日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第47回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の1013件中201~250を表示しています
  • 橋本 薫, 藤田 知道, 日渡 祐二, 佐藤 良勝, 村田 隆, 長谷部 光泰
    p. 202
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    細胞の不等分裂は体制確立に不可欠な過程と考えられる。植物の発生様式は分裂組織においてある細胞集団が未分化状態を維持しながら一方で別の細胞集団が分化し器官原基を形成することにより体制を築き上げていく。このように分裂組織を一生維持する点で後生動物と大きく異なっており、分裂組織に含まれる植物の幹細胞がどのように形成され、維持されているのかは後生動物と異なる分子機構を備えていると考えられているが、よくわかっていない。
    ヒメツリガネゴケ原糸体は一列に細胞が並んだ組織であり、頂端に存在する幹細胞により作られる。この幹細胞由来のプロトプラストの最初の分裂は不等分裂であり、頂端幹細胞と分化細胞に分裂する。
    我々はヒメツリガネゴケ一過性過剰発現系によりプロトプラスト再生に異常を引き起こす58遺伝子を報告している。これらの遺伝子群の中で幹細胞形成維持に関与している因子を特定するために相同組換えを利用し、各遺伝子のC末端側に蛍光タンパク質YFPを挿入した発現解析ラインを順次作成している。その結果、pphn36p08-citrine融合タンパク質が幹細胞で特に強く発現していることが認められた。この遺伝子は推定アミノ酸配列から植物特異的なVQドメインを持つ機能未知のタンパク質をコードしていることがわかった。現在pphn36p08の遺伝子破壊株を作成しており、発現解析ラインの結果と併せてその表現型を報告し、不等分裂における機能を考察したい。
  • 椿本 有雅, 苅谷 綾乃, 桧原 健一郎, 相田 光宏, 田坂 昌生
    p. 203
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物は発芽後、芽生えの頂端部にある茎頂分裂組織から地上部のすべての器官を新たに発生させる。茎頂分裂組織は胚発生過程で生じ、自ら未分化な状態を保ちながら新たな器官を作るための細胞を生み出す。シロイヌナズナの転写活性化因子をコードするCUP-SHAPED COTYLEDON1CUC1)とCUC2は互いに重複しつつ、胚発生過程で茎頂分裂組織と子葉境界部の形成に重要な役割を果たす。つまり、それぞれの単独変異体ではほぼ正常な芽生えの表現型を示すが、cuc1 cuc2二重変異体では子葉が融合し、茎頂分裂組織を欠失する。一方、CUC1の異所的発現体(35S::CUC1)では子葉の表面に異所的な分裂組織が形成される。
    我々はCUC1の下流で機能する遺伝子を同定するために、オリゴDNAマイクロアレイ法によるスクリーニングを行なった。まず、野生株とcuc1 cuc2株に関してCUC1発現初期段階である魚雷型胚由来のRNAを比較し、cuc1 cuc2二重変異体において発現が低下する遺伝子を選抜した。その結果、CUC1およびCUC2の下流候補遺伝子が新規に62個得られた。また、35S::CUC1の芽生えを用いたマイクロアレイ解析から、CUC1の異所的発現により発現が上昇する遺伝子を別に12個得た。現在これらのCUC1およびCUC2の下流候補遺伝子について、野生型胚における発現パターン及び、各候補遺伝子の発現に対するCUC1CUC2の影響をReal Time-PCR法を用いて解析中であり、その結果を報告する。
  • 山本 佳世, 苅谷 綾乃, 桧原 健一郎, 相田 光宏, 田坂 昌生
    p. 204
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのCUP-SHAPED COTYLEDON1 (CUC1) とCUC2は機能的に重複した遺伝子で、胚発生における茎頂分裂組織(SAM)の形成を促進する。これらの遺伝子はこの過程でknox型ホメオボックス遺伝子であるSHOOT MERISTEMLESS (STM) の発現を正に制御する。また、これらは地上部の側生器官のうち子葉、がく片、雄ずいの境界部の形成および雌ずいにおけるreplumや隔壁の形成でも重要な役割を果たす。我々はマイクロアレイを用い、子葉でCUC1の過剰発現により発現が上昇する遺伝子の一つとしてPENNYWISE (PNY) を同定した。PNYタンパク質はBELL型ホメオドメインタンパク質ファミリーに属し、STMと結合してSAMの維持に機能することが報告されている。stm変異体においてもCUC1の過剰発現によるPNY遺伝子の発現上昇が起こることから、CUC1によるPNYの制御はSTMに依存しないことが示唆された。次にpny変異体の表現型を調べたところ、がく片のわずかな融合と、隔壁形成の部分的な阻害が観察された。さらに、cuc1 pnyおよびcuc2 pny二重変異体ではこれらの表現型が顕著に強まり、大部分の花のがく片と隔壁において強い異常が観察された。以上の結果からCUC1CUC2およびPNYはがく片および隔壁の形成に協調的に機能していることが示唆された。
  • 広田 敦子, 加藤 壮英, 深城 英弘, 相田 光宏, 田坂 昌生
    p. 205
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    多くの高等植物は、茎と主根からなる主軸とそれに付随する花、茎、葉、側根などの側生器官によって構成される。シロイヌナズナPUCHI遺伝子は、AP2/EREBP転写因子ファミリーに属するタンパク質をコードする。これまで我々は、PUCHIが主根と側根原基の境界部で発現し、側根基部における細胞増殖の抑制に働くことを明らかにした。今回我々は、PUCHIの地上部における機能解析を行った。シロイヌナズナの野生型の花には苞葉は形成されないが、puchi変異体では花柄の基部に托葉を伴う未熟な苞葉が異所的に形成されていた。同様の表現型はPUCHIタンパク質とEAR転写抑制ドメインとの融合タンパク質を発現する植物体でも観察された。よって、PUCHIは花柄基部での苞葉・托葉形成を抑制することが示唆された。PUCHIが花序分裂組織と花原基との境界部で発現していたことから、PUCHIは根だけでなく地上部でも主軸と側生器官との境界部で発現し、側生器官形成の発現を制御することがわかった。次に、PUCHIを含む長さの異なる複数のゲノム断片を用いてpuchiの相補性試験を行ったところ、花の表現型を相補するためには根の表現型を相補するよりも長いゲノム領域を必要とすることがわかった。このことから、PUCHIの発現制御に必要なcis領域は地上部と根とで一部異なることが示唆された。
  • 中田 未友希, 舟木 俊治, 松本 任孝, 槻木 竜二, 岡田 清孝
    p. 206
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナPRESSED FLOWER (PRS) 遺伝子は葉や花器官、花芽などの側生器官の原基の側部領域で特異的に発現しており、側部の形成に関与していることがわかっている。PRS の側部特異的な発現は、各器官の側部に特徴的な構造が形成される前からみられる (Matsumoto and Okada, 2001)。このことは、側生器官における側部領域の決定と分化が、側部に特徴的な構造が形成される前に始まっていることを示唆する。しかしながら、側生器官の側部領域を決定する機構や分化の初期過程についてはほとんどわかっていない。
    この機構を明らかにする第一歩として、PRS について側部特異的な発現を制御する機構の解析を進めている。PRS の5’ 側上流2.3 kb の領域は側生器官の側部領域での発現に十分であった。この領域に側生器官の側部領域での発現を制御するシス因子が存在すると考えられるので、シス因子同定のため、プロモーター解析を行った。その結果、花芽と花器官、葉での発現に十分な領域(139 bp)、葉での発現に十分な領域(191 bp) がそれぞれ同定された。葉の側部領域での発現に十分な191 bp の領域について、その領域に含まれるシス制御配列を同定するために、5’ 末端及び3’ 末端を削ったコンストラクトを作製し、現在解析中である。
  • 倉川 尚, 前川 雅彦, 榊原 均, 小嶋 美紀子, 佐藤 光, 山木 辰一郎, 長戸 康郎, 経塚 淳子
    p. 207
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物の地上部の器官は茎頂分裂組織に由来しており、分裂組織の維持機構を解明することは形態形成を理解するうえで重要である。イネlonely guylog)変異体は葉序の異常、花器官数の減少という表現型を示す。logの花分裂組織は扁平な構造になり、花器官分化が完了する前に分裂組織が退化してしまう。分裂組織マーカーであるOSH1の発現が弱まり、発現領域も狭まっていたこと、また細胞分裂マーカーであるHISTONE H4の発現している細胞数が減少していたことから、LOGは分裂組織の維持に働いていると考えられた。LOGは茎頂分裂組織先端の幹細胞と呼ばれる未分化細胞群とその周辺領域で発現しており、特にL1層で強く発現していた。このような発現パターンを示す遺伝子は他に報告がなく、LOGは分裂組織維持のための新規の生理活性物質に関わっている可能性がある。LOGはリジン脱炭酸酵素に相同性の高いタンパク質をコードするが、これまでタンパクの酵素活性測定、細胞内局在からはLOGの分子的機能に関する有益な情報は得られていない。興味深いことに、細胞分裂活性が低下しているlogでは内生サイトカイニン量が野生型に比べて顕著に増加しており、いくつかのサイトカイニン誘導遺伝子の発現も上昇していた。これはホルモンバランスの崩壊がlogの分裂組織退化に関わっているという1つの可能性を示唆するものである。
