1.この報告は, 昭和53年5月から昭和56年7月までの間に, 全国のゴルフコースで発生した芝草病害のうち, 病害の診断が出来なかったものについて, 依頼されて調査したものである。
2.病害の調査件数を年次別に見ると, 昭和53年21件, 昭和54年24件, 昭和55年13件, 昭和56年12件であった。
3.これを気候的に見ると, 昭和54年の夏は旱魃, 昭和55年は冷夏であり, 旱魃の年では診断のしにくい病害の種類, 件数は多く, 冷夏の年ではそれが少なかった。
4.病害別に見ると, 発生件数は, 葉枯病, しずみ症, ラージパッチ, ブラウンパッチ, 赤焼病, フェアリーリング, 春はげ症の順に多かった。その他, 他のの被害を病害と間違えたもの, 新しい病害と見られるものもあった。
5.これらの病害は主因である病原菌が単独で分離される場合はほとんどなく, 数種の病原菌が同時に分離されていた。中でも,
Heminthosporium (Curvularia) はほとんどの病害で, また,
Fusarium, Pythium, Rhizoctoniaなども比較的よく分離されていた。一方, 症状から見てその病害と見られるものでも, 主因の病原菌が検出されなかったものもあった。
6.病原菌から見て, 葉枯病, しずみ症, ラージパッチなどの病害は診断が難しかった。そのうち, コウライシバの葉枯病はラージパッチ, 犬の足跡 (Foot rot) などと類似した症状を示したが, とくに, ラージパッチ症状のものについては, 最近問題になっているラージパッチではないかと懸念して依頼されたが, ラージパッチとは異っていた。尚, 病原菌は
Helminthosporium (Curvularia) の他に
Rhizoctoniaが分離されたが, ラージパッチとは異った菌型であった。また, 犬の足跡症状のものでは
Pythium菌が比較的よく分離された。一方, ブラウンパッチ, 赤焼病など比較的診断が容易な病害でも, 主因の病原菌と同時に他の病原菌が検出されたり, 主因の病原菌が検出されなかったりする場合があった。また, 赤焼病は春にも発生が見られた。
7.新病害と考えられるものとして, ベントグラスでは, 晩秋から春先にかけて黄褐色のパッチを形成する,
Rhizoctoniaによる病害, また, コウラィシバでは, 夏場のベントグラスの赤焼病と類似した症状を呈する,
Pythiumによる病害が見られた。
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