日本乳癌検診学会誌
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第32回学術総会/特別企画2 ブレスト・アウェアネス~知識と意識を行動へ
  • 紙浦 愛佳, 伏見 淳, 金田 恵理, 岡本 佳奈子, 大端 周, 寺田 満雄, 家里 明日美, 田原 梨絵, 山下 奈真
    2023 年 32 巻 2 号 p. 121-127
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
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    【背景・目的】ブレスト・アウェアネスは,乳がんの早期発見について考える上で大切な生活習慣であるが,本邦での認知度は5%と低い。本研究では,乳がん検診受診率の向上がブレスト・アウェアネス普及への第一歩となると考え,諸外国の乳がん検診に対する取り組みを調べることで,検診受診率を向上させる手がかりを得ることを目的とした。 【方法】2019年時点でのOECD 加盟国36カ国を対象とし,各国政府の公文書,ウェブサイト,レビュー文献を元に調査を行った。検診受診率が75%以上と高い国,上昇傾向の国に共通していた,医療公共サービスのデジタル化,受診勧奨方法の工夫,検診費用の無料化の3つの項目に着目し,検討した。 【結果】医療公共サービスのデジタル化と乳がん検診受診率との間には,正の相関がみられた(相関係数は0.579,p 値は0.0037)。受診勧奨方法について,既に決められた日時がInvitation letter に記載されている国や,手紙以外の方法で通知を行っている国,家庭医が直接受診勧奨を行っている国があった。また,36カ国中26カ国以上が検診費用を無料にしていた。 【結語】各国の乳がん検診受診率向上に向けた取り組みを調査した所,医療公共サービスのデジタル化,受診勧奨方法の工夫,検診費用の無料化が重要な要素となっていることが分かった。本邦においても,これらの要素を取り入れることで,検診受診率を向上させ,ブレスト・アウェアネスの普及につながることを期待する。
  • 植松 孝悦
    2023 年 32 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    ブレスト・アウェアネスの目的は,①乳房の健康に関する知識を身に付けることと,②自覚症状のある乳がんに早く気づき医療機関への受診を促し進行乳癌を防ぐことにある。ブレスト・アウェアネスの普及と乳癌死減少は逆相関性が証明されており,乳がん検診と並ぶ乳癌対策の医療政策として,ブレスト・アウェアネスの啓発は世界的に実施されている。乳房を意識する生活習慣(ブレスト・アウェアネス)の啓発を通して,乳癌が疑われる有症状の女性は速やかに病院に受診するという適切な医療受診行動と乳がん検診は無症状な女性が定期受診をするという正しい乳がん検診リテラシーがわが国に定着する。そのためにも,国(政府)が国民(一般女性)に対して公共電波/メディア/ソーシャルネットワーキングサービスなどを積極的に活用し,ブレスト・アウェアネスを啓発する必要がある。また,近い将来に超音波併用検診マンモグラフィが導入された場合に懸念される乳房超音波検査の偽陽性増加を回避するための要精査基準の緩和に伴う微小乳癌偽陰性に対するリスクマネジメントにブレスト・アウェアネスの啓発が有効となるはずである。日本の次世代乳がん検診は,ブレスト・アウェアネスを土台する超音波併用検診マンモグラフィを導入することで,乳癌死亡率減少効果のある適切な乳がん検診に変貌する可能性がある。
  • 野村 長久, 谷口 敏代, 園尾 博司
    2023 年 32 巻 2 号 p. 135-140
