水利科学
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64 巻, 3 号
No374
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
一般論文
  • ~鶴見川と徳島県における取り組みを事例として~
    海野 修司, 姫氏原 健司, 山田 正
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 3 号 p. 1-64
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2022/01/06
    ジャーナル フリー

    日本では,経済成長の弊害として,都市部への人口や産業の集中,産業構造の変化に加え,地球温暖化に伴う気候変動等の様々な要因が水循環に変化を生じさせ,それに伴い,洪水,渇水,水質汚濁,生態系への影響など,水循環にかかる様々な問題が顕在化しており,こうした課題の解決を目指す水循環の健全化に向けた活動が,全国各地で展開されている。 本稿では,総合治水対策に端を発し,その後,水に関する様々な流域課題の解決を図るため,全国に先駆け,「総合水マネジメント」の手法を取り入れ,流域単位で実践,持続的な活動を続けている「鶴見川流域」における取り組み事例を検証することをはじめ,「水循環基本法」成立に至る全国の水政策の歴史的な流れや,全国の「流域水循環計画等」を分析することで,持続可能な活動に不可欠な視点や機能を明らかにする。さらに,これらから得られた知見を踏まえ,条例の制定をはじめ,徳島県において実践した取り組みを通じて,「健全な水循環」を持続的に実現するために必要な事項について明らかにする。

  • 松浦 茂樹
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 3 号 p. 65-74
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2022/01/06
    ジャーナル フリー

    武蔵水路は,東京都そして埼玉県南部に都市用水を運ぶため,利根川と荒川をつなげた導水量毎秒50m3の人工水路であり,1967(昭和42)年竣工となった。当時,東京では「東京サバク」と揶揄されるほど水不足が大きな社会問題となっていた。当初は,毎秒50m3のうち20m3は都市用水(東京都,埼玉県),30m3は浄化用水として使用され,都市用水の費用は東京都の「優先支出法」で負担され,浄化用水は東京都が立て替え負担した。東京都は,一刻も早い利根川からの導水を願っていたのである。その後,浄化用水は将来の見込み利用量にもとづき,都市用水は使用水量にもとづき,東京都と埼玉県による水量割に変更された。導水の緊急性が東京都と埼玉県の間で同等となったのである。また,その後,武蔵水路は内水排除にも利用する改築事業が行われ,2015(平成27)年に竣工した。その費用負担は,河川(内水排除+浄化用水)と都市用水間では「身替支出法」で行われ,都市用水は東京都と埼玉県の間で水量割により行われた。

  • 小椋 佳
    2020 年 64 巻 3 号 p. 75-86
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2022/01/06
    ジャーナル フリー

    近年は,集中豪雨や台風,地震等による山地災害が全国各地で発生している。山地災害の発生時には,速やかな現地調査や測量が求められるが,労力の確保や二次災害の危険性等の問題がある。福島県県北農林事務所では,山地災害発生時の測量方法について検討を重ねており,本検証では,画像解析ソフトやGPS機材の導入の有無を考慮した3種類のモデルを設定して災害発生時のドローン(UAV:Unmanned aerial vehicle)を用いた写真測量の活用方法を検討した。その結果,画像解析ソフトの導入が可能な場合はモデル2(画像解析ソフト:PhotoScan Professional,評定点補正1箇所:ハンディGPS)による解析が最適と考えられ,画像解析ソフトの導入ができない場合でも,モデル3(画像解析ソフト:フリーソフトの組合せ,ハンディGPS 取得座標で座標を付与)で簡易測量(水平位置・高さの誤差が約3~4m)が可能であることがわかった。また,労力も従来方法の3分の1から5分の1程度になることが期待でき,二次災害の危険性の低減にもつながると考えられた。

  • 谷川 東子, 山瀬 敬太郎, 藤堂 千景, 池野 英利, 大橋 瑞江, 檀浦 正子, 金澤 洋一, 平野 恭弘
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 3 号 p. 87-112
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2022/01/06
    ジャーナル フリー

