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長谷川 青春, 鼎 信次郎
2021 年77 巻2 号 p.
I_1207-I_1212
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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2週間以上の降雨予測は気候モデルの精度が急激に低くなることが知られており,深層学習モデルの適用が期待されている.本研究はタイ,チャオプラヤー川流域を対象に5~10月までの雨季にかけて深層学習による1~3か月降雨予測を行った.その際深刻な観測データ不足を,非観測データであるCMIP5データセットを用いることで解決可能であるか検証した.結果,CMIP5の訓練データへの適応可能性を示した.長い予測リードタイムであっても深層学習は気候モデルに比べ,不確実性が増大しない特徴が明らかとなった.雨季の終始においては気候モデルを上回る予測精度を示し,S2S予測手の適用可能性を示唆した.
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井戸 滉昇, 金子 凌, 小野村 史穂, 仲吉 信人
2021 年77 巻2 号 p.
I_1213-I_1218
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
フリー
豪雨の発生回数は増加しており,降水予測の精度向上は不可欠である.降水予測手法の一つとして深層学習を用いた手法が存在する.既往研究においてAMeDASデータのうち降水量,気温,水平風速,気圧,比湿を用いた降水予測を行った結果,深層学習の有効性が示された.一方で,予測に寄与したのは降水のみであった.そこで本研究では気象庁のMeso-Scale Modelを用いてAMeDASよりも空間解像度の高い5kmと10kmの仮想的な地点観測データを構築し,空間解像度を上げることで降水以外の気象要素は予測に寄与するのかの検討を行った.その結果,弱い降水に関しては降水以外の気象要素はノイズになった一方で強い降水に対しては,空間解像度を上げるほど,降水以外の気象要素が予測に寄与していることが示唆された.これは水平風速や気圧などから潜在的に上昇気流を学習したことによると考えられる.
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原口 菜奈子, Lin HAO , 丸谷 靖幸, 渡部 哲史, 矢野 真一郎
2021 年77 巻2 号 p.
I_1219-I_1224
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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沿岸域における気候変動影響評価において,流入河川の流量・水温・水質などの将来予測が必要である.本論文では,河川水温の評価モデルの構築をAI技術であるニューラルネットワークを用いて試みた.河川水温は時系列データであり,一般的な階層型ニューラルネットワークでは再現性が悪いため,Long Short-Term Memory(LSTM)を用いたリカレントニューラルネットワーク(RNN)の適用を試みた.その結果,1年程度の学習データを用いることで精度の良い再現が得られた.また,d4PDFと流出モデルを開発したモデルと併用することで,矢部川において現在気候と気候変動の影響を受けた将来気候の条件下での河川水温の予測を行い,モデルの実行性が確認された.
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込山 晃市, 山本 隆広, 武樋 力
2021 年77 巻2 号 p.
I_1225-I_1230
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
フリー
春先の融雪流出量を正確に把握することは水利用・防災の観点から非常に重要である.一般に融雪流出計算には物理的な計算過程をもつ流出モデルが用いられるが,計算に使用するパラメータ設定は試行錯誤的に行われている.そこで本研究では,日本有数の豪雪地帯である新潟県の三国川ダム,大石ダムを対象に,深層学習による融雪期のダム流入量の推定を行い,データセットの構成と学習モデルを変えることで,入力項目による影響と学習モデルに関する基礎的な検討を行った.平年時及び大雪年で深層学習によりダム流入量を精度よく推定することができたが,小雪年では精度が低下した.またデータ入力期間を10日としたRecurrent Neural Network系の学習モデルでの精度が高い傾向であり,気温が最も精度に影響することが示唆された.
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福丸 大智, 赤松 良久, 新谷 哲也, 藤井 晴香
2021 年77 巻2 号 p.
I_1231-I_1236
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
フリー
近年多発している洪水氾濫により,我が国では逃げ遅れによる人的被害が増大しており,流域内多地点における水位・流量を即時的かつ高精度に予測するモデルが必要不可欠である.本研究では,山口県の佐波川を対象に,3時間先の水位・流量予測を流域内多地点で高精度に予測することを目的とし,深層学習の中でも時系列の処理能力が高いLSTMを用いてモデルを構築した.解析結果から,水位予測は流域内多地点における3時間先の水位を高精度に予測可能であることが示された.一方,値の変動範囲が大きい流量予測には入出力層に用いる流量値を常用対数変換する前処理を採用した.その結果,常用対数変換しない場合に比べてピーク流量の誤差率および生起の遅れ時間は大幅に軽減され,流域内多地点における3時間先の流量を十分に予測可能であることが示された.
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榑林 利晃, 萱場 祐一
2021 年77 巻2 号 p.
I_1237-I_1242
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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近年,機械学習モデルを洪水時の河川水位予測に適用した事例が報告されている.本研究では,平成31年10月の台風19号によって甚大な被害を受けた,長野県千曲川を対象に過去の特徴的な洪水イベントに対して,複数の機械学習モデルを用いて水位予測を行った.その結果,深層学習モデル及び線形回帰モデルは,降雨規模によらず,氾濫注意水位程度を上限とする学習データでも大規模な洪水を高い精度で予測することを示した.また,線形回帰モデルの標準偏回帰係数を用いた検討から,AIは水位観測所データをもとに水位上昇量(水位波形)を予測し,ピーク水位及び水位上昇開始時刻を雨量データから補完することで,高い予測精度を確保することが示唆された.
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永里 赳義, 石田 桂, 横尾 和樹, 坂口 大珠, 木山 真人, 尼崎 太樹
2021 年77 巻2 号 p.
I_1243-I_1248
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
フリー
本研究では深層学習手法を用いた河川流量データの補完手法を提案した.深層学習手法は一次元畳み込みニューラルネットワーク(1D CNN),多層パーセプトロン(MLP)を用いた.対象データは欠測時の流量とし,入力データは毎正時の流量,及び1時間毎の降水量を用いた.また,入力データの組み合わせ,及び入力データ内の欠測時間に関して複数の条件を設定し,詳細な検討を行った.結果より,MLP,1D CNNのどちらも高精度に流量を補完できることが示された.特に,1D CNNを用いた提案手法は高い推定精度(NSE = 0.965,RMSE = 24.0 m3・s−1)で流量を補完できることが示された.また,入力データに関して流量だけでなく降水量も用いることの重要性が示された.
