土木学会論文集B1(水工学)
Online ISSN : 2185-467X
ISSN-L : 2185-467X
77 巻, 2 号
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水工学論文集第66巻
  • 太田 洸, 片岡 智哉, 吉田 拓司, 二瓶 泰雄
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_901-I_906
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     海洋プラスチックごみの多くは陸域起源であり,河川経由で海洋に流入する5mm以上のマクロプラスチックごみを計測することは重要である.本研究では,深層学習に基づいて,河川を浮遊するマクロプラスチックの面積や種類判別のための新たな画像解析手法を開発することを目的とする.学習データ作成のために,平常時河川において水表面に浮かぶ様々な人工系・自然系ごみを撮影し(計585枚),深層学習モデルにはCNNとYOLOを用いた.その結果,CNNとYOLOはそれぞれ,人工系ごみ面積やプラスチックごみ種類判別を高精度で捉えることができた.また,YOLOを出水時河川にも適用し,現地で撮影されたごみ画像を学習データに加えることで,プラスチックごみの種類判別精度が大幅に向上した.

  • 大中 臨, 赤松 良久, 宮園 誠二
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_907-I_912
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,UAV写真測量を用いて河道内の地形変化をモニタリングする手法を開発することを目的として,山口県の一級河川である佐波川の9.6kpから10.8kpの範囲を対象にUAV写真測量に基づく地形変化のモニタリングと,ALBの測量成果やRTK搭載UAVによる測量成果との比較を行った.その結果,河道内のモニタリングにUAV写真測量を用いることによって短期間での砂州の変化の様子や,河道内の河床変動の様子を面的に把握でき,河床変動量や土砂収支などを定量的に把握できることが示された.また,UAV写真測量の測量成果はALBによって得られた成果と大きな差異は無く,水面下の測量にも適用可能であることが明らかとなった.また,本手法はRTK搭載UAVを使用することで,RTK非搭載UAVと同等の精度を確保しつつ大幅な測量時間の短縮を期待できることが示唆された.

  • 野村 碧都, 吉田 圭介, 谷口 純一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_913-I_918
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年の豪雨災害は河川合流部,狭窄部や樹林化区間などで生じる傾向にあり,河道管理では水害に対して脆弱な箇所での地形や地被状態を詳細に計測することで洪水疎通能力を精査し,緊急度に応じた対策を講じる必要がある.本研究では岡山県旭川下流の国管理の約1.2kmの樹林化河道区間を対象にUAVグリーンレーザ計測を行い,これと同時に撮影される航空写真も用いて,深層学習によって河道内の地被分布を推定した.その結果,レーザ点群だけのデータに比べて,写真画像を用いた学習によって地被分類の性能は向上した.また,点群データは教師データの補正に利用することで,性能向上に寄与することが分かった.

  • 高野 保英, 菅木 渉馬, 中北 和之, 江藤 剛治, 竹原 幸生
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_919-I_924
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     風波による水表面の物質輸送過程に関する基礎研究の一環として連続固定波面上の風圧を感圧塗料(PSP)を用いて計測することを試みた.PSP計測は航空流体力学分野で実用化されつつあるが,海洋の波や土木構造物を対象にする場合は風速が小さく計測が難しい.例えば風速30m/sのときの気圧低下は0.54%である.このため,小領域の輝度から平均的な値を求めるビニング法, 繰り返し現象に対して多数回の計測値を積算する積算法等を適用した.また照明強度が十分大きければ,PSPの燐光の減衰定数の変化から時空間的な圧力変動が計測できる可能性があることを示した.ただしPSPの発光は,風速による温度変化に敏感である.温度変化を精密に同時計測してPSPの発光強度,または減衰定数を補正して風圧を求める必要がある.

  • 須崎 貫太, 仲吉 信人
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_925-I_930
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     グローブ風速放射センサ(GAR)は表面特性の異なるグローブ温度センサの熱収支解析に基礎原理を置き,4つの気象変数(長・短波放射,風速,気温)のうち1つを実測することで他の3つを測定項目とすることができる.その特性を利用し,長波放射を別途測定することで気温の逆同定が可能であるか検証した.強制通風した熱電対の温度を真値とし,放射計で測定した長波放射を入力値とするとRMSEは0.535℃となりGARから気温の逆同定が可能であることが示唆された.

  • 木村 一郎
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_931-I_936
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     ダブルグリッドモデルは二つの異なる計算格子を重ねて用いることで,高解像度の地形・粗度情報生かしつつ,実用的な計算機負荷で流れの計算を可能とする方法である.2つのスケールの格子のうち,細格子上に地形と粗度情報を格納する一方,基礎式は粗格子上で離散化され,解かれる.細格子上の情報は,基礎式のうち移流項および底面摩擦項の二種類の項に反映される.このようなダブルグリッドモデルを都市域の氾濫計算に用いるため,主に次の二つの点について改良を行った.一つ目は粗格子内に存在する建物群の抗力の影響を考慮するため,摩擦水深に抗力影響を含めた修正摩擦水深を導入した.もう一つは,水際移動における流量保存の厳密化のため,乾湿格子の遷移の際の体積補正を導入した.改良モデルは既往の氾濫実験を良好な精度かつ比較的小さい計算時間で再現可能であることを示した.

  • 市川 温, 櫟 あゆみ, 田中 智大, 萬 和明, キムスンミン , 立川 康人
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_937-I_942
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     固有直交分解と離散型経験的補間法を用いて縮約型の洪水氾濫モデルを開発した.まず,差分法で離散化した局所慣性方程式に,固有直交分解の基底の線形結合で表した状態量を代入し,基底の係数の時間発展式を得た.つぎに,離散型経験的補間法を用いることで,この時間発展式に含まれる非線形項の効率的な評価を組み込んだ縮約型洪水氾濫モデルを導出した.このモデルを検証するために,仮想的な領域・計算条件のもとに洪水氾濫計算を行った.その結果,縮約型洪水氾濫モデルは元の洪水氾濫モデルによる計算結果をある程度再現できること,計算条件によっては元のモデルによる結果との差異が大きくなることが明らかとなった.また,今回の条件に対する縮約型洪水氾濫モデルの計算コストは,元のモデルの半分以下であることが明らかとなった.

