水利科学
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61 巻, 6 号
No359
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集:平成28年熊本地震で生じた山地災害
  • 久保田 哲也
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 61 巻 6 号 p. 1-17
    発行日: 2018/02/01
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    2016年(平成28年)4 月14日と16日に発生した平成28年熊本地震では,2 回の 震度 7 を始め熊本・大分両県で強い揺れが生じた。幸い降雨が少ない時期ではあったが,震源が阿蘇火山地域に近く,南阿蘇村を中心に,山地に大規模崩壊や多くの地すべり・森林斜面崩壊が発生した。また,地震後の強雨での森林斜面崩壊・土石流も発生している。ここでは,現地調査に基づき,それらの特性について報告する。まず,外輪山カルデラ壁の林地急斜面では,地震力が集中し易い凸型急斜面の尾根近くにおいて,大規模崩壊を含む火山灰と風化溶岩類などの崩壊(土砂量数百 m3〜数十万 m3)が多数発生した。中央火口丘群周辺でも表層崩壊が多数発生したほか,緩斜面においては大規模地すべりも発生した。また,森林斜面には地震による亀裂が多数認められ,震後の降雨による災害が危惧されていたが,梅雨期には,既往災害雨量の60〜80%程度の降雨でも崩壊などの発生が多数認められた一方で,砂防堰堤など防災施設の効果も認められた。

  • 黒川 潮
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 61 巻 6 号 p. 18-33
    発行日: 2018/02/01
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    平成28年(2016年)熊本地震においては,4月14日21時26分に発生したマグニチュード6.5の地震(前震)に続いて,4月16日1時25分にマグニチュード 7.3の地震(本震)が発生し,ともに最大震度7を記録した。一連の地震活動 により50名の方が犠牲となり,林業関係でも約440億円の被害が発生した。前震発生直後に行った調査においては,大規模な山腹の崩壊は確認できなかったが,本震後の調査においては,緩斜面における地すべり性の崩壊,深層崩壊,表層崩壊およびそれに伴う土石流等,様々なタイプの土砂災害が発生した。山腹崩壊は尾根部分の草原から発生している例が多く見られ,斜面下部に存在している森林が崩壊した岩石の移動を抑止している例も見られた。この地震によって森林内には上空から確認できない多数の亀裂が発生し,地盤内に雨水が浸透しやすい状態となっている。

    6月下旬の豪雨では地震時に亀裂の入っていた斜面が拡大崩壊しており,今後も山腹崩壊の危険性が懸念される状況である。

  • 小柳 賢太, 五味 高志
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 61 巻 6 号 p. 34-51
    発行日: 2018/02/01
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    平成28年熊本地震により阿蘇山の中央火口丘群に生じた崩壊は,森林と草地で分布と土砂移動の特徴が異なることが分かった。森林斜面に比べ草地斜面では崩壊密度が高く,特に35度以上の急斜面では草地斜面の崩壊が顕著であった。草地の牧野道や林道の崩壊も顕著であり,農林業の再建に向けて,土地被覆に応じた斜面崩壊危険度の判定を進める必要がある。また,地震後は草地斜面に比べ森林斜面で土砂の滞留が多く,今後の豪雨による土砂の再移動,それに伴う土石流などの二次災害が懸念された。地域の復興に向けては,上流域に滞留する土砂の再移動にも配慮する必要があり,長期的な土砂移動の観測が必要である。林業の復興という観点では倒流木の撤去などによる荒廃した林地の再生が必要であるが,倒流木が撤去されることによる土砂移動の変化については不明瞭であり,流域の復興と二次災害の防災・減災を両立して進めることが今後の課題である。

一般論文
  • ──住民の意見や気づきを河川・防災に活かすために──
    田中 隆文, 熊谷 冴矢子, 大津 悠暉 , 西田 結也
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 61 巻 6 号 p. 52-75
    発行日: 2018/02/01
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    事業に住民の意見を反映させようというボトムアップ的な意見集約手法が形骸化してしまってはいけない。ファシリテーターの技量に負わせてしまうのではなく,発言を阻害する人文・社会学的な要因を探り,ボトムアップ的発言を醸し出す方策について研究が推進されるべきである。本報告では,バーンスティンの「限定コード/精密コード」及びダグラスの「Group Grid 理論」そして藤垣の「硬い科学観」を踏まえ,ボトムアップ的発言を醸し出す場の特徴を解析する手法を提案した。この手法は,「硬い人文的な使命感 OCM」,「硬い社会的な使命感 OSS」,「硬い自然科学的な使命感 OND」の三つの類型化指標を用い,社会的活動を八個の領域に区分しその性質を明らかにするものである。例えば「原子力村の開発研究」は三つの類型化指標のいずれもが"硬い使命感"である領域に分類された。様々な社会活動に本手法を適用した結果,各活動の特徴を露わにでき有用であることがわかった。そこで次に,サイエンスカフェやシナリオワークショップなどのボトムアップ的な意見集約手法の特徴を分析し,ボトムアップ的発言を醸し出すための留意点を提示した。

  • 末次 忠司
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 61 巻 6 号 p. 76-88
    発行日: 2018/02/01
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    明治時代は列強諸国に追いつくために,富国強兵や国土開発が盛んに行われた。そのなかで,基幹政策となる水管理事業では,度重なる水害(明治三大水害など)に対して,順調に治水体制や治水施設の整備が行われた。治水制度として,河港道路修築規則の制定が行われ,事業として直轄の低水・高水工事が始まり,治水に重点が置かれた事業が展開された。日本人技師による築堤や放水路建設が特徴的で,治水においても近代化へ進んでいった。河川改修工事では機械化が図られ,行政主体の水防活動が行われた。このように,当時の水害,治水技術,洪水対応技術などをはじめとする明治時代のすぐれた水管理技術を調べて,水管理に関する経験や実績より,現代でも有効な考え方や技術を整理・分析した。