  • 森田 ゆたか, 経塚 淳子
    p. 208
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    セリン・スレオニンタンパク質リン酸化酵素をコードするシロイヌナズナPINOID(PID)遺伝子は、オーキシン極性輸送を制御する。pid 変異体では花序が棒状を示すことから、PID は腋芽形成に関わっていると考えられる。我々は、イネにおいて腋芽形成とオーキシンの関係を明らかにするため、イネPID相同遺伝子を単離し、その機能の解析を行っている。
    イネゲノム中でPIDと相同性を持つ遺伝子を検索し、それらについてリン酸化酵素ドメインのアミノ酸配列をもとに系統樹を作成した。最も相同性の高い遺伝子はPIDと全長アミノ酸配列で54%の相同性を示し、これをOsPIDとした。RT-PCRによりOsPIDは茎頂と根で発現することがわかった。さらにin situ hybridization を行ったところ、OsPIDは葉腋すなわち腋芽を形成する領域で発現していた。OsPIDはプロモーター領域にオーキシン応答配列をもっており、その発現はオーキシンによって誘導された。さらに、OsPID過剰発現体では根が形成されなかった。この表現型はオーキシン存在下で育成した植物に類似していることから、過剰発現体はオーキシンに対する感受性が高くなっていると考えられた。以上の結果から、OsPIDはオーキシンシグナル伝達に関わっており、腋芽形成にも関わっていることが示唆された。
  • 有手 友嗣, 石川 伸二, 前川 雅彦, 岩田 広隆, 高牟禮 逸朗, 経塚 淳子
    p. 209
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々はイネの頂芽優勢を制御する機構の分子レベルでの解明をめざし、5つの変異体d3、d10、d14、d17、d27 について解析している。5つの変異体はどれも分枝の増加と矮性という共通した表現型を示す。これまでにD3 はシロイヌナズナMAX2 のオーソログであることが明らかになっている(Ishikawa et al. 2005)。d10 の原因遺伝子D10 は、カロテノイド切断酵素をコードするシロイヌナズナMAX4 のオーソログであった。シロイヌナズナmax2、max4 変異体はどちらも分枝の増加と矮性を示す。従って、イネとシロイヌナズナの間で頂芽優勢の制御機構は保存されていると考えられた。d3~d27 D10 の発現解析を行った結果、すべての変異体で発現が上昇していた。従って、D10 の発現にはフィードバックによる制御が働いており、D3~D27 はこの制御に関与していると考えられた。またイネではTCPドメインを持つ転写因子であるFC1 OsTB1 )が頂芽優勢の制御に関わることが知られている。FC1 D3~D27 の関係を調べるため、d3~d27 FC1 の発現解析を行った。その結果、d3~d27 ではFC1 は正常に発現していた。またfc1 においてD10 のフィードバック制御は正常に働いていた。以上より、イネの分枝制御においてはD3~D27 FC1 が独立に働いていることがわかった。
  • 福田 真也, 平井 学, 菓子野 康浩, 小池 裕幸, 佐藤 和彦
    p. 210
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、乾燥に耐性のあるラン色細菌Nostoc commune と、耐性のないラン色細菌Synechocystis sp. PCC6803を用い、乾燥時の光化学系 II(PS II)反応中心活性失活の意味について詳しい検討を行った。N. commune は世界中に広く分布する陸生ラン色細菌で、比較的丈夫なゼラチン質の中に糸状体が大量に埋もれる形で集合体を形成し、高い乾燥耐性を有することが知られている。
    N. commune を高張のソルビトール溶液に浸すことで脱水処理を行うと、光合成の失活と平行して、PS II反応中心活性が失活する。一方、Synechocystis PCC6803では 、光合成活性が失活してもPS II反応中心活性は一定のレベルに維持されていた。そこで、種々の濃度のソルビトール溶液で処理したサンプルについて、強光、及び高温ストレスが与える影響について PAM 法を用いて検討した。その結果、Synechocystis PCC6803は、脱水によって高温、強光ストレスへの耐性が低下し、細胞が重大なダメージを被るが、N. commune は脱水・乾燥することにより、強光及び高温に対する耐性が上昇するという結果を得た。
    これは、光合成が停止した後もPS II反応中心活性が、残存することによる光阻害の発生が原因であると考えられる。
  • 三浦 栄子, 松島 良, 坂本 亘
    p. 211
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    私たちは、斑入り突然変異体var2を用いて植物が斑入りになる機構を調べている。var2の原因遺伝子は葉緑体局在型ATP依存性メタロプロテアーゼFtsH2をコードしており、チラコイド膜で光障害を受けた光化学系タンパク質の修復機構(特に光化学系II反応中心D1タンパク質の分解)に関与する。したがって、白色セクターの出現はこの光障害に起因すると予想される。光化学系における光障害タンパク質の分解は非常に重要であり、分解による修復が滞ると電子伝達も阻害を受け活性酸素 (ROS) が発生すると考えられる。そこで今回は斑入りの葉を用いてROSの検出と斑入りとの関係を調べた。通常の栽培条件で育成したColumbia, var2, 及びサプレッサーsv2.52の葉を superoxideと反応するNBT、H2O2存在下でperoxidaseと反応するDABにより組織染色したところ、var2の緑色セクターにおいて特異的ROSが検出された。NBTでは葉緑体特異的な局在も観察され、高レベルのROSは蛋白質修復の欠損による光阻害作用に起因すると考えられた。また、エバンスブルー染色では白色組織は完全には染色されず、細胞死を起こしているのではないことも示唆された。斑入り形成にはROSの閾値が存在することが予想されるため、現在、細胞内におけるROSの定量と斑入りパターンの解析を進めている。
  • Aarti Dhepe, Ryouichi Tanaka, Ayumi Tanaka
    p. 212
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Intense and excessive (high) light can cause damage to chloroplasts through the generation of reactive oxygen species.
    We examined the effects of high light induced oxidative stress on the chlorophyll biosynthesis pathway in etiolated and green (14 h-illuminated) cucumber cotyledons. When etiolated cotyledons were exposed to high light (1500-1600 µE/m2/s), the chlorophyll biosynthesis was completely stopped whereas in green cotyledons the chlorophyll biosynthesis rate was decreased. At an early stage of this treatment i.e. within first 2 h, we observed the accumulation of small amount of protoporphyrin IX in etiolated cotyledons. ALA synthesizing activities were also decreased in both etiolated and green cotyledons. This inhibitory effect was greater in etiolated than in green cotyledons and increased with duration of treatment. High light can have adverse effects on plant growth during early developing stages; therefore we will discuss whether high light mediated regulation of chlorophyll biosynthesis contributes for this effect.