  • 堀江 克也, 森 明巨, 西本 直史
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_943-I_948
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     射流屈折水路では斜め跳水を伴う二次元流れとなる.このような流れに対してIppenの理論解が知られており,CRD法を適用して縮流に伴う遷移の再現性を示した.両側屈折水路における縮流では,両側の壁面から発生する斜め跳水が交差波となり,より複雑な二次元流れとなる.本論文では,一次元及び二次元CRD法を用いて,このような縮流部に適用し,跳水・段波の発達過程を分析した.両側屈折水路では,両側から発生する交差波が干渉し水路中央付近で水位上昇を引き起こす.徐々にフルード数Frが小さくなりFr<1となると跳水となる.その後,跳水が周囲に伝搬していき,水路の全幅にわたって広がり左右の壁面に到達すると一次元的な流れとなり上流に進む段波となる.また,縮流部の跳水・段波の発生は屈折角の影響を受けて屈折角が大きくなると二次元効果が強くなることを示した.

  • 浪平 篤
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_949-I_954
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     スルースゲートの潜り流出では,ゲートの閉鎖操作の初期やゲート全開の直前のように開口高さが大きく上下流の水位差が小さくなると,流量係数の理論値はゼロに漸近するため,その適用が難しくなると考えられている.このような場合を含む開口高さが大きい条件を対象に,潜り流出の数値解析を行った.解析結果から推定される流量係数は,理論値と実験値の一致が確認されている条件では,理論値で確認されている潜り流出の特性に対して一定程度の再現性を有することが確認された.理論値の適用が難しくなる条件を含む全ての解析ケースを対象とした開口高さの違いによる流量係数の変化は,原点を通る3次関数による近似曲線によって推定可能であることが確認された.

  • 島浦 現, 新谷 哲也
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_955-I_960
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     粒子法は,差分法や有限要素法と比較して空間解像度を柔軟に定義することが難しい.そのため,解析領域と比べて着目する現象の空間スケールが小さい場合,着目部分の粒子径が領域全体の空間解像度として定義されるため,膨大な計算時間を必要とする.本研究では,この問題を解決するために,近年着目されている解像度可変型粒子法に基づいた数値モデルを開発し,その精度•効率検証を目的として,水柱崩壊と越波現象の解析を行った.その結果,可変型では圧力撹乱が僅かに悪化したものの,速度分布や越波量では精度の著しい低下は確認されないことが判明した.また,計算コストを大きく低減することにも成功し,水柱崩壊問題に関して計算領域の3/5を低解像度領域とした場合,単一高解像度粒子径を用いた場合と比較して4割程度計算時間が減少した.

  • Maurice DUKA, Katsuhide YOKOYAMA, Tetsuya SHINTANI, Hiroshi SAKAI, Aki ...
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_961-I_966
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     Hydrodynamic modeling in reservoirs usually implements the Uniform Distribution Method (UDM) for outflows. While this may work well in single-point portals like for deep penstock withdrawal (DPW), the case may be different for selective withdrawal (SW). Using actual observations of velocity fields through the SW facility of the Ogouchi Reservoir, a new outflow method called the Modified Gaussian Distribution Method (MGDM) was applied to simulate the in-reservoir and outflow temperatures. Results showed that MGDM can reproduce the two thermal properties more reasonably than UDM. Using these techniques, the three conceptual cases were formulated namely, Case A (DPW), B (SW) and C [SW and vertical curtains (VC)]. Case A has wider thermal dispersion and exhibits cold water pollution while Cases B and C develop stronger thermoclines and can mitigate the thermal pollution. Case C has wider epilimnion than B due to the VC yet simulation shows similar trends for outflow temperatures for B and C due to similar release operations. In modeling reservoirs with SW, it is highly recommended to measure the actual velocity field of the outflow and apply these measured velocity distributions in the simulation. MGDM is promising for modeling with better accuracy not only for the reservoir temperatures but also for the sediment and other water quality distributions.

  • Sung Jin KIM, Yuji SUGIHARA, Osama ELJAMAL
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_967-I_972
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     The wind stress acting on the water surface and the thermal stratification are typical factors changing turbulent flows and material transfers in natural water-environments. In this study, we analyze numerically how these two factors affect turbulence properties and the heat transport flux at the water surface in a turbulent open-channel flow by means of the direct numerical simulation (DNS). Under the stable, neutral and unstable stratification conditions, the open-channel flow with the surface shear stress is simulated, and the surface divergence and the heat transport flux are obtained from the numerical data. The numerical results demonstrate that the surface divergence can be universally described with the Taylor micro scale even in the presence of the combined effects of the two factors. The standard surface divergence model is confirmed to be approximately applied for the turbulent open-channel flow driven by the surface shear stress and the thermal stratification, but the proportional coefficient of the divergence model varies complicatedly with the surface shear stress, depending on the Richardson number.