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    はじめに:日本人女性の乳癌は,9人に1人発症するといわれ,乳がん検診の重要性は高い。しかし,日本人女性の乳がん検診受診率は低く,何らかの要因があることが想定される。今回,その要因を明らかにし,より効果的な乳がん検診の啓発について検討したので報告する。 対象と方法:中国地区の成人女性を対象とし,検診受診,自己検診ともありと回答した733例をコントロール群とし,受診歴がない688例は,受診しない理由について自記式質問紙調査を行い,9つの要因(苦痛,羞恥心,時間・機会,誤った認識,費用,年齢,無関心,情報不足,面倒)にグループ化しえた。各要因と個人属性,および心理社会的背景との関連を解析した。 結果:検診受診しない要因で最多は時間・機会28.5%,最少は費用2.2%であった。個人属性および心理社会的背景との関連因子について,苦痛(心の疲労度,達成感,家族関係),羞恥心(自信,夜間勤務),時間・機会(世帯収入),誤った認識(子供の有無,交代勤務,家族歴),費用(無気力),年齢(子供の有無,感情調整,無気力),無関心(家族歴,至福感),情報不足(人生に対する失望感),面倒(交代勤務)に有意差を認めた(P<0.05)。 結語:受診しない要因は,苦痛,羞恥心,時間・機会,誤った認識,費用,年齢,無関心,情報不足,面倒の9つに分類され,要因別にそれぞれ啓発の仕方を考えなければならない。 また,各要因別に影響する個人属性および心理社会的背景は大きく異なっており,その点にも留意し,乳がん検診の啓発を考慮する必要がある。
  • 内田 千絵, 入駒 麻希, 吉田 雅行
    2023 年 32 巻 2 号 p. 141-144
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
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    「ブレスト・アウェアネス」(乳房を意識する生活習慣)をどう普及していけば良いのか,その現状を第32回日本乳癌検診学会(Japan Association of Breast Cancer Screening:以下JABCS)学術総会参加者と共有し,ともに考えていくことを目的とする。JABCS 会員(会員3,812人のうちニュースメール購読登録者3,342人)を対象に,「ブレスト・アウェアネス」の普及の実感度やその要因などを問う設問内容で事前アンケート調査を実施した。172人(医師85人;49.4%,医師以外87人;50.6%)からの回答を得ることができた(回答率5.15%)。「ブレスト・アウェアネス」の一般市民への普及の実感度としてその概念は「普及していない」との回答が148人(86.0%)を占めた。その要因として,「一般市民に向けての情報発信量が少ない」との回答が133人(39.5%),「病気を発症する前の予防に関して興味が低い」との回答が88人(26.1%)であった。「ブレスト・アウェアネス」を広く普及するためにすぐに取り組むことができることとして,身近な人たちへ正しく啓発できるように,まずは我々医療従事者が正しい知識を身につけることが大切であると考える。また,日頃から「乳房を意識する」という概念の啓発を地道に継続していくことも大切であるのではないか,と考える。
  • 小野田 みなみ
    2023 年 32 巻 2 号 p. 145-152
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
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    本学(聖隷クリストファー大学)は,保健医療福祉・教育の総合大学として,医療・福祉の資格取得を目指す学生が日々,専門知識の習得に励んでいる。将来,医療や福祉に携わる上で,患者の命を守るだけでなく,自らの健康にも目を向け,健康行動を行っていく必要があると考え,2019年度に有志の学生と教員,聖隷予防検診センターが協働して聖隷婦人科啓発活動プロジェクトを発足した。発足当初は「子宮頸がん」に関する啓発活動を高校生から一般市民に向けて実施した。活動を進める中で,現在は検診対象年齢ではない乳がんに関しても,若年の今からブレスト・アウェアネスを意識した生活をすることも重要ではないかと考えた。地域の課題でもあるがんに関する若者の知識不足への対応,検診受診率向上のための方法など,がんに関する正しい知識や情報提供の仕方について,聖隷予防検診センター,教員,学生間で検討した。また,2020年からは浜松市とも連携し,産・官・学が協働して活動を広げてきた。自分達の知識を深めつつ,得た知識をピアエディケーション(ピア)の形でSNS やイベントなどで啓発活動を展開した。特に2022年度からは,乳がんに関する動画作成,乳がん検診受診促進のためのリーフレットの作成,など「乳がん」の啓発活動への挑戦を始めている。今回,これまでの子宮頸がんと乳がんに関する啓発活動の内容と,活動を通して私たち自身が感じたことや今後の目標などを発表した。
