東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
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  • 公益活動を通してのスポーツ現場での実態調査
    田中 哲, 成宮 久詞, 早川 省三
    セッションID: P056
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】最近理学療法士(以下PT)が院外活動として、地域のスポーツ現場でサポートといった公益活動をする機会が増えてきている。今回はPTがメディカルサポートとして公益活動をするにあたり、現場でのスポーツ活動の現状を把握し、地域のスポーツ活動に介入していくにあたり、どのような活動が望ましいかを検討してみた。今回は高校野球部でのメディカルサポート、中学ボーイズリーグの野球大会サポート、小学生のスポーツ指導者に対する講習会をとおして、年齢別によるスポーツ障害やその特性、対象者の要望のほか、PTが現場で活動する点でのさまざまな問題点等において若干の知見を得たので報告する。
    【方法】対象は石川県内の高校野球部に対しメディカルサポートを行い、46名の選手からのアンケート調査を行った。また中学ボーイズリーグの地方大会においてメディカルサポートを実施し、参加PT26名からのアンケート調査を行った。スポーツ少年団に所属する監督、指導者に対して、小学生のスポーツ障害についての講習会を行い参加者38人からアンケート調査を行った。
    【結果】野球部でのアンケートの結果より初めて痛くなった時期は小学生の時期が多く、初めて痛くなった部位は肘関節が最も多くみられた。現在痛めている部位も肘関節が多く、腰痛が次に多く見られた。痛みを伴う動作としては投球動作が最も多く、ダッシュ時の疼痛が次に多くみられた。痛みが出てきたときの対応としては「様子を見ながら続ける」が最も多く、「我慢して続ける」と合わせると過半数を超え「休む」「医療機関を受診する」を大きく上回った。小学生のスポーツ指導者に対する調査では、PTの認知度が低かったほか、PTの治療を受けた経験も少なく、障害に対しての認識が低いという結果が得られた。次にメディカルサポートを経験したPTからのアンケートでは、サポートを継続したい理由としては自身の勉強のためや、スポーツリハに興味がある等が多く、活動中に困ったこととしては、個別の相談に対しての対応や、指導に戸惑うといったものが挙げられた。
    【考察】高校野球部の調査結果より、障害の発生年齢は小学生のころに発生したものが多く、特に肘関節、肩関節といった投球動作による障害が多くみられた。現在の障害部位としては腰部や下肢の疼痛が多く、以前故障した箇所の疼痛再発も多くみられた。また少年団の指導者に対しての調査からは、指導者が発育過程の障害についての認識が低い指導者もみられ、適切な指導や過度の関節への負荷が障害をきたすという認識が、青年選手のスポーツ障害を予防する上で大切なのではないかと考える。中学ボーイズ野球大会のメディカルサポートに関しては、PT自身が現場での活動に興味を持ってはいるが、障害に対しての知識や相談に対しての対応に自信が持てないという結果が得られた。今後はサポートする側の知識向上や、コミュニケーション能力向上等も課題になると思われる。
  • 森下 真樹, 安倍 浩之, 小林 裕和, 下 嘉幸, 岡田 英治, 藤田 翔平, 山之内 真宏, 福山 支伸, 田中 伸幸, 川口 善教
    セッションID: P057
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】  女子の前十字靭帯損傷の発症率が高い要因の一つとして、下肢アライメント異常が指摘される。下肢アライメント異常は足部アライメント異常との関連が深く、様々な身体症状を引き起こしている。そこで本研究は、女子バスケットボール選手の自覚症状と足部アライメントについて調査したので、若干の考察を加えて報告する。 【対象】  県内某高校の女子バスケットボール部員14名(年齢15.6±0.61歳、バスケットボール経験期間4.64±0.97)である。 【方法】  主観的評価としてアンケートを行い、運動中や運動後の疲労や痛みの自覚症状を調査した。そして、身体のどの部位に疲れや痛みが生じているか圧痛テストなどにより確認した。客観的評価としては、内側縦アーチ高率、踵骨外反傾斜角を測定した。内側縦アーチ高率の測定方法は、大久保らの提唱している方法(舟状骨高/足長×100)を使用した。舟状骨高測定法については、体重計の上で両足均等にかかるよう立位で測定した。鳴海らの分類に基づき、アーチ高率が11%以下の群をL群、11~15%の群をM群、15%以上の群をH群に分類した。踵骨外反傾斜角の測定は、裸足の安静時立位で踵からアキレス腱が確認できるよう写真撮影をし、写真上で行った。なお、測定肢はすべて非利き足とした。 【結果】 アーチ高率の測定より、L群が7%(1/14)、M群が93%(13/14)、H群は0%(0/14)であった。また、踵骨外反傾斜角は過剰群が64%(9/14)、正常群が36%(5/14)であった。  アンケート調査の結果、運動中や運動後に疲労や痛みを感じるものが全体の70%であった。圧痛テストでは、脛骨後内側縁に圧痛が認められるものは57%(8/14)、その他の部位に圧痛が認められるものは36%(5/14)、圧痛無しは7%(1/14)であった。さらに、脛骨後内側縁に圧痛が認められるものは、L群は100%(1/1)であり、M群は54%(7/13)であった。また、脛骨後内側縁に圧痛が認められるものは、踵骨外反傾斜角が過剰群では100%(8/8)、正常群では0%(0/8)であった。 【考察】  今回の結果から対象群は、何らかの下肢痛や、足部アライメントの異常を有するものの割合が高く、圧痛テストからシンスプリントを疑うものが多かった。また踵骨外反傾斜角から、後足部の過回内が生じているものが多かった。一般に、シンスプリント発症にかかわる身体的要因として、偏平足や後足部過回内などが挙げられる。 今回の対象としたバスケットボール競技の特徴として、ジャンプ、ダッシュ、ストップといった足部へのストレスの反復が挙げられる。この過剰なストレスと後足部過回内が、後脛骨筋等、足部回外筋群のoveruseを引き起こし、疼痛の一因になったのではないかと推察された。なお、本学会において詳細について報告する。
  • 正司 守生, 矢野 昌充, 吉本 真樹, 狩山 信生, 江村 匠史, 牧野 弘昇
    セッションID: P058
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
     現在、石川県サッカー協会が平成17年度より設置したトレーナー部会には9名の理学療法士(以下PT)が所属している。そこで我々は、設置年度の石川県高等学校サッカー新人大会から、傷害予防及びコンディショニング支援などを中心に医師の指示の元でトレーナー業務を実施してきた。
     今回、平成19年度の活動内容と選手への対応内容や実施箇所、時期などに関するアンケート調査をまとめたので報告する。
    【方法】
     対象は同大会ベスト8以上の8チームの内、希望した延べ41名であり、活動試合数は7試合であった。トレーナー数はPT6名であり、両日ともに4名の配置とした。
     調査内容は、1)実施箇所、2)その内容、3)実施時期等であり、方法は無記名選択式とした。
    【結果】
     1)対象者への実施箇所は大腿部、下腿部、全体的がそれぞれ全体の17.8%、膝周囲と足部(足関節含む)が15.6%、腰背部が13.3%など、2)実施内容については、テーピングが13件、マッサージが32件、コンディション伝達が3件など、3)実施時期は、試合前14件、試合間3件、試合後23件であった。
    【考察】
     今回のアンケート調査から、利用人数は延べ41名と平成17年度の19名と比較すると増加しており、トレーナー業務を必要とする意識が徐々に浸透し、高まっていると考えた。
     実施時期は、複数試合予定チームの試合後のリコンディショニング時に多かった。
     実施箇所、実施内容についてはサッカーという競技ゆえに下肢への疲労感などに対してのマッサージや試合直前のテーピング処方が多かった。‹BR›これらの事から、チーム・選手は直前の試合結果への効果のみを期待し、トレーナーを利用するといった傾向が見受けられ、選手達が試合以外で意識的に傷害予防に取り組んでいるとは言い難い。しかし、パフォーマンス能力を高い位置で維持するために、コンディショニングやリコンディショニングなど、普段からの自己管理能力がいかに必要であるかを示すことはできたと考える。
     競技レベルの選手にとっては、試合においていかに最大限にパフォーマンス能力を発揮するかが重要となり、その一助としてトレーナーが存在すべきと考える。そのためにトレーナーは、選手の様々な要望に対し、短時間で的確かつ即効性のある治療手技を選択し、施行するといった迅速な対応をしなければならないと考えている。さらにそれが選手とトレーナー間の信頼関係を築き、選手がトレーナーを必要と感じる事で、今後更に効果的な啓発活動ができるのではないかと考えた。また、PTがトレーナーとして選手やチームに選ばれるためには、単にトレーナー業務のみならずメディカルサポーターとしての業務も担っていく必要があるのではないかと考える。
     今後更にPTがトレーナー業務の一躍を担っていくためには、このような大会での活動を今後も継続的に実施していく必要があると考える。
  • 三谷 保弘, 松澤 惠美, 小林 敦郎, 森北 育宏
    セッションID: P059
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】野球選手に必要な体力要素として,筋力,柔軟性,スピード・敏捷性,持久力,調整力などが挙げられ,なかでも柔軟性は筋力の発揮,滑らかな動きの獲得に必要であるとされている。投球動作は,下肢から体幹,そして上肢へと連鎖的な運動により遂行されており,なかでも股関節は下肢と体幹を連動させる重要な役割を担っている。したがって,股関節周囲筋の柔軟性が投球動作に何らかの影響を及ぼすことが考えられる。そこで今回,股関節周囲筋の静的ストレッチングが投球動作に及ぼす即時的効果について検討したので報告する。
    【方法】対象者は,野球経験のある男性7名とした(平均年齢22.7±5.5歳)。対象者をストレッチング先行群と後行群の2群に分けた。両群ともに,投球動作の解析前にウォーミングアップとして5分間のジョギング,動的ストレッチング,キャッチボール,投球練習を実施した。先行群ではこれに加え,股関節周囲筋の静的ストレッチングを実施した。投球動作の解析には,三次元動作解析装置(VICON-MX)を使用し,Wind-upからFollow-throughまでの進行方向への最大ステップ幅,重心の最大移動距離,重心の最大移動速度,重心の負の最大加速度,上下方向への最大重心移動距離,股関節および膝関節の最大屈曲角度(Wind-up時を除く)を求めた。投球動作のサンプリングは3回とし,スピードガンを用いて球速も測定した。また,両群ともにウォーミングアップ後に股関節の可動域を測定した。1週間後に静的ストレッチングを実施する群を入れ替え,同様に測定を実施した。静的ストレッチングの実施の有無により,それぞれの測定項目の有意差を対応のあるt検定を用いて検討した。
    【結果】静的ストレッチングを実施することにより,股関節の屈曲,伸展,SLRの可動域増大を認めた(p<0.05)。投球動作においては進行方向への重心移動距離の増大を認めた(p<0.05)ものの,その他の測定項目については有意差を認めなかった。また,球速にも有意差を認めなかった。
    【考察】投球動作には柔軟性を必要とすることは当然であるが,その他の要因も多大に関係している。また,投球動作は長年にわたり繰り返し反復されながら構築されていくものである。したがって,静的ストレッチングにより投球動作に即時的な影響を与えることはないのではないかと考える。ただし,身体の柔軟性を得るためには,一定の期間を要することが考えられるため,今後,長期的効果について検討する必要があると考える。
    【まとめ】今回の結果から,股関節周囲筋の静的ストレッチングが投球動作に即時的な影響を与えることはなかった。今後,投球動作に影響を与える要因について検討を重ね,効率的な投球動作の獲得や障害予防に貢献したい。なお,本研究は,アスリートケア研究会の研究費助成を受け実施したものである。
  • 小島 朋子, 石倉 作紀, 椎木 孝道, 齊藤 和快
    セッションID: P060
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    反張膝は膝前十字靭帯(以下ACL)損傷の危険因子の一つと報告されている。臨床経験上、反張膝例では膝伸展時の内側広筋の収縮が不十分であることが多数見られ、術後のリハビリ経過に難渋することがある。当院では、膝前十字靱帯再建術(以下ACLR)後膝蓋骨の上方移動を伴う内側広筋の収縮を重要視したsettingを積極的に指導している。今回、反張膝を呈するACLR例において、術後のリハビリ経過に難渋した例と、その経験をふまえて積極的なアプローチを行い順調な経過を経た症例を経験したので、考察を交えて報告する。なお対象症例の患者様に十分説明し同意を得た。
    【症例紹介および経過】
    <症例1>17歳女性。左ACL損傷・内側半月板損傷。バスケットボール試合中に非接触にて受傷。術前より反張膝(伸展15°)があり、settingが不十分であった。受傷後3ヵ月後ACLR施行した。術後10日の時点で当院setting評価基準setting2(収縮はあるが膝蓋骨の上方移動を伴わない)であった。内側広筋の収縮が不十分で立位・歩行時に膝の伸展は得られず、膝屈曲位にて日常動作となるため、徐々に伸展制限が出現した。また、膝蓋骨の可動性も低下し、anterior knee painを生じてしまった。術後13週でsettig4(抵抗に抗して膝蓋骨を上方移動することができるが最大抵抗には抗せない)となり、伸展は0°、疼痛・立位・歩行も改善しjoggingを開始したが、以降のPTプログラムに遅れがみられた。
    <症例2>16歳女性。左ACL損傷・内側半月板損傷。バスケットボール試合中に非接触にて受傷。術前より反張膝(伸展10°)があり、settingが不十分であった。受傷後2ヵ月後ACLR施行した。術後、内側広筋に対し、早期から積極的にアプローチを行った。その際、反張膝にならないよう膝関節0°ポジションで膝蓋骨を上方へ引き上げることを目的としたsettingを指導し、筋収縮を学習させた。同時に反対側の反張膝に対しても同様のアプローチを行った。術後8週までを重視し、settingの獲得を行った。術後9週でjoggingを開始、以降のPTプログラムに遅れはない。
    【考察】
    今回経験した反張膝のACL損傷例は両者とも術前からsettingにおける内側広筋の収縮が不良であったが、術後のアプローチによって術後経過に差が生じた。当院では術後、setting指導を重視している。膝伸展域での内側広筋の収縮獲得は立位・歩行時の膝の安定性につながり、その後のjogging・運動時の動作の安定性にも重要であると考える。したがって、術前から内側広筋の収縮が不十分である反張膝例では早期に確実なsettingの獲得が望まれる。反張膝例では術後膝過伸展位で獲得することが多いが、正しい肢位でのsettingを指導し、学習させることで、術後の理学療法を良好に進めることができるのではないかと考える。
  • 久保田 雅史, 小久保 安朗, 野々山 忠芳, 佐々木 伸一, 嶋田 誠一郎, 北出 一平, 松村 真裕美, 亀井 健太, 北野 真弓, 鯉 ...