  • 児玉 貴央, 宮園 誠二, 赤松 良久
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_973-I_978
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     江の川上流域では,外来沈水植物オオカナダモの異常繁茂が問題となっており,本種の効率的な駆除方法の確立および異常繁茂を抑制する河川管理手法の開発が望まれる.本研究では,UAVを用いてオオカナダモの繁茂状況を季節的にモニタリングし,季節を通して河道内に生息するオオカナダモ群落(ソースパッチ)が存在する河川環境について検討した.その結果,ソースパッチは調査区間上流域ほど多い傾向にあり,特に床止工周辺や堰上流区間など停滞水域に相対的に多く存在することが示された.また,ソースパッチの在/不在と流量変動,水深との間に負の相関が認められたことから,ソースパッチは流量変動が小さく水深が浅い箇所に形成されやすい可能性が示された.これらの結果から,ソースパッチが形成されやすい河川環境を推定できた.

  • 花岡 拓身, 齋藤 稔, 赤松 良久, 宮園 誠二, 中尾 遼平, 辻 冴月, 小林 勘太
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_979-I_984
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     江の川浜原ダム下流に投入された置土が河川環境に及ぼす影響の評価を目的として,2020年夏の出水による置土の流出状況を写真測量と流出シミュレーションで推定し,置土流出後である秋と冬の河床環境・魚類と底生動物の生息状況を比較した.置土は,前年の投入量の約30%にあたる2,625m3流出し,約3km下流まで到達したと推定された.秋には,置土の約1km下流で河床貫入度が置土上より高く,砂底を好む魚類の環境DNA濃度も高かったため,置土は投入箇所直下の河床環境の改善に寄与したと推察された.一方,冬には,置土下での河床貫入度と砂底を好む魚類の環境DNA濃度が低下した.底生動物では造網型のトビケラ類の割合が増加しており,置土の効果は出水に伴う流出後3ヶ月程度に留まると考えられた.

  • 赤松 良久, 宮園 誠二, 谷口 徳紀, 宮平 秀明, 大中 臨
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_985-I_990
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     気温上昇による河川水温の上昇は,河川生態系に多大な影響を及ぼし得るため,将来的にどの河川区間でどのくらい水温が変化し得るのか把握する必要がある.本研究では,中国地方における10の一級水系を対象にし,合計126地点の水温の連続観測データを用いて気温と河川水温との関係を解析した.続いて,気温上昇に対する河川水温の増加率に対象河川の流域特性がどのように影響し得るのか検討した.その結果,河川水温への気温の影響の受け方が水系間で大きく異なっていることが明らかとなった.さらに,気温に対する河川水温の増加率は,水田・農地割合および建物用地割合に正の相関,森林割合との間に負の相関がみられ,土地利用の影響を強く受けることが明らかとなった.

  • 韓 天蓄, 入江 政安, 高橋 祐馬
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_991-I_996
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     気候変動が河川環境に及ぼす影響を正しく評価するためには河川水温の予測が重要な課題である.本研究では,大和川を対象流域として降雨流出氾濫モデルに組み込まれた水温モデルを適用し,その再現性を評価した.流量のNash係数は0.8以上,水温のRMSEは1.85°C前後となり,モデルは概ね良好な再現性が得られていることを確認できた.そして,得られたモデルを用いて,気温上昇,および人口変動に伴う下水放流量の減少を考慮して将来水温の影響を簡易的に評価した.その結果,水温は気温上昇の影響を受け上昇し,人口減少による水温低下効果はそれを相殺できないわずかな程度であることがわかった.

  • 溝口 裕太, 赤松 良久, 宮本 仁志, 中村 圭吾
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_997-I_1002
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     流域規模の水温特性を支配する要因を明らかにするために,観測水温と平衡水温に基づく指標である修正熱感度(dMmTw/dMmTeq)もしくは熱平衡偏差(MaTw−MaTeq)を目的変数,流域と河道に関する33の特徴量を説明変数とする回帰木モデルを構築し,それを用いて変数重要度の分析を行った.その結果,修正熱感度については,主流長,主流勾配など河道特性と,集水面積,最低標高など集水域の地形に関する要素が重要度の高い変数として検出された.また,熱平衡偏差については,森林,草地,農地など集水域の地被に関する変数や,河川水の昇温を駆動する日射を受ける斜面方位の重要性が示された.

  • 吉田 拓司, 藤山 朋樹, 片岡 智哉, 緒方 陸, 二瓶 泰雄
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1003-I_1008
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     プラスチックごみ汚染はグローバルな環境問題であり,河川から海域への5㎜以上のマクロプラスチック輸送量の把握は必須である.本研究では,IPカメラによる連続的な河川水表面撮影と画像解析法(RIAD)による人工系ごみ輸送量観測システムを構築した.RIADで得られる色差情報を精査し,水面と人工系,自然系ごみの色差分布は明確な差があり,それに基づいてごみの分類を行った.本観測システムにより三重県天白川とその排水路にて人工系ごみ輸送量の自動連続観測を行い,延べ34の出水イベントの観測結果を得た.これより,人工系ごみ輸送量は増水期の方が減水期より顕著に大きく,ファーストフラッシュ現象が確認された.増水期の人工系ごみ濃度の平均値は先行降雨指標APIとの関係が示された.

  • 厳島 怜
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1009-I_1014
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,山地源頭部の河床形態の出現特性を調べ,山地の地形的特徴量及び縦断形状との関係を明らかにしたものである.リーチスケールの河床形態の河床勾配は,fall-pool,cascade,step-pool及びpool-riffleの順に大きく,地質間で大きな差異はみられなかった.また,対象河川の縦断形状は直線型と凹型の2つに大別でき,直線型では河床形態の勾配が上下流で変化していないのに対し,凹型では同一の河床形態であっても上流側に勾配が増加する傾向がみられた.源頭部における河床の縦断形状や河床形態の出現特性に影響を及ぼす山地の特性量として,起伏量や開析度に関する指標が選択された.これらは,土砂生産や河床の比高差に関連する指標であることから,河床形態の分布を支配する重要な要因と考えられる.

