昭和学士会雑誌
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83 巻, 1 号
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原著
  • 細井 政佳, 大林 真幸, 宮原 義典, 藤井 隆成, 喜瀬 広亮, 向後 麻里
    2023 年 83 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー
    フォンタン術後患児における抗血栓療法の安全性情報を提供するため,フォンタン術後患児の抗血栓療法の用法・用量ならびに血液凝固能と出血事象との関係を検討した.2011年3月から2020年9月に,昭和大学病院の小児循環器・成人先天性心疾患センターおよび昭和大学横浜市北部病院循環器センターにてフォンタン手術を受けた患児22例を対象とした.患者背景,抗血栓療法の用法・用量,ならびに術後1年間の血液凝固能の推移を出血群と非出血群で比較した.フォンタン手術時の月齢の中央値は36か月(22-164)であった.術後21例はワルファリンが投与され,その投与量の中央値は0.08mg/kg/日(0.03-0.16)であった.出血事象は9例(41%)に発症し,その発症日の中央値は抗血栓療法開始後10日(1-127)であった.そのうち4例は抗血栓療法の開始日が術後4日目であった.開始時から4週間後までにPT-INR値が2以上の延長を認めた症例は11例,そのうち4例で出血事象が生じ,7例は生じなかった.出血した9例のうち,ワルファリンの投与量は6例が0.1mg/kg/日未満,3例は0.1mg/kg/日以上であり,抗血栓療法開始時と出血時のワルファリンの投与量に大きな違いは認められなかった.また,PT-INR値が5以上の症例は1例であったが出血事象は生じなかった.その症例の投与量は0.1mg/kg/日未満であった.フォンタン術後患児において,ワルファリンの投与量とPT-INR値と出血との関連性はみられなかったが,術後早期はPT-INR値が変動しやすいことが示された.フォンタン術後患児にワルファリンを投与する場合は,抗血栓療法開始2週間以内のPT-INR値に影響を及ぼす要因(ワルファリンの用法用量,アスピリンの併用,術後の循環動態,薬物相互作用)をモニタリングすることが重要である.
  • 増山 英理子, 作田 浩行, 馬谷原 光織, 鈴木 久義, 野中 直子, 下司 映一
    2023 年 83 巻 1 号 p. 10-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー
    高等教育における教育内容が複雑化し,なかでも人を対象とした治療や援助が求められる医療教育は情報量が膨大となっており,より効果的な教育が求められている.作業療法学教育分野では,知識だけでなく技能面の教育もカリキュラムの多くを占めており,その高度化の必要も求められる.2000年に反転授業が導入されて以来,多くの研究では反転した教室が自己学習の加速,学生の満足度および学業成績の向上といった成果を報告している.
    今回,教育方略の候補として反転授業に着目し,必要となる動画教材の作成を目指し,学習者や指導者の受け入れ状況,教育的効果を双方のピアレビューにより検討した.学習者の対象はすでに「関節可動域検査」を従来の教授法にて履修修了した学生15名(以下模擬学生),および指導者の対象は臨床実習時に学生指導を行う教員(以下臨床教員)6名が参加した.動画教材は,作業療法評価の関節可動域検査の中で,実習で特に頻度が高く,より高い技能の修得が求められている関節可動域検査課題を取り上げた.動画教材における実際の使用感やその内容に関する質問紙を作成した.
    模擬学生と臨床教員の質問紙より,動画教材で用いられた矢印やラインなどの表示,ナレーションは良い点として評価された.今後このような教材を使うことについて模擬学生は「使いたい」と回答しており,臨床教員もこの教材が学生の理解の助けになることを示していた.一方,動画教材の内容改善について模擬学生と臨床教員から具体的な意見が集約された.学習者と指導者側の双方から示された指摘であり,今後の改善により動画教材の教育的効果はより高まることが予想された.ただし,今回は指導者,学習者ともに一部の意見聴取にとどまっており,将来的な反転授業導入の際には事前学習教材の質の担保や満足度および反転授業における教育的効果について,追って調査を進めていく必要がある.
