日本乳癌検診学会誌
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31 巻, 1 号
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第31回学術総会/シンポジウム1 Breast Awareness
  • ──なぜ広く普及しないのか
    野村 長久, 若崎 淳子, 谷口 敏代, 園尾 博司
    2022 年 31 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    Breast awareness は「乳房を意識する生活習慣」についてのキーワードで,本学会も効率的かつ効果的な乳癌対策と考え,乳がん検診と並ぶもう一つの乳癌対策の柱と考えている。しかし,その認知度は国民に広く啓発できていない。その原因を解決するためにわれわれは成人女性を対象に,乳がん検診受診に関する受診状況,自己検診,心理社会的状況,個人属性に関するアンケート調査を実施。自己検診を breast awareness とみなし,検診受診歴,心の健康度・疲労度,心理ストレス反応,セルフ・エフィカシー,個人属性との関連について解析した。「自己検診あり」は63.7% (1,151例/1,617例) であったが,毎月行っている割合はわずか2.6%で,時々28.9%,気が向いた時64.0%であった。Breast awareness と心理ストレス反応 (SRS-18) との関連は,抑うつ・不安 (P<0.001) ,不機嫌・怒り (P<0.006) ,無気力 (P<0.001) ,セルフ・エフィカシー (GSES) では,行動の積極性 (P=0.04) ,失敗に対する不安 (P<0.001) ,心の健康度・疲労度 (SUBI) では,心の健康度 (P=0.024) ,疲労度 (P=0.028) に問題があれば悪影響となった。個人属性に関しては,年齢が高い (P<0.001) ,子どもあり (P<0.001) ,高年収 (P=0.014) ,家族歴あり (P<0.001) がよい影響となった。 本研究から breast awareness の意識は低く啓発する意義は大きい。しかし,心理ストレスや心の健康度・疲労度など内面の問題が悪影響 (闇) となるため,肉体的,精神的,社会的な健康 (ウェルネス) が breast awareness の確立に重要と考えられた。
  • 土井 卓子, 井上 謙一, 三角 みその, 水野 香世, 川崎 あいか, 海野 敬子, 北田 翼, 有泉 千草
    2022 年 31 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    鎌倉市ではマンモグラフィ検診受診率の向上を目的として,市の検診事業の一環として20代,30代女性を対象に breast awareness を「乳房健康指導」と名付けて,5年前より行っている。検診実施医療機関で看護師,保健師,助産師が予約制で対面で指導を行ってきた。指導者は毎年勉強会に参加したうえで,統一ツールを使用して指導する方式とし,想定問答集も付記している。受講者は30代が7割を占め,友人などに乳がん発症者が多くなってきたことで受講されていた。順調に進んでいたが,コロナ禍でマンモグラフィ検診と同様にこの指導もいったん休止した。再開後は,breast awareness はコロナ禍では不要不急であり,対面方式は希望しない人が増加し,受講者が減少した。今後の with corona 時代を見すえてアプリを開発し,対面せずアプリで乳がんについて学んでもらう方法を確立した。受講者の感想から指導者の熱意が受診行動につながる可能性が考えられ,対面指導とアプリの併用が今後は最善と考えている。アプリは鎌倉市民に限定していないので活用いただけると幸いである。アプリは検診のペーパーレス化へ活用していきたいと考えている。乳房健康指導によって検診受診率が上昇したかどうかはまだ判断できないが,今後も継続していく予定である。
  • ──学校・職場・地域での取り組み
    吉田 雅行, 山田 博英, 中山 理, 川崎 由実, 手嶋 希久子, 荒川 里香, 鈴木 優佳, 山口 園美
