霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
選択された号の論文の79件中51~79を表示しています
ポスター発表
  • 藤野 健
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P18
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    【はじめに】ヒトと大型類人猿(ヒト科)では上腕骨が遠位端に向かうにつれ捻れ、ヒンジ関節としての肘関節を構成する上腕骨滑車の回転軸が内旋している(humeral torsion)。これは肩甲骨が胸郭の背側に位置し肩関節が側方を向いた状態で上腕骨頭が関節していても、前腕より遠位部を胸郭の外側方にではなく胸郭前方に配置することを可能とさせる。一方、小型類人猿のテナガザル(テナガザル科)では上腕骨のtorsion が観察されず、前腕は屈曲に伴い体幹の前外側方に突き出る。共通祖先から如何にこの違いが派生・成立したかを考察した。
    【アジアのコロブスとの比較】腕渡り+二足歩行性を示すアカアシドゥクラングール並びにキンシコウでは,胸郭は扁平化せず、肩甲骨はその側方に配置する。 torsionを示さない上腕骨に関節する前腕骨は屈伸に伴いほぼ傍矢状面上を回転運動する。
    【humeral torsionの機能的意義】ヒト科に於けるhumera torsionの成立は幹を前肢で保持しての垂直移動動作並びにこれを通じての二足歩行に資する後肢強化に、また体幹前方に拳を握り指背を地面に着けるナックルウォーキングの成立には有利な改変であり、他方、テナガザルの無torsionは高度な腕渡りに対する適応的利点を含むと考えられる。
    【テナガザル科とヒト科との分岐】以上から、ヒト上科の共通祖先では胸郭の扁平化は進んでおらず、前腕が傍矢状面上で動作する初期段階の腕渡り+二足歩行者であったが、腕渡りに習熟が進んだ小型類人猿に二次的にtorsionが加えられヒト科が成立した、或いはヒト科のtorsionが失われテナガザル科が派生したのではなく、小型類人猿は胸郭を扁平化しつつもhumeral torsionを生ぜず、一方、ヒト科では胸郭の扁平化+humeral torsionをセットとする進化に向かったと考えた。

  • 平崎 鋭矢, Sellers William I.
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P19
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    手はマニピュレーション器官であるとともに、ヒト以外の動物においては重要なロコモーション器官でもある。したがって、手の進化を理解するためには、マニピュレーション時とロコモーション時の手の動きを分析し、 2つの大きく異なる力学的要請の下で手が取る戦略を探る必要がある。本研究では、拇指を含む手の各部位がロコモーションにどのように寄与しているかを調べるために、ニホンザル2頭(成体オス) を被験体として、木製歩行路での四足歩行、水平ポール(直径49mm) 上での四足歩行、および垂直ポール(直径49mm) 上での木登りの際の手指手掌圧分布を、圧力マット(Bigmat 1/4、ニッタ) を用いて空間分解能5mm で計測した。 速度の統制は行わず、被験体が自然な速度でシンメトリカルな歩行を行った際のデータを分析した。これまでに得られた結果から、各指のロコモーションへの寄与の程度は、拇趾と他の指の間でロコモーション様式によって異なることが明らかになった。水平ポール上を歩くとき、拇趾は身体を支持し、安定させるのに大きく関与していた。拇指はポールを挟んで他の指と反対側に配置され、拇指と外側指の中手骨頭付近、および手掌の外縁でポールを把持してた。拇指以外の指は、ポールと接触していたが、力はほとんど加えられていなかった。一方、垂直登攀時には、親指は他の指と並んだ姿勢で支持体に接して、圧を見る限り支持力や推進力の発生にはほとんど関与していないようであった。 垂直登攀時には第2~5指が高い圧を示しており、重要な役割を果たしていることが示唆された。水平歩行路上での四足歩行では、体重や床反力のほとんどが指間パッドを介して伝達されているようで、拇指や他の指のロコモーションへの寄与は小さいようであった。 拇指のロコモーションにおける重要性は、今回の計測条件の中では、水平ポール上歩行で最も高く、垂直木登りで最も小さかった。

  • 江村 健児, 平崎 鋭矢, 荒川 高光
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P20
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    我々はこれまで浅指屈筋の筋束構成や支配神経パターンについて調査し、浅指屈筋の筋束構成は霊長類種間で異なるが、筋内を含む支配神経パターンには一定の共通性があることを明らかにした(江村ら, 2017; Emura et al., 2020)。今回我々は、類人猿の浅指屈筋の進化の一端を明らかとするためニシローランドゴリラの浅指屈筋における筋束構成と支配神経パターンを調査した。ニシローランドゴリラ成体オス1 頭の左浅指屈筋を用いた。浅指屈筋の起始、停止、筋束構成、支配神経を肉眼的に観察し、スケッチとデジタル画像で記録したのち、支配神経とともに一括して摘出した。 その後、実体顕微鏡を用いて支配神経の筋内分布を追求し記録した。本研究は京都大学霊長類研究所共同利用・共同研究及び大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)を通じて行われた。浅指屈筋は第2指から第5指に停止腱を送った。各指にはそれぞれ独立した筋腹が停止腱を送ったが、近位部では互いに一部癒合していた。 浅指屈筋全体が主に内側上顆から起始したが、第3指への筋腹には橈骨から起始する筋束と鈎状突起から起始する筋束も合流した。第4指への筋腹と第5指への筋腹が最も浅層に並んで位置し、それらの深層に重なって第3指への筋腹、そのさらに深層に第2指への筋腹が位置した。第2指への筋腹は中間腱をもち、二腹筋の形態を呈した。全ての停止腱はそれぞれ内側外側に分かれて中節骨体に停止した。第2指の近位筋腹には正中神経近位からの枝が入り、遠位筋腹には正中神経遠位から分岐した短い枝が入った。近位で正中神経から分岐し第3指筋腹を支配した枝の一部が筋束を貫いて第4指筋腹に伸び、さらに筋内で第5指筋腹へ至った。 第2指への筋腹のみが二腹筋の形態を呈する筋束構成は他の霊長類における既存の報告とは異なるが、筋内を含む支配神経のパターンには他の霊長類での報告との共通性が認められた。

