日本毒性学会学術年会
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シンポジウム21: 【日本薬理学会合同シンポジウム】薬物副作用に関わる性差
  • 坂本 多穂, 清水 聡史, 黒川 洵子
    セッションID: S21-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    薬物有害事象の発生率には性差が存在し、その一因として腎排泄機能における性差が考えられる。腎薬物トランスポーターは、薬物分子の経細胞輸送に重要な働きをし、腎臓における薬物や低分子の取り込みと排出に大きな役割を担う。腎機能の性差は、多くの生物種で広く報告されており、トランスポーターの発現や電解質輸送の機能性差が関与する。しかし、これらの分子性差が、薬物排出腎排泄および薬物有害事象の性差にいかに関与するかはわかっていない。薬物特異的なメカニズムを解明するための技術的な困難は、トランスポーターのような膜タンパク質の存在量が少なく、疎水的な特徴を持つことである。この問題を解決するため、我々は腎臓尿細管刷子縁膜の膜タンパク質を網羅的に高感度で解析するプロテオミクス手法を開発した。本研究では、この方法を用いて刷子縁膜側の膜タンパク質複合体をプロファイリングし、腎臓からの薬物排泄における性差形成のメカニズムを解析した。性差形成における性腺と性染色体の影響を探るため、Sry遺伝子がY染色体から欠落し常染色体に挿入されたFour Core Genotypes(FCG)マウスモデルを使用した。FCGマウスを用いたプロテオミクス解析の結果、XXとXYではなく、雄と雌の腎臓で、ABC薬物トランスポーターを含む膜輸送体の発現パターンが二型であることが判明した。これらによって抗がん剤の腎毒性における性差を説明できる可能性が示された。これらの結果から、腎臓における薬物排泄の性差を理解するための有意義な知見を提供できると期待される。

  • 山浦 克典, 間井田 成美
    セッションID: S21-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     女性は男性に比べ薬物有害反応(ADR)の発生率が高いことが、多くの論文で報告され、薬物動態学および薬力学の観点から、ADRのリスク因子に配慮することの必要性が示されている。

     米国FDAは、1977年に発出した女性を治験から除外する通達の影響により、女性に関する情報不足が懸念されること、また性差に関する治験データの分析の必要性の認識から、1993年に「治験における性差の検討と評価のためのガイドライン」を発出した。このガイドラインでは、十分な人数の女性を治験に組み込み、薬物動態に関する女性のデータの収集と男女層別の分析など、性差に関する情報収集・分析を推奨した。その後、FDAは2014年に医療機器の臨床試験においても女性を十分に組み入れ、性差に関するデータ解析を推奨するガイダンスを発表している。このように、FDAは治験における性差に関する情報の必要性を認識し、各種通達を通じて、性差を考慮した医薬品の開発を進めている。

     我が国でも、性差を考慮した薬物治療実践の必要性の認識は深まり、現在では全国各地の医療機関で女性外来が導入されている。医薬品添付文書は、薬物治療実践の基本となる重要な公的文書であるが、我々が実施した医薬品添付文書中の用法・用量、副作用、薬物動態における性差に関する記載状況の調査では、性差に関する情報の充実度は成分ベースで全医療用医薬品の数%と極めて不足してことが明らかとなった。性差を考慮した薬物治療の実践において、医薬品添付文書中に性差に関する情報を充実させることは、女性のADR発生を未然に防止する上でも重要と考える。

シンポジウム22: 【日本毒性病理学会合同シンポジウム】日本毒性病理学会からのトピック:病理学的観点から見た化合物による毒性反応の種差
  • 後藤 浩一
    セッションID: S22-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    血液毒性は、医薬品の臨床使用において最も一般的な有害事象のひとつであるが、血液毒性が用量制限毒性となることもあり、医薬品候補化合物の非臨床安全性評価時に精査するべき毒性である。血液毒性は、げっ歯類及び非げっ歯類を用いたin vivo毒性試験における臨床検査で容易に検出できる。しかし、血液毒性には動物種間並びに動物及びヒトとの間に感受性差があることが知られている。また、障害を受けた造血細胞によっては末梢血での血球異常の発現時期及び程度並びにその回復性が異なると考えられるが、通常のin vivo毒性試験では、どの造血細胞が障害を受けたかを判断することは困難である。このような背景から、医薬品候補化合物の血液毒性ポテンシャルを動物種間及びヒトとの間で比較し、血液毒性のヒトへの外挿性を推測できる評価系は、ヒトにおける血液毒性リスク評価のために有用と考えられる。本講演では、げっ歯類、非げっ歯類、及びヒト由来の造血幹/前駆細胞を用いたcolony forming unit-granulocyte/macrophage又はburst forming unit-erythroidコロニーアッセイ系の実用例として、市販の低分子抗がん剤(化学療法剤及び分子標的薬)を用いて、血液毒性の動物種間及びヒトとの感受性差を比較した実例を紹介する。さらに、化合物の造血細胞分化への影響をin vitroで評価した事例も紹介する。

  • 能登 貴久
    セッションID: S22-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     非臨床安全性試験において眼毒性が認められた場合、開発中止を含めたクリティカルな判断を迫られることが多い。しかしながら、動物で認められた毒性が必ずしもヒトで生じるわけではなく、有用な医薬品を提供する機会を逸している可能性は否定できない。反対に、非臨床試験では検出できなかった所見がヒトで発現することもあり、非臨床試験での毒性所見検出力の課題も指摘されている。

     これら毒性種差が生じる理由の1つとして、ヒトと実験動物の眼球構造の違いがあげられる。動物種による眼球構造の差異といえば、網膜の血管構造、黄斑の有無、タペタムの有無などがあげられるが、単なる大きさ(眼球全体、水晶体)や組織間の距離(角膜と水晶体)などが、毒性発現の有無を規定する因子となることもある。

     本発表では、眼球構造(眼付属器を含む)の種差について概説したうえで、毒性発現の関連性について、既知の眼毒性物質を例示しながら考察する。さらに投与方法、すなわち全身投与および局所投与(点眼投与、硝子体内投与)による毒性発現の違いについても言及する。

  • 井澤 武史
    セッションID: S22-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    化学物質の安全性研究においてげっ歯類を用いたin vivo実験が行われるが,げっ歯類とヒトでは解毒代謝酵素などの種差が大きく,毒性反応やその機序が異なることがある。ヒト肝細胞キメラマウスは,マウスの内在性肝細胞がヒト由来肝細胞で置換され,ヒトに近い薬物動態を示すことから,毒性学研究への利用が進んでいる。本発表では,ヒト肝細胞キメラマウス(PXBマウス)の肝毒性感受性低下について,その病理学的特徴を中心に紹介する。

    PXBマウスは,ヒト成長ホルモン(hGH)受容体刺激の欠失により,肝細胞のびまん性大滴性脂肪化を特徴とする脂肪肝を呈する。また,肝細胞のグリコーゲン蓄積もみられる。その肝臓では,Glutamine synthase,CYP2E1,Argininosuccinate synthase 1などの解毒代謝酵素のZone特異性がヒトやげっ歯類の肝組織と同様に維持されるが,E-cadherinやN-cadherinのZone特異性を欠き,正常なヒトやげっ歯類の類洞にはみられないLamininの強発現がみられ,細胞接着の特性が変化している。PXBマウスに,マウスの肝毒性容量の四塩化炭素,アリルアルコール,アセトアミノフェンを単回あるいは3日間反復投与しても,ヒト由来肝細胞には明らかな壊死が誘発されない。一方で,四塩化炭素投与によりヒト肝細胞のγH2AX陽性率が増加しており,軽度の肝毒性が誘発されると考えられる。

    ヒト肝細胞キメラマウスはヒトに近い解毒代謝の特性を有する一方で,肝毒性物質に対してげっ歯類よりも明らかに抵抗性を示す。現在はhGH投与による脂肪肝抑制に伴う肝毒性感受性の変化を解析し,PXBマウスの肝毒性感受性低下のメカニズムを追究している。

  • 涌生 ゆみ
    セッションID: S22-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    膵臓は内分泌及び外分泌の二つの機能を持つ唯一の器官である.外分泌組織である腺房及び導管が大部分を占め,残りを脈管,神経,結合織並びに内分泌組織である膵島が占める.毒性試験において膵臓が標的臓器となることは少ないが,膵炎などが引き起こされると,薬剤開発の上で大きな問題となる.今回は膵臓毒性を理解するために,動物種間の形態的違いを把握することを目的とし,また動物種による毒性発現形態が異なった1例としてカドミウム(Cd)毒性について紹介する.

    膵臓は,解剖学的並びに組織学的に動物種差がある.解剖学的には,腸間膜の間にびまん性に広がる腸間膜型(ウサギ),コンパクトな塊で存在する充実型(ハムスター,イヌ,サル,ヒト),その中間型(ラット,マウス)に分けられる.組織学的に,外分泌には動物種差はないが内分泌器官である膵島の細胞構成に種差が見られる.ラットでは中心部をB細胞が占め辺縁にA細胞およびD細胞が存在する膵島がほとんどである.イヌではB細胞が島全体に見られ,A細胞は島の辺縁あるいは中央部に少量,D細胞も島の中央あるいは辺縁に少量認められる.サルではA細胞が豊富な膵島,B細胞が豊富な膵島があり,A細胞が豊富な膵島ではA細胞は全体に広がりB細胞は辺縁部に集まる傾向があり,B細胞が豊富な膵島ではA細胞は中央部にB細胞と混在する傾向がある.膵島と腺房は密接に関係しており,血管分布の特徴に種差がある.ヒト,サル,イヌでは多くの血管が膵島を経由して外分泌部へ流れ込む(膵島腺房門脈系).ラット,マウスでは膵島腺房門脈系以外に外分泌部へ直接流れ込む動脈も多い.

