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今 勝章, 笹岡 信吾, 福島 雅紀
2022 年78 巻2 号 p.
I_301-I_306
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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2019年の東日本台風では,利根川右支川の福川右岸堤防裏法尻部に多数の噴砂が確認された.被災状況から基礎地盤に起因するパイピングが疑われたが,現地は利根川合流点の近傍で,福川からの基盤浸透のみならず利根川の影響も考えられた.そのため著者らは各種現地調査等を実施し,利根川の水位上昇が漏水の主要因であることを確認した.近年,合流点近傍の漏水被害は各地で確認されているが,本支川合流部における安全性照査手順は整理されていない.また,対策工を検討する際においてもその影響を適切に把握する必要があると考えられる.そこで本論では,近年発生した本支川合流部における基礎地盤浸透に起因するパイピングの被災事例を参考に安全性照査に用いる浸透流解析のモデル化領域設定に活用するための簡易式を示すとともに,各種対策工を対象とした浸透流解析結果より,対策工選定時の留意点を示す.また,本支川合流部を対象とした安全性照査の検討領域の設定フローを提案する.
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兒玉 健佑, 林 博徳
2022 年78 巻2 号 p.
I_307-I_312
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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本研究では,福岡県朝倉市秋月地区に残る空石積み護岸で整備された河川水路網に着目し,数値シミュレーションと現地踏査によってその治水機能の評価を試みた.治水機能は最大時間雨量約100mm/hに達した2017年7月豪雨を再現した洪水氾濫シミュレーションとその1.4倍降雨量のシナリオの2つで評価した.その結果,空石積みで整備された河川・水路網は,コンクリート等の近代技術による整備と比べて流域下流端のピーク流量を減少させる効果があることが明らかとなった.河川や水路内の最大流速についても,空石積み護岸の設計流速5m/s以下に抑え,河道内構造物の安全性を高めていることが示された.さらに,秋月の水路網は河川と並行することで雨水流出の河道への集中を抑え,町内から下流に至るまで河川のピーク流量を低減させる機能があることが明らかとなった.
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兒玉 健佑, 林 博徳, 池松 伸也, 島谷 幸宏
2022 年78 巻2 号 p.
I_313-I_318
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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伝統工法の一つである空石積み護床工は,その自然環境との親和性の高さからNature-based Solutionsとしての価値が見直されつつある。しかし,その治水機能については定量化されていないため,治水構造物としての価値づけが適切になされていない。本研究では、空石積み護床工の有する治水機能を水理模型実験により定量的に明らかにすることを試みた.模型縮尺は1/30とし,現地の測量結果およびフルードの相似則に従い実験条件を設定した.水理模型は対象とした空石積み護床工と,一般的なコンクリート構造の護床工についても作成し,同様の条件で実験を行い,比較検討を行った.その結果,空石積み護床工は優れた流速減勢機能を有することが明らかとなった.最大流速を野面空石積み護岸の設計流速以下に抑えられることも明らかとなり,河道内構造物の安全性を高めることが示唆された.
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大野 哲之, 山口 弘誠, 中北 英一
2022 年78 巻2 号 p.
I_319-I_324
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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マルチフラクタルは定量的なパターン解析手法として降水現象を始め様々な分野で応用されている.本研究では線状対流系の3次元的な自己組織化パターンを特徴づけるべく,水蒸気フラックスや降水粒子分布のマルチフラクタル解析を行った.2012年7月15日に発生した亀岡豪雨を対象とした再現実験を用いて対流系近傍の水蒸気フラックスを解析した.その結果,豪雨開始直前は対流不安定度の増加と対応してモノフラクタルに近づく傾向を見せたのに対し,対流系の形成とともにマルチフラクタル性が強まる傾向を見せた.またXバンド偏波レーダによる立体観測に基づき,氷相降水粒子の混合比を推定・解析した.帯状の強雨域が拡大し始め,地上降水強度の増加速度が増す時間帯と,霰・雪片混合比のマルチフラクタル性が大きく変化する時間帯が一致した.
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伊藤 雄基, 小田 僚子, 稲垣 厚至, 清野 直子
2022 年78 巻2 号 p.
I_325-I_330
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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地上近傍の平均風速の鉛直分布は対数則に従うとされているが,非定常に変化する平均風の挙動により対数則から外れる時間があることが指摘されている.また,その成立高度に関する定量的評価の知見が少なく,時空間変動についても不明な点が多い.そこで,茨城県つくば市と東京都目黒区でドップラーライダーを用いた平均風速の鉛直分布観測を行った.対数則が成立するとされる慣性底層は一般的に高度約100mまで発達すると言われているのに対し,高度200m以上で観測される5~6時間周期の風速変動に応じて,対数則に従う速度分布が高度500m以上まで達することが分かった.また,接地境界層内のスウィープ現象が上空の風に対応して時間変動しており,接地境界層内外の低周波変動がもたらす運動量交換を促進している可能性が示唆された.
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KIM Hwayeon , 前川 智寧, 中北 英一
2022 年78 巻2 号 p.
I_331-I_336
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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近年,都市域を中心としてゲリラ豪雨と呼ばれる,局地的豪雨による災害が問題となっており,ゲリラ豪雨の危険性予測手法を高精度化し確立することが急務であるといえる.Kim and Nakakita (2021)は,レーダで得られる物理的指標を説明変数として定量的な危険性予測を行う際に,それらの説明変数が得られるのに要した積乱雲探知からの経過時間別に予測式を作成することが定量的予測に有効であることを示した.経過時間別の予測式が有効であるのは,積乱雲の発達過程が進行するからである.しかしながら,個々の積乱雲の発達過程の進行速度の違いは考慮されていない.本研究では,増田と中北(2014)のライフステージ判別手法を用いて,積乱雲の発達過程を考慮したゲリラ豪雨の定量的危険性予測の可能性を示した.
