日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第47回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の1013件中51~100を表示しています
  • 田中 義人, WADITEE Rungaroon, 青木 健治, 日比野 隆, 高倍 鉄子, 高倍 昭洋
    p. 051
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    最近,私たちは耐塩性ラン藻Aphanothece halophytica がグリシンを基質として3段階のメチル化反応によってグリシンベタインを合成することを見い出した。A. halophytica におけるグリシンベタイン生合成はグリシンからサルコシンおよびサルコシンからジメチルグリシンへのメチル化反応を触媒するグリシンサルコシンメチルトランスフェラーゼ(ApGSMT)およびジメチルグリシンからグリシンベタインへのメチル化反応を触媒するジメチルグリシンメチルトランスフェラーゼ(ApDMT)により行われる。今回、これらメチル基転移酵素遺伝子を導入した形質転換植物を作成し、そのストレス耐性能について検討した。ApGSMT/ApDMT形質転換体では葉、茎、根のすべてで1~1.5μmolグリシンベタイン/g生重量であった。種子の発芽、発芽後の生育、生殖成長において、野生型よりもストレス耐性が付与されていることが明らかになった。グリシンベタイン合成に対するN-メチル基転移酵素の有効性がみられる理由として、基質(グリシン、セリン、S-アデノシル-L-メチオニン)について検討した。これらの結果について報告する。
  • 浅野 友吾, 山本 淳子, 田中 義人, 日比野 隆, 酒巻 史郎, 江坂 宗春, 大羽 和子, 高倍 昭洋
    p. 052
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    アスコルビン酸酸化酵素(AAO)はアポプラストに存在し、アスコルビン酸をモノデヒドロアスコルビン酸に酸化する酵素である。この酵素の生理的役割を明らかにするため、タバコAAO遺伝子をタバコにおいて強発現させたセンス形質転換体とその発現を抑えたアンチセンス形質転換体を作出した。その結果、センス組み換え体では野生型(WT)よりビタミンC量が減少し、アンチセンス組み換え体ではビタミンC量がわずかであるが増加した。AAOのストレス防御に果たす役割を明らかにするため、組み換え植物の塩および酸化ストレス耐性について調べた。通常条件下では、WT、センス、アンチセンスの3種に大きな違いはみられなかったが、高塩濃度下では、発芽率、光合成活性、種子収量等においてアンチセンスで高く、センスで低いことが明らかになった。このことは、環境ストレス耐性にとって、アポプラストのAAOの発現を抑制することが重要であることを示している。さらに、AAO遺伝子にT-DNAが挿入された変異体を用いた実験の結果、アラビドプシスが持つ3つのAAO遺伝子のうちの1つがアラビドプシスのAAO活性の大部分を占めることが明らかになった。また、アラビドプシスのストレス耐性にとって、AAOの抑制が重要であることを示す結果が得られた。
  • 山口 公志, 高橋 芳弘, ベルベリッヒ トーマス, 今井 章裕, 宮嵜 厚, 高橋 卓, 草野 友延
    p. 053
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    ポリアミンは全ての生物に存在しており、一般的にプトレッシン、スペルミジン、スペルミンが主要構成成分である。これまでポリアミンは植物の塩ストレス反応において重要な役割を果たすことが報告されているが、その詳細は不明である。シロイヌナズナには二種のスペルミン合成酵素遺伝子(SPMSACL5)が存在し、これらの遺伝子産物がスペルミジンにアミノプロピル基を付加することでスペルミンが合成される。今回、植物体内にスペルミンを合成できない植物体であるスペルミン合成欠損株(acl5/spms)を用い、塩ストレス応答時のスペルミンの役割を検討した。
    播種後10日目の実生を225mM NaClを含むMS培地に移すことで、塩ストレスを植物に与えた。その結果、スペルミン合成欠損株は塩ストレスに対して野生株よりも感受性が高いこと、この塩に対するスペルミン合成欠損株の高感受性は外部からプトレッシンやスペルミジンを加えても回復しないがスペルミンを加えることで回復すること、また野生型にスペルミジン・スペルミン合成酵素の阻害剤であるシクロへキシルアミンを加えると塩に高感受性になること、を明らかとした。これらの結果から、塩ストレス環境下での植物の耐性にスペルミンが関与していることが強く示唆された。
  • 李 城信, ベルベリッヒ トーマス, 宮嵜 厚, 草野 友延
    p. 054
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    イネ低温誘導性遺伝子lip19(the gene encoding low-temperature induced protein, clone #19)は、特徴的な塩基性領域に続き7アミノ酸ごとにロイシンが9回繰り返される148個のアミノ酸からなるbZIPタンパク質をコードする。シロイヌナズナの場合、全ゲノム解析により75個のbZIPタンパク質をコードする遺伝子が存在し、共通のドメインに基づいて10のグループ(A-IそしてS)に分類されている。本研究ではSグループのメンバーの中で構造的にlip19と高い相同性を示したAtbZIP2AtbZIP11及びAtbZIP53を選択し、分子生物学的アプローチを用いてこれらの遺伝子の特徴付けを行った。3つの遺伝子の産物は全て核に局在し、ACGT をコアとするhexamer やC/G box hybridと呼ばれるDNA配列に強く結合した。また、これらのbZIPタンパク質はいずれも転写活性化因子であった。これら遺伝子の機能を明らかにするために様々な非生物学的なストレスやホルモン処理に対する発現解析を行ったところ、AtbZIP11はcytokininに、AtbZIP53は塩ストレスに特徴的に応答することを見出した。さらに詳細な解析を行うために、現在この二つの遺伝子の過剰発現植物を作成し研究を進めている。
  • 永島 明知, 前田 英樹, 華岡 光正, 高木 智子, 永田 典子, 本橋 令子, 篠崎 一雄, 西田 育郎, 酒井 達也, 田中 寛
    p. 055
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体には独自のゲノムが存在し、植物細胞の分化や外部環境に即した遺伝子発現制御がなされている。葉緑体の転写装置であるRNAポリメラーゼにはバクテリア型のPEPとT7ファージ型のNEPが存在する。そして、光合成遺伝子の転写は基本的にPEPによるが、このPEPの活性に必須な核コードシグマ因子には複数種が存在し、状況に応じた遺伝子活性化を行っていると考えられる。シロイヌナズナでは6種のシグマ因子(SIG1-6)が同定され、機能解析が進められている。
    アブラナ科のシロイヌナズナでは、登熟期種子中葉緑体の機能が炭素代謝・脂質合成に重要である。今回我々は種子葉緑体の機能に着目し、この機能構築に関わるシグマ因子の探索を行った。その結果、SIG2欠損株(T-DNA挿入変異;sig2-2)とSIG6欠損株(トランスポゾンAC/DS 挿入型変異;sig6-2)において、登熟期種子の緑化が著しく阻害されていることを見いだした。in situハイブリダイゼーションの結果によれば、SIG2とSIG6は登熟期種子胚全体で発現している。一方、登熟初期種子胚の電子顕微鏡観察により、sig6-2 株で葉緑体チラコイドが1-2層しか発達していないのに対し、sig2-2株では野生株と同様であることが判明した。種子中トリアシルグリセロール含量を測定した結果、sig6-2株では約3割、sig2-2株では約1.7割の低下が観察された。以上の結果は、種子葉緑体の機能構築におけるSIG2とSIG6の異なる側面での重要性を示すものである。
  • 前田 英樹, 永島 明知, 華岡 光正, 本橋 令子, 篠崎 一雄, 田中 寛
    p. 056
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体遺伝子の転写には、T7ファージ型(NEP)と、バクテリア型(PEP)の2種類のRNAポリメラーゼが関与することが知られている。そのうち、主に光合成遺伝子の転写に関わるPEPはコア酵素とシグマ因子から構成されているが、コア酵素を構成するサブユニットが葉緑体ゲノムにコードされている一方で、プロモーター認識に関わるシグマ因子は核ゲノムにコードされており、核から葉緑体への情報伝達の一端を担っていると考えられる。シロイヌナズナには、6種のシグマ因子(SIG1~SIG6)が存在しており、各シグマ因子の役割分担が葉緑体遺伝子の転写制御において重要であると考えられる。
