オープンサイエンス(OS)の進展に伴い,研究者のOS の実践をモニタリングする指標の構築が課題となっている.海外では,これらの指標を,大学等の研究機関が研究評価指標として利用できるダッシュボードの提供が進む.本研究は,このような指標への国内ニーズを明らかにすることを目的とする.まず海外機関向けダッシュボードのユーザに対応する,国内の図書館員(LB)とリサーチアドミニストレータ(RA)に,インタビューと質的分析を行った.次に,分析結果に海外機関向けダッシュボードの指標区分をフレームワークとして適用し,LB とRA のニーズの違いと,国内ニーズ指標と海外提供指標の違いを分析した.LB には,OS の実践をモニタリングする指標の利用が見られ,海外で提供されるFAIR 原則遵守の細目に関する指標ニーズは見られなかった.RA には研究評価への指標利用と問題点が多く挙げられた.国内独自のニーズに,日本語の論文数・引用数等があった.
近年,予測不可能な時代と言われる中で,ソフトウェア開発は,不確定要素を含む案件や戦略的製品・サービス開発のために,アジャイル型開発モデル(以降: アジャイル開発)で開発を推進する企業が増大している.一方,日本企業では情報システム構築の際,ITベンダに委託する,もしくは,一部を委任する形態が定着しており,双方の意識の相違から生じるコンフリクトに関わる研究も確認される.この形態はDXをアジャイル開発で共創する今日も変わっていない.本研究では,アジャイル開発において,ユーザ企業,ITベンダ間でのコンフリクトの要因となりえる意識の相違はないかを問いとした.そこで,アジャイル開発を推進する企業の実務家8名にインタビュー調査を実施し,語彙の頻出度による分析を行った.その結果,ユーザ企業側では,経営,投資に対する意識が高く,ITベンダ側では,予算,チーム,プロダクト,契約,お客に対する意識が高いことが明らかになった.
本研究の目的は,日本の科学研究を支えてきた科学研究費助成事業に参画する大学教員について,多様化の現状と,それをもたらした外部及び内部要因を分析することにある.具体的には,KAKEN(科学研究費助成事業データベース)の職名情報を用いて,教員の職務や身分の変遷を定量的に分析した.その結果,教育研究以外の職務の追加や役割分担の進展,身分の複雑化が観察された.また,多様化の外部要因として,若手・女性研究者の活躍推進や大学経営の改革を強調する科学技術政策との関連性が確認された.さらに,研究活動の維持を目指す大学側の戦略が,内部要因として職名や身分の複雑化に寄与していることが示唆された.KAKENに含まれる職名情報は,表面的には単なるラベルに見えるが,研究教員の多様化を明らかにする情報資源としての潜在的価値を示している.
日本でインターネットが社会に普及する以前の短い期間,個人向けのデータ通信サービス−いわゆる「パソコン通信」が人気を集めた.筆者は,1990年代前半に大手のサービスであったNIFTYServeに加入し,比較的アクティブな利用者としてネットワークを通じたコミュニケーションを経験した.この時期の経験は,その後のインターネット社会において,筆者がネットワークを利用しながら,学術的な仕事を進めてゆく上での,基礎を形作っている.本稿ではパソコン通信時代に参加したコミュニティを回想し,あらためて「社会」としてのネットワークを考えるための,多少の手掛かりが提供できればと考える.