    ヒトのCd毒性として肝腎障害及び高血糖が生じることが知られている.Cdを静脈内投与したサルでは膵島細胞の空胞化,膵島の萎縮が生じたが,ラットでは膵島に形態的異常は認められず,外分泌部の変性・壊死が認められた.

シンポジウム23: シグナル伝達相互作用による発生制御機構とその破綻による発生毒性の予測
  • 相賀 裕美子
    セッションID: S23-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    我々脊椎動物は、その名のごとく脊椎骨を持つ動物である。脊椎骨や肋骨、そしてそれに沿って走る神経、血管などの構造は繰り返し構造(分節構造)をしめすが、この分節性はすべて発生過程に一過的に形成される「体節」に依存する。この体節形成に失敗すると、体節由来の組織の異常により重篤な病態を引き起こす。体節は尾部の突端にある尾芽領域から供給される沿軸中胚葉が、前後軸に沿って一定間隔でくびれ切れることで、形成されるブロック状の細胞塊である。尾芽から体節を形成するまでの中胚葉組織を未分節中胚葉と呼び、この領域内での細胞内及び細胞間の情報伝達が規則正しい分節のタイミング(マウスでは2時間、ヒトでは8時間)を決定している。その中でも特に、Notch シグナルに関わる因子が体節形成に必須であることがノックアウトマウスの解析で示された。また、Notchシグナルのみならずいろいろなシグナルに関わる遺伝子が、体節形成の周期に合わせて尾側から頭側へ、波をうつように発現を変化させる。これは、未分節中胚葉の個々の細胞が周辺の細胞と同調しつつ、Notch シグナのオン・オフをくりかえす、いわゆる体節時計に制御されているからである。さらにこの時計は正確に停止して、分節境界を決定する。我々はその時計の停止に関与する転写因子MESP2の機能解析を続けてきた。多くの変異マウスを駆使した遺伝学的解析により、MESP2は時計を停止し分節を開始させる鍵となる遺伝子であることが明らかになっている。このシンポジウムでは、MESP2およびその下流因子RIPLLY2の作用機構を論じるとともに、ヒト疾患とのかかわり、また最近確立されたヒトiPSからのオルガノイドを用いたモデル系に関しても概説したい。

  • 入江 直樹
    セッションID: S23-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    脊椎動物は進化を通して多様な特徴を獲得してきた一方で、体の基本的な構造(ボディプラン)を構築する器官形成期は共通している。この背景にあるメカニズムはほとんどわかっていなかったが、近年の発表者らの研究から、発生段階の器官形成期に内在化された特性、すなわち安定性および変異や環境変動に対する頑健性、そして多面的に働く遺伝子の豊富さが寄与している可能性が浮上した。つまり、器官形成期はそもそも変異や環境ノイズでは表現型のバリエーションが生まれにくい発生段階である可能性を示唆しており、これが進化を通した体の基本構造の保守性をもたらしているのかもしれない。一方で、これら知見とは整合性がとれないようにみえる知見・仮説があるのも事実だ。例えば、体の基本構造ができる発生段階でみられる器官原基の間には密で相互依存的なシグナルネットワークが存在するため、胚性致死になりやすいという仮説である。実際、器官形成期は催奇形性物質などによって致死あるいは重篤な奇形をもたらしやすい。本演題では、近年の知見と従来の知見がどのように整合的に解釈できるのかについて、発生過程の頑健性あるいは脆弱性という観点から議論したい。

  • 中島 芳浩
    セッションID: S23-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    発光レポーター遺伝子であるルシフェラーゼは、遺伝子発現等の細胞イベントを定量的にモニターするためのツールとして汎用されている。ルシフェラーゼを用いた細胞アッセイでは、特定のタイミングで細胞を破砕して発光を測定するエンドポイントアッセイが主流であるが、細胞を破砕せずに連続的に発光を測定するリアルタイム発光測定も行われている。リアルタイム発光測定では、エンドポイントアッセイでは困難な遺伝子発現の動的変動を測定できることから、より詳細に被験物質の細胞に与える影響を解析することができる。これまで我々は、様々な発光生物由来のルシフェラーゼをセルベースアッセイ用レポーターとして開発してきた。その中で、共通の発光基質(D-ルシフェリン)により緑色と赤色に発光する2種類のルシフェラーゼを併用する多色リアルタイム発光測定法を構築し、種々のセルベースアッセイに適用してきた。現在、種々の細胞ストレス応答をモニターする多色発光細胞群を樹立し、有効性や毒性評価等を実施している。本講演ではリアルタイム発光測定系の利点に加え、毒性評価の応用例として、肝毒性予測システム構築に資するインビトロ試験データの収集を目的に実施した、学習用化合物の酸化ストレス、炎症、小胞体ストレス、低酸素ストレスおよびDNA損傷に対するリアルタイム発光測定データの結果とin vivo毒性との相関に関する考察についても紹介したい。

  • 大久保 佑亮
    セッションID: S23-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    発生毒性は元来の種差特異性の高さ故、現行の試験法では複数種多数の動物を用いるなど人的・時間的・金銭的に多大な労力を払ってその安全性を評価せざるを得ない。そのため、一般化学物質においては十分に発生毒性が評価されないまま使用されているのが現状である。また、新規モダリティと呼ばれる医薬品が次々と開発されている。これら新規モダリティ医薬品は概してヒトに対する特異性が高く、現行の発生毒性試験だけではその安全性を評価することが難しい。したがって、これらの課題を解決する、ヒトの発生毒性を高精度に予測可能なスループット性の高い新たな試験法が求められている。 胚・胎児発生はシグナル伝達の相互作用により適切に制御される。この事実は逆説的に発生毒性を引き起こすためには、化学物質の標的にかかわらずその過程においてシグナルがかく乱されているのではないかと考えた。そこで、発生過程において重要な役割を果たすFGF-SRFシグナルのかく乱作用の検出を試みた。ヒトの発生毒性の検出のためにヒトiPS細胞を用いるとともに、化学物質による直接のシグナルかく乱作用に加えて間接的な影響も考慮するために、生細胞ルシフェレースシステムを用いてシグナルかく乱作用のダイナミクス解析を行った。その結果、サリドマイドを含む既知の発生毒性物質21種類、陰性物質14種類を89%の正確度で評価可能であった。 一般的に発生過程は複雑なシグナル伝達相互作用により制御されると考えられている。そのため、今回FGF-SRFシグナルのかく乱作用の解析のみで高い正確性で発生毒性を評価可能であったことは予想外であった。現在、この分子機構の解析を進めている。 今回我々は、動物を用いた毒性試験とは概念的に異なる細胞を用いた毒性試験法を構築した。今後は動物試験に加えて本試験のような細胞試験により高い胚・胎児の安全性の確保に努めたい。

シンポジウム24: 次世代研究セミナー:電磁波技術の毒性学への応用-見えないものを見る挑戦-
  • 鈴木 敬久
    セッションID: S24-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     本講演では,先進的な電磁界応用技術と,電磁界と生体との相互作用に焦点を当てる.近年,身の回りにおいて,積極的に電磁界を利用する技術が増加する傾向にあり,電磁界による生体作用に関心が高まっている.このような背景から,物理現象としての電磁界と生体との相互作用についての知見を蓄積することや,目には見えない電磁場を評価するための計測技術,解析技術,可視化技術が重要になっている.

     講演の主な内容として,最初に電磁界の基本的な性質,そして電磁界と物質との相互作用の基本事項について整理を行う.次に,その知識に基づいた電磁界と生体との相互作用に関して解説する.具体的には,既知の作用としての神経刺激作用,熱作用,および非熱的作用について説明を行う.また,電磁界を評価するための計測手法,解析手法について幾つかの例を紹介する.特に近年発展が著しい情報技術との連携についても述べる予定である.

     最後に応用例として,電磁界の安全性評価のための動物・細胞実験についての研究例を示し,人体防護ガイドラインなどについて簡単に触れる予定である.