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吉野 純, 栗野 優真, 豊田 将也, 小林 智尚
2021 年77 巻2 号 p.
I_1249-I_1254
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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2019年台風19号により関東地方を中心として大雨による被害が発生したが,直撃を免れた近畿・中部地方に対しても台風19号の最悪進路と温暖化の影響を考慮に入れて可能最大降水量を評価する必要がある.本研究では,高解像度台風モデルにより台風19号に対する擬似温暖化進路アンサンブル実験を行い,台風19号が近畿・中部地方に最悪進路で上陸した場合の可能最大降水量とその将来変化を評価した.将来気候下(RCP8.5の2080~2099年)の可能最大降水量の将来変化は,紀伊半島では+200mm,木曽三川の上流域では+50~150mmとなった.温暖化による可能最大降水量の将来変化は,最悪進路から東西におよそ±0.5°の進路のずれがもたらす降水量差に匹敵することが明らかとなった.
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小坂田 ゆかり, 中北 英一
2021 年77 巻2 号 p.
I_1255-I_1260
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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フリー
バックビルディング型の線状対流系である2012年亀岡豪雨と2014年広島豪雨に対して,全球平均気温約4℃上昇のRCP8.5,及び2℃未満に抑えるRCP2.6シナリオに基づき擬似温暖化実験を行った.その結果,温暖化シナリオが高位になるにつれて線状対流系が強化された亀岡豪雨とは対照的に,広島豪雨では徐々に線状対流系が発生しなくなった.その要因として,広島豪雨実験では水蒸気流れの上流に存在した弱雨域が温暖化効果によって先に強化され,対流有効位置エネルギー(CAPE)やバルクリチャードソン数(BRN)で表される,線状対流系が発生するための環境場を崩していたことを示した.熱力学及び力学的な要素が上手くバランスした時に発生するバックビルディング型線状対流系という現象に擬似温暖化実験を適用する際は,周囲の擾乱が与える影響も十分考慮する必要がある.
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丸谷 靖幸, 小林 知朋, 永井 信, 宮本 昇平, 矢野 真一郎
2021 年77 巻2 号 p.
I_1261-I_1266
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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平成30年7月豪雨災害で初めて地球温暖化に伴う影響が含まれていたことが報告されるなど,気候変動の影響が顕在化してきている.そのため,今後の治水計画では気候変動の影響を踏まえた検討が重要となるものの,その検討の基と利用する気象観測データにおいて,どの時期を境に気候変動の影響が生じていたか,既往の研究では明らかにされていない.そこで本研究では,全国の気象官署の降水量を利用し,降水量に関するClimate Change Indicesにより,国内で気候変動が生じ始めた時期を解明することを目的とする.その結果,国内を統一的に評価した場合,気候変動の影響の顕在化は,2014年頃を境に生じている可能性が示唆された.さらに,気候変動の顕在化は地域によって大きく異なることも確認された.
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星野 剛, 山田 朋人
2021 年77 巻2 号 p.
I_1267-I_1272
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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本研究はアンサンブル気候データを用いて降雨強度と地上気温との関係性を気温1℃あたりの降雨強度の増加率(Scaling Factor,以下,SF)に基づいて調べた.観測値の極端降雨のSFはClausius-Clapeyronの関係(7%/℃)に概ね従うものの,地点の違いにより5から10%/℃程度の振れ幅を有することがわかった.この要因をアンサンブル気候データを用いて調べ,観測値のSFのばらつきはサンプル数の不足に起因することを示した.また,地域気候モデルの解像度や気候変動が両者の関係性に与える影響をアンサンブル気候データから調べた.これらの結果より,極端降雨のSFを議論する際には高解像度かつ十分なサンプル数が必要となることが示された.また,温暖化進行後にはSFは増大することから,これまでの気候よりも高い気温における大雨に警戒すべきであることが示唆された.
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中北 英一, 原田 茉知, 小坂田 ゆかり
2021 年77 巻2 号 p.
I_1273-I_1278
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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気候変動に段階的な適応策を講じる重要性が高まっている中で,150年連続ランというタイムシームレスな気候予測データを用いた梅雨期降雨に関する将来変化予測を行った.解析の視点として,7月平均日雨量を用いた梅雨前線帯の定性的な将来変化と時間雨量を用いた極端降雨の定量的な将来変化の二面から解析した.結果として梅雨前線帯と極端降雨の発生場所の両方で徐々に北方へ浸潤することが明らかとなった.また,地方別の平均日雨量の解析で2060年代以降全国的な雨量増加がみられた一方で,むしろ過去平均よりも雨量が減少する年代を含む地域があり,その要因を海面水温や台風の影響から考察した.また,極端降雨の継続時間と積算雨量について,いずれも将来に向かって徐々に増加していくことを示した.
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渡部 哲史, 内海 信幸, 北野 利一, 中北 英一
2021 年77 巻2 号 p.
I_1279-I_1284
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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本研究では大規模アンサンブルデータによる将来予測実験結果において,2℃上昇実験結果における年最大日降水量の極値が,4℃上昇実験におけるそれを逆転する場合について考察を行った.分析の結果からこのような逆転は一部の海面水温パターンの実験では日本域の2割から3割程度で生じることが明らかとなった.この原因の一つとして,逆転が多数生じる海面水温パターンでは2つの昇温実験における降水量の差が他の海面水温パターンの実験よりも小さいことを示した.さらに,治水計画の検討などこのような逆転が問題となる場合への対応としてtwo-passバイアス補正手法により逆転を防ぐ方法を示すと共に,そのような補正ではモデル出力値の50%近い値が加減される場合があり,注意が必要であることを示した.