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佐々木 結加, 小島 彩織, 小山 直紀, 吉見 和紘, 山田 正
2022 年78 巻2 号 p.
I_337-I_342
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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近年開発された二重偏波フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)は,現行の気象レーダと比較して,時空間的に高密度な三次元観測が可能であり,局地的大雨の早期探知への貢献が期待される.本研究は,MP-PAWRの高密度な観測情報を用い,局地的大雨時の避難やリードタイムの確保に資する降雨予測手法の実用化を目的としたものである.その実現に向けて,対象流域におけるMP-PAWRの精度評価及び鉛直積算した雨水量の時間変化を基に予測雨量を算出した.その結果,10分先予測結果は概ね精度良く降雨予測可能であることが示された.さらに降雨予測にカルマンフィルタを適用した結果,ピーク降雨強度の過大傾向が概ね改善され,MP-PAWRを用いた降雨予測の適用可能性を示した.
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Fauziana AHMAD, Kosei YAMAGUCHI, Eiichi NAKAKITA
2022 年78 巻2 号 p.
I_343-I_348
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
The development of characteristic patterns of a single-cell to multicell thunderstorms was developed by using a multi-parameter radar analysis. The differential reflectivity (Zdr) column and specific differential phase (Kdp) column were further investigated, including the analysis of vertical vorticity from a dual-Doppler method. The kinematic mechanism analysis using a dual-Doppler radar was also examined in this study. From the evolution of cells investigation, the convergence was observed before the initiation of the updraft. The peak of updraft and core vorticity intensity were identical in their stage of development, whereby radar reflectivity indicated the increment after the cells merged. During the transition, the characteristic patterns were observed on the increment of positive core vorticity and Kdp at 2 km and 5 km of Constant Altitude Plan Position Indicator (CAPPI) height, respectively, at the same position. The Zdr column was not observed after the cell merging; however, it was identified 5 min after the cell had merged. In contrast, the Kdp column was always identified after the cell merging, and the column showed an increment of intensity 5 min after the cells had merged. The positions of both Zdr and Kdp columns were located parallel with the location of the updraft. The results indicated a strong correlation of a maximum Kdp column depth above the melting height with the core positive vorticity, especially in the single-to-multicell case. Analysis of Kdp columns depth revealed the signatures of changing of updraft in the multicell development. The increased updraft intensity was mainly associated with an increase in vertical vorticity. With precipitation, the maximum Kdp column depth is a good indicator for deep convection updrafts, as the life phases of multicell development were controlled by updrafts, and the warm moist inflow from low-level.
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中北 英一, 加藤 泰樹
2022 年78 巻2 号 p.
I_349-I_354
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
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Seeder Feeder機構は,上層からの雨滴が下層の雲の中で雲粒を捕捉して,降雨強度を強める現象であり,山岳域での降雨強化原因の1つとされていた.しかし,令和元年台風19号では,山岳域に加え,平地でもSeeder Feeder機構が確認されたとの報告がある.本研究では,台風19号において,箱根周辺の山岳域および関東平野それぞれに対して,立平モデルを用いた地形性降雨算定手法を用いることで,背の低い雲でSeeder Feeder機構が降雨強化に寄与したか計算した.計算の結果,山岳域・平地ともにSeeder Feeder機構による降雨強化が発生したことが分かった.本研究は,今後も発生する可能性のある「浅い対流を含んだ層状性降水による豪雨」の更なる検証に繋がるものであると考えている.
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中渕 遥平, 中北 英一
2022 年78 巻2 号 p.
I_355-I_360
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
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鉄道では,降雨時の列車運転規制を鉄道沿線に設置された雨量計の実況値を用いて行っている.降雨予測情報の精度が高ければ,列車運転規制にこれを活用することで列車運行の安全性をさらに高められる可能性がある.本研究では列車運転規制への活用に適した短時間降雨予測手法として移流モデルと地形性降雨算定手法を組合わせた予測手法を取り上げ,2019年台風19号通過時の箱根山周辺を対象に,雨量計観測値との比較等から予測精度の検証と活用方法の検討を行った.その結果,地形性降雨を考慮することで移流モデルのみの場合よりも予測精度が向上することがわかった.また,複数高度のレーダー情報を入力値とした複数の予測結果から幅のある予測情報を得る手法を提案し,地形性降雨による強雨を見逃すことなく予測できる可能性があることを示した.
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山口 弘誠, 河谷 能幸, 中北 英一
2022 年78 巻2 号 p.
I_361-I_366
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
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近年,線状対流系豪雨による被害が頻発しているものの,その勃発メカニズムは明らかにされておらず,発生予測は未だ困難を極めている.特に,必然的要因と偶然的要因を区別して議論されることはほとんどなかった.そこで本研究ではそれぞれの要因を区別し,勃発メカニズムを解明することを目的として,乱れを陽に計算し,偶然性が存在する中で必然性・偶然性の評価ができるLES(Large-Eddy-Simulation)を用いて数値実験を行った.その結果,淡路島の地形による山岳波が六甲山南部に低温位の領域を形成することで別の暖かい空気塊の上昇に寄与していることを示した.また,温位の初期値にランダムノイズを与えたアンサンブル実験を行うことで,偶然的要因による発生への影響が存在することが示唆された.
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大橋 史帆里, 吉見 和紘, 手計 太一
2022 年78 巻2 号 p.
I_367-I_372
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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本研究では関東域の2006~2020年の15年間の夏期を対象として,全国合成レーダGPV(以下,GPV)とAMeDAS地上雨量計(以下,AMeDAS)の雨量データを用い,時空間分布を流域ごとに分析した.GPVとAMeDASの傾向分析の結果,日雨量については階級ごとに傾向が異なっていた.一方,時間雨量,10分雨量については階級毎の相違は認められなかった.AMeDASによる地点雨量の結果をティーセン支配面積に代表することは,困難であることが示された.さらにGPVとAMeDASによる各年の夏期最大流域平均雨量データを比較することで,レーダ雨量計の河川計画への適用性を検討した.その結果,GPVとAMeDASの分布は概ね同様の特徴であることが明らかとなり,レーダ雨量計を河川計画に適用することが可能であると評価できた.