  • 濱木 道大, 森田 大詞, 佐藤 貴亮, 新妻 重明, 川尻 峻三, 渡邊 康玄
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1015-I_1020
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     常呂川水系無加川では,2016年8月に洪水により表層砂礫が一掃され火山灰層が露出,急激な河床低下の進行が低水護岸や橋梁の安定性を低下させている.本研究では,岩盤河川の表層砂礫の維持に着目し,その層厚を把握するため,表面波探査と地中レーダ探査を組み合わせた調査手法について検討した.その結果,表面波探査と地中レーダ探査を組み合わせることで,両者の結果を補間し,より精度良く砂礫層厚を把握する手法になり得ることがわかった.また,河川域における物理探査の適用範囲を広げるための課題を明らかにした.

  • 大石 銀司, 林 博徳, 池松 伸也, 島谷 幸宏
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1021-I_1026
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,空石積み護岸の護岸表面形状と,裏込め土砂の吸い出し現象の関係性に着目し,護岸表面の凸形状が裏込め土砂の吸い出しに与える影響を水理実験により明らかにすることを試みた.その結果,護岸表面に突部がある場合,その近傍で顕著な吸い出し現象が発生すること,突部が大きいほど流出土砂量は多くなることが確認された.さらに護岸内の圧力計測により,護岸近傍の圧力は突部の上流で大きくなり,下流で小さくなっていること,突部が大きいほど圧力差も大きくなること,この圧力差が吸い出し現象の発生要因であることなどが示された.

  • 赤堀 良介, 原田 守啓, 角谷 太一, 桂 知代, 柴本 陸
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1027-I_1032
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では現地観測結果に基づき実河川の植生域における浮遊砂堆積現象を検証し,簡易な浮遊砂堆積速度モデルを提案した.現地実験的な観測として,中小河川に模擬植生を利用した土砂捕捉パネルを設置し出水ごとに回収することで,実際に堆積した土砂の粒度分布や堆積量を検証したほか,数値解析によって得た水理量とのこれらの関連を検討した.さらに浮遊砂フラックスの均衡状態に着目し簡易な浮遊砂堆積速度算出モデルを提案し,実測値との比較を行った.観測の結果から,草本主体の植生域堆積土砂については,掃流による河床材料の更新が起きない状況では浮遊砂の形態での輸送が基本となることが示された.また簡易な土砂堆積速度モデルの計算結果が,実測の堆積速度と同程度のオーダーとなった.

  • 岩田 敦行, 田中 規夫, 五十嵐 善哉
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1033-I_1038
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年,既往最大降水量を更新する大雨による洪水氾濫被害が頻発している.そうした豪雨の際には上流側で流失した河道内植生が下流側で捕捉されるなど,洪水中に抵抗が大きく変化する.本研究では,樹林帯に浮遊物が捕捉された状態を大きく3種類に分類し,実樹木と捕捉物をモデル化した水理実験により抵抗特性を調べた.樹林帯前面部で浮遊物を捕捉するI型は局所的な水位上昇に影響し,内部の樹木単位で捕捉するU型は樹林帯による水位上昇影響は大きかった.捕捉物の厚さを倍にした場合,抗力係数はI型の場合は1.2~2.1倍,U型の場合は1.3~1.6倍となった.これは捕捉物内を通過する際に流速が減少するため,後ろ側の抵抗が前側よりは小さくなるが,流速を捕捉物前面で評価しているためである.

  • 皆川 朋子, 上杉 幸輔, 伊東 麗子
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1039-I_1044
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では菊池川を対象に,特定外来生物ナガエツルノゲイトウの分布や生育環境特性,及び高水敷掘削後の繁茂状況を評価した.その結果,本種はセグメント2-1のほぼ全域に分布し,これまで確認されていないセグメント1においても生育していること,摩擦速度が比較的小さい,河岸勾配が緩い場所に侵入・定着しやすい傾向にあることを明らかにした.また,高水敷掘削が本種の侵入・拡大要因の一つとして挙げられ,特に水際域を緩傾斜とする掘削はナガエツルノゲイトウの侵入を助長する可能性が高いことを示した.さらに,水際域を被覆するナガエツルノゲイトウの茎の状態を定量的に評価し,これが河川のような流水域で本種が定着・拡大できる要因となっていることを示唆した.

  • 小橋 乃子, 肥後 拓馬, 井上 和久, 三浦 錠二, 安達 貴浩
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1045-I_1050
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     ボタンウキクサ(Pistia stratiotes L.)は,強い繁殖力で湖沼や河川の水面を覆い尽くす外来生物である.大量繁茂したボタンウキクサが各地で問題となっているが,我が国で得られた外来浮草群落下の観測データを提示している事例はほとんどない.本研究では,今後適切な駆除計画を策定することを念頭に入れ,鶴田ダム貯水池での事例を対象に現地調査を行い,増殖期の浮草群落が水環境に及ぼす影響を検討した.この結果,浮草群落下における,急激な光量の低下,植物プランクトンの減少,栄養塩吸収状況,表層DOの低下とその主要因等を明らかにした.更に,2020年冬季の鶴田ダム貯水池では,経年的な水温上昇の結果,ボタンウキクサが越冬できる環境が形成されていたことも明らかとなった.

  • Hao Chi LIN, Keisuke NAKAYAMA, Kazufumi TADA, Chih Yu CHIU, Jeng Wei T ...
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1051-I_1056
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
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     The influence of the storm events on carbon (C) fluxes is concerned due to climate change. Noticeably, the intense typhoon events may mix and renew the water column in subtropical lakes quickly. Thus, the vertical mixing and residence time are critical physical factors controlling the vertical distribution of C within shallow subtropical lakes. We choose a small, stratified subtropical lake (Yuan-Yang Lake, YYL) to consider thermal stratification and calculate residence time during a strong typhoon by a three-dimensions numerical model, Fantom. The results showed that the CO2 was released approximately 400-1000 mg CO2 m-2d-1 across the water surface to the atmosphere during the typhoon period due to C loading via sediment and river flows. The typhoon-induced mixing and substantial amount of river flow rapidly intrude into the thermocline, resulting in a residence time of fewer than 2.0 days during the strong typhoon. This study suggests that considering the vertical distribution of water temperature and C helps calculate the residence time and C fluxes in the lake ecosystem.