  • 木村 直人, 山田 将也, 藤森 唯, 武田 康祐, 岡部 直樹, 新宅 勇太, 伊谷 原一
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P21
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    剖検症例を用いて調べられた日本人の年齢群別の臓器重量の調査によると,腎臓の臓器重量は50歳前後にピークがあり,80歳以上の年齢群まで漸減傾向にあったことが報告されている。年齢群別の諸臓器の発育と老化を知ることは人における福祉や医療にとって重要な情報のひとつとなっている。一方,サル類においては同様の調査はほとんどみられず,カニクイザル(Macaca fasciculalis)においても実験室内で飼育された個体の発育期のデータをまとめたものがあるくらいで,屋外放飼あるいは群れ飼育された個体における幼年期から老年期にいたるまでの臓器重量の推移調査は見当たらない。日本モンキーセンターでは,1958年からカニクイザルの群れ飼育を開始し,現在まで継続している。この間,生年月日や死亡年月日などの個体の情報や剖検記録などの資料が長期的に蓄積されてきた。本研究では,臓器重量の加齢性変化から各臓器が衰えを迎え老化に向かうターニングポイントをつかむことを主な目的とし,①カニクイザルの剖検録から生年月日と死亡年月日が明らかな65個体を対象に,脳・脾・肝・心・腎といった諸臓器の所見を精査し,病変記述のない臓器(死亡時に異常のみられない臓器)の重量データを抽出,②死亡時年齢と臓器の重量をプロットし,臓器の発育と衰えの様子を視認化,③必要に応じて体重補正を行いながら,相関曲線から臓器重量のピーク時年齢を求めた。その結果,臓器重量の増減には,(ⅰ)主に加齢と体重の多寡に伴って増減する臓器(肝,心,腎),(ⅱ)体重の多寡に影響されずS字状に増減する臓器(脳,脾),の2つのパターンに分類された。また,臓器重量が減少に転ずる年齢は肝臓で18.9歳,心臓で19.4歳,腎臓で20.2歳であった。これらのことからカニクイザルの老化に向かうターニングポイントは19歳前後の時期にあることが推察された。

  • 松本 卓也
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P22
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    ヒト(Homo sapiens)の生活史の特徴として、離乳後も独立した採食者とならず他個体から与えられる食物に依存するチャイルド期の存在が想定されてきた。一方で、集団差はあるものの、狩猟採集民の子は離乳後早い段階から、オトナから分配される食物以外にも、子だけで食物を獲得・消費していることが近年指摘されている。本研究は、ヒトの進化過程において、オトナから与えられる食物以外での子自身の食物獲得がどの程度重要だったかについて洞察を得る目的で、野生下のチンパンジー(Pan troglodytes) の子が、間接的な食物分配と考えられる母親との同時採食以外の場面で採食をする行動を詳細に分析した。調査対象は、マハレ山塊国立公園M集団の野生チンパンジーの子19個体である。対象個体の年齢は、母乳以外のものを食べ始める時期の0.5歳から、乳首接触の終了時期の6歳までとし、母乳への栄養的な依存度が大幅に減少すると考えられている3歳の前後で発達変化を分析した。 その結果、野生チンパンジーの子は、母親との同時採食と比べて1回の採食バウト長は短いものの、母親と異なるタイミングで、オトナの食べない食物を含めてアベイラビリティの高い植物種を食べており、その傾向は3歳以降でより顕著になっていた。これらの結果は、野生チンパンジーの子が、母親と常に一緒に遊動しなければならないという社会的状況の中で、母親と異なるタイミングで採食をする(いわば「間食」をする)ことで、消化器官が未発達なためオトナの採食リズムに完全に合わせて食べることができないという問題を克服していることを示唆する。本研究結果は、野生チンパンジーの子が自身の置かれた状況に応じてオトナと異なる機会主義的な採食をしている点で狩猟採集民の子と共通しており、ヒトとチンパンジーの進化過程において、子自身の採食が適応的な役割を担ってきた可能性を示唆する。

  • 吉田 洋, 蔵岡 登志美
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P23
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    2019年秋季、山梨県南都留郡富士河口湖町において、ニホンザルによる人身被害が発生した。被害を発生させているグループ(以下「船津グループ」と称す)は目撃情報から、オトナメス1個体、ワカモノオス1個体、性別不明のコドモ1個体の計3個体で構成されると推測され、そのうち人間に直接接触していたのは、オトナメス1個体のみであった。人身被害は、サルに噛まれたり背中に乗られたりするなど、人間に直接接触した被害が7件、人間を追いかけるなど接触を含まない被害4件が、10月21日~26日、11月18日~ 21日に発生し、人間が直接攻撃される攻撃は、オトナメスを捕獲した11月20日以降、発生していない。このことから、被害レベルが最も高い個体の捕獲により、「船津グループ」の被害レベルが低下したと考える。 また被害は、同町の船津地区と浅川地区のみで発生していることから、「船津グループ」は隣接する「吉田群」から分派した可能性が高い。「吉田群」が利用せず、「船津グループ」のみが利用するホテルの廃屋内にて、 2020年8月5日までサルが2か月に1回程度の頻度で、センサーカメラで撮影もしくは調査員に目撃されていることから、オトナメス捕獲後も被害がないものの、グループは存続していると考える。 本事案の発生要因として、1)2016年12年に浅川地区に大方囲い罠が設置され、無差別に「吉田群」のメンバーが大量捕殺されるようになり、群れの分裂が発生しやすい状況になったこと、2)2008年12月から「吉田郡」に対して行っていたモンキードッグによる追払いが、町役場の方針により発信器を装着したサルが捕殺対象となったことで、2012年8月には継続不能になり、その結果、サルが人里や人間を恐れなくなったことの2点が考えられる。

  • 中道 正之, 上野 将敬, 山田 一憲
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P24
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    勝山ニホンザル集団において1990年から2020年までの30年間にアドリブ法で記録した中心部成体オスによる1歳未満の子ザルに対する抱き、運搬、または毛づくろいを伴う親和的な行動をmale-careとして分析した。合計21ペアのオス・子ザルペアを分析対象とした。当該期間に中心部オスであった31頭( 出自はすべて勝山集団)の中で13頭(42%)がmale-careを行っていた。male-careの対象となった子ザルの84%がメスであった。male-careのあった94%のペアで、オスと子ザルは異なる母系血縁系に属しており、子ザルの母ザルの89%はメスの中で低順位であった。malecareの記録されたオスと子ザルのペアの71%において、male-careが最初に確認されたのが1月から3月の交尾期の終盤期から出産期直前の時期であった。 male-careの最後の記録が生後2年目の1月から8月であったのが16ぺア(76%) であり、他の5ペアでは子ザルが2歳になってからも続いていた。 21ペアのうちの12ペアにおいて、子ザルの母ザルとオスとの間に毛づくろいがあったかどうかを調べることができた。male-careの最初の記録の前後6カ月間にオスと子ザルの母ザルの間で毛づくろいが一度も記録されなかったのが4 ペア、両方の時期で毛づくろいのあったのが5 ペアあった。残りの3 ペアは、male-care 開始時期の前後どちらかの6 カ月間に毛づくろいが記録されていた。 母ザルが失踪した3日後に、生後9カ月のメスの子ザルへのmale-careが初めて観察され、少なくとも1年半以上male-careが持続し、さらにこのメスがオトナになってから出産したメスの子ザルに同じオスがmale-careを開始したという事例もあった。これらの結果をもとに、オスと子ザルのそれぞれにおけるmale-careの意味を考察した。