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五十嵐 孝浩, 竹林 洋史, 浜田 裕貴, 鶴田 庸介, 伊藤 渚生, 双木 笙太, 田中 安理沙, 上村 雄介
2022 年78 巻2 号 p.
I_373-I_378
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
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土砂災害危険情報サービスにおける土砂災害雨量指数(XRAIN実況雨量による土壌雨量指数第1タンクと60分累加雨量の積算値)は,その閾値を超過すると土砂災害が発生する可能性がある.その捕捉率は約80%である.ある地域の土砂災害雨量指数が閾値を超過する回数が多いと言うことは土砂災害の発生確率も高いと想定される.本検討では,閾値を超過する回数を長期間累積した結果が,その地域のリスク評価指標として妥当かどうか検討した.面的な雨量データとしては,長期間データが存在する解析雨量を用いて,2006年から2021年までの15年分を計算し,閾値超過回数を累積した.その結果,数値のばらつきが大きかったため,単位時間あたりに事象が発生する確率としてポアソン分布を用いて計算した.その結果,九州ほぼ全域,太平洋岸の四国,紀伊半島付近の確率が大きく,これらの地域で日常的な強雨により土砂災害の発生確率が大きいことを確認した.
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高見 和弥, 竃本 倫平, 鈴木 賢士, 山口 弘誠, 中北 英一
2022 年78 巻2 号 p.
I_379-I_384
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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本研究では地上気温0℃未満での降雪を対象に,現業の偏波レーダーで観測できる高度数百m~1kmより下層の水平偏波のレーダー反射因子ZHの鉛直勾配を評価するための指標の検討を行った.降雪粒子の形状によって変化する位相差変化率KDPを利用し,KDPとZHの比を取ることで,降雪粒子の併合成長に伴う扁平度の低下,粒径の増加を表す指標(AI: Aggregation Index)を定義した.併合成長が支配的となる気温-9℃付近の高度でAIを求めて,その下方から融解層上端までのZHの鉛直勾配との関係を調べたところ,KDP > 0の範囲でAIが大きくなるほどZHの鉛直勾配は大きくなることが分かった.また,地上気温0℃未満の降雪事例で地上での降雪粒子観測を実施したところ,上空の指標AIの減少に伴って,地上での降雪粒子は球形に近く,粒径は小さくなり,着氷成長が優位となっていることを確認した.
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塩尻 大也, 小槻 峻司, 齋藤 匠, Mao OUYANG
2022 年78 巻2 号 p.
I_385-I_390
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
雨量計は降水量の時空間分布推定に大きな役割を果たし,効率的に雨量計を配置することが重要である.本研究では,情報科学分野で提案されているスパースセンサ位置最適化手法(SSP)を雨量計配置の問題に適用し,時空間分布推定に有効な位置を推定する.更に少ない観測情報から全体の場を復元する手法として,新たに局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)を適用する.気象庁の解析雨量を使用して,雨量計配置と場の復元を北海道を対象に行った.AMeDASの観測位置情報から場の復元手法をLETKFと最近傍法とで行い,LETKFがより高精度であることを確認した.更にSSPによる雨量計配置とAMeDASの観測位置からLETKFによる場の復元をそれぞれ行い,SSPによる雨量計配置が有効に機能することを確認した.
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齋藤 匠, 小槻 峻司, Mao OUYANG , 塩尻 大也
2022 年78 巻2 号 p.
I_391-I_396
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
数値気象予測において,観測情報は予報誤差低減に重要な役割を果たす一方,観測位置を最適化する手法は未確立である.近年,PODモードと観測値を用いて場を復元する方法や,復元される場のスパース性に着目し,フィッシャー情報行列Fを最大化するスパースセンサ位置最適化(SSP)手法が提案されている.本論文では大次元力学系に適したSSP手法を検討し,SSTを用いた数値実験により提案手法の妥当性を考察した.場の復元にデータ同化を新たに応用し,精度改善に成功した.更にSSPにモードのみを用いた場合と,モードと特異値を考慮した場合を比較し,特異値を考慮した観測位置決定では上位モードが優先されることを示した.Fの最大化の解釈として,Fの行列式最大化とFの逆行列対角和の最小化を検討し,後者が適することを示した.
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沼田 慎吾, 柿沼 太貴, 望月 貴文, 久保田 啓二朗, 小池 俊雄, 池内 幸司
2022 年78 巻2 号 p.
I_397-I_402
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
中小河川の水位予測システム構築時において,生じる問題の解決策を類型化するため,全国125河川の水位予測システムを構築した.構築する中で,(1)解析雨量の仕様の影響により小流域の水位波形の再現性が低い,(2)降雨プロダクトの精度が原因となり水収支が一致しない,(3)HQ式の精度低下により低水の再現性が低い,といった問題が生じていた.これらの問題の解決策として,(1)時間解像度のより細かい降雨プロダクトの使用,(2)他の降雨プロダクトの使用,(3)横断図修正によるHQ式の再作成,を提案した.特に降雨プロダクトの精度については,河川の空間的な位置や洪水時の降雨分布などに影響されるため,水収支の確認や地上雨量との比較を行い,適切な降雨プロダクトを選択することがモデル作成の観点から重要である.
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柿沼 太貴, 沼田 慎吾, 望月 貴文, 久保田 啓二朗, 中村 要介, 小池 俊雄, 池内 幸司
2022 年78 巻2 号 p.