    現在我々は環境ストレス下におけるシグマ因子の役割について研究を進めており、SIG5の発現が様々なストレスにより誘導されることを既に示しているが、本研究ではそれに加えてSIG6の発現が低温ストレス特異的に誘導されることを見出した。SIG6遺伝子へのトランスポゾン挿入変異株であるsig6-2株では、野生株と比較して低温条件に移行した際に葉の黄化と生育の阻害が観察された。これらの結果から、SIG6は低温ストレス特異的に葉緑体遺伝子の転写に関わるシグマ因子である可能性が示唆された。現在、低温ストレス下でSIG6に転写される葉緑体遺伝子を特定するためDNAマイクロアレイ解析を進めており、その結果についても併せて報告する。
  • 藤原 誠, 箸本 春樹, 阿部 知子, 吉田 茂男, 佐藤 直樹, 伊藤 竜一
    p. 057
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体分裂には、進化的に保存されたバクテリア様分裂因子群と真核生物特有のダイナミン様タンパク質が関わる。前者のバクテリア様因子群はFtsZ、MinD、MinEの相同因子を含み、特に分裂初期に重要であると考えられている。今回我々は、シロイヌナズナの核コード葉緑体MinE(AtMinE1)の役割について、遺伝子過剰発現系統および発現抑制系統の葉緑体観察により解析した。
    AtMinE1の転写産物を野生型植物の約120倍蓄積した系統は、AtMinD1突然変異体(arc11-1)と同様の表現型を示し、葉肉細胞中に巨大葉緑体からミニ葉緑体に至る異型葉緑体を含んでいた。AtMinE1転写産物を野生型植物の1/4程度含むアンチセンス系統は弱い分裂阻害の表現型を示した。AtMinE1過剰発現系統の緑色組織にはマルチアレイ型またはダンベル型の分裂葉緑体が存在し、さらにダンベル型の分裂葉緑体は等分裂を行うものと不等分裂を行うものとが存在した。これらの結果は、AtMinE1が葉緑体の分裂位置決定に関わり、正常な葉緑体中央分裂は中央赤道面以外での分裂面形成阻止によって行われることを示唆した。さらに本発表では、AtMinE1過剰発現系統における葉緑体内部微細構造とFtsZリング形成状況の解析結果についても報告する。
  • 明賀 史純, 本橋 令子, 飯泉 治子, 秋山 顕治, 篠崎 一雄
    p. 058
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体は、構成するタンパク質の多くが核にコードされている。我々はシロイヌナズナの核コード葉緑体タンパク質の機能解析を目的に、葉緑体タンパク質変異体の大規模収集を行った。本研究で対象にした葉緑体タンパク質は、代表的な4つの予想プログラムで葉緑体に移行すると予想された 2,090 個とした。我々は、理研、NASC、Wisconsin、CSHL のトランスポゾンタグラインおよび SALK の T-DNA タグラインの中から葉緑体タンパク質を破壊したと考えられる 3,416 ラインを収集し、収集したタグラインからホモラインプールの作製を行っている。704 ラインの理研の Ds タグラインのホモライン化の過程で、アルビノまたは pale-green 変異体 (apg 変異体) や形態形成異常変異体が 55 ライン得られた。重複を除いた 33 個の Ds 挿入遺伝子が、表現型異常の原因遺伝子であることを明らかにするために、アレルの有無を調べた。 33 個の遺伝子の内、24 個は複数の変異体アレルが存在しており、その内 17 個が同じ表現型を示した。このことから、少なくとも 17 個の Ds 挿入遺伝子は、表現型異常の原因遺伝子であり、葉緑体形成に重要な遺伝子であると考えられた。今後、これらの葉緑体形成に重要な遺伝子の単離と共に、表現型に明らかな異常が見られないホモラインを用いた各種ストレスのスクリーニングを行い、ストレス関連の葉緑体タンパク質の機能を明らかにしていく予定である。
  • 野村 裕也, 小堀 麻紀, 角山 雄一, 岩岸 瑛里子, 中平 洋一, 椎名 隆
    p. 059
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    気孔の閉鎖運動に先立って、細胞質Ca2+濃度の一過的上昇が起こることが知られている。一般に、植物細胞のCa2+シグナリングには、細胞外からの流入、または小胞体や液胞などの細胞内Ca2+ストアからの放出が関係する。今回我々は、葉緑体チラコイド膜に局在するCa2+結合タンパク質CAS(Calcium sensing receptor)が、細胞外Ca2+が誘導する気孔閉鎖運動に関与していることを報告する。一回膜貫通タンパク質であるCASは当初、細胞膜に存在する細胞外Ca2+センサーとして報告された。しかし我々は、プロトプラスト一過的発現系および35Sプロモーターによる恒常的発現形質転換植物を使って、CASとGFP融合タンパク質の局在を詳細に解析し、CASが葉緑体チラコイド膜に特異的に存在するタンパク質であることを明らかにした。さらにCASのT-DNA挿入ノックアウト変異体では細胞外Ca2+依存的な気孔閉鎖機能が失われ、またCAS過剰発現体はわい性を示した。CASは光合成真核生物に広く存在する植物特異的なタンパク質で、その発現は葉緑体の発達と強く相関している。さらに、以前にCASのアンチセンス変異体では孔辺細胞のCa2+オシレーションが見られなくなることが報告されている。これらの結果は、葉緑体チラコイド膜に局在するCASが気孔閉鎖運動において何らかの重要な役割を果たしていることを示唆している。
  • 岸根 雅宏, 高林 厚史, 佐藤 文彦, 遠藤 剛
    p. 060
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体は、進化的にその起源を原核生物型の光合成細菌に持ち、遺伝子発現機構にも多くの共通点を含んでいる。我々は、葉緑体で機能する原核生物型RNaseの解析を通して、葉緑体における遺伝子発現の分子機構の解明と原核生物と葉緑体との相違点を明らかにすることを目指している。SALK instituteからシロイヌナズナの原核生物型RNaseホモログ破壊株を数ライン得て、それらから葉緑体機能に異常を示す破壊株を選抜した結果、3種の葉緑体RNase候補破壊株(RNase E、PNPaseおよびRNase E)を同定した(一昨年度本大会発表)。これらの破壊株において、ノザン解析により破壊遺伝子の発現を確認したところ、すべての破壊株で発現は認められなかった。また、それぞれの破壊株の表現型は単一劣性であり、抗生物質耐性とリンクしていることを確認し、破壊株の表現型が目的の遺伝子破壊に由来することが明らかとした。今回は、それらのうちRNase E破壊株についての解析結果を報告する。この変異株は、著しい生育の遅れ、葉色の淡化及び著しい光合成活性の低下が認められ、本酵素が葉緑体におけるRNA代謝において、重要な機能を果たしていることが示唆された。現在、葉緑体コード遺伝子のノザン解析によりRNase EのRNA代謝における機能解明を目指している。
  • 服部 満, 上松 総介, 西川 友子, 中村 崇裕, 三宅 博, 杉田 護
    p. 061
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物ゲノムには35アミノ酸モチーフを繰り返し持つpentatricopeptide repeat (PPR)蛋白質をコードする大きな遺伝子ファミリーが存在する。同遺伝子ファミリーはシロイヌナズナで460以上の遺伝子メンバーからなり、全PPR蛋白質の65%はミトコンドリアに15%は葉緑体に局在することが予想されている。これに対して、細菌、シアノバクテリア、藻類にはPPR蛋白質遺伝子がないが、初期陸上植物であるヒメツリガネゴケ(コケ植物)に同遺伝子ファミリーが存在する。ヒメツリガネゴケの全ゲノム配列データベースを検索して、これまでに92個のPPR蛋白質遺伝子を見いだした。このうち葉緑体に局在すると予想されるのは13個であった。我々はコケPPR蛋白質の細胞内局在性、遺伝子発現レベル、遺伝子破壊株における葉緑体遺伝子の発現に関する網羅的な解析を行っている。今回、葉緑体PPR蛋白質の機能を明らかにするため、遺伝子破壊株を作製しその性質を調べたので報告する。PPR531-11遺伝子破壊株においては、野生株よりもコケ原糸体の生長が顕著に遅延すること、及び茎葉体の葉緑体の数と形状に大きな差異を見いだした。このことから、PPR531-11が葉緑体の形成と細胞の成長に関与していることが強く示唆された。またPPR531-11遺伝子破壊株においては、プロテアーゼをコードするclpP遺伝子の前駆体RNAのプロセシングやスプライシングが顕著に低下していることを見いだした。