  • 高木 富美子
    2023 年 32 巻 2 号 p. 153-157
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
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    厚労省の班研究「乳がん検診の適切な情報提供に関する研究」から,「偽陰性例の対策の一つとして,2年に一度定期的に検診を受診することに加えて,ブレスト・アウェアネス(以下B・A)の啓発を推進すること」が提唱された。厚労省の指針に取り込まれ,B・A は「乳房を意識する生活習慣」と定義されている。 認定NPO 法人乳房健康研究会がB・A の普及活動を行うにあたり,活動の成果を測定するスケールが必要である。その一歩として,乳がん検診受診対象者にとって,B・A とはどのようなものなのかを知る目的で,全国の20歳から69歳の一般女性(乳がん経験者を除く)約1,450名を対象にしたインターネット調査を実施した。 調査時点(2022年10月)でのB・A の認知率は6.8%。B・A の【4つのポイント】に対応した質問では,①「自分の乳房の状態を知っているか」②「乳房を知るために実践していること」③「変化に気づいたとき,どうするか」④「検診受診状況」等をたずねた。結果は認知率をはじめ,実践面でもB・A に関わる自覚や行動は低調であった。 今回の調査ではさらに意識レベルの認識をさぐる因子分析を行った。その結果B・A の行動を規定する概念として3つの因子が抽出された。最もインパクトの大きいのは「なにげない日常」の行動を示す因子だった。すなわちB・A は既に女性の日常の中に存在するのである。これを肯定し,顕在化させることが普及の一歩と考える。
  • 山川 卓, 杉本 健樹, 安藝 史典, 藤島 則明, 高橋 聖一
    2023 年 32 巻 2 号 p. 159-163
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    【目的】2021年10月,国の“がん予防重点教育及びがん検診実施のための指針”の一部改正により,がん予防重点教育では“自己触診”に替わり“ブレスト・アウェアネス(以下BA),乳房を意識する生活習慣”の普及啓発に努めることが明記された。高知県及び当院でのBA に対する取り組み,普及及び認知度等について報告する。【結果】2020年2月,高知県健康診査管理指導協議会乳がん部会に議事としてBA が取り上げられた。同年12月,県ホームページにBA を掲載。2022年4月,県内全市町村,保健所,病医院等にBA のリーフレットを配布。同年5月,市町村担当者および保健師を対象にBA に関する講演を行った。講演で使用したスライドは各市町村に配布し,市町村職員,保健師から地域住民への説明,普及とした。当院では2022年3月,職員に対して同様の講義を行い,BAの重要性を共有した。その後,当院ホームページにBA 掲載を行い,当院受診者には医師,対策型検診者には看護師あるいは放射線技師による説明を開始した。同年4月,BA に関する認知度等を当院受診者100名にアンケート調査した。BA という言葉を聞いたことがある3%,その意味を知っている1%等であった。【考察・まとめ】BA の認知度は現状では極めて低い。普及の壁は高いが,粘り強く,BA の概念を一人でも多くの人に説明し,乳がん死減少に導いていく努力が私たち医療者に必要である。
第32回学術総会/シンポジウム3 乳癌検診における被ばく
  • 根岸 徹
    2023 年 32 巻 2 号 p. 165-167