I_403-I_408
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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流域の特性上,急激な水位上昇が起こりやすい中小河川におけるリアルタイム水位予測システムの構築に向け,表面流・中間流・河道流のような時定数が異なる流出過程を表現する降雨流出モデルに粒子フィルタを適用した際の応答特性について検討した.その結果,水位上昇時において粒子フィルタによる斜面水深に対する負の補正が働いた場合,流出の時間遅れによって予測水位が低下することが分かった.また,粒子フィルタの補正係数を逐次修正するアルゴリズムを加え,初期分布の与え方を変えることで予測水位の精度低下を改善できることを示した.
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藤村 健介, 小槻 峻司, 山田 真史, 塩尻 大也, 渡部 哲史
2022 年78 巻2 号 p.
I_409-I_414
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
データ同化とは現実の観測情報を用いて数値モデルの状態を補正する数理手法であり,モデルの予報精度改善を期待できる.本研究では,降雨流出氾濫(RRI)モデルの水位分布を観測情報で補正するため,今まで検討されてこなかったデータ同化手法であるアンサンブルカルマンフィルタを適用した.初期値の誤差が時間発展によって増加しないRRIモデルに対して,入力である降雨強度に摂動を与えることで同化を安定させ,観測地点と非観測地点の双方で,同化なしRRIに対して水位予測精度を改善した.また,気象分野でのデータ同化では一般的な安定化手法である局所化のRRIモデルでの有効性を探るとともに,より水文モデルに適した手法として河道に沿った局所化を適用し,従来の単純な距離に基づく局所化と同程度の性能を発揮することを確認した.
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井野川 七虹, 小林 健一郎
2022 年78 巻2 号 p.
I_415-I_420
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
近年,再現期間の長い降雨が頻発し,都市域における浸水害のリスクが高まっている.地下空間は浸水害に脆弱であるため,地下空間における浸水害リスクとその対策について把握する必要がある.本研究では,1mメッシュ標高データを用いた神戸市街の浸水計算と三ノ宮駅にある地下空間の浸水計算を連結し詳細な地上地下一体型の解析を行い,地下空間については標高データの有無によって浸水状況の微妙な変化をとらえることが重要なことを明らかにした.また,地下空間での避難シミュレーションを実施し,社会的距離が避難時間に与える影響についての評価を行い,コロナ禍における避難リスクの変容についても明らかにした.
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勝又 海渡, 江本 健太郎, 関根 正人
2022 年78 巻2 号 p.
I_421-I_426
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
地球温暖化に伴う異常気象により,近年では多くの水害が頻発している.高度に都市化された東京で大規模水害が発生した場合,甚大な被害が発生しやすい場所の一つに地下空間がある.東京23区の地下には多くの地下駅を結ぶトンネル網が存在し,これらを通じて氾濫水が移動することで浸水が容易く拡大しやすい.過去の研究で大規模な外力条件のもとに地下鉄トンネル内の浸水プロセスを論じているが,本論文ではより現実に即した予測計算を行うため,地下鉄駅連絡口への流入量の計算手法を新たに検討し,地下鉄トンネル内の浸水予測計算を行った.その結果,計算手法によりトンネル内の浸水結果に変化が生じ,連絡口部分の浸水深の適切な評価の重要性が示された.また,止水板の設置が有効であることや,適切な列車抑止措置が重要であることが確認された.
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関根 正人, 鎌田 智哉, 細野 裕介, 渋谷 悠衣
2022 年78 巻2 号 p.
I_427-I_432
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
近年,地球規模で進行する気候変動の影響で,各地で豪雨が頻発している.2019年10月の台風19号では,日本各地で堤防の決壊や河川の氾濫,内水氾濫により多くの被害が発生した.本研究では,台風19号により実際に被害を受けた調布市・三鷹市に加え,隣接する武蔵野市も含めた東京都23区に隣接する三市に注目し,精緻な浸水予測手法であるS-uiPSを用いた想定最大規模降雨時の浸水予測計算を行った.本論文では,特に顕著な浸水が生じる窪地部ならびにアンダーパス部に着目し,ここでの具体的な浸水拡大プロセスを明らかにしている.また,同一の豪雨に対してこれらの三市と東京都23区部で生じる最大浸水深を相互に比較し,浸水規模に大きな差異がないかを下水道網に関する諸量の比較とあわせて考察した.
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西田 渉, 佐々木 達生, 田崎 賢治
2022 年78 巻2 号 p.
I_433-I_438
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
近年の大雨による災害が多発する中,浸水域で事業所から工業油が流出する事故が報告されている.本研究では,浸水域での油の流動を把握することを目的として,Lagrange的手法による数値予測を検討した.
予測手法としてランダムウォーク型モデルと相互位置型モデルを取り上げ,まず,Fayのモデルとの比較から,各Lagrange形式のモデルによってFayの算定結果が表現されることを示した.つぎに,内水氾濫域での油の流出事故を想定した計算を行った.その結果,いずれのモデルにおいても洪水流と風によって油が流動するが,計算手法の違いによって油の分布範囲に相違が生じることが示された.
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Shi FENG, Yasuto TACHIKAWA, Yutaka ICHIKAWA
2022 年78 巻2 号 p.
I_439-I_444
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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This study aims to generalize a high-resolution distributed rainfall-runoff model to realize discharge predictions in ungauged urban catchments by applying identified general hydrological parameter sets corresponding to land-use categories. The parameter sets were identified and examined at 32 urbanized small catchments located in Osaka Prefecture. To obtain general hydrological parameter sets, parameter values of 1K-DHM, a high-resolution distributed rainfall-runoff model, were obtained for each land-use category so that the simulated discharges could fit with those calculated by the synthetic rational formula method (SRFM). Additionally, the parameter values of the two dominant land-use types were estimated using the Shuffled Complex Evolution optimization method (SCE-UA), and these were replaced with the previously obtained parameters. These two identified parameter sets were validated for 30 catchments with three rainfall events. According to the validation results, we found that the 1K-DHM with the two parameter sets showed better performance than the SRFM in peak discharge estimation and Nash efficiency. Furthermore, the two identification methods showed similar prediction ability in terms of the NSE evaluation, and the latter generated better results regarding stricter NSE value. These findings suggest that a distributed hydrological model with generalized parameter sets based on high-resolution catchment information has the potential to achieve discharge forecasts of flash floods in small ungauged urban catchments.
