水利科学
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63 巻, 5 号
No370
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
一般論文
  • 末次 忠司
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 63 巻 5 号 p. 1-16
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2021/02/23
    ジャーナル フリー

    戦後は国土が荒廃していたこともあり,大型台風の襲来により,大水害が発生した。これに対して,治水対策のために,法律や事業計画が策定されたほか,堤防やダムなどの様々な治水施設が整備された。経済的には戦後復興を経て,朝鮮戦争特需や勤勉な国民性により経済成長が成し遂げられた。経済成長により各地で都市化が進行し,都市水害が顕著となった。また,経済最優先に伴い,効率化が重要視され,都市化と相まって,弊害として生活や環境などに歪みをもたらした。経済的に豊かになるとともに,個人の主義・主張が強調され,公共事業に対する住民反対運動や裁判が展開され,水害裁判も数多く提訴された。本報では戦後から昭和末期までの治水,利水,環境に関する制度や技術に関する動向を総括し,分析した。

  • 松浦 茂樹
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 63 巻 5 号 p. 17-27
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2021/02/23
    ジャーナル フリー

    CSG(Cemented Sand and Gravel)とは,「手近に得られる風化岩,段丘堆積物,河床砂礫等の岩石系材料にセメントと水を加え混合したもの」である。 これを用いて構造物を造る工法がCSG 工法である。この工法はダム技術から生まれた。台形CSG ダムとして,北海道当別ダムなどが近年,竣工している。さらに,この工法が防潮堤に用いられている。東北地方太平洋沖地震による津波被害の復旧として福島県の夏井海岸などで使用され,現在,浜松市沿岸域防潮堤を築造中である。ここでは,CSG をアンコにして,その横を盛土し,景観に配慮して樹木を植え緑化する。 現地にある材料を処理せずそのまま利用するので,費用は高くない。またセメントを使用しているので剛性があり,越流に対しても強い。この工法を河川堤防に利用することを提案する。河川堤防の今日の課題は,堤防を越える洪水に襲われても壊れない「粘り強い」構造物の築造である。河原に大量の礫・石のある河道では,材料は容易に得られる。このような河川では,その条件は十分備えている。

  • 饗庭 靖之
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 63 巻 5 号 p. 28-62
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2021/02/23
    ジャーナル フリー

    1 生物を保護する理由は,従来,生物の人間にとっての利用価値で説明されてきたが,国連の世界自然憲章や生物多様性条約により,生物自体に内在する価値を尊重することが,人間にとっての利用価値と併せて,保護の根拠とされるようになっている。

    2 生物を保護するためには,地球の自然環境を保全しなければならない。 生物の保護の仕方について,生物多様性条約は,生物多様性を保全することだとしたが,生物多様性の保全とは,個々の生物を保護することではなく,生物の集合体である生態系を保護することである。そして,生態系を保護することは,生物を質と量の両面で保全することが必要であり,生物の宝庫である森林を保全することが最も重要である。 ところが,森林は,現在のペースで400年あまりで地球上から消滅するという危機的な事態にある。 しかし,1992年の国連環境開発会議は,森林を保全するための条約づくりに失敗し,その後4 半世紀にわたってその状態が放置されており,これを変えて森林を保全することについての世界のコンセンサスを作らねばならないのが今日の課題である。 生物多様性でホットスポットとされる熱帯雨林など豊かな自然を有する開発途上国における森林減少の人為的原因は,①森林の伐採権を業者に与えるコンセッションが政府の財政補てんのために過度に設定されること,②膨大な貧困層の存在による住居や農地などの土地需要などにあると言われるが,その解決基準は,世界自然憲章に示されており,その内容である,アセスメントを前提とした森林経営と森林の地目転換を各国に要求する条約を作る必要がある。

    3 国連環境開発会議が,森林を保全するための条約づくりに失敗したのは, 先進国が,開発途上国の森林を利用し開発する行為に干渉するのは,森林を開発し尽くした先進国が開発途上国との経済格差を固定しようとする陰謀ないしはエゴイズムだと受け取められたからであるが,このような停滞原因を除去し,世界の森林の減少のスピードを落とすためには,日本や米国などをはじめとする先進国は,過去において森林を他の地目に転換した土地を,再度森林に戻す努力を行う必要がある。

  • 和田 一範
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 63 巻 5 号 p. 63-117
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2021/02/23
    ジャーナル フリー