  • 西口 満, 楠城 時彦
    p. 213
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    樹木は永年性植物であるため、長期にわたるストレスへの様々な耐性機構を発達させていると考えられる。遺伝情報を担うDNAは、化学物質や活性酸素分子種、放射線等により塩基損傷や切断を受ける。動物等では、損傷したDNAは複数の修復機構により修復されることが報告されている。本研究では、樹木におけるDNA修復関連遺伝子の発現特性を解明するために、ガンマ線照射後のポプラ(Populus nigra var. italica)の葉からRNAを抽出し、RT-PCRサザン法により発現解析を行った。ポプラの苗木にガンマ線を照射した場合、10-20Gy(20時間の総吸収線量)ではほとんど成長に影響は無く、50-100Gyで成長阻害が見られ、150-300Gyで照射後4-10週間にほとんどの個体が枯死する。相同組換え修復に関与するRad51、および非相同末端結合修復に関与するDNA ligase IV、Ku70およびXRCC4は、50-300Gyのガンマ線照射により、線量依存的に遺伝子発現が誘導され、発現時間も線量に依存した。一方、グアニンの酸化的損傷によって生成する8-オキソグアニンの塩基除去修復に関与するOGG1は、ガンマ線照射により一過的に遺伝子発現が減少した後、再び上昇した。これは、機能の異なるDNA修復関連遺伝子の発現特性が多岐にわたることを示唆している。
  • 宇梶 徳史, 原 登志彦
    p. 214
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    常緑針葉樹は、冬季の厳しい低温下に於いても葉を保持している。越冬下では光合成色素により吸収された光エネルギーの消費が極めて少ないため、細胞に致死的傷害を与える活性酸素が葉緑体内で発生し易い。この傷害を軽減するため、越冬中の常緑針葉樹は成長期とは異なる葉緑体を形成することにより冬季の光ストレスを回避していると考えられるが、その詳細な機構は未だ明らかでない。本研究では、分子生物学的アプローチにより針葉樹の越冬機構を明らかにする目的で、野外に生育するイチイ(Taxus cuspidata)から夏季及び冬季に針葉を採取し、作製したcDNAライブラリーから無作為に3.000クローンを選抜し、5‘末端からその塩基配列を決定した。EST塩基配列情報とタンパク質データベースを用いて、得られた遺伝子産物の機能予測を行ったところ、冬季(12月)の針葉から得られた約3割のESTが early light-induced proteins (ELIPs)と相同性を示した。ストレス関連遺伝子のみに限定すると、ELIPs遺伝子はその約8割を占めていた。ELIPs遺伝子をコードするESTが多量に同定される傾向は2003年、2004年に採取したイチイ冬季葉の双方で見いだされた。一方、夏季(7, 8月)の針葉で同定されたESTではELIPsは検出されなかった。以上の結果をもとに、樹木の越冬戦略の多様性に関して議論を行う予定である。
  • 原 怜, 本橋 健, 久堀 徹
    p. 215
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】細胞質のリンゴ酸脱水素酵素 (MDHcyt)は、チオレドキシンアフィニティー・クロマトグラフィーによって捕捉され、チオレドキシンの新規の標的タンパク質であることが示唆れている。そこで、MDHcytが実際にチオレドキシンと相互作用し、その活性が酵素の酸化還元反応の状態によって調節されるかどうかを生化学的に解析した。【結果】MDHcytの組換え体タンパク質を大腸菌で発現させ、活性を保持した酵素を得た。低濃度のCuCl2存在下で完全に酸化させると、酵素活性が完全に失われた。この活性は、酵素をチオレドキシンと低濃度のDTTでインキュベートすることで容易に回復した。また、MDHcytの酸化還元に依存した活性制御は、二量体形成と関係することがわかった。制御に関係するシステインを同定するために、分子内の6個のシステインをそれぞれセリンに置換した変異体を作成し、その酸化還元応答を調べた。さらに、ペプチドマッピングによって分子内(分子間)に形成されるジスルフィド結合を同定した。以上の一連の実験により、MDHcytが新規のチオール酵素であることが生化学的に確認された。
  • 中西 華代, 前島 正義, 佐塚 隆志, 久堀 徹
    p. 216
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    生体内で還元調節を仲介する分子の一つであるチオレドキシンは、分子量1万2千の小さなタンパク質で、他の酵素のジスルフィド結合を還元することで活性を制御する。これまでに、チオレドキシン変異体の固定化担体を用いたスクリーニング法を、高等植物の葉緑体や細胞質タンパク質に適用することで、チオレドキシンにより調節される分子が次々と明らかにされている。
    そこで、本研究では膜輸送体やレセプターといった細胞機能に重要な分子を含む膜画分に着目し、チオレドキシンにより調節を受ける膜タンパク質分子を探索した。さらに、得られた分子の還元調節機構を生化学的に解析することで、チオレドキシンによる活性制御に共通の仕組みを見出すとともに、その生理的役割を明らかにすることを目指す。
    具体的には、シロイヌナズナ培養細胞から調製したポストミトコンドリア画分を界面活性剤で可溶化し、チオレドキシン変異体固定化担体カラムに供与してスクリーニングを行った。捕捉された標的膜タンパク質の候補は、MALDI-TOF/TOF MSを用いた質量分析、N末端アミノ酸シーケンシング、種々の膜タンパク質に対する抗体を用いた免疫ブロッティングにより分子種を同定した。今回は、スクリーニングにより、どのような膜タンパク質分子が捕捉されたかを報告し、これらの分子が還元調節を受ける生理的意義を考察する。
  • 本橋 健, 吉田 賢右, 久堀 徹
    p. 217
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の葉緑体ストロマでは、葉緑体内の還元状態に応じて活性調節される一群のタンパク質が存在し、チオール酵素として知られている。葉緑体ストロマに存在する2種類のチオレドキシン(f型とm型)は、光化学系から供給される還元力を利用して標的タンパク質であるこれらチオール酵素分子のジスルフィド結合の還元を行い、その活性を調節する役割を担っている。私たちは、標的タンパク質を網羅的に研究することで、葉緑体ストロマのチオレドキシンにはこれまで考えられていたよりも多くの標的タンパク質が存在し、チオレドキシンがそれらの酸化還元調節を行っていることを明らかにしてきた。
    本研究では、葉緑体内でチラコイド膜によってストロマとは隔てられているチラコイド内腔側の酸化還元システムを明らかにするため、チラコイド膜に結合し活性部位を内腔側に持っているチオレドキシン様タンパク質HCF164に注目した。まず、私たちが開発したチオレドキシン変異体を用いた標的タンパク質の網羅的捕捉法を用いて、HCF164の標的タンパク質同定を行い、標的タンパク質の酸化還元機構の生化学的な解析を行った。さらに、HCF164への還元力供給源についても検討したので、それらの結果について報告し、HCF164の内腔における役割について考察する。
  • 池上 陽紀, 本橋 健, 久堀 徹, 高宮 建一郎, 増田 建
    p. 218
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Mg-キラターゼはクロロフィル合成の第一段階であるポルフィリン環へのMg2+の配位を触媒する酵素であり、CHLI, CHLD, CHLHの3つのサブユニットから構成される。Mg-キラターゼの反応にはCHLIによるATP加水分解が必要であり、反応の律速段階であることが知られている。一昨年の本大会で、我々はシロイヌナズナのCHLI1のATPase活性がチオレドキシン(Trx)存在下でDTT濃度依存的にレドックス調節されることを報告した。
    そこで、NADPHとNADPH-チオレドキシン還元酵素を用いて還元したチオレドキシンによるCHLI1のレドックス制御について解析したところ、CHLI1のSH基修飾試薬AMSによるバンドシフトが観察され、ATPase活性もチオレドキシンによりレドックス制御されることが明らかとなった。さらに、in vivoにおけるCHLIのレドックス状態を調べたところ、暗所下では酸化状態で存在するのに対して、明所下では還元状態で存在していることが確認された。CHLI1の4つのシステイン残基それぞれに変異を導入し、レドックス制御への関与を現在詳細に解析している。
  • 角野 貴志, 山口 祐佳, 廣野 学, 古市 卓也, 河野 智謙
    p. 219
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物のオゾン(O3)に対する応答のモデル植物としてO3感受性タバコ系統Bel-W3とO3耐性系統Bel-Bが広く用いられているが、両系統間でO3に対する感受性の差が生じるメカニズムには未だ不明な点が多い。本研究では、Bel-B、Bel-W3両系統由来の懸濁培養細胞を調製し、Ca2+感受性発光タンパク質エクオリンの遺伝子を導入した。まず、懸濁細胞にO3を暴露させ、エバンスブルー染色により両系統の死亡率を調べた。その結果、Bel-B細胞と比較してBel-W3細胞の方が高い死亡率を示し、細胞の状態でもO3感受性の差が存在する事を確認した。また、活性酸素種のスカベンジャー存在下でO3を暴露させると、Bel-W3細胞の死亡率が低下したことからO3により派生した活性酸素種がBel-W3細胞において細胞死を誘導していると考えられる。次に酸化刺激と還元刺激を両系統の細胞に処理し細胞質Ca2+濃度変化を調べた。特に還元刺激としてシステインを処理すると、Bel-W3細胞のみに急激で顕著な細胞質Ca2+濃度上昇がみられた。Ca2+チャネル阻害剤の効果からシステイン応答性の細胞質Ca2+濃度上昇には、酸化ストレスに応答することが知られる電圧依存性Ca2+チャネルTPC1の関与が示唆された。このシステイン応答性細胞質Ca2+濃度上昇は、僅かながら他のタバコ系統BY-2とイネの培養細胞においても確認できた。
  • 逸見 健司, 岩渕 雅樹, 小川 健一
    p. 220