    2022 年 31 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    本学会では笠原班提唱の「breast awareness(乳房を意識する生活習慣) 」 を効率的かつ効果的な乳がん検診と並ぶ乳がん対策の柱とし,イメージキャラクターを公募・決定するなど全国展開を進めている。研究班の HP で「breast awareness」が解説され,国では「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」改正に向け「ブレスト・アウェアネスの普及」が取り上げられ議論されている。今回,「がん教育」などを通じた学校・職場・地域での取り組みと課題を報告する。(1)学校:「がん教育」の外部講師として,がんを通じ知識を意識に変え行動に繋げる健康教育で,乳がん「ヘルスリテラシー」向上のため「breast awareness」も紹介し,がん教育を主体的に行う養護教諭など教職員のがん教育も大切で職場・社会教育の一環である。(2)職場:定期的に「がんに関するアンケート調査」を実施,「breast awareness」の解説と認知度の把握。(3)地域(静岡県):静岡県がん検診精度管理委員会・乳がん部会から県民に向けた提言に「breast awareness」を盛り込み発出。「breast awareness」の認知度は,当院のアンケート調査で2年前の9%から15%に上昇したが低いのが現状である。国民への普及・啓発には,学校の「がん教育」でのがんを通じた健康教育の一環として,乳がんにおける「breast awareness」の紹介は効果的で,家族への波及効果も期待されるが即効性はない。静岡県がん検診精度管理委員会・乳がん部会の提言で県民に向け「breast awareness」を発出しているが,認知度向上は把握できていない。 大切なことは,普及・啓発により,国民が自ら「breast awareness」を実践し,乳がん検診を受けるなどの行動変容に繋がり乳がん死亡率が低下することであり,自己満足で終わらず,認知度や行動変容の評価・検証も併せた普及・啓発の仕組みづくりが課題となる。
  • 田邊 匡, 森岡 伸浩, 武者 信行, 吉川 弘太, 小川 洋, 桑原 明史, 坪野 俊広, 久保田 正男
    2022 年 31 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    2018年に国が策定した『がん対策推進基本計画』では,医師やがん患者・経験者等の外部講師を活用し,子どもにがんの正しい知識やがん患者・経験者の声を伝えることが重要であるとされている。これを受け,『新学習指導要領』に『がん教育』が明記され,中学校では2021年度より全面実施されることとなった。新潟県健康づくり財団では,2014年度より中学生に対するがん教育の一環として,「がんについての基礎知識」「早期発見・早期治療の重要性」「検診受診の重要性」をテーマに講演会を実施してきた。2014年からこれまでに39校,約5,700名が受講,2020年度は希望のあった10校で開催した。講演はがん診療拠点病院等の医師により行われ,講演の前後で生徒達にアンケートを施行した。2020年度のアンケート結果(有効回答数994)では,「がんは早期発見すると治癒する確率が高いと思うか?」に対し,「思う」との回答が講演前後で77.8%から92.1%(1.18倍)に上昇,「がん検診を受けてみようと思うか?」に対し,「思う」との回答が54.8%から88.8%(1.62倍)に上昇するなど,『がん』や『検診』に対する中学生の意識が講演の前後で変化していることがわかった。日常生活のなかで実践すべきブレスト・アウェアネスの普及には,がん罹患年齢層のみならず,その前段階にある若い世代に向けて啓発することが重要かつ効果的と思われる。
  • 島田 菜穂子, 高木 富美子, 栗橋 とし, 福田 護
    2022 年 31 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    2000年,乳房健康研究会は breast awareness が,今後の日本における乳がん環境を変える鍵となることを提唱し,ピンクリボン運動を始めた。しかし awareness という言葉は日本ではなじみがなく,近似するブレストケアという言葉を用い,情報発信と啓発,検診に関する調査,高い精度の検診普及,検診受診率向上,新しい診断と治療法の普及,患者と家族の支援,政策立案者実行者への働きかけ,がん教育への取り組みと,時代の変化に応じて多岐にわたる活動を行ってきた。21年を経て乳がん環境の改善は徐々に進んでいるが,未だ死亡率低下に及ばず,未来に向けて効果的な活動継続が求められる。 人や社会を変え,持続していくキーワードは3つ。Awareness(気づき),Knowledge(知識),Action(行動),これらが相互に作用し循環すること。