化学物質による肺腫瘍の発生に対する免疫監視機構の役割を解析する目的で, 14~16日齢のT細胞機能を欠くBALB/cヌード (
nu/nu) マウスと, その機能を有する同腹のBALB/c (
nu/+) マウスにウレタンを腹腔内投与し, 肺腫瘍発生の用量一反応相関性および経時的変化を比較検討した。用量一反応性の検討には
nu/nuマウスと
nu/+マウスをそれぞれ5群に分け, 体重1g当たり0, 0.25, 0.5, 1.0および1.5mgのウレタンを投与し, 6ヵ月後に全動物を屠殺し, 肺腫瘍発生数を調べた。その結果, 各投与量に対する反応性 (肺腫瘍発生) は
nu/nuマウスと
nu/+マウスではほぼ同じであった。次に0.5mg/g体重のウレタン投与後, 28日から12ヵ月にかけて経時的にマウスを屠殺し, 肺腫瘍の発生率と腫瘍数を調べた。その結果,
nu/nuマウス群および
nu/+マウス群での肺腫瘍発生率は, 6ヵ月目ではそれぞれ73%, 80%であり, 12ヵ月目では96%, 97%で, 双方のマウス群間に差は見られなかった。1匹当たりの平均肺腫瘍数は, 両マウス群共に経時的に同様の値で加算的に増加し, 12ヵ月後では
nu/nuマウスでは4.8個,
nu/+マウスでは4.4個であった。以上の結果から, T細胞機能を欠くヌードマウスは
nu/+マウスに比べて, ウレタンによる肺腫瘍発生の頻度は高くなく, 今回のモデル実験からは, いわゆる免疫監視機構説を支持する結果は得られなかった。
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