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米田 駿星, 川村 育男, 大川 重雄, 佐藤 誠, 山田 朋人
2021 年77 巻2 号 p.
I_1285-I_1290
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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本研究は,降雨継続時間内雨量と洪水到達時間内雨量の生起確率を掛け合わせた複合確率を算出し、72時間総雨量,短時間総雨量(8時間)の両面から降雨の生起確率を評価する手法を提案した.降雨の確率評価は大量アンサンブル気候データの過去実験結果の年最大降雨量で行い,洪水到達時間は同データを用いた流出解析によるピーク流量と各降雨継続時間内の累積降雨量の相関関係等から設定した.大量アンサンブルデータを用いた複合確率により降雨波形を評価することで,実績の総雨量のみによる確率評価では把握することができなかった高頻度・高浸水リスクが想定される降雨の存在を示した.
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小島 彩織, 干場 希乃, 清水 啓太, 小山 直紀, 寺井 しおり, 山田 正
2021 年77 巻2 号 p.
I_1291-I_1296
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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近年開発された二重偏波フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR)は,現行の気象レーダと比較して,時空間的に高密度な三次元観測,局地的豪雨の早期探知を可能とする.本研究は,MP-PAWRの高精度な観測情報を用い,局地的豪雨時の避難やリードタイムの確保に資する洪水予測手法の構築を目的としたものである.その実現に向けて,鉛直積算した雨水量の時間変化を基に予測雨量を算出し,その予測雨量を降雨流出モデルで河川水位に変換させることで,降雨予測から河川水位の予測までを一体として行い,実河川流域への適用を行った.その結果,当該の予測モデルを適用することで,対象降雨イベントにおいて,実際のピーク水位の発生時刻の30分前には,水位の立ち上がり時刻およびピーク時刻,ピーク時の水位を推定できることが示された.
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桐谷 蒼介, 稲垣 厚至, 神田 学
2021 年77 巻2 号 p.
I_1297-I_1302
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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地表面近傍の2次元的な風速場を推定する手法として熱画像風速測定法(Thermal Image Velocimetry, TIV)が存在する.本手法はサーモカメラを用いて地表面温度を観測し,乱流熱交換に起因する温度変動を抽出,その空間パターンの移流速度ベクトルから地表面近傍の風速を推定するものである.本研究では熱容量が大きく,乱流熱交換に起因する温度変動が小さいためTIVの適用が難しいと考えられていた都市街区のアスファルト道路に対してTIVを適用した.結果として都市街区にもTIVを適用し,交差点で生じるような複雑な風の流れを観測できることを示した.熱容量が大きい表面に対しても,表面温度スペクトル解析からノイズレンジと思われる周期帯より大きな時間フィルターをかけることで,精度よく風速測定できることが分かった.感度が低いサーモカメラでも,ノイズレンジより十分大きなフィルターをかけることで移流速度ベクトルを推定することができた.また,フィルターサイズによってTIVが追跡する乱流構造の大きさが変化する可能性も示した.
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Ginaldi Ari NUGROHO, Kosei YAMAGUCHI, Hironori IWAI, Tadayasu OHIGASHI ...
2021 年77 巻2 号 p.
I_1303-I_1308
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
フリー
The objective of this study is to observe and analyze the Doppler lidar signature before and during the first echo from Ka-band radar. In addition, two time-lapse cameras are also utilized to capture the visual evolution of the cloud. Radiosonde from the nearest launch site is also used in this study for meteorological data. The observation data used in this study is a case study of an isolated convective cumulus cloud on August 18, 2019. Ka-band radar captures the first echo at 14:34 JST during this period, confirmed by the cloud image from a two time-lapse camera. Updraft exists at the bottom of the first echo. This presence is strengthened by convergence value, doppler velocity variance during the first echo and quantitative result between this divergence-convergence and variance in 30 minutes before the first echo. The Doppler lidar also detects pairs of vorticity before and during the first echo. This pair of vorticity is lifted vertically, known as the vortex tube, and is moved towards the northwest due to the environment wind in the lower levels. A potential reason why vortex tubes exist is the condition of vertical shear added with the updraft presence. This small vortex tube is located at the bottom of the baby-rain cell cumulus cloud and could only be detected using the sensitive Doppler lidar.
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I Dewa G. A. JUNNAEDHI, Atsushi INAGAKI, Alvin C. G. VARQUEZ, Manabu ...
2021 年77 巻2 号 p.
I_1309-I_1314
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
フリー
Simulation of seven sea-breeze days (SBD) during dry season in tropical megacity of Jakarta was carried out using WRF with detailed urban representation. Model simulations were evaluated using satellite derived cloud line and high-temporal-resolution meteorological data obtained from observation campaign in 2017 and 2018. Results shows that WRF with detailed urban representation was able to simulate sea-breeze features and the associative boundary layer development. In the early stage of sea-breeze, model convergence line associated with sea-breeze front were matched against cloud line derived from satellite imagery. WRF tend to produce earlier sea-breeze occurrence due to overestimation of shortwave radiation and underestimation of latent heat flux. In general, simulated wind speed, temperature and relative humidity shows good agreement with observed values. Model also able to well simulate sea-breeze features, including lower boundary layer over Jakarta associated with thermal induced boundary layer (TIBL). Sea-breeze TIBL is influenced by coastal form of Jakarta and might plays important factor in air quality over the city.
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北野 慈和, 服部 康男, 山田 朋人
2021 年77 巻2 号 p.
I_1315-I_1320
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
フリー
本検討では,風速シア無し・安定度一定の条件下におけるおろし風の発生機構を解析解により説明する方法を検証する.山の風上の冷気層と,山頂前後における常流から射流への遷移過程を説明した既往の理論解(Winters and Armi, 2012)をベースとし,山岳風下に形成される内部段波を新たに定式化する.さらに,山の風上の停滞域が形成されない場合を対象に理論を拡張する.数値解に基づき作成された既往のレジーム図(Lin and Wang, 1995)との比較から,本理論の適用範囲について考察する.