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    放射線は医療において診断や治療にも不可欠な存在であり幅広く利用されているが,その反面,医療被ばく線量の増加が懸念される。40歳代からのマンモグラフィを用いた乳がん検診では被ばく線量には注意が必要である。更には,Digital Breast Tomosynthesis といった高性能な機能を搭載したマンモグラフィ装置も出てきたことからも,被ばく線量の増加も懸念されている。この医療被ばくの最適化を実現させる手法としてICRP(International Commission on Radiological Protection1))では診断参考レベル(DRLs:Diagnostic Reference Levels)を用いることが推奨され,我が国では2015年度から適用されてきた。このDRL 値は5年ごとに見直しがなされており,現時点での最新のDRL 値はDRLs2020となる。この値がどのように決定されているのか,どのように運用していくのかをこのシンポジウムを通じてわかりやすく解説したものである。
  • 中村 登紀子
    2023 年 32 巻 2 号 p. 169-171
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    マンモグラフィ撮影において,医師,診療放射線技師や看護師が被ばくに関する情報を把握していることは,被ばくについての不安がある受診者に対して適切に対応することができるため,大変有益だと考える。マンモグラフィ撮影における被ばく線量は約2mGy と非常に微量なため,受診者に被ばく線量について質問されたとき,「被ばく線量は少ないから大丈夫」と回答することは間違いではないと思う。しかし,説明をするためにはもう少し詳しく被ばく線量を理解していることが必要である。 マンモグラフィ検診の対象者には妊娠を意識している女性が多くなっている。そのため,マンモグラフィ撮影時の被ばく線量を把握し,特定の期間に受ける被ばく量によってのみ胎児への影響が生じることを覚えておく必要がある。 マンモグラフィ撮影時の各部位の被ばく線量の測定結果から,明確な情報を提供すると共に,胎児への影響はほぼないことが明らかとなった。しかし,被ばくという言葉は受診者にとって精神的に負担になることもある。診療放射線技師は,マンモグラフィ検診における被ばく線量を最小限に抑えるための技術と知識を持っている。受診者の安全を最優先に考え,被ばくに関する不安や疑問に真摯に対応し,適切な説明とサポートをすることが求められる。 この被ばく線量の測定結果を通じて,受診者への説明とのコミュニケーションに役立て,被ばくに対する理解を深めることが重要となる。
  • 広藤 喜章
    2023 年 32 巻 2 号 p. 173-178
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    マンモグラフィは放射線を利用した検査においても他と比較して独特の特徴がある。具体的には,乳房は放射線感受性が高く,特に局所的にX 線を照射されるため,放射線被ばくには考慮が必要とされる。さらに,乳がん検診では1年または2年おきに定期的に撮影が行われることが多いため,これらの要素を考慮する必要がある。 日本人の乳がん罹患推定数は2022年において,約9万4千人を超え,死亡推定数は1万5千人を超えると報告されている。乳がん検診は乳腺疾患の早期発見により死亡率を低下させることを目的としているが,マンモグラフィによるリスクの一つは放射線被ばくによる健康リスクである。 放射線による健康リスクは,等価線量や実効線量といった防護量を用いて評価されてきた。しかしながら,実効線量の使用にはリスク評価の対象やその不確かさが含まれており,またその扱いに制約があることも指摘されていた。このような背景の中,ICRP の新たな勧告では,組織反応を防止するために使用する線量値として吸収線量が最適であるとされている。また,実効線量の使い方には留意点も挙げられており,マンモグラフィのような局所的な不均等被ばくには適用すべきではないとされている。 本稿では,乳房のみに照射する検診マンモグラフィに関して考えるべき被ばく線量の概念やリスク評価についてまとめる。
  • 五十嵐 隆元
    2023 年 32 巻 2 号 p. 179-182
