水利科学
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62 巻, 3 号
No362
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集:琵琶湖の保全と再生Ⅱ
  • 石上 公彦
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 3 号 p. 1-21
    発行日: 2018/08/01
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    琵琶湖東岸に位置する伊崎国有林ではカワウの個体数が増加し,その営巣により2003年までに約11ha に及ぶ樹木の集団枯死が発生した。 こうした状況を踏まえ,林野庁近畿中国森林管理局において「伊崎国有林の取扱いに関する検討におけるワーキンググループ」が設置され,2007年4月に「伊崎国有林の森林管理におけるカワウ対策方針」が策定されて,滋賀森林管理署がこれに基づきカワウ対策を行うこととなった。 具体的には,森林の定期的なモニタリング(森林影響調査)を行いながら,森林管理・植生回復対策として枯死木の伐採や郷土樹種の植栽等を実施するとともに,カワウ抑制対策として滋賀県による銃器捕獲等が実施された。 その結果,カワウの生息数は2005年の15,691羽から2016年の133羽に減少し,被害を受けた森林も回復してきた。 カワウ対策は新たな段階を迎えつつあり,今後とも,伊崎国有林の適切な保全管理をめざし,取組を進めていきたいと考えている。

  • 古賀 勝之
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 3 号 p. 22-41
    発行日: 2018/08/01
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    古来より琵琶湖周辺地域では洪水,渇水被害に悩まされ,一方淀川下流の阪神地域では,高度経済成長期の急速な発展によって都市用水の需要が高まり琵琶湖を貴重な水源として期待してきた。これらの諸問題を解決するため,近畿圏の広域的な水資源開発事業と琵琶湖沿岸の治水及び地域開発事業とを総合的に推進していく『琵琶湖総合開発計画』が策定され,この事業の一環として水資源開発公団(現水資源機構)は治水と利水対策を基幹とした『琵琶湖開発事業』を実施した。事業の実施により,琵琶湖の治水・利水を目的とした水位運用による生物環境の変化,湖岸堤及び管理用道路の新設によるヨシ帯の一部消失や湖岸域周辺の生物環境が分断されたことによる琵琶湖環境への影響が懸念されたことから,事業の実施による琵琶湖環境への影響を把握するための環境調査や,ヨシ群落の再生などの環境保全対策を行った。また,滋賀県により「マザーレイク21計画」が策定されて以降も,その背景を受けたビオトープの造成による湖岸域の連続性再生など,琵琶湖環境の保全・再生に向けた取り組みを行っている。本稿は,これらの実施状況とともに,平成29年3月30日に策定された「琵琶湖保全再生計画」への関与,貢献に向けた取り組みについて紹介するものである。

  • 古川 道夫
    2018 年 62 巻 3 号 p. 42-51
    発行日: 2018/08/01
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    認定NPO法人びわこ豊穣の郷では,住民主体の河川水質調査を20年間実施してきた。調査体制の確立,調査方法の徹底,結果の解析およびその公表等さまざまな問題に直面したが,逐一これを解決し,現在に至っている。琵琶湖赤野井湾の水質を考える上で,その流入河川の水質をモニタリングすることは今後も欠かすことのできない重要な事業である。地域住民が今後も主体となって取り組めるような仕組づくりが求められている。

一般論文
  • 金子 直広, 山田 朋人
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 3 号 p. 52-70
    発行日: 2018/08/01
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    北海道における稲作に必要な灌漑用水量のピークは,代搔きが行われる5月中旬から下旬であったが,近年,7月上旬に新たなピークが出現している。7月上旬に大量の灌漑用水が必要となる理由は,田に深く水を張ることで稲を寒さから守る深水灌漑という栽培技術が普及したことによる。深水灌漑を行う時期に必要となる水量は,代搔きを行う時期に必要となる水量にほぼ匹敵するが,大量の融雪水により河川流量が増大する代搔き期と異なり,深水灌漑を行う7月上旬は,河川流量が減少する時期に当たる。本研究は,石狩川中流域の河川流量が7月上旬に必要とされる水量を下回る確率を求めることで,7月上旬の渇水リスクが高いこと,また,ダムによる流量調整効果がない場合にはそのリスクがさらに高くなることを明らかにした。さらに,今後,温暖化が進み,融雪時期が現在よりも早くなった場合には,7月上旬における水資源の不足が現在よりも一層懸念される状況に陥ることを明らかにした。

  • 松井 明
    2018 年 62 巻 3 号 p. 71-82
    発行日: 2018/08/01
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    北陸地方4ダム(手取川ダム・真名川ダム・大石ダム・大津呂ダム)の共通点はすべて洪水調節を利水目的の1つとしているため,洪水期および融雪期の前後に貯水量が減少した。総貯水容量が比較的大きい手取川ダム,真名川ダムは,小さい大石ダム,大津呂ダムと比較して,放流量が流入量を上回る月が多かった。総貯水容量が大きいダムは渇水に対する危険性が小さいため,放流量が増加した。年平均回転率は大きいものから順に大石ダム14.5回,手取川ダム5.2回,大津呂ダム4.7回および真名川ダム3.1回であった。真名川ダムおよび大津呂ダムは総貯水容量に対する年平均流入量が小さいため,年平均回転率が小さくなった。大石ダム下流河川生態系を改善するためには,①現行の表層取水から選択取水に変更すること,②麦わらや落葉落枝を利用すること,③4月に放流量を増加させて自然出水再現放流すること,④流入量を一時的に蓄えることによって規模の大きいフラッシュ放流を実施することを提案した。大石ダムは建設後約40年間が経過する。治水や利水施設としてだけでなく,下流河川生態系を保全する施設として適切に維持管理されることが求められる。