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Hwayeon KIM, Eiichi NAKAKITA
2021 年77 巻2 号 p.
I_1321-I_1326
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
フリー
Japan has suffered from devastating flood disasters caused by localized heavy rainfall known as Guerrilla heavy rainfall (GHR) recently. For reducing the vital damage to human life and property, it is necessary to predict the risk of heavy rainfall precisely. To better alert the risk triggered by GHR, we aim to propose an advanced quantitative risk prediction method in this research. One of the improvements was that the relationship between the predicted risk level and the variables (i.e. the reflectivity and vorticity) was considered depending on each rain stage because the variables showed different characteristics according to the development of the convective cloud. The other one was that the variables (i.e. the vorticity, divergence, and updraft) were estimated with real wind field data by multiple Doppler radar analysis. Then, the multilinear regression was used for finding the correlation between the predicted risk level and the variables with accuracy. The accuracy of multilinear regression was estimated by a Receiver Operating Characteristic analysis. As the result, the most appropriate regression among the relevant variables was composed of reflectivity, vorticity, divergence, and updraft by multiple Doppler radar analysis. It is possible to predict the risk quantitatively with high accuracy of 90% at the early rain stage.
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Youngkyu KIM, Sunmin KIM, Yasuto TACHIKAWA
2021 年77 巻2 号 p.
I_1327-I_1332
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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This study aims to evaluate the reasonability of future probable maximum precipitation (PMP) values estimated by the moisture-maximization method. This study utilized the d4PDF database, which is a large ensemble climate simulation output, to evaluate the estimated PMPs with sufficient extreme precipitation cases. Using the d4PDF, PMPs were estimated under historical and future climatic conditions in four target areas of Japan. The estimated PMPs in each climate condition were evaluated for their reliability with reference precipitation estimated from the annual maximum daily rainfall of d4PDF. The rate of change of PMPs between the two climate conditions was lower than that of precipitation in all areas. Compared to the reference values, historical PMPs were reasonably estimated while the future PMPs were underestimated. The future moisturemaximizing ratio (MMR) was estimated to be lower than the historical MMR as the event precipitable water (PW) had a higher change rate than the maximum PW in future climatic conditions. The lower future MMR led to a low change rate and underestimation of PMP in future climatic conditions compared to the historical ones. Consequently, the moisture-maximization method may have an uncertainty in underestimating the PMP under future climatic conditions. Therefore, it may be necessary to modify the moisture-maximization method for suitable PMP estimation under future climate conditions.
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小野村 史穂, 高橋 淳也, 仲吉 信人
2021 年77 巻2 号 p.
I_1333-I_1338
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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埼玉県消防局及び消防本部によって16年間に渡り記録された熱中症搬送者データに基づき,発症時に暴露されていた気象条件と生理応答を客観解析データ,都市キャノピーモデル,人体の熱収支モデルを用いて再現計算を行った.生理応答の計算には,個人の特徴や活動量を細かく反映し,算出された搬送者の4つの生理量(深部体温,皮膚温度,血流量,発汗量)と搬送者数の傾向から新たな熱中症リスク指標の構築を行った.構築した手法を用いて,実際の搬送者を例に熱中症リスクを推定したところ,比較的熱中症が軽視されやすい夏季夜間の室内においても,高い熱中症リスクを示せることが確かめられた.昨今様々な手法でバイタルデータの取得が容易になってきており,それらの生理量から個人に特化した熱中症リスクの評価に繋がっていくことが期待される.
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大山 純佳, 仲吉 信人, 小野村 史穂, 金子 凌, 井戸 滉昇, 髙根 雄也, 中野 満寿男
2021 年77 巻2 号 p.
I_1339-I_1344
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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クールルーフ導入による現実的な気温低減効果を検証するため,実都市の都市幾何パラメータを反映させたWRFモデルを使用して,反射率や普及率を段階的に変化させることで,従来よりも現実的な気象シミュレーションを行った.東京23区のみにクールルーフを導入した場合,反射率や導入率が高いほど夏季の気温低下量は増加し,その効果は導入範囲外にも及ぶことが確認できた.全屋根面を反射率85%とした場合,日平均気温は約0.32℃,日最高気温は約0.38℃低下した.また,クールルーフの導入面積と気温低減量との相関が確認できたことから,詳細な都市幾何パラメータを設定する重要性を示す結果となった.
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瀬戸 里枝
2021 年77 巻2 号 p.
I_1345-I_1350
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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衛星マイクロ波観測が含む雲降水情報の気象予測への活用の試みが世界的に盛んであるが,地表面放射の強い陸域を対象とした有効な手法は未だ確立していない.本研究では,地域スケールの陸域降水予測精度向上のための一手法として,Kaバンドマイクロ波(KaMW)の弱い雲降水シグナルを,陸域で最大限活用できる大気陸面結合同化手法を開発し,平成30年7月豪雨に適用した.その結果,従来の固相雲降水粒子からの強いシグナルを含む高周波マイクロ波(HiMW)の同化手法と比べ,より適切な降水量が予測されたが,降水域の予測にはHiMWの効果の方が高かった.本手法はKaMWの陸域降水予測精度向上への大きな効果を示すとともに,将来的にはHiMWの含む固相粒子の情報を,より高精度な雲降水の推定/予測に利用可能とする成果である.
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野村 周平, 澤田 洋平
2021 年77 巻2 号 p.
I_1351-I_1356
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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陸域モデルは洪水・旱魃予測などにおいて重要な役割を果たす.モデルの精度向上のためには未知パラメータの調整を行い,水・生態系・熱の互いに影響し合う複数の変数を同時に観測値に近づける必要がある.しかし,多変数観測に対する陸域モデルのパラメータ最適化と不確実性推定の手法は未確立である.そこで,本研究では複数衛星による多変数観測を用いることにより,不確実性推定を伴う,多変数観測に対するパラメータ最適化手法を開発した.土壌水分,葉面積指標(LAI: Leaf Area Index),地表面温度の3つに関し,観測-モデル変数間の誤差が3種とも同時に校正されるように最適化を行った.結果として,2地点における観測-モデル変数間での𝑅𝑀𝑆𝐸の総合的な減少に成功した.また,生態系に関する観測がモデル精度向上に最も強く影響することが明らかになった.