    樹木根系は,地中深く刺さるクサビとしての能力,また地中で絡み合う網としての能力をもち,土壌をからめ,強風や津波などの外力に抵抗し,一定の減災機能を果たす。しかし,外力に耐えきれなくなったときに発生する倒木が,その被害を拡大することは珍しくない。自然災害の頻度や規模が増している現在,どの程度の台風(暴風)や津波まで樹木は耐えうるのか,という視点で,「災害の程度と根系の減災能との関係」を精査することが必要である。しかし樹木根系はこれまで,土を掘ることでしかその姿を可視できず,データの集積が十分とはいえない状況が続いてきた。著者らは,土を掘ることなく,非破壊で根系を可視できるツールとして「地中レーダ」に着目し,これを用いて根系の減災能を評価するためのシナリオを描き,研究を推進している。本稿では,これまでの研究成果を簡単に紹介する。

  • ──河川地形や河川利用との関連を中心に──
    村上 哲生
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 3 号 p. 113-135
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2022/01/06
    ジャーナル フリー

    木曽川中下流域(岐阜県八 ~三重県桑名市)の水神分布を調査した。 木曽川岸からの1,000m 圏内に分布する神社数は200余り,主祭神を天照とする神明社の数が最も多かった。また,堤防上の小規模な川除社でも,天照を祭神とする祠の割合が大きかった。神明社の優占は,特に洪水が頻発する地域で顕著であり,天照の水神的な性格と明治以降の合祀政策の結果であると考えられた。稲荷社が破堤の危険性が大きい地形に置かれる例も発見された。治水の目的で祀られている稲荷社には,水神社が吸収,合祀されていた。祭神を特定しない水神祠,水神碑は治水,利水,雨乞いなど多様な目的のために祀られていた。金毘羅は,渡船場址付近の神社で祀られる例が多かった。川祭は,天王祭として行われるが,素戔嗚を祀る神社以外でもその例は多く,むしろ水神との関連が深く,六月祓が起源と考えられる。木曽川沿いの神社の祭神,特に境内社のそれは,合祀や不十分な管理のため神号が判別できないものが多く,過去の水神信仰を復元することが難しくなりつつある。

近年の土砂災害シリーズ
  • 末次 忠司, 大槻 順朗
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 3 号 p. 136-148
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2022/01/06
    ジャーナル フリー

    典型的な雨台風であった令和元年(2019年)台風19号により,千曲川や阿武隈川で破堤するなど,広域的かつ同時多発的に全国で水害が発生した。水害は被災形態に特徴が見られたし,対応にも地域差が生じたことに鑑み,水害被害と治水対策に関する考察を行った。本報では特に破堤氾濫が発生した千曲川流域の長野市穂保地区を対象に現地調査を行ったので,調査結果を説明するとともに,全国で行われた治水対策(ハード対策,ソフト対策)を総括する。

  • 柳井 清治
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 3 号 p. 149-170
    発行日: 2020/08/01
    公開日: 2022/01/06
    ジャーナル フリー

    2018年9月6日北海道胆振地方東部を震源として,M6.7,最大震度7 を記録する「平成30年北海道胆振東部地震」が発生した。この地震により北海道勇払郡厚真町を中心に山腹斜面崩壊が多数発生し,土砂の流下・埋没により多くの家屋や人命が失われる甚大な被害となった。崩壊タイプは基盤上に堆積した浅い表土層が崩落する表層崩壊であり,この表土層(層厚2~3m)は主として過去に樽前山から噴出した軽石や火山灰層(テフラ)から構成される。とくに,厚真町周辺では,斜面上の厚い風化軽石層(Ta-d層,約9,000年前に噴出)の下部にある粘土層を境界として崩落したものが多かった。また,崩壊発生点は遷急線下部の35゚以上の急斜面だけでなく,遷急線上部の緩やかな斜面(10~35゚)にも多く発生していた。斜面の森林はカラマツ人工林や広葉樹二次林から構成されていたが,その根系は厚いテフラの内部には到達しておらず, 上位の埋没腐植層に密に伸張していた。そして地震による振動により,根系ごと盤状に基盤岩を滑動し斜面下部に堆積しているのが多く観察された。

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