  • 吉岡 泰, 陳 玉玲, 浅野 智哉, 藤原 誠, 吉田 茂男, 町田 泰則
    p. 062
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのcrumpled leaf (crl)変異体ではプラスチドの分裂が阻害され1葉肉細胞あたりの葉緑体数が平均1.5個に減少すると共に、胚発生、茎頂分裂組織の構造、葉・根・茎・花の発生分化が異常となる。我々は葉緑体分裂に関与する遺伝子の一つであるftsZ1-1crlとの二重突然変異体が胚発生、茎頂分裂組織の構造、葉や根の発生分化においてcrl変異体よりもさらに顕著な異常を示す事を明らかにしたので報告する。crl ftsZ1-1二重突然変異体の胚では茎頂分裂組織を含む領域が拡大し約半数の胚が3つ以上の子葉原基を持っていた。発芽した二重突然変異体は様々な形態異常を示し、crlよりもさらに矮小で細く縁がいびつで斑の入った本葉を生じる個体、棒状の突起が生じる個体、根がほとんど伸長しない個体などが観察された。また、二重突然変異体の茎頂分裂組織にはL1, L2, L3に相当する細胞の層構造が存在しなかった。クロロフィル自家蛍光を指標として成熟胚における細胞あたりの葉緑体数を測定すると野生型、crl変異体、ftsZ1-1変異体の胚にくらべて二重突然変異体の胚には葉緑体を含まない細胞が多数存在していた。葉緑体を持たない細胞が多数胚に存在する事と二重突然変異体が示した様々な形態異常との関連を議論する予定である。
  • 山下 弘子, 鐘ケ江 健, 末次 憲之, 和田 正三, 門田 明雄
    p. 063
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    ヒメツリガネゴケおよびホウライシダにおいて、新規のRFPであるtdTomato (Shaner et al. 2004)を用いたアクチンフィラメントの可視化を試みた。我々はGFP-talinを安定に発現するヒメツリガネゴケ形質転換体を用い、光反応にともなうアクチン構造変化の動態を観察している。しかし、青色光反応を観察する場合、GFPの励起光と刺激光が同一であるため、詳細な解析が難しい。緑色光励起のRFPを用いることでこれは解決でき、また、GFPラベルの微小管との同時観察が可能になる。そこでラベルをtdTomatoに変えた融合遺伝子の安定形質転換体を作出し、アクチンフィラメントが観察されるか調べた。その結果、GFP-talinの場合と同様の動態を示すアクチンフィラメントが観察されることがわかった。一方、ホウライシダでは、これまでGFP-talin、DsRed-talin、DsRed2-talinを一過的に発現させた細胞で観察が試みられたが、アクチンフィラメントは十分に観察されていない。しかし、tdTomato-talinを導入することで、初めてその動態を観察することが可能となった。
  • 門田 明雄, 山田 岳, 佐藤 良勝, 及川 和聡, 中井 正人, 小倉 康裕, 笠原 賢洋, 加川 貴俊, 末次 憲之, 和田 正三
    p. 064
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体は細胞内でphototropin 1, 2に依存した集合反応・逃避反応を示す。アクチン・ミオシン系による運動と考えられているが、その機構は明らかでない。そこでGFP-talinによってアクチンフィラメントを可視化したシロイヌナズナの葉柄細胞を用いて、光運動反応に伴うアクチン構造の動態を調べた。その結果、葉緑体の表面には特徴的な短いアクチンフィラメントが存在し、光刺激による一方向的な運動に際して、その葉緑体上での局在が変化し、進行方向に偏ることがわかった。このアクチンフィラメント局在化はphototropin変異体では見られず、また、細胞内葉緑体分布の変異体chup1ではこのフィラメントそのものが観察されなかった。これらの事実は葉緑体の運動系にこれまで知られていない葉緑体特異的なアクチンフィラメントが働いていることを予想させる。
  • 林 朋美, 佐野 俊夫, 朽名 夏麿, 桧垣 匠, 馳澤 盛一郎
    p. 065
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    アクチン繊維は、植物細胞内において細胞の生存や形態形成に重要な役割を担うことが知られている。植物の細胞質分裂は微小管からなるフラグモプラスト構造内で細胞板が遠心的に形成され、細胞板が親細胞の細胞壁と融合することで完了する。この時期のアクチン繊維は微小管と似たフラグモプラスト様構造をとることが知られていたが、その詳細な構造や機能は明らかではない。そこで本研究では、細胞質分裂過程におけるアクチン繊維の機能を解析するために、アクチン繊維あるいは微小管を可視化した形質転換株BY-GF11とBY-GT16に細胞板構造を生体で可視化できるスチリル系色素FM4-64を用いて、これらの繊維構造と細胞板とを同時に可視化した。アクチン繊維あるいは微小管構造と細胞板構造の動態を経時的に観察した結果、アクチン繊維のフラグモプラスト様構造は微小管フラグモプラスト構造より遅れて出現し、また、微小管と比べて細胞板から離れて存在することが観察された。一方、細胞板は激しく振動しながら発達する様子が観察されたが、アクチンの重合阻害剤であるビステオネライドAを用いてアクチン繊維を破壊したところ、細胞板の振動が抑制され、細胞板が細胞壁に融合するまでにより長い時間を要した。これらの結果から、細胞板の発達にアクチン繊維が関わることが示唆された。
  • 桧垣 匠, 朽名 夏麿, 林 朋美, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎
    p. 066
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    アクチン繊維は植物細胞の生長や分裂に重要な役割を果たしている。しかし、細胞分裂におけるアクチン繊維の構造変化やその役割については不明な点も多い。我々はこれまでにアクチン繊維を可視化したタバコBY-2の形質転換細胞BY-GFを確立し、分裂中期の細胞表層部に2対のバンド様表層構造MFTP(microfilament twin peaks)が形成されること、このMFTPの中間の位置に細胞板が形成されることを見出してきた。
    本研究ではBY-GF細胞を同調培養し、分裂期の様々な時期にサイトカラシンDをパルス処理して一時的にアクチン繊維構造を破壊することで細胞板形成におけるアクチン繊維構造の役割について検討した。その結果、MFTPが出現する分裂中期の繊維構造を破壊したところ、歪んだ細胞板を持つ細胞が出現することを見出した。その一方で、フラグモプラスト様構造が見られる分裂終期の繊維構造を破壊しても細胞板形成に大きな影響は見られなかった。さらに、蛍光試薬FM4-64により細胞質分裂時の膜輸送系を可視化したところ、アクチン繊維に沿って動くエンドソームが観察された。さらに、FM4-64は形成中の細胞板に一過的に蓄積したが、アクチン繊維を破壊したところ、細胞板におけるFM4-64の蛍光輝度が減少した。これらの解析結果から、細胞板形成におけるアクチン繊維の役割について考察する。
  • 大窪 恵美子, 朽名 夏麿, 桧垣 匠, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎
    p. 067
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の細胞形態は,周囲を覆う細胞壁,体積の大半を占める液胞,微小管やアクチン繊維などの細胞骨格系といったコンポーネントの相互作用により制御されている.巨大液胞を除去したタバコBY-2ミニプロトプラストを適当な培地で培養すると,細いチューブ状の液胞が連結した網状構造を経て巨大液胞が再生される.この巨大液胞再生を伴う細胞生長過程における細胞骨格の役割を検討した.
    アクチン繊維あるいは微小管を可視化した形質転換タバコBY-2ミニプロトプラストの液胞膜をFM4-64により生体染色して同時に観察した結果,前者ではアクチン繊維は網状の液胞構造に隣接して局在することが分かった.アクチン重合阻害剤で処理するとこれらの液胞のチューブが途切れ,網状構造が維持できなくなった.次に微小管と液胞構造の動態を観察したところ,網状液胞構造が形成される時期には表層微小管はランダムに配向していたが,巨大液胞が形成されるに従って配向がランダムから伸長方向に垂直へと変化し,巨大液胞は細胞の伸長方向の両端に分布した.この時期に微小管重合阻害剤で処理すると,細胞体積は未処理の細胞と同等に増加したが,伸長方向がはっきりしないままで巨大液胞は細胞核周辺に一様に分布した.これらのことから,アクチン繊維は網状液胞構造の維持に,表層微小管は細胞の伸長方向を決定する上で重要であり,液胞の細胞内分布の偏在化にもつながったと考えられる.
