損害保険研究
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記念論文
  • ―生産物賠償責任保険等を中心に―
    竹濵 修
    2024 年 85 巻 4 号 p. 1-27
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    中小企業が賠償責任保険を利用するとき,保険者との事業者間取引としてその内容が自由に定められるが,中小企業は,保険者と必ずしも対等な取引力量がなく,その保険の内容を十分に理解して利用していないことが考えられ,そのために,補償範囲に関する紛争が生じ易くなっている。中小企業団体の会員に提供される「事業活動包括保険」は,相応に活用されているが,保険者との間でなお補償範囲に関する共通の理解が十分ではない場合がありうる。中小企業が専門的な助言や説明を利用して適切な保険取引ができるような工夫・対応が必要である。

  • ―因果関係不存在特則の問題を中心に―
    洲崎 博史
    2024 年 85 巻 4 号 p. 29-58
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    任意自動車保険において告知事項とされている「免許証の色」と保険事故の間に因果関係不存在特則(保険法 31条 2項 1号但書)にいう因果関係があるのか否かについて保険法制定時より議論されているが,多数説は因果関係を否定するようである。しかし,運転免許非保有者が無免許の事実を隠して保険に加入した場合については,詐欺または(事故との間の因果関係がある)告知義務違反にあたるとして保険者の免責を認めた下級審裁判例もあり,これを支持する学説もある。本論文は,免許の有無と免許証の色とで因果関係不存在特則の適用について異なった扱いをすることに合理性があるのか,あるとすればどのような根拠付けが可能かについて,検討するものである。

  • 堀田 一吉
    2024 年 85 巻 4 号 p. 59-85
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    リスク細分化は,保険原理に接近すると同時に保険機能の低下をもたらす可能性がある。保険プロテクションの改善という保険政策の目標に対して,リスク細分化は「手段」であり,保険機能の拡大に繋げることが「目的」である。保険会社は,経営合理性の追求に基づいて,リスク細分化戦略を選択するが,そのことのもたらす社会経済的影響について,勘案した経営行動をとることは難しい。そこで,保険料率規制に基づく政策介入の正当性が認められることになる。本稿では,リスク細分化の効果と意義を,保険プロテクションの観点から理論的考察を行う。

  • 石田 成則
    2024 年 85 巻 4 号 p. 87-114
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    本稿では,諸外国の事例と先行研究のサーベイを通じて,ERMの導入や進捗状況に及ぼす要因を考察する。わが国における ERMの導入から,約 15年を経過しているものの,その経営成果への影響やそのルートを理論的に検証した文献は少ない。また,その導入時期や経緯が明確でないために,その実態を実証的に明らかにした研究も過少である。そこで,その進捗状況の指標を工夫することで,先行文献に則した実態分析を試みた。先行研究に追従する結果も一部にみられたが,サンプル数が少ないこともあり,十分な検証結果は得られていない。今後は,パネルデータやハザード関数を活用することで,より強固な検証結果を得ることが課題として残された。

  • 潘 阿憲
    2024 年 85 巻 4 号 p. 115-146
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    任意自動車保険に付帯する他車運転特約は,記名被保険者等が「他の自動車」を運転中に起こした対人・対物事故について,記名被保険者の加入した自動車保険から補償を行うものであるが,当該「他の自動車」が記名被保険者等の「常時使用する自動車」に該当する場合には,特約の適用は除外される。そこで,「常時使用する自動車」の意義が問題となるが,「常時使用」という文言が必ずしも明確ではないため,その該当性の有無をめぐり多くの紛争が生じてきた。これまでの裁判例の多くは,もっぱら特約の趣旨に照らし,使用期間や使用回数・頻度,使用目的,使用場所,使用についての裁量の程度等の要素を総合的に考慮して,当該自動車の使用が被保険自動車の使用について予想される危険の範囲を逸脱したものと評価されるか否かによって判断してきた。しかし,この判断基準で用いられている使用期間や使用回数・頻度といった判断要素は,考慮の幅が広く,明確な基準を立てるのが困難である。そのため,「常時使用」という要件が広く解釈されるおそれがあるのみならず,被保険者が合理的な行動を選択するうえで必要とされる予測可能性に欠けるといった問題をもたらしている。「常時使用」という要件の解釈に際しては,特約の趣旨のみを考慮するのは適切ではなく,約款文言の不明瞭性のほか,特約に対する被保険者側の期待や,事故被害者の保護も考慮に入れるべきである。結論としては,「常時使用する自動車」については,制限的な解釈が妥当であり,所有者から包括的な使用許諾を得て使用する自動車と解すべきである。

  • ―ドイツ法との比較法的考察―
    金岡 京子
    2024 年 85 巻 4 号 p. 147-172
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    EU製造物責任指令改正案は,ソフトウェア,デジタルデータ,製造物に関係するデジタル役務,製造者のコントロール下で行われるソフトウェアのアップデート,アップグレード,セキュリティ対策も製造物責任の対象となること,欠陥,欠陥と損害との間の因果関係の推定規定を設けること等,デジタル時代の消費者保護を強化する内容となっている。ドイツにおいては,EU製造物責任指令改正後,自動運転システムをコントロールする製造者の責任範囲は拡大すると考えられており,製造者責任保険の補償範囲の拡大の必要性が指摘される中で,自動車保険による手厚い被害者保護の仕組みとの制度間調整が検討されており,今後日本における製造物責任法改正に対応した保険制度設計を示唆するものと考える。