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    マンモグラフィにおける被ばくの評価には,従来から実効線量が用いられており「東京とニューヨークを飛行機で往復する間に受ける放射線量と同じ」というような説明がなされている。しかしながら放射線の影響は実効線量だけでなく単位時間当たりの線量(線量率)も関係することから,不適切ではないかと考えている。この従来のロジックでは各組織が受けた吸収線量を,臓器の感受性で加重した上で全身被ばくへ換算した実効線量を前提に説明をしている。国際放射線防護委員会は,2021年に発行したPublication 147『Use of Dose Quantities in Radiological Protection』において,「マンモグラフィにおける乳房など,単一の臓器が線量の大部分を受ける医療手技やその他の状況では,実効線量ではなく対象の組織の平均吸収線量を用いるべきである。」とし,全身被ばくへ換算することを否定している。これらを踏まえつつ患者への被ばくの説明にあたる必要がある。特に以下のことが重要であると考える。 ・マンモグラフィは用いているX 線の線質と装置の構造からして,生殖腺や胎児への被ばくはほとんどない ・診断参考レベルは線量の最適化のツールではあるが,それを下回ったからと言って必ずしも最適化が達成されていることを保証するものではなく,患者への被ばくの説明には用いてはならない ・乳房の組織加重係数の増加には,欧米のコホートのデータが加わったことによるものという理由があり,日本人としては必ずしもリスクの過少推定であったわけではない
第32回学術総会/パネルディスカッション3 遺伝的検査を用いた検診の現状と課題
  • 櫻井 晃洋
    2023 年 32 巻 2 号 p. 183-189
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    乳がん診療の領域では,BRCA1/2 遺伝学的検査が2018年にPARP 阻害薬に対するコンパニオン診断薬として,さらに2020年には条件を満たす乳がん患者のHBOC 診断目的として保険収載され,乳がん診療の現場でも遺伝情報がごく一般的な診療情報の一部となってきた。さらには,再発高リスク乳がんの術後アジュバント療法としてオラパリブの適用が拡大されたこともあり,BRCA 遺伝情報なしでは適切な乳がん診療を提供できない段階に到達している。 以前には発症年齢や家族歴から遺伝性腫瘍が疑われ,診断に至ることが多かったが,今後はコンパニオン診断やがんゲノムプロファイリングなど,二次的に遺伝性腫瘍の診断がなされる機会が増えていくと予想される。 さらには遺伝性腫瘍の診断も,現在のような特定の遺伝子を調べる方法から,関連する複数の遺伝子を同時に調べるマルチ遺伝子パネル検査が普及していくと予想される。 がんの背景にある遺伝要因を明らかにすることは,患者の現在の病変に対してより適切な治療を提供することに加えて,将来の発症リスクが高いがんに対する先制的医療も可能性にし,さらには同じ体質を持っている可能性がある血縁者へもアプローチすることも可能となる。
  • ~認定遺伝カウンセラーの立場から~
    鈴木 美慧
    2023 年 32 巻 2 号 p. 191-195
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    日本の乳癌診療では2020年よりBRCA1/2遺伝子検査やHBOC に対するリスク低減手術やサーベイランスが保険診療の対象となった。遺伝情報を活用したサーベイランスは個人のライフスタイルや社会的状況に合わせたサポートが必須である。認定遺伝カウンセラーの役割は,遺伝性腫瘍のサーベイランス特有の心理的・経済的・社会的課題があるクライエントのニーズに合わせたケアとサポートを提供し,専門の検診外来と治療施設の連携の要になることである。また長期的にがんが見つかる可能性を抱えた状態をもつことで起こりうる心理的な状況に対しては,専門の外来での面談や電話対応などを定期的に行うことでサーベイランスの離脱率を下げることが期待されている。認定遺伝カウンセラーの立場からサーベイランスの継続に必要なまざまな診療科,医療機関の連携の体制づくりや心理的なサポートを重視した関わりについて紹介した。
  • ―介入すべき課題について