  • 村田 隆, 長谷部 光泰
    p. 068
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞は細胞板形成によって細胞質分裂を行う。フラグモプラストは細胞板の材料を輸送する微小管複合体で、細胞質分裂の進行に伴い細胞中央から外縁に向かって広がる。新しい微小管が形成されることによりフラグモプラストが広がることが微小管脱重合阻害剤を用いた実験によって示されているが、その分子機構はわかっていない。界面活性剤処理した細胞におけるチューブリンの取り込み実験から、フラグモプラスト微小管の重合開始部位は細胞板近傍の細胞板マトリクス内と考えられてきた。一方、我々は間期の表層微小管においては微小管は既存の微小管上で重合開始することを示した(Murata et al. 2005)。そこで、生きている細胞の微小管形成を直接観察することにより、フラグモプラスト発達に微小管分枝が関与しているか否かを検討した。
    ディスク式共焦点ユニットを接続した冷却CCDカメラを用いてGFPチューブリン発現BY-2細胞を観察した結果、微小管がフラグモプラストの側面から斜めに伸び出した後フラグモプラストの最外縁に取り込まれることを見いだした。斜めに伸び出した微小管の一部は微小管上から伸び出していた。我々は、フラグモプラスト微小管上で新規微小管が伸び出し、微小管間の相互作用によってフラグモプラスト最外縁に付加されることによりフラグモプラストが広がる仮説を提唱する。
  • 石田 喬志, 金子 弥生, 橋本 隆
    p. 069
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    微小管構造は全ての真核生物でほぼ共通である。すなわち、αチューブリンとβチューブリンが安定なヘテロ二量体を形成し、これが縦につながって微小管原繊維が形成され、原繊維が通常13本横に束ねられて中空の微小管となる。微小管の構造と動態には、二量体内と二量体間の縦方向のα-β相互作用、及び原繊維間の横方向の相互作用が重要である。
    これまで我々は細胞の伸長方向が異常になりねじれ形質を示すアラビドプシス変異株を40系統単離し、チューブリン遺伝子の変異が原因であることを報告した。これらの変異株は全て1アミノ酸の置換または欠失による優性変異であり、また、同様の変異を導入したチューブリン遺伝子を発現する形質転換植物体がねじれ形質を再現したことから、変異型のチューブリンが微小管に取り込まれ微小管の性質を変化させるドミナントネガティヴ型の変異であると考えられる。また、野生株では細胞の伸長方向に対して直角である表層微小管の配向が、これらの変異株では伸長軸と直角方向に傾いていたことから、ねじれ形質と表層微小管束の配向との相関関係が強く示唆された。
    現在、これらのチューブリン変異株を用いて表層微小管の動態と配向の関係を解析している。微小管全体を蛍光標識するGFP-TUB6と微小管プラス端を標識するEB1-GFPをそれぞれ交配によって変異体に導入した。本発表では動態解析から得られた結果について議論したい。
  • 平瀬 愛, 新免 輝男, 園部 誠司
    p. 070
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    セルロース合成酵素はセルロースを合成しつつ、細胞膜上を動いていると考えられており、細胞内の細胞膜近傍に存在する表層微小管がその動きを制御していると考えられている。しかし、その制御の様式は不明であり、ガードレールのように動きを一定範囲内に規制しているという説や表層微小管をレールとして動いているという説などが提出されている。今回私たちは表層微小管にグルカン合成酵素が結合していることを示唆する結果を得たので報告する。
    タバコBY-2細胞のプロトプラストからパーコール密度勾配遠心法を用いて細胞膜小胞を単離した。以前発表したようにこの細胞膜小胞は多くがright side outであり内部に表層微小管を持っている。これを用いてUDP-グルコースを基質として多糖合成を試みた。カルコフロー染色で観察すると、基質のない場合に比べて蛍光強度が少し増加した。しかし、細胞膜小胞をCHAPSで可溶化し、遠心によって集めた分画を用いると、蛍光強度が著しく増加した。この分画を電子顕微鏡で観察すると表層微小管から繊維状構造が多数結合しているのが見られた。このことからグルカン合成酵素が表層微小管に結合していることが示唆された。合成された繊維がどのような多糖類であるのかについては現在分析中であるが、アニリンブルーによっても染まることからカロースを含むものと考えられる。
  • 佐野 俊夫, 桧垣 匠, 半田 耕一, 馳澤 盛一郎
    p. 071
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    カルシウムイオンは高等植物において、さまざまな環境変化に対する防御反応を仲介するセカンドメッセンジャーとして働いている。防御反応の一つとして、細胞増殖制御により成長を抑制することが知られていることから、本研究では、高等植物細胞の細胞周期進行におけるカルシウムイオンの関与を調べた。カルシウムセンサーであるエクオリンを発現するタバコBY-2細胞株を利用し、細胞周期S期において酸化ストレスあるいは低浸透圧ストレスを与えると細胞周期がS期で停止あるいはG2期で遅延することがわかった。また、これらのストレスは細胞内のカルシウムイオン濃度を一過的に上昇させたが、培地中のカルシウムイオンを除くと上昇率が低下した。このとき、細胞周期進行の停止あるいは遅延が解除されたことから、カルシウムイオンは細胞周期の進行を停止あるいは遅延させるシグナルとして働いていることが考えられる。一方、低浸透圧ストレスは培地を置換することで簡単に除去することができるため、その処理時間の効果を調べたところ、10分間の処理でも処理を続けた場合でも同様に約1時間の細胞周期進行の遅延が見られた。また、30秒のみ処理した場合には細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が見られず、細胞周期進行の遅延も見られなかったことから、一過的に細胞内カルシウムイオン濃度が上昇することが、細胞周期進行の制御に関与している可能性が示された。
  • 半田 耕一, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎
    p. 072
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    鉄イオン(Fe2+)は植物の必須微量元素でありクロロフィルの生合成などに使われている。その反面、過剰量のFe2+は細胞内でフェントン反応により活性酸素種を発生させて毒性を示す。そこで本研究ではタバコBY-2細胞を用い、細胞がFe2+の取り込みを低レベルに保つ機構について解析を行った。二価カチオンを除き1.0 mg/LのFeSO4を添加した培地にタバコBY-2細胞を移植すると、18時間後に8割程度の細胞に細胞死が見られた。この時、細胞中での活性酸素の発生が確認され、細胞周期がS期で停止し、DNAの断片化が見られた。原子吸光光度計により細胞内のFe2+量を測定したところ、Fe2+吸収量がある閾値を越えると細胞死を導くことが分かった。Fe2+は二価鉄トランスポーターにより細胞内に吸収されることが知られているが、その二価カチオンに対する特異性が低いためにFe2+の細胞内への輸送には他の二価カチオンの影響が考えられる。そこで、培地中にFe2+と同時にマグネシウムイオン(Mg2+)やカルシウムイオン(Ca2+)を添加したところ、細胞周期の停止が解除され、DNA断片化および、細胞死の頻度が減少した。その際、細胞のFe2+吸収量が減少していたことから、細胞へのFe2+輸送低下の原因としてMg2+ やCa2+などの二価カチオンとの競合阻害が考えられた。これらの結果から、培地中の二価カチオンのイオンバランスによってFe2+吸収による毒性を抑制することが示唆された。
  • Tijen Demiral, Takayuki Sasaki, Yoko Yamamoto
    p. 073
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Lethal effect of Al on cultured tobacco cells was investigated by treating tobacco cells (Nicotiana tabacum L. cv. Samsun) at the logarithmic phase of growth with AlCl3 in a simple calcium medium containing 3 mM CaCl2 and 3% sucrose. Propidium iodide and Fluorescein diacetate staining revealed the maintenance of the integrity of the plasma membrane even after 18 h of Al treatment. However, BCECF-AM and Neutral red staining showed the evidence for the loss of function in the vacuole. Pre-treatment with Caspase-1 inhibitor, Ac-YVAD-CHO, significantly reduced the Al-induced vacuole collapse in tobacco cells. Furthermore, a strong negative correlation was found between the ratio of collapsed protoplasts scored after 18 h of Al treatment and growth rate of tobacco cells 6 days after post treatment. These findings suggest that Al can cause vacuole collapse before final death and caspase-1 activity might be involved in Al-induced cell death process in tobacco cells.
  • 二瓶 晋, 賀屋 秀隆, 東 克己, 朽津 和幸
    p. 074
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    動物のアポトーシス制御因子と構造的に類似した遺伝子は植物のゲノム中にほとんど見出されないが、植物で発現させるとプログラム細胞死誘導に影響を与える動物由来の因子が数多く報告され、機能的に相同な因子の存在が予測される。我々は、哺乳動物のアポトーシス抑制因子IAP (inhibitor of apoptosis protein)の機能ドメインであるBIRと類似のドメインBLDを持つ新奇遺伝子群ILPファミリーを発見し、シロイヌナズナ(AtILPs)やヒト(HsILP1)から単離した。HsILPは、ヒト培養細胞においてアポトーシス抑制活性を示した (Higashi et al., 2005)。哺乳動物では、Smac/DIABLOはIAPと結合し、IAPのアポトーシス抑制活性を失わせることでアポトーシスを促進する。本研究では、シロイヌナズナからSmacと相同な因子を探索し、プログラム細胞死における機能を解析することを試みている。
    SmacのIAPとの結合モチーフであるIBMと同じアミノ酸配列をコードする機能未知の新奇遺伝子をシロイヌナズナのゲノム中に見出し、AtSmacと命名した。 AtSmac:GFPをBY-2細胞で一過的に発現させたところ、Smacと同様ミトコンドリアに局在することを示唆した。現在、シロイヌナズナやタバコBY-2細胞を用いてAtSmacの機能解析をおこなっており、これらについて報告する。
  • 保里 善太, 大堀 由里, 内宮 博文, 川合 真紀
    p. 075
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    AtBI-1(Arabidopsis thaliana Bax Inhibitor-1)の過剰発現は、過酸化水素、サリチル酸等により引き起こされる細胞死を抑制することから、酸化ストレスに対する応答に関与していると考えられる。本因子は7回膜貫通領域を有する小胞体膜タンパク質で、C末端領域はcoiled-coil構造を形成していると推測されている。このC末端領域の14アミノ酸を欠損させたAtBI-1タンパク質は細胞死抑制因子としての活性を失うことから、この領域がAtBI-1の機能に重要であることが明らかとなった。近年、細胞死の制御には細胞内カルシウム濃度の変化が重要であると指摘されている。本研究ではAtBI-1がオオムギのカルモデュリン(CaM)と相互作用することを酵母のSplit-ubiquitin systemを用いて発見した。さらに本研究ではAtBI-1とカルモデュリンとが直接的に結合することを明らかにした。シロイヌナズナのゲノムには16個のカルモデュリン(AtCaMs)が存在するが、Overlay assayにより少なくとも二つのカルモデュリン(AtCaM6とAtCaM7) がAtBI-1のC末端側14アミノ酸と結合することが示された。現在C末端領域に変異を導入したAtBI-1タンパク質とカルモデュリンの相互作用を調べており、それらの結果についても合わせて報告する。
  • 長野 稔, 大堀(井原) 由理, 吉永 恵子, 内宮 博文, 川合 真紀
    p. 076
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Bax inhibitor-1 (BI-1) は生物間で広く保存された細胞死抑制因子である。AtBI-1 (Arabidopsis BI-1) は小胞体(ER) に局在する膜タンパク質で、植物細胞内で過剰発現させると過酸化水素、サリチル酸及びエリシターなどによって引き起こされる細胞死を抑制することが報告されている (PNAS 2001, Plant Cell 2004)。本研究では、AtBI-1の細胞死抑制機構を明らかにするため、相互作用因子の単離を行った。酵母を用いたsplit-ubiquitin system によるスクリーニングにより、AtCb5 (Arabidopsis cytochrome b5) を単離した。Cb5は脂肪酸の形成や修飾に関与する電子伝達因子であることが知られている。さらに、AtBI-1はAtCb5を介して、 AtFAH ( Arabidopsis fatty acid hydroxylase) と相互作用する可能性が示唆された。シロイヌナズナには細胞内局在が異なるCb5相同遺伝子が存在するが、それらのうちER局在型とミトコンドリア局在型がAtBI-1及び AtFAHと相互作用することを見出した。さらに、AtBI-1はヘム結合部位を有するAtCb5の細胞質側のN末端領域と相互作用することを明らかにした。これらタンパク質の機能と脂質の代謝経路の関与についても報告する。
  • 上中 弘典, Nake Christian, Epple Petra, Jittgen Jan, Schutze Katia, Chaban ...