  • 池末 啓一
    原稿種別: 追悼文
    2018 年 61 巻 6 号 p. 89-100
    発行日: 2018/02/01
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

     恩師金子良先生が亡くなられてから,約40年が経つ。筆者も60歳を過ぎ,今までの研究を総括する時期が来ていると思うようになった。これを機会に,筆者の水文学研究の原点ともいえる金子先生とのかかわりを振り返ってみようと思う。先生は大正元年に生まれ,旧制静岡高校を経て,東京帝国大学を卒業されている。その後,農林省の技師になられ,国内や中国で農業水利調査をされ,昭和17年には若くして北京大学教授に招聘されておられる。戦後,帰国後は農林省に復職され,旧農業土木試験場を中心に水文学研究一筋に研究生活を送られ,退官後は日本大学教授になれた。戦後,亡くなられるまで長く「資源調査会」の委員もされていた。先生には多数の論文があるほか,二冊の『農業水文学』という著作がある。このうち一冊は日本水文学史上に残る水収支研究の名著である。また,先生は一連の水収支研究で「日本農学賞」などを受賞されてもおられる。筆者は先生の晩年の7年間に水文学の指導を受けた。先生は親しみやすく,表裏がなく,真摯な方で,寡黙の人,研究の人,健脚の人であった。

ニホンジカシリーズ
  • 酒井 敦
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 61 巻 6 号 p. 101-113
    発行日: 2018/02/01
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    皆伐・再造林地が増加するに伴い,シカによる苗木被害が顕在化するようになった。再造林地のシカ対策として最も一般的な防護柵に注目し,苗木被害の実態を明らかにするとともに,防護柵の機能を保つ条件について検討し,考えられる対策について考察した。高知県内の防護柵を設置した50か所の再造林地(スギ20か所,ヒノキ30か所)で苗木の食害調査を行ったところ,シカの被害が認められない場所は6か所(12%)で,他は何らかの被害がみられた。健全木が1500本/ha以上あることを造林成功の基準とすると,スギは20か所中4か所(20%)が,ヒノキは30か所中15か所(50%)が基準を満たしていなかった。防護柵の破損の要因としては,「動物の潜り込み」と「落石や土砂崩れ」が多かった。シカの生息密度が低いと苗木被害が少ない傾向が認められ,生息密度が10頭/km2未満の場所は特に被害が少なかった。このことから,シカの生息密度が高い場所では,シカに侵入されるリスクがより高いという意識を持ち,防護柵の仕様や柵の管理水準をより厳しくする必要がある。防護柵の適切な設置と保守管理,林業被害を意識したシカの積極的な捕獲,それらに対する一刻も早い公的な支援体制の構築が望まれる。

「後世に伝えるべき治山」60選シリーズ
  • 志水 徳人
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 61 巻 6 号 p. 114-129
    発行日: 2018/02/01
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    江戸から明治期にかけての六甲山は,燃料材などに使用する樹木や下草が取りつくされ,海から見える南側斜面は雪が降り積もっているかのような真っ白なはげ山であった。この荒廃した六甲山を復旧するため,明治36年(1903年)より573ha の区域で植林を行ったのが始まりで,現在の緑豊かな六甲山がある。 一方,昭和13年(1938年)の阪神大水害および昭和42年(1967年)豪雨災害による土砂災害,近年においては平成 7 年(1995年)兵庫県南部地震と,都市部に近接する六甲山で幾度となく発生している大規模な山地災害の歴史とその復旧復興対策における工法の変遷について紹介する。

連載
  • 〜横浜市金沢地区を中心とした三浦半島周辺の探索調査〜
    山口 晴幸
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 61 巻 6 号 p. 130-151
    発行日: 2018/02/01
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー

    金沢地区は神奈川県横浜市の南端部に位置し,鎌倉市と近接する東京湾に面した地域である。鎌倉幕府開設を機に,鎌倉への陸路・海路の要所となり,人物・物資の往来はもとより,幕府武将らが館を構えるなど,一気に賑わいをみせ,中世鎌倉時代から歴史的に発展してきた地域である。鎌倉〜江戸〜明治時期には,殊に,平潟湾の千変万化する風光明媚な海風景が旅人・墨客らを魅了し,全国的に人気の観光スポットとして名を馳せてきた。また,近代の戦前期頃までは,金沢の海風景をこよなく愛した政治家・文化人などが別荘・別邸などを建てて住み着き,海浜保養地としても知られていた。 このような時代的背景と変遷の下,金沢地区では,中世鎌倉時代からの貴重な歴史的構築物や遺跡・文化財などが数多く保全・伝承されてきた。その中でも主に,ここでは,歴史的な人物や遺産・遺構などと関連し,伝説・逸話・口碑などを秘めた古水や史跡水(水場や水辺も含む)にスポットを当てた探索調査を試みている。 本稿では,古き時代からの変遷と共に,地域の生活・習俗・文化等の発展史に深く係わってきた古水・史跡水・水場を「時代水」と称して着目し,先代人に纏わる利水的な遺構や関連する遺物などを中心に取り上げ,関係する人物や歴史的な時代背景などを織り交ぜて,その来歴・変遷・現状などを解説している。殊に,先代人の利水や水工に纏わる「水」への思いや発想・構想における英知・苦難などに触れることで,今後に継承すべき事柄に光を照らし,利水技術や水工物の古事来歴を顧み,再考する機会になればと願っている。

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