  • 鹿島 千尋, 中谷 祐介
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1057-I_1062
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     水平方向に非構造格子,鉛直方向にLSC2座標系を採用した三次元流動水質モデルを用いて,琵琶湖の全層循環と底層の溶存酸素(DO)の回復過程に関する数値シミュレーションを行った.数値モデルは北湖における水温・DOの鉛直プロファイルの季節変動を良好に再現するとともに,今津沖中央の底層における水温とDOの関係について,現地観測結果と同様の傾向を示した.2015年1月には水温が鉛直一様化する全層循環が生じた後,東岸の浅瀬で冷却された低水温・高DOの湖水が密度流として底層に潜り込み,今津沖中央の最下層に進入することで底層DOが回復した.全層循環が発生するタイミングはその年の気象条件によって異なるが,冷水の潜り込みによる底層DOの回復過程は毎年発生すると考えられた.

  • 緒方 敬亮, 中山 恵介, 尾山 洋一, 駒井 克昭, 新谷 哲也, 天野 元
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1063-I_1068
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     北海道東部に生育する「阿寒湖のマリモ」は国の特別天然記念物である.個体数が減少傾向にあるため,保全のためにはマリモモデルによる流動場でのマリモの挙動をシミュレーションによって再現することが求められている.特に,マリモの球状化においては回転が重要な要素であるため,回転も含めて再現性の高いマリモモデルを開発する必要がある.本論文では,室内実験によるマリモの回転の実験値と,マリモモデルで計算した推定値を比較することで,マリモモデルの再現性を検討した.その結果,接触時の回転に関して比較的良好な再現性を確認したが,接触していない場合は良好な再現結果が得られなかった.また,回転モーメントを考慮する必要性が示された.

  • 小柴 孝太, 遠藤 優輝, 角 哲也
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1069-I_1074
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年,洪水と流木の複合災害が増加しており,流木災害対策が求められている.ダム貯水池には,流木止め(網場)で流木を捕捉する役割があり,下流での洪水・流木被害軽減に貢献している.網場は,このような重要な役割を担うものの,経年劣化状況が不明瞭で交換時期は外観判断となっている.今後の洪水による外力,流入流木量の更なる増大可能性を鑑みると,網場の劣化メカニズムの解明および洪水時の破断を防ぐ維持管理が重要となる.本研究では,淀川水系天ヶ瀬ダムで撮影された網場のタイムラプス画像から,網場の平常時~洪水時の挙動を観測し,ダム湖の環境条件(水理・気象観測量)との関係を明らかにするため,ノイズや障害物に対して頑健な画像処理を用いた網場位置および移動量の検知手法を提案し,網場の挙動と環境条件との相関を調べた.

  • 陳 翔, 高橋 陽一, 今本 博臣
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1075-I_1080
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     ゴム堰直上流部底層に発生する貧酸素水塊とゴム堰の倒伏にともなう貧酸素水の流出は下流河川環境に与える影響が大きい.そこで本研究では,現地水質調査結果の整理・分析を行い,貧酸素水塊の発生特性を明らかするとともに,数値解析モデルにより貯水池貧酸素化の現況再現を試みた.数値解析モデルの計算結果と実測値から求めた日回転率を比較した結果,ゴム堰直上流から中間域までの水深4m付近以深の領域に分布している貧酸素水塊がゴム堰の倒伏により下流へ流出しても環境影響が許容範囲となる出水時の日回転率は,おおむね0.3~0.8以上であることが示唆された.

  • 奥田 雅貴, 入江 政安, 中谷 祐介, 宮原 裕一, 豊田 政史
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1081-I_1086
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     浅い湖沼はその水深が小さいがゆえ,気候変動や気象変化の影響を深い湖沼やダム湖より受けやすい.夏季には水温成層が生じ,容易に形成と解消を繰り返すことに加え,境界条件設定のための観測も十分でないことも多く,水温分布の再現およびモデルによる影響解析は簡単ではない.本検討では,諏訪湖を対象に湖底の土壌による冷却効果を考慮できる底面非断熱モデルを用いて水温成層の再現性向上を目指した.加えて,推定河川水温が推定精度不足である可能性を考慮して,河川水温の変化に伴う水温分布への影響を評価し,水温成層の形成要因の解析を試みた.その結果,諏訪湖では湖底の土壌が直上の水塊を冷却している可能性が示唆され,また非断熱モデルが夏季の水温成層構造の再現を容易にすることを示した.

  • 矢島 啓, 吉岡 有美, 丸谷 靖幸, 作野 裕司
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1087-I_1092
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     連結系汽水湖である宍道湖・中海では,将来の水環境の変化に関心が高まっている.そのため,現在(1996–2005年)と将来(2090–2099年)を対象に,両湖沼の水環境の評価を行った.将来気候には,3つのGCMモデルを用い,バイアス補正を行った.その上で,流出モデルHSPFを用いて,流域内の各河川の流量と水温を予測した.また,それらを境界条件とし,湖沼水質予測モデルAEM3Dモデルを用いて,両湖沼の水質予測を行った.その結果,将来は現在と比較し,流域降水量の1–2割の減少,気温(松江)の1.3–4.0ºCの上昇,両湖沼への流入量の約3割の減少が予測された.さらに,宍道湖・中海では,水温については,表層で0.7–2.5ºC,底層で0.5–2.5ºCの上昇が予測された.また,塩分については,宍道湖で約1.8倍になり,中海では底層より表層の上昇が大きいことが予測された.

