膜分離は省エネルギー, 省スペースで環境負荷の小さな技術であり, 現在, 電気透析や逆浸透法として広く使われている。膜分離法が生体膜のように, 高い選択透過性や能動輸送が可能になるなら, さらに広く使われるであろう。イオン交換は膜透過において最も基本的な分離支配要因の一つであるが, この論文では膜化学におけるイオン交換に関連する我々の研究を概説する。
ある溶質と特異的に反応するイオンを固定したイオン交換膜を通して, 選択的な輸送が可能である。我々は既に上記の輸送機構に基づいた, アルデヒド, 糖, アミノ酸, 重金属イオンのイオン交換膜を通しての選択輸送を報告している。これらの溶質は例えば水素イオンの濃度勾配を駆動力として, 濃度勾配に逆らった輸送も可能である。この方法は簡単であり, 様々な溶質の分離に適用できる。
溶媒抽出は効率的ではあるが連続的な分離法ではない。我々はこれに代わる疎水性膜による分離を研究してきた。この膜を通しての溶質の透過性は, その溶質の疎水性に依存し, 金属イオンはキレートを生成することにより, 加圧下で濃縮される。さらに, 有機溶質はこの膜により分離することができ, 疎水性のチモールと親水性のグルコースの間の濃度勾配下の透過性の比は200倍以上である。
イオンは水素イオンあるいは水酸化物, イオンの濃度勾配下でイオン交換膜を使って効率的に除去できる。中和透析法はこの原理に基づいており, 塩溶液はこの方法により効率的に脱塩される。この方法により塩は有機非電解質と効率的に分離され, いくつかの工業プロセスへの適用についても検討された。
イオン交換は膜透過における主な支配要因の一つである。逆浸透においても膜における電荷は, 膜からイオンを排除する機能の一部を担っている。我々は, 膜とは無関係な環境科学の研究である霧の化学と酸性霧で引き起こされる森林衰退の植物生理学的研究にも取り組んでいる。その衰退の第一ステップは霧に含まれる水素イオンと葉の組織の中の金属イオンとの間のイオン交換である。イオン交換は土壌化学においても重要であり, イオン交換は環境科学を含む様々な分野で今後もさらに研究が進展するであろう。
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