ムギに寄生する赤カビとその近縁菌は12,13-epoxytrichothecene系マイコトキシン(フザリウム毒素)を生産する.戦後,日本で広範なムギの被害が生じ(西門,1958),このムギを食用したヒトや家畜に中毒の発生をみている.農林省の要請で角田・辰野らとこれら赤カビ中毒の本態解明に着手したが,その研究が真に軌道にのったのは本毒素の特異な病理学的障害像が把握されてからといえよう.すなわち1963年,西日本に同様のムギの被害が生じた折に角田はF.nivaleを分離培養し,辰野がそれから抽出分画した成分にマウスの腸管や造血組織などに急性障害を示すものも含まれることが判明した(1965).梅田によって指摘された培養細胞に対する毒性や上野らの開発した網状赤血球への
14C-ロイシンとり込み抑制検定法と併せて,動物における上記の障害作用を指標に,以後急速に毒性物質の単離,nivalenol(辰野),fusarenon X(上野,諸岡)などの化学構造の解明,生物活性の研究が日本の科学者によって押し進められた.食品衛生の分野でもトリコテセン系マイコトキシンによる汚染は依然深刻な問題であり,人畜への影境を考慮して特にその血液障害機作に関する基礎的な研究がおこなわれている(科学技術庁,辰野班).本シンポジウムでは過去における赤カビ中毒研究の病理担当者の立場からフザリウム毒素の示す障害像の特異性について述べ,ついで毒性物質としての病理学的な位置づけ,特に"放射能様"作用や血液有形成分に対する障害についてふれる.
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