  • 大中 臨, 赤松 良久, 間普 真吾, 安木 進也
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1093-I_1098
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,効率的に浅水域の底質を識別する手法の開発を目的として,島根県の宍道湖を対象に,UAV写真測量と機械学習による画像解析を組み合わせて浅水域の底質の識別を試みた.その結果,本研究で用いた機械学習は,浅水域のオルソ画像から得られた泥岩,石,砂の画像を,おおよそ0.65の識別率で識別した.また,水中画像を用いて底質の識別を行った場合とUAV写真測量によって得られたオルソ画像を用いて識別を行った場合で大きな識別率の変化はないことが示された.さらに,当該手法を用いて調査エリア全域の底質の予測を行った結果,おおよそ現地調査と同様の傾向を捉えた.これらの結果から,当該手法を用いることで,浅水域のおおよその底質分布を効率的かつ面的に把握できることが示唆された.

  • 東 博紀, 吉成 浩志, 中田 聡史, 横山 亜紀子, 越川 海
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1099-I_1104
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     播磨灘の窒素動態への気候変動影響を明らかにするため,陸域淡水・汚濁負荷流出-海域流動・水質・底質モデルを用いて,現在気候20世紀末とRCP8.5の将来気候21世紀末のそれぞれ20年間の予測計算を行うとともに,水と窒素のフロー解析を実施した.水のフローには現在気候と将来気候で顕著な違いが見られなかったが,TNとDINについては,夏~秋の高温化によって一次生産が低下し,海底への堆積が減少するため,将来気候の海域間フローが全体的に現在気候より増加し,播磨灘から流出しやすくなると予測された.冬~春では,水温上昇に伴う一次生産の活性化によって将来気候のDIN消費量は現在気候の約2倍に増え,季節変動として見られる海水中のDINの減少が気候変動によって加速すると予測された.

  • 金子 祐, Neriezza OLAP , 横山 勝英
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1105-I_1110
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     塩水遡上のある感潮域の分岐合流部では、流動と下流河道特性との相互作用については未解明な部分が多い.そのため,荒川感潮域の分岐合流部において三次元流体シミュレータを構築し,分岐合流部の流動への下流河川の影響を検討した.大潮時の水位,塩分,分岐合流部の横断流速の観測データを用いて計算結果の精度検証を行い良好な再現性があることを確認した.計算結果から荒川(本川)と隅田川(支川)の流量比は断面積比に比例しておらず,この要因として分岐合流前後の水面勾配の差が影響していることが分かった.特に下げ潮では,新河岸川からの流入による水位上昇が荒川から隅田川への分派を抑制していることが明らかになった.さらに,分岐合流部下流河川において川幅の急縮や蛇行形状が流速卓越時に水位を上昇させ,それが分岐合流部の水位差分布を発生させていることが示唆された.

  • 稲川 翔太, 新谷 哲也, 横山 勝英
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1111-I_1116
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     都市河川感潮域で発生するスカムは,塩分や溶存酸素(DO)濃度と関連していることが知られている.そこで本研究では,石神井川感潮域および東京湾・隅田川・荒川を対象にして広域三次元塩水遡上・DO流動モデルを構築し,流動・水質の変動特性を解析した.大潮時には塩水遡上は強混合型となり,隅田川中流部まで到達するものの石神井川には到達せず,小潮時には塩水くさびを形成して石神井川まで到達していた.東京湾の貧酸素水塊(2.5mg/L)は,河道底泥の酸素消費を考慮しない場合は石神井川に到達すると4mg/Lになるが,河道底泥の酸素消費を考慮すると1mg/Lになった.スカムが発生しやすい条件は,小潮で底泥中に嫌気性ガスが蓄積された後,中潮・大潮で低塩分・低水圧になる時と推測された.

  • Nguyen Trong HIEP , 田中 仁, Nguyen Xuan TINH , 須藤 誠元
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1117-I_1122
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     2011年3月に発生した東日本大震災津波は各地にきわめて大規模な人的・物的被害をもたらした.この地域の河口部においては多くの河川において河口砂州のフラッシュが生じた.宮城県名取川においては,それ以降河口地形の回復過程が見られたが,すでに安定地形になっているか否かについては評価がなされていない.そこで,これまでも使用された空中写真の解析に加えて,河口前面海浜地形の詳細な分析を行った.平衡海浜断面を想定することにより,津波後にこの断面に漸近する様子が確認された.特に,経験的固有関数展開から得られる時間関数により安定海浜断面に収束する過程を定量的に評価することが出来た.これを含めた複数の検討手法により,津波により大きな攪乱を受けた地形は2014年から2015年に安定地形に収束したとの結論を得た.

  • 瀬戸 心太
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1123-I_1128
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     TRMM衛星搭載の降雨レーダ(PR)は,約17年間運用され,降水強度などを推定する標準アルゴリズムがVersion7(V7)まで開発された.その後,PRの後継であるGPM主衛星搭載のKu帯レーダ(KuPR)用の標準アルゴリズムVersion06を,PRの観測に適用するように移植したものが,PRアルゴリズムVersion8(V8)として利用されている.本研究では,V7とV8の降水強度推定値を比較し,その違いの要因を,(1)観測レーダ反射因子Zmの算出,(2)減衰補正,(3)減衰補正済レーダ反射因子Zeから降水強度Rへの変換,の3つの過程に分けて分析した.(1)V8ではPRの較正係数を修正したため,V7よりZmが高く,Rに直すと17%程度の増加になる.(2)減衰補正がRの平均値に与える影響は(1), (3)に比べると大きくない.(3)V8では,減衰補正の際に求めるパラメータεがV7より小さい傾向にあるため,ZeRに変換する過程で,Rが小さく評価される.また,V8では,εに上限を設けないため,数十mm/h以上のRの頻度が高い.