    p. 077
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物においてプログラム細胞死は、病害抵抗性や生殖器官、維管束形成等に関与する事が知られているが、その詳しいメカニズムについては明らかになっていない。シロイヌナズナのLSD1は細胞死の負の制御因子であり、自身のジンクフィンガー構造を介し、他のタンパク質と相互作用することで、細胞死に関与する遺伝子の発現を制御していると考えられる。つまり相互作用するタンパク質の機能解析が、LSD1の関与する細胞死のメカニズム解明に有効な手段であると考えられる。LSD1と相互作用するAtbZIP10は、既知のシスエレメントであるG-BOXまたはC-BOXに結合するbZIP型の転写因子である。AtbZIP10は核だけでなく細胞質にも局在しており、核外への局在がExportinとの相互作用によるもの、細胞質でLSD1と相互作用する事で核への局在が阻害されることを示した。また変異体、過剰発現体を用いた解析から、AtbZIP10の機能はlsd1変異体において引き起こされる細胞死だけでなく、病原体が誘導する細胞死、並びに病害抵抗性を正に制御することを明らかにした。このことはAtbZIP10により制御されている遺伝子が、細胞死シグナルの促進に必要であることを示唆する。しかしながら、atbzip10変異体による細胞死の抑制が不完全であったことから、他の転写制御因子の機能も細胞死の誘導に必要であると考えられる。
  • 高畠 令王奈, 安藤 裕子, 瀬尾 茂美, 光原 一朗, 津田 新哉, 大橋 祐子
    p. 078
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    近年、細胞質型分子シャペロンであるHsp90が、抵抗性遺伝子の翻訳産物と相互作用し、その安定化に寄与していることが明らかとなってきた。実際、Hsp90の発現量を低下させた植物体では、抵抗性遺伝子依存的な防御反応が抑制される。N遺伝子によって認識されるタバコモザイクウイルス(TMV)の非病原力遺伝子産物p50をN遺伝子を有するタバコに発現させると、過敏感反応(HR)様応答が起こり、細胞死を引き起こすことができる。TMVおよびp50による細胞死は、Hsp90の特異的阻害剤であるゲルダナマイシン(GDA)処理によって抑制された。また、動物のアポトーシス誘導因子であるBaxは、植物においてもHR様細胞死を引き起こすが、この細胞死はGDAによって阻害されなかった。TMVやp50による細胞死は、病害応答性MAPKであるWIPKやSIPKの活性化を伴うが、Baxによる細胞死ではこれらMAPKの顕著な活性化は認められなかった。さらに、WIPKSIPK両遺伝子の発現を抑制したタバコにp50およびBaxを発現させたところ、p50による細胞死は抑制されたが、Baxによる細胞死は抑制されなかった。以上のことから、p50による細胞死はHsp90、WIPKおよびSIPKの活性化を介しており、Baxはそれらを介さずに細胞死を誘導しているものと考えられる。
  • 黒柳 美和, 山田 健志, 初谷 紀幸, 近藤 真紀, 西村 幹夫, 西村 いくこ
    p. 079
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    液胞プロセシング酵素(VPE)が病原性毒素であるフモニシンB1(FB1)によって誘導される細胞死に関与しているか調べるために,シロイヌナズナに存在する4つのVPE遺伝子を破壊した変異体(VPE-null)を作製した.野生型の葉にFB1を処理すると,液胞の崩壊を伴う細胞死が誘導されるが,一方VPE-null変異体では抑制された.さらに, γvpe変異体において病斑形成が抑えられたことから,γVPEはFB1が誘導した細胞死において主に働いていることが示唆された.興味深いことに,FB1が誘導した病斑形成はVPE阻害剤とカスパーゼ-1の阻害剤の両方に抑制された.そこで,γVPEを発現し,動物のカスパーゼ-1と酵素学的に比較して調べたところ,VPEはカスパーゼ-1とアミノ酸配列上の類似性はないが、酵素化学的な特徴を共有していることがわかった.以上の結果から,カスパーゼ-1活性を示すVPEはFB1によって誘導される細胞死に関与することを証明した.我々はウィルスによる過敏感細胞死にVPEが関与することを明らかにしており (2),その結果と考え合わせると,病原体は自らの生存戦略として植物の抵抗性反応の一つである細胞死機構を利用していると考えられる.
    (1) Kuroyanagi et al., 280, 32914-32920 (2005) J. Biol. Chem.
    (2) Hatsugai et al., 305, 855-858 (2004) Science
  • 吉本 光希, 大隅 良典
    p. 080
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    オートファジーは,栄養飢餓等に伴って細胞質成分を液胞に輸送して分解する細胞内分解システムである.これまで植物オートファジーの研究は主に電子顕微鏡等に依拠した形態学的な観察をもとに解析が進められてきた.しかし形態学的解析の限界からそれらは現象論にとどまり,オートファジーの重要性および分子メカニズムについてほとんどわかっていなかった.近年のゲノムワイドな解析により,酵母で発見されたオートファジーに必須なATG遺伝子のホモログが植物にも存在することが明らかとなったが(1),植物においても同様の役割を担っているか確かでなかった.
    今回,V-ATPaseの阻害剤であるコンカナマイシンAをシロイヌナズナの葉に処理することにより,葉において初めてオートファジーをモニターすることに成功した.その結果,ATG遺伝子破壊変異体の葉はオートファジー能を欠損していることが示され,葉におけるオートファジーが葉細胞の生存力に重要であることが明らかとなった.オートファジー能を欠損した変異体は,窒素飢餓条件で根の伸長が阻害され,富栄養条件下でさえも老化が早まった(2).加えて,病原菌抵抗性反応における過敏感反応細胞死が早く起こった.これらの結果から,高等植物においてオートファジーが果たす生理的役割について考察する.
    (1) Hnaoka et al. (2002) Plant Physiol., 129, 1181-1193.
    (2)Yoshimoto et al. (2004) Plant Cell, 16, 2967-2983.
  • 山内 靖雄, 田中 浄, 脇内 成昭, 杉本 幸裕
    p. 081
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    多価不飽和脂肪酸は植物生体膜の主要な構成成分であるが、それは容易に過酸化され反応性の高い低分子化合物を生成することが知られている。本研究では、高温ストレス負荷植物で発生する主要な多価不飽和脂肪酸過酸化生成物・マロンジアルデヒド(MDA)がタンパク質機能や遺伝子発現に与える影響を調べた。光照射下で高温ストレスを与えた植物体を用い、タンパク質に結合したMDAを特異的に認識するモノクロナル抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った結果、ストレスにともない葉緑体局在タンパク質の化学修飾が検出されたことから、葉緑体がMDAによりダメージを受ける主なオルガネラであることが考えられた。一方、高温条件下でMDAが多く生成しタンパク質に結合することから、MDAが高温ストレスのシグナル分子として作用している可能性を考え、代表的な高温ストレス誘導性タンパク質である熱ショックタンパク質(HSP)の遺伝子発現を指標に、MDAのシグナル分子としての作用を検討した。高温ストレス下のアラビドプシスのHSP遺伝子発現量をRT-PCRにより調べたところ、MDA量の変化と相関した発現量の増加が見られた。さらにMDAは非ストレス下の植物のHSP遺伝子を誘導した。以上の結果から、高温ストレスにより発生するMDAはタンパク質毒性を示すのみではなく、高温ストレス応答機構におけるシグナル分子として機能している可能性が示された。
  • 前田 宏, Song Wan, DellaPenna Dean
    p. 082
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    ビタミンE(tocopherol)は,植物など光合成生物だけが合成することのできる脂溶性の抗酸化物質である.動物の必須栄養素であるため,有用な機能分子としてよく知られているが,植物における割は未だ解明されていない.そこで本研究は,植物におけるビタミンEの機能を明らかにするために,シロイナズナのビタミンE欠損株(vitamin E mutants, vte 変異体)を用いて,生理学ならびに生化学的な解析を行った.