    原田 成美, 多田 寛, 宮下 穰, 濱中 洋平, 江幡 明子, 石田 孝宣
    2023 年 32 巻 2 号 p. 197-203
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    BRCA 遺伝学的検査の保険収載に伴い,乳癌・卵巣癌などの既往がある患者のみならず,血縁者(癌未発症)の検査実施件数も増加している。癌の既往に関わらず200~500人に1人が遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)に該当するとされることから,未発症者も含めさらに増加が見込まれるHBOC 診療については,適切な医療体制の構築が求められている。東北大学病院でのBRCA 遺伝学的検査施行数,リスク低減手術施行症例などHBOC 診療の現状を報告すると共に,東北大学病院と日本乳癌学会が取り組む前向き研究を含め,今後の展望について考察する。
原著
  • ―当施設でのアンケート調査―
    加藤 久美子, 笠原 善郎, 木村 雅代, 堀田 幸次郎
    2023 年 32 巻 2 号 p. 205-213
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    BRCA 遺伝子変異陽性乳癌を取り巻く状況はこの数年で大きく変化し,遺伝学的検査に基づいた手術や薬物治療が日常診療に取り込まれた。がん検診においても,受診者が遺伝性腫瘍についての知識を持つことが,検診行動やブレスト・アウェアネスの向上につながる可能性がある。情報提供は,適切かつ不利益を招かないように行うことが望まれる。そのような情報提供のあり方を検討するためには,がん検診受診者が遺伝性腫瘍に関する情報提供をどの程度求めているかをまず知る必要があると考えた。当院健診センターの乳がん検診受診者を対象に,2019年1月28日から3月8日の間にアンケート調査を行い,717人の受診者から回答を得た。「遺伝性のがん」という用語を知っていたのは82.0%で,その内容について説明を見聞きしたことがあると答えたのは8.8%であった。「遺伝性のがん」について知りたいと74.5%が回答し,また86.6%が自分自身に「遺伝性のがん」の可能性がある場合にはそのことを知りたいと答えた。がん検診受診者に,遺伝性腫瘍に関する情報提供への要望が一定数あることが明らかになった。受診者のアンケートへの回答結果を踏まえて,がん検診における遺伝性腫瘍の情報提供のあり方を検討した。
  • 坂 佳奈子, 森本 恵, 富樫 聖子, 岩井 望, 伊藤 裕美, 佐々木 みゆき, 八木 真央, 吉田 恵実, 細谷 小百合, 川上 睦美, ...
    2023 年 32 巻 2 号 p. 215-220
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    当施設では2017年よりトモシンセシス撮影(Digital Breast Tomosynthesis)を併用したマンモグラフィ検診を任意型検診の一部で実施している。DBT を加えることでプロセス指標の向上を認めたが,被ばく線量や撮影時間の増加に加え,読影時間延長,画像データ量増加も大きな問題点となっている。そこで今回,Hologic 社の新技術(3DQuarummTM)による6㎜厚の画像を用い,従来の1㎜厚と読影結果を比較した。6㎜厚の画像を用いる目的はデータ量の削減と読影時間の短縮である。【対象と方法】対象は2020年10月~2021年3月の乳腺外来患者で通常マンモグラフィ(2D)にDBT(3D)を加えて撮影した443名であり,左右どちらかあるいは両方がカテゴリー3以上の判定であった474乳房について後方視的に検討した。同一症例に対して「2D+1㎜厚3D」と「2D+6㎜厚3D」の2セットの画像を用意し,A 評価以上の読影医3名が両セットの判定を1ヶ月以上の間隔をあけて判定した。【成績】全症例のカテゴリー一致率は77.5%,カテゴリー2以下とカテゴリー3以上で分けた判定一致率は85.9%であり,1㎜厚と6㎜厚において判定結果に差はなかった。癌症例のカテゴリー一致率は75.0%,判定一致率は90.5%であった。癌症例のカテゴリー不一致例は,腫瘤では6㎜厚の方が,構築の乱れでは1㎜厚の方がカテゴリーを高くつける傾向にあった。読影時間に関して6㎜厚は1㎜厚に比べて20症例で平均約2.7分短縮された。【結語】6㎜厚と1㎜厚ではカテゴリー2以下と3以上の判定一致率は高かった。また読影時間の短縮が期待できる結果であった。今回の検討により検診においては6㎜厚の使用が許容されることが示唆された。