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高野 保英, 麓 隆行, 河井 克之
2021 年77 巻2 号 p.
I_1357-I_1362
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
ジャーナル
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土壌凍結の際に土壌内の水分の体積変化により凍上が生じ,地表や土中の構造物の劣化や破壊の原因となる.この過程を非破壊かつ三次元的に捉えるために,X線コンピュータートモグラフィー(X線CT)による画像計測の適用を試みた.X線CTで得られた三次元画像に三次元画像相関法(DVC)を適用して,凍結・融解前後における飽和珪砂の体積ひずみの鉛直および水平面分布を求めた.併せて,土壌カラム内の温度の経時変化の計測を行った.その結果,X線CTとDVCより得られた凍結・融解で生じた体積ひずみの空間分布の変化は,温度計測から推定された凍結とそれに伴う間隙水の移動過程により合理的に説明できることがわかった.これらより,X線CT装置とDVCを用いた凍結・融解に伴う土壌内部の変形計測の有効性が示された.
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横山 洋, 吉川 泰弘, 伊波 友生, 大串 弘哉
2021 年77 巻2 号 p.
I_1363-I_1368
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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結氷河川の解氷期に発生するアイスジャムは,水位の急上昇や流下河氷への巻き込まれ事故などを引き起こすこともあり,結氷河川の維持管理上の課題の1つとなっている.アイスジャムによる被害軽減策として,アイスジャムの発生場所・時期の予測技術の開発を進めているが,実務利用の観点から,これら個別の予測手法の特徴を踏まえ,どの時期・手順・条件により各手法での検討を行うのがふさわしいか検討が必要である.発生までの河氷の解氷開始から流下・破壊・堆積までの一連過程を考慮した検討手順を整理し,その適用性を検討した.特に①各河道におけるアイスジャム発生可能性の高い箇所の適切な事前抽出,②解氷の開始時期の適切な事前予測,③アイスジャム発生危険度が高まる時期の適切な事前予測の観点から,適切な予測が可能かどうかを検討した.
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山田 嵩, 西原 照雅, 村上 泰啓
2021 年77 巻2 号 p.
I_1369-I_1374
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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融雪期における高精度なダム流入量予測は重要である.また,山地斜面における降雪は,風や重力,地形の影響を受けて再分配される.しかし,この影響は一般的な融雪流出解析では考慮されていない.本研究では既往研究での成果に基づき,忠別ダム流域を対象に流出解析モデルを構築し,雪の再分配を考慮した融雪流出解析を行った.その結果,構築した流出解析モデルは良好な再現性がある事を確認し,雪の再分配を考慮した融雪流出解析を行う事で,再現性が向上する事を確認した.特に,融雪期後半のピーク値の再現性が改善した.
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柳原 駿太, 風間 聡, 川越 清樹
2021 年77 巻2 号 p.
I_1375-I_1380
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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豪雨に起因する水害である洪水氾濫,内水氾濫,斜面崩壊を対象に,共有社会経済経路(SSP)に応じた人口変動に伴う2015年から2100年にかけての曝露人口変化の日本全国評価を行った.洪水氾濫,内水氾濫の曝露人口は,床上浸水である45cm以上の浸水が発生した地域内に居住する人口と定義した.また,斜面崩壊の曝露人口は,斜面崩壊発生確率が80%を超える地域内に居住する人口と定義した.2100年において,都市集中や地方分散といったSSP間の人口配置に違いはあるが,SSP別の3災害の総曝露人口の大小関係とSSP別の総人口の大小関係は一致した.他のSSPと比較してハザードの高い地域への人口集中度が低くなるSSPは,洪水氾濫においてSSP3,内水氾濫においてSSP4,斜面崩壊においてSSP1,SSP2,3災害総計ではSSP2,SSP3と推定された.
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塚田 文也, 池内 幸司
2021 年77 巻2 号 p.
I_1381-I_1386
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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近年の日本における水害による死者の発生状況について詳細な分析を行い,日本の水害に対して適用可能な新たな人的被害推計手法を構築した.浸水状況を表すパラメータのうち,浸水深と水位上昇速度が死者率と明確に関係していた.浸水深については,水面が人の頭付近まで至る浸水深1.5-2m以上の領域のみで死者が生じていた.水位上昇速度については,2階建ての1階で死亡したケースで,水位上昇が速いほど死者率が高かった.水位上昇速度に基づき設定した3つのゾーンと,浸水の時間帯と年齢によってクラス分けを行い,各クラスに分析結果から得られた死者率を設定することで人的被害推計手法を構築した.構築した手法を近年の日本における水害に適用した結果,死者率をおおむね正確に推計することができた.
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大原 美保, 南雲 直子, 藤兼 雅和
2021 年77 巻2 号 p.
I_1387-I_1392
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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災害に対する強靭な地域社会の実現には,「致命的な被害を負わない強さ・速やかに回復するしなやかさ・減災のための緊急行動」という3つの要素が重要である.平成30年(2018年)7月豪雨災害は,浸水・土砂災害により西日本の事業所に建屋・設備等の直接被害をもたらすとともに,停電,断水や道路閉塞等により広域に渡る間接被害ももたらした.本研究は,広島県・岡山県内の事業所を対象としたアンケート調査により,直接被害・間接被害を受けた事業所の「致命的な被害を負わない強さ」・「速やかに回復するしなやかさ」・「減災のための緊急行動」の実態把握を目指した.回答分析の結果,本社,支社・支店,生産拠点等が同時に被災している事業所が多数あったこと,間接被害のみでも多くの事業所が営業停止しており,断水,物流の途絶,道路の途絶,従業員の出勤困難等の影響が大きかったことがわかった.
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小林 健一郎, 田中 規夫, 丸山 恭介, 田中 翔, 渡部 哲史, 北野 利一
2021 年77 巻2 号 p.