意識行動を変え,それを当たり前化していくサイクル,これを可能とする方法の一つが,がん教育である。2018年にスタートしたピンクリボンアドバイザーによるがん教育プロジェクトは全国の中学校,高校に活動の場を広げ,多くのジュニアピンクリボンアドバイザーが誕生,がん認識向上のみならず,自他を慈しみ,他へ伝える行動にも繋がっている。さらにオウンドメディアなど digital transformation の活用で,広い年代層との双方向かつ能動的に繋がること,情報や思いを共有することで,意識行動の変容と持続を促す。乳がんにやさしい社会を目指し,2030年までに乳がん死亡者数を1万人以下に。この10年後の約束を果たすため,私たちは進み続ける。
  • 伏見 淳, 田原 梨絵, 寺田 満雄, 家里 明日美, 岩瀬 まどか, 山下 奈真
    2022 年 31 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    [背景・目的]ブレスト・アウェアネスは乳癌の早期発見につながる効率的かつ効果的な乳房の健康行動であるが,未だ広く国民に知れわたっていない生活習慣であり,積極的な啓発運動が求められている。われわれは YouTube を活用して,動画での乳癌情報提供の仕組みを確立しており,ブレスト・アウェアネスに関する動画を発信している。今回,どのようなブレスト・アウェアネスの情報がより多くの方々に届けられるかを明らかにするために,われわれのブレスト・アウェアネス関連動画を比較検討した。[方法]ブレスト・アウェアネスの啓発のために,複数の乳腺科医による十分な議論,ピアレビュー,非医療者の視聴を経て,科学的妥当性,表現や内容の理解しやすさに配慮して動画を6本作成し,YouTube チャンネル『乳がん大事典【BC Tube 編集部】』に投稿した。2020年7月から2021年6月までのこれらの動画の視聴回数・維持率を比較検討した。[結果]対象期間の全6動画の視聴回数は計7.7万回であった。そのなかで最も視聴回数が多かったのは「乳癌症状のまとめ短編」で2.9万回再生,視聴維持率も他の動画よりも高く,47.2%であった。「ブレスト・アウェアネス」を解説した動画の視聴回数は0.5万回,視聴維持率37.2%であった。[結語]「ブレスト・アウェアネス」を解説した動画よりも,症状について,さらに簡潔にまとめた動画のほうがより視聴されていた。ブレスト・アウェアネスが「自分の乳房の意識化するプロセス」を指すとおり,視聴者が「自分事と捉える」「自分の乳房を意識できる」よう,簡潔かつアクセスしやすいプラットフォームを確立し,行動変容につなげることが肝要である。さらに,社会の風潮に合わせて発信する内容や方法を改良し続ける必要がある。
第31回学術総会/ワークショップ1 職域検診の精度管理ー現状と課題
  • 坂 佳奈子
    2022 年 31 巻 1 号 p. 39-42
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    [はじめに]2018年に『職域におけるがん検診に関するマニュアル』が作成された。そのマニュアルにおいては科学的根拠に基づく検診を,適切な精度管理の下で実施することが重要であると明記されており,基本的には住民検診などの対策型検診に準ずるように示されているが,実際の検診専門施設で勤務する立場から主にプロセス指標の結果を中心に職域検診の現状を報告する。 [結果]対象年齢では住民検診では99.4%が40歳以上であったのに対し,職域検診では39歳以下が29.9%であった。検診項目は住民検診では98.4%が MG を用いているのに対し,職域検診では MG43.3%,US 36.1%,MG+US19.6%というように様々であった。要精検率,精検受診率も住民検診のほうが高く,がん発見率も住民検診0.49%に対し,職域検診0.14%であった(MG:マンモグラフィ,US:超音波)。 [考察]職域検診でプロセス指標が好ましくない理由は,適切な年代に適切な方法での検診が行われていないことだと考える。プロセス指標における要精検率,精検受診率,がん発見率全てにおいて問題のある数字であった。今回の結果からも住民検診に比較して,がん検診として十分な成果を上げていないということが考えられた。 [結語]がんという病気で大切な社員を失わないために,職域検診においてもマニュアルに則り,科学的根拠に基づくがん検診の実施をぜひとも実施していただきたいと考える。
  • ──現状と課題
    渭原 克仁
