水利科学
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65 巻, 4 号
No381
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
一般論文
  • 松浦 茂樹
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 4 号 p. 1-36
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    明治から今日までに治水を目的とする利根川改修計画は,7回策定された。 1886(明治19)年着工の計画,1900(明治33)年着工,1910(明治43)年着工,1938(昭和13)年着工,1949(昭和24)年着工の計画である。さらに1980 (昭和55)年着工,2005(平成17)年改訂の計画である。 これらを基準点である中田(栗橋)の計画対象流量でみると,1886(明治19)年の計画では定められず,1900(明治33)年計画では3,750m3/s,1938(昭和13)年計画では9,200m3/s,1949(昭和24)年計画では14,000m3/s(ただし上流山地部ダム群で3,000m3/sを調節)となった。1949(昭和24)年計画で,ダム群による調節が登場したのである。 1980(昭和55)年計画,2005(平成17)年計画でもダム群による調節が行わ れ,前者の計画では,6,000m3/sをダム群で調節し17,000m3/sであり,後者の計画では,5,500m3/s調節し17,500m3/sとなっている。 なぜこのように変遷していったのか。1949(昭和24)年計画までは計画直前に生じた洪水(既往洪水)を参考にしたのに対し,1980(昭和55)年と2005 (平成17)年の計画では,年超過確率によって机上計算をもとに定めていった。 計画手法が異なったのである。また,1949(昭和24)年計画までは既往洪水を参考にしたといっても,1938(昭和13)年・1949(昭和24)年計画ではピーク流量の最大値に基づいて定めていったのに対し,それ以前の計画では異なっていた。1886(明治19)年計画では,対象とする洪水がそもそも小さかった。 1900(明治33)年計画では,最大流量ではなく,それより小さい流量を対象と したのである。

  • 末次 忠司
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 4 号 p. 37-55
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    洪水災害を軽減したり,適切な河道管理を行っていくにあたっては,河川地形やその影響を十分理解しておく必要がある。また,河川管理施設の調査・計画・設計・施工の際にも,河川地形について考慮しなければならない。しかしながら,マニュアルに従って検討するだけで,十分地形のことや現地の状況が配慮されていない事例が見られる。また,最近川そのものについて検討・考察している研究が少ないという残念な状況もある。そこで,河川地形について,マクロの視点,ミクロの視点,土砂特性,河床変動特性から見て,気を付けなければならない点について列挙した。これらの事柄は机上だけではなく,現地へ行って確認して初めて,生かされるものであるので,現場で又は洪水時に川を見る時に,是非注目して頂きたい。なお,河川地形は内容が多岐にわたるため,3回に分けて報告を行う予定である。

  • 末次 忠司, 大槻 順朗
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 4 号 p. 57-77
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    近年,西日本水害(平成30〈2018〉年),東日本台風(令和元〈2019〉年),令和2年7月豪雨など,全国各地で豪雨に伴って洪水氾濫が発生し,尊い人命が失われ,多数の家屋・資産が水害被害を受けた。こうした水害を少しでも少なくするために住民の行う時系列的に見た情報収集や水害リスク対応全般についてとりまとめた。特に洪水中のリスク対応として,浸水中の避難の心得,氾濫流の挙動から考えたリスク対応,停電等への対応,外出先や避難所での対応・注意事項について解説を行った。

  • 渡部 一二
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 4 号 p. 79-112
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    国内の城下町や農村集落の伝統的な水路は石,木,土といった素材の特性を活かして護岸をつくり,自然流下方式によって水田へ通水させるととともに,集落の生活用,防火用,親水用,環境保全など,要約していえば,「多面的に利用する空間構造」が成立している。 貴重な水の多面的な空間で反復利用は,国民が考え出した集住地の景観美となって表れたものである。 しかし,高度経済成長時代に入ると,これらの水利空間にもさまざまな影響が及んだ。 これまで存在してきた伝統的水利空間の価値が充分には評価されないうちに,多面的機能を持っていた水利空間は各地で壊れていった。 筆者は,この状況を放置できないと考え,現在でも「伝統的な水利空間」の調査活動を全国規模で続けている。 1980年になり,農村環境整備センターから「水利遺構」調査委員の依頼があ った。この委員会では,全国的な規模のアンケート/調査がなされ,500件を超える情報を収集ができた。その後,「水利遺構の調査報告書」(1988年)となってまとめられた。 本文では,この報告書に掲載された各地の農業水利空間の事例のうち,筆者が関心あるものから現地調査を行い,本文に加えさせていただいた。この間,玉川上水の水利調査に取りくんでいた。2016年に「玉川上水・分水路網の活用プロジェクト」が日本ユネスコ協会の「未来遺産」に登録され,「登録証」が「玉川上水ネット」(玉川上水の水利遺構や保全活動を進めている市民運動グループ)に渡された。 筆者は,この「玉川上水ネット」がうけた「登録証」が評価した活動をはじめ,国内の伝統的な城下町を取りまく通水網,水圏・山地が一体となった「水利空間」が残存し,各地にいまも点在している地域など「日本遺産」として登録される価値があると考えている。 本文では,この国内の伝統的な水利空間(多面的利用を含む)を守り,継承・活用している様子を探り出し,紹介させていただいた。

「後世に伝えるべき治山」60選シリーズ
  • 潮 明良
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 4 号 p. 113-124
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    山口県防府市西目山で発生した大規模な山林火災によって,多くの森林の緑が失われた。この失われた森林を早期に回復させるため,造林事業や治山事業により緑化が図られた。西目山の一帯は,花崗岩の岩石が露岩する急峻な地形のため,人力による緑化作業が困難な区域はヘリコプターを使用した航空実播が実施されている。航空実播が実施された当時は,航空実播の施工は技術的に確立されておらず,試行錯誤が繰り返された時期にあたるが,航空実播実施後約50年を経過した西目山には,散布した種子のアカマツをはじめ多くの広葉樹が生育し,多面的機能を有した森林へと回復している。この西目山地区における航空実播工は,治山事業の実施から100年を経過したことを機に林野庁が選定した「後世に伝えるべき治山~よみがえる緑~」60選に選定されている。

  • 山田 純司
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 65 巻 4 号 p. 125-142
    発行日: 2021/10/01
    公開日: 2023/01/11
    ジャーナル フリー

    土岐地区は岐阜県の東濃西部地域に所在し,古くから陶磁器「美濃焼」の産地として栄えている。土岐地区における地質は,陶土化した第三紀層及び深層風化した花崗岩により形成されており,非常に脆弱であるため豪雨による侵食を受けやすいが,燃料用薪炭を確保するための過度な森林伐採,窯業に使用する陶土や釉薬の乱掘により,多くのはげ山(荒廃地)が形成された。 はげ山復旧に向け,大正8年(1919年)から県・市による治山工事が開始され,昭和7年(1932年)から農林水産省の直轄治山事業が始まった。 工事の大半の工程は人力で行い,昭和45年(1970年)1月の工事終了までの間に実行された面積は1,576ha,投入された労力は延べ175万人を超えた。 日本三大荒廃地の1つとまでいわれた土岐のはげ山が,現在は東濃丘陵地帯の豊かな里山風景となっており,一部は「陶史の森」公園として市民の憩いの場となっている。

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