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    環境変化に応答して細胞内のレドックス状態が変化し、それに伴って花成や抽だいといった生長生理が調節されているが、植物においてはそうしたレドックス状態の変化を認識する機構について不明な点が多い。我々は一般的にチロシンフォスファターゼが酸化条件下で失活しやすい性質に着目し、レドックス状態の変化を感知し伝達する因子の候補と考え、シロイヌナズナのチロシンフォスファターゼ(AtPTP1)の機能について解析した。AtPTP1はゲノム中に唯一存在する典型的なチロシンフォスファターゼである。このT-DNA挿入変異体は野生型に比べて生長が速く、早咲き性を示した。野生型の種子は過酸化水素処理することでその花成が促進されたが、変異体の場合ほとんど促進を受けず、過酸化水素処理した野生型の花成とほぼ同程度であった。チロシンフォスファターゼが過酸化水素で失活することを考えあわせると、AtPTP1は過酸化水素シグナルの下流で生長を抑制的に制御していることが示唆された。
  • 松本 雅好, 伊藤 寿, 逸見 健司, 杉本 育代, 小川 健一
    p. 221
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々はこれまでにシロイヌナズナ培養細胞でグルタチオン結合タンパク質を同定した (Ito et al., 2003)。本研究では、その1つ葉緑体型フルクト-ス-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(FBA)のグルタチオンによる制御について調べた。シロイヌナズナのゲノムには3遺伝子がコードされ、グルタチオン結合性FBAをFBA1、他の2つをFBA2, FBA3と名づけた。組換えFBA1の活性は強いpH依存性を示し、ストロマ内のpH変化に適応していた。明条件に相当するpH 8での活性は、暗条件に相当するpH 7での2倍であった。この依存性はグルタチオン(GSH)により強められ、pH 7とpH 8の活性比は5倍だった。 一方、組換えFBA2とFBA3では、このような制御は認められなかった。カルビン回路はチオレドキシン (Trx) により活性化されるが、ジチオスレイトールやTrxは3つの FBA活性を阻害した。GSHにより再活性化されるのは、唯一、 pH 8においてFBA1だけであり、再活性化はGSHとの結合に依存していた。シロイヌナズナから単離した葉緑体のFBA活性は、FBA1と同様にpH、GSHにより制御された一方、FBA1のT-DNA挿入変異体から単離した葉緑体のFBA活性は、pH、GSHに対する依存性を失っていた。以上よりin vivoにおいてもFBA1は発現しており、グルタチオン化依存的な制御を受けていた。
  • 潮見 直織美, 逸見 健司, 小川 健一
    p. 222
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々はこれまでにシロイヌナズナの根には、グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)とグルタチオン(GSH)を介した重力応答システムが存在することを示した(潮見ら、日本植物生理学会2005年大会要旨)。
    GSH量が重力応答に関与しているか調べるために実験を行った。GSH添加培地およびブチオニンスルホキシミン(BSO)添加培地において野生型植物の重力応答は濃度依存的に鈍化した。一方で、他のチオール還元剤であるジチオスレイトールの添加培地では重力応答に影響は見られなかった。また、GSH添加培地において見られる野生型植物の根における重力応答の鈍化が、H2O2誘導性GST遺伝子へのT-DNA挿入植物では見られなかった。以上のことから、根の重力応答はH2O2誘導性GSTを介したGSH依存的反応によって制御されていると示唆される。
  • 松田 修, 中尾 義和, 射場 厚
    p. 223
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    トリエン脂肪酸は植物生体膜の主要構成要素であるとともに、病傷害応答における中枢的シグナル因子であるジャスモン酸の合成前駆体として、重要な役割を担っている。ジャスモン酸の生合成酵素をコードする遺伝子の多くは、傷害によりその発現が転写レベルにおいて顕著に上昇する。また、ジャスモン酸によるフィードフォワード制御を受けており、傷害依存的なジャスモン酸の速やかな蓄積を可能としている。FAD7遺伝子はトリエン脂肪酸合成を触媒するω-3デサチュラーゼの葉緑体型アイソザイムをコードするが、このような発現応答性を示す代表的な遺伝子である。しかし、傷害によるこの遺伝子の発現応答は、きわめて局所的な被傷害組織に限られており、一般的なトランスクリプトミクス解析技法により、その制御を司る鍵因子を同定することは困難である。われわれはFAD7プロモーターとルシフェラーゼ遺伝子の融合遺伝子をシロイヌナズナに導入することにより、傷害にともなう局所的な遺伝子発現応答を非破壊的に検出することのできる実験系を構築した。この形質転換植物を母株としたM2集団をスクリーニングすることにより、傷害応答が増大した突然変異体を単離し、その原因遺伝子が新奇な膜結合型タンパク質をコードしていることを見出した。本発表ではこの知見に加え、ジャスモン酸およびそのシグナル関連因子と、得られた突然変異体とのエピスタシス解析の結果について報告する。
  • 八丈野 孝, 射場 厚
    p. 224
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    サリチル酸(SA)は病害抵抗性において重要なシグナル物質である。SAの生合成経路には、安息香酸(BA)を前駆体とする経路が存在すると考えられているが、明らかにされていない。本学会2005年度年会において、BA経路に関わる変異体(bah1; benzoic acid hypersensitive 1)をアクチベーションタギングラインから単離したことを報告した。SA存在下と同様に、bah1変異体はBA存在下で生育阻害を受け、PR1遺伝子の発現がみられる。さらにbah1変異体では、BAを与えるとSA蓄積量が増加する。マイクロアレイ解析の結果、bah1変異体では、病害抵抗性に関与する遺伝子の発現がみられた。本発表では、BAからSAへの変換を触媒するP450をコードすると考えられる遺伝子の発現についても報告する。
  • 筒井 友和, 岩田 明, 浅田 裕, 池田 亮, 山口 淳二
    p. 225
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物の免疫活性化は、防御関連遺伝子の発現のみならず細胞死を伴うことがある。この細胞死には、病原体の全身感染を抑制する働きがあり戦略的細胞死と考えられている。このような植物免疫機構の解明を目的とし、恒常的な細胞死形質を示すシロイヌナズナ突然変異体、cad1constitutively activated cell death 1)変異体を単離した。この変異体の原因遺伝子(CAD1)は、MACPF(Membrane Attack Complex and Perforin)ドメインを含むタンパク質をコードし、植物免疫を負に制御する新規因子と結論した。(Plant Cell Physiol. 2005, 46: 902-912)。
    本研究では、cad1変異体において恒常的な細胞死形質やサリチル酸(SA)の顕著な蓄積が観察されたことからSAのシグナル伝達に着目し、遺伝学的解析を試みた。抵抗性遺伝子のシグナル伝達に必要なリパーゼ様タンパク質が欠損したpad4-1変異体およびサリチル酸合成酵素が欠損したsid2-1変異体についてcad1-1変異体との二重変異体をそれぞれ作製した。両二重変異体ではcad1-1変異体においてみられる細胞死形質、矮化形質、老化の進行が顕著に抑制された。また、pad4-1 cad1-1二重変異体においてはcad1-1変異体で観察されるSID2遺伝子の恒常的な発現誘導が抑制されていた。このような結果から、CAD1遺伝子はPAD4遺伝子を抑制することでSAによる細胞死活性化機構を制御していると結論した。現在、これらの変異体を用いて詳細な解析を行っている。
  • 中島 綾子, 桑野 晶喜, 藤原 正幸, Hann-Ling Wong, 川崎 努, 島本 功
    p. 226
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物は病原体から身を守るために独自の生体防御反応を示す。我々は,イネ耐病性反応において低分子GタンパクOsRac1が病原菌に対する抵抗性反応を誘導する分子スイッチとして機能していることを明らかにしている。本研究ではOsRac1と直接相互作用する因子を同定するため,OsRac1 Affinity Chromatographyを行った。その結果, 7つのWD40リピートをもつReceptor for activated C-kinase 1 (RACK1)と相同性のあるRWD(Rice protein containing the WD-40 repeat)/OsRACK1を同定した。そこで,RWDの耐病性における機能解析を行った。RNAi発現抑制体は,カルスからの再生植物が得られず再分化直後の致死が観察された。一方,RWD過剰発現体は植物体として正常に生育し,病原性いもち病菌に対して強い抵抗性が観察された。加えて抵抗性反応のマーカーであるPBZ1は高発現していることがわかった。さらに,スフィンゴ脂質エリシター処理により,RWD過剰発現および発現抑制どちらの培養細胞においても活性酸素種の生成が全く観察されなかった。また,ヘテロ三量体Gタンパクαサブユニット変異体では,RWDタンパク質量が減少していることがわかった。以上のことから,RWD遺伝子は,Gタンパク質を介した抵抗性反応を誘導することが示唆された。現在,OsRac1とRWDとのin vivoでの相互作用をFRET解析により調べ,OsRac1との関わりおよび,RWDの耐病性における詳細な機能を解析中である。
  • 高橋 弘喜, 中島 綾子, 川崎 努, 島本 功
    p. 227
