水利科学
Online ISSN : 2432-4671
Print ISSN : 0039-4858
ISSN-L : 0039-4858
最新号
No382
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
一般論文
  • ~水道条例と水道法を中心に~
    梶原 健嗣
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 5 号 p. 1-30
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2023/08/22
    ジャーナル フリー

    水道条例の研究では,その制定の経緯から,公衆衛生と市町村経営原則に焦点を当てた研究が多くなされてきた。しかし,そうした研究の視角では,1911年,1913年の水道条例改正あたりまでしかカバーされず,戦後復興期,高度経済成長期と並ぶ「水道の隆盛期」である大正期以降が視野に入らない。この時期は,水道事業の「脱衛生化」が進むとともに,水道が地方利益化していった時代である。その大正期以降,水道条例の改正論が沸き起こる。改正論は上水協議会とその後継団体・水道協会がリードし,戦後の水道条例改正案も水道協会がリードした。 水道条例では明治初期の公衆衛生問題が,水道法ではその直前の閣議決定の重要性が強調されるあまり,その間の四半世紀の動きが軽視されがちである。 本研究は,その四半世紀にも焦点をあて,水道行政の2つの基本法を中心に,近代水道行政の歩みを考察するものである。

  • ──那珂川中流域低山帯での事例──
    玉井 幸治, 澤野 真治, 小林 政広, 篠宮 佳樹, 大貫 靖浩
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 5 号 p. 31-39
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2023/08/22
    ジャーナル フリー

    2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震直後の8日間で,茨城県内で震度が6弱と観測された地域にある山地小流域で流出量が1.56~1.70mm増加し,地下水位が約1m低下した。この流域の流出量と地下水位の関係を地震前後のそれぞれ1年間で比較したところ,地震により地下水由来の水が流出しやすくなる変化が生じたと考えられた。しかし地震直後の増水量は多くなく,小流域面積のせいぜい1.5%程度の面積での地下水位低下でまかなえるものと計算された。そのため地下水位の低下は,小流域内の極めて限られた範囲での現象であったと考えられた。その一方で,この小流域の下流地点における増水量の水高換算値は,この小流域における値とほぼ等しかった。そのため周辺にある他の小流域でも,地下水位の低下が観測された小流域と同様に,地震直後に流出量が増加したと考えられる。

  • ~長野県辰野町の土砂災害ハザードマップと住民参加型防災マップの作成~
    松澤 真, 斉藤 泰久, 南 智好, 伊藤 達哉, 新貝 文昭, 山寺 喜成
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 5 号 p. 40-65
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2023/08/22
    ジャーナル フリー

    一般的な土砂災害を対象としたハザードマップは,地域住民が豪雨時に避難すべきかを判断するための一定の情報は記載されているが,避難時に有効となる,土石流の原因となる崩壊危険斜面,避難経路などが示されていない。本稿では,筆者らが考える土砂災害ハザードマップの在り方と理学的視点に基づく表層崩壊および深層崩壊危険斜面の抽出手法について論じ,続いて,長野県辰野町で作成した土砂災害の危険性が一目で理解できる土砂災害ハザードマップおよび住民参加型防災マップの作成に至る取組について紹介する。 地域住民が土砂災害を自分事として理解し,災害時に活用できる防災マップとするには,土砂災害に関する地域特性,自然科学的な情報を提供し,地域を正しく理解して頂くことが大事である。また,地域住民にも山に入って頂き,土砂災害の危険性を肌で感じて頂くことも重要である。

  • 末次 忠司
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 5 号 p. 66-92
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2023/08/22
    ジャーナル フリー

    洪水災害を軽減したり,適切な河道管理を行っていくにあたっては,河川地形やその影響を十分理解しておく必要がある。また,河川管理施設の調査・計画・設計・施工の際にも,河川地形やその特徴に配慮しなければならない。前報(No.381)では,マクロな河川地形に関して,縦横断的に見た河川地形,流路変動,地形の成り立ち,河道特性,人為的な影響による地形変化などについて記述した。本報では前報を受けて,拠点的なスケールの河川地形として,高水敷,砂州,樹林化,土砂生産の応答,土砂の流動特性などについて論じるとともに,河川地形や流砂のモニタリング技術について記述した。特に土砂流動に伴う砂州の形成・移動とその影響,樹林化や背水の原因などに関して,詳細に記述した。

  • 渡部 一二
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 5 号 p. 93-122
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2023/08/22
    ジャーナル フリー

    国内の城下町や農村集落の伝統的な水路は石,木,土といった素材の特性を活かして護岸をつくり,自然流下方式によって水田へ通水させるととともに,集落の生活用,防火用,親水用,環境保全など,要約していえば,「多面的に利用する空間構造」が成立している。 貴重な水の多面的な空間で反復利用は,国民が考え出した集住地の景観美となって表れたものである。 しかし,高度経済成長時代に入ると,これらの水利空間にもさまざまな影響が及んだ。 これまで存在してきた伝統的水利空間の価値が充分には評価されないうちに,多面的機能をもっていた水利空間は各地で壊れていった。 筆者は,この状況を放置できないと考え,現在でも「伝統的な水利空間」の調査活動を全国規模で続けている。 1980年になり,農村環境整備センターから「水利遺構」調査委員の依頼があ った。この委員会では,全国的な規模のアンケート/調査がなされ,500件を超える情報を収集ができた。その後,「水利遺構の調査報告書」(1988年)となってまとめられた。 本文では,この報告書に掲載された各地の農業水利空間の事例のうち,筆者が関心あるものから現地調査をおこない,本文に加えさせていただいた。この間,玉川上水の水利調査にとりくんでいた。2016年に「玉川上水・分水路網の活用プロジェクト」が日本ユネスコ協会の「未来遺産」に登録され,「登録証」が「玉川上水ネット」(玉川上水の水利遺構や保全活動を進めている市民運動グループ)に渡された。 筆者は,この「玉川上水ネット」がうけた活動をはじめ,国内の伝統的な城下町を取りまく通水網,水圏・山地が一体となった「水利空間」が残存し,各地にいまも点在している地域など「日本遺産」として登録される価値があると考えている。 本文では,この国内の伝統的な水利空間(多面的利用を含む)を守り,継承・活用している様子を探り出し,紹介させていただいた。

シリーズ:全国47都道府県土砂災害の歴史
  • 今村 隆正
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 5 号 p. 123-144
    発行日: 2021/12/01
    公開日: 2023/08/22
    ジャーナル フリー

    愛知県は,国土交通省が発表する都道府県別土砂災害発生状況で見ると,平成21年(2009)から平成30年(2018)の過去10年間における平均順位は,47都道府県中45位である。土砂災害履歴の比較的多い中部地方において,目立って発生状況の少ない県である。 本稿は,歴史資料(古文書,愛知県史,市町村誌等)調査,ヒアリング調査,現地調査を基に,主に江戸時代以降に愛知県で発生した,歴史に記録され,語り継がれる土砂災害の事例を調査した結果を整理したものである。

feedback
Top