  • 正条 直太
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 3 号 p. 83-96
    発行日: 2018/08/01
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    長野県は,階段式木工沈床という木材を利用した治山工法を考案して施工した。本研究では,経年による木材の腐朽・摩耗等について追跡調査した。腐朽について,施工から 6・15年目にピロディンを用いて貫入量を調査したところ,殆ど腐朽が進行していない結果となった。摩耗については,施工から 6・15年目に部材の摩耗量を調査した結果,中礫や大礫が流れる渓流であるにもか かわらず,摩耗増加量は僅かであった。そして,摩耗速度と部材の許容応力度から耐用年数を算出したところ,50年に近い耐用年数を有する結果となった。これらの結果は,木工沈床は水中・土中に没しているため,腐朽の要因である空気に触れにくく,また,流送砂礫の衝突等の外力が加わりにくい環境にあったためと考えられた。本工法は,施工箇所の適用条件の範囲が広く,メンテナンスフリーのまま中期〜長期の耐用年数を有する有効な工法であると評価できた。

海岸林シリーズ
  • 織部 雄一朗, 田中 功二, 宮本 尚子, 山野邉 太郎, 今野 幸則, 大西 昇, 丸山 毅, 川上 鉄也, 小澤 創, 太田 清藏
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 3 号 p. 97-107
    発行日: 2018/08/01
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    東北地方産のマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツについて,種苗の主な供給源である採種園の種子生産量を2〜3倍に向上させる技術,暫定的に供給するさし穂および未熟種子から誘導した不定胚を用いてクローン苗木を大量に増殖する技術,温暖地産の抵抗性クロマツ種子・苗木を補完的に導入する技術を開発し,東日本大震災によって甚大な被害を受けた東北地方太平洋沿岸部の海岸防災林の再生現場に苗木を安定的に供給するシステムを構築した。今後は,被災地を含めマツノザイセンチュウを病原体とするマツ材線虫病の被害を受けた全国のクロマツ海岸林の再生にこのシステムが活用され,沿岸部における住民の生活と農業が早期に復興し継続することが期待される。

「後世に伝えるべき治山」60選シリーズ
  • 野田 和浩
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 3 号 p. 108-117
    発行日: 2018/08/01
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    長野県南部に位置する伊那谷は,3,000m 級の赤石山脈(南アルプス)と木曽山脈(中央アルプス)に挟まれ,その間を天竜川に沿って南北に伸びる盆地で,中央構造線の西側に位置している。 昭和36年(1961年)6月下旬,天竜川上流の伊那谷を中心に,梅雨前線豪雨災害,当地においては「三六災害」と呼ばれる大災害が発生し,死者・行方不明者139名,負傷者999名,家屋全壊585戸,半壊約912戸等,総被害額が300億円ともいわれる被害がもたらされた。 この甚大な被害に対し,長野県や地元からの強い復旧要請により,昭和37年から中川地区民有林直轄治山事業が行われ,新たな工種・工法を積極的に採用し,積極的な復旧工事を進めたことにより,災害当時の荒廃地は姿を消し,緑豊かな森林へと更生している。

連載
  • 〜横浜市金沢地区を中心とした三浦半島周辺の探索調査〜
    山口 晴幸
    原稿種別: 研究論文
    2018 年 62 巻 3 号 p. 118-141
    発行日: 2018/08/01
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    金沢地区は神奈川県横浜市の南端部に位置し,鎌倉市と近接する東京湾に面した地域である。鎌倉幕府開設を機に,鎌倉への陸路・海路の要所となり,人物・物資の往来はもとより,幕府武将らが館を構えるなど,一気に賑わいをみせ,中世鎌倉時代から歴史的に発展してきた地域である。鎌倉〜江戸〜明治時期には,殊に,平潟湾の千変万化する風光明媚な海風景が旅人・墨客らを魅了し,全国的に人気の観光スポットとして名を馳せてきた。また,近代の戦前期頃までは,金沢の海風景をこよなく愛した政治家・文化人などが別荘・別邸などを建てて住み着き,海浜保養地としても知られていた。 このような時代的背景と変遷の下,金沢地区では,中世鎌倉時代からの貴重な歴史的構築物や遺跡・文化財などが数多く保全・伝承されてきた。その中でも主に,ここでは,歴史的な人物や遺産・遺構などと関連し,伝説・逸話・口碑などを秘めた古水や史跡水(水場や水辺も含む)にスポットを当てた探索調査を試みている。 本稿では,古き時代からの変遷と共に,地域の生活・習俗・文化等の発展史に深く係わってきた古水・史跡水・水場を「時代水」と称して着目し,先代人に纏わる利水的な遺構や関連する遺物などを中心に取り上げ,関係する人物や歴史的な時代背景などを織り交ぜて,その来歴・変遷・現状などを解説している。殊に,先代人の利水や水工に纏わる「水」への思いや発想・構想における英知・苦難などに触れることで,今後に継承すべき事柄に光を照らし,利水技術や水工物の古事来歴を顧み,再考する機会になればと願っている。

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