    2022 年 31 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    職域におけるがん検診は,法的根拠がなく,保険者や事業主が福利厚生の一環として任意で実施しているものであるため,検査項目や対象年齢等,実施方法が様々である。職域におけるがん検診については,対象者数,受診者数等のデータを定期的に把握する仕組みがないため,受診率の算定や精度管理を行うことが困難であり,がん検診の種類,がん検診の精度管理,健康情報の取り扱いについて,多くの課題があるといえる。職域におけるがん検診についても有効性,安全性が確認された科学的根拠に基づく検診が実施されることが望ましいことから,厚生労働省は,2018年3月に『職域におけるがん検診に関するマニュアル』(以下,「職域マニュアル」)を公表し,国が推奨するがん検診の種類や検査項目,精度管理項目等を示した。また,効果的ながん検診を継続して実施するためには,検診データを収集し,評価するための仕組みが必要であることから,現在,厚生労働科学研究において,職域におけるがん検診の実態把握と実態を踏まえた精度管理指標の提案等に取り組んでいるところである。将来的には,職域マニュアルががん検診を実施する保険者や事業主に広く浸透するとともに,職域におけるがん検診の受診率等の適切な把握,がん検診のデータ管理を行うための統一されたデータフォーマットの策定を通じ,一元的にデータを集約して対策を検討していくことが必要である。
  • 高橋 宏和
    2022 年 31 巻 1 号 p. 47-48
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    日本のがん検診は,およそ半分が職域で行われている。職域のがん検診は,実施主体となる保険者や事業主により福利厚生の一環として実施されているため,さまざまな企画がされている。また,根拠となる法令がないため,多くの場合データの収集・評価や検診の質を管理するのは難しい状況である。2018年に厚生労働省より公表された『職域におけるがん検診に関するマニュアル』は,まだ十分に普及しておらず,わかりにくい・読みにくいなどの意見も散見される。厚生労働科学研究班では,ヒアリングなどにより職域におけるがん検診の現状を把握し,課題を分析しており,これまでの知見をもとに,がん検診の方向性を検討したい。
  • 尾花 康子, 阪口 晃一
    2022 年 31 巻 1 号 p. 49-52
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    当施設は,人間ドックを中心とした任意型検診を実施している。乳がん検診受診者数は,メディアでの影響もあり増加傾向にある。職域検診の精度管理について検診を実施する施設として当施設の検診の流れや,精度管理の現状を報告する。 施設内での課題は積極的な受診勧奨や,精検受診率,乳がん発見率,陽性反応的中度の把握,併用検診の総合判定方式の導入などまだまだ精度管理できていないのが現状であった。また,施設により判定基準が異なるため施設間比較も困難であり,統一所見フォーマットを運用する必要があるのではないかと考える。
  • 中井 昌弘
    2022 年 31 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    職域検診の精度管理のために,検診施設がどのように取り組んだらよいかを明らかにする目的で,2017―2019年度の職域検診を対象に,1)団体との契約内容,2)精度管理の現状,3)検診の概要,4)当施設の成績,5)精検施設別の成績を検討した。 その結果,精度管理のための取り組みとは,1)保険者・事業者には,がん検診の正しい情報を説明し,精度管理に必要な項目,例えば,検診方法,受診年齢,検診間隔,精検結果の把握,精検未受診者に対する受診勧奨,精検施設の指定などを含めて,契約書を作成させること,2)被保険者・職員には,がん検診の正しい情報を説明し,保険者・事業者に正しい検診を希望させ,受診とともに,要精検と判定された場合は精検受診させること,3)検診施設の経営者には,精度管理の重要性を説明して,検診施設の精度管理のレベルを一定の基準以上にすることであると考える。
  • 平良 まさみ, 土屋 易寿美, 福田 崇典, 大内 憲明
