2020 年に始まった新型コロナウイルス流行においては,外出自粛措置などにより家計消費支出に変化が観察された.本稿ではその家計消費支出の変化に伴う生産波及効果を,総務省統計局が2019 年に公表を開始した「消費動向指数」のデータ(品目別の支出金額を掲載した参考詳細表)を用いて推計した.「消費動向指数」とは総務省「家計調査」の結果を,同「家計消費単⾝モニター調査」,同「家計消費状況調査」の結果等と統計的⼿法によって補正・補強し,標本規模を擬似的に拡⼤して推計精度を向上させたものである.「消費動向指数」のデータを用いることにより月次単位の生産波及効果をより精度高く推計することができたと考えられる.
兵庫県では,2020 年2 月に最初の新型コロナウイルス感染者が確認され,感染の拡大に伴い外出自粛が広がった,そのため飲食や旅行などの対面サービス消費等に深刻な影響があり,コロナ禍の経済的影響は,2009 年度のリーマンショックに匹敵する景気の落ち込みとなった.本稿では,コロナ禍から約3 年が経過した中,地域経済統計を用いて,新型コロナ感染症の拡大が兵庫県内に与えた経済的影響と課題について考察した.
本稿では,長引く新型コロナウイルス感染症の影響で,都道府県間の人口移動にどの様な変化が生じたのかを,総務省統計局が公表している「住民基本台帳人口移動報告」から作成される都道府県×都道府県の人口移動行列を基に,要因分解や産業連関分析の三角化の手法を応用して捉える試みを行った.分析結果によると,コロナ禍(2020 年~2022 年)において,これまで人口が集中する一方であった東京都や愛知県への転入超過に歯止めがかかり,近隣やより人口密度の低い他道府県へと人口が流出する傾向が見られた.情報通信技術等を十分に活用した在宅勤務が普及し,大都市圏以外に居住地域が分散することで,各地域の経済活性化が促されれば,日本経済全体の景気改善の一つのきっかけになるのではないかと期待される.
2006 年12 月に日本政府は「観光立国推進基本法」を成立させ,訪日外客数とその観光消費額の増加をめざした.2019 年に訪日外客数は3 千200 万人,インバウンド消費は6 兆円に達した.しかし新型コロナの感染拡大で,2020 年以降外国人の入国が制限され,訪日外客は「蒸発」した.本稿では,訪日外客数の蒸発が当時の日本経済にどれほどの影響を与えたかを外客の国籍別に試算した.
コロナ禍は国や都道府県だけでなく,観光を主要産業とする地域経済に深刻な影響をもたらした.そのため,都道府県内の小地域経済に焦点を当てたコロナ禍の分析は,地域振興政策上,より意義深い.この観点から,本研究は,県境をまたぐ移動の自粛が静岡県伊豆半島地域に与えた経済的影響を探る.静岡県内2 地域間産業連関モデルを用い,月次ベースで経済誘発効果の計測を行う.その過程で,当該地域の宿泊者数および旅行消費支出額の推計方法を提案する.伊豆半島地域を訪れる宿泊者の旅行消費支出に起因する経済的波及が,当該地域だけでなく,県内他地域に及ぶことを示す.また,コロナ禍が「宿泊業」「飲食サービス」「小売」に与えた生産,付加価値,雇用の損失を計測する.
コロナ禍の経済的影響は,国民に「不要不急の外出自粛」が要請されたり,海外からの旅行者が「蒸発」したりしたことによる需要減少の影響で語られることが多い.しかし一方で国内外の部品工場が操業を停止したり,飲食店に対して休業要請が出されたりするなど,供給が制約されたことも経済に大きな影響を与えた.産業連関分析は基本的には需要分析であり,供給減少を分析することは得意ではないが,本稿では飲食サービス業を例にとって「供給制約」を分析するモデルを紹介する.
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