アークイオンプレーティング法によりインプラント用Ni-50Ti合金上に創成した窒化チタン薄膜の構造と耐食性を調べた.X線光電子分析装置を用いた角度分析により,創成された窒化チタン薄膜は三層構造となっており,最表層からTiO
2, TiN
x (x>1), TiNと化学状態が変化していることが明らかとなった.また,コーティング層からニッケルは検出されなかった.0.9% NaCl溶液中におけるアノード分極曲線を測定したところ,窒化チタンでコーティングしたNi-50Ti合金の不動態保持電流は自然浸漬電位から+500mV (vs. Ag/AgCl)までは研磨状態の合金と比較しておよそ1/100となり,耐食性が向上することが明らかとなった.しかし,脱不動態化電位が研磨状態の+1200mVから+500mVに低下し,孔食感受性が高くなった.分極抵抗の測定から,自然浸潰状態(+50∼+100mV)での腐食速度は,窒化チタンでコーティングすることにより1/10以下となることが分かった.最表層はTiO
2皮膜となっており,純チタンの表面皮膜と化学組成が同じであること,自然浸漬状態での耐食性が改善され,ニッケルの溶出量が減少すると予想されることから,生体内で+500mV以上に分極されることがなければ,Ni-50Ti合金に対する窒化チタンコーティングは効果があるものと考えられる.
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