近年,農産物に着生したFusarium菌の産生するカビ毒汚染が世界各国で注目されるようになった.我が国では麦類のdeoxynivalenol及びnivalenolについて,また諸外国では麦,コーンなどのdeoxynivalenolをはじめとするFusariumトキシンの自然汚染例に関する報告が多く見られるようになり,それらの汚染実態が解明されつつある.最近,カナダでは,小麦中のdeoxynivalenol汚染について2ppmのガイドラインを設けた.また,FDAでは,暫定的な値として小麦を原料とした最終製品で1ppm,製粉を行う小麦で2ppm,飼料で4ppm以下と勧告している.これらの諸外国の情勢から我が国においても早急に汚染調査のモニタリングを行い,汚染実態を把握するとともに,何らかの規制値を提示する時期にきているものと思われる.そこで著者は,市販食品及び農産物の汚染実態調査を行った.穀類等の農産物の多くは,加工食品の原料として,加工製造の工程を経て最終段階の製品として市販され,利用に際して水洗,加熱などの調理加工の行われる場合が多いが,調理加工後もトキシンが残存するか否かは人体への摂取との関連で重要な問題であり,関心事でもあることから調理,加工時の各種条件下におけるトキシンの消長を調査した. 一方,マイコトキシン汚染調査を行うとき,常に考慮しなければならないことの一つとして,サンプリングの問題がある.これらについては,aflatoxinの粒汚染についての報告例があるが,Fusariumトキシンについての報告例は見当らない.一般に,カビ毒の汚染は一粒単位の部分汚染であるため,化学分析の結果から母集団のトキシン量を推定するには,一粒あたりの汚染量と汚染粒の混在率により大きく影響を受けるためサンプリングの方法が重要な問題となる.そこでサンプリング方法を検討する際,汚染の実態を解明したうえで,試料採取及び秤取量などを決めることが今後重要な課題になるものと考えるので,それらについても言及する.
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