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田中 智大, 平松 優佑, 北野 利一, 立川 康人
2022 年78 巻2 号 p.
I_445-I_450
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
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利根川と荒川,球磨川と緑川および荒川と庄内川の3種類の2水系群を対象に,d4PDFを用いて推定される年最大洪水ピーク流量データに2変量極値理論を適用して各気候での計画規模の再現期間を超える洪水(超過洪水)の同時生起頻度の将来変化を分析した.4度上昇実験で超過洪水が同時生起する再現期間は利根川と荒川で800年,球磨川と緑川で473年となった.また,個々の河川での計画規模洪水の発生頻度は過去実験よりも増加するが,超過洪水の同時生起確率は過去実験と変わらず,個々の水系の河川整備によって集積リスクも低減することがわかった.荒川と庄内川で超過洪水が同時生起する再現期間は標本推定値が4,000年となったが,モデルによる推定は不安定となった.より頑健な推定にはアンサンブルの増強や気象学的検討が重要である.
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安嶋 大稀, 佐山 敬洋
2022 年78 巻2 号 p.
I_451-I_456
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
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まちづくりなどの総合的な防災・減災対策に向け,中小河川を含めた全国で多段階の浸水想定が必要とされる.d4PDFは観測降雨の少ない地域も含め,小さな引伸ばしで種々の降雨が得られるため,そうした浸水想定への活用が期待できる.しかし,多数のd4PDFアンサンブルで個別河川ごとに降雨規模を定義し,流出・氾濫解析を行うことは容易でない.本研究は現実的なコストによる全国の多段階浸水想定に向け,d4PDFの限られたイベントから地域の複数河川で共用可能な降雨データを作成し,これによって特定流域の流量を表現する手法を検討した.結果,最大30程度の地域共通の降雨データを用いて流出解析を行えば,得られた流量の中央値または上位の値をとることで,複数地点・複数規模の流量を10%程度の誤差で表現できることが分かった.
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Juiche CHANG, Tomohiro TANAKA, Yasuto TACHIKAWA
2022 年78 巻2 号 p.
I_457-I_462
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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Taiwan has been devastated by water-related disasters during the wet season and will face more challenges under climate change. The uncertainty of future projections of extreme rainfall events is primarily derived from the internal climate variability. The d4PDF, especially at a 20-km resolution, has the potential to assess the impact of climate change on catchment-scale hydrologic extremes in Japan. The present study first compared the probability plots of annual maximum basin-averaged rainfall derived from rain gauge observations and d4PDF in four major river basins in Taiwan. In three out of the four catchments, d4PDF was in good agreement with observations, showing its overall applicability in Taiwan. For the other basin with large bias, we applied three bias correction methods to explore robust bias adjustment. Based on raw or corrected d4PDF, we reevaluated the return period of basin-averaged rainfall in Kaoping river basins during record-breaking events that caused severe water-related disasters in Taiwan and estimated it to be 120–125 years. This evaluation has not yet been achieved with limited and sparse observational data. Finally, the d4PDF 4-degree increase experiment data were analyzed, which showed a clear and common rate of increase in the rainfall amount of 10–40% at all the four river basins in Taiwan.
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西尾 春人, 井上 亮
2022 年78 巻2 号 p.
I_463-I_468
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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地域の平均降水量の極値の分析方法の一つであるAreal Reduction Factorsは,地点と地域の極値降水量の比は表現できるが,地点と地域で極端な降水現象が発生する期間の関連性は表現できない.本研究は,極値降水量の発生期間に関する地点間の相関を表現可能な空間極値統計を援用し,地点と地域で同時期に極端な降水現象が起こる可能性の大小を表現する方法を提案する.この提案方法によって表現できる極端な降水現象の特徴を確認するため,日本近辺・長期間の気候シミュレーションデータであるd4PDFの過去実験データ1,200年分を用いて,地点と地域の相関を表現した.その結果,提案手法では同期間内に地点と地域で発生する極端な降水現象の確率年の類似度を表現できることを確認した.
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北野 利一, 大野 智也, Sylvester Karabau ROKUMAN
2022 年78 巻2 号 p.
I_469-I_474
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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スケール則は自然現象を理解するための非常に重要な概念である.水文学分野では,スケール則の1つとして知られる確率降雨量の再現レベルと降雨継続時間の関係について検討されてきた経緯がある.洪水対策施設の設計に用いる再現期間に対して,観測データの外挿となる極値頻度解析においては非常に大きな推定誤差を伴う.本研究では,スケール則を極値頻度解析に組込んだ新しい体系を提案し,推定誤差の低減効果と,モデル選択によるスケール則の適用の妥当性の確認が可能となることについて,パプアニューギニアのダル島の降雨観測記録を用いて例示する.
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田中 茂信, 小林 健一郎, 北野 利一
2022 年78 巻2 号 p.
I_475-I_480
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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水文頻度解析では,ピーク流量や降雨継続時間内の雨量の年最大値資料を頻度解析することが一般的である.年最大値資料の解析に用いる一般極値分布の形状母数は確率密度関数の上側の裾の厚さに関係している.流域のある地点のピーク流量とその地点上流の流域平均雨量は密接な関係があり,ピーク流量の確率水文量と適切な降雨継続時間内の流域平均雨量の確率水文量を用いて流出計算により求めた流量ハイドログラフのピーク値は同等であると思われているが,実際にはかなり異なる場合が多い.本論文はこの原因について述べたものであり,治水計画に確率水文量を用いる場合の留意点も指摘する.
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葛葉 泰久, 水木 千春
2022 年78 巻2 号 p.
