水利科学
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62 巻, 5 号
No364
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
一般論文
  • ──創立100周年を迎えて──
    村上 茂樹
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 5 号 p. 1-18
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    森林総合研究所十日町試験地新潟県十日町市は1930年代から日本の積雪研究の中心的存在であった。当時,積雪そのものの基礎的研究を先行させる必要があったことから,森林と雪崩に関する研究が本格化したのは1960年代に入ってからであった。空中写真の解析から成林している森林では雪崩がほとんど発生しないことが分かり,薪炭林として利用されてきた低木広葉樹林を中心に研究が進められた。雪面出現木,及び非出現木であっても積雪斜面上に倒伏せずに埋雪・斜立している林木が積雪の安定性を支配することが判明した。 さらに樹種毎の着雪性,倒伏性,成長性を調査し,豪雪地に適した樹種を選定する試みもなされた。1970年代には急傾斜地でのブナ天然林伐採後に発生する全層雪崩と雪食が問題となり,原因究明の研究が行われた。急傾斜地では伐採後9年目以降に伐根が腐朽・脱落して雪崩常習地となり,雪圧で押された伐根が雪食を起こすことが明らかになった。 近年,森林の雪崩減勢効果についての研究が大きく進展したほか,計測技術の発展に伴い冠雪と低木広葉樹林の倒伏に関する研究も新たな段階を迎えた。

  • 今村 隆正
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 5 号 p. 19-34
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    奈良県は土砂災害の年間発生件数からみると,土砂災害が少ないと認識されがちであるが,夏から秋にかけての台風などによる豪雨を誘因とした大規模な土砂災害が数十年置きに発生している。本稿は,歴史資料(古文書,奈良県史,市町村誌)調査,ヒアリング調査,現地調査を基に,江戸時代以降に奈良県で発生した大規模な土砂災害の事例を調査した結果を整理したものである。 古くは享保六年(1721)の「三子抜け」をはじめ,明治22年(1889)の「十津川災害」,昭和34年(1959)の伊勢湾台風による「高原の山津波」,そして平成23年(2011)には「紀伊半島大水害」と繰り返し発生している。そしてこれらの誘因は全て降雨であり,地震を誘因とした大規模な土砂災害の記録は今のところ確認されていない。

  • 村上 哲生, 波多野 耕平
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 5 号 p. 35-42
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    愛知県春日井市に位置する利水施設「神屋地下堰堤」から供給される農業用水の流量,水温,水質を観測した。本施設は1934年(昭和9年)に竣工し,現在も利用されている。庄内川支川・内津川の伏流水を堰上げし,水田に供給する機能を持つ。附近の溜池築堤で使われた粘土を用い遮水する刄金工が,地下堰堤構築にも応用されたものと考えられる。灌漑期には,伏流水の集水路は内津川表流水面よりも0.9m高い水位に維持され,流出水量は123m3/hrに達する。非灌漑期も流出は絶えない。伏流により,水温の日較差は縮小し,pH,電気伝導度,硬度,溶存酸素濃度,及び化学的酸素要求量も,水源となる内津川表流水と比べ低い値であった。

  • 松井 明
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 5 号 p. 43-58
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    琵琶湖(自然湖)および大石ダム(人工湖)の利水運用の現状を紹介し,自然湖と人工湖の両方に共通する生物保全に配慮した貯水管理を提案した上で,その貯水管理が農業用ダム湖でも適用可能かどうかを検討した。これは自然湖,人工湖および農業用ダム湖は各々利水目的が異なるが,そこに生息・生育する動植物は類似することから,3者に共通する貯水管理を提案したいと考えたからである。その結果,農業用ダム湖の生物保全機能を強化するためには, ①田植え後の6月下旬から7月上旬にはしっかりと貯水回復させる(なるべく初夏に水位を浅くしない),②非灌漑期にも貯水し,水位を上昇・降下させることによって下流河川生態系に攪乱を与えることを提案した。

