トリコテセン生合成の制御メカニズムに関する知見を得るため,理研および名古屋大学においてFusarium graminearumの分子遺伝学的解析を行った.まず,F. graminearum細胞内で様々な転写レベルを発揮するAspergillus nidulans由来プロモーターを調製した.続いてこれらのプロモーターを用いてトリコテセン生合成遺伝子の発現に必須な転写因子Tri6pの局在を調べた.緑色蛍光タンパク(EGFP)とTri6内の推定核移行シグナル(NLS)とを融合しA. nidulans TEF1αプロモーター制御下で発現させるとEGFP蛍光が核において明確に確認されたことからNLSの機能性が示された.さらに,トリコテセン生産誘導に関しスクロースが誘導因子として働くことを見出した.このスクロースやトリコテセン生産制御パターンを変動させる低分子化合物の作用機序解析をもとにTri6発現の新しいモデルを構築している.これらのツールを用いたさらなる分子遺伝学的解析によりトリコテセン生合成制御メカニズムが明らかになることが期待される.
ジクロルボス-アンモニア(DV-AM)法は,アフラトキシン(AF)生産かびを簡便かつ高感度に検出できる可視検出法である.多くの国において,AF汚染はナッツ類で頻繁に報告されている.本研究では,輸入生ナッツ(南アフリカ産ピーナッツ,オーストラリア産マカダミアナッツ,イラン産ピスタチオナッツ, ケニア産 マカダミアナッツ,カリフォルニア産アーモンドナッツ,ベトナム産カシューナッツ,トルコ産ヘーゼルナッツ,中国産かぼちゃの種,ブルガイア産ひまわりの種,アメリカ産クルミ)を対象に,AF生産菌の有無をDV-AM法を用いて調べた.その結果,DV-AM法において,南アフリカ産ピーナッツとオーストラリア産マカダミアナッツから赤色コロニーが検出され,それらのカビの代謝産物を薄層クロマトグラフィーで分析したところ,南アフリカ産ピーナッツから単離されたカビは主としてAFB1を生産し,AFG1の生産は見られなかった.一方,オーストラリア産マカダミアナッツから単離されたカビは,主としてAFB1及びAFG1を生産した.さらに,単離されたカビについてカルモジュリン遺伝子のシーケンスを行ったところ,ピーナッツからのカビはAspergillus flavusであり, マカダミアナッツからのカビはAspergillus parasiticusであると同定された.以上のことから,DV-AM法は輸入食品中のAF生産菌の混入を検出するのに有効であることが明らかとなった.DV-AM法は,作物の収穫,分別,洗浄,食品加工,輸送など,フードチェーンの様々な工程において重要管理点を決定するために極めて有用な手段になることが示唆された.
最近のフザリウム分類によれば,フザリウム・アジアティカムと狭義のフザリウム・グラミネアラムが日本産小麦と大麦に赤カビ病を起こすことが知られている.本論文では過去に同定されたフザリウム・ロゼウムKU-117菌株とジベレラ・ゼアエ8菌株について種特異的プライマーを用いたPCR検出で再分類した.その結果,KU-117菌株はフザリウム・アジアティカムに分類された.ジベレラ・ゼアエ菌株のうち青森由来の3菌株は狭義のフザリウム・グラミネアラム,岩手,東京,熊本,長崎由来の残りの5菌株はフザリウム・アジアティカムであった.供試したジベレラ・ゼアエ菌株のRAPDパターンは遺伝的多様性が低いことを示した.得られた結果からフザリウム・アジアティカムと狭義のフザリウム・グラミネアラムには地域的な分布があることを再確認した.
私たちは, カイコを利用することにより, 機能性乳酸菌や医薬品候補化合物を探索することができる. カイコを用いることにより, 動物実験にかかる経費や犠牲にせねばならない哺乳動物の数を減らすことができると私たちは期待している.