マイコトキシン
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64 巻, 1 号
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パート I(英語論文)
原著論文
  • 田口 智康, 石原 亨, 中島 廣光
    2014 年 64 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2014/01/31
    公開日: 2014/06/21
    ジャーナル フリー
      6種類の市販リンゴ果汁から調製したリンゴ果汁培地でPenicillium expansumを培養したところ,リンゴ果汁の違いはパツリン産生に大きく影響したが,カビ生育への影響は小さかった.対して,リンゴ果汁の違いによるパツリン産生への影響は大きく,パツリン産生量は果汁により7.3倍の差があった.さらに,各リンゴ果汁を減圧濃縮処理した後,ミリQ水を加えて還元処理した濃縮還元リンゴ果汁から6種類の培地を調製してP. expansumを培養し,カビの生育とパツリン産生に及ぼす影響を調べた.その結果,全てのリンゴ果汁において,濃縮還元処理によってパツリン産生量は減少し,カビの生育は促進される傾向が観察された.このことは,揮発性化合物がパツリン産生を促進し,カビの生育を抑制することを示唆していた.そこで,リンゴ果汁に含まれる揮発性化合物をGC-MSで分析し縮還元処理によって濃度が大きく減少した 13化合物を選択し,パツリン産生の促進効果を調べたところ,2-メチルプロピル酢酸,エチル酪酸,エチル2-メチル酪酸,3-メチル-1-ブタノール,ヘキシル酢酸,1-ヘキサノールおよび2-メチル酪酸の7化合物は,濃度依存的にP. expansumによるパツリン産生を促進し,特に2-メチル酪酸とそのエチルエステル化合物,エチル2-メチル酪酸はその効果が高かった.これらの結果は,P. expansumによるパツリン産生は,リンゴ果汁中の揮発性化合物の組成の影響を大きく受けることを示していた.
  • 佐久間 久子, 小西 良子, 田中 敏嗣, 永山 敏廣, 内藤 成弘, 堀江 正一, 石黒 瑛一, 中島 正博, 吉成 知也, 川上 浩
    2014 年 64 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2014/01/31
    公開日: 2014/06/21
    ジャーナル フリー
      日本の10機関による,乳中アフラトキシンM1(AFM1)測定の室間実験を行った.イムノアフィニティカラムによりAFM1を精製し,高速液体クロマトグラフィー- 蛍光検出で測定した.各1.0,0.5,0.05 μg/kg のAFM1を添加した乳,ブランク乳,汚染粉乳,自然汚染乳の6種類の牛乳材料を用いた.3種類のAFM1添加した乳の添加回収率は88.2-91.6%,汚染粉乳の回収率は94.5%であった.ブランク乳を除く5種類の牛乳材料の室内再現相対標準偏差は13.3%以下,室間再現相対標準偏差は20.9%以下,修正HorRat値は1以下であった.この方法を用いて,日本国内で入手した108の乳児用粉乳の試料を測定した.平均値は0.002 μg/L(乳幼児に与える液体換算:14 g 粉乳 /100 mL水)であり,最高値は0.025 μg/Lだった.
テクニカルノート
パートII(日本語論文)
第73回学術講演会シンポジウム
「特別講演」
  • 西村 麻里江
    2014 年 64 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2014/01/31
    公開日: 2014/06/21
    ジャーナル フリー
      植物は,キチンなどの糸状菌特有の細胞壁構成多糖を異物として認識して自然免疫と呼ばれる防御機構を活性化する.それにも関わらず,病原菌は自然免疫を回避して宿主植物に感染することができる.我々はイネの病原性糸状菌であるイネいもち病菌,イネゴマ葉枯病菌,イネ紋枯病菌の細胞壁の研究から,これらの病原性糸状菌では植物感染時にイネが分解できないα-1,3-グルカンでキチンなどの細胞壁多糖を覆い隠すことにより宿主植物の自然免疫を回避していることを見いだした.これらの3菌は進化上非常に遠い関係にあるだけではなく,感染機構が全く異なること,イネだけではなく多くの植物にとってα-1,3-グルカンは難分解性であることから,他の多くの植物病原性糸状菌でもα-1,3-グルカンが植物の自然免疫を回避に利用されている可能性が高いと考えられる.さらに,我々はα-1,3-グルカン欠損イネいもち病菌に対してイネが侵入前から防御応答を活性化することも見いだした.これらの知見は菌体表面からのα-1,3-グルカンの除去により植物の免疫の活性化を誘導することができることを示しており,α-1,3-グルカンを標的とした新しいタイプの病害防除法への展開が期待できる.