    セッションID: P061
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我々は,骨盤再建術後に歩行中股関節外転モーメントが低下していることを報告したが,その原因が股関節周囲筋力の低下であるかは明らかではない。本研究の目的は,骨盤再建術後の歩行中股関節外転モーメントと股関節内外転筋力に関係があるかを明らかにすることとした。
    【方法】
    対象は2007年1月から2008年5月までの期間で骨盤骨折を受傷し,当院にて骨接合術(ORIF)を施行した7例とした。男性6名,女性1名,平均年齢は43.3±20.6歳,平均体重55.3±10.3kg,平均身長165.3±3.6cmであった。受傷機転は交通事故が5名,転倒・転落が2名であった。AO分類では,type Bが2名,type Cが5名であり,寛骨臼骨折を合併していたのは4名であった。明らかな神経麻痺や下肢の骨折等を有する症例は除外した。
    全荷重可能となった退院時に三次元動作解析装置VICON 370 (Vicon Peak社)を用いて歩行解析を行った。歩行は補助具のない自由歩行とし,計測には床反力計(AMTI社)4枚,赤外線カメラ(Vicon Peak社)6台を用いた。VCM(Vicon Clinical Manager)プロトコールに従い体表面にマーカーをつけて計測を行い,VCMソフトを用いて解析した。股関節外転モーメントは術側のみ解析し、三歩行周期のピーク値の平均を算出した。筋力評価はHand Held Dynamometer(μTas F-1,アニマ社製)を用い,歩行解析を実施した同日に術側股関節内転及び外転筋力を測定した。測定は背臥位にて股関節内外転0°での最大等尺性収縮とし,センサー部位は内果及び外果とした。筋力(Nm/kg)は測定値(N)×転子果長(m)/体重(kg)として算出し,歩行中股関節モーメントとの関係をピアソンの相関検定を用いて検討し,有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    退院は術後平均61.1±26.3日であり,偽関節や骨癒合不良症例はなかった。股関節外転モーメントと股関節外転筋力には有意な相関を認めた(r=0.830,p=0.021)。一方,股関節外転モーメントと内転筋力の間には有意な相関は認めなかった(r=-0.031, p=0.947)。
    【考察】
    本研究の結果から,退院時の歩行中術側股関節外転モーメントは術側股関節外転筋力と高い相関を認めた。これは,股関節外転筋力の低下が股関節外転モーメント低下の原因の一つと推察でき,寛骨臼骨折に限らず非荷重時期から積極的な股関節外転筋力強化の必要性があると考えられた。
  • クリニカルパスの検討
    大場 正則, 赤尾 健志, 寺林 恵美子, 水島 朝美, 城戸 恵美, 布上 隆之, 山上 亨, 箭原 康人
    セッションID: P062
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院では大腿骨頚部骨折患者の約7割の患者で地域連携クリニカルパス(以下パス)を使用し、術後2~3週間で転院している。入院時に患者家族へ歩行の目標設定の説明を十分行い、連携病院でのリハビリテーションの継続を円滑に進める必要がある。今回、受傷前の歩行能力及び入院時の認知症の程度から歩行予後を予測し、個々に応じたパスの作成の可能性について検討する。
    【対象】2006年4月から2008年4月の間に大腿骨頚部内側骨折を受傷し人工骨頭置換術を施行した86名。男性16名、女性70名、平均年齢78.7歳とした。
    【方法】入院時の認知症は痴呆性老人日常生活自立度判定基準を用いて、認知症なし群、認知症軽度群(以下軽度群)、認知症中等度群(以下中等度群)、認知症重度群(以下重度群)に分類した。歩行能力は自立歩行5点、みまもり歩行4点、歩行器歩行・伝い歩き3点、平行棒内歩行2点、車椅子1点に点数化した。各グループ内で受傷前歩行能力と当院退院時歩行能力、最終歩行能力を比較した。また、当院及び転院先での入院期間を比較した。
    【結果】認知症なし群は屋外歩行26名、屋内歩行8名、歩行介助1名、平均年齢73.9歳。軽度群は屋外歩行10名、屋内歩行6名、介助歩行3名、平均年齢80.7歳。中等度群は屋外歩行4名、屋内歩行7名、歩行介助4名、車椅子1名、平均年齢81.7歳。重度群は屋外歩行1名、屋内歩行1名、歩行介助10名、車椅子4名、平均年齢83.3歳であった。
    歩行能力の平均値は、認知症なし群は受傷前歩行能力:4.63、当院退院時歩行能力:4.23、最終歩行能力:4.57。軽度群は4.39→3.94→4.44。中等度群は3.60→3.40→3.40。重度群は2.56→2.00→2.06であった。
    当院での術後入院期間は、認知症なし群で21.2日、軽度群で20.6日、中等度群で22.7日、重度群で18.7日であった。転院先入院期間は、認知症なし群で46.2日、軽度群で65.3日、中等度群で41.2日、重度群で66.5日であった。
    【まとめ】認知症なし群・軽度群は受傷前の歩行能力まで改善するが、軽度群では認知症なし群に比べ約20日多く日数が掛かる。これに対し、中等度群・重度群いずれも最終歩行能力はワンランク低下しており、当院退院時歩行能力と最終歩行能力では有意差がない。これは、指示理解の問題や転倒・転落のリスクにより医療者側からの行動抑制もあり実用歩行は困難な為と考える。また、重度群で転院先の入院日数が長期化するのは、自宅退院が少なく、次の施設の入所待ちが影響していると考える。以上より、認知症なし群及び軽度群ではパスの最終歩行能力と目標日数の設定が可能であり、中度群・重度群は予め最終歩行目標を低めに設定ができ、転院先での入院期間の短縮につながると思われる。
  • 小林 理恵, 新屋 順子, 土屋 忠大, 平野 絢美, 藤原 善裕, 中山 禎司, 岩瀬 敏樹, 増井 徹男
    セッションID: P063
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】人工股関節全置換術(THA)の適応となる変形性股関節症患者はADL障害を有していることが多い.その障害の主な原因は疼痛や関節可動域制限による歩行能力の低下である.今回,THA施行患者の術前術後の歩行能力推移を把握する目的でTime up and go test(TUG)と10m歩行時間を経時的に計測したので報告する.【対象】対象は2008年1-4月にTHAを施行した変形股関節症患者25例のうち,患者の同意が得られ,術前・退院前・退院後の3回TUGによる歩行能力評価が可能であった12例 (男性2例,女性10例) とした.手術時平均年齢は60.5±8.2歳 (50-75歳)であった.対側股関節の状態は正常8例,人工股関節2例,変形性股関節症2例であった.手術は全例小切開後方アプローチで行い術翌日から全荷重歩行訓練を開始した. 【方法】T杖歩行開始までの術後日数と在院日数を調査した.術前の日整会股関節機能点数 (JOAスコア)と術前後の脚長差,術前・術後2-3週のT杖歩行自立後退院直前・術後2ヶ月時の外来受診時にTUGと10m歩行時間を計測し評価した. 【結果】T字杖歩行開始は術後平均6.6±3.7日,平均在院日数は21.0±4.9日であった.術前の平均JOAスコアは術側50.2±15.4点,非術側75.6±12.9点であった.平均脚長差は術前1.1±0.8cm,術後0.4±0.4cmであった.平均TUGは術前11.8±5.2秒,退院直前9.3±2.2秒,術後2ヶ月時7.6±2.1秒であった.平均10m歩行時間は術前12.2±5.3秒,退院直前10.0±2.4秒,術後2ヶ月時8.2±2.2秒であった. 【考察】TUGは運動器不安定症を定義する手段の一つであり,椅子での立ち上がり・座りや方向転換といったADLに関わる様々な複合動作が含まれている.今回,術前に比べTUGや10m歩行時間の平均値は入院中から改善が認められた.これより10m歩行でみることができる直線歩行に加え,TUGに含まれる複合動作も入院中から改善することがわかった.また,退院直前の平均値に比べ、術後2ヶ月時ではより改善がみられている.これは複合動作や歩行のスピード・耐久性は退院後の経過によりさらに回復をみせることがわかった.そのため,退院後の過ごし方がより歩行能力やADL能力の回復をはかるものとして,退院時指導の重要性を再認識した.入院中に禁忌肢位・動作に加え,可能な肢位・動作を習得するとともに,個々の運動能力や在宅環境にあわせた運動プログラムを提示し,運動習慣の継続を促す指導を行う必要があると考えた.
  • 工藤 慎太郎, 颯田 季央, 浅本 憲, 中野 隆
    セッションID: P064
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 理学療法の臨床上,足関節の不安定性や高齢者における側方へのバランス反応の改善において,長腓骨筋の機能は重要になる.川野は,長腓骨筋の機能を発揮するためには,短腓骨筋(以下PB)の収縮により第5中足骨を近位に引き付けることが重要であると述べている.一方,大工谷は,小指外転筋(以下ADM)の短縮によって長腓骨筋が足根骨に押しつけられ,長腓骨筋の緊張が増強すると述べている.このようにPBおよびADMは長腓骨筋の機能に影響を及ぼすことが報告されているが,そのメカニズムは十分に検討されていない.今回,解剖実習用遺体のPBおよびADMの形態を肉眼解剖学的に観察し,それらの機能を考察したので報告する. 【対象】 平成20年度愛知医科大学解剖セミナーに供された解剖実習用遺体5体8足である. 【方法】 下腿遠位部から足部にかけて剥皮,皮下組織を除去し,PB,ADM,腓側腱膜(ADMの腱膜)を剖出した.PBおよび腓側腱膜が第5中足骨粗面に停止する部位の形態を観察した. 【結果】 PBは,第5中足骨粗面に停止するだけではなく,その腱線維束が第5中足骨粗面の近位部で腓側腱膜と結合している例が6例存在した.ADMは,踵骨外側突起および腓側腱膜から起始し,第5基節骨に停止していた.腓側腱膜は,ADMとともに足底を小指基節骨に向かい走行する.しかし,全例において腱線維束の一部は,第5中足骨粗面の近位部で足底から外側に向かい,第5中足骨粗面に‘回り込む’ように付着していた. 【考察】 成書によると,PBは第5中足骨粗面に停止し,足関節の底屈と足部の外転・回内に作用する.ADMは第5基節骨に停止し,小指の外転と屈曲に作用する.本研究の結果, ADMは腓側腱膜から起始し腓側腱膜の一部が第5中足骨粗面へ‘回り込む’ように停止するため,小指の外転作用だけでなく,第5中足骨の回外作用を持つことが示唆された.すなわち,PBは第5中足骨の回内作用を有し,ADMは第5中足骨の回外作用を有すると考えられた.また,PBの腱線維束が第5中足骨粗面の近位部で腓側腱膜と結合している例が観察された.腱線維の走行は,加わった張力によって決定される.したがって,PBと腓側腱膜(ADMの腱膜)の結合は,両筋が共同で足部外側縦アーチに加わる荷重負荷に抗して作用した結果と考えられた.すなわち,両筋の停止部の形態から,両筋が同時に機能することで第5中足骨を近位に引き付け,外側縦アーチの剛性が向上すると考えられた.さらに,外側縦アーチの剛性の向上によって,長腓骨筋の機能が発揮され易くなると考えられた.
  • 大津 顕司, 森川 美紀, 磯田 真理, 中西 義治, 有川 功
    セッションID: P065
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】山田らは第35回日本理学療法士学会で長母指外転筋腱腱鞘炎及び短母指伸筋腱腱鞘炎に対するテープ療法を主とする整形理学療法を報告した。その中でテープを使用して母指を尺側回旋方向や橈側回旋方向に誘導することも臨床で有効であったと報告した。我々はテープ療法と合わせて超音波診断装置による第1背側区画の観察を行い、長母指外転筋腱(以下、APLと略す)と短母指伸筋腱(以下、EPBと略す)の動きを観察、APL・EPBの回旋を認めた。そこで我々は、母指対立機能とAPL・EPBの回旋の関係を検討するため健常人を対象に超音波診断装置によるAPL・EPBの動的観察を試みた。
    【方法】対象は当院の職員19名(男性5名、女性14名)19手(全て右手)であった。超音波診断装置はアロカ社製SSD-650CLを使用し、測定部位は橈骨茎状突起部とした。測定肢位は前腕中間位、手関節掌屈背屈0°橈屈尺屈0°位、自動対立運動(母指と示指、中指、環指、小指間の4通りの指尖つまみ)を行い、短軸像でAPLとEPBの回旋の有無・方向(掌側回旋、背側回旋)・量(0~3段階)を評価した。aテープ未貼付、b母指を尺側回旋方向に誘導するテープを貼付、c母指を橈側回旋方向に誘導するテープを貼付の3通りを測定した。
    【結果】回旋の有無・方向は、aテープ未貼付の場合、APLが掌側回旋したのは5名、背側回旋5名、回旋しなかったのは9名であった。EPBが掌側回旋したのは12名、背側回旋0名、回旋しなかったのは7名であった。b尺側回旋方向に誘導するテープ貼付の場合、APLが掌側回旋したのは6名、背側回旋5名、回旋しなかったのは8名であった。EPBが掌側回旋したのは15名、背側回旋0名、回旋しなかったのは4名であった。c橈側回旋方向に誘導するテープ貼付の場合、APLが掌側回旋したのは6名、背側回旋7名、回旋しなかったのは6名であった。EPBが掌側回旋したのは17名、背側回旋0名、回旋しなかったのは2名であった。APLとEPBの回旋方向の組み合わせは4通り(APL掌側回旋・EPB掌側回旋7名、APL背側回旋・EPB掌側回旋、APL回旋なし・EPB掌側回旋3名、APL回旋なし・EPB回旋なし)に絞られた。回旋した量は全19名が、示指との対立で一番少なく、中指、環指の順に増加し、小指で一番多くなった。テープを貼付した前後での回旋量の変化は、尺側回旋方向に誘導するテープ貼付の場合では減少するものの方が、橈側回旋方向に誘導するテープ貼付の場合では増加するものの方が多かった。
    【考察】母指対立機能とAPL・EPBの回旋機能は系統発生学的視点で密接な関係があると考えられた。先祖帰り化(母指の尺側回旋)はAPL・EPBの回旋量の減少、ヒト化(母指の橈側回旋)はAPL・EPBの回旋量の増加に関与していることが示唆された。
    【結語】母指対立時のAPL・EPBの回旋の有無・方向・量に個人差はあるものの一定の傾向が認められた。テープによる母指の回旋誘導がAPL・EPBの回旋にまで関与していることが認められた。
  • 小柳津 享, 平瀬 智文, 加藤 敦志, 加倉 美和, 荘田 隆徳, 中尾 泰大, 鈴木 宏
    セッションID: P066
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    今回、アキレス腱損傷後に著明な浮腫が発生し、12年が経過した時点で理学療法が開始となった症例を経験した.受傷から理学療法開始前まではギプス固定をしており、初期評価時には高度の浮腫・拘縮、筋力低下を認めた.経過とともに浮腫・拘縮の改善が見られ、ギプス固定から装具へと移行することができた.本症例では介入から長期に渡り改善を認めており、若干の考察を加え報告する.尚、発表については患者の同意を得ている.
    【症例紹介】
    56歳女性.S58.左上肢外傷後浮腫出現.S62.破傷風により左上腕切断.H6.右アキレス腱損傷後浮腫出現.切断を勧められるも本人の強い希望にて保存療法を選択し、以後、外来にて週1回、スキンケアとギプス固定(AK cast)にて患肢を圧迫した.H16.AK castからBK castに変更し、H17.12.~理学療法開始となる.
    【初期評価】
    MMT:健側下肢4~5、患側下肢:腸腰筋3、大腿四頭筋2、前脛骨筋・総指伸筋0、ROM:膝関節屈曲60°、足関節背屈-40°・底屈45°・内反45°・外反-30°、足趾の変形や皮膚、軟部組織の伸張性の低下を認めた.周径:膝蓋骨直下より16cmにて38cm(平成8年計測時は42cm)、Functional Independence Measure(以下、FIM)歩行・階段6点、他の項目は全て7点であった.
    【経過】
    ホットパック、前脛骨筋・総指伸筋に対して治療的電気刺激(以下、TES)、皮膚・筋の持続的伸張、ROM-exを行い、訓練終了後にギプス固定をした.徐々に足趾・足関節とも筋収縮が出現し、6ヶ月後には前脛骨筋・総指伸筋ともMMT3に達したためTESは終了とした.訓練開始1年後(H18.12)に周径が36cmと軽減し、End feelが骨性に変わってきたため、ギプスから短下肢装具へと移行した.装具に加え、下腿ソケットの作成と装具の前面にプラスチック板を付けることで、装具と板で下腿に圧迫をかけた.装具作成により自宅でのROM訓練等が可能となり、患者自身も積極的に訓練を行えた.装具作成から10ヶ月後(H19.10)に周径が34cmと改善し、歩行中に装具内でソケットのずれを生じたため再作成を行った.H20.4.時点で患側下肢MMT:腸腰筋4、大腿四頭筋4、前脛骨筋4・総指伸筋4.ROM:膝関節屈曲80°、足関節背屈-20°・底屈45°・内反45°・外反-10°.周径:33.5cmへと改善した.FIMは点数の変化はないものの、階段昇降が二足一段から一足一段へ変化した.
    【考察】
    今回、受傷後に長期間が経過してから理学療法を開始した症例を経験した.変形や高度の拘縮を認めたが、ROM改善・浮腫の減少に伴い、装具の作成・更新に至ることができた.今回の訓練を進めた上で足部の自動運動が出現したことと、装具療法に移行し自己での運動が可能となったことが浮腫の軽減に対し効果を上げたと考えられる。今回は10ヶ月という期間で再作成に至ったが、その後も僅かずつだが周径は減少しており、再度更新が可能か追跡していきたい.
  • 田口 裕介, 井舟 正秀, 諏訪 勝志, 藤井 亮嗣, 田中 秀明, 川北 慎一郎
    セッションID: P067
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    腓腹筋の部分断裂に対し縫合を行った場合は8週間で修復し,筋損傷が強い場合や血流障害を伴う場合は瘢痕治癒になると報告されているが,筋断裂後,筋壊死を繰り返した症例の理学療法の報告は少なく,予後予測が困難である.今回我々は,フ゛ルト゛ーサ゛ーに巻き込まれ,下腿三頭筋断裂を受傷し感染・血流障害から筋壊死に至り,筋除去を繰り返し,瘢痕治癒後にMMTが足関節底屈5に改善し,職場復帰・趣味活動可能となった症例を経験したので報告する.尚,本発表の趣旨及び目的を本人に説明した上で同意を得た.
    【症例紹介】
    男性,30歳台前半.職業:重機オヘ゜レーター.趣味:よさこい,獅子舞.診断名:右下腿三頭筋断裂,下腿坐滅創.
    【経過】
    フ゛ルト゛ーサ゛ーに巻き込まれ右下腿三頭筋断裂,受傷部汚染があり,テ゛フ゛リート゛マン・筋縫合術を施行.術後4週から理学療法を開始.術創部周辺に軽度の安静時痛,中等度の伸張時痛があり,MMTは右足関節背屈・底屈・外反・内反1,右足趾伸展・屈曲2,右膝関節伸展2,屈曲3.ROM は右足関節背屈-20°,底屈30°,右膝関節伸展-20°.術後5週に血行状態悪く,筋縫合部に壊死が生じ,壊死筋の除去・テ゛フ゛リート゛マンを施行.縫合部が除去されたが,術後6週で全荷重を開始.ROMは右膝関節伸展-15°,右足関節背屈-20°で,MMTは右足関節底屈2-であったため跛行を認めたが,靴ヒール部の補高により独歩可能.その後,安静時痛はほぼ消失し,日常生活は自立していたが,術後9週後に新たな筋壊死,皮膚穿孔が生じ,再度筋除去・テ゛フ゛リート゛マンが施行され,皮膚を広範囲に切除し,皮膚開放.術後10週でROMは右足関節背屈10°に改善しランニンク゛を開始,12週後より全力走行が可能.術後13週でMMT右足関節底屈3,開放部の肉芽形成が良好となり植皮術を施行.植皮部分の修復後,超音波,マッサーシ゛を行い,術後17週でMMT右足関節底屈4,ROMは右膝関節伸展0°,右足関節背屈10°.術後20週でMMTは右足関節底屈5になり,退院.術後24週で職場復帰し,よさこいや獅子舞などの活動も可能となった.
