金沢地区は神奈川県横浜市の南端部に位置し,鎌倉市と近接する東京湾に面した地域である。鎌倉幕府開設を機に,鎌倉への陸路・海路の要所となり,人物・物資の往来はもとより,幕府武将らが館を構えるなど,一気に賑わいをみせ,中世鎌倉時代から歴史的に発展してきた地域である。鎌倉〜江戸〜明治時期には,殊に,平潟湾の千変万化する風光明媚な海風景が旅人・墨客らを魅了し,全国的に人気の観光スポットとして名を馳せてきた。また,近代の戦前期頃までは,金沢の海風景をこよなく愛した政治家・文化人などが別荘・別邸などを建てて住み着き,海浜保養地としても知られていた。 このような時代的背景と変遷の下,金沢地区では,中世鎌倉時代からの貴重な歴史的構築物や遺跡・文化財などが数多く保全・伝承されてきた。その中でも主に,ここでは,歴史的な人物や遺産・遺構などと関連し,伝説・逸話・口碑などを秘めた古水や史跡水(水場や水辺も含む)にスポットを当てた探索調査を試みている。 本稿では,古き時代からの変遷と共に,地域の生活・習俗・文化等の発展史に深く係わってきた古水・史跡水・水場を「時代水」と称して着目し,先代人に纏わる利水的な遺構や関連する遺物などを中心に取り上げ,関係する人物や歴史的な時代背景などを織り交ぜて,その来歴・変遷・現状などを解説している。殊に,先代人の利水や水工に纏わる「水」への思いや発想・構想における英知・苦難などに触れることで,今後に継承すべき事柄に光を照らし,利水技術や水工物の古事来歴を顧み,再考する機会になればと願っている。