    ビタミンEは,光酸化ストレスから光化学系を守っていると長い間信じられてきた.しかし驚くことに,1800μEの強光ストレスに対する感受性,ならびに光合成能の変化において,vte 変異体と野生株で顕著な違いは見られなかった.このことから,ビタミンEは強光ストレス耐性に必須ではないと結論付けられた.また,別の脂溶性抗酸化物質であるカロテノイドのうちzeaxanthin がvte 変異体で多く蓄積されていることから,zeaxanthinがビタミンEの欠損を補償している可能性が示唆された.
    一方,我々はvte 変異体が低温感受性であることを見出した.野生株に比べvte 変異体は,低温条件下で,葉にアントシアニンが蓄積し,成長が抑制され,種子の収量が減少した.この低温での表現型を生化学的に詳細に解析する中,従来の予想とは異なる,ビタミンEの新たな機能が明らかになってきた.本大会では,ビタミンEが低温下において,糖代謝制御に関わるメカニズムについて議論したい.
  • Christova Petya, Christov Nikolai, 今井 亮三
    p. 083
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    シスタチンはシステインプロテアーゼ阻害タンパク質であり,植物においては発芽時のプロテアーゼ活性の調節や虫害耐性への関与が考えられている.最近,シスタチンが抗菌活性を持つことが明らかになり,その機能が新しい視点から解析されている.コムギは低温馴化過程で雪腐病菌に対する抵抗性を獲得する.この低温により誘導される病害抵抗性の分子機構を解析するため,コムギの低温馴化クラウン組織より,新規シスタチン遺伝子(TaMDC1)を単離した.TaMDC1はN末端シグナル配列に続き,保存性の高いシスタチンドメイン(DI)及び,C末端側の保存性の低いシスタチン様ドメイン(DII)よりなる.TaMDC1の発現はmRNA,タンパク質の両レベルにおいて低温馴化過程で誘導された.大腸菌より精製した成熟型mTaMDC1はシステインプロテアーゼ阻害活性を持ち,更に紅色雪腐病菌に対して抗菌活性を示した.TaMDC1をDI及びDIIに分割し,それぞれのドメインを精製したところ,DI, DII共に抗菌活性を示すが,DIのみがプロテアーゼ阻害活性を示した.従って,少なくともDIIの抗菌活性にはプロテアーゼ阻害活性が不要であることがわかった.以上の結果より,TaMDC1は低温馴化により誘導される雪腐病抵抗性に関与すると考えられる.
  • 久野 裕, 金澤 章, 吉田 みどり, 喜多村 啓介, 山田 敏彦
    p. 084
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    温帯起源の多くのC3植物はフルクタンを蓄積する。フルクタンはフルクトースのポリマーで、これらの植物における主な貯蔵炭水化物の1つである。フルクタンは細胞内の浸透圧調整に関与することが知られており、低温や乾燥などの環境ストレスに植物が適応する上で重要な物質である。そのため、フルクタン代謝を理解することは、植物の環境ストレス耐性の全容を解明する上で重要である。
    演者らは、ペレニアルライグラス低温馴化冠部由来のcDNAライブラリーから、既知のフルクタン合成酵素遺伝子と相同性が高い6種類のクローンを単離し、prft1-prft6と名付けた。これらの遺伝子の機能解析を行った結果、prft3およびprft5はfructan-fructan 6G-fructosyltransferase(6G-FFT)を、prft4はsucrose-sucrose 1-fructosyltransferase(1-SST)をそれぞれコードしていることが明らかとなった。また、Realtime RT-PCR法を用いて、低温条件下でのこれらの遺伝子の発現解析を行った結果、prft1およびprft2は、低温処理日数が長くなるにつれて葉部および冠部組織において著しく発現が増加していた。一方で、prft3prft4およびprft5は、低温処理1日目で顕著な発現増加が見られた。低温処理日数が長くなるに伴い、葉部および冠部組織でのフルクタンの含有量が増加していることから、これらの遺伝子発現の増加とフルクタン含有量の増加は密接に関連していることが示唆された。
  • 佐々木 裕, 高橋 和恵, 大野 陽子, 関 原明, 篠崎 一雄, 上村 松生
    p. 085
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナ植物体では、低温或いはアブシジン酸(ABA)処理によって凍結耐性の誘導が起こる事が知られており、その分子機構についても多くの研究が行われている。しかし、植物体が持つ複雑性(組織、器官、細胞における応答の相互作用)のため、細胞レベルにおける応答の詳細は不明のままである。本研究ではシロイヌナズナT87培養細胞を用いて、細胞レベルにおける低温或いはABAへの応答を解析した。その結果、誘導期の細胞でのみ、低温馴化2日で一過的に凍結耐性が-6oCから-10oCまで増大する事が明らかとなった。また、ABA処理においても、誘導期の細胞で一過的に凍結耐性が増大する傾向が示された。この低温馴化における凍結耐性の増大は、浸透濃度、糖含量、低温誘導性遺伝子の発現(COR15a, RD29A)といった植物体において凍結耐性と密接に関係することが知られている変動とは相関していなかった。本細胞の凍結耐性と相関する遺伝子をマイクロアレイで解析した結果、448個の遺伝子が3倍以上に誘導され、438個が0.3倍以下に抑制される事が分かった。更に、誘導された遺伝子の17%、抑制された遺伝子の14%が細胞で特異的に変動した事から、細胞レベルにおける低温・ABAシグナルの認識、シグナル伝達が植物体とは異なる可能性が示唆された。(本研究は21世紀COEプログラムの援助を受け行われた。)
  • 南 杏鶴, 河村 幸男, 上村 松生
    p. 086
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの凍結耐性(耐凍性)は数日間の低温処理によって増加する。低温馴化過程では細胞膜タンパク質の組成変化や、細胞膜脂質であるスフィンゴ糖脂質含量の減少がみられる。動物細胞では、脂質ラフトと呼ばれるスフィンゴ脂質とコレステロールに富む非イオン性界面活性剤不溶性膜領域(detergent-resistant membrane, DRM)が細胞膜において局所的に分布し、機能性タンパク質が集中する効率的・流動的な情報伝達の場として機能すると考えられている。本研究では、耐凍性獲得に関連する植物細胞膜ラフトの存在を証明するため、低温馴化に伴う細胞膜DRM局在タンパク質成分の挙動変化を調べた。DRM画分は低温処理日数の異なるシロイヌナズナ植物体から精製した細胞膜画分を1% (w/v) Triton X-100処理後、スクロース密度勾配遠心法によって分画した。得られたDRM画分に含まれるタンパク質発現は、SDS-PAGE及び一次元目に等電点電気泳動を行った2D SDS-PAGEによるディファレンシャルディスプレイ解析によって調べた。その結果、低温処理に伴っていくつかのDRMタンパク質発現の増加・減少がみられたことから、低温による細胞膜ラフト局在タンパク質の量的変動が確認された。今回の発表では、MALDI-TOF MS分析による低温応答性DRMタンパク質同定の解析結果についても報告する。
  • 中山 克大, 大川 久美子, 稲葉 丈人
    p. 087
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    低温ストレス下では、光合成をはじめとする葉緑体内の様々な代謝活動が著しく低下し、葉緑体タンパク質の凝集や包膜の構造変化・崩壊などが起こる。このような条件下で植物が生存するには、何らかのタンパク質の発現を誘導し、葉緑体機能低下を防ぐ必要がある。シロイヌナズナの低温誘導タンパク質Cor15aは植物の低温耐性獲得に関与する葉緑体タンパク質で、その過剰発現株は凍結耐性を獲得することが知られている。しかし、そのアミノ酸配列からは既知の機能性ドメインとの類似性が見出されず、機能は未だ不明である。そこで、我々は、Cor15aタンパク質の機能を分子レベルで解明することを目的として、分子生物学的・生化学的手法を用い解析を行った。シロイヌナズナのCOR15a遺伝子をクローニングし、大腸菌内でタンパク質を過剰発現させ、Cor15a-His組換えタンパク質を得た。これを抗原としてCor15aに対して特異的なポリクローナル抗体を作成した。また、Cor15a複合体を精製するために、COR15a-PROTEIN A融合遺伝子をCaMV35Sプロモーターの下流に連結したコンストラクトを作成し、アグロバクテリウム法により形質転換シロイヌナズナを作出した。これらを用い、シロイヌナズナ低温誘導性タンパク質Cor15aの生化学的解析を行ったので報告する。
  • 大川 久美子, 中山 克大, 山下 哲郎, 稲葉 丈人
    p. 088
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体包膜は細胞質と葉緑体の間のいわゆる仕切りであり、タンパク質や代謝産物など様々な物質のやりとりの場でもある。低温ストレス下では包膜の構造変化・崩壊が起こり、光合成をはじめとする葉緑体内の様々な代謝活動が著しく低下すると考えられる。我々は、低温から葉緑体膜構造を守る仕組みを明らかにするため、低温誘導される遺伝子を網羅的に探索した。その結果、機能未知遺伝子COR413の産物が葉緑体膜に局在することが示唆されたため、その解析を行った。
    本研究ではまず、Cor413-protein A融合タンパク質を過剰発現させたシロイヌナズナのトランスジェニック植物を作出し、葉緑体から精製タンパク質を得た。そして、N末端のアミノ酸シークエンス解析により、Cor413における葉緑体移行シグナルの切断部位を決定した。その結果、このタンパク質は推定される6回の膜貫通ドメインから成り、それ以外の機能ドメインはほとんど存在しないことが明らかになった。さらにprotein A抗体をもちいたウエスタンブロット解析により、Cor413は内包膜に局在することを明らかにした。また、本研究では全長Cor413タンパク質を大腸菌内で発現させて抗体を作製し、タンパク質の生化学的解析およびCor413トランスジェニック植物の耐凍性評価も行ったので併せて報告する。
  • 佐々木 佳菜子, 斉藤 拓也, 鈴木 優志, 村中 俊哉, 矢崎 一史
    p. 089