  • 諏澤 吉彦
    2024 年 85 巻 4 号 p. 173-199
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    健康経営の必要性が議論されるなか,損害保険会社,生命保険会社ともにヘルスケアに関わる保険商品やサービスを提供する事例が見られるようになっている。本稿では,健康経営が社会的に重視されている現状,そして健康経営研究の生成と展開の過程について再整理を試みた。そのうえで,保険事業が健康経営への社会的要請にいかに応じようとしているのかを,国内の事例をとおして確認し,それらを踏まえて,保険会社の健康経営支援サービスの優位性を検討した。その結果,企業・組織にとって,従業員を被保険者とした傷害疾病保険に加入し,併せて保険会社から健康経営支援を受けることが,費用および効果の双方の面で有利であることが認められた。このことは,損害保険会社が健康経営支援サービスを組み入れた法人契約の傷害疾病保険の引受けに一層注力すれば,企業・組織の活動を支え,ひいては経済の持続性に貢献し得る可能性を示している。

  • 中林 真理子
    2024 年 85 巻 4 号 p. 201-216
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    わが国では,特定自動運行という形でレベル 4の公道での自動走行が技術的,法的には可能になった。この結果,ヒトが運転するクルマから,システムが制御するクルマへの転換が本格的化し,それに伴い既存の規制の枠組みでは対応しきれない新たな課題も生じてきている。本稿では,わが国における自動運転をめぐる研究開発の現状を概観し,それに伴う保険制度に関する課題を整理する。この際,ELSI(Ethical,…Legal…and…Social…Issues/Implications:倫理的,法的,社会的課題)として自動運転をめぐる課題を捉え,自動運転の社会実装化に不可欠な社会受容性を高めることが急務となっている現状における懸念事項を,アンケート調査を含む先行研究の分析から整理する。そして「事故責任の所在,トラブル対処,保障」という多くのアンケートで同様に抽出される懸念事項を軽減させる上で,保険が果たしうる役割について検討していく。

  • 小塚 荘一郎
    2024 年 85 巻 4 号 p. 217-237
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    保険法学では,立法論(制度論)としても解釈論としても,保険利用者の保護という政策的な観点が重視されてきた反面で,企業保険にも通ずる保険取引の原理については関心が薄かった。保険学の分野で論じられてきた「保険の二大原理」は,均質なリスクを大量に集積することを前提としているように思われ,企業保険には適合しない場合がある。そこで,保険経済学のアプローチを参照し,保険はリスクの期待値を減少させる効果はないが,プーリング等の効果によってリスクの変動性を減少する機能を持つということを保険取引の原理として位置づけるべきである。そのように考える場合,法制度は,当事者によるリスク回避手段の選択を前提としつつも,意思が不明瞭な場合等には,変動性の大きなリスクを保険カバーの対象とし,そうではないリスクは企業が自己保有することに対してインセンティヴを与えるように設計されるとよいであろう。

  • ―信用保険への適用可能性―
    石井 昌宏, 石坂 元一
    2024 年 85 巻 4 号 p. 239-260
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    金融機関に限定されることなく一般の事業会社においても,特に景気後退期には信用リスクマネジメントの重要性は増加するようである。このため,そのマネジメントツールとなる信用保険と与信管理機能サービスを同時に提供可能な損害保険会社への期待も高まるであろう。ただし,これらの保険サービスの基礎として,個社の債務に含まれる信用リスクの評価技術および複数債務から構成されるポートフォリオの信用リスクマネジメント技術が損害保険会社に求められることとなろう。そこで,本稿では,個社の債務に含まれる信用リスクの評価技術という点に注目し,ファイナンス分野において主たる信用リスク評価モデルである Structuralアプローチと Reduced-formアプローチに説明の範囲を限定する。そして,それぞれの核となるアイデアを説明し,両アプローチを比較し,それらの長所と短所にも触れる。

  • ―相続構成説からの提言―
    𡈽岐 孝宏
    2024 年 85 巻 4 号 p. 261-286
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2025/03/13
    ジャーナル フリー

    人身傷害保険の被保険者が死亡した場合,法定相続人は,被保険者の遺産としての保険金請求権を相続により取得するというのが近時の裁判例の立場であるところ,保険会社の支払い実務は,それと異なり,原始取得構成で運用されてきたといわれる。このため,そのような保険会社は,今後,支払い実務の変更(第一の選択肢)か,原始取得構成を維持するための約款の改正(第二の選択肢)を検討しなければならない。相続構成による場合,相続放棄をした法定相続人の利益を害する上,支払いコストが増加するおそれがあるという従来の認識(原始取得構成支持の動機)については,見直す必要がある。相続構成のもとにも,周辺の定額保険を活用すれば,相続放棄をした法定相続人の利益を図ることができ,民法 478条の法理のもと,相続構成のもとでも相続放棄の有無の確認は不要とされ,保険者の支払いコストを特段増加させない。にもかかわらず,商品コンセプトの変更まで伴う大きな約款改正(第二の選択肢)を行うことは,非合理的な対応である。

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