  • 香田 啓貴, 荒井 迅, 松田 一希
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P25
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    霊長類の社会集団を観察する際に、特定の場所を一列になって通過するような事態(道路を通過したり、森林中の特定の場所を順次通過するような場面)は、時折観察経験される事態である。この隊列的順序には、多くの場合、なんらかの規則性が存在することが多く、社会的な近接な関係性を反映していると推察できる。今回我々は、数値実験を通じて、この隊列的な個体通過順序をどれぐらいの観察回数を重ねることで社会構造を可視化できるかについて検証した。数値実験では、霊長類集団の空間構造が混合正規分布より生成され、移動の際は、個体が逐次移動する際の規則として、最近傍個体が移動するという規則を仮定し、その移動における個体順序の観察を繰り返すことで、混合正規分布のパラメタ推定(クラスタサイズ)がどの程度可能かどうかを確かめた。具体的には、個体間で強い依存関係がなく振る舞う個体(独立した成体などを想定する)と、特定の個体にたいして依存して振る舞う個体(母親に依存する幼体などを想定する)の、混合状態にあると単純仮定し、この際の群の空間配置が混合正規分布に従うとした。最近傍個体が逐次移動するという単純規則については、最初の移動する個体のみランダムに選び出し、その後移動する個体は、常に直前の移動個体の最近傍個体が移動するという単純な規則を仮定した。前者の空間構造については、生体メスが複数存在し、その娘など血縁個体が近接する状況(霊長類の社会集団で多く観察される現象)を仮定しており、移動規則についてはCollective movements(集合的意思決定移動、霊長類の移動規則として近年重要とされる機構)を仮定した。クラスタ推定には、高速な推定手法として知られるLouvain法により実施した。 実験結果は、30回程度の観察で、クラスタ数、すなわち、独立的に振る舞う個体数とその下位集団が、適切に推定できた。また、この点については、Louvain法で採用されている凝集性指標の数学的定義をしらべ、たしかに、一定の条件を満たす時(依存的個体の依存性パラメタが大きいことや、集団サイズが小さすぎないが、大きすぎない一定の範囲にあること)に、観察回数が少なくとも推定力が高い点を、解析的に示すこともできた。30回程度という数は、実際の野外研究などで、観察可能な回数の範囲でよいこと(30回の隊列観察を実施すると推定できる可能性)を示しており、その点から、このような隊列的順序を観察できる環境をつくることで、未知の社会集団の階層構造を推定するのに重要な手法になりえることを示唆した。

  • 徳山 奈帆子, 戸田 和弥, Poiret Marie, Bahanande Iyokango, 石塚 真太郎
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P26
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    母親を亡くした子どもへの養育行動は、稀ではあるが霊長類に広くみられる行動である。特にそのような養育行動が特定の一個体により行われる場合、「養子取り行動」と呼ばれる。養子取り行動は養母(オスの場合もある)と養子の血縁関係、未経産メスにより行われる場合は子育ての練習、または生母と養母の間の社会関係で説明されることが多い。本発表では、コンゴ民主共和国ルオー学術保護区(ワンバ)において観察された、2事例の養子取り行動について報告する。 事例1(2019.4~) では、自分のコドモ2頭(2.1歳メス、 4.8歳メス) を持つ母親であるMarie(PE集団) が、出身集団不明のFlora(推定2.6歳メス)を養子とした。 Marieは運搬、授乳、毛づくろいや食物配分など母親からコドモに対して行う養育行動をFloraに対して行った。事例2(2019.10~) では、閉経後と考えられる老メスChio(PW集団)が、出自集団不明のRuby(推定3.0歳メス) を養子とした。乳の分泌は行われていないと考えられるものの乳首接触がみられたほか、運搬や毛づくろいなどの養育行動が観察された。両事例とも、集団の他個体から養子への攻撃的な行動は見られなかった。mtDNAの分析により、両事例とも養母と養子の間に母系の血縁関係はないことが分かった。 また両事例とも生母の生死は不明である。 このような養母が自らと異なる集団のコドモを養子とする事例は、大型類人猿では初めての観察である。両事例とも、養子取りは血縁関係や子育ての練習が要因となって起こったとは考えにくい。集団間の出会いによる生母との社会関係が存在した可能性はある。他集団個体に対する高い寛容性や母性本能、利他的な行動傾向などボノボの持つ様々な特徴が、他集団のコドモを養子とすることを可能にしたのかもしれない。

  • 栗原 洋介, 兼子 明久, 夏目 尊好, 愛洲 星太郎, Broche Nelson, 本田 剛章, 伊藤 毅, 澤田 晶子, 半谷 吾郎
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P27
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    群れで暮らす動物は、群間攻撃交渉を通して、食物資源や配偶相手を獲得できる利益を得る一方で、ケガのリスクやエネルギー消費量の増加などのコストを負う。 とくに近年、群間攻撃交渉に負けた群れは移動コストの増大を強いられることがわかってきた。屋久島海岸域にすむニホンザルでは、群間エンカウンターに負けやすい小さい群れが繁殖に不利であり、群間攻撃交渉のコストが適応度にまで影響すると考えられている。しかし、群間エンカウンター直後の移動パターンの変化はこれまで検討されていない。そこで、本研究では群間エンカウンターの勝敗がニホンザルの移動パターンにあたえる影響を解明することを目的とした。2017年・2018年に屋久島・西部林道に生息するニホンザル(3群のべ9個体)を捕獲し、GPS首輪を装着して、各年4ヶ月間位置情報を収集した。測位は10分間隔で、全個体同じタイミングに行った。異なる群れに属する個体が一定距離(100-225m)内に近接している間を群間エンカウンターと定義し、エンカウンター後 10分間の移動距離が30m以内である群れを勝者と定義した。この定義を用いて、GPSデータより群間エンカウンターを抽出し、勝敗を判定した。敗者は、勝者よりもエンカウンター後の移動距離が長く、より離れた場所まで移動していた。エンカウンター後の移動の直線性にエンカウンターの勝敗は影響していなかった。 本研究は、屋久島のニホンザルにおいて、移動コストの増大が群間エンカウンターに負ける短期的なコストとなっていることを示した。エンカウンター後も移動の直線性が変わらなかったことから、相手群から逃避するための直線的な移動を行うのは短時間で、相手群と同じエリアを利用するのを避けるために、より遠いエリアへと移動していたと考えられる。

  • 郷 康広, 辰本 将司, 石川 裕恵
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P28
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    ヒトをヒトたらしめる分子基盤の解明のために,ヒトと類人猿の脳内発現遺伝子の転写産物(アイソフォーム)レベルの比較解析を行い,既存の参照ゲノム配列やデータベース上の遺伝子構造モデルに依存しない手法による選択的スプライシングの多様性解析を行うとともに,ヒト特異的新規発現エキソンの同定とその生物学的意義を解明することを目的とした.ヒト,チンパンジー,ゴリラの死後脳8領域(前頭前野背外側部,下前頭回,運動前野,一次視覚野,前帯状皮質,海馬,線条体,小脳)を用いてロングリードシーケンサーを用いたIso-Seq法による完全長cDNA配列決定も行った.ヒトとチンパンジーで得た配列データを用いて解析を行ったところ,(1)完全長アイソフォームをそれぞれ66,177個,62,679個,54,544個同定し,そのうちヒトにおいては0.9%,チンパンジーでは2.6%のアイソフォームが新規アイソフォームであること,(2)ヒトおよびチンパンジーのみに発現するエクソンを持つ遺伝子がそれぞれ373個,550個存在することを明らかにした.