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    イソプレンは、多くの植物種の葉から放出される炭素数5のテルペノイドである。代謝フラックスから見た植物のイソプレン生産・放出量は莫大であるにも関わらず、なぜ植物がイソプレンを放出するか、その意義は不明である。本研究では、植物におけるイソプレン放出の生理学的役割を解明することを目的とし、イソプレン放出種の一つであるPopulus albaからイソプレン合成酵素 (PaIspS) のcDNAをクローニングし、その発現解析及び機能解析を行うとともに、イソプレンを生合成しないとされているシロイヌナズナに本遺伝子を高発現させ、その形質の解析を行った。
    まず、Populus albaからRT-PCRによりPaIspSの全長cDNAを得、大腸菌発現系を用いてその酵素機能を確認した。次いでポプラにおける本遺伝子の環境応答を明らかとするため、発現解析を行った結果、PaIspSの発現は高温及び強光条件下で強く誘導され、逆に暗黒条件下では減少した。これらのことから、イソプレンは光や温度といった物理的ストレス条件下で放出され、その放出はPaIspS遺伝子の転写レベルで制御されていることが示された。
    さらに植物におけるイソプレン放出の生理学的役割を明らかにするため、本遺伝子を高発現する形質転換シロイヌナズナを作製した。今回、この形質転換体の物理ストレス抵抗性について解析を行った結果についても報告する。
  • 日比 忠晴, 小杉 俊一, 岩井 孝尚, 川田 元滋, 瀬尾 茂美, 光原 一朗, 大橋 祐子
    p. 090
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    タバコEIN3ホモログTEIL (Tobacco EIN3-like)は,タバコのacidic PR1遺伝子のプロモーター領域に特異的に結合する因子として単離された.TEILEIN3とアミノ酸配列上60%の相同性を持ち、転写活性化能を有し、特異的な配列(TEIL binding sites: tebs)に結合する(Kosugi and Ohashi, 2000). WTタバコでは試験した全ての器官でTEIL遺伝子の恒常的な発現が認められ,上位葉に比べ下位葉でより発現量が多く,老化との関連性が示唆された.TEILの発現は傷害により誘導され、その転写産物は傷害誘導性basic PR遺伝子の発現に先立ち蓄積した. TEIL過剰発現タバコ葉では通常発現していないbasic PR遺伝子が恒常的に発現し,TEIL抑制形質転換タバコ葉ではこれらの傷害による誘導が抑制された.本研究では、これらの形質転換体を用いてTEIL遺伝子の機能を調べた.まず、タバコの代表的な病原体であるTMVを接種したところ,抑制体で病斑サイズの減少が認められた.また,切取り葉の老化を観察した結果,抑制体の葉で老化進行の遅延が観察された.エチレンに対するトリプルレスポンス様応答は,過剰発現体で増加し,抑制体で減少することが観察された.これらの結果は、TEIL遺伝子はタバコにおいて病害や老化等に一定の役割を担っていることを示唆した.
  • 小川 太郎, 田村 勝徳, 川合 真紀, 内宮 博文
    p. 091
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    AP2/EREBP遺伝子ファミリーは植物の転写因子として最大規模のファミリーを形成し、その機能は形態形成からストレス応答まで多岐にわたる。本ファミリーに属するArabidopsis thaliana ethylene-responsive element binding protein (AtEBP)は独自のサブファミリーを形成し、広く他の植物種にも保存されているが、その機能についてはほとんど研究がなされていない。我々はこれまでに本因子が転写因子として機能することを示し、AtEBPが植物防御遺伝子の発現を制御することを示唆する結果を得た。そこで、本研究ではAtEBPが病原体に対する耐病性に関与するかどうか検討した。Pseudomonas. syringae pv. tomato DC3000 (Pst)を用い、非病原性遺伝子であるAvrRpm1を介した過敏感細胞死(HR)をシロイヌナズナにおいて誘導した。その結果、AtEBPのノックアウト系統ではAvrRpm1による細胞死が生じやすくなり、逆にAtEBPの過剰発現系統では生じにくくなる傾向を見出した。以上の結果から、AtEBPはAvrRpm1によって引き起こされるHRに対して負の制御をおこなうことが示唆された。現在、Pseudomonasを用いた一般的抵抗性の解析を進めている。
  • 浅野 智哉, 増田 大祐, 山口 和男, 西内 巧
    p. 092
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    トリコテセンは、ムギ類赤カビ病菌によって産生されるファイトトキシンであり、真核生物のリボソームに作用してタンパク質合成を阻害する。シロイヌナズナにおいて、トリコテセンの一種であるT-2 toxinによって防御応答が誘導されることを明らかにしている。さらに、T-2 toxin処理したシロイヌナズナでは、免疫応答を抑制するヒトの転写因子NF-X1のホモログであるAtNF-X1の発現が上昇することを明らかにしている。AtNF-X1タンパク質はRING fingerドメインと9個のNF-X1 typeと呼ばれるZn-fingerドメインを有する。atnf-x1変異体は、T-2 toxin存在下で生育させると野生型に比べて高感受性となることを明らかにしている。今回、シロイヌナズナのAtNF-X1タンパク質のN末端側(60-142 a.a.)とC末端側(766-1188 a.a.)の抗体を作製し、AtNF-X1タンパク質の蓄積量を調べたところ、T-2 toxin処理で増加するそれぞれ分子量約80 kDと62 kDのシグナルが検出された。AtNF-X1タンパク質の推定分子量が約130 kDであることから、AtNF-X1タンパク質は植物細胞においてプロテアーゼにより切断され、機能する可能性が示唆された。また、AtNF-X1タンパク質複合体の構成因子を単離、同定したところ、防御応答に関連する因子がいくつか同定された。
  • 小八重 善裕, 関野 哲郎, 吉岡 博文, 中川 強, Martinoia Enrico, 前島 正義
    p. 093
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    ATP-binding cassette (ABC) トランスポーターのうち、Pleiotropic drug resistance (PDR) ファミリーは、多様な毒物や薬剤を排出する多剤耐性ポンプである。シロイヌナズナは15のPDR分子を持ち、我々はこのうち構成的で最も発現レベルの高いAtPDR8について解析を行った。膜分画とAtPDR8特異的抗体を用いた免疫ブロットにより、AtPDR8は細胞膜に局在していた。AtPDR8のT-DNA挿入変異株(atpdr8)は野生株に比べ顕著な細胞死が観察されたため、AtPDR8の病害抵抗性への関与を検討した。非病原性ジャガイモ疫病菌Phytophthora infestansを接種したところ、感染菌糸はatpdr8の表皮細胞壁を貫通し、細胞死を引き起こした。感染性病原菌Pseudomonas syringae pv. tomato DC3000の接種ではatpdr8は著しい細胞死を起こし、その増殖は野生株の1%に抑制された。また、atpdr8は非滅菌栽培では野生株に比べ防御遺伝子PR-1, PR-2, PR-5, VPEg, AtrbohDを高発現していた。これらの結果は、AtPDR8が防御応答に密接に関わる物質を細胞外に輸送し、この物質は病害抵抗性を持つとともに、防御遺伝子の発現および細胞死を促進する物質である可能性を示唆する。
  • 児玉 豊, 依田 寛, 佐野 浩
    p. 094
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    病害や傷害を受けた植物は、防御や細胞修復に関わる遺伝子を速やかに発現誘導する。これまで多くの遺伝子群が単離されたが、機能未知なものも多く、病傷害応答の分子機構には未解決な部分が少なくない。私たちは、傷害処理後のタバコから単離した機能未知遺伝子がコードするプラスチド局在型bHLHタンパク質WINB (Wound-Induced bHLH protein)の機能解析を行っている。
    これまでの解析から、WINBは傷害だけではなく、TMVなどの病害にも発現応答することが明らかになっている。そこで、サリチル酸、ジャスモン酸、エチレン、H2O2への応答性を調べたところ、H2O2に明らかな応答を示した。WINBのプラスチド局在化シグナルを明らかにするために、様々な長さに切断したWINBとGFPとの融合タンパク質を用いて解析したところ、bHLHモチーフのDNA結合ドメインであるbasic領域を完全に含むN末端約70残基が局在化シグナルであった。また、酵母ツーハイブリッド解析の結果、WINBはホモダイマーを形成しなかった。以上の結果から、WINBは、ROSによって発現が誘導され、DNA結合ドメインを含むN末端を利用してプラスチドへ移行することが明らかとなった。また、他のタンパク質とヘテロダイマーとなってDNAに作用するか、あるいは転写因子とは別の機能を有している可能性が示唆された。
  • 植田 浩一, 山口 夕, 佐野 浩
    p. 095
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    タバコモザイクウィルス(TMV)に対するタバコの抵抗性は、抵抗性遺伝子産物であるN因子に依存している。TMVの非病原性遺伝子産物である複製酵素のヘリカーゼドメイン(p50)がN因子を持つタバコに過敏感反応を起こす。しかし、N因子がp50をどのように認識しているのかは分かっていない。まず酵母two-hybrid法からN因子とp50が直接相互作用する事が示唆された。次にN因子の持つTIR-NBS-LRRドメインの内、NBS-LRRの二つのドメインが相互作用に必要であることが同様の試験から示唆された。N因子、p50にそれぞれタグを付加したタンパク質を用いたin vitroでの結合試験でも同様の結果を得た。p50内のプロリンがロイシンに置換した、HRを起こされないTMV株がある。そこで変異p50を用いて結合実験を行ったところ、N因子と相互作用しなかった。また、N因子のNBSにあるATP結合ドメインの222番目のリジンをアルギニンに置換することで、ATP結合、分解能を欠失した変異タンパク質とp50との結合試験を行った。その結果、相互作用しなかった。
    以上から3つの新しい知見を得た:N因子はp50と直接結合する。その結合にはN因子/ATP複合体が必要である。p50との結合によってN因子のATP加水分解が促進される。このモデルは「protein device」の概念に一致する。
  • Frank Waller, Beate Achatz, Sachin Deshmukh, Helmut Baltruschat, Karl- ...