I_481-I_486
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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著者らは,中小河川計画の手引き(案)に間違いがあると主張してきた.SLSCを適合度の比較に用いるのは適切でないからである.ところが,この主張がなかなか行政の解析者に理解されない.そこで本論文では,理論的に求めたSLSCの平均値を使って平易な説明をしようと思う.平均値は順序統計量の同時確率密度関数を用いて求めた.
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葛葉 泰久, 水木 千春
2022 年78 巻2 号 p.
I_487-I_492
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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著者らは,長年,中小河川計画の手引き(案)に掲載されている適合度評価に関わる手順には不適切な点があるので,同文書を改訂すべきと主張している.我々の主張は学術的には正しいのだが,同時に行政の都合,つまり「施策の継続性ゆえ,この手の手法をすぐには変えられない」というのも理解はできる.そこで,本論文では従来からの手法を元にした手法を継続的に用いる場合に考慮すべき論点を提示したい.特に,3母数の確率分布や江藤らの分布のSLSCについて詳述する.最後に,我々の今までの知見を集約した母数推定・適合度評価のガイドラインを示したい.
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原田 裕太, 小田 僚子
2022 年78 巻2 号 p.
I_493-I_498
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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環境省と気象庁では,熱中症予防行動を促す情報としてWBGTを用いた「熱中症警戒アラート」を提供している.しかしながら,提供されるWBGTは点情報であるため,どの程度の空間代表性を持つか定かではない.そこで本研究では,WBGTを面的に評価するために,ひまわり8号の水蒸気バンドを含む輝度温度情報と標高値を考慮したWBGT推定式を提案した.その結果,首都圏75地点でWBGT地上観測値とのRMSE平均値は約2.0℃で評価できることが示された.特に先行研究で推定精度が低い原因と指摘されていた標高の高い地域や薄い雲が存在する時間帯の精度が改善した.
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井戸 滉昇, 仲吉 信人, 小野村 史穂, 金子 凌, 渡邉 悠太, 大山 純佳, 髙根 雄也, 中野 満寿男
2022 年78 巻2 号 p.
I_499-I_504
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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ヒートアイランド現象に対する対策の一つに屋根面アルベドを高める「クールルーフ」があげられ,多くの数値計算による効果検証が存在するが,現状のアルベドデータが存在しないため適切なベースラインが与えられているか懸念がある.本研究では,深層学習を用いて非商用衛星データから推定されたアルベドの高解像度化による屋根面アルベドの推定を試みた.Landsat-8,sentinel-2の衛星データを用いた結果,いずれも既存の画像補間手法より精度よく推定することができ,深層学習の有効性が示された.また,出力画像を用いて屋根面アルベドの推定を行った結果,Sentinel-2の衛星データを用いた場合,RMSE=0.0278と低い値となり,各都市の屋根面アルベドデータベース構築の可能性が示唆された.
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徳田 大輔, 奈良 秀春, 金 炯俊
2022 年78 巻2 号 p.
I_505-I_510
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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湖沼水面面積の観測は,そこに貯留されている水量の把握において極めて重要である.本研究はその月毎面積を全球で推計したデータセットを用い,自然湖と貯水池それぞれにおける面積の長期変化や季節変動を解析した.全球で自然湖の面積が減少傾向にあると同時に季節変動幅は増加している.一方で貯水池ではこれらの傾向は顕著ではないが季節変動幅やその経年変化傾向はその規模によって異なっていることも分かった.重力観測による水貯留量変動の結果とは全体的に整合していたが,一部異なる傾向を示す地域があった.このように人工衛星による湖沼水面面積の観測は水資源管理にとって有用な知見をもたらし,また水面標高観測と組み合わせることでより包括的な水貯留量の推計も可能になると期待される.
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瀬戸 里枝, 鼎 信次郎
2022 年78 巻2 号 p.
I_511-I_516
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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近年,小型衛星技術が急速に発展し,地球観測を目的とした受動的マイクロ波センサ搭載の小型衛星群の実用化も計画されている.こうした技術の水文気象分野での迅速な応用に向けて,本研究では,仮想観測シミュレーションと観測システムシミュレーション実験(OSSE)を組み合わせて,将来実現される小型マイクロ波衛星群の,現実的な観測データを同化した場合の地域・流域スケールの降水予測性能の評価手法を構築・適用し,予測性能を衛星群構成の設計パラメータとの関係にまで落とし込んで示した.その結果,小型マイクロ波衛星観測の高頻度同化によって降水域・強度の短期予測精度が大幅に向上することが示されると同時に,衛星群の構成によって観測頻度及び時間間隔のばらつきが変わることが,降水予測精度に比較的大きく影響することが分かった.
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辻本 久美子, 太田 哲
2022 年78 巻2 号 p.
I_517-I_522
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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本研究では,マイクロ波を用いた土壌水分衛星観測アルゴリズムの一要素である湿潤土壌の誘電率モデルについて,これまで広く用いられてきたDobsonモデルからMironovモデル,あるいは著者らの提案する新しいモデルに変更することの効果を1.4,10,36GHzの3つの周波数に対して全球で検討した.DobsonモデルからMironovモデルに変更した場合には,1.4GHzと10GHzに対しては土壌水分量推定値が上がる地域・季節が多いことが示された.Dobsonモデルから提案モデルに変更した場合には,ほとんどの地域・季節で土壌水分量推定値が上がることが示された.いずれの場合も,モデル変更に伴う推定誘電率の変化の方向やその程度は,地域(土性)や季節(水分量),周波数によって異なっていた.
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内海 信幸, Guosheng LIU , 渡部 哲史
2022 年78 巻2 号 p.