  • 櫻庭 陽子, 近藤 裕治, 長野 太輔, 福原 真治, 足立 幾磨, 林 美里
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P29
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    事故や病気,高齢等によって身体に大きな障害を伴う飼育下動物において,飼育・ケアの環境は重要である。 社会的な環境で暮らすチンパンジーの場合,身体障害個体を群れに戻す選択肢を考える必要があるが,身体的ハンデと社会的ハンデとの関連について議論する必要がある。そこで身体障害が障害個体自身及び群れのメンバーの行動にどのような影響を与えるか,名古屋市東山動植物園(東山)と熊本動植物園(熊本)のチンパンジー群を対象に縦断的・横断的視点で比較を試みた。縦断的な比較として,左前腕欠損のオトナメスAKと右半身まひのオトナメスYR,及びその群れの健常なオトナ4個体の東山の全6個体を対象とし,AK・YRの健常時及び障害時における行動のデータを比較した。横断的な比較として,右後肢欠損のオトナメスYK及びその群れの健常なオトナ4個体の熊本の全5個体と,調査前に死亡したYRを除く東山の全5個体の行動を比較した。行動観察は,いずれもスキャンサンプリング法により,採食,移動,非活動,社会行動,その他,他個体へのグルーミング及び他個体からのグルーミングのデータを収集し,各行動について,身体障害の有無に加え,個体の年齢,性別,観察日の平均気温,縦断的分析では観察時期(3水準),横断的分析では群れ(2水準) を独立変数,個体差を変量効果として一般化線形混合モデルのAIC比較により分析を行った。結果,縦断的な分析では,他個体へのグルーミングにおいて身体障害個体が減少している傾向が見られるほか,非活動,社会行動,その他の行動に身体障害の有無が影響している傾向が見られた。一方横断的な分析では身体障害が要因となる行動の違いは見られなかった。これらのことから,身体障害による障害個体の行動への影響は見られたが,他個体からの社会行動には変化がなく,また横断的分析では大きな違いがないことから,身体的ハンデが社会的ハンデに繋がらない可能性が示唆された。

  • 大谷 洋介, 澤田 晶子, 半谷 吾郎
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P30
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    複雄複雌集団において、高順位のオスは集団の空間的な中心を独占することで繁殖戦略上の有利を享受するが、必ずしも交尾、繁殖を独占しているわけではない。低順位オスはいくつかの代替戦略によって交尾を成功させており、結果として社会的地位と繁殖成功に明確な相関が見られない例が先行研究により示されている。オスによる各交尾戦略の有効性とコストを明らかにするためには、オスと集団の空間配置を明らかにし、様々な状況下でオスがどのように各戦略を組み合わせているのかを示す必要がある。本研究ではヤクシマザル(Macaca fuscata yakui) を対象に雌雄同時追跡を実施し、集団に所属するオスが3種の交尾戦略(mate guarding, sneak mating, cross-boundary mating)をとる条件を空間配置とともに明らかにした。高順位のオスは通常mate guarding戦略をとるが、自集団内の発情メスが極端に少ない場合には他集団のメスと交尾を試みるcross-boundary mating戦略をとっていた。 低順位オスは主にsneak mating戦略をとっていた。 この戦略は他個体から隠れて交尾を行うものであるが、今回の調査地においては集団から遠く離れることはなく、この戦略をとるための移動コストは高くないことが示された。加えて、低順位オスもcross-boundary mating戦略をとっていた。この戦略には、潜在的な交尾相手数を増加させることができるという他2つの戦略にはない利点が存在する。一方で他集団へ訪問し自集団へ帰還する移動コストは低くなく、また交尾に成功する確率は低かった。このためcross-boundary mating戦略は、自集団内での交尾成功の期待度が著しく低い場合に採用される補完的なものであることが示唆された。

  • 松田 一希, 高野 智, 新宅 勇太, Clauss Marcus
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P31
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    コロブス類は霊長類で唯一、複数の室から成る胃(複胃)を有し、前胃に共生する微生物による前胃発酵により、難消化性の葉を分解する。この消化管の特殊化は、果実や昆虫などに比べてより一様に分布する葉を食餌とすることで、餌を巡る競合を回避するための適応進化だと考察されてきた。よって、コロブス類の行動生態の解明において、複胃の消化生理学的な知見を深めることは重要である。発表者らによって、コロブス類における反すう行動の報告(Matsuda et al. 2011: Biol Lett)、休息姿勢と消化機構の関係性(Matsuda et al. 2017: Physiol Biochem Zool)、そして消化管内の食物滞留時間(Matsuda et al. 2019: Physiol Behav)や微生物叢(Hayakawa et al. 2018: Environ Microbiol Rep)などが明らかになってきた。しかし、コロブス類の消化管の解剖学的な知見は90年代からほとんど進捗がない。本研究では、日本モンキーセンターにホルマリン保存されている、コロブス類9種(Colobus guerezaPiliocolobus badiusPresbytes melalophosSemnopithecus entellusTrachypithecus cristatusT. francoisiT. pileatusT. vetulusNasalis larvatus)の消化管(小腸、盲腸、結腸/直腸)サイズを計測し、その解剖学的な特徴を検討した。新生児からオトナまでの合計252個体の消化管の計測を実施した結果、消化管の各部位の中で複胃においてのみ幼少期の急激な発達が見られるなど、いくつかの興味深い成果が得られたので発表する。

