日本イオン交換学会誌
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19 巻, 2 号
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  • 井川 学
    2008 年 19 巻 2 号 p. 70-80
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2010/03/18
    ジャーナル フリー
    膜分離は省エネルギー, 省スペースで環境負荷の小さな技術であり, 現在, 電気透析や逆浸透法として広く使われている。膜分離法が生体膜のように, 高い選択透過性や能動輸送が可能になるなら, さらに広く使われるであろう。イオン交換は膜透過において最も基本的な分離支配要因の一つであるが, この論文では膜化学におけるイオン交換に関連する我々の研究を概説する。
    ある溶質と特異的に反応するイオンを固定したイオン交換膜を通して, 選択的な輸送が可能である。我々は既に上記の輸送機構に基づいた, アルデヒド, 糖, アミノ酸, 重金属イオンのイオン交換膜を通しての選択輸送を報告している。これらの溶質は例えば水素イオンの濃度勾配を駆動力として, 濃度勾配に逆らった輸送も可能である。この方法は簡単であり, 様々な溶質の分離に適用できる。
    溶媒抽出は効率的ではあるが連続的な分離法ではない。我々はこれに代わる疎水性膜による分離を研究してきた。この膜を通しての溶質の透過性は, その溶質の疎水性に依存し, 金属イオンはキレートを生成することにより, 加圧下で濃縮される。さらに, 有機溶質はこの膜により分離することができ, 疎水性のチモールと親水性のグルコースの間の濃度勾配下の透過性の比は200倍以上である。
    イオンは水素イオンあるいは水酸化物, イオンの濃度勾配下でイオン交換膜を使って効率的に除去できる。中和透析法はこの原理に基づいており, 塩溶液はこの方法により効率的に脱塩される。この方法により塩は有機非電解質と効率的に分離され, いくつかの工業プロセスへの適用についても検討された。
    イオン交換は膜透過における主な支配要因の一つである。逆浸透においても膜における電荷は, 膜からイオンを排除する機能の一部を担っている。我々は, 膜とは無関係な環境科学の研究である霧の化学と酸性霧で引き起こされる森林衰退の植物生理学的研究にも取り組んでいる。その衰退の第一ステップは霧に含まれる水素イオンと葉の組織の中の金属イオンとの間のイオン交換である。イオン交換は土壌化学においても重要であり, イオン交換は環境科学を含む様々な分野で今後もさらに研究が進展するであろう。
  • 佐々木 高義
    2008 年 19 巻 2 号 p. 81-87
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2010/03/18
    ジャーナル フリー
    イオン交換反応を活用することにより様々な層状ホスト化合物を剥離ナノシート化した。陽イオン交換性の層状遷移金属酸化物は酸処理により層間のアルカリ金属イオンを水素イオンに交換した後, 嵩高い有機イオンを含む水溶液と反応させることにより単層剥離できる。一方陰イオン交換性の層状複水酸化物は層間のCO32-をNO3-またはClO4-に交換した後, ホルムアミドを作用させると, 膨潤・剥離する。得られた単層ナノシートは分子レベルの厚さを持った2次元機能ブロックであり, 溶液プロセスにより様々に累積, 複合化することにより, 多彩なナノ構造材料の合成を行うことができる。ナノシートが分散したコロイド溶液に電解質を加えると, ナノシートはカウンターイオンを間に挟み込んで再積層し, ナノ複合体の羊毛状沈殿を生じる。またナノシートコロイド溶液と反対電荷を持った高分子電解質溶液に基板を交互に浸漬することにより, ナノシート多層膜をレイヤーバイレイヤー累積することができる。これらのプロセスによってナノシートを様々なイオン, 錯体, 有機物とナノレベルで複合化できるため, 蛍光材料や光触媒, 誘電体など多彩な機能性材料の合成を行うことができる。
  • 原田 誠
    2008 年 19 巻 2 号 p. 88-94
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2010/03/18
    ジャーナル フリー
    イオン交換樹脂やミセルの表面は電荷を持った界面であることが多い。これら電荷を持つ表面に対して対イオンの溶媒和状態を探るために, X線吸収微細構造 (XAFS) 解析を利用した。陰イオン交換樹脂上に存在している対イオンは, 溶媒によって溶存状態が異なり, 非水溶媒中ではほとんどすべてが樹脂上に存在するのに対し, 水やメタノール中では樹脂上と溶媒中に分配し, 樹脂上に分配した場合でも溶媒分子と強く相互作用していることがわかった。
    また, ミセル表面の疑似モデルとして水溶液表面に展開した界面活性剤膜に着目し, この表面膜に引き寄せられる下層水溶液中の臭化物イオンの表面吸着量を見積もった。測定法として全反射全電子収量XAFS法を用い, 表面近傍の臭化物, イオンに特化したスペクトルを得た。表面膜の膜圧を調整しながら測定した結果, 臭化物イオンは膜の電荷密度に依存して吸着状態が変化していくことが明らかとなった。
  • 吉原 和矢, 町田 基, アマド・ザイニ ムハマド・アバス, 相川 正美, 藤村 葉子, 立本 英機
    2008 年 19 巻 2 号 p. 95-100
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2010/03/18
    ジャーナル フリー
    活性炭表面の酸性官能基がカドミウムイオン吸着に与える影響を検討するため, 酸化炭 (硝酸処理し, 酸性官能基を増加させた活性炭) と, 脱気炭 (ヘリウム気流中で加熱し, 酸性官能基を除去した活性炭) を作成し, カドミウムイオンの吸着試験を行った。吸着量は酸化炭のほうが大きく, 酸化炭からはカドミウム吸着量とほぼ当量のプロトンの放出が確認されたが, 脱気炭からは, プロトンの放出がみられなかった。また, 脱着においても, 酸化炭のみでカドミウムとプロトンの交換がみられた。いずれの活性炭においても, 水溶液のpHの上昇に伴い吸着量が増加した。特に酸化炭では, 低い溶液pHから吸着が可能であった。
  • 山城 康平, 三好 和義, 石原 量, 安野 佳代, 梅野 太輔, 斎藤 恭一, 須郷 高信, 山田 伸介, 杉浦 雅人, 福永 浩之, 永 ...