  • 縄田 耕二
    セッションID: S24-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     テラヘルツ波は、ミリ波と光波の中間周波数領域に位置する電磁波であり、次世代のB5G/6G無線通信をはじめとして様々な産業利用に向けて急速に技術開発が進んでいる。テラヘルツ周波数領域には様々な化学物質の指紋スペクトルが存在し、非侵襲非接触に対象を物質同定できるため、郵便物内の違法薬物検査や公共の場での危険ガス分子検知など様々な応用研究が行われている。テラヘルツ波光源には電気的なものあるいは光学的なものの両方があり、その性能を高めるため研究開発され続けている。テラヘルツ波には電場強度、尖頭出力、平均パワー、エネルギー、周波数、輝度といった様々な物理的パラメータが存在している一方で、個別のパラメータをドラスティックかつフレキシブルに制御できる装置はほとんどない。 非線形光学を用いたテラヘルツ波発生は、強い近赤外パルスレーザー光を非線形光学結晶に入射し、光パラメトリック周波数下方変換によってテラヘルツ波を発生させる方法である。我々は、ニオブ酸リチウム結晶を用いたテラヘルツ波パラメトリック発生の効率的な変換の光学条件を明らかにし、尖頭出力100 kWを超えるテラヘルツ波光源の開発に成功した。周波数輝度に換算すると大型施設であるテラヘルツ自由電子レーザーを凌駕しており、他に類のない高輝度光源である。加えて、周波数可変性を有しており、テラヘルツ波と様々な生体物質との相互作用の研究に特に有効と考えられる。 本講演では、テラヘルツ波発生手法や装置による一般的な特徴を概説し、これまで報告されてきたテラヘルツ波を用いた化学物質計測と応用について紹介する。その後で、我々の非線形光学を用いた高輝度テラヘルツ波発生検出技術の最近の研究研究成果を紹介し、異分野融合的研究領域の開拓に向けた取り組みについて議論する。

  • 阪本 卓也
    セッションID: S24-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    近年,ウェアラブルデバイスなどの発展により,医療やヘルスケアの分野において,人体を含む動物の生体信号を長期にわたってモニタリングすることの重要性が広く認識されるようになってきた.しかし,接触センサの場合にはセンサ装着による不快感や心理的な拘束感が,光学センサの場合にはプライバシーに関する懸念がいずれも指摘されている.レーダなどの電波センサによるワイヤレス生体センシングは,接触センサやカメラ等を用いず,遠くから非接触で呼吸や心拍などの生体信号を得ることができるため,今後の応用が期待されており,世界的に研究開発および社会実装が加速している.特に,ミリ波帯のように高い周波数を用いたセンサでは,対象の皮膚表面の微小な動きにより生じるドップラー効果を利用した計測を行う.例えば,人体の皮膚表面を観察すると,呼吸により数ミリ,心拍により数十ミクロン程度の変位が見られる.ワイヤレス生体センシングでは,こうした皮膚の微小変位を電波により計測するハードウェア技術と,計測された信号を生体信号に変換するソフトウェア技術により実現される.本講演では,ワイヤレス生体センシングの計測原理などの基礎から,今後の発展可能性について語る.

シンポジウム25: 解毒の種差を探る
  • 湯浅 博昭
    セッションID: S25-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    最近のトランスポーター群の分子同定の進展に伴い、体内での栄養物質や異物の担体介在性動態の動物種差の解明も進んできているが、特にトランスポーターの輸送機能の動物種差において基質依存性があり得ることが浮かび上がってきたところは注目される。SLC19A3/THTR2及びSLC22A2/OCT2についての事例が挙げられるが、特定の基質に対する輸送機能を持つヒトのオーソログとその機能を持たない動物種のオーソログの間での分子及び機能レベルの比較解析を試みた我々の最近の取組みにおいて見出されたものである。SLC19A3は小腸のチアミン取込トランスポーターとして知られるが、その機能における動物種差は知られていない。しかし、新たにヒトSLC19A3で見出されたピリドキシン輸送機能においては、特定の7アミノ酸残基の特異的な関与が明らかとなった。さらに、それらはその機能を持つ動物種のオーソログではほぼ保存されている一方で、その機能を持たないラット、マウス等のオーソログでは保存されていないことも明らかとなった。SLC22A2は側底膜局在性の腎尿細管有機カチオントランスポーターとして知られるが、主要基質に対する輸送機能における動物種差は知られていない。しかし、ヒトSLC22A2のみで新たに見出されたアテノロール輸送機能においては、特定の8アミノ酸残基の特異的な関与が明らかとなった。さらに、それらはその機能を持たない数種の動物のオーソログではほぼ保存されていないことも明らかとなった。このような知見は、担体介在機構が関わる各種物質の動態に関する研究での実験動物の利用についての指針を与えるものとして役立つと考えられる。関連の知見の集積のための一層の取組みが望まれるところである。

  • 早川 卓志
    セッションID: S25-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     哺乳類は不快な感覚として、食物中の毒物を苦味でする。分子レベルでは、苦味は口腔内(特に舌の乳頭)に発現した苦味受容体を介する。苦味受容体はTAS2Rという遺伝子にコードされている。たとえばヒトは26個のTAS2R遺伝子を持つ。それぞれのTAS2R遺伝子は異なるリガンド結合ポケットを持ち、そのため口腔内で多様な毒性のあるアゴニストの検出を可能にしている。TAS2R遺伝子の数は哺乳類種によって大きく異なる。多くの哺乳類は20個未満しかTAS2R遺伝子を持っておらず、鯨類に至ってはゼロ個だ。一方で、チンパンジーとコアラはそれぞれ28個と24個のTAS2R遺伝子を持ち、これは樹上生活における葉食に依存しているためである。ヒトが26個のTAS2R遺伝子を持つのも霊長類の祖先として樹上で進化した結果である。霊長類とコアラはCYPのような解毒因子の数も多い。哺乳類における苦味感覚の起源は何なのだろうか。ヒトから最も離れたカモノハシは7個しかTAS2R遺伝子を持たない。しかし、全哺乳類で保存されている苦味受容体はシアン化合物のような配糖体に応答する。おそらく初期哺乳類は、環境中のシアン化合物から、大きな選択圧を受けて進化したのだろう。

  • 土田 さやか
    セッションID: S25-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    動物の腸内には腸内細菌が棲息しており、例えばヒトの場合、その数は1000種類以上500兆から1000兆匹にもなるといわれている。ゲノム数で考えると、我々ヒトは1ゲノムだが、我々の腸内に棲み着いている腸内細菌のゲノムは1000ゲノム以上ということになる。細菌1ゲノムあたりの遺伝子数は、宿主のそれに比べればはるかに少ないものの、腸内細菌全体では宿主の遺伝子数をはるかに凌駕する。腸内細菌の大きな役割として、食べ物の消化や免疫賦活による宿主の健康維持が挙げられる。こうした動物の生存を保証する腸内細菌は動物種ごとに異なっており、その動物固有の「共生腸内細菌」として長い年月をかけ宿主と腸内細菌は共進化してきたと考えられる。ある動物種を特徴づける「共生腸内細菌」の解明には、野生動物の腸内細菌研究が不可欠である。なぜなら動物の腸内細菌は、飼育下ではなく野生環境下でそれぞれの動物に適応・進化してきたからであり、人に飼育されることにより、その動物本来の腸内細菌を失ってしまうからである。特に植物食の野生動物が摂食する野生の食物は、人間用の果実や野菜とは決定的に異なっている。野生の植物は、可食部が少なく繊維質が多く、可溶性の糖質が少なく、多種多様な植物二次代謝産物を含んでいる。また植物の細胞壁を構成する構造性多糖であるセルロースやヘミセルロース、果実に含まれる多糖である植物ガムを構成するアラビノガラクタンなどを消化分解するための酵素を動物自身は作ることが出来ない。そのため植物食者は、これらの難消化性の糖質の発酵分解を、消化管に共生する原生動物や細菌に依存している。 本発表では野生霊長類や野生鳥類の腸内細菌について、植物二次代謝産物や難消化性糖質の分解能に着目し、その特徴を議論する。

  • 石塚 真由美, 近藤 充希, 池中 良徳, 中山 翔太
    セッションID: S25-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    動物は食性により解毒酵素を進化発展させ、環境に適応してきたと考えられる。草食性の動物は、多くの場合、植物アルカロイドやテルペノイド類等、常時摂取する植物由来の毒性成分に適応する必要があった。ヒトを含む哺乳類では、食餌由来の化学物質の解毒は主に肝臓で行われる。肝臓に多く発現する解毒酵素として、第I相反応ではシトクロムP450、第II相反応ではグルクロン酸転移酵素(UGT)や硫酸転移酵素(SULT)などがあげられる。これらの酵素は、様々な毒性を持つ化学物質の解毒のために、草食動物の中で特に発達してきたと考えられる。一方、肉食性の動物では、植物由来の化学物質の解毒に対応する必要は比較的低い。実際、ゲノム解析により、肉食性の動物は、雑食性の動物に比較して、UGT1やUGT2など、解毒代謝酵素の偽遺伝子化が多く起こっていることがわかった。また、肝臓の酵素画分を用いた実験から、雑食性の動物に比較すると、肝臓における環境汚染物質や医薬品など外来化学物質の代謝活性が低いことも分かってきた。このシンポジウムでは、食性の多様な哺乳類が、どのように日々摂取される外来の化学物質に適応してきたのか、特に肉食性の動物の解毒代謝能力を軸に報告する。