  • 小川 秀司
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P32
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    バーバリーマカク(Macaca sylvanus)はtriadic male-infant interactionを非敵対的場面で頻繁に行い,その際オトナオス( 以下単にオス) は2頭が一緒にコドモに触ったり,オス間やオスとコドモの間ではグルーミングがしばしば行われる。この交渉はバーバリーマカクではagonistic bufferingとも呼ばれてきたが,チベットモンキー(M. thibetana),ヒガシアッサムモンキー(M. assamensis assamensis),あるいはベニガオザル(M. arctoides)のbridging behaviorと相同な行動も含まれているのかは不確かだった。そこでドイツ南部のAffenberg Salemに移殖されたバーバリーマカクを2019年8月24~28日に視察した。チベットモンキーやアッサムモンキーはコドモを必ず腹側に抱いて運ぶのに対し,バーバリーマカクはコドモを背中に乗せて運ぶ時もある。そのためバーバリーマカクでは,オスがコドモを背中に乗せて他のオスに近づいた時には,コドモを差し出すのに自分の背中側を相手に向けることになる。その際バーバリーマカクでは,背中にコドモを乗せたオスに他のオスがコドモを挟んで抱きついたり,肩付近にコドモを乗せたオスの頭越しに他のオスがコドモに触ったりすることもあった。しかし,オスがコドモを腹側に抱いて他のオスに近づいた時や,コドモを腹側に抱いているオスに他のオスが近づいた時には,チベットモンキーやヒガシアッサムモンキーのbridging behaviorと同じように,バーバリーマカクのオスは向かい合って一緒にコドモを抱き上げる体勢になることが多かった。なお,バーバリーマカクのオスはinfant handlingを頻繁に行い,その際オスはコドモのペニスを触ったり舐めたりすることもあった。

  • 打越 万喜子, 石田 崇斗, 山田 将也
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P33
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    アジルテナガザル(Hylobates agilis) は歌とよばれる複雑な長い音声コミュニケーションをする。雌雄で異なるレパートリーを持ち、互いに調整してデュエットする。大人雌はグレートコールと称される特徴的なレパートリーを発し、ペアになっている大人雄はグレートコールの最後にメイルコーダをつける。本研究では、大人雌のグレートコールの構造は、単独やペアといった社会的環境で変化するのかを検討した。対象は日本モンキーセンターのアジルテナガザル雌1個体で、20年間以上と長きにわたって単独で飼育されていた。過去に一般家庭でペットとして飼われていた。この個体は通常のものに加えて、要素が繰り返される非常に長いグレートコールを持っていた。2017年9月に当該個体への社会的環境エンリッチメントを目的として、避妊をしたうえで、シロテテナガザル(Hylobates lar) の大人雄とペアにした。直後よりデュエットが確認された。 ペアリング前後の各1か月分の音声を連続記録した。 ペアリング前の計359のグレートコールとペアリング後の計261について、持続時間やノート数、周波数ピークの位置、等の項目を分析した。結果、オスと一緒にした後にも当該個体の非常に長いグレートコールは無くならなかったが、その数が減った。そもそもどうして非常に長いグレートコールをどのように獲得したのか謎は残るが、1個体の大人雌のグレートコールの構造が、社会環境の推移に応じて個体内で変化しうる可能性を示唆している。

  • 菊池 泰弘, 荻原 直道
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P34
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    霊長類種には様々な移動運動様式が認められ、運動の軸となる体幹の胸郭はそれぞれのロコモーションに適応した形状を有していると考えられる。胸椎は胸郭の背部構造を構成するため、胸椎は胸郭形状を反映した形態を持っていると推定される。しかしながら、現生霊長類を対象とした上位胸椎の比較研究は今までほとんど行われていない。そこで本研究では、現生種の上位胸椎の形態について調査を行った。チンパンジー(Pan troglodytes)、シアマン(Symphalangus syndactylus)、アヌビスヒヒ(Papio anubis)、パタスモンキー(Erythrocebus patas)、ハヌマンラングール(Semnopithecus entellus)、テングザル(Nasalis larvatus)、ジョフロイクモザル(Ateles geoffroyi)、クロホエザル(Alouatta caraya)におけるオス1頭、メス1頭(テングザルはメスのみ)の骨格標本を用いた。第3-6胸椎をCT(Bruker Sky-scan 1275)撮像後、三次元再構築されたデータ上で相同点79点を決定し、Procrustes 解析によるサイズの正規化および位置合わせ後、座標(シェープ)を主成分分析で解析した。 その結果、ぶらさがり形態を有する類人猿、地上性四足歩行種、樹上性四足歩行種、セミブラキエーションにカテゴライズされるクモザルがそれぞれクラスターを作り、上位胸椎は移動運動様式に適応した形態を有している可能性が示唆された。本研究はモンキーセンター・連携研究、京都大学霊長類研究所の共同利用・共同研究、JSPS科研費 JP20K06835の助成を受けたものです。

  • 大橋 岳
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P35
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    野生チンパンジーでは集団によって行動パターンが異なることが道具使用や社会行動などで確認されている。生態学的環境の違いだけで説明できないものもあり、異なる社会環境で技術や知識を獲得したことに由来する文化的行動として考察されてきた。今回、60キロメートル程度しか離れていない2つのチンパンジーの集団間で、彼らが捕獲した動物に対して異なる反応を示した事例を確認した。野生チンパンジーの長期継続調査地であるギニア共和国ボッソウから広域調査をリベリア共和国へ2006年から展開し2012年からリベリア共和国パラを拠点にしてきた。パラでは地域住民がチンパンジーを狩猟対象としないため過度に観察者を恐れないが人付けはできておらず、その集団構成は正確に把握できていない。パラの森は保護区ではなく、森の多くは二次林や耕作放棄地で構成されている。 2020年2月21日、パラでチンパンジーを発見したとき、オスはすでにニシキノボリハイラックス1個体を手にしていた。ハイラックスの腹部には傷があり一部内臓がでているようだったが、まだ損傷は少なく、捕らえられたばかりのようだった。チンパンジーは人に慣れていないため観察者から見えにくい位置にいることが多く、行動の記録は断片的だが、複数個体によって肉食する様子が観察された。地面への落下物から判断すると、チンパンジーに捕まったハイラックスは2個体でどちらも全長約40センチメートルだった。いずれも頭部を除いてほとんどが捕食されていた。過去に、ギニア共和国ボッソウではチンパンジーがニシキノボリハイラックスを捕らえたものの食べることなく捨てた事例が確認されている。ボッソウとパラではアブラヤシの種子割り行動など同じ道具使用のレパートリーがみられるが、今回、同種の動物に対して異なる反応を示した。どの動物を食べ物とみなすか、過ごしてきた社会環境の違いが、彼らの採食レパートリーに影響したのかもしれない。

