フザリウム属カビ毒汚染が確認されているトウモロコシ試料中からフモニシンC(FC)群の同時検出を試みた.検出には高分解能LC-MSを用い,精密質量によるスクリーニングを行った.FC群と予想されるピークはフモニシンB(FB)群のピークより0.1~0.3分早い保持時間で溶出され,FCがFBのC-1位のメチル基が外れた構造をとることによるものと考えられた.ネガティブイオンモードによる測定において,フモニシン構造に特徴的なトリカルバリル酸(TCA)イオンとTCAが脱離したフモニシンのフラグメントイオンを,各FCと同じ保持時間に検出した.また,各FCのフラグメンテーションのパターンが相当するFBのフラグメンテーションパターンと同様であることを確認した.本研究は,トウモロコシ試料中の自然汚染FC1,FC2およびFC3の同時検出としては初めての報告である.
YamanakaファクターであるOct4,Sox2,Klf4およびc-Mycによるエピジェネティク 制御で誘導・維持される幹細胞の特性を獲得することは,悪性肝細胞癌(HCC)の最大の特徴である.私共は,アフラトキシンB1誘発雄性ラット肝癌由来K2細胞において性決定因子であるSryが過剰発現されており,本因子がK2細胞の悪性形質獲得に深く関与していることを見出した.K2細胞においてはSry/SGF29/c-Myc経路が著しく活性化されており,89%が癌幹細胞(CSC)であることが明らかになった.ヒトHCCで異常に発現されるSryはCSCのマーカーであるOct4の遺伝子発現を直接誘導し,逆にSry発現をノックダウンするとOct4の発現が抑制され,CSCの特性である自己複製能,造腫瘍能,薬剤耐性能が低下した.これらの結果は,Sryが雄性HCCにおいてCSCの誘導・維持に強く関わっていることを示している.さらに,ヒトHCC由来CSCをレチノイン酸存在下で培養すると長い突起を有するTuj1-positive/Ki67-negative神経細胞に分化し得ることが判明した.これらの結果に加えてヒトHCCにおいて18例中3例でOct4 mRNAが過剰に発現されていることを考え併せると,癌の再発において中心的役割を果たしているCSCを標的とする分化誘導療法は,HCCの根絶に大いに役立つことが期待される.
トリコテセン系カビ毒の毒性をT-2トキシンおよびDONを中心にして述べた.これらのトキシンは急性影響および慢性影響として,生体の形態や機能に対して広範囲の毒性をもたらす.in vitro,in vivo の多くの実験系で濃度・用量依存性の細胞障害や臓器障害が報告されている.アポトーシスが広範囲の器官,細胞系列において観察されており,細胞障害における酸化ストレスの役割が注目されている.近年,トリコテセン系カビ毒によるアポトーシスの発現メカニズムや酸化ストレス障害が詳しく調べられている.アポトーシスを起こす機序として,リボソーム-MAPK(JNK/p38),DNA損傷,デスリセプター/カスパーゼ-8の各経路を介する経路が考えられている.
2014年11月にウィーン(オーストリア)にて開催されたカビ毒国際会議WMF 2014(第8回World Mycotoxin Forum)に参加した.同会議には世界各国のカビ毒研究者が参集し,70件を超える口頭発表と160件を超えるポスター発表が行われ,活発な議論が展開された.その概要を報告する.