  • 宇野 泰広, 山崎 浩史
    セッションID: S25-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    イヌとブタは、カニクイザルとともに薬物代謝試験や安全性試験で使用される重要な動物種であるが、薬物によっては代謝パターンがヒトと異なる場合があり、その一因はチトクロムP450 (P450,CYP) を始めとする薬物代謝酵素における種差であると考えられる。その原因を解明するため、我々はカニクイザルに加え、イヌとブタのP450についても網羅的に同定・解析してきた。その結果、カニクイザルについては多くの分子種がヒトと1対1の対応関係にあるのに対し、イヌとブタについてはヒトと1対1の対応関係にない分子種が多くみられた。とくにCYP2Cについては、ヒトと対応関係のない分子種がイヌには3種、ブタには少なくても6種存在し、何れも肝臓や小腸で発現し代謝機能を有していた。またイヌとブタのP450については基質特異性がヒトと異なる分子種があり、肝臓でのP450発現比にもヒトとの違いが認められている。ヒトと同じ霊長類であるカニクイザルについても、ヒトにはないCYP2C76が様々な薬物の代謝に関与しており、カニクイザルCYP2C9やCYP2C19が一部の薬物でヒトと異なる代謝を示すことが明らかになっている。これらのことがP450代謝におけるヒトとの種差の一因となっている可能性が考えられる。我々は、以前は霊長類に分類されウイルス研究に使用される動物種であるツパイについても、薬物代謝研究のモデル動物としての有用性を調べるためにP450の同定・解析を行っており、その知見についてもお示ししたい。

シンポジウム26: フッ素の基礎化学と医薬品開発における現状と展望及び多フッ素化有機化合物の毒性学
  • 橘高 敦史
    セッションID: S26-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Currently, more than 20% of clinically used drugs contain at least one fluorine atom in their chemical structures. In drug design, fluorine is frequently used as a substitute for hydrogen. The bond energy between carbon and fluorine is notably higher than that of carbon and hydrogen so that replacement of a hydrogen with a fluorine can result in significantly improved stability against CYP enzyme oxidation. In addition, fluorine’s ability to form strong hydrogen bond can be utilized to attain higher binding affinity with the target protein. Similarly, introduction of fluorine atoms can be used to obtain desired physical properties such as hydrophobicity of the molecule and the increased acidity of nearby hydroxy and carboxy groups. Studies on introducing fluorine into vitamin D3, 25-hydroxyvitamin D3 (25(OH)D3), and active vitamin D3 were started in the 1970s. In 2001, falecalcitriol in which the two methyl groups at the end of the side chain were replaced by a trifluoromethyl group, respectively, was marketed as a therapeutic agent for secondary hyperparathyroidism. We performed systematic and comprehensive fluorination on the vitamin D3 side chain and synthesized all possible12 derivatives of fluorinated-25(OH)D3. It was found that the position, number, and stereochemistry of the introduced fluorine caused differences in binding affinity for vitamin D receptor (VDR), transcriptional activity through VDR, and metabolic resistance to CYP24A1.

  • 青木 一真
    セッションID: S26-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品の約20%にはフッ素原子が含まれており、フッ素原子は医薬品開発に欠かせない原子となっています。これは、フッ素原子が水素原子とほぼ同じ大きさであるため、水素原子の生物学的等価体として機能すると同時に、高い電気陰性度、大きな結合エネルギー、高い脂溶性など独特な特徴を有し、フッ素原子の導入による生体との相互作用の増強、酸性度増大、塩基性度低減、代謝安定性の向上、膜透過性の向上などを通じ医薬品として重要な生物活性、動態、物性、毒性を制御することが可能となるためです。今回の発表では、我々メディシナルケミストがフッ素原子の特徴をどの様に活用し医薬品としての完成を高めているか実例を挙げて紹介したいと思います。また、フッ素を導入することで思わぬ作用が生じるケースについても合わせてご紹介させて頂きます。

  • 工藤 なをみ
    セッションID: S26-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    ポリ-、ペルフルオロアルキル化合物 (PFAS) は化学合成され、撥水・撥油剤や乳化剤、防汚剤、消火剤など様々な用途に利用されてきた。PFAS は化学的に極めて安定であるため、環境中に長期間残留する。土壌、地下水(生活用水)、食品や生活用品を介してPFASに曝露すると考えられ、ヒト血液中に検出されることから健康影響への懸念が高まっている。PFAS の毒性研究において、動物実験やin vitro 実験により、動態や毒性が明らかにされており、肝毒性、血漿脂質への影響、生殖・発生への影響、甲状腺ホルモンへの影響、免疫毒性などが報告されているが、これらの研究は代表的なPFAS であるペルフルオロオクタン酸(PFOA) やペルフルオロオクタンスルホン酸 (PFAS) を対象としており、他のPFAS に関するデータは乏しい。一方、一般人を対象とした疫学研究から、血清コレステロール値の上昇、出生児の軽微な低体重、高血圧リスク上昇、小児のワクチン接種効果の低下、腎臓及び精巣がんのリスク増加などが示されている。  動物実験やin vitro実験で報告された毒性およびそのメカニズムは疫学調査の結果と一致するものもあるが、人では認められないものもある。この違いの原因として動物種差があげられる。PFOAやPFOS の血液中の半減期は、ラットではそれぞれ10日前後、30日前後であるのに対し、ヒトではそれぞれ3年前後、6年前後と報告されており、マウスの値もラットに近い。また、サルはそれぞれ21日、132日と報告され、ヒトとは大きく異なっている。PFASの分布や排泄に関与するトランスポーター群が明らかにされ、動物種差の一部はこの違いで説明できる。毒性発現に関わる分子を同定し、ヒトへ外挿する手法での解明も進んでいる。一般に動物実験で用いる用量は人の暴露量に比べて高いため、ヒトの有害性の予測において留意する点である。

  • 広瀬 明彦
    セッションID: S26-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

     ペル及びポリフルオロ化合物(PFAS)は、耐熱性、化学薬品への耐性、低摩擦特性などの特性により、様々な産業で広く使用されている。安定性の高い炭素-フッ素結合とPFAS特有の物理化学的性質により、これらの物質は高い汎用性と耐久性を持つ製品の貴重な成分となり、製造者や消費者に利益をもたらしている。しかし、そのうちPFOSやPFOA等のPFAS類は環境中の残留性、生物濃縮、その毒性の認識が高まってきた。さらに、多くのPFAS類が生態系やヒト、食品中で検出されるようになり、他のPFAS類への懸念も高まってきている。国際的にもストックホルム条約においてPFOS(2010)、PFOA(2019)、PFHxS(2022)が次々に廃絶に向けて合意されており、現在は長鎖ペルフルオロカルボン酸(PFCA)へと拡大してきている。また、欧州では、2020年以降に飲料水の基準や環境品質の規準値として20種以上のPFAS規制を開始している。さらに、特定のPFAS化合物の規制にとどまらず、数千種とも言われるPFAS全体に対する管理が求められている。これらの大多数のPFAS化合物に対する毒性情報が知られているわけではないので、もっとも研究が進んでいるPFOSやPFOAに対する毒性評価値を基に管理基準等の検討が進められることとなるが、これらのPFOSやPFOAの毒性評価は国際機関の間で数桁以上の違いがあるのが現状である。ここでは、最近の国際機関でのPFOAやPFOSを中心としたPFAS類の基準値関連の規制動向と、PFOA/PFOS類の評価値の導出方法に関する毒性学的な論点について考察するとともに、PFAS化合物の複合曝露による評価手法や、数千種ともいわれるPFAS類を評価するための優先付けの戦略について紹介する。

シンポジウム27: がん原性試験の新しい枠組み~WoEアプローチの実装
  • 小川 久美子, 西村 次平, 西川 秋佳
    セッションID: S27-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    ICH S1B(R1)ガイドラインが、10年を超える国際共同前向き研究の末、令和4年8月に成立し、ICHウェブサイト公開された。本改定においてPart Ⅱ として追加された補遺は、証拠の重み付け(weight of evidence:WoE)に基づいて、2年間ラットがん原性試験の実施がヒト発がんリスク評価に価値を付与すると考えられるか否かを判断する統合的なアプローチを導入し、2年間ラットがん原性試験を実施することなく、ヒトへの発がんリスクを評価することに道を開くものである。本補遺は、がん原性試験を必要とするすべての医薬品に適用され、ヒト発がんリスク評価において 2年間ラットがん原性試験実施の価値を判断するにあたり、1)標的の生物学的特性、2)副次的薬理作用、3)慢性毒性試験の病理組織学的データ、4)ホルモン作用、5)遺伝毒性、6)免疫調節を考慮すべき主要な要素とし、WoEによって明らかとなった懸念に対応する非臨床試験及び臨床データを含む探索的アプローチを加えて包括的に評価することとしている。

    米国ではすでに令和4年11月2日に発出されStep 5の実装に至っている。日本でも、令和5年3月10日に厚生労働省から通知文書が発出された。また、欧州でも、ほぼ同時期の令和5年3月16日に実装となり、国内外で本補遺に基づくがん原性評価が開始されている。

    本補遺の成立から約1年、三極での実装から3か月が経過し、改めて補遺の要点を整理すると共に、WoEアプローチによる評価の実施状況について、情報共有することが必要と考えられる。本シンポジウムでは、S1B(R1)の要点、実際の実装状況、及び今後の運用におけるポイントなどについて情報提供し、適切な利用に向けて議論する機会としたい。

