当院でのICSIの適応基準を明らかにするため,IVFにおける精子処理後の直進運動精子数,女性の年齢,治療歴をもとに正常受精率,正常受精の得られなかった周期率の検討を行った.また,初回のIVFで正常受精の得られなかった周期のその後の治療成績について調べた.精子処理後の直進運動精子数100万~500万/ml未満,500万~1,000万/ml未満,1,000万~1,500万/ml未満,1,500万~2,000万/ml未満および2,000万/ml以上の5群での正常受精率は,48.8%,60.2%,59.1%,63.2%および66.6%で,100万~500万/ml未満の群が他群に対して有意に低率であった(P<0.05).正常受精が得られなかった周期率は,それぞれ21.7%,16.4%,12.0%,8.3%および5.4%であった.30歳未満,30-34歳,35-39歳および40歳の4群の正常受精率を比較した結果,いずれの群でも60%以上の良好な成績が得られたが,高齢患者では運動精子数の低下に伴い正常受精率が低下する傾向が見られ,正常受精の得られなかった周期率が高くなる傾向が見られた.ARTの治療回数別でみると,正常受精率に差はないものの正常受精の得られない周期率では5回目以上の群が4回目以下の群に対し有意に上昇した.初回のIVFで正常受精が得られなかった44周期にICSIを施行し,ICSI後に変性卵となった3周期を除く41周期すべてにおいて正常受精卵が得られた.以上のことから,精子処理後の直進運動精子数が100万~500万/ml未満の症例は,ICSIの適応症例と考えられた.また,500万~1,000万/ml未満の媒精濃度が確保できるIVF症例の場合でも,採卵個数,女性の年齢やこれまでの治療歴,移植キャンセル率等も十分考慮に入れ治療方針を決定すべきであると考えられた.
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