I_1393-I_1398
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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本研究では,2019年10月台風19号(令和元年東日本台風)豪雨による荒川流域の洪水現象を再現することを試みた.具体的にはまず分布型降雨流出洪水氾濫モデルにより流域全体の洪水現象を再現した.特に,越辺川・都幾川に着目すると流出計算結果は観測を比較的よく再現できた.次に,富岳に実装した浅水流方程式モデルにより,5m解像度で越辺川・都幾川付近に着目した浸水シミュレーションを実施した.結果として,再現された浸水過程は調査結果を一定程度反映しており,控堤による洪水防御効果なども考慮可能であった.その後,気候変動予測情報d4PDFを用いて,荒川の24時間流域平均雨量の世紀末に向けての変動を分析した.これにより,荒川流域では基本的にはさらに降雨が激化することが見て取れた.
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舛屋 繁和, 千葉 学, 山田 朋人
2021 年77 巻2 号 p.
I_1399-I_1404
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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平成28年8月北海道豪雨を契機に,北海道地方において進められてきた検討の結果,気候変動を考慮した治水計画の検討手法が提案されてきた.しかしながら,立案された治水計画を限られた予算で達成するためには,長期的な投資が必要であり,整備の途中段階でも効率的な河川整備が求められる.本研究では,降雨時空間分布に起因する河川整備の被害軽減効果の不確実性に対して現代ポートフォリオ理論を適用したことにより,大量アンサンブルデータから得られる降雨時空間分布を用いた流域内各河川の河川整備に対する効率的な投資比率の議論が可能となった.
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八木 隆聖, 呉 修一, 木藤 あや音
2021 年77 巻2 号 p.
I_1405-I_1410
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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本研究は,洪水氾濫における家屋の粗度や脆弱性(リスクランク)の取り扱いによる氾濫流況や水平避難区域への影響評価を行い,家屋等倒壊氾濫想定区域や更に高リスクゾーンの検討を行うことを目的としている.そのため,令和元年台風19号の豪雨により洪水災害が発生した千曲川を対象に洪水氾濫解析を行い,解析における家屋の取り扱いが与える影響を評価する.また,富山県神通川を対象に家屋を考慮した洪水氾濫解析と浸水深,流速に応じたリスクランク評価の適用を行い,垂直・水平避難区域の算定を行う.これら家屋の取り扱いやリスクランクの相違が家屋倒壊等氾濫想定区域などに,どのように影響するか評価した.最後に流域治水計画の浸水被害防止区域に資する3分類でのハザード明示方法を提案する.
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椎名 慧, 佐藤 大誠, 青木 宗之
2021 年77 巻2 号 p.
I_1411-I_1416
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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本研究は,埼玉県和光市の都市河川である越戸川の日の出橋落差工に,簡易的に水路式魚道を設置し,その機能検証を行うために現地実験を行った.実験には,体長4.0cm~5.8cmの稚アユを100尾ほど使用した.その結果,15分間という短い実験時間にも関わらず,平均して8%の稚アユが遡上に成功,24%の稚アユが魚道下流入口より上流に遡上しており,著者らが設置した簡易魚道が機能したことを確認した.より時間が経過すれば,遡上に成功する稚アユの総数も増加すると推測できる.また,50%の確率で稚アユが魚道下流入口方向へ遊泳しており,ある程度の集魚状況であった.より集魚するために,別途呼び水を設けることは諸条件的には厳しいと考えられる.そこで,現場に適した迷入防止策等を設けることで,集魚の期待が向上できる.
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鬼束 幸樹, 田島 怜太, 夏山 健斗, 飯隈 公大, 河野 純祈, 原田 大輔
2021 年77 巻2 号 p.
I_1417-I_1422
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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ウナギの個体数減少の一因としてダムや堰による水位の不連続があり,改善策として魚道の設置が挙げられる.既往の研究では,ウナギ用魚道底面に設置する円柱突起物の配列,直径,間隔などを変化させて遡上特性の解明が試みられているが,ウナギの全長を変化させた検討はほとんどない.本研究では,円柱突起物の間隔を7.5-50mm,ニホンウナギの全長を150-300mmに変化させて,遡上に適切な円柱突起物間隔を求めた.その結果,全長150-300mmのニホンウナギは間隔の増加に伴い15-30mm付近で遡上率のピーク値を示した後に50mmで低下することが解明された.また,間隔15-30mmの範囲では,間隔の増加に伴い停滞時間および下流に一時戻る頻度が減少し,直線的に遡上することが判明した.さらに,突起物間隔およびニホンウナギの全長から遡上時の全長倍対地速度の算出が可能な式を提案した.
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鬼束 幸樹, 緒方 亮, 本松 七海
2021 年77 巻2 号 p.
I_1423-I_1428
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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魚は水温に応じて体温が変化する外温性生物でり,魚の生理反応や行動特性は水温に大きく規定される.現に,工場や発電所停止に伴う水温低下によるティラピアの死亡例や,アメリカシャド生存率が9割低下した例が報告されている.そのため,人為的に河川に排水する場合,水温の急変が魚に及ぼす影響を把握し,それに基づき水温を制御することが必要である.しかし,水温が急変した際の魚の行動特性は明確には解明されていない.本研究では,水温の急変がオイカワの遊泳特性に及ぼす影響を検討した.その結果,20°Cの馴致水温から実験水温が増加すると,オイカワの尾鰭の振動数,総遊泳距離,遊泳速度が増加し,増加温度が10℃の場合はそれぞれの値が約2,1.5,1.3倍に増加する.一方,水温が低下すると逆傾向を示し,低下温度が10℃の場合はそれぞれの値が約1/2,1/2,1/3倍に減少する.また,馴致水温からの水温変化量が少なくとも-10~+5℃の範囲では維持速度とそれ以上の遊泳速度の選択割合は変化しないが,水温が10℃増加した場合,疲労が蓄積する維持速度以上で遊泳する割合が急増する.これは,ストレスを感じたために避難行動をとったことを示唆している.