  • 西村 次平, 笛木 修, 小川 久美子, 西川 秋佳
    セッションID: S27-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    ICH S1(R1)専門家作業部会(EWG)では、医薬品開発資源の有効活用と実験動物愛護に資するべく、証拠の重み付け(WoE)評価に基づく統合的アプローチによるがん原性評価の新たな枠組みを提示すること等について検討を続けてきた。この度、WoE評価に基づき長期ラットがん原性試験の実施を免除可能な場合があるとの結論に至り、2022年8月4日にICH S1Bガイドラインの補遺(ICH S1B(R1)ガイドライン)がICH公式ホームページに公開され、Step 4に到達した。今般、本邦でも、ICH S1B(R1)ガイドラインの改定内容を含む「医薬品のがん原性試験に関するガイドラインの改正について」(薬生審査発第1号)が2023年3月10日に発出されStep 5に到達した。一方で、機構は、本邦でのICH S1B(R1)ガイドラインの実装に係る作業と並行して、ICH S1B(R1)ガイドラインに基づきがん原性試験の免除の可否を議論するための相談枠の新設について検討を重ね、上記の改定されたがん原性ガイドラインの発出と同じ日の2023年3月10日に、対面助言実施要綱を改正し、「医薬品安全性相談(ICH S1B(R1)ガイドラインに係る相談)」を新設した。本講演では、本邦において新設された医薬品安全性相談(ICH S1B(R1)ガイドラインに係る相談)の概要を説明するとともに、WoE評価に基づく統合的アプローチを用いたがん原性評価の留意事項について、審査側の視点を述べたい。

  • 坪田 健次郎, 井上 健司, 藤澤 可恵, 柏木 絵美, 池田 孝則
    セッションID: S27-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    2022年8月に公表されたICH-S1B(R1)では2年間ラットがん原性試験(以下ラット2年試験)によらないヒト発がんリスクの評価法[Weight of Evidence, (WoE) アプローチ]が従来のがん原性評価法に追加された。本ガイドラインはがん原性試験が必要となる全ての開発品について,WoEアプローチによりラット2年試験実施の価値を検討することを,医薬品企業に強く推奨している。 WoEアプローチによる開発品の評価の結果,ヒトにおける発がん性が「あり」または「なし」の可能性が高いと考えられる場合,医薬品企業はラット2年試験の免除を規制当局に申請できる。ラット2年試験の免除はコスト及び3R(Reduce, Refine, Replace)の観点でメリットであるが,免除申請が規制当局と合意に至らない場合は申請時期が遅延するリスクも孕んでいる。 医薬品企業がWoEアプローチによりラット2年試験が必要と判断する場合,試験の要否を当局に相談する必要はない。13週間までの反復投与毒性試験の結果でラット2年試験を必要と判断することも可能である。一方,ラット2年試験の免除申請には26週間反復投与毒性試験の病理検査結果が必要であるため,申請は当該試験の終了後となる。このため,製造販売承認申請を予定している規制当局と合意に至らず,結果的にラット2年試験を実施する場合には,相談に要した時間が試験開始の遅延要素となる。 高い確度で規制当局と合意し,潜在的な遅延のリスクを避けるために,開発品についてラット2年試験の免除申請の実現性・科学的妥当性を正しく判断することが,医薬品企業にとって重要となる。本講演では市販済み医薬品の製造販売承認申請資料を精査し,ヒトにおける医薬品の発がん性が「なしの可能性が高い」判断できたケースを中心にピックアップし,WoEアプローチの考察の例として紹介する。

  • Todd BOURCIER, Timothy MCGOVERN
    セッションID: S27-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    The S1BR1 addendum expanded the evaluation process for assessing the human carcinogenic risk of pharmaceuticals. The addendum introduced a weight-of-evidence (WoE) approach to determine if a 2 year rat study would add value to an assessment based on an integrated review of drug target pharmacology and compound-specific toxicology. Successful implementation of this approach would ideally shift focus toward more mechanism-based carcinogenicity assessments and reduce the use of animals, while continuing to promote the safe development of new pharmaceuticals. The WoE document should include a comprehensive description of key factors outlined in the S1BR1 guidance. These WoE documents are complex and require scientific judgement which can lead to different conclusions on whether data from a 2yr rat study is necessary for an adequate assessment of carcinogenic risk. These differences may occur between a sponsor and the regulatory agency and also differ across regulatory regions. The S1BR1 was implemented in the United States following publication in the Federal Register (Nov 2022). To support successful implementation, the FDA arranged a review forum comprised of core reviewers and leadership staff and members of the Executive Carcinogenicity Assessment Committee to discuss and provide recommendations on sponsor’s WoE submissions. This approach increases familiarity with these submissions, fosters consistency in review and regulatory decision making, and allows for tracking decisions and lessons learned from each submission. Initial experience with S1BR1 WoE submissions indicates variable quality of assessments with higher quality documents coming from sponsors that participated in the prospective study conducted during the S1B revision process. Key strengths and deficiencies of the WoE submissions submitted to US FDA will be presented.

シンポジウム28: 【企画戦略シンポジウム】学際的毒性学を目指して:医療医学系への拡大
  • 上原 孝
    セッションID: S28-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    基本的に薬学部における講義は薬学教育モデル・コアカリキュラムに沿って進めることとなっている.このカリキュラムでは卒業時までに修得すべき「薬剤師として求められる基本的な資質」を身につけるための一般目標が設定されている.加えて,この目標を達成するための到達目標(SBO:specific behavioral objective)が明示されている.したがって,シラバスはSBOと科目の連関が明確になるように予め組み立てられている.薬理学のSBOにおいては「毒性学」や「毒性」に関する項目は記載されていない.関連する用語としては,薬物依存性,耐性,医薬品の安全性というものが示されている程度である.むしろ,薬学における「毒性学」は「衛生薬学」の中で構成されており,主に化学物質・放射線の生体への影響などの項目が該当する.このように,薬学部では「毒性学」の対象を医薬品に限定せず,より大きな枠である化学物質全体に焦点を当てて学習する特徴がある.したがって,薬学部の学生・院生は少なくとも学部教育において複数科目で「毒性学」を学ぶことになる.研究面では,毒性学を中心に展開されている研究室も存在するが,最近では薬理系,衛生系,生化系などの複数の講座でも行われている.医薬品評価を行う薬学部においては必須の研究分野であり,薬学部学生・院生にとっては馴染みのある研究テーマとなっている.このシンポジウムでは,講義カリキュラムの説明と,薬理学的側面からの毒性学研究アプローチについても紹介する予定である.

  • 横尾 隆
    セッションID: S28-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    この度ご縁があって本学会員の末席に加えていただくことになったが、恥ずかしながらそれまで毒性学という学問があることすら知らなかった。まさに今回の総会のテーマである「毒性学ってナンだ」という状況である。残念ながら現状の医学教育において、医薬品の副作用について学ぶことはあっても系統立てて毒性学を学ぶ機会はほとんどない。腎臓は薬剤をはじめ様々な化学物質の臓器障害の標的となるだけでなく、それぞれの排泄経路となるため腎機能低下時の投与量調整が必要となり、医学分野の中でも腎臓病学は毒性学とアフィニティがあるように感じるが、その重要性についてはあまり語られていない。薬剤性腎障害診療ガイドラインにおいても医薬品のみの対応となっており、その他の科学物質や食品については触れられていない。実際に実臨床において医薬品以外の毒性について問題となる機会が少なく昨今の医学教育における知識量の氾濫から炙り出されてしまっている感がある。ただ、サリンやタリウムなどこれまででは考えられない化学物質による殺人事件などに対峙する必要が出てくることが今後予想され、今後医学教育の中で、少なくとも中毒の可能性を想起する能力と緊急での対応法のアルゴリズムなどは必要になってくるのであろう。今回、このような発表の機会を与えていだたいたことを契機に副題にある「―そしてその先に―」を考えて医学教育の中でもその重要性を認識したカリキュラム作りが可能となるか考えてみたいと思う。

  • 岩瀬 博太郎
    セッションID: S28-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    毒性学と中毒学はいずれもToxicologyの訳語としてあてられている。本邦においては、毒性学会と中毒学会、法中毒学会といった複数の学会があり、毒性学と中毒学が若干異なる意味合いを持つ可能性もあるため、以下言葉としてはToxicologyを用い、今後の法医学における展開につい述べたい。法医学は基礎医学というよりむしろ応用医学であるとされる。Toxicologyに発展により、ある薬毒物についての分析方法が研究開発され、また、どのような中毒症状が生じうるのかが明らかとなり、さらに、血液中における中毒あるいは致死濃度が判明すれば、それを法医学において応用することで、ある個体が、その薬毒物による中毒状態にあったことが診断できるようになる。実際に、法医学における中毒事例の鑑定では、Toxicologyから出された論文が参考文献とされることが多い。法医実務の発展のためには、Toxicologyの発展が必要である。一方で、危険ドラッグなど、新規に現れた薬毒物による未知の有害事象が発生した場合、法医学で経験された事例をToxicologyにフィードバックし、その薬毒物についての分析方法の開発、中毒によって生じる症状についての研究、中毒あるいは致死濃度の探求が必要となるであろう。海外においては、法医学で経験される解剖事例や生体鑑定事例について、薬毒物を分析する体制が整備されており、そのようなToxicologyへのフィードバックを行うことが可能で、それによる様々な研究が行われている。一方、日本では、薬毒物の分析体制は未整備であり、なかなかフィードバックがされていないのが現状である。Toxicologyの発展に供するような、法医学における薬毒物分析体制の整備が望まれると考えられる。