  • 井川 渉, 磯村 直栄, 齋藤 惇平, 嶋津 英, 木村 太朗, 大山 祐司, 小野 盛夫, 木戸 岳彦, 荏原 誠太郎, 岡部 俊孝, 山 ...
    2023 年 83 巻 1 号 p. 20-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー
    急性冠症候群では十分な抗血小板作用が必要だが,血小板機能と晩期内腔損失(Late lumen loss:LLL)の関連を調べた報告は少ない.本研究の目的は血小板機能と主要心脳血管イベント(Major Adverse Cardiac and cerebrovascular event;MACCE),LLLの関連を検証することである.急性冠症候群を発症し,Everolimus-eluting stent(EES)もしくはBiolimus-eluting stent(BES)を留置した連続138人を対象とした.術後2から4週間後にPlatelet reactivity units(PRU)を測定した.術後12か月で追跡冠動脈造影を施行した.PRU 221未満をLow platelet reactivity(LPR)群,221以上をHigh platelet reactivity(HPR)群とした.LPR群83人,HPR群51人であり,術後12か月でのMACCE発症率に有意差はなかった (1% vs. 5%,P=0.15).定量的冠動脈造影法ではHPR群で有意にLLLが大きく(0.04±0.37 vs. 0.19±0.38,P=0.02),EESではLLLに差を認めなかったが,BESではHPR群で有意にLLLが増大していた(0.03±0.57 vs. 0.30±0.72,P=0.004).LLL≧0.5mmのリスクを検討し,単変量解析・多変量解析共にHPR (単変量解析:Odds ratio 3.34, 95% CI:1.21-9.16,P=0.01, 多変量解析:Odds ratio 6.05, 95% CI:2.00-18.31,P=0.001)がリスク因子であった.HPRが冠動脈イベントリスクになることが示唆された.
  • 大石 竜, 錦織 恒太
    2023 年 83 巻 1 号 p. 30-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー
    膠原病関連間質性肺炎(CVD-IP)における,ポリミキシンB固定化繊維カラムを用いた直接血液灌流法(PMX-DHP)の有効性を検証するとともに,CVD-IPに対するPMX-DHPの導入基準を追究した.PMX-DHPを実施したCVD-IPの急性増悪12例を対象に,基礎疾患,生命予後,動脈血酸素分圧/吸入酸素濃度比(P/F ratio),CRP,CT pattern等について,後方視的に比較した.基礎疾患は,皮膚筋炎(DM)5例,関節リウマチ(RA)5例,全身性エリテマトーデス1例,重複症候群1例であった.28日後の生存例は5例,非生存例は7例であった(生存率41.7%).基礎疾患別の生存率はDMで80.0%,RAで20.0%であった.P/F ratioは,PMX-DHPによりすべての症例において上昇した.さらに,PMX-DHP実施前P/F ratioは,DMで320.0mmHg(199.1-364.4),非DMで90.1mmHg(58.9-140.8)とDMで有意に高値であった.また,CRPはDM 1.1mg/dl(0.8-1.7),非DM 7.1mg/dl(4.1-18.3)とDMで有意に低値であった.一方,CT pattern別では,非特異性間質性肺炎の生存率は80.0%(5例中4例生存)であったが,各項目において有意差は認められなかった.CVD-IPの急性増悪に対するPMX-DHPは,肺線維化の進行を防ぎ酸化能の改善に寄与した可能性が考えられた.特に,DMでは生命予後改善に対してより有益であると考えられた.一方,全例でP/F ratioが改善したことから,重症度を問わない有効性が示唆された.CVD-IPにおいては,すべての症例において早期からPMX-DHPを導入することで,生命予後改善の可能性が期待された.特に基礎疾患がDMまたはCT patternが非特異性間質性肺炎では,積極的に導入すべきであることが示唆された.