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足立 真綾, 吉田 圭介, 矢島 啓, 山下 泰司
2021 年77 巻2 号 p.
I_1429-I_1434
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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岡山県旭川では河口から約10kmに位置する感潮区間の兵団地区がアユの自然産卵場として知られるが,現地では潮汐に伴う塩水の遡上が確認された.これは,アユの産卵場選定に影響を与える要因であると考えられた.そこで,本研究では感潮域におけるアユの好適な産卵環境に関する基本的知見を得ること,今後の効果的な産卵場の造成に繋げることを目的とし,現地調査と数値解析から塩水遡上の状況を把握し,現地の塩分・水深・流速変動を明らかにした.その結果,感潮区間での産卵適地の特徴として,常時,塩分上昇のない区域であり,河床粒度および産卵時間帯の水深,流速が既往研究における適性値内であることが示唆された.また,塩水フロントの上流側で,河床環境や水理特性を検証することが,今後の兵団地区での産卵場造成に有効と考えられた.
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松澤 優樹, 森 照貴, 中村 圭吾
2021 年77 巻2 号 p.
I_1435-I_1440
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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Kankakee川を対象に構築されたコクチバスの個体群モデルに対して,駆除により個体数が減少する効果を追加することで平衡個体数密度の変化や根絶にかかる年数を試算した.卵・仔魚,未成魚,成魚に対して単独で駆除を実施した場合,すべてのシミュレーションで根絶する(根絶率100%)にはそれぞれ,98%,74%,95%の駆除割合が必要であった.次に卵・仔魚を80%駆除する条件下において成魚,未成魚の駆除を追加した場合,個別で駆除するより,20%以上少ない駆除割合で根絶率を100%にできた.よって,実際に行われる密度管理において,卵・仔魚,未成魚,成魚を並行して駆除することが重要と考えられる.今後,本モデルをアップデートすることで,日本の河川への応用や低密度管理に必要となる駆除個体数や根絶にかかる年数などの試算精度の向上が期待される.
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遊佐 望海, 槍澤 菜々子, 太田 皓陽, 伊藤 毅彦, 尾形 勇紀, 小野村 史穂, 二瓶 泰雄
2021 年77 巻2 号 p.
I_1441-I_1446
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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豪雨災害時に発生する主な人的被害要因の一つに車中死がある.これまでに車両流失条件に関する実験的研究が多くあるものの,実被災事例の研究は限定的である.本研究では,令和元年東日本台風により発生した車中死事例を対象に,車中死発生時の洪水氾濫状況や車両流失条件を解明するために,旗川流域にて河川流・氾濫流シミュレーションを実施した.その結果,氾濫流は越水地点から南西方向に進み,車中死被害地点にて急激な流速・水深増加が確認された.また,同地点では,車両流失評価指標が0となる時刻が実際の被災データとほぼ一致した.また,車両流失危険マップを作製したところ,車両流失地点は限定的であり,扇状地の地形や鉄道盛土等の影響を受けた浸水深分布と概ね一致する結果となった.
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関根 正人, 磯谷 朗太, 勝又 海渡
2021 年77 巻2 号 p.
I_1447-I_1452
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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近年,地球温暖化などによる地球規模の気候変動が著しくなり,記録的豪雨が頻発している状況において最も深刻な被害が発生すると考えられる箇所の1つが地下空間である.特に東京都心部に広がる地下鉄は多くの利用者を抱えており,浸水対策が急務である.本論文では,外力が降雨のみのシナリオと想定されうる最大の浸水シナリオを用意し,東京都心部を中心とした対象地域内の地上浸水解析を行った.また,地上の道路から地下鉄駅の連絡口を伝って流れ込む流入水量と,それが地下鉄トンネル内でどのような挙動を示すのかを調べ,それぞれの外力条件に応じた路線ごとの浸水拡大プロセスを明らかにした.
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武馬 夏希, 中矢 哲郎, 藤山 宗
2021 年77 巻2 号 p.
I_1453-I_1458
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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農業用水を対象とした一次元開水路解析を支援するため,個々の農地区画と末端水路を含むメッシュ作成や計算結果の可視化を,GISを用いて行う手法を開発した.本手法により次のことが可能である.(1)GIS上で水路を描画すると,水路間の接続や水路と農地の接続を自動判定し解析モデルの一次元メッシュを生成する.(2)メッシュと同時に生成した節点シェープファイルを用いて解析結果をGIS上で可視化する.(3)各農地の水需要を水路系統に沿って集計する.本手法を農業用水路と排水路の2現場に適用したところ,特に水路と農地区画の接続を自動判定する機能が有用であった.本手法により,全水路を一次元解析の対象とし個々の農地を考慮した水理計算が容易となり,用水路・排水路解析ともに,末端水路に沿った水路水位や水田水深の変化を再現できるようになった.
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西田 渉, 佐々木 達生, 田崎 賢治
2021 年77 巻2 号 p.
I_1459-I_1464
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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豪雨,洪水時に工業用油の流出事故が発生するケースが報告されている.油が河川に流出した場合には,下流側水域への油の到達時間と到達範囲を把握することで,より適切な対策が可能になると考えられる.
本研究では,まず,油の流動予測を目的として数値モデルの構築を行った.モデル化では,海に流入した油の滞留時間は河道に比べて長くなると予想されるので,油の風化が考慮された.つぎに,このモデルを用いて閉鎖性内湾への油流出事故を想定した計算を行った.計算結果から,水域に流出した油は風化によって減少し,海面の波の時空間変化に応じた分散が生じることが示された.また,水面の油層は風の影響を強く受けた流動を呈し,その分布範囲は水中を流動する他の成分と異なることが示された.
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Haichao LI, Hiroshi ISHIDAIRA, Kazuyoshi SOUMA, Jun MAGOME
2021 年77 巻2 号 p.