  • 諏訪園 靖
    セッションID: S28-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

     当教室では、労働者、一般住民を対象に、環境労働衛生学を展開してきた。その基盤として、疾病の成り立ちを把握する疾患モデルがある。健康影響の起こり方を見極め、その背後にある原因を推測し、健康影響の発生に関与している要因を明らかにし、その要因を人間集団から除去し、影響を防止することを目指している。疾病の成り立ちの構成要素として、病原と宿主と、そのバランスを下支えする環境要因を想定し評価を進めていくものといえる。その一例として、WHO発行のBasic Epidemiologyという教科書では、1840~1968年のイングランド・ウェールズにおける年齢調整結核死亡率を示している。グラフを見ると、コッホ博士による結核菌発見、化学療法の発見、BCG普及以前より死亡率は大きく減少している。この減少については、生活環境、栄養状態の改善が大きな要因であったと考えられ、このような疫学的なとらえ方の重要性が示されている。

    研究分野への毒性学の応用と社会への展開

     我々の研究グループでは、能川浩二千葉大学名誉教授が展開してきた、イタイイタイ病の原因究明からはじまるカドミウムの健康影響に関する研究を受け継いでいる。関連する当時の調査の結果とともに、その後の疫学研究の一般住民への展開について示し、毒性学を応用することで、許容カドミウム摂取量の設定に貢献できたこと、また、産業保健の現場で健康影響を生じさせないための「生物学的許容値」の提案につながったことを紹介する。一連の調査により、その成果を社会に展開しうる結果が得られてきていると思う。「許容濃度」などの予防対策の方向性を明らかにするとともに、その重要性を示すことができた。今後も様々な分野で、毒性学を環境労働衛生学・公衆衛生学に応用した調査が展開され、環境保健・産業保健が進展していくことが期待される。

  • 櫻井 健一, 森 千里
    セッションID: S28-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    近年、予防医学においてゼロ次予防という概念が提唱されている。WHOのテキストでは、ゼロ次予防について「疾病リスクを高めることが知られている社会的、経済的、文化的要因の発生とその定着を防ぐこと」と記載されています。我々は環境中の化学物質が人体に与える影響に着目して研究をおこなっており、ヒトが胎児期から様々な環境化学物質に曝露されていることを明らかにしてきた。我々の検討ではPCBなど複数の残留性有機汚染物質(POPs)が胎児組織である臍帯からも検出されている。胎児期は様々な環境因子の影響に対して脆弱であることから健康影響が懸念される。胎児期環境の影響については環境省「エコチル調査」及び千葉大学「こども調査(C-MACH)」の2つの出生コホートを用いた研究を進めている。これに加えて、我々は環境化学物質への曝露を減らす方策についても検討を行ってきた。体内に蓄積されたPOPsを削減する試みや室内空気環境からの化学物質曝露を減らすプロジェクト(ケミレスタウンプロジェクト)などを進めてきた。現在、人々が意識せずとも「暮らしているだけで健康になる」ゼロ次予防の重要性を認識し、社会実装に向けた取り組みであるWACoプロジェクト(JST OPERA)においてを産学連携による研究を進めている。本シンポジウムではWACoプロジェクトを含め、今まで我々がおこなってきた研究について紹介したい。

シンポジウム29: トキシコロジストのキャリア形成支援プログラム:デジタル時代の人材育成と教育
  • 藤 秀義
    セッションID: S29-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    ビッグデータや機械学習に端を発する2000年代以降の第3次AIブームは今も続いており、この1年ほどの期間においては、様々な生成系AI (Generative AI)の技術が公開され、社会的に大きな注目を集めています。この第3次AIブームの中で、創薬におけるAI開発も大きく進展し、化合物の分子設計・反応ルート探索、バーチャルスクリーニング、創薬標的同定、細胞画像解析、ADME/Tox予測など、創薬のあらゆる段階において、AIが活用されるようになってきました。

    創薬とAI技術を結びつけるためには、両方の分野に精通した橋渡し人材が必要不可欠です。橋渡し人材は、創薬研究におけるAI技術の導入や、創薬におけるAIの活用方法の提案など、AI活用を推進する上で重要な役割を果たします。創薬の現場の課題を認識し、その課題を解決するにはどんなAI技術を応用できるのか、AIで出来ることは何か、AIで出来ないことは何か、AIを開発するには何が必要かなど、ある程度AI技術を理解しておくことが橋渡し人材に必要とされています。

    本講演が、創薬とAIの橋渡し人材の重要性について議論し、どのようにして橋渡し人材を育成するかを考えるきっかけになればと考えています。

  • 安部 賀央里
    セッションID: S29-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    コンピュータや人工知能技術の発展に伴い、医療・健康分野においても、蓄積された膨大なデータを活用したインフォマティクス研究が注目されている。医薬品等の様々な化学物質の安全性評価において、毒性試験の効率化や動物愛護の観点から新たな毒性予測手法の開発は重要な課題である。そこで、毒性関連ビッグデータと人工知能技術を掛け合わせたインシリコ予測モデルへの期待は高まっており、これらの扱いに精通した人材の育成が求められている。

    当研究室では、レギュラトリーサイエンスの観点から毒性関連のデータベースと機械学習に着目し、化学物質の毒性やヒトの副作用をインシリコで予測する研究に取り組んでいる。本シンポジウムでは、講演者自身の経験をもとに有機化学分野を基礎とし、化学物質の毒性情報と機械学習を取り入れた計算毒性学を主軸としたインシリコ研究への展開について解説する。また、当研究室における学生への教育についても紹介したい。

  • 三日市 剛
    セッションID: S29-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    非臨床から臨床への橋渡し研究であるトランスレーショナルサイエンスにおける主な課題には、薬剤標的妥当性(標的分子と疾患との繋がり)の評価がある。私たちはSystems Biology(ドライ解析)を用いて、この課題の解決に取り組んでいる。私たちのドライ解析チームメンバーの多くが、実際の実験を行うウェット研究者として、薬理、毒性、薬物動態などの分野で研究に従事してきた経歴を持っている。生粋のバイオインフォマティシャンのような計算機科学の専門性は無いものの、適切な課題設定とデータ準備、計算結果解釈とアクションにつながる成果物を作成するために大きなアドバンテージがあり、専門領域横断的なチームワークによって、生産的なドライ解析が達成されている。本発表では、私たちの解析の事例を交えながら、ドライ解析を用いた課題解決において何が大切かを紹介する。今後のキャリア形成を考える上での一助となれば幸いである。

  • 湯川 智也
    セッションID: S29-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    演者は化学系の大学院を卒業後、武田薬品に入社し、10年間メディシナルケミストとして創薬研究に従事した。その後、安全性部門にキャリアチェンジし、現在Chemical Toxicologyチームをリードしglobal portfolioのサポートをしている。化学のバックグラウンドを持つ演者が安全性部門に異動した経緯、合成側と評価側の考え方の違い、またキャリアを通じての二度の海外勤務、アカデミアとの共同研究等、キャリア形成に焦点を当てて紹介する。

  • 蓑毛 博文
    セッションID: S29-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    あらゆる要素がデジタル化されるSociety 5.0へ向けて、ビジネスモデルを抜本的に変革(DX:デジタルトランスフォーメンション)し、新たな価値を提供することで成長する企業が昨今現れてきている。一方で、グローバル競争において、このようなビジネスモデルの転換に乗り遅れ、既存ビジネスが破壊される事例も現れてきている。経済産業省が策定したデジタルガバナンス・コード2.0では、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義されており、我々CRO業界においてもDX推進による変革が求められている。歴史的にCRO業界ではデジタイゼーションは多くのCROで既に実装されている。デジタライゼーションは昨今取り組みが進んでおり、DXに至る道筋を歩んでいる途中である。本発表では、株式会社新日本科学におけるDX推進の一例をご紹介し、当社が目指す新たな価値提供について紹介する。

シンポジウム30: 生体金属部会シンポジウム 〜金属による生殖毒性〜
  • 石田 慶士, 中西 剛
    セッションID: S30-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    内分泌かく乱化学物質は生殖毒性等の生体影響を及ぼす可能性が懸念されている。現在、エストロゲン作動性化学物質の評価は、子宮肥大試験がin vivoスクリーニング試験としてガイドライン化されているが、子宮肥大試験は子宮重量の変化がエンドポイントであるため、子宮に作用しない化学物質は偽陰性となる可能性がある。このような背景のもと我々は、エストロゲン応答性レポーターマウス(E-Repマウス)を独自に作製し、それを用いてエストロゲンシグナルかく乱作用が疑われている以下の2種類の重金属について検証を行ってきた。

    カドミウム(Cd)は米などに多く含まれており、米を主食とする地域ではその慢性曝露による影響が懸念されている。Cdの内分泌かく乱作用については、in vivoおよびin vitroにおいてエストロゲン様作用が報告されており、ヒトにおいてもCd摂取量と乳がん等のエストロゲン依存性がんの罹患率の相関が報告されている。一方、ラットを用いた実験において子宮肥大性は陰性であったとの報告もあり、そのエストロゲン作動性の真偽は未だに不明である。

    船底塗料等に使用されてきたトリブチルスズ(TBT)等の有機スズ化合物は、現在は使用規制がなされているが、未だ海底や魚介類から検出されるため魚介類等を介したヒトへの慢性曝露が懸念されている。TBTは、雌性ラットに対して性周期異常や妊娠率低下を誘導することが報告されているが、我々は有機スズ化合物が核内受容体であるPeroxisome proliferator-activated receptor γやRetinoid X receptorを介してエストロゲンシグナルをかく乱し、性周期異常を誘発する可能性を見出した。