I_523-I_528
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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全球衛星降水マップGSMaPの最新版(プロダクトバージョン 05A)は推定精度の問題からグリーンランドが欠測扱いになっている.本研究は積雪面マイクロ波特性に着目し,GSMaP降雪推定精度の問題の原因について検討した.GSMaP降雪推定値は南部グリーンランドの内陸部において過大推定傾向であった.同地域の積雪域のマイクロ波特性を調べると,一般的な積雪面と異なり,積雪散乱のシグナルがみられないという特徴があった.グリーンランドにおける降雪の過大推定は,降雪推定に用いられるルックアップテーブルがグリーンランドの積雪面の特殊性に対応できていないことが原因と考えられる.本結果は,グリーンランドにおける降雪推定の精度向上には新たなルックアップテーブルの導入が必要であることを示している.
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石川 こより, 佐々木 織江, 鼎 信次郎
2022 年78 巻2 号 p.
I_529-I_534
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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気候変動によって氷河の融解が進み,融解量推定及びその自然災害や水資源への影響評価は重要な課題となっている.モデル計算で氷河を扱うにあたり,氷河の融解速度に影響を与えるデブリ(表面を覆う岩屑等)は無視できない要素であるが,その分布や熱特性のデータを取得することが難しく,広域を対象とした解析は行われていなかった.本研究では衛星観測データを用いた手法を適用し,デブリ被覆分布の推定と熱抵抗値計算の広域展開を試みた.全球の氷河を対象としたデブリ被覆分布推定では,4.8%がデブリで覆われており,デブリ被覆率は地域によって差があることを示した.アジアの熱抵抗値分布からは融解速度に影響を与えるデブリが多いことが確認され,融解量推定においてデブリの影響を考慮することの重要性が示唆される結果となった.
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千葉 皓太, 風間 聡
2022 年78 巻2 号 p.
I_535-I_540
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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本研究は,中小河川流域において流出解析を行い,人口減少に伴う流域の変化による流量の変動評価を行った.人口減少は,土地利用変化や河道内変化を促し,流域の水文過程を変化させることが予想される.現土地利用と比較して,全域を森林とした土地利用かつ植生により覆われた河道に変化した場合の流量増減を評価した.年最大流量は須川・大谷川において減少し,洪水リスクの低下が示された.河川管理が行われない場合,河道周辺の氾濫リスクは高まる.土地利用変化に加え,氾濫を想定した場合の流量増減を評価した.氾濫は3流域の内2流域において発生し,氾濫の考慮により更なる年最大流量の減少とピーク流出の遅れが見られた.人が住まなくなった流域において氾濫の発生を誘発することは下流の洪水リスクの低下を促す効果がある.
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津田 拓海, 皆川 朋子
2022 年78 巻2 号 p.
I_541-I_546
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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本研究は, 多くの人的被害が生じた令和2年7月球磨川豪雨時の御溝川流域に着目した人吉市市街地の氾濫状況及び人的被害の要因を明らかにするため,氾濫シミュレーションによる当時の再現及び地域住民に対するヒアリングを行った.その結果,御溝川周辺では最大浸水深2.7m,最大流速2.4m/sの氾濫被害が生じている場所があったことが明らかとなった.また,御溝川流域では,山地谷筋を流下する河川からの氾濫や水田地域に整備された道路が横堤防の役割を果たしたことが確認された.さらに,御溝川周辺の犠牲者5名の被災場所の豪雨時の氾濫状況を推定した結果,南から球磨川,北から御溝川,西から福川の3方向の氾濫流が発生していたこと,水中歩行が可能な浸水深・流速限界以下であっても犠牲者が発生する危険性があることを示した.
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早崎 水彩, 前川 勝人, 佐伯 絵美, 瀧 健太郎
2022 年78 巻2 号 p.
I_547-I_552
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
本稿では,令和2年7月豪雨で甚大な被害を受けた球磨川において,その中流部(球磨盆地)の左岸流域・氾濫域を対象に,農地を広域的に水田貯留施設とした場合の治水効果を一体型モデルを用いて定量化した.また,氾濫平野エリアと支川扇状地エリアとに分け,水田貯留施設の配置による効果の違いをみた.結果,広域的な水田貯留施設化に伴い,支川群のピーク時間は遅くなる一方で,ピーク前の水位上昇がみられた.支川扇状地エリアの水田貯留施設は本支川合流付近の浸水軽減に寄与するが,氾濫平野エリアの水田貯留施設は周辺の浸水深を増加させ,支川ピークを僅かに上昇させる傾向がみられた.このことから,流域治水計画に水田貯留施設を位置付ける際には,配置による機能の違いを戦略的に考慮すべきである.
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Xin Yan LYE, Akihiko NAKAYAMA, Sin Ying TAN
2022 年78 巻2 号 p.
I_553-I_558
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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The Weakly Compressible Smoothed Particle Hydrodynamics (WCSPH) has been reformulated to simulate overland flow on natural terrain due to rainfalls. The rainfall is lumped into discrete particles falling over the terrain and the overland flow is simulated as three dimensional free surface flows over topography following the WCSPH method. The terrain and objects on it such as buildings and other strictures are represented by boundary particles that are distributed over the combined surfaces having the normal directions and the roughness height used for setting the dynamic boundary conditions and the actual and the potential moisture contens used to set the infiltration conditions. The basic method is verified with the experimental data of rainfall runoff from a model plot and comparing with existing runoff models based on two-dimensional shallow water approximation. Then it is applied to a simulation of rainfall runoff over a real catchment in Malaysia.
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津村 悠虎, 関山 大輔, 田上 雅浩, 平林 由希子
2022 年78 巻2 号 p.
I_559-I_564
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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本研究では地域ごとの経済発展や建設費用要素の違いを考慮し,全球規模で河川堤防の建設単価費用を推計可能なモデルを開発した.具体的には,複数の建設費用要素と世界の河川堤防費用の多変量解析を行うことで,河川堤防の単価費用を熟練労働者の時給および建設費の地域間の差(ロケーションファクター)の2つを説明変数とするモデルを作成した.このモデルは建設単価費用の82%を説明でき,GDPのみを用いた単純な既存の手法と比較して,特に高所得国において実測値に即した推計が可能,かつ実測値との誤差を平均で51%減少した.また,本モデルおよびSSPシナリオによるGDP予測値を用いた各国の将来の堤防単価費用の推計結果では,日本の2100年の堤防単価費用は2020年に対して,シナリオによっては8倍以上になると予想された.