  • 岩井 尚人, 山中 康裕, 根岸 淳二郎, 山田 朋人
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 5 号 p. 59-80
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    地下水の持続可能な利用は,その保全にとって必要である。地下水を保全する態度を育むために,小学校教育の中で地下水について学ぶ機会を作ることは,重要なことである。本研究では,小学校高学年生が地下水涵養に関する森林の機能などの地下水に関する基本的知識を学べる教材を,タンクモデルを参考にして開発した。教材は,3段タンクで構成され,森林領域の下にある帯水層に設置したスポンジが水を貯留し,その水は装置外へゆっくりと流出するようになっている。教材で表現したのは,森林は主要な地下水の涵養域であること,地下水は地表水に比べて滞留時間が長いことの2つである。教材を用いた散水実験では,3段のタンクそれぞれからの流出ピークのタイムラグや滞留時間の違いなど,上記2点を定量的に確認した。小学校等の教員13名を対象に実施した教材の実演と,彼らに対する聞き取り調査では,多くの教員は,小学校児童にとって,上記2点が分かりやすいと判断した。

森林と放射性物質シリーズ
  • 山田 利博
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 5 号 p. 81-99
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    東京大学演習林において森林内のキノコにおける放射性セシウムの福島原子力発電所事故後5年間の変化を土壌などの基質との関係から調べた。いくつかの種類のキノコで放射性セシウム濃度は事故後1,2年目に高く,その後低下した。しかし,多くのキノコでは放射性セシウムの変化は大きくなく,時間とともに放射性セシウムが集積することは一般的ではなかった。放射性セシウムはA0層では次第に減少する傾向がみられたが,A層における増加は事故後1,2年目にみられたもののその後は明瞭でなかった。放射性セシウムはいくつかのキノコ種,特に菌根菌で高濃度に集積したが,他のキノコでは土壌環境の値を超えず,キノコがどの程度放射性セシウムを集積するかどうかには菌の種類や土壌条件が影響していると思われた。放射性セシウム134(Cs-134)との比から計算した過去の残存放射性セシウム137(Cs-137)の割合から,キノコや土壌では福島事故以前からの Cs-137を長期間保持しているだけでなく,福島事故で発生した Cs-137は流動的であるのに対して,事故以前からの残存 Cs-137は菌類の物質循環系に強固に保持されていることが示唆された。

「後世に伝えるべき治山」60選シリーズ
  • 梅田 英孝
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 5 号 p. 100-117
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2020/02/28
    ジャーナル フリー

    昭和59年(1984年)9月14日,長野県と岐阜県にまたがる御嶽山一帯を襲った「長野県西部地震」では大小さまざまな山腹崩壊地が発生した。その被害は,木曽郡王滝村を中心に長野県西部14町村に及び,各所で発生した土石流や地すべりにより死者・行方不明者29名を出す大惨事となった。なかでも御嶽山南西斜面に発生した大崩壊地(通称:御岳崩れ)は,濁川,伝上川流域の国有林を中心に大きな被害をもたらした。長野営林局(現中部森林管理局)では「災害対策本部」を即日設置し復旧事業を開始した。この復旧事業は昭和59年から平成21年(2009年)まで治山ダム,護岸工等を施工し,総額約137億円が投じられた。それから30年後の平成26年(2014年)9月27日に,死者58名,行方不明者5名の戦後最悪といわれる御嶽山噴火災害が発生した。この噴火により発生した土石流を長野県西部地震の復旧対策で設置した治山ダム群が減勢するとともに,下流域への土石流の流下を軽減した。中部森林管理局,木曽森林管理署では噴火直後から関係機関等と連携を図り,二次災害の防止,監視体制の強化,地元説明等を行った。恒久的な減災対策工として,木曽町三岳倉本湯川流域にコンクリート谷止工1基を完成させるとともに,王滝村濁川流域にコンクリート谷止工2基を施工中であり早期完成を目指している。

海外文献紹介
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