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物は、病原微生物に対して「植物免疫」と呼ばれる生体防御機構を備えており、病原微生物の侵入認識後、一過的な活性酸素種の生成、防御遺伝子群の発現制御等、様々な抵抗性反応を誘導する。我々はこれまで、低分子量Gタンパク質OsRac1が様々なエフェクターとの相互作用を介して、種々の抵抗性反応を誘導する重要な因子であることを明らかにしてきた。一方で、植物は抵抗性(R)遺伝子産物(タンパク質)による病原微生物の特異的認識によって抵抗性反応を発揮する。同定されたRタンパク質の多くがNB(nucleotide binding site)-LRR(leucine rich repeat)構造を持つことが明らかにされている。当研究室におけるアフィニティクロマトグラフィを用いた解析によるOsRac1との相互作用因子の探索から、NB-LRR型構造を有するタンパク質が数多く同定された。このことは、OsRac1がRタンパク質を介した病原体認識において機能していることを示唆する。本研究では、Rタンパク質とOsRac1との相互作用を詳細に解析するために、酵母two-hybrid法、in vitroのpull down assayによってRタンパク質に高く保存された構造であるNB領域とOsRac1との相互作用を確認した。現在、他のRタンパク質とOsRac1との相互作用解析をさらに進めている。
  • 高橋 章, Agrawal Ganesh, 山崎 宗郎, 小野里 桂, 宮尾 安藝雄, 廣近 洋彦
    p. 228
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    レトロトランスポゾンTos17の挿入によりOsPti1a遺伝子の機能が欠損した変異体では、葉に擬似病斑が形成され、それに伴いPR遺伝子群の発現誘導、ファイトアレキシンの蓄積、および親和性いもち病菌に対して抵抗性が誘導される。また、OsPti1aを過剰発現させた形質転換イネでは、非親和性いもち病菌に対して抵抗性の減少がみられたことから、OsPti1aはイネにおいて耐病性シグナル伝達を負に制御していると考えられた。今回我々は、OsPti1aが抵抗性(R)遺伝子によって誘導される耐病性シグナル伝達に関与しているか調べるため、遺伝学的にさまざまな植物種でR遺伝子の機能発現に要求されるRAR1遺伝子との関係について解析した。ospti1a変異体においてOsRAR1遺伝子の発現を抑制した結果、擬似病斑の形成およびPR遺伝子群の発現誘導が顕著に抑制された。すなわち、OsPti1aOsRAR1を介してR遺伝子により制御される耐病性シグナル伝達を負に制御している可能性が示唆された。また、トマトのLePti1ospti1a変異体に導入することにより、変異体で見られる一連の表現型が抑制された。これまでにLePti1は過敏感反応(HR)の誘導を正に制御していることが報告されている。しかしながら、イネにおいては、細胞死および耐病性シグナルを負に制御していると考えられることから、トマトとイネにおいては遺伝子の機能は保存されているが、耐病性シグナル伝達の分子機構は異なると考えられる。
  • 加星(岸) 光子, Agrawal Ganesh Kumar, 渡辺 恒暁, 宮尾 安藝雄, 廣近 洋彦
    p. 229
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Mitogen-activated protein kinase (MAPK) cascadeは細胞に加えられる様々な刺激を下流に伝え、応答を引き起こす重要な因子として真核生物に広く保存されている。植物のMAPKで最も解析が進められているタバコSIPKは、傷害、病原体感染などで活性化され抵抗性反応を誘導すると考えられており、実際にストレス応答性のエチレン合成を引き起こす。イネはシロイヌナズナに一次構造上対応する多くのMAPKを持つが、その機能については多くが不明である。タバコSIPK、シロイヌナズナAtMPK6オルソログと想定されるOsMPK2はSIPK同様、エリシターによる急速な活性化が見られるが、サリチル酸による顕著な活性化は見られない。一方で、トランスポゾンTos17の挿入によりOsMPK2活性を完全に欠失した変異体は、野生型の培養細胞と比較して抵抗性関連の遺伝子発現が増加していた。また、この遺伝子発現はキチンオリゴマー、BTH処理によりさらに急激に増加した。このことから病原体に対する抵抗反応の過程において、OsMPK2はSIPKとは異なり抵抗性関連遺伝子の発現を負に制御すると考えられる。現在、OsMPK2とその上流リン酸化酵素と想定されるMAPKKについて、またAtMPK6の基質であるエチレン前駆体合成酵素のイネオルソログについて解析を行っている。
  • 岡田 敦, 岡田 憲典, 長村 吉晃, 南 栄一, 渋谷 直人, 野尻 秀昭, 山根 久和
    p. 230
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    イネ培養細胞にキチンエリシターを処理することにより、抗菌性二次代謝産物であるジテルペン型ファイトアレキシンが生産される。我々の研究グループは現在までにファイトアレキシン生合成に関与するジテルペン環化酵素遺伝子を6種全て単離しており、それらはいずれもエリシター処理後6時間から8時間を極大とする一過的な発現を示す。現在までにもイネ培養細胞のエリシター処理によるマイクロアレイ解析は行われているが、エリシター処理後2時間までのエリシター初期応答遺伝子の発現解析にとどまっていた。一般に植物の防御応答の中でファイトアレキシンの生産は比較的遅い応答であることが知られている。そこで、イネにおけるファイトアレキシン生産に関与する生合成酵素遺伝子およびそれらの発現を制御する発現制御因子の探索を目的として、エリシター処理後24時間までの培養細胞におけるエリシター応答性遺伝子の発現をマイクロアレイによって解析した。各遺伝子の発現プロファイルに基づくクラスター解析を行ったところ、ファイトアレキシンの生合成に関与する可能性が考えられる遺伝子や防御応答に関与することが予想される転写制御因子の遺伝子が、ファイトアレキシン生産に関与するジテルペン環化酵素遺伝子と同一のクラスターに存在することが分かった。
  • 岡田 憲典, 岡田 敦, 葛山 智久, 渋谷 直人, 野尻 秀昭, 山根 久和
    p. 231
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物は病原体の感染を受けると様々な抵抗性反応を示す。その一つとして抗菌性の低分子化合物であるファイトアレキシンの生産が知られている。イネにはゲラニルゲラニル二リン酸を前駆体とするジテルペン型ファイトアレキシンが14種存在しているが、我々はこれらの生合成に関与する遺伝子群の発現が、病原体の感染シグナルによって一過的に活性化されることを明らかにしてきた。今回はジテルペン型ファイトアレキシンの生合成経路の上流に位置しプラスチド特異的なイソペンテニル二リン酸生合成経路、メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路で働くと予想される遺伝子群が、エリシター処理により転写レベルで活性化することを見出したので報告する。イネ培養細胞を用いてエリシター処理後の経時的マイクロアレイ解析を行ったところ、MEP経路に関与すると思われる全ての遺伝子がファイトアレキシン生合成遺伝子群と同様の誘導的な発現変動を示した。RT-PCRの結果、これらの遺伝子の発現はファイトアレキシン生合成遺伝子群の発現プロファイルとよく一致し、エリシター処理後6~8時間で発現の極大を示した。この結果は、病原体感染時のファイトアレキシン生産の誘導がその生合成遺伝子の転写活性化のみならず、生合成初期段階であるMEP経路の遺伝子の協調的な発現誘導により制御されていることを示唆している。
  • 清水 崇史, 岡田 敦, 軸丸 裕介, 古賀 仁一郎, 梅村 賢司, 岡田 憲典, 野尻 秀昭, 山根 久和
    p. 232
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    我々はイネ植物体において、コール酸処理によってファイトアレキシン生産が誘導され、その中でもファイトカサン類が特異的に多量に生産されることを示した。しかし、コール酸によるファイトカサン類の特異的生産誘導機構については不明であった。そこで、本研究ではイネ培養細胞においてもコール酸によるファイトカサンの特異的生産誘導が見られるかどうかを調べるとともに、ファイトカサン生産に関与するジテルペン環化酵素遺伝子の発現に対するコール酸処理の影響についても追究し、コール酸によるファイトカサン特異的生産誘導機構について知見を得ることを試みた。イネ培養細胞をコール酸で処理し、培養液に分泌されるファイトアレキシンをLC-MS/MSで定量したところ、培養細胞においてもファイトカサン類を特異的に誘導することが確認された。また、ファイトカサン合成に関与するジテルペン環化酵素遺伝子OsCyc2OsDTC1とモミラクトン合成に関与するOsCyc1OsKS4の、コール酸処理時における発現量をqRT-PCRにより解析したところ、OsCyc2>>OsDTC1=OsKS4>OsCyc1の順であることが分かった。以上の結果、コール酸による特異的なファイトカサン類の生産誘導は、コール酸によるOsCyc2の特異的発現誘導がその原因の一つであることが強く示唆された。
  • 出崎 能丈, Venkatesh Barakrishan, 露無 慎二, 山根 久和, 南 栄一, 桐渕 協子, 賀来 華江, 渋谷 直人
    p. 233
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    近年、動植物の防御応答を誘導する共通的な機構として、微生物固有の分子パターン(Pathogen-Associated Molecular Pattern; PAMPs)認識に基づく防御応答が注目されている。細菌鞭毛成分のフラジェリンや糸状菌細胞壁を構成するキチン、βグルカン断片などは代表的なPAMPsと考えられ、その認識・応答機構に関する研究が進められている。
    一方、動物の先天性免疫において細菌由来のPAMPsとしての役割が注目されているリポ多糖(LPS)に関しては、いくつかの双子葉植物において過敏感反応抑制その他の活性が報告されているものの、単子葉植物に対する作用に関しては報告が無い。我々は昨年度の年会で、種々の細菌由来のLPSがイネ培養細胞の活性酸素応答、防御関連遺伝子発現などを誘導すること、またこの防御応答はプログラム細胞死を伴うことを報告した。一方、イネ培養細胞を低濃度のLPSで前処理しておくとその後のエリシター処理に対する防御応答の感受性が高まるという大変興味深い活性(priming/potentiation活性)も見いだされた。今回の発表ではLPSの示すこれら2つの生物活性についてさらに詳細に解析した結果およびこれらの活性に必要な構造要素、作用機構に関する検討結果を報告する。
  • 中条 哲也, 高井 亮太, 南 栄一, 長村 吉晃, 賀来 華江, 渋谷 直人, 安田 美智子, 仲下 英雄, 岡田 憲典, 野尻 秀昭, ...
