日本は食糧や飼料の輸入に強く依存しているため,輸入食品や農産物のアフラトキシン(AF)汚染リスク増加を理解することは重要であるが,近年の気候変動に起因する国産農産物の汚染リスクについても向き合う必要がある.しかしながら,国内のAF産生菌に関する情報は集積の途上にある.本研究では国内の米乾燥調製設備の残渣から分離された4株のAspergillus flavusに関するドラフトゲノム情報を報告する.4株の内,3株はAF産生菌であった.残りのAF非産生株はAflRの翻訳異常に起因するAF合成遺伝子の発現阻害が予測された.さらに,3つのAF産生菌のAflRアミノ酸配列にはそれぞれ違いがあり,国内株の遺伝的多様性が確認された.本研究ではAF産生菌を判別可能な違いは確認されなかったが,本ゲノムデータセットの活用は国産農産物のAF汚染防止に貢献するだろう.
Aspergillus section Flaviに属する菌種には,日本の伝統的醸造に重要なAspergillus oryzaeと,アフラトキシン産生能を有するA. flavusが含まれる.両菌種を遺伝学的に判別するのは,ゲノムが99%以上同一のため非常に至難である.近年,両菌種の判別指標としてcyp51A遺伝子バリアントが提唱された.今回,本指標を日本産A. oryzaeに適用したところ,判別結果が菌種に合致しない菌株が複数, 見出された.
「ナレズシ」は地域の魚介類を米飯と共に漬け込んだ伝統的発酵食品であり,江戸前寿司のルーツとされる.現在,なれずしは日本各地に分布し,それぞれの地域に根付いた郷土料理となっている.先人たちは各地域の気候風土に応じて長い年月をかけて安全かつ安定的な発酵が保証できるナレズシの生産技術を確立し,各地域の伝統文化や食文化と関わり合いながら現在の形へと進化してきたと考えられる.本稿では,和歌山県日高地方に伝わる「紀州鯖なれずし」と岐阜県岐阜市長良川の鵜匠家に代々伝わる「鮎鮨」に焦点を絞り,両ナレズシの発酵科学を中心に解説する.
わが国での小麦栽培における最重要病害とされる赤かび病を予防するには,病原糸状菌である麦類赤かび病菌の防除を適切に行うことが肝要である.小麦では開花始期~開花期が,麦類赤かび病菌に対する感受性が最も高い時期であると同時に,防除適期である.昨年公開された [NARO栽培管理支援API09:小麦発育予測] https://wagri.naro.go.jp/wagri_api/agmis-wheatgrowthprediction/は,農研機構が提供する公的なクラウドサービスWAGRI-APIの1つであり,栽培管理に役立つ情報を提供している.[API09] では,圃場位置情報と小麦の品種,播種日を入力することで,開花期の予測結果を得ることができる.