    2022 年 31 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    職域におけるがん検診は全体の約30~60%を占めるが,法的根拠がなく任意のため検査項目や対象年齢等,実施方法は様々である。2018年に厚生労働省から『職域におけるがん検診に関するマニュアル』(以下,マニュアル)が発出されたが,比較的若年層が多い職域におけるがん検診の実態に即した精度管理指標や,事業評価のためのデータ収集の体制構築が必要である。 そこで本研究では,「マニュアル」に沿った集計フォーマットを作成し,2017~2020年度当健診機関でマンモグラフィを実施した199,597人について,地域,職域における,初回・非初回,年齢層別でのプロセス指標の比較を行った。また,2019~2021年10月までのマンモグラフィ実施者128,319人で COVID-19によるがん検診への影響を検討した。 職域における乳がん検診では,初回で,受診者数が少なく,要精検率は高いが精検受診率が低く,がん発見率は高いが早期がん割合が低かった。また,若年齢と特に推奨する年齢(40~69歳)の精検受診率が低いなど,年齢層によってプロセス指標が異なっていた。これらのことから,職域がん検診においても,早期発見により死亡率減少効果に繋がるようプロセス指標の改善が求められる。また,「マニュアル」に準じて集計フォーマットを作成することで,検診実施機関や事業所ごとのプロセス指標の評価が可能となり,パンデミック発生時などには,集計フォーマットを活用することで,検診の受診状況および精度指標を迅速に評価できることが示された。
第11回全国集計結果報告――2018年度
原著
  • 坂 佳奈子, 細谷 小百合, 富樫 聖子, 岩井 望, 伊藤 裕美, 佐々木 みゆき, 八木 真央, 吉田 恵実, 森本 恵, 稲垣 麻美, ...
    2022 年 31 巻 1 号 p. 75-80
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    当施設では2017年よりトモシンセシス撮影(digital breast tomosynthesis: DBT)を併用したマンモグラフィ検診を任意型検診の一部で実施している。DBT を加えることでプロセス指標の向上を認めたが,被ばく線量や撮影時間が増加する問題点もあった。そこで,今回 DBT 画像(3D)データから合成された合成2D 画像(S2D)のみを用いて読影することが可能であるかを検討し,通常マンモグラフィ(2D)撮影の省略の可能性を検討した。[対象と方法]対象は DBT 併用の乳がん検診受診者2,616名,片側のみ撮影を含む5,211乳房の画像である。それらを S2D+3D(A群),2D+3D(B群),2Dのみ(C群)を表示するようにビュアーに設定し,検診マンモグラフィ読影Aもしくは AS評価の読影医6名が時期をずらして,A群のみ,B群のみ,C群のみの読影を行い,3群間の違いを検討した。[成績]3群間ではカテゴリー判定の有意差はなかった。プロセス指標としては,A 群,B 群,C 群で要精検率は7.1%,7.8%,9.1%(A 群と C 群,B 群と C 群間で有意差あり),がん発見率は0.27%,0.23%,0.19%(n.s.),陽性反応適中度は3.8%,2.9%,2.1%(n.s.)であった。[結語]2D撮影を省略してS2D+3Dで読影した場合,従来の2Dのみの読影結果よりもプロセス指標が良好であり,被ばく量の減少,撮影時間の短縮が期待できることが判明した。今後は任意型検診においては2D撮影を省略した乳がん検診が有用な方法になる可能性が示唆された。
  • 山西 昌子, 藤井 直子, 古川 博子, 小西 章子, 堀口 亜希子, 山本 絹子, 奥田 桂子, 原田 良子, 芝 英一
    2022 年 31 巻 1 号 p. 81-86
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    乳腺超音波検査時に悪性を疑う症例には所属リンパ節の検索を行っているが,転移の判定に苦慮する例も多い。腋窩リンパ節転移を判定する際の指標を明確にするために検討を行った。 2019年1月から2020年12月当院乳癌手術1,419例中,腋窩リンパ節転移を疑い術前に穿刺吸引細胞診(FNAC)を施行し,転移の有無が確認できた333例を対象とした。 超音波画像からリンパ節の形(整・不整),リンパ門の有無,長径,短径,長径/短径比(L/S),皮質血流,転移を疑うリンパ節の多発の有無と,乳腺内病変の腫瘍径(T),カテゴリー(C)と,患者背景の年齢,閉経状態に対して,リンパ節転移の有無を検討した。有意差を認めた項目は不整形,リンパ門消失,短径≧5mm,L/S<2,皮質血流(+),転移を疑うリンパ節の多発,T2以上,C5であった。 