    p. 234
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物は病原菌の感染を認識すると、様々な抵抗性反応を示す。イネにおいても、キチンオリゴマーやセレブロシドなどのエリシターによって PR タンパク質やファイトアレキシンの生産などの様々な抵抗性反応が誘導されることが知られている。我々は、イネの EST に対するマイクロアレイ解析から、少なくとも2種類のキチンエリシター応答性 WRKY 型転写因子(OsWRKY53、OsWRKY71)が存在していることを明らかにしてきた。WRKY 型転写因子は、エリシター応答配列(W-box)に特異的に結合し、防御関連遺伝子の発現制御に重要な役割を果たすことが知られている。今回は、OsWRKY71 の標的遺伝子のスクリーニング結果について報告する。OsWRKY71 過剰発現株を用いたマイクロアレイ解析の結果、キチナーゼなどの PR タンパク質遺伝子や、WRKY 遺伝子の発現が活性化されていた。また、これらの遺伝子群は全てキチンエリシター応答性であり、発現の極大もOsWRKY71 より1~2時間遅れることが示された。さらに、これらの遺伝子群の5'上流域には、W-box が複数存在していた。以上の結果から、キチンエリシター誘導のシグナル伝達経路において、OsWRKY71 がこれらの遺伝子群の発現を正に制御している可能性が極めて高いことが示された。
  • 高橋 秀行, 松村 英生, 川合 真紀, 内宮 博文
    p. 235
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    イモチ病菌由来のエリシターを処理したイネカルスは細胞死を引き起こす。その過程において、ROS生成や様々な防御遺伝子の発現が誘導される。我々はエリシターが植物細胞に与える影響を明らかにするために、代謝物の変動をキャピラリー電気泳動質量分析装置(CE/MS)を用いて調査した。エリシター処理によって抗酸化物質や遊離アミノ酸量が増加したのに対して、クエン酸や2-オキソグルタル酸などTCA 回路に関わる代謝物は著しく減少した。また、今回定量した代謝物の中で、γアミノ酪酸(GABA)は最も大きな増加を示したことから、 GABA経路に注目しGABAの合成・分解に関わる酵素活性を比較した。TCA回路から GABA経路への反応を触媒するアラニンアミノ基転移酵素、グルタミン酸脱水素酵素では、活性に変化は見られなかった。またグルタミン酸脱炭酸酵素ではエリシター処理から8時間後に活性の低下が確認された。しかしGABAアミノ基転移酵素(GABA-T)は、エリシター処理から4時間後に活性が激減した。エリシター処理による GABAの増加は、分解系の停止と推察され、細胞死との関係が示唆された。
  • 霜野 真幸, 菅野 正治, 姜 昌杰, 高辻 博志
    p. 236
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    plant activatorとして知られるBTH は、アラビドプシスやタバコにおいて、全身獲得抵抗性 (SAR)に関与するサリチル酸 (SA) シグナル伝達経路を活性化することが知られている。一方、イネにおいては、SAシグナル伝達経路に関する知見は乏しい。我々はこれまでに、BTH処理イネのマイクロアレイ解析によって4種類のWRKY型転写因子を含む多数のBTH誘導性遺伝子を同定した。
    BTH誘導性WRKY型転写因子の中の1つOsWRKY45 のRNAi抑制植物では、BTH誘導性いもち病抵抗性が失われていることがわかった。また、OsWRKY45過剰発現体(OsWRKY45-ox)ではいもち病抵抗性が顕著に向上していた。これらの結果から、OsWRKY45がBTHで誘導されるいもち病抵抗性において重要な働きをしていることが示された。OsWRKY45-ox植物では、グロース・チャンバー(GC)生育時にはPR1bおよびPR2が恒常的に発現しているのに対し、温室生育時にはこれらのPR遺伝子が発現していないことがわかった。また、GC生育時には生育が若干遅延するのに対し、温室生育時には生育はほぼ正常であった。これらの結果について、BTHの作用様式の特徴として考えられているpotentiationの観点から考察する。
  • 青木 考, 矢野 健太郎, 須田 邦裕, 鈴木 達哉, 金子 洋平, 津金 胤昭, 渡邊 学, 櫻井 望, 鈴木 秀幸, 柴田 大輔
    p. 237
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    トマト(Solanaceae lycopersicum)における機能ゲノミクス研究を推進するために、現在国際コンソーシアム主導で行なわれているトマトゲノム解読プロジェクトと並行して、我々はトマト(矮性トマト、マイクロトム)の完全長cDNAクローンの取得および配列解読を行なっている。
    病原微生物を接種したトマト葉および成熟中のトマト果実から、2つの完全長cDNAライブラリーが作製されている。現在のところ葉ライブラリーから37,632クローン、果実ライブラリーから9,794クローンの5‘端読みが完了している(2005年11月段階)。葉コンティグの30%および果実コンティグの25%が、シロイヌナズナに相同遺伝子を持たないトマト遺伝子由来であると推定された。トマト葉・果実コンティグの機能分布は、アラビドプシス全遺伝子の機能分布と若干異なっていた。特に、アラビドプシスに相同遺伝子の見られないトマトコンティグの機能分布は、「キナーゼ」「DNA/RNA結合」「タンパク質結合」といったカテゴリーに属するものの割合が、全トマトコンティグでの分布と比較して多くなっていた。この結果は、遺伝子の種類により多様化の程度が異なっていることを示していると思われる。完全長クローン情報はMiBASE(http://www.kazusa.or.jp/jsol/microtom/)から公開している。
  • 島村 克好, 松原 紀嘉, 児玉 浩明, 安藤 敏夫
    p. 238
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    ペチュニアは世界中で親しまれている園芸植物である。また、モデル植物としてもペチュニアは重要であり、花卉植物の研究で広く用いられている。花卉植物の遺伝子工学的な手法を用いての研究・育種が多くの成果を挙げつつある現在、網羅的な遺伝子発現解析はそれらに多くの情報を提供すると考えられる。
    そこで我々はペチュニアの花部から単離したRNAより完全長cDNAライブラリーを構築し、EST解析を行った。ペチュニアの原種であるP.axillarisP.integrifoliaを交配させて得られたF1は、多くの園芸品種の祖先種であると考えられている。ペチュニアの様々な品種、変異種、系統の発現解析に汎用的に用いることを考え、このF1の花部をcDNAライブラリーの材料として使用した。任意のcDNAクローン4,800種を解析した結果、配列の異なる2,976種のcDNAを得た。これらのcDNAクローンを用いてcDNAマイクロアレイを作製した。現在cDNAマイクロアレイの特徴を調べるための基本的な発現解析を行っている。
  • 櫻井 哲也, 楠城 時彦, 十時 泰, 秋山 顕治, 湯口 雅大, 豊田 敦, 榊 佳之, 篠原 健司, 斉藤 和季, 篠崎 一雄
    p. 239
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    樹木は、バイオマス利用や地球環境の保全にとって重要である。ポプラは、モデル樹木として注目され、木本植物として初めて全ゲノム塩基配列が解読された。樹木の生理機能を正しく理解するためには、ゲノム情報のみでは不十分であり、cDNAコレクションなどのリソース整備が不可欠である。森林総合研究所と理化学研究所は、ポプラ(セイヨウハコヤナギ、Populus nigra var. italica)のEST解析を進めており、これまでに数千種の完全長cDNAを収集し公開している。世界に先駆けた樹木の完全長cDNA収集は、植物科学の発展に貢献するものであり、現在も継続してポプラ完全長cDNAリソースの拡充を図っている。
    一方、ポプラに関する情報が増加しているにもかかわらず、データ検索等のツール提供は少なく、特にcDNA関連情報は乏しい。そこで我々は、これまでに収集した約3万の完全長cDNAについて、ゲノム配列上の物理的な位置情報を始めとしたアノテーションや他植物種の関連情報等をデータベース化し、ツールとして実装した。本発表では、データベースの紹介のほか、これらcDNA解析の結果についても報告する。
  • Yasukazu Nakamura, Erika Asamizu, Takakazu Kaneko, Tomohiko Kato, Shus ...