  • 林 美里, 竹下 秀子
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P36
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    物の操作は、ヒトを含む霊長類の認知発達をはかる比較尺度となる。物の操作には、単純な把握から、道具使用などの複雑な操作まで、さまざまなレベルがある。 道具使用の前提となる定位操作は、物と物を組み合わせる操作パターンだ。この定位操作の発達について、ヒト乳幼児とチンパンジーでは縦断的に、ボノボ・ゴリラ・オランウータンでは横断的に観察をおこなった。 ヒト乳幼児では、箱の穴に棒を入れる、積木をつむ、入れ子状にカップを組み合わせる、という3種類の定位操作が、すべて1歳前半に初出した。チンパンジーでは、箱の穴に棒を入れるという定位操作は1歳前に初出したが、3個のカップを入れ子状に組み合わせる定位操作は1歳半、積木をつむという定位操作は2歳半以降にならないと出現しなかった。ボノボでは、チンパンジーと同様にカップを入れ子状に組み合わせる定位操作のほうが、早くから観察された。ゴリラでは、積木をつむという定位操作のほうが早くから観察された。オランウータンでは、入れ子のカップの組み合わせと、積木をつむという定位操作が、同じ年齢で見られた。入れ子のカップ課題でさらに詳細な種間比較をおこなった。入れ子状に組み合わせられるカップの個数や、その際に使われる方略のパターンが、発達的に変化することがわかった。さらに、ヒトとチンパンジーに共通する試行錯誤的な組み合わせの段階から、3歳半以降のヒト幼児を特徴づける、カップのまとまり同士を組み合わせる部品集積型による効率的なカップの組み合わせ方略があらわれることがわかった。飼育下の大型類人猿4種は、発達の時期や順序は異なるものの、道具使用の前提となる定位操作をおこなうことが明らかになった。チンパンジーは箱の穴に棒を入れる定位操作が大型類人猿の中でもっとも早くから見られたことから、野生でチンパンジーが多様な道具使用をおこなう認知的基盤である可能性が示唆されたといえる。

  • 五百部 裕
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P37
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    ウガンダ、カリンズ森林には5種のオナガザル科霊長類が生息している。このうち4種が継続的に観察されているが、その1種であるロエストモンキー(Cercopithecus lhoesti)は、グエノン類にあっては珍しく地上で採食、遊動することが多い。そしてこれまでの研究から、彼らは採食時間の半分以上を昆虫食に費やすことが明らかになっている(Tashiro, 2006)。 そうした中、私は2009年よりロエストモンキーの採食行動を継続的に観察してきた。そしてある季節にはキノコを高頻度で採食していることが明らかになった。 そこで本報告では、彼らの採食行動を、キノコ食を中心に考察した。まず彼らは、1日の活動時間の25%を採食に費やしていた。この割合は、田代による先行研究とほぼ同じであった。採食品目割合を見ると、昆虫が最も多く37%、次いで果実が33%、髄が14%、その他が10%となっていた。そして、このその他のほとんどは、キノコであった。田代による先行研究では、昆虫が60%余りだったので、本研究での昆虫の割合は大きく異なっていた。一方、田代によると、その他の割合は2%で、キノコ食の割合が低かったことがうかがわれる。また、ルワンダで調査を行ったKaplin & Moermond(2000)によると、昆虫の割合が9%、その他が10%で、昆虫の割合がたいへん低い一方で、その他の割合は本研究と同じであった。こうした相違の原因は、調査地間の環境の違いや調査時期の違いによるものと考えられた。他の霊長類のキノコ食と比較した場合、本研究で得られた割合は、特別高いわけではなかった。しかし、グエノン類に限れば、この割合はかなり高いと考えられる。今後は、キノコの種同定や毒性の有無の調査を行い、なぜロエストモンキーは、キノコ食を頻繁に行うのかを考えていきたい。

  • 座馬 耕一郎, 竹ノ下 祐二, 藤田 志歩, 川添 達朗, 浅井 隆之
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P38
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    鹿児島県大隅半島の稲尾岳南麓の常緑広葉樹林に生息するニホンザル(Macaca fuscata)の集団サイズを分析した。調査は2013~2015年と2019年の8~ 9月に、各年3~6日間行った。調査地を縦断する道 路計13.7kmの区間を1日あたり7~12人で繰り返し踏査し、遭遇したニホンザルを性・年齢クラス別にカウントした。計20日間の調査で、メスを含む複数の個体からなる集団を32回観察した。カウントされた個体数(以下、「集団サイズ」)の平均±標準偏差は 45.7 ± 45.9頭(range= 4 – 214頭)だった。1日に 平均1.6集団(range = 0 – 4)観察したが、1日に観察した全集団の集団サイズの合計は、調査期間中の最大集団サイズ(214頭)を超えることはなかった。集団で観察された各性・年齢の平均個体数は、オトナメス14.7頭(range = 1 – 76)、オトナオス5.2頭(range = 0 – 16)、コドモ10.5頭(range = 0 – 45)、アカンボウ8.2頭(range = 0 – 54)、不明7.1頭(range = 0 – 55)だった。集団サイズの標準偏差が大きかったことから、この地域では、200頭程のニホンザルの群れが、日によって異なる集団サイズのサブグループを作り、離合集散している可能性が示唆された。ニホンザルの亜種では、ホンドザル(M. f. fuscata)はヤクシマザル(M. f. yakui)と比べ、大きな集団サイズの群れをつくることが知られている。ホンドザルの分布域の中でも屋久島に近い植生では、大きな群れが、小さなサブグループを日常的に作って生活しているのかもしれない。

  • 本田 剛章, 半谷 吾郎
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P39
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    哺乳類の環境適応を調べるうえで、気温の逓減によって様々な植生が成立する山地は、異なる環境おける哺乳類の生態を容易に比較できるため重要である。屋久島は標高1,936mの山岳島で、標高1,700m以上の山頂部はヤクシマヤダケ(Peseudosasa owatarii) が優占するササ原で特殊な環境である。すべての標高帯でニホンザル(Macaca fusucata yakui:以下サルと略)とニホンジカ(Cervus nippon yakushimae:以下シカと略)が生息しており、ササ原を利用するサルとシカの食性は非常に限られることが予想される。本研究は植物の消化能力が異なる単胃動物のサルと復胃動物のシカで、屋久島山頂部の各標高帯の占有率の季節変化を比較する。 サルとシカの食物となるヤクシマヤダケは2015年8月から2016年11月の期間で半月に1回の頻度で部位ごとに在不在を確認し季節変化を調べた。 サルとシカの採食物は直接観察で確認した。2015年8月から2018年4月まで自動撮影カメラを標高1,400mから1,936mの間に計27台設置し、サルとシカを撮影した。また、2015年8月から2016年11月まで同標高帯の登山道上で約半月に1回の頻度でルートセンサスをおこない、サルとシカの目視・音声を調べた。 これら集めたデータからサルとシカの各標高帯の占有率を各月ごとに算出し比較した。占有率を算出するのに統計ソフトPresenceを用いた。