形およびリンパ門の有無を基に形状分類表(6分類)を作成し FNAC 結果に対応させたところ,形状 I:薄いレンズ状は転移なし,II:レンズ状~類円形でリンパ門ありは3.5%転移,III:おおむね扁平だが分葉形でリンパ門ありは34.1%転移,IV:楕円~類円形でリンパ門消失は50.0%転移,V:分葉~不整形で厚みありおよび VI:隣接したリンパ節が融合は全例転移であった。形状 III に T・C を加味すると T2以上かつ C5は53.7%転移であり有意差を認めた。超音波検査や FNAC には限界があり FNAC での偽陰性が11.0%あるものの,形状分類表に T・C を加味することでリンパ節転移の確率を推定することが可能であり,形状分類表は有用である。
  • 野田 勝, 立花 和之進, 阿部 貞彦, 星 信大, 村上 祐子, 岡野 舞子, 吉田 清香, 相楽 浩哉, 菅野 薫, 野水 整, 君島 ...
    2022 年 31 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    福島県では独自に施設での乳がん検診を実施できない自治体を対象に,視触診医師とマンモグラフィ(以下 MG)搭載バスを派遣することにより出張検診を行ってきた。2005年度から2018年度に公益財団法人福島県保健衛生協会が実施した対策型乳がん検診の成績を後方視的に検討した。総受診者数は220,007人,要精検率は3.3%,精検受診率は90.7%,発見がん率は0.240%,陽性反応適中度は7.4%であった。発見乳がんの MG 所見は,Cー1,2:6.4%,Cー3:33.2%,C―4:35.8%,Cー5:24.2%であっ た。病期は0期と I 期を合わせた早期例が69.6%,III 期と IV 期の晩期例は4.1%であった。検査方法別の要精検率,陽性反応適中度はそれぞれ,視触診併用 MG:3.7%,6.9%,MG 単独:2.0%,11.0%,視触診単独:3.3%,0.7%であった。2016年に対策型乳がん検診では MG 単独検診が事実上許容され,福島県内でも視触診を省略する自治体が増えている。また,2015年度から MG 撮影装置は flat panel detector 方式によるデジタル MG を採用,読影をモニタ診断へと移行し,2016年度から過去画像との比較読影が可能となった。 このような検診体制の変遷と適切な精度管理により,要精検率の低下,陽性反応適中度の上昇が得られ,診断精度の向上が明らかとなった。より質の高い検診を維持していく努力を続けていくとともに,各医療機関や自治体と連携した体制づくりも今後望まれる。
  • 藤井 直子, 中間 友美, 芝 英一
    2022 年 31 巻 1 号 p. 93-101
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    当院では2005年の開院時より石灰化で発見される非触知病変に対して,腹臥位式マンモグラフィガイド下吸引式組織診(MMG-VAB)を行っている。当初はステレオ撮影にて target 座標を同定する MultiCare platinum(装置 A)を使用していたが,2019年1月にデジタルブレストトモシンセシスを搭載した Affirm Prone Biopsy System(装置 B)を導入した。2種類の MMG-VAB を使用する経験を得た。装置 A・B に対して,EUREF の平均乳腺線量(average glandular dose: AGD)測定法を改変して比較用 AGD を概算した。比較用 AGD から装置 B は低線量での検査施行が可能であった。悪性病変発見率は装置 A・B ともに同等で有意差はなかった。装置 B は位置合わせの選択肢が増えた点やトモシンセシス画像により target の同定が容易になり採取成功率が高かった(p=0.04)。装置 B は止血時間が長くかかった症例があったが(p<0.001),検査時間は装置 A よりも短時間で遂行されていた(p<0.001)。装置 B は止血時間が長くかかった症例があったが(p<0.001),装置 A よりも検査時間は短縮し(p<0.001),比較用 AGD も低く抑えることができたことで患者の負担軽減が可能となった。装置性能が向上しても検査が正確,かつ安全・迅速に遂行できるか否かは,診療放射線技師の位置合わせのよしあしにかかっており,技師の役割は大きいと考えられる。
  • 石井 美枝, 篠原 彩恵, 村上 典子, 石井 里枝, 中村 舞, 信太 圭一, 前田 めぐみ, 岡本 瑠美, 畑田 俊和, 荒木 不次男, ...