「トピックス」
「フザリウムトキシンの今」
  • 中川 博之
    2014 年 64 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2014/01/31
    公開日: 2014/06/21
    ジャーナル フリー
      小麦および大麦を汚染する主要フザリウムトキシン5種(デオキシニバレノール,ニバレノール,T-2トキシン,HT-2トキシン,ゼアラレノン)について,高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)による一斉分析法を開発し,12機関における室間共同試験による妥当性確認を行った.フザリウムトキシンの一斉分析にはこれまで多くの機器分析手法が報告されているが,その多くは室間共同試験による妥当性確認がなされていない.また,LC-MS/MSによるカビ毒分析においては抽出効率のばらつきや夾雑成分によるイオン化への影響がしばしば問題視されるが,本手法では内部標準物質による補正を行うことでこれらの影響を低減できていると思われる.タイプAトリコテセン,タイプBトリコテセン,及びゼアラレノンを対象とする室間共同試験による妥当性確認がなされた一斉分析法は,本手法が国内外を通じて最初の例である.一方,フザリウムトキシン由来の新規配糖体(マスクドマイコトキシン)の検出を目的として,高分解能LC-MS(LC-Orbitrap MS)による精密質量を指標としたスクリーニングを行った.その結果,玄麦試料においてタイプBトリコテセン(ニバレノール,フザレノン-X)由来,またトウモロコシ粉末試料においてタイプAトリコテセン(T-2トキシン,HT-2トキシン,ネオソラニオール,ジアセトキシスシルペノール,モノアセトキシスシルペノール)由来のモノグルコシド体を検出した.T-2トキシン,HT-2トキシンに関してはジグルコシド体も検出された.これらの結果から,マスクドマイコトキシンがデオキシニバレノールやゼアラレノンのような特定のマイコトキシンのみではなく,他のフザリウムトキシンについても存在することが明らかになった.
  • 吉成 知也
    2014 年 64 巻 1 号 p. 63-68
    発行日: 2014/01/31
    公開日: 2014/06/21
    ジャーナル フリー
      デオキシニバレノールをはじめとする,いわゆるフザリウムトキシンによる食品の汚染は世界中に広がっており,食の安全の観点で大きな問題となっている.フザリウムトキシンのうち,デオキシニバレノール,ニバレノール及びフモニシンを対象とした実態調査については,厚生労働省や農林水産省によって既に実施されてきた.しかし,T-2 トキシン,HT-2 トキシン及びゼアラレノンについては,JECFAによる毒性評価がなされているにもかかわらず,我が国における汚染実態の情報はほとんど得られていない.そこで,2010年度より厚生労働科学研究補助金- 食品の安全確保推進研究事業- において国内市販食品や輸入食品におけるそれらカビ毒の汚染実態調査を3年間通年で実施した.
  • 前田 一行, 中嶋 佑一, 市川 雛代, 鬼頭 良幸, 古﨑 貴大, 斎藤 臣雄, 本山 高幸, 長田 裕之, 小林 哲夫, 木村 真
    2014 年 64 巻 1 号 p. 69-74
    発行日: 2014/01/31
    公開日: 2014/06/21
    ジャーナル フリー
      赤かび病菌Fusarium graminearumはトリコテセン系かび毒を産生し穀類を汚染する病原菌である.トリコテセン類は安定性が高く,分解・除去が困難であるため,かび毒の産生そのものを制御する手段の確立が望まれている.我々は赤かび病菌のトリコテセン系かび毒の産生制御に向けた制御化合物の探索を行っている.理化学研究所天然物化合物バンク(NPDepo)から供与される化合物を直接,毒素誘導条件下の菌体に処理してトリコテセン産生への影響を調べる方法に加え,化合物アレイを用いてトリコテセン生合成酵素の阻害剤を探索している.本稿では,これらの手法によって現在までに得られつつある有用化合物に関する活性評価と作用機作についての概要を紹介する.
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