ガソリンが床面に散布された場合には,既に蒸発して気相に拡散した可燃性混合気による火災危険性についても考慮する必要がある。本研究では,散布ガソリンから発生するガソリン蒸気を不燃化するために,低揮発油を配合した水成膜泡消火薬剤(ハイブリッド燃焼抑制剤)を散布ガソリンに散布する方法を提案した。まず,ガソリンに低揮発油を混合した場合の蒸気圧変化を測定した。次に,ハイブリッド燃焼抑制剤によるガソリン蒸気吸収実験を行い,ハイブリッド燃焼抑制剤によるガソリン蒸気吸収現象のモデル化によって蒸気吸収係数を導出した。さらに,ハイブリッド燃焼抑制剤を用いて散布ガソリンに対する着火実験を実施し,ハイブリッド燃焼抑制剤の燃焼抑制効果について検討した。ハイブリッド燃焼抑制剤の散布によって,ガソリン蒸気が吸収されて燃焼が抑制されることが確認できた。
本研究は,開口噴出熱気流による庇状部材に対する加熱性状に関する研究である。火災実験では,実大スケールを利用した庇状部材の先端面下にH形鋼梁を配置した条件であり,開口寸法,庇寸法,手すり,火源条件を変化させた。実験結果,庇状部材面下を這う開口噴出熱気流について,Alpertの天井ジェットモデルを無次元モデル式を導出し,実験値と計算値を比較した結果,概ね一致する傾向がみられた。また,庇状部材面下の火炎長さの代替とした500°Cの位置を利用し,H形鋼梁への入射熱流束に関するq"H.web とLHF/Lf の相関関係を導出した結果として自由空間での天井部材の入射熱流束に関する結果と概ね一致する傾向がみられた。
近年,トンネル火災の被害低減に向けた研究として,散水システムの効果が多くの関心を集めている。この研究では,CFDモデルを利用し,トンネル内における水噴霧システム,集中換気システム,様々な車両閉塞条件をパラメータとし,重量物運搬車両(HGV)火災時の影響について,数値解析が行われた。HGV火災時の発熱速度は,最大で100MWとなるように設定した。車両閉塞条件,すなわち火源付近の車両断面積の比率は,9.8%,21.7%および33.6%の3条件について解析を行った。数値解析は,種々の火災シナリオに対し,煙流動,温度分布,CO濃度分布,および視認性を対象とした。車両閉塞条件,散水条件,集中換気システムの作動有無など,7ケースについて分析が行われた。この研究において,避難安全性については,温度分布と視認性が重要な要素であることが示唆され,また避難安全限界条件の評価については,異なる火災シナリオを比較するために,Efectis Nederland BV の指標が用いられた。
火災及び消火活動に関する多くの研究は,個々の要素を対象にし,その特性を詳しく研究している。一方で,実際の火災及び消防活動の報告が火災統計として整備されており,これは火災や消火活動のプロセス全体を概略的に示したものである。ゆえに,火災統計を包括的に分析することによって,実火災における出火から鎮圧までの火災や消火活動のプロセス全体の関係構造を体系的に理解することができる。本研究では,重回帰分析及び共分散構造分析によって,火災統計から,放水開始から鎮圧までの時間に対して,火災や消火活動の各要素間の関係構造を明らかにする。その結果,あてはまりのよい共分散構造モデルが得られ,火災統計には記録されない潜在的要素が関係構造の重要な要素となり,それは火勢であると推測された。