  • 大野 哲之, 山口 弘誠, 中北 英一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1129-I_1134
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     力学的・熱力学的な効果が複雑に絡む積乱雲の自己組織化メカニズムを解明することは集中豪雨災害に対する防災上重要な課題である.本研究では第一段階として,発達期の積乱雲の対流コア断面を対象とした熱力学的な効果を考慮した渦度(温位渦度)の時間変化,ならびに降水粒子の生成との関連性を解析した.対流コア断面の渦度分布に対する渦スケール解析より,時間の経過とともに回転強度が増加傾向を示し,かつその変化は一般的に用いられる渦度と異なることが示された.さらに降水粒子分布の時間変化との比較から,雨水・霰等の生成に伴う潜熱の効果と渦度場の変化の関連性が示唆された.豪雨事例の再現実験における発達中の積乱雲にも類似した分布がみられ,雨雲の発達の探知手法として温位渦度が応用可能であることが示唆された.

  • 西山 浩司, 白水 元, 朝位 孝二
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1135-I_1140
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,東シナ海領域を対象に,自己組織化マップを用いて暖候期の気象場を分類し,豪雨の発生時間帯の傾向を分析した.その結果,暖湿気流と前線を反映した気象場で,早朝を中心とした午前に豪雨発生確率と豪雨発生頻度が高くなる傾向が認められた.次に,その気象場に着目して,災害発生に繋がる最大級の豪雨域の規模と時間雨量に対する時間帯依存性を調べた.その結果,最大級の豪雨域の規模は,午前と午後後半(18~23時台)に広く,午後前半(12~17時台)に狭くなる傾向を示した.一方,最大級の時間雨量で見ると,その時間帯依存性は弱くなるが,約8割の豪雨イベントで,時間帯に関係なく,防災上警戒を要する80mm/h以上の猛烈な雨量を示した.さらに,最大級の豪雨域の規模と時間雨量は豪雨災害事例と密接に関連することがわかった.

  • 山口 弘誠, 村瀬 公崇, 中北 英一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1141-I_1146
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     豪雨形成における対流圏中層の水蒸気の重要性が指摘されている.そこで,本研究では積乱雲群事例を対象として,数値気象モデルの再現結果を通じて積乱雲周辺の水蒸気構造を解析し,対流圏中層の水蒸気を指標化することを目的とした.まず,発達した積乱雲周辺の水蒸気構造を調べ,高度2kmの水蒸気量が周辺よりも顕著に大きいことを示した.その由来として,先行して発生した他の積乱雲により下層大気が持ち上げられ,比較的多量の水蒸気量が高度2km付近に(積乱雲の衰退後40分以上の間)維持されるという過程が示唆された.さらに,統計的解析から高度2kmの水蒸気量が降雨の発生ではなく強化に大きく影響するという解釈をもたらした.最後に,数年先における水蒸気観測技術の運用状況を見据えて,高度2kmの水蒸気を表現可能な新たな指標AWV1+を提案した.可降水量と比べてAWV1+の方が降雨強度の強化を有意に判別可能であることを示した.

  • 新井 章珣, 望月 貴文, 中村 要介, 阿部 紫織, 沼田 慎吾, 柿沼 太貴, 黒澤 祥一, 大沼 克弘, 池内 幸司
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1147-I_1152
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     気象庁は2006年3月以来,防災気象情報の基盤となる降水量として30分毎更新の正規版解析雨量を運用してきた.2017年7月以降,10分毎更新の速報版解析雨量の運用を開始したが,これまでに速報版で流出解析を行った研究はない.そこで本研究では,全国のAMeDASを用いた速報版の定量的な精度検証と同時に,両プロダクトが流出解析の流出波形に及ぼす影響を明らかにすることで洪水予測における利用可能性を評価した.その結果,AMeDASとの比較では全国的に雨量の誤差が見られた.また,流出計算に速報版を用いた場合,流域面積が小さい河川では正規版よりも流出応答が敏感だったが,大きい河川では正規版と速報版の違いは小さかった.以上より,洪水予測に用いる降雨プロダクトとして,速報版は全国的に定量性に課題が残ったが,高頻度配信の観点から有効なことが確認された.

  • 北野 利一, 渡部 哲史, 小林 健一郎
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1153-I_1158
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     年最大日降水量などの極値の統計的振る舞いに,我々は悩まされてきた.記録が更新される豪雨の再現期間が,異常なまでに大きな値を示したり,上位の幾つかの極値がそろって,残りの下位の極値の整列から外れることもよく見られる.これらが正当な極値解析の結果だとしても,納得できるものではないのが実情である.本研究では,2つの相互に関連する概念である単純極値変数と超過数(固定した閾値のみならず,変動する閾値に対する超過も扱う)を用いて,上述の極値の奇妙な振る舞いについて明らかにする.これら2つの概念の数学的背景は,水文統計におけるデータ解析における解釈を強化するものになるだろう.

  • 井上 亮, 石川 翼
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1159-I_1164
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     領域降水量の極値の分析方法として,Areal reduction factors (ARFs)や空間極値モデルが検討されている.ARFsは,領域平均降水量の極値を中心点の極値降水量に対する比で表すのに対し,空間極値モデルは,地点単位の極値降水量の空間的自己相関を構造化する.空間極値現象への両者のアプローチは異なるが,空間的に疎な気象観測点の雨量データに基づく分析から既往研究は両者の関連性を指摘している.本研究はより高い空間解像度を有するレーダ雨量データを用いて,両者の関連性を再確認することを目的とする.秋田県米代川流域を対象に実証的に検証した結果,両者には明確な関連性がないことが示された.その主因は,中心点の極値降水量が局所的に異なることで,空間的自己相関構造が類似する状況下でもARFsの推計結果が大きく異なる場合があることが確認された.

