マイコトキシン
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64 巻, 2 号
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パート I(英語論文)
原著論文
  • 川崎 靖, 安達 尚美, 田村 勇, 米納 孝, 飯田 直幸, 秋山 弘匡, 杉山 晶規, 田代 文夫
    2014 年 64 巻 2 号 p. 117-139
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2014/10/15
    ジャーナル フリー
      TAM誘導アポトーシスで生じる17-kDaのヒストンH10N末端領域(17-kDa H10NTR; Thr2 – Phe107)はDNase活性を有しており,その活性には25と57番目のヒスチジン残基が必須であった.TAMにより,Ca2+の細胞内流入が惹起され,この下流でCa2+依存性のプロテアーゼであるカルパイン-2が活性化される.さらに活性化されたカルパイン-2によってヒストンH10が限定的な切断を受け,DNase活性を有する17-kDa H10 NTRが産生され,クロモソームDNA断片化を介してアポトーシスを誘導した.さらに,17-kDa H10NTRの強制発現はTAM誘導アポトーシスを増強する,一方RNA干渉によるH10の発現抑制はアポトーシスを抑制した.これらの結果は,17-kDa H10NTR DNaseがTAMの細胞死シグナル伝達経路の下流で重要な機能を果たしていることを示すものであり,ヒストンH10の生物学的な役割の新たな一面を明らかにすると共に,TAMはアフラトキシンB1によって引き起こされる肝発癌の予防薬や肝癌の治療薬として有用であることを示している.
ノート
  • 荒添 貴之, 大里 修一, 前田 一行, 有江 力, 桑田 茂
    2014 年 64 巻 2 号 p. 141-146
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2014/10/15
    ジャーナル フリー
      我々は真核生物の遺伝的変異機構の一つである体細胞相同組換えの検出/選抜系を構築し,イネいもち病菌の体細胞相同組換えがタンパク質合成阻害剤であるブラストサイジンSによって誘導されることを示した.本研究では,イネいもち病菌の体細胞相同組換えに及ぼす化学ストレスおよびマイコトキシンの影響について調査をおこなった.DNA損傷薬剤として知られるmethyl methanesulfonate,bleocineおよびmethyl viologenの処理により,イネいもち病菌の体細胞相同組換え頻度が大幅に上昇することを見出した.同様に,アミノ酸合成阻害剤であるビアラフォスやタンパク質合成を阻害するT-2 toxinの処理によっても体細胞相同組換え頻度の上昇がみられた.このような一次代謝経路阻害による体細胞相同組換え頻度の上昇は,薬剤ストレスによるゲノムの不安定化が一要因として考えられ,体細胞相同組換え検出系を用いたマイコトキシンの高感度バイオアッセイ系として応用可能であることを報告する.
テクニカルノート
  • 中嶋 佑一, 東海 武史, 前田 一行, 田中 彰, 安藤 直子, 金丸 京子, 小林 哲夫, 木村 真
    2014 年 64 巻 2 号 p. 147-152
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2014/10/15
    ジャーナル フリー
    電子付録
      Fusarium graminearum細胞内でGUS遺伝子をレポーターとしAspergillus nidulans由来の保存遺伝子4種のプロモーター活性を評価した.Tri5クラスターの末端付近に位置するTri14ローカスに,それぞれのプロモーターをGUSと連結したコンストラクトを導入し,細胞粗抽出物をレポーターアッセイに供した.その結果,TEF-1α( translation elongation factor 1-alpha )プロモーター制御下でのGUS活性が突出して強く,続いてGPD( glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase ),UBI( polyubiqutin ),TUBβ-tublin )プロモーターの順に高いGUS活性を示した.さらに,トリコテセン制御因子( Tri6 )と強化緑色蛍光遺伝子( EGFP )との融合型遺伝子( Tri6::EGFP ),ならびにTri6のopalストップコドンを残した融合コンストラクト( Tri6stopGFP )を作製し,TUBおよびTEF-1αプロモーターに連結し,トリコテセン3-O-アセチルトランスフェラーゼ( Tri101 )下流ローカスに導入した.ノーザン解析によりこれらの融合コンストラクトの転写量を確認したところ,先のGUSアッセイによるプロモーター活性と比例した転写活性を示した.また,これらの株のトリコテセン生産を調べたところ,Tri6::EGFP遺伝子産物のトリコテセン生産誘導能はTRI6と比べ大きく減少していた.本研究で報告したプロモーターは,F. graminearumにおいて目的遺伝子の発現量変化による機能解析に有用となるだろう.
