広島県では,「平成30年7月豪雨災害」により,県内全域で,大規模な山地災害が多数発生した。県では,発災直後に策定した「平成30年7月豪雨災害からの復旧・復興プラン」に基づき,林野庁の治山対策検討チームによる「中間とりまとめ」に沿って,県における治山事業の現状と課題を整理するとともに,今回の災害で損壊した治山ダムの被災原因に関する調査を行った上で, 「平成30年7月豪雨災害を踏まえた治山対策方針」を策定した。新たな方針では,「土石流や転石などへの対策」と「ソフト対策の強化」に大別した上で,それぞれの課題と対策を整理した。今後の復旧・復興に向けては,地域住民との密接なコミュニケーション,災害復旧に対応できる事業者の育成・確保が課題である。
平成30(2018)年に発生した土砂災害の発生件数は,統計のある約40年間で最多を記録し,7月豪雨災害に伴う死者・行方不明者数は平成で最悪となった。どうしてこのような大きな被害が生じたのか,なぜ住民は避難しなかったかが大きな議論となった。 国土交通省では,実効性ある避難を確保するための土砂災害対策検討委員会を設置し,砂防行政として,これまで取り組んできた施策を検証するととも に,土砂災害による犠牲者を少しでも減らすため,今後何をすべきかについて議論を重ねてきた。 結果,行政としての取り組みは成果が出始めていることが明らかになった半面,土砂災害警戒区域等のリスク情報を周知する取り組みが必ずしも住民の避難に結びついていないことなどの課題も浮き彫りになった。 今後どのような対策を採るべきか,委員会での検討結果について紹介する。
平成30(2018)年7月豪雨災害では,西日本を中心に広範囲で記録的な大雨となり,平成最大の豪雨災害となった。広島県では,過去の主な土砂災害と比較して,累加雨量1.6~3.9倍,降雨継続時間3.4倍以上,土砂災害発生危険基準線(Critical Line:以下「CL」という。)超過時間1.7~11.2倍の雨量が記録され,土砂災害及び住家被害は3倍以上,人的被害は2倍以上となった。 被害が甚大かつ広範囲にわたったことから,膨大な被害状況などを迅速に収集・整理,共有し,全容を解明し,円滑な災害対応を実施することが求められた。そこで,各種情報(雨量情報,被害情報〈被害状況,被害写真,位置情報等〉,航空写真等)を閲覧・共有できる「災害情報共有サイト」を迅速に構築・運用することにより,発災後の防災関係者(広島県関係各課,各事務所, 災害対応を支援する民間企業等)での発災後の組織横断的な情報収集・共有が可能となった。
六甲山は,急峻な地形と脆弱な地質,そして,山麓の狭隘な所まで宅地が迫り,これまで幾度となく災害に見舞われている。とりわけ昭和13(1938)年の阪神大水害,昭和42(1967)年の豪雨災害,そして,平成7年(1995)の阪神淡路大震災など,多くの尊い命が奪われた災害が約30年おきに発生している。 これらの災害事例は『水利科学』No.363に寄稿しているので,本稿では,平成26(2014)年,30(2018)年に六甲山上付近で発生した崩壊地の特徴について紹介するとともに,六甲山上付近における斜面の危険度評価に向けた考察を行った。
南海トラフ巨大地震が切迫する中で, 「千年に一度」の東北地方太平洋沖地震発生を受け,徳島県では,防災・減災対策の検討に着手し,津波対策では,県独自の「津波浸水想定」や「被害想定」を実施し,国の想定と比較することで,その特徴を明らかにするとともに,南海トラフ巨大地震に伴う津波浸水や中央構造線活断層帯を震源とする直下型地震に対応する土地利用規制の在り方を示した。海岸整備では,早期の効果を発現できるよう,住民の避難時間が確保可能な暫定高さでの整備という考え方を示した。平時から発災後へとシームレスかつ迅速に都市の復興を可能とする留意点や,気象庁から発表される「南海トラフ地震に関連する情報」に対する県独自の避難モデルの提示を行った。 本研究は,これらの徳島県独自の取組から得られた知見を通じて,「南海トラフ巨大地震」,「中央構造線活断層帯を震源とする直下型地震」のような「超低頻度巨大災害」に対する今後の直面する災害リスクへの対応をどうすべきかを含め,防災・減災対策のあり方を提言するものである。
静岡県の最北東に位置し,富士山を有する駿東郡小山町では,2010年に発生した台風9号以降,富士山由来の火山噴出物であるスコリアが堆積した層から,不安定な土砂が降雨のたびに流出するようになり,住民への被害が多発していた。 そこで,小山町では行政と住民が一体となって地域を保全するため「小山町山地強靭化総合対策協議会」を設置し,スコリアという特殊な土質を考慮した斜面防災対策について様々な取り組みを行ってきている。その中で,住民自らが所有している山地を保全することを目的として,人力で可能となる様々な防災工事の施工を体験するという「体験施工」が継続的に実施されており,これらの活動によって住民の防災意識が向上して現在に至っている。
中学生および高校生に森林の保水力について考察させることを目的とし, 2017年に専門高校の森林科学の授業,2018年に中学校の理科の授業の学習内容に対応した人工降雨実験の授業実践を行った。実験には蔵治・保屋野編(2014)が考案した,園芸用支柱と鉄製ボールプランタースタンド,シャワーノズルを取り付けた2 リットルペットボトルで構成されている簡易散水装置を用いた。これらは100円ショップで購入できるため,学校で用意しやすい。実験は高等学校の演習林と中学校の林地・草地及びグラウンド(裸地)で行われた。林地では,散水したほぼ全量が地面にしみこむが,散水を葉で遮り水滴を大きくすると地表面流が増加した。グラウンドでは,大きな地表面流が観察できた。これらの実験を通して,生徒は林地や裸地における地表面流と降雨との関係について考察することができた。