  • 田中 茂信, 北野 利一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1165-I_1170
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     災害を引き起こす大雨は,全国で見ると近年激化しているようである.災害対策の計画を検討する際,地点または流域平均の降水量の極値頻度解析には,取り扱いが簡単である年最大値資料が実務では主に用いられてきたが,同じ時系列資料から抽出する閾値超過資料を用いる方法もある.閾値超過資料は,閾値の選定を避けては通れないことや手続きが複雑であることなどからこれまで多くは用いられてこなかった.閾値超過資料に用いる確率分布のL-moment統計量に着目して閾値を選定する手法を提案するとともにその実用にあたっての問題と解決方法を提案する.

  • 田中 宏明, 押川 英夫, 田井 明, 速水 祐一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1177-I_1182
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     内湾のような波と流れの共存場におけるレイノルズ応力などの高次の乱流特性量の適切な評価のためには,水平方向の座標軸の取り方が重要と考えられる.そこで,瞬時流速の座標変換と波浪成分の除去を行うことで,波浪と平均流の方向に応じた適切な座標軸の取り方に関する検討を行った.その結果,波浪が卓越している場合は波向きの方向,波浪が卓越していない場合と波浪成分の除去を行った場合には水平面内の平均流速もしくは潮流の方向に座標変換を行うことで,レイノルズ応力の絶対値が小さくなることが分かった.また,波浪成分の除去の必要性を評価するための無次元パラメータの概略値が得られた.従って,波浪と平均流,そして潮流の卓越方向を考慮した座標軸を用いることで,より詳細な流況の把握・評価が可能になると考えられる.

  • 小林 大祐, 内田 龍彦, 太田 一行
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1183-I_1188
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     河川遡上する津波における波状段波に着目し,ソリトン分裂波の蛇行河川における増幅特性について,異なる2つの蛇行水路における基礎実験と平面2次元・3次元計算より検討した.ソリトン分裂波は,蛇行水路形状によって外岸沿いにおける増幅特性が異なることを実験的に明らかにした.平面2次元計算では,外岸における波高の増大を表現でき,3次元計算はソリトン分裂第1波の波高を良好に再現可能であった.実験と計算結果から,蛇行度の小さい水路の方が波高の増幅率が大きく,さらに外岸における波高が縦断的に増加することを確認した.これは波先端線から,増幅する水路では段波が側壁に衝突するように入射したことが原因と考えられる.さらに,外岸沿いの増幅特性は,無次元幅が大きくなると現れ,蛇行度が大きくなるほど大きくなることを示した.

  • 松冨 英夫
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1189-I_1194
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     津波によって形成されるエッジ・ボアの挙動特性の把握を目指し,「段波における波向線法」用として導出された基礎式の考察・理論解析を通して,一様勾配斜面上に平面二次元性を持って斜め入射する強い段波の伝播と増幅・減衰が検討されている.その結果,1) 段波伝播速度ξは段波前面静水深h0fc,全段波水深hfch0fcの比hfc/h0fc,段波伝播直角方向の斜面勾配tanβと段波高Δ(y)の分布勾配dΔ(y)/dyに依存する,2) 強い段波の伝播は水波の伝播に比べて一部の条件を除いて直進性が強い,3) hfcの増幅・減衰率dhfc/dth0fc,hfc/h0fc, tanβ,段波伝播方向の斜面勾配tanγと水面勾配tanδ, dΔ(y)/dyに依存する, 4) dΔ/dy=0かつ強い段波の場合についてはhfcの解を導出し, tanγやtanδが大きくなれば, hfcの増幅高が高くなること等が示されている.

  • 田中 仁, Nguyen Xuan TINH , 余 錫平, 劉 光威, 中村 優一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1195-I_1200
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     2011年東日本大震災津波の際に東北地方沿岸のGPS波浪計により得られた津波波形をもとに,津波の下での底面境界層に関する検討を行った.数値解析には,これまで様々な流体解析に適用された実績のあるk-ωモデルを使用した.水深に比べて境界層厚さはきわめて薄く,風波の下での底面境界層と同様な速度分布であった.また,flow regimeは滑面乱流から粗面乱流への遷移域に位置する.このため,これまで多用されているマニング式などの定常流摩擦係数では底面摩擦を過小評価していることが明らかになった.そこで,前報において提案した正弦波動摩擦係数を用いて,不規則な津波による底面剪断力を算定するための手法を適用し,その精度の総合的検討を行った.

  • 内海 信幸, 金 炯俊, 瀬戸 心太
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1201-I_1206
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     衛星搭載の降水レーダによる降雪観測は高緯度水循環の把握に重要なだけでなく,他の衛星センサによる降水推定の基準値・教師データとしての役割を果たす.本研究では衛星搭載降水レーダが検出できる降雪の強度を定量的に評価するため,フィンランドの降雪事例(10ケース)の地上レーダ観測を用いて,GPM主衛星搭載レーダによる降水推定プロダクト3種類(DPR,KuPR,Combined Radar-Radiometer(CMB))の降雪検出能を検証した.すべてのプロダクトにおいて,0.7~0.8mm/h以下の降雪の検出率は50%未満であり,検出率が80%を超えるのはCMBで0.9~1.0mm/h,DPRおよびKuPRでは1.0~2.0mm/h以上の強い降雪であった.すべての強度の降雪についてみると,衛星レーダプロダクトによる降雪検出率は14~17%程度であり,対象としたフィンランドの降雪事例の大部分のピクセルで降雪を見逃していることがわかった.

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