  • 山近 大輔, 町田 隆志, 佐藤 誠, 金谷 剛志, 佐藤 哲也, 久保田 光博, 杉田 輝地
    2023 年 32 巻 2 号 p. 221-226
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    当地域における乳癌の市検診については,「乳がん一次検診:視触診のみ」と「乳癌検診:視触診とマンモグラフィ(以下MMG)併用」の2種類を40歳以上の女性を対象に毎年,交互に施行されている。昨今は乳癌検診における視触診の重要性や意義について,経済面や人員確保の観点からも様々な意見があり,市町村においても視触診は廃止しているところも散見される。当院における乳癌の市検診の受診者数はすべて個別検診であり,2016年(平成28年)度が1,723人,2017年度が1,616人,2018年度が1,539人であった。3年間で合計4,878人の市検診の結果について検討した。検診における視触診を省略する方向にある現状において,MMG 単独では見落とされる症例があること。視触診をしていれば見逃すことのないような乳癌を発見するには受診者本人による定期的なブレストアウェアネスをご自宅で実践していただくことが大切と考えられた。そのための啓発活動を活発に行っていくべきであると考える。若干の文献的考察を加えて報告する。
  • 丹羽 多恵, 森田 孝子, 加藤 裕, 荒井 郁美, 橋本 憲幸, 東 正史
    2023 年 32 巻 2 号 p. 227-237
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    マンモグラフィの乳房構成判定は,読者間や装置間でばらつきがあることが知られている。本研究では,公開されているばらつきをできる限り抑えるための具体的判定方法に基づいた医師の判定結果をメーカーが作成したAI 技術を用いた乳房構成判定ソフトに学習させ,学習後のソフトの構成判定の検証を行った。 対象と方法:研究協力6施設から画像を収集し,適格とされた1,353画像を学習用と評価用に分類した。学習用画像に対する医師11名の乳房構成,乳腺濃度,乳腺領域の視覚評価の結果から導いたデータを正解として乳房構成判定ソフトに学習させ,評価用画像に対する学習後のソフトの判定結果と医師の視覚評価結果の相関を検討した。 結果:所見のない画像に対しては,医師11名の主観乳腺濃度と正解乳腺濃度の相関係数は0.923に比して,学習後のソフトの推定濃度と正解濃度の相関係数は0.930と高かった。乳房構成全体の正解率は医師81.8%,ソフト81.6%と同等であったが,乳腺散在,不均一高濃度は医師で84.6%,74.5%,ソフトでは88.3%,79.4%とソフトの方が精度良く判定した。高濃度・非高濃度の2分類のカッパ係数は医師が0.7595,ソフトが0.7799とソフトの結果が良好であった。 考察:乳房構成判定時に本ソフトを補助的に使用することにより,判定者のぶれや迷いを減らす結果,精度が高く効率の良い読影が期待される。
症例報告
  • 長田 拓哉, 佐々木 彩, 岡 由希, 横内 幸, 渡邉 学, 岡本 康, 斉田 芳久
    2023 年 32 巻 2 号 p. 239-243
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル 認証あり
