水利科学
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64 巻, 2 号
No373
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集:平成30年7月豪雨災害Ⅱ
  • 岡田 康彦, 山科 真一
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 2 号 p. 1-20
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/09/19
    ジャーナル フリー

    西日本を中心に多くの災害を発生させた平成30年7 月豪雨は,2日間あるいは3日間といった比較的長い間強い雨が継続したことが特徴で,多くの地点で24・48・72時間雨量が観測史上最大値を更新した。この豪雨により広島県や愛媛県では山地地すべりが多発しており,筆者らは広島県で3カ所,愛媛県で2カ所の現地調査を行った。広島県では,風化花崗岩のみならず流紋岩斜面の遷急点付近で表層崩壊が多発しており,コアストーン等の巨大な岩塊の多さが特徴として認められた。治山ダムは一部が流出している現場も認められたが,ダム背後は緩い斜面を形成しており,また,ダムの下流側に比べて明らかに侵食量が小さいなど,土石および流木の捕捉のほか,土石流の減勢にもその機能を相当程度発揮していた。愛媛県では,遷急点よりもさらに上流の緩勾配斜面を 源頭部とする最大深さが10m にも及ぶ崩壊も認められた。記録的な豪雨を受けることよる規模の大きな表層崩壊発生の可能性が示唆された。気候変動の影響を受けて山地地すべりの主たる誘因である降雨の極端化が進行している現状においては,ハード対策,事前防災・減災対策としてのソフト対策,森林防災機能の高度発揮など,あらゆる側面の取り組みを加速することが肝要である。

  • 野々山 一彦, 池山 忠, 山根 誠
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 2 号 p. 21-42
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/09/19
    ジャーナル フリー

    2018年7月5日から8日にかけて西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨となった。この降雨を誘因として広島県内では土石流等の土砂災害による甚大な被害が生じた。一方で,土石流が森林内で停止し,道路・住宅等に大きな被害が及ばなかった箇所も確認されている。土砂流出防備効果の高い森林 造成の基礎資料とするため,森林による土石流の減勢が確認された広島県東広島市の黒瀬地区と八本松地区において,森林および土石流の減勢・停止状況の把握を行った。 調査の結果,土石流の停止区間付近における土砂の停止形態と森林の特徴は次のようであった。①森林による土砂流出の減勢は傾斜10°前後の区間で発現した。②大径木からなる林帯のみでなく,胸高直径が10cm 程度の小径木が主体の林相においても土砂流出防止機能は確認された。③小径木主体の林相での土石流の停止形態としては,立木との衝突などでローブ(舌状の堆積地形)が形成され,その平坦面で後続土砂が減勢・ᷖ回することを繰り返すものであった。④側方の立木による土石流流下幅の拡大抑制が確認された。

  • ~広島県呉市・江田島市を事例として~
    西川 友章
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 2 号 p. 43-59
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/09/19
    ジャーナル フリー

    平成30年(2018年)7月豪雨により広島県では多数の土砂災害が発生した。 本論文では,呉市および江田島市を対象に実施した土砂災害緊急調査の結果を基に,どのような地形条件で土砂災害が発生したのか,その特徴を検証し報告する。 当災害では土砂災害警戒区域が設定されていない箇所からの土砂災害発生が多数確認された。土砂災害警戒区域が未設定なのは土砂災害危険箇所の抽出基準を満たしていないことが主な原因として考えられたため,土砂災害の発生した地形条件として,特に土石流については1次谷地形を呈していない箇所,がけ崩れについては急傾斜地の要件を満たしていない箇所に着目し,それらの箇所の地形条件の特徴を検証する。この検証により,土砂災害警戒区域外であっても土砂災害発生の可能性がある箇所の特徴を示すことができれば,今後の土砂災害への警戒避難対策に資するものと考える。

  • 作間 敦, 河井 大介
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 2 号 p. 60-75
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/09/19
    ジャーナル フリー