I_1465-I_1470
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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In summer 2020, southern China was subjected to continuous heavy rainfall and the Yangtze river basin suffered severe flood damage. Understanding the causes and characteristics of major floods (including the 2020 floods) will greatly aid future flood management strategies. We analyzed the 2020 Yangtze river basin floods; satellite observations provided spatial and temporal rainfall, surface wetness, and flooding data. CHIRPS data from rain gauges and satellite observations were analyzed in terms of spatial distribution of intensity and amount of rainfall. The normalized difference frequency index (NDFI), derived via passive microwave remote-sensing, revealed the extent of surface wetness and flooding. The results of the analysis revealed that 1) high intensity of rainfall was observed mainly in Min and Jialing river basin in upstream, and higher anomalies of total rainfall was observed in both upstream and downstream 2) higher values of NDFI anomalies were widely distributed not only on the downstream but also on upstream 3) relatively larger anomalies of NDFI was found more on upstream in 2020.
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北村 友叡, 石塚 正秀, 渡辺 悠斗, 藤澤 一仁
2021 年77 巻2 号 p.
I_1471-I_1476
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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本研究では,内水氾濫と外水氾濫が同時に発生する複合水害について,下水道が機能せず,1000年確率降雨の条件で重畳氾濫シミュレーションを香川県高松市の二級河川御坊川を対象として実施した.その結果,内水氾濫と外水氾濫を個別に考慮する場合と比べて,複合水害では,浸水範囲が増加し,流速も部分的に速くなることが分かった.そのため,避難の難易度が上がることが想定され,水害のハザードマップに重畳氾濫を想定することが今後必要である結果が示された.
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岡安 光太郎, 林 典宏, 板垣 修
2021 年77 巻2 号 p.
I_1477-I_1482
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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大規模地震等により複数河川の堤防等が同時に被災した場合,限られた復旧用資機材・人員を適切に配分し,洪水に対する地域の安全性を早急に確保することが,被災地域の迅速な復旧・復興にとって重要である.このため,堤防等が被災した条件での洪水被害想定等を迅速に行うことが,緊急復旧箇所の優先順位の検討等において必要と考えられる.本研究では,被災した堤防等の緊急復旧期間中の被害想定を迅速に行える計算プログラムを開発し,モデル地区において複数の復旧シナリオを設定し,復旧シナリオごとの被害軽減効果を比較した.結果,氾濫発生時の被害の大きさと氾濫発生確率の積の和が大きい箇所から復旧するシナリオの方が,被災後河道の流下能力の小さい箇所から復旧するシナリオよりも,被害軽減効果が大きくなることが示された.
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道頭 理緒奈, 堀 智晴
2021 年77 巻2 号 p.
I_1483-I_1488
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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水害経験が住民の避難行動に関する意思決定に与える影響を分析するため,コンピュータ上で模擬された水害経験から強化学習により避難判断基準を獲得していく様子をシミュレートするエージェントモデルを作成した.複数の確率規模の洪水に対し,作成されたエージェントモデルは,近傍の河川水位を避難スイッチとして参照しつつ様々なタイミングで避難を開始し,その適切さに従った報酬を受け取ることを繰り返す.その過程で報酬を最大化するような避難開始タイミング(河川水位の基準値)を学習する.報酬の与え方と洪水規模を複数設定して実験を行った結果,自宅が浸水するケースについて浸水に合わずに避難所に到達できた場合にのみ報酬を与える学習方法が,最も確実な避難基準を獲得できる可能性が高いことが分かった.
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田畑 佳祐, 佐藤 翔輔, 今村 文彦, 向井 正大, 鮎川 一史, 有友 春樹
2021 年77 巻2 号 p.
I_1489-I_1494
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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本研究は,地域防災リーダーを対象に,マイ・タイムライン講習会の受講後に質問紙調査を実施し,大雨・洪水災害に関する知識・考え,避難行動意図にどのような変化が生じるのかを定量的に評価した.その結果,以下のことが明らかになった.1)マイ・タイムライン講習会により,大雨・洪水についての知識・考え,避難行動意図は一部を除いて多くの項目は受講前と比較して受講後の値が統計的に有意な増加を示した.2)一方で,マイ・タイムライン講習会を経ても,避難に対する対処評価の心理的コスト(避難場所に避難すること)は,統計的に有意に軽減することはなかった.3)マイ・タイムライン講習会によって,避難行動意図に関連があるリスク認知は効果量が大きく,十分に向上することを確認できた.
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赤穗 良輔, 西俣 孝一, 池尻 悠人, 華 威鑒, 前野 詩朗
2021 年77 巻2 号 p.
I_1495-I_1500
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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平成30年7月の西日本豪雨により,倉敷市真備町では小田川と3つの支川が決壊し,死者51名の甚大な被害となった.その後の令和元年台風19号による豪雨や令和2年7月豪雨による洪水においても多くの河川が氾濫し多数の犠牲者が出た.このような大規模水害時に犠牲者を出さないためには,内水氾濫と外水氾濫による浸水水深・流速の時間的変化から適切な避難経路を選択し,できるだけ早く安全な避難行動を取ることが重要である.本研究では,倉敷市真備町を対象に降雨による内水氾濫と堤防決壊による外水氾濫解析結果を用いて,動的に最適避難経路を検討し,避難場所や安全な避難のための避難開始時刻の検討を行った.その結果,避難場所を追加することの必要性や安全な避難開始時刻を明らかにした.
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木原 拓海, 越智 晴香, 藤森 祥文, 三谷 卓摩, 森脇 亮
2021 年77 巻2 号 p.
I_1501-I_1506
発行日: 2021年
公開日: 2022/02/15
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集中豪雨が頻発し,日本各地で甚大な被害をもたらしている中,自主的な避難行動を促すことが被害の抑制に必要である.本研究では,iRICを用いた河川氾濫解析の結果を適用した避難シミュレーションを行い,垂直避難及び,自主避難所の設定の効果の検討を行った.シミュレーションの結果より,垂直避難の有効性,自主避難所への避難が避難完了率を高め,避難が完了するまでの時間を短縮することが確認された.複数の破堤ケースの検証によって,対象河川における避難時のリスクを把握できる可能性を示した.
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