    【考察】
    本症例は受傷部の汚染と筋の損傷がひどく,筋断裂部の縫合を受けたが,感染・血行障害により筋除去が繰り返されたことにより,筋,皮膚に欠損が多く,血行障害や残存した組織への過剰なストレスにより,疼痛・組織の柔軟性低下が生じていた.これに対して,超音波,マッサーシ゛を行い,疼痛軽減・組織の部分的伸張性増大を図った上で,持続的伸張,筋力増強運動を行なった.筋力増強運動の負荷量としては運動前後,翌日の筋痛・筋疲労度を毎日確認し,運動後は炎症等防ぐためにアイシンク゛を行い,過負荷とならないように気を付けた.残存した腓腹筋がヒラメ筋に癒着し,ヒラメ筋と同時に収縮可能となったため,全荷重・積極的な筋力増強運動が可能となり,MMTが足関節底屈5に改善し,活動性が向上したと考えられる.
  • 吉田 信也, 染矢 富士子
    セッションID: P068
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
     肺気腫の多発ブラに加え,胸椎へ直接浸潤のあった原発性肺癌に対し肺区域切除術および3椎体にわたる胸椎合併切除術を施行された症例を経験した。その理学療法経過に本症例の術後運動耐容能の回復に要した期間に関する考察を加え報告する。
    【症例紹介】
     症例は49歳男性で身長159cm,体重45kg,BMI17.8である。嗜好歴はタバコ30本/日×30年,アルコール2合/日である。4月頃より左前胸部痛あった。A病院受診し経過観察となっていたが症状改善せず,胸部CT上で左肺上葉に結節影と胸膜肥厚を認めていたため,精査目的にて当院呼吸器内科に入院となった。胸部MRIでは胸膜浸潤,肋骨浸潤,椎骨浸潤も疑われ,翌年12月に左肺上区域切除,左肺ブラ切除,第3~5胸椎合併切除術施行となった。
    【理学療法経過】
     術前は呼吸理学療法の指導および6分間歩行テスト(以下6MWT)にて運動耐容能の評価を行った。6分間歩行距離(以下6MD)は480mであり,歩行後の修正Borg Scaleを用いた主観的運動強度(以下RPE)は1,SpO2は97%であった。術前呼吸機能は%肺活量92.5%,1秒率66.2%であり,胸部X線では両側肺とも気腫性変化が強く,巨大ブラも多数認められた。日常生活において呼吸困難感を自覚することはなかった。
     術後1病日は酸素3L投与,安静度は胸椎固定部の安静のためギャッチアップ90度までであった。術後4病日に酸素投与終了となり,体幹装具完成後に安静解除され,術後6病日から歩行開始となった。その後,病棟での歩行練習を中心にリハを行い,胸腔ドレーン,CVCが抜去され病棟内の独歩が自立した術後15病日に6MWTを実施した。その結果,6MDは440mであり,術前よりも歩行後の呼吸困難感の程度が強くRPEは7,SpO2も94%まで低下していた。入院期間中は継続して運動療法を実施し,術後29病日に退院となった。術後36病日に化学療法を1回行った。術後43病日に再度6MWTを実施したところ,6MDが495mであり術前値を上回る程度まで改善を認めた。歩行後のRPEは10,SpO2は94%であった。
    【考察】
     一般的に肺切除術のみの場合,術後の運動耐容能の回復には2~3週間必要であるとされている。術後15病日において6MDが術前値程度まで達していたことは,胸椎固定術のため術後6日間の安静期間があったことを考慮すると,良好な経過であったと考えられる。術後43病日において6MDは術前値を上回る程度まで改善したが,歩行後のRPEやSpO2など運動耐容能の改善が不十分であったことに関しては,肺気腫や術後の化学療法の影響,退院後の低活動などが原因として考えられた。
  • 萩原 和洋, 東 実紀, 小村 幸則, 藤井 崇史, 太田 恵子
    セッションID: P069
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】
     当院では心臓リハビリテーション(以下、心リハ)の有酸素運動にエルゴメーター、トレッドミル施行困難な症例にニューステップを用いている。当院でのニューステップ施行の患者背景や効果について検討した。
    【方法】
     対象期間は06年10月~07年9月の1年間で当院心リハを施行した計177名のうち、エルゴメーター施行困難でニューステップを施行した29名(16.3%)。原因疾患は急性心筋梗塞7名、心不全6名、慢性閉塞性動脈硬化症4名、開心術12名であった。平均年齢は75.3±8.7歳、男性7名、女性22名であった。
     機器はSenoh社、NuStep TRS4000、座式の交互式上下肢協調運動器で、5~800wattまで負荷調整が可能である。上記心疾患で入院し、状態安定後に心リハでニューステップを開始し、運動開始時と退院時の運動時間と負荷量を比較検討した。統計はT検定で有意水準は5%未満とした。
    【効果】
     エルゴメーター施行困難の原因は整形疾患9名、運動耐用能低下5名、廃用性筋力低下による歩行困難5名、慢性閉塞性肺疾患合併4名。他、血圧低下・眩暈があった2名、血圧上昇・頭痛、心拍数上昇が各1名、左不全片麻痺、創部痛が各1名であった。平均施行回数は平均19.3回±16.9であった。
     運動時間は開始時の平均9.5±2.5分に対し、退院時の平均25.9±6.0分とすべての症例で時間延長し、有意差(p<0.01)を認めた。平均運動負荷は開始時17.0±7.3Wattから退院時20.9±8.0Wattと有意差はなかったが増加傾向にあった。
    【考察】
     活動性低下や安静臥床によりディコンディショニングが改善され、運動時間、運動負荷が改善したと考えられる。また、歩行器からT字杖歩行が可能となる、歩行距離延長、下肢筋力向上、SPO2の変動が少なく息切れしにくくなる、急激な血圧変動が少なくなる、脈拍上昇が少なくなった等の効果があった。これは、上下肢、体幹と多くの筋活動を促し、一部が筋力低下していても他肢で補い全身の有酸素運動が可能で、自分のペースでコントロール可能で全身の筋活動により心肺・関節・骨格筋に無理なく施行可能であった事が考えられる。さらに、上肢バーと背もたれで姿勢が安定し、坐面の前後調整が可能で、関節を痛める危険が少なく、整形疾患にも適応があったと考えられる。さらに、施行中の心事故も無く、安全に施行可能であった。
    【まとめ】
     ニューステップは心疾患の有酸素運動として上下肢・体幹と多くの筋肉を使う事で筋力低下があっても施行可能で、整形疾患や歩行困難・運動耐用能低下・慢性閉塞性肺疾患などの患者様に処方でき、エルゴメーターやトレッドミル施行困難な患者様に安全に施行可能であった。
  • 川上 勇一, 和泉 謙二, 早川 和秀, 法月 香代
    セッションID: P070
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】  呼吸器疾患患者では胸式優位呼吸がよくみられる。しかし換気効率が悪く、呼吸補助筋の疲労や呼吸困難感を招き易い。それに対する腹式呼吸への誘導としては胸腹部の動きを手で感じ取りながら行う方法が一般的である。冨田らは背臥位にて胸郭及び骨盤に対し重みを提供する事で、過剰となり易い背部伸筋群の活動を抑制し横隔膜による吸気を促す効果が期待できるとしている。本研究では一般的な誘導方法と重錘を使用した方法の呼吸法への介入効果を比較検討し、若干の知見を得たので報告する。 【方法】  当院及び併設老健にてリハ実施中の呼吸器疾患を有する症例16名(男性8名、女性8名、平均年齢78.9±11.1歳、BMI20.9±4.6)を対象とした。計測姿勢は背臥位とし、安静時、腹式誘導時(腹式時)、重錘使用時(重錘時)の3つの条件でそれぞれの呼吸数、SpO2、腹式呼吸grade(grade)、VAS変法を計測した。順番はランダムに選択し、計測前に呼吸が安定する為の準備時間を設け、各条件3分間ずつ計測した。腹式時は症例の手をそれぞれ胸部・腹部に当て行った。重錘時は下部胸郭と骨盤に体重の1割程の重錘バンドを振り分けて載せ、腰椎前彎部とベッド面の空間を埋めるようタオルを敷いた。求めた平均値から呼吸数、SpO2は対応のあるt検定、grade、VAS変法はWilcoxonの符号付順位検定にて比較した。 【結果】  呼吸数は安静時19±5.3回/分、腹式時17.1±5.7回/分、重錘時15.7±6.2回/分、安静時・腹式時(p<0.01)、安静時・重錘時(p<0.01)、腹式時・重錘時(p<0.05)いずれにおいても有意差を認めた。SpO2は安静時95.8±2.7%、腹式時96.5±2%、重錘時96.7±2.2%で差を認めなかった。gradeは安静時2.9±0.8、腹式時3.4±0.6、重錘時3.5±0.7、安静・腹式時、安静・重錘時において有意差を認めた(p<0.05)。VAS変法は安静時5、腹式時4.4±1、重錘時4.6±1.5で差を認めなかった。 【考察】  介入効果として腹式時、重錘時共に呼吸数減少とgradeの改善が有意に認められた。これは胸式から腹式への誘導により深呼吸化が図られた結果と考えられ、重錘使用が腹式誘導に有効である可能性が示唆された。さらに腹式時に比べ重錘時で呼吸数減少が有意に認められた。これは重錘による重みとタオルによる支持面拡大にて背部伸筋群での胸郭‐骨盤間の過剰な連結を抑制した事が従来からの腹式誘導とは異なり、横隔膜での吸気の促しだけでなく呼吸補助筋の活動抑制から呼出にも有効であった可能性が考えられた。
    今回、症例数や評価の指標が少ない事から今後も継続した検証が望まれる。臨床での実施に当たっては横隔膜機能の程度により腹式誘導が努力性呼吸を強める可能性も考慮し、個々の反応から最適な誘導方法・条件を設定する事が必要と思われた。
  • 山下 豊, 堀場 充哉, 田中 照洋, 水谷 潤, 和田 郁雄, 鈴木 章古
    セッションID: P071
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
     感染性心内膜炎は全身の血管に血栓やそれにともなう血管壊死を形成する可能性があり同部位の梗塞や出血性の病変を合併しやすい。今回、感染性心内膜炎に起因する多発性脳出血を併発した後に開心術が行われた症例にたいする術後運動療法を経験した。ハイリスク例であったが新たなイベントを発生させることなく運動療法が可能であったことを報告したい。
    【症例】
     49歳・男性、感染性心内膜炎、僧帽弁逸脱症、脳出血(右後頭葉・右小脳・右放線冠)、開心術後(僧帽弁置換術)。海外より帰国後に熱発、A病院受診、感染による進行性糸球体腎炎、血小板減少症にて当院紹介により入院。血液培養よりStreptcoccus sanguiniusを検出、心エコーにて僧帽弁に疣贅所見を認め感染性心内膜炎を指摘。感染および心不全のコントロール後に僧帽弁置換術が検討されたが、待機中に多発性の脳出血、出血後水頭症に対するV-Pシャント術実施などにより延期され、発症より2ヵ月後に開心術施行となった。術後10病日よりベッドサイドでの離床訓練を開始し、16病日よりPT室における運動療法を開始した。当時、意識清明、会話良好、見当識良好、高次脳機能障害なし、視覚障害なし、四肢に明らかな運動失調や麻痺なし、体幹失調を軽度認め監視歩行レベルの状態であった。21病日より自転車エルゴメータをプログラムに追加。安静時の血圧および心拍数(脈拍)はそれぞれ110/77・90程度で安定しており、自転車エルゴメータ駆動時の血圧および心拍数(脈拍)はそれぞれ119/77・107程度で大きな変化を認めず、ECG上ときに多形性のVPCを認めたが運動療法を阻害するほどの頻発を認めなかった。投薬はワーファリン、ロサルタン、カルベジロール、ジゴキシンなどであった。術後39病日にほぼ無症状で自宅へ退院された。
    【考察】
     感染性心内膜炎では塞栓子が脳動脈へ流れていくことで脳梗塞を生じたり、塞栓部での血管壊死や動脈瘤形成から脳出血あるいはくも膜下出血を引き起こす。その頻度は20~40%と報告されており、本症例でも多発性脳出血を併発していた。当初は脳血管障害に対する運動療法が必要と考えられたが、脳画像に比し運動器症状の驚異的な改善を認め、有酸素運動が導入できる状態になった。離床開始後より安静時心拍数は増加傾向を示したが、運動時の心拍数、血圧は投薬によりコントロールされ著しい変化を認めなかった。またECGにて多形成VPC(Lown分類3)、VPC2連発(同分類4a)の不整脈を認め一時的な休止をとったものの退院まで運動療法を概ね完遂することができた。したがって感染性心内膜炎による血管合併症ハイリスク例ではあったが、血圧が適切にコントロールされ且つ心房細動などの心内血栓を生じうる不整脈が出現しなかったことにより運動療法が施行できたものと考えられた。
  • 1日2回、2人同時介入により肺合併症を予防し得た一症例
    背戸 佑介, 向井 庸, 山本 敦也, 金原 悠人
    セッションID: P072
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】  頚髄損傷急性期には肺合併症の併発率は高く、われわれも臨床において多々経験する。  分泌物排出障害を来した急性期頚髄損傷患者に対して、医師の監視下、慎重な体位変換とPT2名での排痰訓練の介入により、無気肺・肺炎など肺合併症を予防し得た1症例について報告する。 【症例】  80歳代男性、身長168_cm_、体重58kg、BMI20.5。交通事故により第4頸髄残存の頸髄損傷受傷。呼吸筋麻痺を呈し、即日人工呼吸器管理となった。受傷4病日より肺合併症予防目的での理学療法が処方された。 【理学療法初期評価(4病日)】  呼吸条件はTピースでの高流量式酸素ネブライザー8L/分(夜間は鎮静下人工呼吸器管:SIMV+PS)。動脈血液ガス分析でPaO2 86.2torr PaCO2 39.2torr 。呼吸回数24回/分で頸部呼吸補助筋の過剰収縮を伴うシーソー様呼吸を呈し、強い呼吸苦を訴えていた。聴診では両下肺野の呼吸音が著明に減弱していた。腹筋群の収縮は見られず随意咳嗽は不可能であった。痰は非常に多く粘調であった。 【介入方法】  介入時間は本人の苦痛を避けるため、呼吸筋疲労の少ない午前中と呼吸器管理となる夕方以降の2回とした。体位ドレナージは医師監視の下、左右完全側臥位まで慎重に行い、PT2人が呼気に合わせた胸郭圧迫と腹部圧迫を同時に行う事で排痰を促した。一回換気量はPEEP2cmH2O PS8cmH2Oの条件下であるが1人介入では最大530mlであったのに対し、2人介入による介助を加えると600ml以上の値を得る事が出来ていた。また両下肺野の呼吸音に改善を認め、rattlingが触知できる等気道内分泌物の移動を示唆する所見が得られた。 【経過】  8病日頃より徐々に胸郭周囲筋に痙性を認め、11病日には抜管、15病日には不十分ながらも咳嗽に伴う腹筋収縮が認められた。24病日には室内気での管理が可能となっており、シーソー様の異常呼吸は消失し、安静時の呼吸苦も改善していた。軟性コルセット(腹帯)で腹圧を介助することにより効果的な随意咳嗽が可能となり、口腔・鼻腔までの気道内分泌物の移動が可能となった。経過の中でX線画像上、無気肺・肺炎等の肺合併症の併発は無かった。 【考察】  頚髄損傷急性期には気道内分泌物産生の亢進や呼吸筋麻痺に伴う1回換気量低下・安静に伴う体位変換の制限等から分泌物排出障害が生じる。本症例も急性期に多量の分泌物貯留がみられており、肺合併症を併発する危険性は高い状態であった。  本症例は、介入後より徐々に筋痙性の回復や腹筋収縮が認められ、効果的な咳嗽が可能となったが、それまでの期間、医師の監視下で慎重に体位変換を行い下側肺のドレナージ効果が得られた事や、PT2名で用手排痰手技を2回/日施行し排痰効果を促進した事も肺合併症予防の一助になったと考える。
  • 石田 英恵, 尾熊 洋子
    セッションID: P073
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    国民が自身で生活習慣病予防に取り組めるように厚生労働省は『エクササイズガイド2006』を発表した。その中で体力の評価として10回立ち上がりと3分間歩行のテストが紹介されている。これらのテストは簡便さゆえに感度や再現性の低さが危惧される。そこで今回、当院で毎年開催している生活習慣病予防・改善のセミナーにおいて体力テストとアンケートを実施し、この結果から『エクササイズガイド2006』の体力テストの特性について検討したので報告する。
    【対象】
    2008年1月26日、2月2日に開催したセミナーの参加者で運動に障害がない健常男性23名。年齢は28~67歳(平均53.3±8.1歳)、BMIは22~34.8(平均26.0±3.1)、腹囲は82~117cm(平均93.3±7.4cm)であった。対象には本研究の意義及び内容などを十分に説明し、紙面にて承諾を得た。
    【方法】
    体力テストはストレッチ運動を十分に行い、10回立ち上がり・3分間歩行の順に実施した。アンケートはセミナー前後に行い、質問内容は現状の危機感や運動の必要性などについて0~10の数値的評価スケールを用いた。体力テストの結果と身体組成や心理的変化を比較した。統計学的処理はMann-WhitneyのU検定、対応のあるT検定を用い有意水準を5%とした。
    1)10回立ち上がりテスト
    高さ45cmの安定した椅子に浅く腰かけ、胸の前で腕組みをする。膝が完全に伸展するまで立ち上がり、素早く座った姿勢に戻す。これを10回行いストップウォッチで時間を測定する。『エクササイズガイド2006』の性・年代別の表から「速い・普通・遅い」の3段階に評価する。
    2)3分間歩行テスト
    院内廊下に50m往復の歩行路を設け、3分間「ややきつい」と自分の感じる速さで歩き、その距離を測定する。『エクササイズガイド2006』の性・年代別の表から目標値に達しているかを評価する。
    【結果】