    本講演では、これら2種類の重金属によるエストロゲンシグナルのかく乱作用についてE-Repマウスを用いた検証結果とともに紹介したい。

  • 木村 朋紀
    セッションID: S30-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    胎盤は胎児に酸素や栄養を届ける役割を持ち、妊娠を維持する上で非常に重要な臓器である。細胞性栄養膜細胞(CT)が絨毛外性栄養膜細胞(EVT)と合胞体性栄養膜細胞 (ST)へと分化して胎盤が形成されるが、この分化過程に異常が起こると妊娠高血圧症候群や胎児発育不全、早死産などが引き起こされる。母体および児への悪影響は甚大である。このようなことから胎盤形成に対する毒性予測のための評価系構築が切望されている。しかしながら、胎盤構造には種差が大きく実験動物での評価は難しい。我々は、ヒト胎盤や胚盤胞から樹立された細胞株を用いた高精度な胎盤毒性評価系の構築を目指している。 カドミウムは、その母体血中濃度と早期早産との関連性が報告されている。その毒性が培養細胞で検出可能か調べた。栄養膜幹細胞 CT27 細胞において、各種分化マーカーの発現をqPCR により評価することでカドミウム曝露の胎盤形成への影響を調べたところ、合胞体化に対して、カドミウムは阻害作用を示すことが明らかとなった。ただし、その合胞体化阻害には 数 μM 程度が必要であった。一方、EVT 様細胞への分化は、数百 nMで阻害された。つまり、より低濃度のカドミウムで影響を受けるのはEVTへの分化であった。次に、EVT がもつ遊走能・浸潤能に対するカドミウムの影響もEVT 様細胞HTR- 8/SVneo を用いて観察した。その結果、数十 nMという低濃度の曝露であっても、HTR-8/SVneo の遊走および浸潤が阻害された。これらの結果は、カドミウムは、EVT への分化とEVT機能を阻害することで胎盤機能不全を引き起こし、早期早産のリスク を増加する可能性を示している。本シンポジウムでは、これら細胞株を用いて行っている胎盤毒性評価に対する我々の取り組みを紹介したい。

  • 本田 晶子, 佐藤 雅彦
    セッションID: S30-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    カドミウムは、疫学的にも、実験的にも雄生殖器系に有害性を示す環境中重金属の1つである。一方、生体内には、必須微量元素である亜鉛や銅と親和性の高い金属結合タンパク質メタロチオネインが発現し、有害金属であるカドミウムとも結合する能力を有して、その毒性を調節することが知られている。メタロチオネインには、4つの亜型が存在し、IおよびII型は全身に、III型は精巣、脳および腎臓に、IV型は舌に、それぞれ局在する。カドミウム毒性の先行研究では、主として、メタロチオネインI型およびII型に注目し、それら分子によるカドミウム毒性の軽減効果を示した報告が多いが、メタロチオネインIII型の役割については、十分に解明されていない。カドミウムによる精巣毒性発現機構を考慮する上で、メタロチオネイン亜型の違いがカドミウム精巣毒性の発現様式に及ぼす影響を解明することは重要である。本シンポジウムでは、カドミウム精巣毒性におけるメタロチオネインIII型の役割について紹介する。

  • 三浦 伸彦, 吉岡 弘毅, 横田 理
    セッションID: S30-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    酸化チタンナノ粒子(TiNP)は絵具、塗料、顔料のほか食品、医薬品の着色料、添加物として日常的に用いられ、また抗菌素材、光触媒、オフセット印刷における感光体など工業的にも幅広く用いられている。TiNPのSDSには生殖毒性について「情報なし」と記載され、TiNPによる生体影響を把握しておく必要がある。我々はTiNP (Aeroxide P25)投与マウスにおいて精子運動率及び精子数が明らかに低下することを見出し、精巣はTiNPに対して感受性の高い臓器であること、またTiNPが成熟精子に対して直接の運動性低下作用を有することを報告してきた。本シンポジウムではTiNPが示す精巣機能障害について説明すると共に、TiNPによる生体影響を調べるためのバイオマーカーとして精子運動能の低下が利用できる可能性について言及する。

シンポジウム31: エピジェネティクス研究の新機軸〜モデル動物からヒトまで〜
  • 中島 欽一, 土井 浩義, 松田 泰斗
    セッションID: S31-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    麻酔への早期ライフ曝露とその後の学習障害との関連は、子供たちとその家族にとって大きな関心事である。我々は、小児麻酔薬として広く用いられているミダゾラム(MDZ)の早期ライフ曝露により、マウス海馬の神経幹細胞(NSC)のクロマチンアクセシビリティおよび静止関連遺伝子の発現が持続的に変化することを明らかにした。この変化は、成体になっても持続的にNSCの増殖を制限し、その結果、ニューロン新生が減少し、海馬依存性の記憶機能の障害と関連することを明らかにした。さらに、自発的な運動は海馬のニューロン新生を回復させ、MDZで障害された遺伝子発現を正常化し、MDZ曝露マウスの認知能力を改善することを見いだした。これらの結果は、小児麻酔が脳機能に長期的な悪影響を及ぼす原因を説明し、その対策として可能な治療法を提供するものである。

  • 武田 洋幸
    セッションID: S31-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    DNAに対するエピジェネティック修飾は、DNA配列の変化を伴わない環境刺激に対する細胞や個体の応答に関与していると考えられている。特に生物は、発生・成長段階において誘発されたエピジェネティック変化を記憶として、環境刺激がなくなった後も長期間保持する傾向がある。これらのメカニズムを調べるためにメダカを用いて、(1)メダカ初期発生におけるヒストン修飾のエピジェネティックリプログラミング、(2)メダカ幼魚および成体における初期栄養刺激後のエピジェネティック記憶の同定、の2つのシリーズの実験を実施している。 エピジェネティックリプログラミングについては、受精後のヒストン修飾パターンを、Spike-in ChIP-seq法を用いてゲノムワイドかつ定量的に解析した。初期胚リプログラミン中にヒストン修飾が広範囲に消去さることを確認したが、いくつかの修飾(H3K27ac、H3K27me3、H3K9me3)がリプログラミング中でも消去されず保持されていることを見出し、それらの役割を解析した。長期間のエピジェネティック記憶については、高脂肪食(HFD)を幼魚期に一過的与えて肝臓で誘発されるエピゲノムを長期間追跡した。HFDは、特に代謝遺伝子において、発現、chromatin accessibility、ヒストン修飾に劇的な変化を引き起こしたが、その後の長期のコントロール食投与により、その変化のほとんどが正常レベルに戻ることがわかった。しかし、ある種のゲノム遺伝子座(特に細胞シグナルに関連する遺伝子の周辺)で誘導されたエピジェネティック変化が長期間継続し、早期HFD食が肝臓の細胞状態を長期的に変化させていることが示唆された。

  • 小野 竜一
    セッションID: S31-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    魚類や爬虫類、および鳥類においては単為発生個体が産まれることが報告されているが、哺乳類の単為発生胚は胎盤形成不全により胎生致死になる。これは、単為発生胚では胎盤形成に必須な機能を持つ父性発現インプリンティング遺伝子の発現が欠如することが原因と考えられた。我々は、新規父性発現インプリンティング遺伝子Peg10の単離に成功し、Peg10の欠損マウスを作製することで、Peg10が哺乳類の初期胎盤形成に必須な機能を持つことを明らかにしている。Peg10は、2つのORFをコードし、それぞれがフグのSushi-ichiレトロトランスポゾンのGAGタンパクおよびPOLタンパクに高い相同性を持つレトロトランスポゾンに由来する遺伝子であることも明らかにしている。 Peg10レトロトランスポゾンは哺乳類の共通祖先においてゲノムに挿入し、哺乳類の進化の過程で胎盤形成に重要な機能を獲得するに至っている。しかしながら、レトロトランスポゾンは、レトロウィルスの持つエンベロープタンパクなどを欠損しており、別の細胞に感染し、レトロトランスポゾンのコピー数を増やすことはできない。 それ故、Peg10レトロトランスポゾンが、どのように哺乳類の共通祖先において、哺乳類ゲノムに入り込んできたのかは謎であった。最近になって、我々は、エクソソームを介した遺伝子水平伝搬機構が存在することを明らかにしている。さらに、Peg10タンパクが自身のmRNAに結合し、エクソソームに局在することが報告されていることから、哺乳類の共通祖先で起こった遺伝子水平伝搬について新たな仮説を紹介したい。

  • 岩本 和也
    セッションID: S31-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    主要な精神疾患である統合失調症や双極性障害は、近年のゲノムワイド関連解析から、effect sizeの小さな多数のゲノム要因が関連するpolygenic な疾患であることが示され、また、コピー数多型やエクソーム解析などから、effect sizeは大きいが頻度が稀なレアバリアントの関連が報告されている。精神疾患のgenetic architectureは急速に明らかにされつつある一方、従来のゲノム解析だけでは発症要因を完全に説明できず、遺伝・環境相互作用の重要性が改めて認知されつつある。DNAメチル化やヒストンタンパク質の修飾といったエピジェネティックな状態は環境要因の影響を受けて変動し、細胞や組織における長期的な遺伝子発現制御に関わっている。我々は、精神疾患患者試料や動物モデルの検討を通して、脳神経系および末梢試料にどのようなエピゲノム変化が生じるのかを明らかにしてきた。本会では精神疾患におけるエピゲノム研究の重要性と共に、細胞種特異的エピゲノム解析や妊娠期母体免疫活性化の影響など、我々の最近の成果を紹介する。