  • ―東日本大震災に関する一考察―
    田中 周一
    2023 年 83 巻 1 号 p. 43-50
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー
    東日本大震災からすでに十年あまりが経過した.ここまでの日々を振り返るとき,震災当初の全国民的な「絆」意識の高まりは過去のものとの印象が強い.こうした日本人の心の変化は,歴史的にみると現在に始まったものではない.鎌倉時代の名著として知られる鴨長明の『方丈記』は,そのかなりの部分が各種の自然災害の記述にあてられているが,そこに綴られた出来事のひとつである元暦大地震とその震災に対する人心の変化は,ひとことで言えば忘却である.関東大震災直後に内村鑑三は,帝都を壊滅させた震災をひとつの罰ととらえるとともに,その代償として得たものが良心であると説いた.しかし,その後の日本は植民地を拡大し,未曽有の大戦へと突き進む.今回の大震災に際しても多くの思考が多種多様なかたちで表明されたが,それ自体はこれまでの歴史の中で繰り返された情念とそれに基づく言動の再現にほかならない.こうした繰り返しに終始することの限界,および,それを超えるものとしての科学的認識の重要性を確認する.
症例報告
  • 佐藤 義仁, 大塚 耕司, 五藤 哲, 有吉 朋丈, 山下 剛史, 茂木 健太郎, 加藤 礼, 広本 昌裕, 斎藤 祥, 藤政 浩一朗, 村 ...
    2023 年 83 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー
    患者は79歳女性.約1年前に,手指消毒用アルコールジェルの誤飲.その後に嚥下困難感が出現し近医受診し,腐食性食道炎の疑いにて経過観察されていた.3か月程前から嚥下障害・嘔吐が強くなり近医受診し,上部消化管内視鏡検査で胸部上部食道にびらんを伴う潰瘍と狭窄が観察され,精査加療目的に当院紹介受診された.当院での上部消化管内視鏡検査では切歯列21-25cmに潰瘍を伴う全周性狭窄を認め,経口内視鏡(OLIMPUS社 GIF-XZ1200)は通過しなかった.経鼻内視鏡(OLIMPUS社 GIF-1200N)で行った生検では悪性所見は認めなかった.内視鏡的拡張術を含め内科的治療では改善が期待できず,本人・家族より外科的治療の希望があり,胸腔鏡下食道亜全摘術・後縦隔経路胃管頸部食道再建術を行った.術後病理結果では,悪性所見は認めず,上部食道に高度狭窄部位を認めるのみであった.手指消毒用アルコールジェルが原因と考えられる腐食性食道炎後の高度狭窄に対して外科的治療を行った報告例はなく,良好な結果を得たので報告する.
短報
  • 宮村 知弥, 板倉 桃子, 宮崎 知哉, 藤井 良将, 堀 祥子, 中尾 紗由美, 小林 友紀, 池本 舞, 水谷 あかね, 田内 麻依子, ...
    2023 年 83 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー
    成熟奇形腫に卵巣甲状腺腫が合併する頻度は約2.7%とされるが悪性卵巣甲状腺腫の合併は稀である.悪性卵巣甲状腺腫の好発年齢は40〜60代である.今回われわれは成熟奇形腫の甲状腺成分が乳頭癌へ悪性転化した1例を経験したので報告する.症例は56歳女性.1妊1産.54歳に閉経.発熱があり近医を受診し,卵巣腫瘍が指摘されたため当院を紹介受診した.骨盤MRIでは両側卵巣の成熟奇形腫が疑われた.左卵巣には35mmの多嚢胞性腫瘤を認め,脂肪成分と,一部T2強調像で著明な低信号を呈する部位があり,成熟奇形腫の他にBrenner tumorや,内膜症性嚢胞が鑑別にあがった.腫瘍マーカーは正常であった.両側卵巣成熟奇形腫の診断で腹腔鏡下両側付属器摘出術を実施した.病理診断は,右卵巣腫瘍が良性粘液性嚢胞腺腫を合併した成熟奇形腫であったが,左卵巣腫瘍は成熟奇形腫に合併した甲状腺乳頭癌であった.3か月後にStaging Laparotomyを実施し手術進行期Ⅰa期の診断とした.術後の後療法は行わず経過をフォローしている.今回われわれは,腹腔鏡下手術後に悪性卵巣甲状腺腫と診断した症例を経験した.40歳以上の卵巣成熟奇形腫の症例には悪性転化を認めることがあるため,術前に良性卵巣腫瘍が疑われても,特に充実性成分を認める場合は悪性卵巣腫瘍の可能性を念頭に入れ治療をする必要があると考えられた.
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