    10回立ち上がりが遅い人は4人、その他は普通であった。3分間歩行が目標値以下の人は14人であった。10回立ち上がりが遅い人は3分間歩行が目標値以下であった。体力テストの結果と腹囲やBMIに有意差はみられなかった。心理的変化は、現状の危機感や運動の必要性などの認識はもともと高く、体力テストの結果に影響されず、セミナー前後で有意差を認めなかった。
    【考察】
    今回、体力テスト結果と身体組成には関連がなかった。しかし10回立ち上がりが遅い4人はBMI25以上、腹囲95cm以上と肥満度が高く、3分間歩行も目標値以下であった。これは肥満が移動時の筋力に影響しており、3分間歩行は下肢の筋力に大きく反映されている可能性がある。体力に応じた運動指導をする際、まずは体力テストの特性を理解することが重要である。今後は対象者を増やして他の体力テストと比較し、このテストの特性を明確にしていく必要がある。
  • peak時とAT時の比較
    内山 圭太, 三秋 泰一, 寺田 茂, 宮田 伸吾, 松井 伸公
    セッションID: P074
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【目的】 最高酸素摂取量(peak V(dot)O2)と無酸素代謝閾値(AT)は共に運動耐容能の指標として臨床上頻繁に用いられている。peak V(dot)O2は最大心拍出量と最大動静脈酸素含有量較差の積であり,中枢と末梢の最大機能を表している。一方,ATは最大下での心拍出応答や血管拡張能,酸素利用能に規定されている。今回,この生理学的背景の異なる二つの運動耐容能指標に,筋力,筋持久力,局所筋酸素動態の末梢機能がどの程度関与しているのかを検証した。 【対象】 対象は右下肢に整形外科的疾患の既往がなく,競技レベルの運動習慣のない(週1回以下)健常男性31名(年齢23.0±2.1歳,身長172.5±6.5cm,体重65.3±7.9kg,BMI 21.9±2.4,体脂肪率18.1±3.9%,運動習慣なし19名,週1回の運動習慣あり12名)で,被験者には本実験の主旨を十分に説明し,同意を得た。 【方法】 局所筋酸素動態測定は右外側広筋を被検筋として,心肺運動負荷試験(CPX)中の筋酸素動態を測定した。評価指標には[運動中の還元ヘモグロビン変化量(Δdeoxy-Hb)/阻血中のΔdeoxy-Hb×100]で計算したものを脱酸素化率として用いた。CPXには自転車エルゴメーターを使用した。30watt/分のramp負荷にて行ない、ペダル回転数が60回転を切った時点で終了とした。呼気ガス分析はbreath-by-breath法にて行い,V-slope法にてATを決定した。筋力測定は,右膝関節屈曲90度で等尺性膝伸展運動を3回行い,最大値を体重で除したものを,筋力体重比とした。筋持久力測定はCPXから3日以上を空けて行い,最大筋力の30%負荷にて膝完全伸展運動が連続可能な回数を筋持久力とした。統計処理にはSPSS 11.0J for Windowsを使用し,peak V(dot)O2とAT V(dot)O2を目的変数,対象者の身体的特徴や運動習慣,筋力体重比,筋持久力,脱酸素化率を説明変数として重回帰分析をステップワイズ法にて行った。 【結果】 各測定値の平均値は,peak V(dot)O2 40.4±7.0ml/min/kg,AT V(dot)O2 19.6±3.8ml/min/kg,筋力体重比102±19%,筋持久力26.2±7.3回,peak時脱酸素化率37.1±13.3%,AT時脱酸素化率17.7±11.6%であった。重回帰分析の結果,peak V(dot)O2への関与として筋力体重比,運動習慣が選択され,それぞれの標準化係数は0.444,0.443であった。AT V(dot)O2への関与として脱酸素化率,筋力,運動習慣が選択され,標準化係数は0.471,0.324,0.324であった。 【考察及びまとめ】 peak V(dot)O2に最も関与している因子として筋力体重比が選択された。これはramp負荷試験後半では、高負荷運動の継続のために大きな筋力が必要とされることが理由として考えられる。AT V(dot)O2では局所筋酸素動態の指標である脱酸素化率が最も関与のある因子として選択され,2番目の因子として筋力体重比が選択された。ATは骨格筋量への依存がpeak V(dot)O2に比べ少なく,末梢血管拡張能や酸素利用能に規定されていると言われており,今回の結果はこれを支持するものとなった。
  • 浅利 香, 片田 圭一, 安井 典子, 臼倉 幹哉, 黄原 朋子, 藤井 寿美枝, 瀬田 孝
    セッションID: P075
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】糖尿病患者に対する療養指導の目的で糖尿病教室(以下、教室)が開催され、各医療機関では広報や講義内容の工夫を行い、より効果的な教室運営に日々努力している。石川県立中央病院では、毎週火・水・木・金の4日間を1クールとして医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、臨床検査技師、歯科衛生士が約30分間の講義を行っている。しかし、平成19年度より教室参加者数が減少傾向にあったため、院内に設置した糖尿病診療連携委員会療養指導部会において教室活性化を目的としてアンケート調査を試み、成果を得たので報告する。〈BR〉【目的】教室参加者および講師に対してアンケート調査を行うことで、糖尿病教室の活性化を図り、糖尿病教室の参加人数を増加させることを目的とした。〈BR〉【方法】糖尿病診療連携委員会療養指導部会において、講義内容、講義への興味、講義時間、講義の印象、教室の場所など7項目の質問からなる「糖尿病教室アンケート用紙」を作成し、平成20年1~2月の2ヶ月間にわたって参加者にアンケート調査を行った。また、アンケート調査終了後に、講師に対して「講義に関して工夫した点」を調査した。調査に当たってはアンケートの主旨を説明し、同意をとって行った。調査内容は、平成18年4月から平成20年3月までにおける教室の参加者数、アンケートの結果、講師の工夫内容を集計して検討した。〈BR〉【結果】参加者数は、委員会でアンケート調査の企画を始めた平成19年10月頃から増加し、調査を行った2ヶ月間の教室参加者数は185名であった。平成19年1~2月の参加者数は159名だったので、同年同月比では16%の増加となった。〈BR〉参加者へのアンケートの回収率は74.6%で、講義内容への興味や講義の長さなどに対する評価は94%以上が「満足」とする評価であった。教室の場所については、「わかりにくい」との回答が21%であった。講師へのアンケート調査の回収率は100%であり、調査期間中にはそれぞれの講師が参加者に配慮して講義内容や講義方法を工夫していた。〈BR〉【考察】アンケート結果では、講師は講義方法を工夫しており,参加者からは講義内容について好評価が得られていた。これはアンケート調査を実施することによって,「参加者に評価されている」という講師の意識が生まれたことによる好影響であると思われた。また、委員会を通じて教室活性化の戦略を明確にしたことで、関連する職員が対象患者に教室参加を促す行動に繋がり、参加者数が増加したものと考えた。〈BR〉今後も、多職種が協力して質の高い糖尿病教室の提供と教室の存在を啓発し、参加者の増加に努めて行きたい。
  • 吉本 真樹, 片田 圭一, 浅利 香, 上坂 裕充, 萩原 教夫, 安竹 秀俊, 瀬田 孝
    セッションID: P076
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】  シャルコー関節症は糖尿病による末梢神経障害を合併する患者に多くみられ、重篤な関節破壊と痛覚鈍麻のため関節変形が進行しADLの低下をきたす。今回、長期間シャルコー関節症を罹患し、距腿関節固定術に際し体重減少、血糖コントロール改善、歩行能力向上を目的に理学療法を施行した症例を経験したので報告する。
    【症例紹介】  36歳、女性。17歳より2型糖尿病(網膜症、末梢神経障害)あり、33歳で右距腿関節シャルコー関節症を合併し通院にて加療していたが、平成19年7月29日に右下腿蜂窩織炎にて入院。身体所見は体重138.0kg、BMI47.7、FBG259mg/dl、HbA1C7.3%であった。画像所見では右距腿関節周囲に著明な石灰化と骨破壊を伴う亜脱臼、内反変形が認められた。入院後、蜂窩織炎改善するもシャルコー関節症に対する手術療法を希望され、インスリン療法(4回/日)、食事療法(1000kcal)、理学療法が開始となった。入院前生活として無職、屋内は四つ這い、屋外は車椅子にて移動しており、外出頻度も少なく活動性およびADL低下を認めていた。
    【理学療法および経過】  平成19年8月9日より理学療法開始。体重134.7kg、BMI46.6、FBG136 mg/dl。痛覚、触覚重度鈍麻あり。右足関節内反変形、下肢MMT4(右前脛骨筋、下腿三頭筋1)、Barthel index55点であった。初期理学療法として床上でのヒップウォーキング(長座位移動)、平行棒内での右下肢部分免荷歩行などを主に実施した(週5回、2回/日、40~60分)。12月28日には松葉杖歩行が可能となり一時退院。平成20年1月7日に手術目的で再入院し、1月25日に髄内定を使用した関節固定術を施行。2月22日にはPTB装具装着にて荷重歩行開始。以後、平行棒内歩行、自転車エルゴメータを主に実施し、5月30日にはロフストランド杖での歩行が自立し退院となった。退院時体重111.5kg、BMI38.5、FBG137 mg/dl、HbA1C5.7%、Barthel index95点とADL向上を認めた。
    【考察】  シャルコー関節症は末梢神経障害による血管拡張と動静脈シャントによって、骨代謝異常をきたし骨構造を脆弱化することが要因とされている。理学療法開始当初はBMI46.6と体重過多による関節負荷が危惧されたため、ヒップウォーキングや平行棒内歩行を40~60分間実施し、全身を使った有酸素運動となるよう配慮した。インスリン療法、食事療法との併用により、体重減少、血糖コントロール改善を認め術後もPTB装具を装着し、平行棒内歩行を多用することで関節固定部への過負荷の回避と歩行能力向上につながったと思われた。今回の症例を通じ、術前後における痛覚鈍麻を伴う罹患関節への負担軽減と減量に考慮した理学療法が重要であると考えられた。
  • 辻 聡浩, 柴田 純, 太田 喜久夫
    セッションID: P077
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)は増加の一途を辿り、GOLDガイドラインによるとCOPDは2020年には世界の死因別死亡率の第3位になることが推定されている。このような状況では、COPDに対しては、原疾患の治療だけでなく、呼吸不全悪化予防への対応と急性増悪への対応が重要となってくると考えられる。COPDを有する患者に対し我々理学療法士は呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハ)という一治療手技を通じて患者に対し包括的かつ個別的に対応し、ADLやQOLの向上を図ることができる。そこで今回、当院においてCOPD急性増悪により、入院リハを実施し、退院後も外来リハで、定期的に評価・患者指導を行っている症例を経験し、継続的呼吸リハにおける患者教育の重要性において若干の知見を得たので報告する。
    【症例紹介】症例は74歳、男性。妻と二人暮らし。60歳でCOPD(肺気腫)と診断され、以後近医にて加療。ADL自立、独歩可能。平成19年8月25日から呼吸困難が出現し喀痰増加も伴い、近医を受診後、当院へ紹介、8月29日COPD急性増悪の診断にて入院加療となった。入院時所見は呼吸困難を主訴としBGAはpH:7.409、PaO2:57.3torr、PaCO2:48.2torr、A-aDO2:35.8torr、HCO3-:29.8mmol/l、BE:4.2、努力性呼吸を呈していた。理学療法初期評価(平成19年9月5日):BIPAP装着中。身長168cm、体重55kg、BMI19.5、MRC息切れスケールGrade4、FVC:1.72L・FEV1:0.51L・FEV1-G:29.7%、握力左右とも25kg。HADスケール A:7/21点・D:7/21点。起居動作・セルフケア時のSpO2低下(90~86%)が著明。NRADL19/100点。
    【経過】入院後第6病日、呼吸法指導・排痰練習・四肢筋力強化訓練を開始。第7病日からBIPAP離脱練習。第8病日から昼間はO21L(NC)とし、歩行練習追加。第10病日、24時間パルスオキシメトリーを施行。第15病日、HOT導入を行い自宅退院。以後、外来リハを経て、90日経過にて終了としたが、終了時に自宅での非監視型運動療法および急性増悪時の行動指針を作成・指導し、外来リハ終了以降も定期的にMRE(三重呼吸リハビリテーション評価マニュアル)にて評価を施行、患者教育を継続した。
    【結果】リハビリ開始時と外来リハ終了時では6MWT歩行距離が0mから234mに、MRC息切れスケールGrade4からGrade3、NRADLは19点から73点にそれぞれ改善。HADスケールはA:7点 D:7から外来リハ終了後にはA:3点 D:3点と改善した。また、リハ終了後も増悪を思わせる所見は認めなかった。
    【考察】本症例に対し、我々は運動療法とともに患者教育を強化した。その結果、呼吸困難の改善もあり、運動耐容能・ADL・不安や抑うつといった精神機能の改善も図れ、リハ終了後6ヶ月を経過した段階で急性増悪を思わせる所見もなく、経過は良好と判断された。GOLDガイドラインによると、「増悪はCOPD患者のQOLや生命予後に影響する」と明記され、今後はCOPD患者に対し、運動療法とともに増悪を自己管理するための患者教育という要素が包括的呼吸リハを施行する我々にとっての課題とも考えられた。
  • 魚住 和代, 竹田 幸恵, 島田 亜由美, 萩原 有花, 松村 純, 橋本 茂樹, 小川 晴彦
    セッションID: P078
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】高位頚髄損傷者では呼出力が減少し、咳嗽による気道分泌物の喀出が困難となる。喀出困難による喀痰の滞留は無気肺や感染症の増悪など呼吸状態を悪化させやすいため、その予防に咳嗽能力は重要な要素と考えられる。咳嗽能力の指標の一つである最大呼気流速(Peak cough flow:PCF)は、肢位の変化によって影響を受け、PCF値は横隔膜の抵抗が小さい端座位でもっとも高く、半座位、背臥位の順に低下することが知られている。頚髄損傷者では安定した肢位が背臥位あるいは車椅子座位であり、それらの限られた肢位の中で咳嗽能力を比較した報告は少ない。今回我々は、健常者を対象にPCFの再現性及び、肢位の変化によるPCF値を比較検討したので報告する。
    【対象】健常成人22名(男性4名、女性18名、平均年齢26.2±3.6歳)を対象とした。
    【方法】PCFの測定は、フジ・レスピロニクス社製アセスピークフローメーターにフェイスマスクを接続したものを用いた。測定肢位は、背臥位(股・膝伸展位と股15°・膝30°屈曲位)、半座位45°(股45°屈曲・膝伸展位と股60°・膝30°屈曲位)、椅座位の5肢位とした。被験者に測定器具を保持させ、背部を密着したまま最大吸気位から努力性に最大の咳嗽を行わせた。各肢位で3回ずつ測定し、その最高値をPCF値とした。再現性を検討するため、1回目のPCF測定後、後日2回目のPCFを測定した。統計学的手法には、各肢位ごとのPCF測定の再現性は級内相関係数(ICC)、対応のあるt検定を、また5肢位間における咳嗽能力の比較は一元配置分散分析を用いた。尚、有意水準は5%未満とした。
    【結果】各肢位ごとのPCF測定値のICCは、それぞれ0.7以上と高い信頼性が得られた。また、1回目と2回目の測定値の間に有意差を認めなかった。5肢位間におけるPCF測定値では、各肢位とも平均で440.0±94.1L/min~478.2±116.8L/minであり、肢位間において有意差は認められなかった。
    【考察】今回の研究では、PCF値は肢位の変化によっても有意差を認めず、先行研究とは異なる結果となった。このことは、PCFを測定する際に横隔膜呼吸を指示しなかったために、上部胸郭を拡張させた吸気パターンを生じたことや、設定した姿勢あるいは下肢の屈曲角度が不十分であったことなどが、肢位の変化による横隔膜運動の影響を受けにくい要因となったためと考えられた。PCFの測定は高い再現性を示し、臨床場面での有用性が示唆された。今後は呼吸機能が低下している患者に対し、咳嗽能力を向上させる呼吸様式や肢位の検討を行う必要があると思われた。
  • 林 真由美, 井舟 正秀, 諏訪 勝志, 川北 慎一郎, 久保 佳子
    セッションID: P079
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回,COPDがあり肺炎の急性増悪にて入院した症例を担当した.自宅生活を想定したADL指導が行なえないまま自宅退院となったが,訪問リハにて入院中にできなかった指導ができ,活動意欲・活動量の向上がみられたので若干の考察を加え報告する.なお,今回の発表に関してその趣旨を説明し,症例・ご家族様に同意を得ている.
    【症例紹介】
    80歳代,男性.診断名:肺炎・COPD.職歴:僧侶.初回入院前のADLは自立.妻と二人暮し.
    【現病歴】
    平成19年6月上旬より呼吸苦と右胸部の疼痛あり.7月上旬当院入院し,8月上旬よりPT開始.8月下旬,訪問リハの希望なく自宅退院し,初めてのHOT導入ということで9月上旬より訪問看護開始.その後肺炎により何度か入退院を繰り返す.自宅にて入浴希望あり,訪問看護スタッフに同行し入浴評価・指導し,リハの必要性を実感していただき11月上旬より訪問リハ開始.