シンポジウム32: エクソソーム研究の最前線
  • 小野 竜一
    セッションID: S32-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    血液中には、血球細胞の他に血流中を循環するcell free DNA (cfDNA)や分泌顆粒として知られるエクソソーム内に含まれるRNAが存在する。cfDNAは主に生体内で障害を受けた細胞から放出されるが、そのDNAメチル化状態は、放出元臓器のDNAメチル化状態を反映することから、障害を受けた組織が同定され得る。エクソソームは、数十から百ナノメータ程度の脂質二重膜の小胞からなり、様々な細胞より体液中に分泌される。この中に含まれるRNAには、細胞特異的なものが含まれることがわかってきた。例えば、腫瘍細胞特異的なエクソソームをバイオマーカーとして90 %を超える診断精度が謳われている。今回、様々な医薬品や化学物質を投与したマウス血液中のcfDNAのDNAメチル化、および、エクソソームRNAを毒性指標とした新規毒性評価法を紹介する。肝障害を起こしたマウスの血液中では肝臓特異的DNAメチル化パターンを持ったcfDNAが増加するとともに、肝障害特異的なエクソソームRNAが誘導されてくることがわかった。cfDNA のDNAメチル化、および、 エクソソームRNA を毒性バイオマーカーとして用いるリキッドバイオプシーは、非臨床安全性評価における医薬品や化学物質の迅速な評価を加速させるものと考えられる。

  • 山本 雄介
    セッションID: S32-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    Extracellular vesicle (EV) secretion in cancer cells has been shown to have a significant impact on cancer progression, and the EV secretion is enhanced as compared to normal cells. We have previously reported on the secretory pathway of EVs specific to prostate cancer cell lines. However, the secretory pathway of EVs common to cancer cells is still unknown. We screened two cell lines using miRNA libraries and newly identified miR-891b and its target gene, phosphotransferase 1 (PSAT1), as regulators of EV secretion. PSAT1 is a metabolic enzyme in serine synthesis, and serine consumption is generally enhanced in cancer cells. PSAT1 expression is elevated in many cancer tissues, and we found that knockdown of PSAT1 suppressed EV secretion in cancer cell lines. This suggests that PSAT1-mediated EV secretion is a pathway common to multiple cancer types. Next, we examined PSAT1 expression in highly metastatic lines (lung, lymph node, and bone metastases) established from breast cancer cell lines, and found that PSAT1 expression was increased and EV secretion was enhanced in each highly metastatic line. The effect of PSAT1 on bone metastasis of breast cancer was investigated, and the data showed that PSAT1 overexpressing cancer cells markedly activated osteoclasts and promoted bone metastasis. These results suggest that serine metabolism is upregulated in many cancer cells and contributes to the secretion of EVs that have the function of promoting metastasis.

  • 吉岡 祐亮
    セッションID: S32-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    がん細胞と周囲の細胞間もしくは転移巣間における細胞外小胞(EVs)を介した細胞間コミュニケーションは、がんの転移に大きな影響を及ぼすことが知られている。われわれは、がん細胞が分泌するEVsが、がんの悪性化に寄与することを明らかにしており、EVsを介した細胞間コミュニケーションを断つことが、がんの新たな治療戦略の一つとなりうると考えた。したがって、われわれはEVsを標的とした新たながん治療戦略の開発として、卵巣がん細胞において、EVsの分泌を制御する低分子化合物を目指した。すでに、われわれは卵巣がんの腹膜播種転移に卵巣がん細胞由来EVsが関与していることを明らかにしており、低分子化合物ライブラリとわれわれが開発したエクソソーム定量法であるExoScreen法を組み合わせて、卵巣がん細胞のEV分泌を阻害する低分子化合物の探索を行なった。現在、同定したEV分泌阻害剤の作用点について、解析を行なっており、がん細胞におけるEV分泌のメカニズム解明も目指している。また、エクソソームがリキッドバイオプシーの幅を広げるリソースとして注目されており、以前より、われわれはエクソソームを利用したリキッドバイオプシーの開発を行なってきた。その成果の一つとして、膵臓がんにおけるバイオマーカーとしてGPRC5CとEPS8を同定した。これらタンパク質はステージIの患者においても、血清エクソソーム中に有意に多く含まれていた。さらに再発時の膵臓がん患者の血清エクソソームを解析した結果、再発時の血清においても、健常人の血清と比較して、有意に多く含まれていた。本講演では、エクソソームを利用した新規がん治療法や診断法が臨床現場へ与える影響やその可能性について言及する。

  • 阿部 寛幸, 武田 信峻, 水戸 將貴, 土屋 淳紀, 寺井 崇二
    セッションID: S32-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】肝硬変の線維化に関して、本来生体では線維化を改善させる機構があるが、病状の進行と共に弱くなる。我々は、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)のエクソソーム(細胞外小胞)は線維化の改善に重要なマクロファージに作用して線維化改善効果を発揮すると考え、MSC由来のエクソソームの臨床応用を目指している。

    【方法】MSC由来のエクソソームのin vitroでのマクロファージへの効果を検証し、治療効果も検討した。tdTomatoをエクソソーム表面蛋白に発現させるようにMSCを調整しin vitro, in vivoで動態を観察した。また、エクソームを大量に採取するために、通常用いる超遠心機を用いた採取と比較し、Tangential Flow Filtration(TFF)の手法を用いて採取し、マウス肝線維化モデルで線維化改善の評価を行った。

    【結果】我々はこれまでにIFN-γで刺激した後のマクロファージが最も効果的にマクロファージを抗炎症性で運動能、貪食能を併せ持つ組織修復マクロファージへと誘導し、肝硬変モデルでも高い治療効果を発揮した。tdTomato導入エクソソームを用いた動態解析では、in vitroでマクロファージに最も取り込まれ、肝臓内でも障害部のマクロファージに集積していた。TFFを用いたエクソソームの採取では、超遠心法と比較し、回収量が3倍となり、回収時間が4分の1に減少し、肝線維化モデルでTFFで回収したエクソソームの治療効果は肝障害軽減効果、線維化改善効果に関して超遠心法と同等の効果が得られた。

    【結論】MSC由来のエクソソームをマクロファージに作用させることにより、生体内での本来持つ線維化改善効果を誘導できる可能性がある結果と考えている。今後の臨床を目指した一連の研究を含めて現在までの状況を報告したい。

シンポジウム33: Microphysiological system(MPS)技術の現状と展望:医薬品・化学品開発と規制への応用に向けて
  • 石田 誠一
    セッションID: S33-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    化粧品開発に続き、食品分野でも動物実験を廃止する動きが進んでいる。医薬品開発でもFDAがthe FDA Modernization Act 2.0でin vitroデータの受け入れを表明した。このような流れは、ますますin vitroでの医薬品をはじめとする化学物質の安全性評価の利活用を推し進めると予測されている。そのような中で、生体中での組織・器官を模倣した培養システムであるMPS(Mycrophysiological Systems:生体模倣システム)が注目を集めている。日本でも平成29年度~令和3年度にかけて 「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発)」においてMPSの開発が産官学の協働により実施され、令和4年度から第2期事業が開始された。また、「医薬品等規制調和・評価研究事業」でも、MPSデータの行政利用を目指した研究が国立衛研のリードのもと進められている。さらに、海外ではMPS World Summitの第2回大会の開催や国際MPS学会(iMPSS)が発足し、MPSの開発と利活用に一層の拍車がかかってきた。本講演では、このような国内外の動向について概要を報告し、開発から実用化の段階に入りつつあるMPSの利活用について話題を提供する。

  • 原田 幸祐, 篠澤 忠紘
    セッションID: S33-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    医薬品開発において安全性懸念による開発リスクの低減を目的として、探索段階の早期から様々なin vitro評価系が利用されている(Loiodice et al., 2019)。しかしながら、従来のin vitro評価系では、平面培養細胞が多く使われており、生体内における細胞の状態と大きく異なる条件で試験が実施されている(Joshi et al., 2018)。その結果、臨床試験やin vivo毒性試験で認められる毒性の予測精度の低下がしばしば問題となる(Proctor et al., 2017)。近年注目されているMicrophysiological systems (MPS)は、生体内における生理学的側面を模倣した微小環境で細胞を培養することにより、培養細胞の機能を向上し、薬剤誘発性毒性の予測精度の改善が期待できる(Kopec et al., 2021)。一方、MPSはその複雑な仕組みによるスループットの低さや操作性の難しさの観点から、現状では安全性評価において本来もつポテンシャルを最大限活用されているとは言い難い。本発表では、探索毒性領域におけるMPSの現状を社内の事例とともに紹介し、今後求められる特徴について議論したい。また、実際にMPSを用いた毒性評価系を構築した際に感じたMPSのメリット/デメリット、取り扱いに関する注意点についてもMPSのユーザーとしての観点から紹介したい。

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