    【はじめに】MMG 画像の中には診断基準に当てはまらず,診断に苦慮する症例が 存在する。我々はMMG にて粗大石灰化所見を認め,良性と判断した乳癌症例を経験したので報告する。【症例】65歳女性。若い頃から右乳房腫瘤を自覚していた。乳癌検診のMMG にて右乳房の粗大石灰化所見を指摘され,精査目的にてコンサルトされた。触診にて右乳房C 領域に2cm 大の硬く可動性良好な腫瘤を触知した。MMG にて右乳房の粗大した石灰化病変と考え,カテゴリー2と判断された。乳房超音波検査にて右乳房C 区域に1cm と1.6cm 大の低エコー腫瘤を認め,内部に石灰化病変を認めた。2つの乳房腫瘤より針生検を行い乳癌の診断となった。CT 検査にて石灰化病変周囲に造影効果を認め,乳房MRI 検査では網状濃染像を認めた。以上より右乳癌の診断にて鏡視下右乳房温存術を施行した。術中センチネルリンパ節生検にてリンパ節転移陽性の診断となり,レベル1の腋窩郭清を施行した。【考察】乳房MMG における粗大石灰化病変は一般的に良性を示唆する所見と考えられている。本症例の画像からは悪性を疑いにくく,カテゴリー2として経過観察する場合もあると考えられ,注意が必要であると思われた。【結語】MMG での診断に苦慮した粗大石灰化所見を伴った乳癌の症例を経験した。
  • 伊藤 正裕, 甘利 正和, 佐藤 章子, 引地 理浩, 坂本 有
    2023 年 32 巻 2 号 p. 245-249
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
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    症例は38歳女性。妊娠5週目に乳がん検診を受診。乳房超音波で左乳房1時方向に8mm の腫瘤を指摘され,当科受診。初診時には妊娠10週目であった。乳房超音波検査所見は左P1時方向8×6×8mm 大の境界明瞭粗造な不整形腫瘤を認め,針生検では浸潤性乳管癌の診断であった。患者は妊娠継続を希望したため,手術可能な妊娠中期まで待機する方針となった。妊娠20週目に左乳房切除及びセンチネルリンパ節生検施行し,病理組織診断は浸潤性乳管癌,pT1b(10mm),pN0,組織学的悪性度II,Ly0,V0,ER 陽性(100%),PR 陽性(90%),HER2陰性(1+),ki6722.4%であった。妊娠36週日に正常経腟分娩で出産し,タモキシフェン内服を開始した。出産後の児の経過も良好であり,現在まで発育障害は認めていない。乳房超音波検査は妊娠に伴う生理的変化が加わった状況においても診断可能な有用なモダリティであるが,不利益(がん検診の感度低下,偽陽性増加,エビデンス不足)の可能性を受診者に十分に伝えて行う必要がある。妊娠期乳癌の治療に際しては発見時の妊娠週数,乳癌サブタイプ,臨床病期,患者本人の希望を考慮して治療方針を決めていくことが重要と考える。
  • 小林 哲郎, 満田 彩, 田川 由樹, 大西 純子, 吉田 康之
    2023 年 32 巻 2 号 p. 251-255
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/30
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    男子乳癌は全乳癌の1%以下と稀である。女子ではマンモグラフィの普及により早 期症例が増えたが,男子は腫瘤形成が主症状であり,診断まで時間を要し病期が進んでいるものも少なくない。 症例は79歳男性。2014年,71歳時,半年前から右乳頭の血性分泌があり来院した。マンモグラフィでは小結節陰影を右乳輪下に認めた(6mm 径)。小結節を含めた乳頭乳輪下組織を可及的に切除。病理検索では当初,乳管上皮過形成の診断であったが,追加免疫染色により,low grade 乳管内乳がん(DCIS)と診断変更になった。Tamoxifen を2年間投与。7年が経過した78歳時,再び右乳頭分泌をきたし来院。マンモグラフィで右乳頭乳輪下に再び小結節影が見られた。乳癌再発を疑い,右乳房全切除術施行。術中の腋窩リンパ節生検は陰性であった。術後病理診断はDCIS。大きさは25×8mm,Grade 1,ER:(+)(80%),PgR:(+)(10%),HER2:0,MIB―1:1%。再発の可能性が示唆された。同年,low grade,粘膜下の早期胃がんが見つかり,内視鏡切除術施行。現在無投薬で経過観察。乳癌の家族歴はなく,遺伝子検索でもBRCA1/2のgermline mutationan は認められなかった。 乳癌検診のない男子において乳頭分泌のような初期症状に注意し,早期診断にこころがけることは重要である。
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