    【8月退院時の状態】
    両下肢の筋力は4-.両膝に疼痛あり.歩行は携帯酸素を引き,ふらつきあり.耐久性は10~15m程度.動作時SpO2が70%台後半にまで低下することあり.リハ以外では殆ど病室から出ることなし.排泄も病室のトイレを使用.入浴動作・更衣動作は呼吸苦の訴えなく,洗体・洗髪共に自力で可能だがSpO2は80%台に低下あり.入浴に関しては症例・妻に指導を行った.呼吸と動作の同調は,指導・練習しても上手にできなかった.症例・妻共に疾患に対して関心がなく,理解度も低かった.
    【訪問リハ開始後1ヶ月】
    家屋構造は1階・2階共に広く,部屋数も多い.居室は2階で1階へは殆ど行かない.部屋から出ることが殆どないため掃除が十分に行えていなかった.そこで移動時に休息をとるため廊下に椅子を設置し,入浴方法の指導や1階での昼食を摂ることなどでトイレ以外でも部屋から出る習慣づけをした.よって活動量が向上し,動くことに対して意欲も向上した.また,感染予防のために部屋の換気や掃除,加湿の指導も行った.さらに退院時には困難であった呼吸方法が,少なくとも指導時は上手になってきた.
    【考察】
    退院後,訪問リハにて初回入院時に行えなかったADL指導・環境整備が行え,更に屋内移動・入浴など活動量を向上させることができた.症例・妻の病識の乏しさもあり,特に入院生活は活動性が低く呼吸苦などの自覚症状もなく,生活困難も感じず,休憩しながら生活を送れば特に問題はないと考えていた.入院中は把握できなかった自宅での生活も,退院され,実際の生活に困難さが生じ,実際の生活場面でアプローチすることで症例・妻共に疾患に対し関心を持っていただき,活動意欲や活動性が向上したと思われる.また,医療機関の他部門と連携をさらに充実させ,よりよい在宅生活を送れるように援助していきたい.
  • 自宅復帰への関わり
    平野 絢美, 新屋 順子, 土屋 忠大, 小林 理恵, 内藤 健介, 佐竹 宏太郎, 中山 禎司
    セッションID: P080
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    悪性腫瘍といえども病状が安定すれば自宅退院をすることが一般的である.しかし,治療中に廃用をはじめ身体障害をきたし自宅退院が困難となる症例も少なくない.今回,悪性リンパ腫脊椎転移により両下肢不全麻痺を呈したものの,自宅退院へ移行できた症例を通じ,理学療法(以下PT)が自宅復帰に向けて介入した意義を検討し,報告する.
    【症例提示】
    症例:47歳女性.診断名:悪性リンパ腫,肋骨,脊椎転移.家族背景:夫と2人暮らし.NEED:歩行の獲得,自宅復帰.現病歴:突然,両下肢麻痺,排尿障害が出現し,当院整形外科へ緊急入院となった.CT,MRIにてTh5~8の椎体左側に広がる腫瘍を認め,その腫瘍の一部が脊柱管内に浸潤し,脊髄を圧迫していた.治療経過:CT,MRI上,転移性腫瘍の可能性が高いと考えられ,緊急放射線照射とステロイド投与を行った.生検の結果より悪性リンパ腫(病期:stage_IV_)と診断され,入院8病日より化学療法を施行した.治療後,脊椎腫瘍はCT,MRI上消失し,悪性リンパ腫は寛解に至った.
    【理学療法経過】
    6病日よりベッド上にてPTを開始した.初期評価:筋力(MMT):両上肢5 両下肢4,表在感覚:中等度鈍麻,深部感覚:重度鈍麻.33病日より端坐位,移乗動作を順次すすめた.39病日よりPT室にて訓練を開始した.治療終了後の在宅復帰の手段を考え,実用歩行の早期獲得は困難であると判断し,車椅子ADLの獲得をゴールとした.61病日移乗動作が自立し,89病日トイレ動作が自立した.両ロフストランド杖による歩行訓練も行ったが実用には至らず174病日自宅退院となった.
    【自宅復帰への関わり】
    住居がアパートの2階であり,居室への階段の移動は上肢のpush up動作と,下肢の残存機能により臀部を挙上して昇降することとした.また,車椅子のレンタル,住宅改修を行うために,介護保険を申請したが特定疾患に該当せず,全額自己負担を余儀なくされた.車椅子は主介護者の夫の要望を受け,屋内用,屋外用の2台をレンタルした.退院後は本人の歩行獲得への希望から外来リハを継続することとした.
    【考察】
    悪性腫瘍による脊椎転移患者のPTの実施,目標設定にあたっては,生命予後の把握が重要となる.今回,悪性リンパ腫は寛解に至ったが,病期はstage_IV_であり,機能回復に重点をおいた長期入院よりも早期自宅復帰が優先であると考えた.そこで,社会的資源を活用し,車椅子での自宅復帰が現実的と考えた.社会的資源として介護保険の申請を行ったが,若年者における在宅支援の困難さを認識した結果となった.また,歩行獲得に向けた機能訓練は,化学療法と並行しての入院中PTでは積極的に行えず,退院後の外来リハを継続する事で,モチベーションの維持に努めた.今回の症例におけるPTの役割は原疾患の病態や病期より予後を考慮した目標設定が重要であると考えた.
  • - 在宅生活に対応できる補装具導入の必要性 -
    後藤 利明, 山下 一朗, 高木 章好, 石井 智己
    セッションID: P081
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    筋萎縮側索硬化症(以下ALS)は進行性の難病である.筋力低下の部位と程度、在宅生活であれば在宅での介護力の程度により、患者・家族に対する環境整備、補装具等が異なる.その為、チームでの適切な対応が重要となる.今回、訪問リハビリテーション(以下訪リハ)の経過の中で補装具を工夫したので報告する.
    【症例紹介】
    69歳 女性 家族構成:夫、長男、の3人暮し.現病歴:平成15年7月頃より頚部筋力低下.平成16年2月ALSと診断.平成18年~上肢筋力低下、球麻痺進行.平成19年1月胃瘻造設.6月痰がつまり呼吸停止、救急搬送され延命.気管切開、人工呼吸器管理となる.8月退院し在宅生活に入る.日中は主に夫、看護師、ヘルパーが介護.9月より週1回、訪リハ開始.
    【訪リハ開始からの経過】
    (平成19年9月)ADL:寝返り軽介助、入院時導入された頭頚部支持装具(体幹型)使用にて座位保持は体幹介助.起立・歩行は軽介助.リハビリの受け入れ良好で、特に離床・歩行へのモチベーションが高かった.そこで問題となったのは、入院中導入された補装具である.頭頚部の制動性は十分である.但し、拘束感・不快感が強く、着脱に2人の介助者を要し、体位変換が必要で時間を要する為、本人への身体負担もあり苦痛となっていた.そこで義肢装具士と相談し、頭頚部の制動性が十分で本人が装着時に不快感無く、1人の介助者で容易に着脱可能なものを模索した.胸郭に支持させることは呼吸運動の妨げとなることと、そこまでの制動性が不要であると評価し、頚椎カラーとした.材質:前部(発泡ポリエチレン・プラスチック)、後部(発泡ポリエチレン・綿).重量:80g.ベルクロでの2ヶ所の着脱とし、体位変換不要で1人の介助者で装着可能.(平成20年4月)ADLに大きな変化みられず.車椅子まで軽介助歩行、近所の公園に外出可能.座位1時間程度、楽に可能.1日1回は看護師、ご主人等が介助し離床、車椅子に移乗し座位で過ごされている.6月現在、筋力低下はみられているがADL は維持されている.
    【考察】
    ALSは言わずと知れた進行性の難病である.そして在宅で生活する方も少なくない.ALSという疾患の特徴から、より良い在宅生活を送る為には、個々の患者・家族に適した対応が適時に必要となる.離床し、歩行して座位で過ごすことは本症例の楽しみと希望である.それは残存能力を維持することだけではなく、何より大切なQOL向上に結びつくと考えられた.しかし導入されていた補装具は、それを補うことに不十分であった.今回、補装具導入に関して感じたことは、病院での介護力と在宅でのそれとは異なる、との意識が欠けた為、在宅に帰るケースであっても在宅生活が想定されていないと思われた.今回の経験では、導入時に在宅での実用性や家族の介護力をしっかりと把握した上で、家族・他職種との十分な連携と協力の重要性が認識された.
  • 里中 綾子, 鈴木 伸治, 河村 守雄
    セッションID: P082
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】健康関連体力の1つに呼吸循環フィットネス(CRフィットネス)があげられる。一般にCRフィットネスの指標として、自転車エルゴメーター・トレッドミル等で運動負荷テストを行い、最大酸素摂取量(VO2max)の測定が行われる。一方、障害者では、運動負荷テストを実施することは困難である場合や、可能であったとしても最大負荷まで引き上げることは難しいことが多い。本研究は、障害者のCRフィットネスレベルを運動時の心拍数(HR)から予測可能であるか調べた。 【方法】障害者25名を対象とし、自転車エルゴメーターでの漸増負荷(ランプ負荷)による運動負荷テストを行った。テスト中はPOLARスポーツ心拍計を使用、HRをR-R間隔で連続モニターし、記録した。負荷は10W3分間のウォーミングアップから開始し、その後1分毎に5W増加するランプ負荷とした。HRが120beats・min-1のときのパワーアウトプット(W)を記録した。その後、心拍数がテスト開始前の10%以内になるまで安静とした。引き続きVO2maxを算出するために、自転車エルゴメーターで3段階負荷の最大下運動テストを行った。最大下運動テストでは呼気ガス分析器を用い酸素摂取量(VO2)の測定と同時にHRを測定した。VO2とHRの直線関係および年齢に基づく予想最大HR(220-年齢)からVO2maxを算出した。ランプ負荷テストにおけるHR120beats・min-1 のWと最大下運動テストから算出したVO2maxの関連を分析した。 【結果】被験者全員が自転車エルゴメーターでのテスト遂行が可能であり、内容を理解する知的能力を有しており、テストは完遂された。ランプ負荷テストにおけるHR120beats・min-1 のWは、平均44.4±24.5W(10~104W)であった。最大下運動テストから算出したVO2maxは、平均1.6±0.6L・min-1(0.8~3.3 L・min-1)であった。HR120beats・min-1 のWとVO2maxはピアソンの相関分析でr=0.75、p<0.0001と有意な相関がみられた。 【考察】HR120beats・min-1 のWとVO2maxに有意な相関がみられたことから、運動時の心拍数からVO2maxの予測が可能であることが明らかとなった。このことから、最大運動が不可能な障害者や疾患により運動制限のある人でも、最大運動テストを行うことなくHRからCRフィットネスレベルの予測が可能となることが明らかとなった。 【まとめ】運動時のHRからVO2maxの予測は可能であり、CRフィットネス予測に有用な方法であると考える。
  • 築田 智晶, 佐々木 弘之, 曽山 敏一, 曽山 薫, 丸岡 恵, 川並 真悟, 小野田 美樹子
    セッションID: P083
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年,障害の多様化や重度化が進んでおり,個々にあったリハビリ用ゲームは少なく,また多くの機能を持った機械は金額が高く購入が困難である.当センターではWii Fitの購入をきっかけに,バランス機能の向上を目的として治療に取り入れてみたところ,障害によっては使用できない子供もいた.
     そこで,更に簡易的なゲームを探していたところ,体重移動によるマウス移動が可能なフリーソフト,バランスWiiボード体重計ソフトwiibalancepc v0.08(以下,体重計ソフト)を入手することができ,これを活用しパソコンとバランスWiiボード(以下,Wiiボード)を連動させた新しい小児用リハビリゲーム(以下,リハビリゲーム)を作製したのでここに報告する.

    【作製手順】
    1.既製のゲームの問題点
    既製のゲームの使用にあたり次のような問題点が挙げられた.
     ・ゲームを行う姿勢が立位に限られ,立位保持できない症例や荷重制限のある症例は使用できない.
     ・ゲームの進行が速く,子供の反応や運動のペースに合わない.
     ・得点化はされるが運動パターンは評価・記録できない.
     ・コツをつかめばゲームの得点は伸びるが,目的とするバランス機能の向上には結びついていない.
     ・ゲーム開始時の初期設定に時間がかかる.
    2.ゲーム作製のコンセプト
    前述した問題点を踏まえ,新しいゲームの作製に取り掛かった.
    新しいゲームのコンセプトは以下の通りである.
     ・様々な姿勢で使用できるもの.
     ・ゲームの開始と終了をコントロールできるもの.
     ・わずかな動きやゆっくりした動きでも使用することができるもの.
     ・結果が目に見えてフィードバックし易く,体重移動を記録として残すことができるもの.
     ・設定が簡単で体重に関係なく誰でも使用できるもの.
    具体的課題として
    体重移動の軌跡で図形をなぞる課題を何パターンか作製し,試用してみた.

    【ゲームの使用】
    1.使用方法
    パソコンに Bluetooth USBアダプタを接続し,体重ソフトを起動させ,Wiiボードをパソコンに接続する.
    パソコン上のポインターをWiiボードの体重移動表示に切り換える.課題を選択しゲームを開始する.
    2.課題の試用
    図形の外周をなぞる課題と1から5までの数字を結ぶ課題は難易度が高かったが,ふたつの図形を移動する課題 と図形の中で静止する課題は達成し易かった.

    【まとめ】
     今回,体重計ソフトを使用し,リハビリゲームを作製した.新しいゲームを試用したところ,今まで既製のゲームを行うことができなかった子供もゲームを楽しむことができた.今後は治療に導入していけるよう更に課題内容の工夫を重ね,合わせて評価・記録方法を検討していきたい.
  • 小野田 美樹子, 佐々木 弘之, 曽山 敏一, 曽山 薫, 丸岡 恵, 川並 真悟, 築田 智晶
    セッションID: P084
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     ペルテス病とは,大腿骨頭と頚部の一部を含めた無腐敗性または虚血性壊死で,大腿骨頭の関節面の不整,大腿骨骨頭部の成長障害等を起こす疾患である.本疾患は治療に2年から3年の経過を要し,股関節の外転位保持を目的とした装具療法が主に行われる.
     ペルテス病に対する理学療法としては,関節可動域や下肢筋力の維持・改善,免荷指導がある.そのため,患児の治療は単調になりやすく,治療に対するモチベーションの低下が問題であった.また,荷重可能な時期になると,患側への荷重を怖がったり,荷重時の足底感覚異常を訴えるために異常歩行を呈する児も少なくない.
     そこで今回,患側への荷重と足底感覚の改善,更に治療へのモチベーションの向上を目的に,バランスWiiボード体重計ソフトを用い,当センターで試作した,小児用リハビリゲーム(以下,リハビリゲーム)を使用した治療を試みたので報告する.

    【方法】
     当センターで試作したリハビリゲームを用い,治療を行った.荷重可能な児には立位,免荷時期には座位でバランスWiiボード上に足底接地させ,体重移動でマウスが移動することを視覚的に確認しながら,課題を行わせる.課題内容は,2つの図形間を移動することで左右の体重移動を意識させるものや,図形の中で静止するものとする.これらの課題により,健側から患側への体重移動を促していく.そして,免荷時から足底感覚入力を行うことで,荷重時の足底感覚異常を軽減させるとともに,荷重による足底からの感覚入力を増やしていく.

    【結果】
     視覚的に確認しながら,免荷時期であっても座位において患側足底への刺激を入れることが出来た.また,治療内容にゲーム性を持たせることによって,競い合い,楽しみながら治療に取り組むことが出来るようになった.これにより,患児の治療に対するモチベーションが上がり,筋力増強など他のプログラムにおいても目的を持ちながら治療に取り組むことが出来るようになってきた.

    【まとめ】
     ペルテス病は治療経過が長く,装具の装着期間も長いため,実際に荷重可能な時期になると,足底接地を行うのを怖がったり,嫌がったりする児が多い.視覚的に確認しながら免荷時期においても座位で患側足底への刺激を入れることで,荷重時期の患側での体重支持が行いやすくなると考えられる.
     更に,こどもが好きなゲーム性のあるプログラムを用いることで,治療へのモチベーションを高めることも出来た.

    【今後の課題】
     ペルテス病に対する理学療法プログラムとして確立させていくために,課題内容を検討していく必要がある.また,他疾患のバランス機能の向上を目的とした治療の1つとして使用できるように,課題の工夫や環境調整等を行っていきたい.