パートⅡ(日本語論文)
第74回学術講演会シンポジウム
「 アフラトキシンM1 我が国の動き」
  • 林 美紀子, 古川 明, 秋元 京子, 山田 友紀子
    2014 年 64 巻 2 号 p. 161-165
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2014/10/15
    ジャーナル フリー
      我が国の家畜用飼料の主原料として海外から輸入されているトウモロコシやマイロなどの穀類は,輸入先国における気候状況の影響等により,家畜や人の健康に悪影響を及ぼす「かび毒」を含有する場合があります.
      農林水産省は,乳や肉等の畜産物食品を介した人の健康保護を図るため,これらのかび毒について,飼料の基準値を設定し,基準値を超過した飼料を流通させないよう事業者を指導するとともに,汚染実態調査を行い,基準値の遵守状況を常に監視しています.
      今回は,「アフラトキシン(AF)B1の乳用牛用配合飼料の基準値」を事例とし,国際的な考え方に基づく飼料の基準値の設定方法など,農林水産省が実施している飼料中のかび毒に関するリスク管理について紹介します.
  • 中島 正博, 谷口 賢
    2014 年 64 巻 2 号 p. 167-176
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2014/10/15
    ジャーナル フリー
      近年,種々のカビ毒に関するリスク評価が国際的に行われ,世界各国や国際機関ではこれらリスク評価に基づいたカビ毒の基準値設定が積極的に行われている.乳中アフラトキシンM1(AFM1)についても,世界各国やコーデックス委員会,EUなどの国際機関においてその基準値が設定されている.我が国においては,2013年7月に食品安全委員会から「乳中AFM1に係る食品健康評価」が出され,これを受けて厚生労働省では乳中AFM1基準値設定について検討される予定である.カビ毒試験法評価委員会では,乳および粉乳中AFM1試験法について既にその妥当性を確認しており,我が国においてAFM1の基準値が設定された場合にはその公定試験法を迅速に提供する準備が整っている.そこで本稿では,主にカビ毒試験法評価委員会において妥当性確認された乳および粉乳中AFM1試験法について,その操作法と注意点について解説する.
国際会議報告
ミニレビュー
  • 河合 賢一
    2014 年 64 巻 2 号 p. 183-196
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2014/10/15
    ジャーナル フリー
      1974年に研究対象として以来約40年間菌類,特にカビと付き合ってきた.その間,Emericella striataからの大環状マイコトキシンemestrinの単離を端緒に多くのEmericella属菌の成分検索を実施した.さらに,前記以外の菌類の成分検索を行い,たとえば,Talaromyces derxiiからアオカビの青色色素のもととなると考えられるtalaroderxineを得た.後半15年では「さび病菌の冬胞子形成誘導物質の解明」や「重篤な輸入真菌症の原因菌の成分検索」を手掛けたが,いずれも中途で終わってしまったのが残念である.最後に,Malbranchea filamentosaからmalbrancheoside類というトリテルペン配糖体,いわゆる,サポニンが単離できたことは私にとって光栄なことである.
  • 加藤 直樹, 徳岡 昌文, 篠原 靖智, 小山 泰二, 長田 裕之
    2014 年 64 巻 2 号 p. 197-206
    発行日: 2014/07/31
    公開日: 2014/10/15
    ジャーナル フリー
      麹菌Aspergillus oryzaeは我が国の伝統的な発酵食品の生産には欠かせない微生物であり,長い年月をかけた育種により,その安全性が確立されている.本菌はアフラトキシン生産菌A. flavusから派生した家畜種と考えられており,その進化的な近縁関係は両種のゲノム解読によっても裏付けられている.我々人類にとって対極とも言える両種の決定的な相違点として,二次代謝産物生産能を挙げることが出来る.両種のゲノム中には共通して多数の二次代謝系遺伝子が存在しているにも関わらず,A. oryzaeは一切,アフラトキシンを生産せず,報告のある二次代謝産物もごく少数である.生合成に関わる遺伝子の変異や欠損,転写抑制といった遺伝的要因の蓄積によるマイコトキシン生産能の喪失は,A. oryzaeA. flavusから家畜化して生じた種であるという概念によく合致している.そういったA. oryzaeにおけるマイコトキシン生産を回避するための遺伝的要因「セーフガード」に焦点を当て,我々が最近明らかにしたシクロピアゾン酸(CPA)生産に対するセーフガードを中心に解説する.小胞体Ca2+-ATPaseに対する強力な阻害物質であるCPAはA. oryzaeの一部の菌株における生産が報告されている.その生合成遺伝子クラスターには,A. flavusでは欠失している遺伝子が含まれている.一見すると従来の家畜化の概念とは相反する現象ではあるが,種々の解析の結果,その遺伝子はCPAを2-オキソCPAに変換することで毒性を和らげる役割を担っていることが明らかとなった.麹菌ゲノム中には,その安全性を担保するための様々な遺伝要因が蓄積していることが改めて示唆された.
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