経済モデルを作成する時に,最初に2つの異なるモデルの概念を区別する必要がある.規範モデルと実証モデルの区別である.前者はあるべきモデル,規範モデル,後者はあるがままのモデル,実証 モデルと言われる.あるがままのモデルは,経済の資源配分の実態を明らかにしようとするもので,多くの計量経済モデルがこの範疇にはいる.一方,それに対 して,あるべきモデルはこうあって欲しい,こうあるべきもので,しばしば長期の姿を描くことがある.二酸化炭素排出を扱うマーカルモデル,最適産業構造を 論じるターンパイクモデル,また最近のCGE,DGEもこの範疇になる.近年のマクロモデルの主流であるDGEの特徴は,したがって a)規範モデルであり,b)確率を含んだ確率モデルであり,さらに c)価格決定で合理的期待形成を採用する点に求めることができる.ところでこうした DGE のアプローチは2つの欠陥をもっている.一つは日銀モデル JEM などを除いて現実のデータを追いかける実証的側面を放棄していることである.他の欠陥は,所論「deep parameter」の不安定性にある.「deep parameter」の不安定性は,経済システムが社会,人口,政治,環境といった要素と緩い相互依存の中にあることから来ている.したがってこれらの要素をマクロモデルに組み込まないと「deep paramer」の安定性は確保されないだろう.
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