高等教育における教育内容が複雑化し,なかでも人を対象とした治療や援助が求められる医療教育は情報量が膨大となっており,より効果的な教育が求められている.作業療法学教育分野では,知識だけでなく技能面の教育もカリキュラムの多くを占めており,その高度化の必要も求められる.2000年に反転授業が導入されて以来,多くの研究では反転した教室が自己学習の加速,学生の満足度および学業成績の向上といった成果を報告している.
今回,教育方略の候補として反転授業に着目し,必要となる動画教材の作成を目指し,学習者や指導者の受け入れ状況,教育的効果を双方のピアレビューにより検討した.学習者の対象はすでに「関節可動域検査」を従来の教授法にて履修修了した学生15名(以下模擬学生),および指導者の対象は臨床実習時に学生指導を行う教員(以下臨床教員)6名が参加した.動画教材は,作業療法評価の関節可動域検査の中で,実習で特に頻度が高く,より高い技能の修得が求められている関節可動域検査課題を取り上げた.動画教材における実際の使用感やその内容に関する質問紙を作成した.
模擬学生と臨床教員の質問紙より,動画教材で用いられた矢印やラインなどの表示,ナレーションは良い点として評価された.今後このような教材を使うことについて模擬学生は「使いたい」と回答しており,臨床教員もこの教材が学生の理解の助けになることを示していた.一方,動画教材の内容改善について模擬学生と臨床教員から具体的な意見が集約された.学習者と指導者側の双方から示された指摘であり,今後の改善により動画教材の教育的効果はより高まることが予想された.ただし,今回は指導者,学習者ともに一部の意見聴取にとどまっており,将来的な反転授業導入の際には事前学習教材の質の担保や満足度および反転授業における教育的効果について,追って調査を進めていく必要がある.
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