    2008 年 19 巻 2 号 p. 101-106
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2010/03/18
    ジャーナル フリー
    ポリエチレン製多孔性シート (平均孔径1.3μm, 空孔率75%, シートの厚さ2mm) に, 放射線グラフト重合法を適用して, エポキシ基をもつグラフト鎖を付与し, その後, グラフト鎖にキレート形成基であるイミノジ酢酸基を導入した。得られたキレート多孔性シートを直径13mmのディスク状に裁断し, 6cm3の空カートリッジに充填してキレートカートリッジを作製した。このカートリッジに硫酸ニッケル水溶液を透過させ, キレート多孔性ディスクにニッケルイオンを吸着させて, ニッケルイオン固定カートリッジを作製した。ニッケルイオン固定カートリッジを用いて, 大腸菌破砕液中のHis-tag融合タンパク質を精製できることを実証した。
  • 平井 尚, 和嶋 隆昌, 吉塚 和治
    2008 年 19 巻 2 号 p. 107-109
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2010/03/18
    ジャーナル フリー
    火力発電所ではフライアッシュ等の産業廃棄物が生じる。このような廃棄物の有効利用の観点から, 我々は, 海水やイオン交換水を用いてアルカリ溶融処理した石炭灰からのゼオライト合成を行った。100℃に加熱したイオン交換水を用いた場合ではゼオライトX, ゼオライトA, ハイドロキシソーダライトが生成し, 一方海水ではゼオライトA以外は, イオン交換水と同様の生成物が得られた。さらに海水をイオン交換水で半分に希釈して用いると, ゼオライトXとハーシェライトが生成した。希釈海水による生成物の陽イオン交換容量は約400cmol/kgで, 市販の合成ゼオライトXと同程度の性能を示した。
  • 遠藤 明, 早下 隆士
    2008 年 19 巻 2 号 p. 110-126
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2010/03/18
    ジャーナル フリー
    超分子形成によるイオン認識および分子認識の検出方法には種々の方法が用いられているが, 電気化学的検出方法も近年数多く用いられるようになってきている。電気化学的手法は装置及び測定が簡便で, 感度が高いなど他の方法にはない多くの利点を持っている。また, ホストおよびゲストの両方が電気化学的活性をもっていなくても, フェロセンなどの電気化学活性種を導入したり, また電気化学インピーダンス分光法を用いたりすることで電気化学検出法を用いることが可能になる。特に, 電気化学的手法は自己集積膜を用いた修飾電極での酵素やDNAといった生体関連物質の検出に多く用いられている。本稿では, 最初に電気化学測定法でよく用いられる4つの測定法および電極の修飾方法について簡単に解説した後, 修飾電極でのイオン認識および分子認識について紹介した。それらの中でも特に自己集積膜を用いた修飾電極での酵素やDNAといった生体関連物質の分子認識と電気化学的検出について, 主に2007年度に発表された報告を中心に紹介した。
  • 三村 均
    2008 年 19 巻 2 号 p. 127-140
    発行日: 2008/05/20
    公開日: 2010/03/18
    ジャーナル フリー
    核燃料サイクルのバックエンド化学では, 再処理・放射性廃棄物処理の高度化が重要な課題となっている。特に, 廃棄物処分の負担軽減, 環境負荷低減および資源化・有効利用の観点からは, 放射性廃液からの発熱元素 (Cs, Sr) の選択的分離・回収技術に大きな期待がかけられている。従来から発熱元素の分離手法には, イオン交換法, 溶媒抽出法, 沈殿法などが用いられてきたが, 核種分離を効率化し, コンパクトプロセスを開発するには, イオン交換法が有望視され, 各国で先進的な発熱元素分離技術の開発が展開している。
    本報では, (1) 発熱元素分離の目的と効果, (2) 有望なイオン交換体の分離特性と耐久性, (3) 発熱元素固化と有効利用について解説し, 先進的な発熱元素分離技術の開発についてまとめた。
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