  • 落合 知美
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P40
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    動物園で動物を来園者に見せるにあたって、植物を配置し、まるで野生にいるかのように展示する手法が好まれる傾向にある。しかし、野生の生息地よりはるかに狭い飼育環境において、動物の利用を制限することなく植物を成育させるのは、困難な場合が多い。特に半樹上性のチンパンジーにおいては、木に登ろうとするほか、植物をディスプレーや遊び、採食などに利用するため、飼育環境での樹木の成育や繁茂は難しいとされてきた。1995年に京都大学霊長類研究所は、動物福祉の視点を取り入れた新しいチンパンジー屋外放飼場を作った(695㎡)。そこには日本の園芸品種を中心とした多様な植物を植え、その後10年に渡り年0∼ 2回の割合で追加して植樹を実施した。その結果、樹木は成長して高さ10mになり、森林のような空間を創り出すことに成功した。日本モンキーセンターにおいても、1997年より植樹をはじめ、その後数年、植樹を続けることで、現在では森のような空間ができている。日立市かみね動物園や京都市動物園でも、チンパンジー放飼場に工夫を重ねた上で植樹を実施し、森林のような空間を創り出すことに成功した。一方で、何年かに渡り植樹を複数回おこなっても、樹木が根付かない飼育環境もある。また、放飼場のデザインにより、植樹自体が困難な環境もある。日本では48施設で303個体のチンパンジーが飼育されているが(2020年10月現在)、これらすべてのチンパンジー放飼場について、植物の生育に焦点を当てて紹介し、環境エンリッチメントとしての今後の動向について考察する。

  • 金森 朝子, 久世 濃子, Bernard Henry, Malim Peter T., 幸島 司郎
    原稿種別: ポスター発表
    セッションID: P41
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    我々は、2004年よりマレーシア・サバ州に位置するダナムバレイ森林保護区で、ボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus morio)を対象に、果実生産量とオランウータンの密度の関連性を調査してきた。オランウータンが生息する東南アジアの熱帯雨林では、2-10年に1度、多くの樹種が一斉に開花・結実する「一斉結実」と呼ばれる現象が起こる。ダナムバレイ保護区では、2005年、2010年、そして2019年に大規模な一斉結実が起きた。果実食性の強いオランウータンが、3回の一斉結実にどのように対応しているのかを報告する。 果実量調査と密度調査は、ダナムバレイ区内にある観光用宿泊施設周辺2km2において、総延長16kmのトレイルを用いて行った。2カ月毎に行ったネストセンサスの結果、オランウータンの平均密度は1.3 ± SE0.1 頭/km2、0.3-4.4 頭/km2の変動が見られた。3回の一斉結実において、2005年は最大4.4頭/km2、2010年は2.7頭/km2、2019年は2.1頭/km2に、それぞれ一時的に増加した。それ以外の果実ピーク期でも密度のピークとおおよそ一致し、果実量と密度との有意な相関関係が見られた。 これらの結果から、オランウータンは果実を求めて本調査地へ流入および流出していたことが示唆された。このような移動は、果実生産量が少ない期間が長く、かつ、変動が大きいボルネオ島の低地混交フタバガキ林で生きるために必要な行動であると考えられる。

中高生発表
  • 荒川 葉
    原稿種別: 中高生ポスター発表
    セッションID: H01
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    スクールカーストはクラス内で起こる順位性だが,その決定要因ははっきりしていない。本研究では,ヒトの性格や所属の観点,文化的な観点,そして霊長類学、人類学の観点よりはっきりと定義付けられていないスクールカーストの現実を評価し,負の側面があれば、その解決策を考えることを目的に行った。国分寺高校生100名:(男子42名 女子58名)に自身の性格や所属に関するアンケートを,東京外国語大学( 以下外大) の留学生(14名: 出身国はそれぞれ異なる) には自国の学校生活やスクールカースト,いじめ問題に関するアンケートを実施した。加えて,大学の先生やいじめの経験のある国分寺高校の生徒,教員へのインタビュー調査および文献調査を行い、研究を進めた。高校生のアンケートでは、男子はスクールカーストがあったと答えた生徒の中で上位に所属していると思う生徒は、自分自身の性格を明るく皆を笑わせる、異性ともよく話すと分析している。それに対して女子は委員などクラスの中心的な役割を担っているにも関わらず、自分自身はスクールカーストの上位にいるとは評価していない。外大生のうち順位があると答えた人は、上位にいるのはお金持ちと答えた。個人で自分の意志に従って行動することが多いのでカースト的なものはなかったと日本との違いが見られた。なぜ順位付けが起こるのかをアイブル=アイベスフェルトは,高い地位を持つものは餌場や繁殖行動において優位に経つことが出来るために集団で生活する全ての霊長類に見られ、特にチンパンジーでは誇示行動によって順位を獲得し維持すると述べている。また、キャンプに行った折にメンバーの中で順位付けが起こる事例も上げている。順位は高校の事例でも集団をまとめるのに、必要な役割分担的なものでもあるが、それがいじめに発展する事例も友人や大学の先生などからも得た。人間の社会的本性も理解しながら、男女の違いも含めて順位というものをどう考えたらよいかを発表する。

  • 河野 美羽
    原稿種別: 中高生ポスター発表
    セッションID: H02
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    現代の日本人にとって一種の文化ともいえる神社神道がなぜ日本人の心性に宿り続けてきたのかを、国分寺高校生や東京外語大学の留学生へのアンケート、文献調査大学教授への質疑応答などを通じて明らかにしていったアンケートは神社を訪れた際の実体験をもとに答えてもらう質問と神社ないしは神道についての考えを示してもらう質問とを複数答えてもらった。アンケート調査の結果、共通点として挙げられたのは神社空間で感じる「何か」であった。具体的な単語としては「穏やか」や「平和的」があった。そしてその両者にそのような雰囲気をもたらすものとして挙げられたのは「自然」であった。これは日本人も留学生も同じである。 相違点としては「神道」を宗教としてとらえるか否かである。留学生が神社に参拝する行為に宗教性を感じるのに対して、高校生は「文化」や「慣習」としている。日本人が神道を宗教と感じない最もの理由は経典やキリスト教の洗礼のような明確な契約が存在せず、宗教が持つ集団やヒトの行動を律する境界があいまいであるからであろう。そうした中で七五三や初詣が行われることで文化的な面が大きくなっていると言える。 また共通点として挙げられた「自然」が和やかな雰囲気をもたらす理由については古神道を含めた自然崇拝の点に目を向けた。神社の形態の変容があるとはいえ、神社という空間は、ヒトと神とされる自然とをつなぐ場 所である。ゆえに神社空間に存在する自然に無意識に何かを感じるのではないだろうか。古来ヒトは自然と対峙し、その恩恵を受けたり、様々な災害に襲われたりしながら生きてきた。自然とヒトとの関係がある意味凝縮して日常の中のある特異なスポットとして表れているのが神社なのではないか。エドワード・O・ウィルソンの提唱した「バイオフィリア」の概念と神社空間がオーバーラップする。ヒトの心性を人類学的な視点でとらえながら、日本人と神社の関係について考察していきたい。