    p. 096
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    Piriformospora indica is an endophytic fungus of the heterobasidiomycetous Sebacinales colonizing roots of different plant species. We investigated the interaction of P. indica with Barley (Hordeum vulgare) roots with respect to growth and pathogen resistance of the plants. P. indica infestation of the roots increases fresh weight of barley plants up to 60% and enhances resistance of the leaves against the biotrophic barley powdery mildew fungus Blumeria graminis f.sp. hordei. As a first step towards elucidating the mechanism of resistance induction, we checked mRNA levels of pathogenesis-related and hormone-induced genes in leaves of P. indica infested barley plants. Interestingly, mRNA of both jasmonic acid and salicylic acid induced genes, JIP-23 and PR-5, were not elevated in leaves of P. indica infested plants without challenge, indicating a possible involvement of new resistance signaling mechanisms.
  • 安部 洋, 大西 純, 鳴坂 真理, 鳴坂 義弘, 津田 新哉, 小林 正智
    p. 097
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    植物は様々な環境下で生育して行かねばならない。これまでにモデル植物であるシロイヌナズナを用いて、環境ストレス応答や病害ストレス応答に関する様々な研究が行われ、数多くの知見が得られている。特にストレス応答に多くの植物ホルモンが深く関わっていることが詳細に明らかとなり、植物ホルモンの重要性が再認識されるに至った。
    一方で昆虫による食害は植物の生育を脅かすもっとも重大な要因の一つであり農業上非常に重要であるにもかかわらず、植物の食害応答のメカニズムについてはあまり分かっていない。今回、我々はシロイヌナズナにおけるアザミウマの食害応答についてAffymetrix社のGeneChipを用いて解析を行った。アザミウマはシロイヌナズナを実験室で生育させている場合、度々問題となる害虫であるが、野菜や果物、そして花等においてもその被害は深刻である。また、アザミウマはウイルス媒介虫でもあり、その防除が望まれている。我々は農業上、特に問題となっているミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)を用いて解析を行なった。Gene Chip解析の結果、シロイヌナズナにおいて多くの遺伝子発現がアザミウマの食害により変動することが明らかとなった。またこの際、サリチル酸やジャスモン酸、エチレンといった植物ホルモンが重要であることが明らかとなったので報告する。
  • 今野 浩太郎, 中村 匡利, 立石 剣, 和佐野 直也, 田村 泰盛, 平山 力, 服部 誠, 小山 朗夫, 小野 裕嗣, 河野 勝行
    p. 098
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    乳液は約30,000種の植物に存在し、種々のタンパク質・酵素・二次代謝物質を含む。乳液(成分)の役割に関しては昆虫の食害に対する防御であるという「防御仮説」が有力であるが、具体的研究例は少ない。本講演では乳液中のタンパク質や二次代謝物質が植物の虫害抵抗性に決定的に重要なことを示す具体例として、パパイアとクワの乳液に関する我々の研究を紹介し、乳液の防御機構としての特性を論じる。パパイア葉はエリサン・ヨトウガ幼虫に対し顕著な致死毒性を示した。この毒性は、葉を細切水洗処理し乳液を洗い流すと消失した。パパイア乳液にはpapainというcysteine proteaseが含まれるが、葉の表面にcysteine protease特異的な阻害剤E-64を塗布すると葉の毒性は失われた。また、papain自体も昆虫に毒性を示した。パパイアでは乳液中のpapainが耐虫性に必要不可欠であった。クワ葉もカイコ以外のガ幼虫に対して顕著な毒性を示したが、細切水洗処理による乳液除去で毒性は失われた。乳液自体も毒性を示した。クワ乳液には糖尿病治療効果も報告される3種の糖類似アルカロイド(糖代謝酵素の阻害剤)1,4-dideoxy-1,4-imino-D-arabinitol (D-AB1), 1-deoxy nojirimycin (DNJ)他が総計乳液湿重の1.5-2.5%、乾重の8-18%(これまでの報告例の約100倍)の高濃度で存在していた。これらの成分はカイコ以外の昆虫に毒性を示した。クワでも乳液成分が被食防衛・虫害抵抗性を担っていた。
  • 藤原 伸介, 徐 相規, 村野 宏達, 堀田 博
    p. 099
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    初期の生育が非常に緩慢で、出荷までの栽培期間の長いシクラメンにはその生育途上で様々な障害が発生する。私達はこれまでに窒素過剰条件下で栽培されたシクラメンがフザリウム萎凋病に罹病しやすいこと、フザリウムの感染に伴うストレスに応じてシクラメンのポリアミン代謝も大きく変動することなどについて報告した。今回は、シクラメンの体内窒素成分と萎凋病の発生との関係について解析した。
    フザリウム菌を接種した鉢植えシクラメンを慣行条件で長期間栽培した後で、塊茎部の汚染度と萎凋病の調査を行い、塊茎部の遊離アミノ酸を分析した。塊茎部の汚染が認められない健全株に比べて罹病株では明らかに遊離アミノ酸含量が高く、中でもグルタミンやアスパラギン、アルギニンが萎凋病の発生と関係した。これらのアミノ酸はいずれもフザリウム菌の増殖活性を刺激した。また、萎凋病の発生を助長する高アンモニア処理が地下部にグルタミンの蓄積をもたらすこと、15N-標識グルタミン酸を経根吸収させると、塊茎部のグルタミンに高い15Nの取り込みが認められることなどから、高アンモニア条件では根で合成されたグルタミンが通導組織を経て塊茎部や地上部に移行されるものと推定された。窒素過剰条件下でのグルタミンの生成やアンモニアの解毒代謝に関連するアスパラギン、アルギニンの生成およびそれらの導管内部への集積がフザリウム萎凋病を助長する大きな要因と考えられる。
  • 小西 智一
    p. 100
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/27
    会議録・要旨集 フリー
    マイクロアレイは網羅的なトランスクリプトームデータを測定できるが、得たデータを比較するのは容易ではない。このデータはゲノムにコードされている量的な遺伝情報を解読するための手がかりになるはずで、そうした取り組みのためにもデータは実験間・研究者間で比較して分析することが望まれる(もちろん、データに普遍性が得られないのなら、科学的な研究の手段としては不適格である)。残念なことに、マイクロアレイのデータは再三にわたってその再現性や研究室間での知見のくい違いが指摘されている。

    こうした問題を惹起している根本原因は、データ比較のために必要な、実験間で共通する知的な枠組み(framework)の欠如であろう。得られた原データを、アドホックに用意された基準を用いて分析している限りにおいて、実験間での比較はそもそも不可能である。

    ここにデータの解析のための新しい枠組みを紹介する。これは細胞内でトランスクリプトームがどう形成され調節されるかを、統計熱力学で説明する数理モデルに基づいている。これまでにアドホックに使われてきたものとは異なり、科学的な反証可能性を有している。モデルの概要と、いくつかの検証結果を示す。また、この枠組みを使った、遺伝する量的なゲノム情報の解読への試みを紹介する。
feedback
Top