  • 多田 智美
    セッションID: P085
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】重症児は、筋緊張の増加や非活動性により、側彎・股関節脱臼などの出現が高いが、硬性装具には不快を示し継続した装着が難しい場合がある。今回、側彎進行が懸念される重症児3症例(全症例GMFCSレベル_V_・筋緊張コントロール不可)に対して、昨年より日本でも処方されるようになったDynamic Lycra Orthoses(以下ライクラ装具)を作成、この3症例の経過を通してライクラ装具の重症児への活用について紹介する。ライクラ装具は、Lycraという伸縮性のある生地を素材にしたボディースーツ用の軟性装具で、昨年英国より紹介され日本国内での作成を開始、1年間で100症例ほど作成されたと聞いている。この装具は、脳性障害のある症例の様々な筋緊張状態に合わせて作成され、症例の持つ動きの制限を最小限にしつつその伸縮性により筋緊張の緩和やアライメントの矯正を行うことを目的としている。
    【症例1】脳性麻痺女児(14歳)。下肢の伸展・内旋緊張が入りやすく下部胸椎で左凸側彎(Cobb角100度)。ライクラ装具作成前は硬性体幹装具をほぼ一日着用。作成後は着用時に股関節内旋および肩の過緊張が緩みやすくなった。またX-SENSORE(圧力分布測定システム)で臥位荷重分布を測定、未装着時に比べて臥位では対称性が改善した。現在、硬性装具は夜間のみ併用。
    【症例2】脳性麻痺男児(10歳)在宅酸素療法を実施。股関節左屈曲・右内転内旋の緊張が強く、硬性股外転装具を作成したがほとんど装着できず、股亜脱臼が進行し筋緊張の非対称が強まった。そこでライクラ装具を作成、学校では6時間装着が可能となり、特に股伸展可動域の改善が見られた。筋緊張は高まるものの緩むことが多くなり、特に肩周りの緊張が緩んだ。呼吸状態は特に変化ないが発汗が多く通気は要注意。
    【症例3】脳性麻痺女児(12歳)。全身の伸展緊張が入ると緩みにくく痰が絡みやすい。緊張緩和の目的でライクラ装具を作成。ライクラ装具を装着することで、腰側部(側彎凹側)が伸びやすくなった。本児はソックスタイプも作成し、靴の装着が楽になり座位時の足底接地が容易になった。
    【まとめ】重症児の装具療法は、装着に対する不適応や過緊張、呼吸などの生理的症状に対する配慮により積極的に行えないことを多く経験する。ライクラ装具は硬性装具ほどの姿勢矯正力はないが過緊張を止めすぎず、姿勢矯正を行うスペック(矯正帯)により緊張が緩むとアライメントを戻していく作用がある。今回経験した3症例でも装着時の不快反応は少なく、臥位でのアライメントは良好に保たれた。しかし、支持性の弱い軟性装具なので抗重力位での肢位には注意が必要であり、またLycraは通気性がよいとされているが、英国と違い高温多湿の日本の夏季の装着には、重症児では検討が必要であろう。今後、実施症例を増やすと共に経時的な経過を追い、生理的機能への影響や変形の進行予防に対する装着効果など、さらに検討を行う必要がある。
  • ~筋量・基礎代謝量・パフォーマンステストの観点から~
    倉知 真一, 森岡 繁太郎
    セッションID: P086
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     現在、我が国の高齢者人口比率は約22%であり、その平均寿命と健康寿命は世界最高水準である。しかし、加齢に伴い脳血管障害や骨折等をきっかけとして寝たきりになることも少なくない。このようなイベントを予防し健康寿命を延ばすことは、深刻さを増す高齢化社会で極めて大切であると思われる。そのためには高齢者特有の身体機能や体組成を知る必要がある。これまでは、高齢者のパフォーマンスレベルの検討が多く、健康寿命延伸に関連すると思われる体組成について検討した報告は少ない。今回、体組成とパフォーマンステストを併せて測定し、その特徴について検討したので報告する。
    【方法】
     対象は神経学的に運動制限のない50歳以上の女性60名(平均年齢65±6.3歳、Barthel Index100点)とした。65歳以上の33名を「高齢者群」、65歳未満の27名を「中高年群」と分類した。マルチ周波数体組成計MC-190:TANITAを使用し、体重、体脂肪量、上肢・体幹・下肢の筋量、基礎代謝量を算出した。パフォーマンステストとして30秒間椅子起立テスト、Timed Up&Go Test、Functional Reach Testの評価も行った。高齢者群と中高年群の2群間での各測定項目の比較と、各測定項目間の相関を算出し、その特徴を検討した。データ処理はt検定と回帰分析を行い、有意水準を95%とした。
    【結果と考察】
     高齢者群では中高年群に比べ筋量の中で下肢のみが選択的に有意に低値を示した。この事は、高齢者で立位機会が減少している「不活動」と、速筋線維を中心として量的な低下が生じる「サルコペニア」の両者の病態が影響していると考えられる。
     高齢者群ではパフォーマンステストの全ての項目が有意に低値を示し、従来からの転倒予防教室等での報告と同様の結果が得られた。これらは下肢筋量低下が重要な転倒要因であることを示唆している。本結果からは下肢筋量と各テストの相関は強いと言い難いため断定できないが、高齢になるにつれて下肢筋量減少しそれがパフォーマンスレベルの低下をきたし健康寿命を短縮している可能性が高い。
     基礎代謝量は各部位の筋量と強い相関を示している。筋の基礎代謝消費量が全身の中で最も大きいことが確認できる。本研究での年齢群間に有意差が生じなかったが、筋量低下は基礎代謝量を低下させメタボリック症候群や生活習慣病のリスクを高めるため、健康寿命を短縮している可能性がある。加齢に伴う筋量低下や基礎代謝量低下を予防することが健康寿命の延伸に寄与すると考えられる。
    【まとめ】
     高齢になるにつれて特徴的な変化が現れた。地域での健康づくりやメディカルフィットネス等で、より早期からPTが介入していく必要性が増してくると思われる。
  • 大田 英登, 長澤 美穂, 宮崎 賢二, 小林 勝正, 佐橋 千秋, 山村 理恵, 水野 加代子, 水野 有希子
    セッションID: P087
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  訪問リハビリテーションでは1週間当たりの利用回数が1回もしくは2回の利用者が多いのが現状である。このような利用回数のなかで他サービスとの連携を図り、利用者の日常生活活動(以下ADL)能力や身体機能の維持、向上を図る必要がある。先行研究において、訪問リハビリテーション介入によるADL能力や要介護度の変化についての報告は多いが、身体機能についての報告は少ない。そこで今回、訪問リハビリテーションによる低頻度の運動療法が身体機能に及ぼす影響について検討した。 【方法】  当院訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)を利用し、今回の趣旨に同意を得られた7名を対象とした。性別は男性2名、女性5名、平均年齢は71.0±17.2歳であった。介護度は要支援2が2名、要介護2が4名、要介護4が1名であった。なお、対象者の訪問リハ頻度はすべての利用者が週1回の利用であった。方法は運動機能として握力(kg)、膝伸展筋力(kgf)、バランス機能として、開眼片脚立ち時間(sec)、精神心理機能として転倒恐怖スケール(Fall Efficacy Scale以下、FES)、ADL能力としてBarthel Index(以下、BI)を訪問リハ開始時(以下、開始時)、および3ヶ月経過後(以下、経過後)に測定した。なお、統計学的処理には対応のあるt検定を用い危険率5%未満を有意水準とした。 【結果】  握力が開始時18.6±8.5kg、経過後18.5±7.4kg、膝伸展筋力が開始時11.08±8.4kgf、経過後12.4±8.3kgf、開眼片脚立ち時間が開始時3.5±4.9sec、経過後6.3±6.4sec、FESが開始時21.3±6.6点、経過後23.0±6.4点、BIが開始時74.3±17.7点、経過後76.4±17.2点となり訪問リハ開始時、および3ヶ月経過後で有意差は認められなかった。しかし、膝伸展筋力、開眼片脚立ち時間、FES、BIについては維持、もしくは改善傾向であった。 【考察】  訪問リハによる3ヶ月間における低頻度の運動療法において、身体機能の有意な改善は認められなかった。Hettingerらによると週1回の最大筋力の40から50%の等尺性筋力増強訓練で効果が得られたとの報告もあることから介入方法については今後、検討の余地があると考える。しかし、身体機能の維持や改善をもたらす可能性があることが示唆されたことから低頻度の運動療法であっても利用者のADLに資する可能性があると考える。更に症例を増やし検討していきたい。
  • 尾畑 雅夫, 才田 浩之, 内島 有副, 加藤 逸平, 牧野 弘昇, 西川 正志, 松浦 淳教, 米澤 幸平
    セッションID: P088
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】ベッドからの転落や不穏のため困難に直面した認知症高齢者に対し、03年から07年にかけて、畳を使用した。病室の床に畳を敷き、その上に布団やマットレスを敷き管理するものである。今回は、経験症例の畳上で観察された自発的な移動動作(いざり這い、四つ這い、立ち上がり)について報告する。【対象】症例は23例(男性5例、女性18例)。年齢は76歳から100歳(平均86.0歳)であった。認知症の程度は、長谷川式簡易スケールで、平均5.2点(0点~16点)であった。入院時の傷病は、下肢骨折14例(12例は手術施行。)、その他の外傷5例、内科的疾病4例であった。畳の使用期間は平均69.8日(3日~167日)で、畳使用中も全例に可及的早期に下肢筋力強化、歩行練習を施行した。【結果】畳の生活上観察された、いざり這いは17例(73.9%)、四つ這いは10例(43.5%)、立ち上がりは9例(39.1%)であった。3つの移動動作をすべて認めたのは5例で、内4例は退院時、独歩もしくはT字杖独歩を獲得した。いざり這いと立ち上がりを認めたのは膝関節に障害のある4例で、3例は退院時T字杖独歩を獲得した。3つの動作を全く認めないのは6例で、虚弱な例が多かった。【まとめ】畳の病室にて、認知症高齢者の多彩な移動動作を観察した。その発現は、将来の歩行能力を予知や全身状態の評価の一助となる可能性がある。畳の使用はリハビリテーション医学上も有意義と判断された。
  • 佐藤 宗
    セッションID: P089
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに
    当センターでは平成19年度,賀茂郡松崎町からの委託事業として介護予防事業(以下健脚教室)に携わった.今回は健脚教室(以下教室)参加者の参加結果を中心に全6回プログラムで実施されている本教室開催の有用性について検討したため報告する.
    概要
    教室は大渕らによる「運動器の機能向上マニュアル」をガイドラインとして使用した.3ヶ月を1クールとし隔週の頻度で全6回プログラムにて実施した.プログラム内容は第1・6回が事前・事後評価,第2~4回は主にストレッチ・筋力強化プログラム・腰痛体操,第5回はリズム運動を実施した.参加者は町の基本健診内で実施した生活機能評価で特定高齢者と判定された者の内,教室への参加を希望した14名である.
    対象・方法
    対象は参加者中,事前・事後評価実施が可能であった12名(男性3名・女性9名,平均年齢77.7±3.3歳)である.方法は教室で測定した,握力・開眼片脚立ち・Timed Up & Go Test(以下TUG)・10m通常歩行速度・10m最大歩行速度・老研式活動能力指標の結果についてウィルコクソン符号付順和検定を用いて事前・事後評価値の差について検討した.有意水準は5%未満とした.加えて,保健師が実施した基本チェックリストにて対象者が教室終了後に一般高齢者に何名移行したのか調べた.
    結果
    左開眼片脚立ち・TUG・10m通常歩行速度・10m最大歩行速度について有意差を認めた(p<0.05).老研式活動能力指標に関しては事前・事後ともに平均12点以上であった.基本チェックリストの結果からは7名が一般高齢者へと移行したことがわかった.一般高齢者への移行ができなかった5名についてはチェック項目数が変化しなかったものが4名,チェック項目数は減少したが一般高齢者の移行基準に達しなかった者が1名であった.チェック項目が増加している者はいなかった.
    考察
    結果より動的バランスの指標であるTUGや歩行速度に改善がみられ,実施プログラムに沿った結果を反映しており対象集団全体としては一定の効果があったものと考える.また,一般高齢者へ移行できなかった者についても機能維持を果たす効果はあったものと考える.今回は3ヶ月間で全6回プログラムということで開催頻度として多いとは言い難いが老研式活動能力指標の得点からも推測できるように活動性の高い集団に対してはこのような頻度であっても効果を得ることができるのではないかと考える.教室終了後,参加者全員に評価結果のまとめを作成し保健師よりフィードバックを行っている.今後の課題としては,教室終了時の能力を維持していくために継続したモニタリングが必要であると感じている.
  • ~西濃ブロック活動を通して~
    岡村 秀人, 島岡 和彦, 木野 裕成, 三輪 徳次, 吉川 昌子
    セッションID: P090
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    (社)岐阜県理学療法士会(以下 当士会)では,平成19年度より会員の研修機会の増加,士会活動の効率化を目指し,県下を二次医療圏の5圏域(岐阜・西濃・中濃・東濃・飛騨)にブロック分けし活動を開始した.現在,全国的にブロック化し活動している道県もあるが,当士会ブロック(平成20年度より支部と名称変更)活動の状況と,西濃支部での社会的活動の現状を報告する.
    【各支部活動】
    各支部に研修機能,社会的機能をもたせ活動している.平成19年度実績としては以下の通りである.岐阜支部は講演会を開催,西濃支部は研修会,症例検討会および社会活動を実施し,中濃支部は研修会および症例検討会を開催,東濃支部は講演会を開催,飛騨支部は学術研修会および地域研修会を開催した.当士会では昨年度まで県学会および年2回開催となっていた本部研修部開催の研修会に加えて行うことができ,会員への研修機会がより飛躍的に増加した.
    【西濃支部での社会的活動紹介】
    西濃支部では,会員への働きかけとともに,地域住民へ健康意識をもってもらうような社会的活動へも積極的に取り組んできた.当支部エリアにある大垣市では第17回岐阜県理学療法学会で吉川らが報告したように健康福祉イベント「市民の健康広場」が開催されており,昨年度までは当士会福祉部が行っていた.しかし,ブロック化され各地域で根ざした社会的活動を行うために実施主体を当支部へ移管された.従来行っていた介護予防検診などより内容を変更し,若年層への参加も呼びかけた.変更内容として,文部科学省から紹介されている新体力テストの項目を検討実施し,総合判定の後,個別対面式による運動・生活指導を行った.評価測定項目は,握力,上体起こし,長座体前屈,年齢により立ち幅跳びまたは開眼片脚立ちとした.指導時の評定としては,各項目の年齢別段階表を合計し総合判定基準とした(20.36±5.97/40).総合評価をA~Eの5段階評価とし検討した結果,A:32名(15.38%),B:49名(23.56%),C:65名(31.25%),D:45名(21.63%),E:17名(8.17%)となった.参加者は例年の倍以上の208名(50.99±21.51歳)内訳は男63名,女145名となった.
    【今後の展開】
    平成20年度において,本部研修部は公益性のある公開講座などの開催も本部方針として検討していることより,今後増加が見込まれる若年理学療法士の研修機会を増やすためにも,各支部ではより会員の学術研修活動を活発に行ってゆきたい.また,当支部で積極的に取り組んでいる社会活動を,当士会の公益性を高めるためにも,各地域での社会活動を益々推進してゆきたい.
    【まとめ】
    岐阜県下をブロック化し,各地域での研修機会を増やしたことにより,学術研修会などへの参加者が増加した. 当士会が目指す地域への社会公益活動を推進する上でも,今後,各地域住民への健康啓発事業も積極的に推進してゆきたい.
  • 当院リハビリテーション室における取り組みの紹介
    水谷 久美, 甲賀 英敏, 川合 旬美, 和田 寿実子, 秋山 武彦, 岡部 敏幸, 榛葉 馨
    セッションID: P091
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    「知っ得!出張健康講座」とは、掛川市民を対象とし医療や健康の正しい知識を提供することを目的とした病院全体の取り組みである。当院地域連携室が窓口となり、現在31の講座の中から希望の講座に合わせ、専門の知識を持つスタッフが派遣される。昨年度は82団体、延べ3287人が受講した。
    リハビリテーション室としての取り組みを紹介するとともに、受講者に実施したアンケート調査の結果と今後の課題を報告する。
    【講座紹介】
    PTは「膝の痛みの解消法と腰痛体操」の講座を担当し、時間や場所を選ばず、特別な道具を用いずに行える体操を提案している。集団指導であるため、体操方法がわかりやすいようにパネルを作成し使用している。昨年度は地区の老人会や婦人会、企業など24団体、807人が受講し、最も人気のある講座の一つであった。この講座を受講したほぼ半数の団体が、同講座の再受講や他の講座への申し込みをしている。
    【アンケート調査】
    講座終了後に、1)受講者の実態を把握し、2)ニーズにあった講座となっているか検討することを目的に行った。平成19年7月から平成20年1月に講座を受講した方を対象とし、アンケートの趣旨を説明し同意が得られた304名(男性28名、女性272名、不明4名、平均年齢64.0歳(22-92歳))に実施した。痛みの有無と部位、通院状況、健康のために日頃心がけていることの有無、受講しての感想について調査した。
    【結果と考察】
    受講者の74.7%は腰、膝、肩などに痛みがあるが、通院している人は全体の43.8%であった。痛みを我慢している人、或いは通院するほどではないと考えている人が多く、これらが受講への動機につながったのではないかと考えられた。健康のために心がけていることがある人は72.7%であり、健康に対する意識の高さが伺えた。講座を受講して良かったと答えた人は98.0%であり、地域にも活動を広げていることに対し好意的であった。また、次回を期待する声も多く寄せられた。
    【今後の課題】
    受講者の年齢層が幅広いことから転倒等の危険も考えられる。受講団体の保険加入の確認や、会場や受講者に合わせた体操方法の変更等、臨機応変に十分な対処が必要である。また勤務時間内の講座依頼件数が増加していることから業務への影響が出る恐れがあり、全ての申し込みへの対応が困難になることも考えられる。
    【まとめ】
    地域に出向き、参加者と顔を合わせてコミュニケーション、スキンシップを取ることの大切さを実感している。予防医学が重要視され健康や医療への関心が高くなっている今、活動を継続し市民の更なる健康へとつなげていきたい。今後はより市民のニーズに応えられるよう、専門性を活かした新たな講座を提案していきたい。
  • 渡邊 陽子, 渡辺 元夫, 那須 英里子, 奥川 慎二, 山上 登茂美, 浅井 友詞
    セッションID: P092
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】運動特化型の通所介護施設(以下、デイサービス)における身体機能について、我々は機能的体力を用いた体力評価からその有用性を確認した(第43回全国理学療法学術大会発表)。しかし、運動特化型デイサービス利用者の健康関連QOLの変化に関する研究は少ない。
    そこで、SF-36による主観的な健康関連QOL評価を実施し、当デイサービスにて運動を実施した利用者の運動開始前と、運動開始から1年後の健康関連QOLの変化を検討した。
    【対象・方法】2007年5月から当施設で1年間運動を継続した18名(男性7名、女性11名、平均年齢72 ± 11歳)であった。
    運動の種類はアクアエクササイズ(総合的運動)と油圧マシン運動(レジスタンス運動)によって構成し、種類の選択は利用者の身体状況や本人の意思を考慮して決定した。運動頻度は、油圧マシン:1~2回/週、1回の総運動時間30分、アクアエクササイズ:1~2回/週、1回の総運動時間は60分であった。
    健康関連QOLの評価はSF-36v2を使用し、身体機能(PF)、日常役割機能‐身体(RP)、身体の痛み(BP)、社会生活機能(SF)、全体的健康感(GH)、活力(VT)、日常役割機能‐精神(RE)、心の健康(MH)の8つの項目を自己記入式で実施した。データ処理は、対応のあるt-検定によって検討した。尚、統計的有意水準はp < 0.05とした。
    【結果】RP:55.0 ± 27.4点から60.6 ± 32.3点、BP:58.6 ± 25.0点から59.2 ± 23.4点、MH:61.0 ± 24.0点から62.6 ± 17.7点と有意な改善が認められた。
    また、GH:50.7 ± 16.0点から50.9 ± 20.2点、VT:60.1 ± 19.9点から61.3 ± 20.7点、SF:65.6 ± 19.4点から72.5 ± 26.2点と改善傾向を示したが有意な改善を認めなかった。しかし、PF:54.8 ± 30.3点から53.6 ± 23.6点、RE:64.3 ± 32.1点から57.1 ± 32.0点と改善が認められなかった。
    【考察】MHやBPに有意な改善が認められたのは、デイサービスを利用し他者とのコミュニケーションをとる機会が増えたことや、運動に伴う痛みの軽減が影響したのではないかと思われる。また、運動を実施したことにより総合的体力が高まり、日常の活動量が増加しRPが改善したと推測される。当施設では、すでに運動による総合的体力の改善が認められている。しかし、本研究ではPFやREの向上は認められなかった。
    今後は、運動によって向上した体力を日常生活に反映させるためのプログラムを導入し、健康関連QOLを再調査する必要がある。
  • 後藤 優香
    セッションID: P093
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    在宅での支援を行う上で既存の評価用紙では機能面以外の評価が少なく利用者様の能力の把握を行いにくいと感じる。そのため在宅リハにおける問題点が把握しにくいと感じた。
    そこで当事業所では在宅生活に適したアセスメントシートを作成したので紹介を行う。
    【既存の評価用紙の問題点】
    ・環境面が把握しにくい
    ・介助状態が把握しにくい
    ・評価結果が在宅支援のプログラムの立案につながりにくい
    【アセスメントシートの特徴】
    ・環境面の評価を追加
    ・行えない原因を身体、環境、精神面に分類
    ・ADLを本人側と、介助者側から分類して評価
    ・活動性の評価を追加
    【方法】
    既存の評価用紙の問題点を考慮し、改良を行ったアセスメントシートを作成した。
    そのアセスメントシートに対し、在宅経験1年未満のPT5名に以下のようなアンケートを実施した。
    質問1 既存の評価用紙で利用者様の全体像の把握が行いやすかったですか?