    2022 年 31 巻 1 号 p. 103-110
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    この研究では,Mo ターゲットを有する AMULET F,W ターゲットを有するMAMMOMAT Fusion,Mo と Rh ターゲットを有する Senographe DS の3種類のマンモグラフィ装置の表示平均乳腺線量(mean glandular dose:MGD)と Dance モデルで計算した実測 MGD の比較を行った。3種類のマンモグラフィ装置の表示 MGD の計算には,それぞれ Dance,Wu の式が使用されている。 結果として,3つの機種全てにおいて圧迫乳房厚が薄いところでは,実測線量に対して表示線量が小さくなり,乳房厚が厚くなるに従い実測線量に対して表示線量が大きくなる傾向になった。実測線量と表示線量の関係は,機種によって差がみられた。3つの機種のうち,Mo と Rh ターゲットを有する Senographe DS は,ターゲット/フィルタの組み合わせにより表示 MGD と実測 MGD の関係に差がみられた。 結論として,表示 MGD と実測 MGD の関係は,圧迫乳房厚の違いによって異なり,機種の違いによっても差がみられた。しかし,表示 MGD と実測 MGD の関係を知っておくことで,マンモグラフィにおける患者の被曝線量の把握,集団線量のモニタリングの指標として役立つことが考えられる。
  • 横溝 十誠, 橋本 秀行, 椎名 伸充, 藤咲 薫, 川上 義弘
    2022 年 31 巻 1 号 p. 111-117
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/31
    ジャーナル 認証あり
    5,177人の健常日本人女性におけるデジタルマンモグラフィ画像から,乳腺量測定ソフトウェアを用いて3次元乳房構成パラメーターを算出し,約1年の経時的な変化について年代ごとに比較した。乳房厚,乳房体積および脂肪体積の年間変化率について,すべての年代において増加を,また乳腺体積および乳腺割合の年間変化率については,すべての年代において減少を認めた。年代間の比較について,乳房厚の変化率においては統計学的な有意差を認めず,また乳房体積の変化率においては,40代と60代の間にのみ有意差を認めた(p=0.04)。さらに乳腺体積,脂肪体積および乳腺割合の変化率においては,いずれも40代のみが他のすべての年代との間に有意差を認めた(いずれも p<0.01)。そのため,BMI,乳房厚および乳房体積でマッチングさせた傾向スコア解析を行い,40代と50代以降との比較を行った。乳腺体積の年間変化率については40代および50代以降の中央値がそれぞれー6.6%およびー9.8%,乳腺割合の年間変化率についてはそれぞれー9.3%およびー12.7%であり,いずれも50代以降の減少率が有意に大きかった(いずれも p<0.01)。日本人におけるマンモグラフィ上の乳房の経年変化として,乳腺体積と乳腺割合が50代以降に大きく減少することが示された。さらなる検証を加えることで乳がん検診個別化の一助となると考える。
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