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佐山 敬洋, 山田 真史, 菅原 快斗, 近者 敦彦, 関本 大晟, 山崎 大
2022 年78 巻2 号 p.
I_565-I_570
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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日本全国を対象に空間解像度150mで構築したRainfall-Runoff-Inundation (RRI)モデルを用いて,広域の降雨流出氾濫解析における河道断面の反映と地形補正の効果を分析した.対象イベントは2020年球磨川豪雨と2019年東日本台風とした.矩形断面を設定したケースでは球磨川の浸水域を過小に評価した.一方,断面を反映し周辺の地形を補正することで,実現象に近い河道水位と浸水域を再現した.数値標高情報に含まれる河道断面の影響を一旦除去し,周囲の氾濫原と同程度の標高に調整したうえで,モデルに河道断面情報を反映することが水位や浸水の再現性にとって重要であった.2019年東日本台風の事例では,上記の反映に加え,支川合流部の簡易な水門モデルと平野部の流出パラメータ設定が重要であった.
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佐藤 拓也, 岩見 収二, 宮本 仁志
2022 年78 巻2 号 p.
I_571-I_576
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
本論文では,黒部川を対象に,機械学習による地被検出精度が洪水流解析に及ぼす影響を分析した.機械学習により,衛星画像から検出した河川地被を粗度係数に換算して平面二次元流況解析に反映させた.同様に,UAV空撮画像からの正解データの地被状況も反映させ,それらの洪水流解析による水面形や流速分布を評価した.さらに,機械学習で精度評価に使用されるF値を河川横断面ごとに算出し,それらの縦断分布と対応する解析水位を比較することで,地被検出精度が洪水流解析に及ぼす影響を分析した.その結果,F値が0.8以上であれば,地被検出精度による影響を受けずに,洪水流解析結果が一定精度を確保できることが示唆された.また,洪水流解析で機械学習の地被分類結果を用いるときの必要条件としてF値を拡張的に適用できる可能性が示された.
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大泉 尚紀, 茂木 大知, 安田 浩保
2022 年78 巻2 号 p.
I_577-I_582
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
開水路の水理は,エネルギー勾配Ieに集約され,Ieはvとhの一対の組み合わせが既知である時に決定できる.従来は運動の式と連続の式の連立から理論的に算定されてきたが,このような理論的に算定されたvとhに基づくIeが実際の水理のIeと合致する保証はない.実測の流水深hを既知としてvを算定できれば,実際の水理に合致するIeが得られたこととなる.そこで本研究では,実測された流水深をマスコンモデルに与え,交互砂州上における平面二次元の流速を推定する手法を提案した.その結果,マスコンモデルにより適切な補正流速が算出されることを確認し,レーザードップラー流速計を用いた流速の計測結果と一致することを確認した.
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岡本 隆明, 松本 知将, 田中 健太, 山上 路生
2022 年78 巻2 号 p.
I_583-I_588
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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本研究では川幅の狭い河川を想定して,1本の橋脚を有する1ピア橋梁を用いて流木集積実験を行った.流木長を系統的に変化させて,1ピア橋梁の径間長に対してどれぐらいの長さの流木がくると流木閉塞するかの限界条件を明らかにした.また流木集積によるせき上げ水深を計測し,ポーラス板の結果と比較することで流木集積による河道閉塞率(流水阻害率)を評価した.流木塊を上から撮影し流木捕捉角を評価し,流木長による流木塊による形状の変化を明らかにした.次にデジタルプッシュプルゲージを用いて流木集積によって橋にかかる力がどの程度大きくなるか調べた.
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山上 路生, 角 哲也, 酒井 良佑, 岡本 隆明, 小柴 孝太, 髙田 翔也
2022 年78 巻2 号 p.
I_589-I_594
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
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河道における沈木の発生機構や動態については,観測データが少なく不明な点が多い.本研究では,発生要因の一つとして堰直下の逆流循環による流木の長時間捕捉に注目し,模型実験によって検証した.堰の上下流の水位差によって逆流循環のスケールが変化し,捕捉率に影響することを定量的に示した.さらに水路実験によって沈木の限界掃流力を評価するとともに,路床に部分埋没した沈木の再掃流条件を考察した.路床に水平に埋没するケースについては,無次元限界掃流力に関する実験式を提案した.また路床に対して斜めに埋没するケースも扱い,沈木のヨー角や迎角が限界掃流力に与える影響を考察した.
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松本 知将, 岡本 隆明, 山上 路生, 岡田 啓頌, 赤堀 良介
2022 年78 巻2 号 p.
I_595-I_600
発行日: 2022年
公開日: 2023/01/25
ジャーナル
フリー
近年河道の樹林化によって種々の問題が発生しており,その発生・進行メカニズムの解明が急務となっている.本研究では流れ場を特徴づけるパラメータとして植生要素の剛性に注目し,室内水路実験を通じてその植生群落周辺における渦構造や浮遊砂堆積過程への影響について検討した.剛性のみを変化させた 4通りの植生流れを対象に実験を行い,鉛直面および水平面PIVによる流速計測と浮遊砂投入実験による浮遊砂堆積領域の観察を行った.流速計測の結果から,剛性が大きく植生の倒伏高さが比較的大きいケースでは,群落後流域の河床付近において水平渦が発達し,横断方向の運動量輸送が鉛直方向の輸送よりも活発になることが示された.また,このような剛性による渦構造の変化が平均流構造および浮遊砂堆積領域を決定することが示唆された.
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