    質問2 作成したアセスメントシートで利用者様の全体像の把握が行いやすかったですか?
    質問3 既存の評価用紙でのプログラムの立案は行いやすかったですか?
    質問4 作成したアセスメントシートでのプログラムの立案は行いやすかったですか?
    【考察】
    既存の評価用紙は病院での使用を目的としているものも多く、個々の生活環境が大きく異なる在宅では利用者様の能力が把握しにくい。そこでアセスメントシートを使い阻害因子の分析を記載することにより状態が把握しやすくなりプログラムの立案が行いやすくなった。
    ADLを本人側からと介助者側からに分類して記載することにより利用者様本来の能力を把握するだけでなく、介護者の介護状態の把握を行え、介護負担軽減のプランニングも容易となった。
    また環境設定や福祉用具を使用することで行えるようになるADLが増えることも少なくないため環境設定のプランニングも容易となった。
    活動の評価を加えることによって日常の活動性などの把握が行いやすくなった。
    【まとめ】
    今回、住宅環境や福祉用具、活動面の評価を追加したアセスメントシートを作成・使用した。既存の評価用紙では把握しにくかった阻害因子が把握しやすくなりプログラムの立案が容易となった。
    しかし今回のアセスメントシートは弊社のような訪問看護ステーションでは看護師も同行することも多いため、看護面での問題点が把握しにくいことが課題として残る。今後は看護師からの視点も踏まえさらに使いやすいものにしていきたい。
  • 太極拳教室参加者を対象として
    青山 満喜, 劉 紅年, 小山田 有希
    セッションID: P094
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】バランス能力の評価において一般的に用いられるFunctional Reach Testでは、前方へのリーチ動作を測定することにより、バランス能力が推測できるといわれている。
    今回われわれは、太極拳が高齢者のバランス能力、特にFunctional Reach(以下、FR)にあたえる効果について多少の知見を得たので報告する。 【対象】平成19年5月から6月にかけて、N大学医学部老年情報学寄附講座において地域在住の高齢者を対象に太極拳教室を開催した。参加者は6名(男性1名、女性5名)、年齢は62歳から77歳(平均年齢70.3±6.15歳)であった。 【方法】太極拳教室初日には医師の問診を行い、太極拳教室の前後に毎回FRなどを測定した。
    中国伝統医学太極拳会会長、伝統楊式太極拳第5代伝人が太極拳の指導にあたった。
    太極拳教室では、5-10分のwarm up、太極拳、5-10分のcool downを内容として実施した。太極拳指導時には、中国伝統音楽をbackground musicとして用い、前回学んだ動きを反復した後、新しい動きを学んで実施した。統計学的分析はT検定を用い有意水準を5%未満とした。 【結果】太極拳実施前後の比較より、すべての参加者においてFRの有意な改善を認めた(p<0.05)。 【まとめ】高齢者の転倒予防に関して種々のexercisesが用いられているのは周知の通りであるが、近年、太極拳を転倒予防に用いた研究も報告されている。
    太極拳は特別な機械・器具を必要とせず、ヒトが立位をとることができる場所さえあれば比較的簡単に行なうことができるexercisesのひとつである。
    今回の結果から、太極拳が高齢者のFR改善に効果があることが示唆された。しかし、残念ながら対象者数が十分ではなかったため、今後症例を増やすとともにさらに検討を行う必要があると考える。
  • 段階づけた車いす試乗による適合技術支援
    表 幸, 寺田 佳世, 北野 義明
    セッションID: P095
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】極めて発症率の低いハンチントン病者に対し,本人の身体特性や施設での日常生活に対応できる車いすを選択するため,石川県リハビリテーションセンター協力のもと数回の試乗を繰り返しながら,的確な車いす処方を行う機会を得たので報告する.
    【症例紹介】年齢45歳,男性.ハンチントン病, FIM18点で.薬物によって精神症状・行動異常に対するコントロールを行っている.意思疎通は困難.四肢体幹機能全廃で上下肢体幹頸部に舞踏様の不随意運動(以下舞踏運動)がみられる.両膝・股関節屈曲筋群と足底屈筋群の緊張が高い.
    【方法】検討1:ティルトリクライニング式車いす(Miki社製グランドフィッチャーEX)を試乗し,車いすに必要な機能構造を確認した.食事姿勢は座面に前後差を付け,リクライニング角度を調整することで頸部の舞踏運動が軽減し安定坐位が可能,また安静時もリクライニング角度を調整することと,背の張り調整機能を利用し座位は安定した.そのためフレーム構造は,移乗も考慮し170度のリクライニング機能付きで,座は前座高48cm,後座高38cmとした.しかし,骨盤帯の支持が弱く,坐角度をつけても自力での除圧動作時ずり落ちていくようにすべり座りになり,付随して,頸部や両下肢の舞踏運動が出現する傾向があった.
    検討2:検討1で求めたフレーム構造のリクライニング式車いす(Miki社製)を試乗し,改造内容とクッションの検討を行った.身長が178cmと大柄であるので,背もたれ延長と頭部クッション,更に坐奥行きの延長を検討した.また姿勢の安定と突発的な舞踏運動に対応するため,頭部・胸・骨盤・膝下パットをつけた.更に下肢の屈曲拘縮が著明で足置台から足が内側へ落ちてしまうので,足置台の後方延長と角度調整を可能とした.また舞踏運動が見られるので手足の巻き込みを防止するなど安全面を考慮し,駆動輪にはスポークガード,アームサポートの延長と全面スカートガードとした.
    【結果】身体特性と介護上の利便性を考慮し,検討1と検討2の条件を満たすオーダーメイド車いすを製作した.結果,車いす上で過ごす時間が延長し,食事時,頭頸部屈曲位が改善され介助が行いやすくなった.更に車いす上で突然出現する足クローヌスや上下肢体幹の激しい舞踏運動が減少した.
    【まとめ】ハンチントン病の症例に対してオーダーメイド車いすの処方を行った.段階づけて車いす試乗を繰り返し,クッションなどの検討を行った結果,車いす坐位での舞踏運動が軽減され良好な成果を得た.
  • 齋藤 壮史, 清水 英樹, 福岡 純, 早川 裕貴, 中谷 努
    セッションID: P096
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 当院では移動能力の向上を進めるにあたり、これまでスタッフ間で移動を自立と判断する基準は明確でなかった。そこで平成19年6月より、自立と判断する際に参考とする病棟移動自立チェックシート(以下チェックシート)の使用を開始している。チェックシートの項目は移動に関連する動作と環境別での動作で、動作能力と実行状況より評価し、その他に参考にする基準があればその他の欄に記載する。そして自立と判断した後に転倒した場合は、その要因を検討しシート内容を修正するようにしている。今回、当院におけるチェックシートの使用状況を調査したので報告する。<BR> 【方法】 当院の理学療法士16名(経験年数1年目~7年目、平均経験年数3.87年)にアンケート調査を行った。アンケート内容は、チェックシートの使用頻度・チェックシートに記載された判断基準・それ以外の基準・使用方法・今後の使用の有無についてであった。<BR> 【結果・考察】 使用頻度は、必ず使用する25%、時々使用する44%、あまり使用しない31%、使用しない0%で、最初は使用していたが判断基準に困る際にのみ使用するという意見が多く挙がった。自立の判断基準としては、とてもよい0%、良い43%、普通44%、あまりよくない13%、よくない0%で、それ以外に用いる基準として、時間帯による変化や、他スタッフの意見を参考にする等の意見が挙がった。使用方法については、とてもよい0%、良い43%、普通43%、あまりよくない13%、よくない0%で、使用方法が定着していない等の意見が挙がった。今後の使用の有無ついては、必ず使用する25%、時々使用する69%、あまり使用しない6%、使用しない0%であった。<BR> これらの項目ごとに新人(3年目以下)と経験者(4年目以上)に分けて、mann-whitneyのU検定を行なったところ、使用頻度は、経験者に比べて新人の方が使用している傾向にあり(P=0.08)、新人の意見として見落としのないように使用するという意見が多く挙がった。また有意な差ではないが、新人に比べて経験者の方が自立の判断基準を妥当だとしており(P=0.14)、新人スタッフは先輩や他スタッフに聞くことが多く判断基準が明確でないようである。<BR> 【今後の課題】 今後チェックシート項目を修正し、使用方法の手間を改善、周知を行っていく必要があると考える。また当院において歩行が自立直前と判断された患者に使用している「若葉マーク」と併用することで、自立に向けての判断基準として客観的意見を聴取しやすくなると考える。更に、チェックシートを最低ラインの自立判断基準とするとともに、それ以外の判断基準も明確に示していきたいと考える。
  • 吉村 孝之, 小島 佳子, 櫻井 健司, 高田 祥尚, 小森 愛子
    セッションID: P097
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    介護老人保健施設(以下老健)では多くの入所者が日中、車椅子で過ごしている。坐位姿勢保持が困難になると、上肢支持を要す坐位姿勢となり、日常生活活動(以下ADL)が障害されるという悪循環になる。木之瀬らは簡易坐位能力分類表(以下分類表)によって坐位姿勢を評価し、坐位に問題がある場合はモジュラー型車椅子を処方している。しかし、当老健の車椅子は標準型であるため、個々に適した処方は困難である。そこで、良坐位姿勢保持を目的とした車椅子坐位補助具(以下坐位補助具)を安価に作製することで、ADLにどのような影響が出るのかを研究したので、報告する。
    【方法】
    1.対象
    当老健の全入所者113名の坐位能力を分類表にて評価した。坐位保持のために上肢支持を要す38名のうち、コミュニケーション可能で、時間経過とともに骨盤が後傾し、姿勢が崩れる2名を対象とした。
    2.方法
    坐位補助具を作製することで車椅子使用時の良坐位姿勢保持を試みた。予備実験として大渕らの先行研究に準じ、坐位補助具を作製したところ、「木製であるため殿部に痛みが生じる」「坐位補助具がシート上で動いてしまう」「個々に坐位姿勢が異なる為、繰り抜く部分を個別に設定する必要がある」といった問題が生じた。そこで我々は、素材を100円ショップで購入可能なプラスティックボードに変更し、坐骨結節の位置を計測することで、個別に坐位補助具を作製した。坐位補助具を車椅子シート上に固定し、その上に使い慣れたクッションを置いて使用した。費用は100円で、安価に作製することが出来た.
    坐位補助具使用前後でのADL変化を検討するために、車椅子自己駆動後の坐位姿勢、食事動作の様子を観察した。
    【結果】
    坐位補助具を使用すると車椅子自己駆動後の坐位姿勢の崩れが少なくなった。自己駆動速度は有意差を認めなかった。
    食事動作では介助量が軽減し、食事時間も短縮した。1名は処方後、自ら麻痺側上肢を使用して食事される様子が観察できた。
    【考察】
    坐位にて次第に後傾してしまう骨盤を中間位に保持することで、体幹の前傾や頸部中間位保持がしやすくなるため、リーチ範囲や視野範囲の拡大につながり、ADLが遂行しやすくなると考えられる。
    当老健の多くの入所者は高齢で慢性期であることから、著しい機能回復は難しいため、使用する道具への工夫が重要となる。まだ研究段階であり、実用化に向けての継続研究が必要ではあるが、限られた予算、環境、道具の中で、症例に適した坐位補助具を処方するための一つの方法を提案できたのではないかと考えられる。
    【まとめ】
    ・骨盤を固定するため上肢が使いやすくなり、食事時間の短縮や食べこぼしの減少、麻痺側の積極的な使用が観察された。
    ・車椅子自己駆動後の坐位姿勢が崩れにくくなった。
    ・100円という安価で作製したため多くの入所者に処方しやすくなった。
    ・長時間使用時の皮膚に及ぼす影響、坐位補助具の耐久性の検討が必要である。
  • 平野 敬子
    セッションID: P098
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、早期の自宅への退院希望が強い症例に対して短期集中リハビリテーション等を実施することにより目標が達成できた症例を経験したので報告する。
    【症例紹介】
     81歳男性。  平成19年8月9日、右側が動かないとの事で受診し、脳梗塞(左前頭葉)と診断され、発症2ヶ月にて当院転院。  頚椎症の既往あり。  病前右利き(現在利き手交換済み)。  本人need:早く家に帰りたい。散歩がしたい。  家族構成は妻、娘(キーパーソン)の3人暮らし。  性格は頑固、生真面目。  入院時、退院出来なかった事で非常に不満を訴えていた。
    【入院時評価】
     ブルンストローム ステージ:右上肢3、手指3、下肢5。  ROM制限:右肩(疼痛により夜間起床する事あり)・手関節、手指。  MMT:左上・下肢5、右下肢4、体幹3。  感覚:右上・下肢:重度鈍麻 左:軽度鈍麻。
     FIM:総合計:89/126点 運動:60/91点(歩行:2点、階段昇降:5点、清拭3点、移乗(入浴)1点、排尿コントロール:2点:導尿4/日) 認知:29/35点
    【理学療法プログラム及び経過】
     入院時は、T字杖使用にて歩行自立を目的に筋力増強運動、歩行練習を実施した。また、歩行能力向上が認められた為、独歩練習、応用歩行練習(階段昇降等)を実施した。退院時には、屋内独歩、屋外T字杖(要監視)となった。また、排尿コントロールは投薬ありで自立となった。
     FIM:総合計:104/126点 運動:75/95点(歩行:6点、階段昇降:6点、清拭4点、移乗(入浴)4点、排尿コントロール:6点) 認知:変化なし(29/35点)
    【考察】
     本人の自宅への退院希望が強いため、入院時カンファレンスにて、早期自宅退院を目標に各職種による役割を明確にし、チームでのアプローチを開始した。理学療法では歩行能力の向上に対して積極的に関わりながら、同時に試験外泊での具体的な問題点の解決を図った。今回のように、本人にとってベストの個別的な、一人ひとり違った「オーダーメード」のリハビリテーションを実施していく事が重要だと分かった。
  • 谷口 あゆみ
    セッションID: P099
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回,退院前訪問や自宅の情報収集など在宅復帰へ向けたアプローチに対して強い拒否を示したが,根気強く対応をすることで自宅退院が可能となった症例を経験したので報告する.
    【症例紹介】
    56歳男性.平成18年11月17日発症の右被殻・視床出血,開頭血腫除去術施行.左片麻痺(左利き).発症から約半年後当院入院.本人の希望は職場復帰(運送業)であり,家族構成は妻,長女,次男の4人家族で,キーパーソンは妻である.
