減,不足の解消を実現することを示した.

  • 阿部 孝章, 井上 卓也, 平松 裕基, 大串 弘哉, 濱木 道大, 戸村 翔
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1171-I_1176
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本稿では河岸侵食に起因する橋梁の被災を予測するためのスクリーニング手法を提案する.2016年8月,4つの台風が北海道に襲来し多くの橋梁が被災を受けた.被災を受ける可能性のある橋梁を効率的に抽出するため,流域面積,河床勾配,河道曲率,雨量や地質などの河道諸条件を用いて侵食幅を予測するため重回帰分析を適用した.その結果4つの地質条件は侵食幅に大きくばらつきがあり被災スクリーニングのための説明変数として不適当であることが示唆された.しかしながら,着目する箇所の地質条件が無くとも,予測された無次元侵食幅は幅広い流域面積を持つ侵食箇所に対して実測値を良好に予測した.この手法は潜在的に危険な橋梁を効率的に抽出するための有効な手法となり得るものである.

  • 鈴田 裕三, 杉山 史典, 小石 一宇, 寺島 大貴, 山田 正
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1177-I_1182
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     近年,航空レーザ測量(以下,LP)及び航空レーザ測深(以下,ALB)等による三次元データの整備が推進され,様々なメッシュサイズの三次元データが利用可能となっている.これらの水理解析への適用性を検討し,河道スケールによらず求める精度に対応するメッシュサイズを選定するための指標を検討した.また,ALB計測においては,植生や水深及び水質の影響で地形データの欠測が生じやすく,特に起伏の激しい山地河川では内挿補間された地形と実際の地形との乖離が大きくなる.そこで,地形的特徴に着目し,ALBデータの欠測が水理解析の計算水位に及ぼす影響を検証し,欠測の許容範囲を明らかにした.

  • 渡辺 健, 藤田 一郎, 南 良忠, 大森 嘉郎, 井口 真生子
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1183-I_1188
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     河川表面流速を計測する非接触型手法による流量算定では,表面計測値に一定の表面流速係数を乗じて区分求積により流量を求めることが通常だが,実際には河川形状等により表面流速係数の変動が想定される.この点を考慮可能な流量推定手法として,最大エントロピー法の概念に基づく鉛直流速分布式を用いた手法が提案されているが,この手法ではエントロピーパラメータMの設定のために1度は横断面の流速分布を測定する必要があり,新規地点への適用に課題がある.本研究では,近年提案されているMの自動推定手法について,画像計測手法であるSTIVの計測値を用いた検証を行った.その結果,複数河川への適用を通して本手法の適用範囲に関する知見が得られ,通常用いられる一定の表面流速係数が不適なケースで,流量推定精度が向上することが示された.

  • 奥野 佑太, 呉 修一, 藤下 龍澄, 手計 太一, 九里 徳泰
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1189-I_1194
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,企業の水害版BCP策定において障害となる要素を考察し,対策を提案することである.水害による企業被害の軽減のためには,被災後の事業継続を目的としたBCPの策定が効果的だが,河川災害への想定は地震災害に比べると少ないのが実情である.そこで,BCP策定時のボトルネックを考察し策定率向上に必要な対策を検討する.北陸の事業継続力強化計画認定企業892社に対してアンケートを実施した結果,BCPを策定しない理由として,人員,時間に余裕がない企業が全体の34.2%と最も多く回答され,水害リスクが低くBCPを策定する意味・メリットがないという企業が26.3%であった.また,BCP策定マニュアルや策定補助制度の認知度が低いことが明らかとなった.これらを解消する対策の一例として,本論文では対策効果を空間分布で示すことで策定メリットを明らかにする方策を提案する.

  • 中村 茂, 小池 俊雄, Cho Thanda Nyunt , 牛山 朋來, Mohamed Rasmy , 玉川 勝徳, 伊藤 弘之, 池 ...
    2022 年 78 巻 2 号 p. I_1195-I_1200
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/25
    ジャーナル フリー

     小池ら1)は39時間の予測リードタイムを持つアンサンブル予測結果を用いて,洪水防御面と発電効率の両立を図る研究を行い,それが可能であることをシミュレーションで示した.同システムへ新たにアンサンブル3ヶ月予測を追加するため,予測情報をある一定期間の総流入量として用いることを提案し,その期間の長短が予測精度とダム操作支援へ与える影響を調べた.その結果,長すぎる期間で算出した総流入量を用いた場合は,貯水池運用を効率化できないことが分かった.暖候期と寒候期に分けて適切な期間を設定して行ったシミュレーション結果として,年間で6.0%の増電が可能であることを示した.

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