    p. 240
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    After contributing to the international Arabidopsis genome sequencing project, we are in the process of genome sequence analysis of a leguminous plant Lotus japonicus to understand the genetic system of legume species. L. japonicus is a typical model plant with the following characteristics: short regeneration time, diploidy (n=6) and estimated genome size (ca. 470 Mb) is small. A large number of ESTs have been accumulated and high-density linkage maps of all six chromosomes have been generated. Using the information on ESTs and cDNA markers of legume plants, genomic clones corresponding to the multiple seed points of the genome have been chosen as initial targets. As the accumulation of the seed sequences has progressed, clone selection by walking has also initiated. The sequence data, gene information and mapping information of L. japonicus are available at http://www.kazusa.or.jp/lotus/.
  • 佐藤 修正, 中村 保一, 金子 貴一, 浅水 恵理香, 加藤 友彦, 笹本 茂美, 小野 章子, 渡邊 安希子, 田畑 哲之
    p. 241
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    ゲノム解析プロジェクトの進展に伴いミヤコグサのゲノム配列情報とその位置情報が蓄積され、それらの情報を利用した比較ゲノム解析を行うことが可能となっている。我々はミヤコグサのゲノム情報を他のマメ科植物に応用することを目的として、ゲノム配列解析が進行しているタルウマゴヤシを中心に、ミヤコグサと他のマメ科植物との間のシンテニー解析を進めている。
    タルウマゴヤシとのシンテニー解析は、ミヤコグサゲノム上に予測された個々の遺伝子について、対応するタルウマゴヤシのオルソログ候補を同定し、その遺伝子配置を比較することにより行っている。2005年11月現在、調査したミヤコグサクローンの半数以上について3遺伝子以上で構成されるシンテニー関係を示すタルウマゴヤシクローンが検出されている。解析時点でどちらのゲノムプロジェクトも遺伝子領域の6割程度の解析が終了した段階であることを考慮すると、この割合は十分に高いものと考えられる。また、検出されたシンテニー領域をそれぞれのクローンのマップ位置にプロットした結果、連続した領域での対応関係が認められ、マクロレベルのシンテニーも検出されている。
    本発表では、最新のゲノム情報を利用したシンテニー解析の結果について紹介するとともに、cDNAマーカーの情報を利用して進めているミヤコグサとダイズ、アカクローバーとの間のシンテニー解析についても言及する。
  • 永井 武志, 太田 にじ
    p. 242
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Cyanidium caldarium RK-1株はCyanidioschyzon merolae 10D株と同じく原始紅藻類に属し、高温酸性の温泉に生育している。C. caldarium RK-1株は日本が原産で、日本で発見された株である(Fukuda and Nagashima)。しかし、ドイツ等でも由来の異なる株がRK-1株として用いられていており、日本のRK-1株とは色素体の塩基配列がかなり異なっていることが知られている(Ohta et al. 1997)。いくつかの色素体の遺伝子をもとに系統樹を描くと、日本産のC. caldarium RK-1は、他のC. caldarium よりもC. merolaeと近縁であることがわかった。さらに形態学的に異なる同属のGaldieria maxma とより近縁であることが示唆された。
    以前の研究によりC. caldarium RK-1の色素体ゲノムの予想されるサイズはおよそ150kbpで、現在その約75%の塩基配列の解析が終了している。多くの遺伝子はC. meloraeと高い相同性を示し、遺伝子の配列もドイツのRK-1株よりもC. meloraeに近い部分が多く見られた。その一方で遺伝子の並びが異なる場所も見つかった。
  • 加藤 祐樹, 山下 麻美, 仲村 亮正, 須澤 朋之, 渡辺 正
    p. 243
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    光合成明反応は、電子伝達鎖に存する機能分子群の酸化還元電位が絶妙に調節されていることで、量子収率がほぼ1と驚異的な効率で反応が進む。しかし、酸化還元電位の多くは未だに正確に判明しておらず、光化学系(PS)I初期電子ドナーP700の酸化還元電位でさえ、過去の報告では+375 mV~+525 mV vs. SHEと大きな幅をもつ。その原因として、試料分画法の違いや測定精度の低さにあると考えられるが、P700酸化還元電位が従来の定説に反し、生物種によって大きく異なる可能性もある。
    そこで、P700酸化還元電位の生物種依存性を検証するために、薄層電解セルによる分光電気化学測定法によって精密に計測できる条件を確立した。結果、生物種による差異を初めて見出した。本研究では、P700酸化還元電位の生物種依存性の要因を探ることとした。
    各生物のP700酸化還元電位が、P700+を還元する電子伝達タンパク質の種類に応じて系統的に異なることが示唆された。したがって、P700近傍の電子伝達タンパク質結合サイトに存在する荷電性アミノ酸残基とP700+間の静電相互作用が生物種によって異なることでP700酸化還元電位の差異が生じている可能性が考えられる。このことを検証するため、pHを変化することでP700近傍アミノ酸残基の荷電性を制御し、それがP700レドックス電位に及ぼす影響について調べた。
  • Komenda Josef, 小村 正行, Ughy Bettina, Domonkos Ildiko, Sallai Anna, 福島 佳 ...