    明治29年(1896年)制定の旧河川法の手続きにあたって,それ以前にすでに大連続堤が整備済みであった東京府側が,これを了解しなかったために,内務省の河川堤防としての建設の認可が下りなかったものである。大騒動の後の内務省の最終調停は,東京側の堤防よりも三尺(約90cm)低くするという条件で,神奈川県側の新堤建設を認めるものであった。 一方,平間の渡し下流にはそもそも150間(約270m)の大きな突堤が,神奈川県側から東京府側に突き出すように整備されていて,長年有効に機能していた。この突堤は,背後にある神奈川県橘樹郡道兼用の伊勢浦堤と食い違うように配され,二つをあわせて霞堤としても機能していた。 神奈川県側,御幸村のこの地先には大変有効であったこの突堤は,対岸東京府側矢口村には,洪水流を対岸に向ける,脅威であった。東京府側,矢口堤防に大きな脅威をもたらすこの突堤を,矢口村の地域住民は相当,嫌っていた。 有吉堤の騒動の当初,神奈川県側は,この突堤と伊勢浦堤をつなげて,さらに上流側無堤地区の新堤につなげるという工事を始めたので,対岸の住民はたまらない。結局,この突堤の扱いは,内務省,東京府,神奈川県の三者調停の中で,最後までもめる最大の懸案事項となった。 このたび神奈川県立公文書館所蔵の飯田家文書(ID2200710116,ID2200710134)において,その後の顚末の全ぼうが明確になる新たな資料を見いだしたので,活字にして紹介するとともに,防災にかかる教訓として分析をしてみたい。それは,有吉堤の大騒動の結着に続く,次の大きな幕のドラマであり,さらには多摩川直轄改修への道につながる,橘樹郡の連携の復活劇である。 防災の基本である,防災の主役,自助・共助と,公助との連携の教訓の,歴史的なモデルがここに見いだされる。

  • 今村 隆正
    原稿種別: その他
    2019 年 63 巻 5 号 p. 118-120
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2021/02/23
    ジャーナル フリー
  • 今村 隆正
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 63 巻 5 号 p. 121-145
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2021/02/23
    ジャーナル フリー

    新潟県は,国土交通省が発表する過去の土砂災害の発生状況で見ると,地すべりにおいては47都道府県中1位であり,毎年のように土砂災害が発生している。発生誘因も多様であり,融雪期の降雨等を複合要因として発生する災害,台風や集中豪雨,地震を誘因として発生する災害記録も数多く残されている。 本稿は,歴史資料(古文書,新潟県史,市町村誌)調査,ヒアリング調査,現地調査を基に,主に江戸時代以降に新潟県で発生した大規模な土砂災害の事 例を調査した結果を整理したものである。

  • 橘 隆一, 小野 賢二, 小森谷 あかね, 宇川 裕一, 福永 健司, 國井 洋一
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 63 巻 5 号 p. 146-157
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2021/02/23
    ジャーナル フリー

    千葉県の九十九里浜の海岸林では,1980~1990年代に地盤高が低く地下水位が高いために湿地化してしまった林分に関する問題が顕在化していた。しかし,2000年代以降,低湿地対策としての盛土工を施工した上にクロマツ林等による再造林が進められたことで,湿地化した林分は徐々に減少し,現在ではほとんど見られなくなった。本研究では,耕起した場合としなかった場合の2 箇所の盛土造成地において,植栽後約20年が経過したクロマツの根系伸長を調査 し,深度ごとの土壌硬度との関係を考察した。その結果,クロマツの根の生重量について垂直分布は,無耕起区では深さ10~30cmに根が集中しているのに対し,耕起区では深さ30~50cmに根が集中していた。また,この結果に対応するように,無耕起区よりも耕起区で比較的深い層まで低い貫入抵抗値が続いた。 海岸林の機能の一つである津波エネルギーの減衰や漂流物の捕獲等による減災効果を発揮させるには,垂下根を土層深部まで発達させる必要がある。両施工地ともに垂下根は下層まで発達していることから,盛土したことにより根系が伸長可能な土層が確保されてきたと考えられた。また,耕起は土壌硬度の改良に直接効果をもたらすことから,植物の根系伸長を促すうえで有効な方法と考えられた。

シリーズ:全国47都道府県土砂災害の歴史
海岸林シリーズ
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