    【入院時評価】
    ブルンストロームステージは左上肢2手指2下肢2,麻痺側上肢廃用手.筋力は右上下肢MMT3~4レベル.感覚は表在,深部感覚ともに消失.コミュニケーションは構音障害あるも問題なし.院内移動は車椅子にて自立.機能的自立度評価表(以下FIMと略す)は83点であった.改訂長谷川式簡易知能評価スケール26点.リハビリテーション(以下リハビリと略す)に対し積極的であったが,障害受容ができておらず,家族(妻)も障害受容できていなかった.
    【経過】
    リハビリ開始時はプラスチック短下肢装具(以下SHBと略す)装着,四点杖使用し30m程度歩行可能であったが,軽介助レベルであった.理学療法では歩行練習を中心に実施し,退院時に歩行はSHB装着しT字杖にて60m可能となるも,注意障害や病識の低下などにより,監視ははずせなかった.また,FIMは91点であり,清拭,浴槽への移乗,移動の項目が低かった.
    【考察】
    リハビリ開始時に本人・家族(妻)を含め,カンファレンスを行ったが,両者ともに障害受容ができておらず,更にコメディカルスタッフからの援助に対してはすべて強い拒否の姿勢であった.その後,何度もカンファレンスを行ったが,両者の態度は変わらなかったが,本人は初めての外泊の際,病前の生活が困難であることが理解できた.それ以降は本人だけは退院へ向けての支援に理解を示し,スタッフに対して柔軟な姿勢がみられるようになった.退院へ向けての問題解決として、スタッフミーティングでは,頻回な外出や外泊を勧め,必要な情報を本人から得,その情報をスタッフ間で共有し,それぞれの専門分野での問題解決方法を計り,本人に提示した.その解決方法を本人は自宅で実際に行なったり,あるいは必要な情報を本人から妻へ提供するなどを繰り返すことで,最終的には入浴は通所サービスを利用し自宅退院可能となった.
  • 三輪 晃敬, 岡村 秀人, 岩田 典子, 広瀬 弥生, 熊澤 慎志, 四戸 隆基, 佐藤 正夫
    セッションID: P100
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    〈はじめに〉
    関節リウマチ(以下 RA)は寛解と再燃を繰り返し,緩やかに障害されていく進行性疾患である. RA患者は関節の疼痛や破壊により,日常生活動作に何らかの障害を生じている.しかし,無理をすることで行える動作も少なくないのも現実である.住宅改修は関節破壊の予防のほか,在宅生活における自立度の向上,介護量の軽減に対して有用であり,患者はその病期あるいは進行度に合わせて在宅生活への適応を高めている.今回,当院整形外科に通院しているRA患者の現状を把握し,今後の住宅改修指導など情報提供を目的に調査を行ったのでここに報告する.
    〈対象および方法〉
    対象は平成19年9月18日から10月15日の期間に当院外来通院中のRA患者で,調査の趣旨を説明し同意を得られた64名とした.回収率は86%(55名)であった.その内訳は男性13名,女性42名,平均年齢は63.8±13.3歳であった.調査項目は2005年リウマチ白書-リウマチ患者の実態に-て行った実態調査アンケートを基に検討し作成した.得られた結果より,複数回答による住宅改修場所及び罹病期間も加え比較検討した.なお,調査中および分析に際しては個人が特定できないよう無記名とした.
    〈結果〉
    「今までに,住宅改修(踏み台,スロープなどを含む)をしましたか」という設問に対して,改修した 52.7%(49.1%),改修しなかった47.3%(46.1%),であった.また,改修したと答えたうち一番多かった場所は“トイレ”であり55.2%(66.9%)であった.次に“玄関”48.3%(31.6%),“上がり框”44.8%(27.5%),“風呂場”34.5%(59%),“階段”17.2%(26.8%),“洗面所”13.8%(18.9%),“台所”10.3%(16.7%)であった.住宅改修場所(トイレ)と罹病期間について,1年未満0.0%(6.9%),1年~3年未満33.3%(10.7%),3~5年未満25.0%(14.6%),5~10年未満18.2%(19.8%),10~15年未満21.4%(27.6%),15~20年未満14.3%(35.2%),20~25年未満50.0%(39.4%),25~30年未満0.0%(41.8%),30~40年未満0.0%(46.4%),40~50年未満100.0%(49.6%),50年以上100.0%(55.9%)であった.括弧内の数字はリウマチ白書掲載の全国平均値の割合とした.
    〈まとめ〉
    RA患者の実態を把握するためアンケート調査を行い,住宅改修場所及び罹病期間について全国と比較検討した.全国では罹病期間が長くなるにつれ改修項目の増加が見られたが,当院においてトイレ,風呂についてはその傾向が類似していたものの,その他については一定の傾向は見られなかった.今回,実態調査したことでRA患者の現状が理解できた.今後,アンケート調査にて得られた情報を基に,患者教育などに活用してゆきたい.
  • 杉山 基
    セッションID: P101
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院では平成19年8月より回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)が開設され、専従医師、看護スタッフ、理学療法士(以下PT)、作業療法士(以下OT)、言語聴覚士(以下ST)により、地域連携パスによる急性期病院からの紹介患者や自院一般病棟から転棟する患者に対し在宅復帰を目指しリハビリテーションを行っている。 【目的】回復期リハ病棟の患者の入院時と退院時のADL評価を比較し、在宅復帰に必要なADL能力について検討する。 【方法】平成19年8月~平成20年3月までに退院した患者で入院時と退院時のADLをBarthel Indexで評価した在宅復帰患者48人(平均年齢74.1±12.8歳)、施設等転出患者15人(平均年齢71.9±16.8歳)の計63名を対象とした。回復期リハ病棟入院時と退院時のBarthel Indexの各項目を%換算し、改善率と平均入院期間について在宅復帰群と施設転出群を比較した。 【結果】両群間に入院期間に有意差はないが、在宅復帰群の入院期間の平均76.7±34.0日に対して施設転出群の入院期間の平均93.8±51.1日と施設転出群の方が入院期間が長かった。在宅復帰群の入院時ADL評価は、施設転出群のそれよりも全項目とも上回っていた。入院時は入浴と階段については両群とも非実施の患者が多く、退院時は全項目に改善を示した。在宅復帰群では総合点数が入院時56.9から退院時84.8と上がり、改善率149%を示した。項目別では、階段昇降、歩行、整容、トイレ動作の順に改善がみられた。食事、移乗、整容、更衣の自立度は高く、入浴は低かった。施設転出群では総合点数が入院時33.7から退院時48.0と上がり、改善率143%を示した。 【考察】当院ではPT、OT、ST、病棟スタッフが協業する中で職種間の連携と共通認識が重要であることから、情報を共有するためにもカンファレンスやミーティングなどが開催される。在宅復帰に必要な動作能力をみる指標としてADL評価を用い、入院時と退院時を比較することで改善度合いをみることができる。在宅復帰に際し、段差昇降やトイレ動作が重要であることから、PT、OTが積極的に関わり、食事動作についてはSTも含め自立に向けて積極的な治療を進めた結果、自立度、改善率がたかったと考える。自立度の低い入浴動作については介護保険でのサービスを活用することや家族への介護指導によって克服できるものと思われる。 【まとめ】平成20年度の診療報酬改定で、在宅復帰率や重症患者の受入れ、日常生活機能評価での改善が入院料に影響する要素となった。回復期リハビリ病棟を運営するにあたり十分な治療時間を提供しアウトカムを求めるならば、マンパワーの確保はもとより職種間の連携による目標を明確にした治療プログラムが必要不可欠である。
  • 内藤 靖生, 中田 裕之, 上野 翔, 渡辺 泰洋, 鈴木 健太, 後藤 健一
    セッションID: P102
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 開院当初,下肢装具(以下装具)はリハビリテーション(以下リハ)室備えのもので歩行練習を行い,方向性が定まった段階で処方していた.そこで積極的に作製し,早期から立位や歩行を行う装具療法を取り入れた.ADL能力向上や退院後の実用移動手段の獲得につながる印象であった.当回復期リハ病棟の入院患者に対し,どの装具を作製したのかなど,実態が明らかではない.今回,年度別に装具療法の実績を調査した. 【対象】 回復期リハ病棟2棟が本格稼働となった2006年4月から2008年3月末までに当院に入院した患者494名を対象とした.2006年度218名をA群,2007年度276名をB群とした. 【調査】 AおよびB群に対し_丸1_脳血管障害患者(以下患者)数,その内訳の_丸2_装具作製者数,_丸3_装具作製種類とした.また_丸4_当院クリニカルパス(以下パス)を用いた入院実態を装具作製者(以下作製者)と未作製者(以下未者)で分けて行った.
    _丸5_患者数の年間延べ理学療法実施人数および_丸6_年間延べ理学療法実施単位数,_丸7_患者の年間理学療法実施単位割合を調査した.
    各群間に_丸4_はχ2検定,_丸5_から_丸7_は対応のないtテストを用い有意差を検定した. 【結果】 _丸1_A155名,B195名,内訳_丸2_A65名,B76名._丸3_A・Bそれぞれ,後方平板支柱付き短下肢装具13名・30名,プラスチック短下肢装具26名・15名,両側金属支柱型短下肢装具(SLB)5名・9名,両側金属支柱型長下肢装具(LLB)9名・21名.
    _丸4_パスが延長した人数で,作製者と未者ともに延長傾向はあるものの差を認めなかった.パスを延長した日数の平均はA36.2日,B36.5日.またパスを延長した日数にて,作製者では各群間に差を認めなかったが,未者でAに対しBで有意に少なかった.
    パス延長がなかった場合,人数で作製者ではAに対しBが有意に少なく,未者では差を認めなかった.日数では作製者,未者ともに差を認めなかった.しかし各群を合した作製者と未者との間では,パス延長がなかった日数に有意な差を認めた.
    _丸5_A1131±257名,B1548±205名_丸6_A2692±587単位,B5064±639単位_丸7_A2.4±0.3単位割合,B3.3±0.4単位割合で,それぞれ有意差を認めた. 【考察】 装具処方数が増え,機能回復に応じた調整可能なものとなっている.当院入院までの期間が短いため機能回復,能力向上の身体状況変化に応対するためと考える.また早期から積極的に歩行をするために,立位安定性が高いSLBやLLBの処方が増加したと考える.
    パスの延長を認めた未者では,言語機能等の問題で入院によるリハの継続希望により日数が多くなっていたためと考える.パス延長が認めなかった作製者では,早期から歩行やADL練習を行えることから,退院が早まったものであろう.
    当院では365日リハとセラピスト増員が,入院による充実したリハ実施となっている.また理学療法単独で平均3.3±0.4単位割合は,機能回復,能力向上に好影響を及ぼすものと思われた.
  • 江森 章, 土山 裕之, 向田 裕明, 石井 義之, 東 佳奈子, 本谷 友克, 松本 典子
    セッションID: P103
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
    当院は脳神経外科専門病院として円滑な脳卒中医療連携を目指し、2007年度より脳卒中における地域連携クリニカルパスの作成に携わっている。今回は回復期クリニカルパス(以下、回復期パス)作成への取り組みについて紹介する。
    【取り組み】
    回復期パスを作成するにあたりワーキンググループを結成した。熊本機能病院で作成された回復期パスを原案とし当院用にアレンジした。「自院」における一般病棟からの転入用4コースと「他院」からの転入用4コースの全8コースを作成した。共通の評価指標を用いることで地域連携クリニカルパスへのデータの移行を容易にし、入力漏れがないように担当者を決めた。当院は電子カルテを使用しており、パスについても電子化によって運用している。各コースの導入指針については、入院・入棟日に看護師がFIMをとり、コース決定を行っている。「自院」における一般病棟からの転院用の2ヶ月・3ヶ月コースの試用にて、(1)パス開始時に全スタッフへの連絡手段検討、(2)チェック項目が多いために項目再検討、(3)FIM評価を初日に実施が困難、(4)FIM評価の不慣れなどの問題点が生じた。改善点としては、(1)カルテ上に表示、メールにて連絡、(2)紙パスから電子カルテへの変更を検討、(3)入力状況をチェックする担当者を決め1週間毎にチェック、未入力者にはメールで連絡、(4)FIM評価の実施方法について検討した。当院におけるFIM導入への取り組みとしては、院内LANよりFIMを入力できるようにし、FIM評価の不慣れに対しては勉強会を行った。FIMについては、しているADLを看護師、できるADLをリハビリスタッフが入力している。現在、使用している回復期パスではチェックボックスの数を減らし項目の見直しを行った。あらたにステージの項目を回復期パスに取り入れることで、地域連携クリニカルパスとデータを共有できるようにした。
    【おわりに】
    回復期パスを導入することで退院までの流れがより明確となる。そして、患者のリハビリに対するモチベーションの向上や早期在宅復帰への職員の意識づけにつながる。また、在院日数の短縮化にもつながると思われるが、住宅改修や介護保険申請を早期化できるかが課題である。今後は効果的に回復期パスが運用できるようにバリアンスシステムの構築に向けて取り組んでいきたいと考えている。
  • 向田 裕明, 江森 章, 石井 義之, 東 佳奈子, 松本 典子, 土山 裕之
    セッションID: P104
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
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    【はじめに】
     2007年度より当院では脳卒中地域連携クリニカルパス作成に携わっている。同時に急性期クリニカルパス、回復期クリニカルパスを新規作成することになった。今回、急性期クリニカルパスの新規作成に関わる機会を得た。その中で、離床開始基準を設定することで早期離床への取り組みが改善された。
    【方法】
     ワーキンググループで2007年5月より開始し、12月まで合計7回実施した。
    【ワーキンググループの構成メンバー】
    脳神経外科医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、薬剤師、放射線技師、 検査技師、MSW、医事、診療情報管理士 
    【急性期クリニカルパスについて】
    ・急性期クリニカルパスは臨床病型ではなく、NIHSSに基づく重症度に応じたパスを使用することにした。脳梗塞を4コース、脳出血は3コースとして、全7コースを作成した。
    【当院における従来の急性期リハビリテーションの問題点】
    ・医師からのリハビリテーション処方時期がまちまちであった。
    ・急性期病棟での入院期間の設定が曖昧であった。
    ・統一された離床開始基準がなく、医師によって対応がまちまちであった。
    ・急性期病棟に携わるリハビリテーションスタッフを除くスタッフに、早期離床への働きかけがうすい。
    ・ADL上の安静度のみで示されていた。
    【問題点への対応】
    ・1病日目より処方が開始となった。
    ・離床開始基準を設定した。これは相澤病院総合リハビリテーションセンターのもを一部改正し、使用。
    ・離床スクリーニングを設定した。これは3日以内に理学療法評価を実施し、治療や生活指導を実施したことで、今後の理学療法継続の必要性がない症例は終了とした。
    【急性期クリニカルパス施行による変化】
      ・1病日目より処方され、評価・治療を開始した。
    ・処方時にコース設定されているため、急性期病棟での入院期間の把握が容易となった。
    ・統一された離床開始基準を設定したことにより、早期離床が可能となるケースが増加した。
    【おわりに】
     急性期クリニカルパス施行後、最短で14日間での退院患者を担当する機会を数例得た。従来では同程度のケースの能力でも入院期間が長くなるケースが多く存在した。今後はパスにより、入院期間の短縮が推し進められると思われる。
  • 山中 博紀, 井舟 正秀, 田中 秀明, 川北 慎一郎
    セッションID: P105
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    リハビリテーション(以下リハ)業務において理学療法士(以下PT)が杖を処方し使用方法を指導している.しかし,リハ以外の時間では正しい杖の使用方法を周知しているかどうかは確認できない.そのため,看護師,介護士(以下病棟スタッフ)に協力してもらい正しい杖の使用方法を確認してもらう必要がある.今回,病棟スタッフの杖に関する理解度を調査し,正しい杖の使用方法についてさらに理解度を向上することを目的とした.
    【対象及び方法】
    今回の研究の目的を説明し同意の得られた病棟スタッフ193名に紙面にてアンケート調査を実施し,回答の得られた162名(回収率84%)を対象とした.アンケート調査では,職種,職務経験年数,整形外科疾患に関わる職務経験の有無,自分の杖使用経験の有無,身近な人物の杖使用経験の有無,杖についての知識を得た機会の有無,右下肢に障害がある際に杖をどちらの手に把持するか,杖の長さを設定する際の判断基準,杖の種類を選択する際の判断基準について選択形式で回答してもらった.
    【結果】
    対象者の職種は,看護師149名,介護士13名であった.杖の持ち手については正しい持ち方の正答率は27%であった.その中で職務経験年数が多ければ多いほど正答率が高いことが確認された.自らの杖使用経験はないが臨床上で杖を使用している患者を担当したこと,または身近に杖を使用している人がいることで使用方法を理解できる傾向があった.杖の使用方法に関する知識を得た機会は臨床業務で得られたが95%,自己学習にて得られたが5%であった.しかし,杖の持ち手に関して正答した者の中で杖の種類を選択する判断基準の正答率は80%であったが,杖の長さ設定の正答率は39%であった.一方,杖の持ち手に関して誤答した者の中で,杖に関する知識を得た機会は臨床業務で得られたが89%と高く,臨床業務において,誤った思い込みがあることが確認された.
    【考察及びまとめ】
    本研究において,職務経験が多ければ多いほど,また,身近で杖を使用している人がいる場合で,杖の持ち手についての正答率が高いことが確認された.しかし,杖の種類を選択している理由は理解しているが長さに対してまでは十分に理解できていない傾向にあった.臨床業務で杖を使用している患者を見かける機会があっても正しい杖の使用方法を理解できる環境にないことも問題点として挙げられた.今後,PTが介入できる点としては杖の使用方法に関する知識を病棟スタッフの教育プログラムにルーチンに盛込むことや,担当患者の杖の種類・使用方法をPT・病棟スタッフ間で確認できるようなシステムを構築していく必要があると感じた.
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