    平成30(2018)年7月豪雨では甚大な被害が発生し,非常に多くの犠牲者が出た。そこで,この豪雨災害時の人々の行動等を明らかにすることにより今後に防災行動に活かすために,避難指示または避難勧告が発令された愛媛県,岡山県,広島県の市区町村に住む人を対象にアンケート調査を実施した。 今回の豪雨災害では,非常に広い範囲で避難指示や避難勧告などの避難情報が発令されている。しかし,実際に被害を受けた人は調査協力者の10.9%と低く,安全確保行動をしたにもかかわらず被害を受けなかった人が今後安全確保行動をとらない,いわゆるオオカミ少年効果が懸念される。しかし,分析の結果,明確なオオカミ少年効果はみられなかった。 また,昨今の豪雨災害の特徴として高齢者の被災があり,その傾向を分析した結果,高齢者ほど避難せず,高齢者は大雨洪水警報などの情報への反応も鈍く,また避難を考えることすらしていない傾向が示された。

  • 森 義将, 高須 是樹, 赤井 奈浦子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 2 号 p. 76-96
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/09/19
    ジャーナル フリー

    本稿では解析雨量1),オープンデータとオープンソースソフトウェアを用いて,平成30年7月豪雨における広島県の崩壊発生地の降雨状況を把握し,崩壊発生要因となった降雨を分析した。また,様々な防災情報と時系列で比較することにより,崩壊発生降雨が事前に予測されていたかを検証した。 崩壊発生要因となった降雨を分析した結果,積算雨量300mm程度以上となった場合に多くの崩壊が発生したと考えられた。さらに積算雨量が300mm以上に達したとき,傾斜が30°以上の斜面では時間雨量が数mm程度でも崩壊が発生,30°未満の比較的緩い斜面においても時間雨量30mm前後の降雨で崩壊が発生したことが示唆された。 また崩壊発生降雨を防災情報と時系列で比較した結果,防災情報の特性によって予測精度に差があり,災害発生直前や災害発生後に発表・発令される場合があることや,同じ防災情報が発表・発令される自治体であっても,地域によって災害の切迫度が異なることが判明した。

一般論文
  • 海野 修司, 木下 修一, 山田 正
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 2 号 p. 97-159
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/09/19
    ジャーナル フリー

    南海トラフ巨大地震が切迫する中で, 「千年に一度」の東北地方太平洋沖地震発生を受け,徳島県では,防災・減災対策の検討に着手し,津波対策では,県独自の「津波浸水想定」や「被害想定」を実施し,国の想定と比較することで,その特徴を明らかにするとともに,南海トラフ巨大地震に伴う津波浸水や中央構造線活断層帯を震源とする直下型地震に対応する土地利用規制の在り方を示した。海岸整備では,早期の効果を発現できるよう,住民の避難時間が確保可能な暫定高さでの整備という考え方を示した。平時から発災後へとシームレスかつ迅速に都市の復興を可能とする留意点や,気象庁から発表される「南海トラフ地震に関連する情報」に対する県独自の避難モデルの提示を行った。 本研究は,これらの徳島県独自の取組から得られた知見を通じて,「南海トラフ巨大地震」,「中央構造線活断層帯を震源とする直下型地震」のような「超低頻度巨大災害」に対する今後の直面する災害リスクへの対応をどうすべきかを含め,防災・減災対策のあり方を提言するものである。

シリーズ:全国47都道府県土砂災害の歴史
  • 今村 隆正
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 64 巻 2 号 p. 160-173
    発行日: 2020/06/01
    公開日: 2021/09/19
    ジャーナル フリー

    鳥取県は,国土交通省が発表する土砂災害の発生状況で見ると,47都道府県中30位前後であり,土砂災害が少ないと認識されがちである。確かに筆者が研究対象としているような歴史記録に残る大規模な山崩れ災害事例(土砂量が 100万m3以上程度の崩壊や,人的被害の多い土砂災害)は確認されない。しかし,中小規模の事例は繰り返し発生している。誘因別に見ると,発生誘因の多くは台風等の大雨を誘因とした事例であり,地震を誘因とした事例は少ない。 本稿は,歴史資料(古文書,鳥取県史,市町村誌)調査,ヒアリング調査,現地調査を基に,主に江戸時代以降に鳥取県で発生し歴史に記録された土砂災害の事例を調査した結果を整理したものである。

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