    p. 244
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    フォスファチジルグリセロール合成酵素(pgsA)を欠くシアノバクテリアSnechocystisを、PG欠乏状態で培養すると光化学系II反応中心のCP47,CP43蛋白質が欠乏することをタンパク質解析で示した。PG欠乏条件下では非会合型のこれら色素タンパク質が蓄積した。77Kでは、CP47 から出る694nm蛍光は弱く、一方684nm蛍光は強く長い寿命を示し、684->694nmの励起エネルギー移動の抑制が推定された。PSIの730nm蛍光もまた減少し、PSIの3量体構造の変化が示された。これらの結果はPGがPSII/Iの機能と分子構築に必須であることを示している
  • 村上 広海, 柴田 穣, 三野 広幸, 伊藤 繁
    p. 245
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    ホウレンソウ光化学系(PS)I反応中心のキノンの入れ替えた。エーテル処理PSIはP700 からA0 (Chla)の電子移動 (ET) 活性を維持し、人工キノンを再構成することで、FeSまで電子移動する。人工キノンを再構成することは従来持っていなかったエネルギーギャップの系を作ることができる。様々な人工キノンを持ったPSIで、A0―キノン、キノンーFeS 間のET は詳しく調べられている。我々は、キノンからP700への電荷再結合の電子移動について詳しく研究した。無処理PSIでのフィロキノンからP700への電荷再結合は、ほとんど温度依存性を持たないことはBrettel 等によって確かめられている(150-200 μs)。 今回は、人工キノンを再構成して、エネルギーギャップが違う場合について、温度依存性を分光測定、時間分解ESRで調べた。また、人工キノンが再構成されているかを調べるのにESRを用いて、スピン分極を見た。様々な酸化還元電位(A0~Fxの間の酸化還元電位)の人工キノンからP700への電荷再結合は、ほとんど温度依存性を持たない速度(~1ms)だった。また、酸化還元電位の違いによる速度の変化は小さかった。
    エネルギーギャップを変えても人工キノンからP700への電荷再結合の速度は、温度依存性をほとんど示さなかった。また、エネルギーギャップの違いによる、電荷再結合の速度も、ほとんど違いを示さなかった。エネルギーギャップの逆転領域での反応速度を議論する。
  • 大橋 俊介, 細田 定正, 福代 壮二郎, 井上 英俊, 土屋 徹, 宮下 英明, 三室 守, 小林 正美
    p. 246
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    酸素発生型光合成生物は光化学系1(PS1)と光化学系2(PS2)を持ち、クロロフィル a(Chl a)が主要色素として機能している。ところが、1996年に発見された海洋原核藻類Acaryochloris marinaでは、他の酸素発生型光合成生物とは異なりChl dが主要色素であった。また、陸生のシアノバクテリアGloeobacter violaceus PCC7471は、他のバクテリアと異なりチラコイド膜を持たず、光合成細菌と同様に細胞内膜中に光化学系を持つ。G. violaceusは最も始原的なシアノバクテリアとみなされており、Chl aを主要色素としている。
    本研究では、これらのPSΙの2次電子受容体(A1)の同定を試みた。その結果、A. marinaでは藻類・高等植物と同じフィロキノン(PhQ)が、G. violaceusではメナキノン(MQ)-4 がA1として機能していることを明らかにした。キノンの観点からも、G. violaceusが非常に始原的なシアノバクテリアであると言える。
  • 池田 洋平, 佐藤 和彦, 菓子野 康浩
    p. 247
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    珪藻類は地球環境における一次生産者として重要な役割を担っている。しかしながら、珪藻の光化学系複合体に関する生化学的研究は乏しい。私たちは珪藻類の光化学系の全容を解明することを目指している。そこで本研究では、中心目珪藻の光化学系I(系I)複合体を精製し、その生化学的・分光学的な分析を詳細に行った。
    中心目珪藻C. gracilisのチラコイド膜をn-dodecyl-β-D-maltosideを用いて可溶化した後、ショ糖密度勾配遠心とゲルろ過クロマトグラフィによって、系I複合体を精製した。Blue native電気泳動の結果から、精製した系I複合体の推定分子量は約1,000 kDaであった。これをさらに変性条件で二次元目に展開したところ、約20 kDaのfucoxanthin-chlorophyll binding protein (FCP)が強固に結合していた。これらの結果を基に、ラン色細菌と高等植物の系I複合体との比較を行った。また分光学的な分析から、77 Kにおける蛍光スペクトルのピークが710 nmにあり、様々な生物から報告されている系I複合体のものよりも10 nm以上短波長側にあった。現在までのところラン色細菌G. violaceusのみが同様の例外として報告されている。さらに常温吸収スペクトルにも他の系I複合体にはない特徴があったので、これについて報告する。
  • 近藤 久益子, 落合 有里子, 片山 光徳, 池内 昌彦
    p. 248
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    フィコビリソームはシアノバクテリアや紅藻で光化学系の主要な集光装置どして機能するタンパク質複合体である。CpcGタンパク質はフィコビリソームのロッドとコアを連結するリンカーであると言われていた。我々はこれまでに、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803の遺伝子破壊株を用いた実験から、2コピーのCpcGタンパク質(CpcG1とCpcG2)がフィコビリソームの形成や光化学系へのエネルギー伝達において異なる機能を持つことを明らかにした。CpcG1が形成するフィコビリソームはほぼ全ての構成蛋白質を含むが、 CpcG2が形成するフィコビリソームは主要なコアの構成蛋白質アロフィコシアニンα・βを欠いていた。一方でこのCpcG2が形成するフィコビリソームは、アロフィコアシアニン様の低温蛍光スペクトルをしめし、マイナーなアロフィコシアニンの存在が示唆されていた。ところが今回、二次元電気泳動とウェスタン解析を行ったがアロフィコシアニンは検出されず、スペクトル特性はCpcG2によって生じていることが示唆された。さらに現在、大腸菌で発現させたCpcG1およびCpcG2を用いてフィコビリソームの再構成を試みている。これらの結果は、CpcGがそれぞれ独自の機能を持つように進化し、光化学系との相互作用を決定する重要な要素の一つとなっていることを示唆している。
  • 佐藤 壮志, 仲本 準
    p. 249
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    分子シャペロンHsp90ファミリーの一員である大腸菌HtpGの結晶構造が最近決定されたが、その標的タンパク質は同定されておらず機能解析は進んでいない。我々はシアノバクテリアSynechococcus sp. PCC 7942株のhtpG遺伝子破壊株を構築し、HtpGが高温下における熱耐性の獲得に必須であることを初めて明らかにした。さらに、この変異株の、通常培養条件下におけるフィコシアニン量が減少していたことから、HtpGの標的タンパク質(複合体)が集光性色素タンパク質会合体フィコビリソームではないかと考えた。野生株と破壊株からフィコビリソームをショ糖密度勾配超遠心分離法により精製すると破壊株のものが軽い画分に存在し、SDS-PAGEで解析するとフィコシアニンの吸収特性を調節し安定化に寄与すると考えられているリンカーポリペプチドの1つである30 kDaリンカーポリペプチドが破壊株で減少していた。そこで30 kDaリンカーポリペプチドを大腸菌で大量発現し精製した。このリンカーポリペプチドのHis-tag融合タンパク質は45℃の熱処理で変性し、360 nmの光散乱強度が増加したが、HtpG(2量体)をモル比1:1で加えるとその光散乱がほぼ完全に抑制された。現在、リンカーポリペプチドとHtpGの複合体の単離と結晶化を試みている。
  • 佐藤 慎一郎, 森脇 義仁, 濱田 純也, 朝井 計, 仲本 準
    p. 250
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Synechocystis sp. PCC6803株においては9つのσ因子が同定されており、これらは三つのグループに分類されている。グループ3σ因子は構造的に主要σ因子とは異なり、一般的なストレス応答に関与すると考えられているが、シアノバクテリアにおけるグループ3σ因子の機能は未だ解析されていない。我々はグループ3σ因子SigGの機能解明を目的にして、sigG破壊株を作製し、まず通常培養条件における表現型を解析した。sigGは完全に破壊することが出来ず、部分二倍体として存在し、生存に必須であることが示唆された。通常培養条件においてΔsigG株の生育速度は野生株と比較して著しく低下していたことから、sigAの発現にSigGが関与していると仮定した。ノーザンブロット法により、sigAの転写産物を解析したところ、ΔsigG株においてこのmRNAが著しく減少していた。同様に、ウエスタンブロット解析においてもSigAの減少が見られた。またΔsigG株は酸化ストレスに感受性で、酸化ストレス下で誘導されるslr1738の転写産物量はΔsigG株において減少しておりSigGのslr1738の転写への関与が示唆された。野生株、ΔsigGそれぞれからRNAを抽出し、プライマー伸長法によりsigAslr1738の転写開始点を同定し、現在更なる解析を進めている。
  • 渡邉 達郎, 内海 宏幸, 仲本 準
    p. 251
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    熱ショックタンパク質(HSP)の一種である低分子量HSP(sHSP)はすべての生物界に普遍的に存在しており、in vitroでは、sHSPはタンパク質の熱変性凝集を防ぐ機能を有することが報告されている。当研究室の先行研究により、培養液へのメチルビオローゲンの添加によりシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のsHSPの発現が誘導されることが示された。そこで、本研究ではsHSPによる酸化ストレス防御機構の解明を目的として、Synechocystis sp. PCC 6803のsHSP遺伝子破壊株の酸化ストレス下における表現型を解析した。
    sHSP遺伝子破壊株は5 μMのメチルビオローゲン存在下では野生株に比べて、生育阻害や生存率の低下が見られた。またメチルビオローゲン処理下での吸収スペクトルの経時変化を野生株と破壊株で比較したところ、破壊株ではクロロフィル、カロテノイド、フィコシアニンの減少が著しかった。以上の結果よりsHSPの酸化ストレス耐性への寄与が示唆された。現在は、sHSPが酸化ストレス下で相互作用する標的タンパク質の探索を行なっている。
Top