  • 木村 陽向, 井上 寧々, 岩田 悠市, 神谷 杏奈, 小森 弘貴, 永坂 知也, 古田 萌恵, 山内 虎太郎
    原稿種別: 中高生ポスター発表
    セッションID: H03
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    ギニア共和国ボッソウにおけるチンパンジーのナッツ割り行動に関心を持った我々は、現代日本のヒトの子どもを対象とした実験結果との比較を通じ、ヒトの道具使用・加工の開始について探究することにした。チンパンジーの行動については京都大学霊長類研究所ウェブサイト掲載の動画(のべ32個体分)を視聴し研究対象とした。さらに情報不足を補うため、専門研究者からフィールドにおけるチンパンジーの行動についての話をうかがった。ヒトの子どもに関しては、 2020年2月に実施した実験のデータを用いた(2~ 10歳、49人分、オニグルミを使用)。研究の過程で、ナッツ割り行動にあたっての両者の姿勢(座り方)、手指の使い方、親子関係(子どもへの親の関与)、石器使用の習熟進度に違いがあることがわかった。このうち座り方に関しては、ヒトがわずかな例外を除いて前傾姿勢をとるのに対し、チンパンジーは例外なく腰を下ろした座位姿勢をとることがわかった。この差に関しては、前肢・後肢比率(Intermembral Index(上腕骨長+橈骨長)× 100/(大腿骨長+脛骨長)の差に起因するものと判断した。手指の使い方に関しては、母指と他の指の長さの比率の差が関係していると考える。親子関係や習熟進度の違いは歴然としている。ヒトの親は子の行動に何らかのかたちで関与するが、チンパンジーは一様に無関心であった。実験の際、ヒトは例外なくわずかな時間でナッツ割りのコツを覚えたが、チンパンジーは習得に一定期間を要するし、習得できないままの個体も存在する。こうした差はヒトとチンパンジーの認知能力や習性の違いに関わると考えるが、さらにデータを集めたうえで改めて考察を行う予定である。 チンパンジーの使用した石器に関しては、京都大学霊長類研究所で実測や写真撮影、観察を行った。チンパンジーは後肢を用いて台石を支えることがあるというが、そのような使い方の特徴が石器の使用痕にもあらわれていることがわかった。

  • 片山 和香, 佐藤 美奈子, 清水 実有, 杉浦 朱李, 滝 千鶴, 豊田 紗帆
    原稿種別: 中高生ポスター発表
    セッションID: H04
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
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    公益財団法人日本モンキーセンターの「リスザルの島」は広さ1500m2,シイ・カシ類などの常緑高木の森でボリビアリスザルが放飼されている。私たちは2019年に老齢個体のくらしについて明らかにするため、高さ,上下動,他個体との関係を研究した。高さを地面・地面からロープ(高さ約2m)・ロープ以上の3つに区分し記録したところ,どの世代でもロープ以上にいる割合が最も大きかった(老齢42.5%・子世代34.4%・孫世代52.8%)。また、上下動について上記分類の異なる高さへの移動を変化の度に記録した。移動頻度は老齢0.17回/ 分,子世代0.61回/ 分,孫世代0.71回/ 分,ひ孫世代1.05回/ 分で,老齢個体は上下動が少なかった。老齢個体が上下動は少ないのに、高所にいる割合が大きいことから,本研究では,「なぜ高所をよく利用するのか」を明らかにすることを目的とした。 私たちは、「日光で暖かいため高所の林冠をよく利用している」「気温が低いときほど日向にいる」と仮説を立て,2020年9月6日,21日,26日の10時30分~11時,12時~15時30分に調査を行った。島を8区間に方位で分け,15分毎瞬間記録で,各区間の頭数、森の表面・内部の頭数,日向・日陰の頭数を記録した。同時に,日向と日陰で木板のデッキ・葉・地面の表面温度、気温を計測した。各時刻の太陽の高度・方角を計算サイトで調べた。結果,リスザルの全頭数に占める日向の頭数の割合は13%,日陰の頭数の割合は31%。気温の平均値は日向29.0°C,日陰28.3°C。 日向と日陰の温度差はあまりなかった。葉の表面温度の平均値は日向29.2°C,日陰26.1°C で差がみられた。 気温(日向)と日向の頭数には相関はなかった(0.13)。 方角は東~南~ 西の範囲にいることが多かった。今回の3日間の気温( 日向 :24.2°C ~35.3°C) では,リスザルが日向を好むわけではないとわかった。昨年9月の老齢個体の調査(2019/9/24) において高所の割合が大きかった(0.49%) ので,温度や日光以外の理由も考えたい。

  • 上田 菜名穂, 臼井 瑞穂, 原 陽南乃
    原稿種別: 中高生ポスター発表
    セッションID: H05
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/23
    会議録・要旨集 フリー

    私たちは,日本モンキーセンターで飼育されているジェフロイクモザルを対象に,彼らの2個体が互いを掴み合う行動(以後取っ組み合い)について,発生しやすい個体の組み合わせや発生要因を明らかにするため,行動観察を行った。2個体が1秒以上掴み合うことを「取っ組み合い」と定義し,3秒以上休止があれば別パートと数えて,発生回数,継続時間,個体,前後の状況の連続記録を行った。また,個体同士が1秒以上触れ合うことを「接触」とし,個体間の接触の回数,継続時間に加え,鳴き声も記録した。2019年12月から 2020年3月,計10日間,604分,個体間の行動を観察した。野生ではメスからオスへの攻撃行動はほとんど見られないと報告されていることから,攻撃様行動と考えられる「取っ組み合い」に関しても,メスからオスへは見られないのではないかと仮説を立てた。結果は,仮説とは異なり,メスのレイチェルからオスのチロルへの取っ組み合いが全個体間の取っ組み合いのうち,約20%観察された。また,取っ組み合い中にのみ,低音の鳴き声が観察されたさらに,レイチェルのチロルへの取っ組み合い行動にはレイチェルの母親であるレイコの行動が強く関係していることが分かった。 レイコ(母)とレイチェル(娘)との接触時間が長いほど,レイチェルのチロル(オス)への取っ組み合いが少なくなる傾向が示された。以上の結果から,モンキーセンターの飼育下ジェフロイクモザルのメスからオスへの取っ組み合い行動は,野生における攻撃行動とは異なる可能性が示唆された。また,低音の鳴き声は取っ組み合い中の特有の鳴き声だと考えた。レイチェルによるチロルへの取っ組み合いは,母親に対する自分の存在アピールであるのかもしれない。このような行動は,飼育下特有のものなのかは考察の余地がある。

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